超次元ゲイム ネプテューヌ THE TRANSFORMATION   作:投稿参謀

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第169話 メガトロンとレイ

 メガトロンとザ・フォールンの戦いは続いていた……いやそれは戦いとは言えないものだった。

 フュージョンカノンの光弾は堕落せし者が杖を振るうと霧散し、全力の突進は不可視の力の前に防がれる。

 それでも、一切諦める様子のないメガトロンに、ザ・フォールンはディセプティコンのエンブレムの基となった顔を嘲笑に歪める。

 

「ああ、愚かだな弟子よ。貴様は生かしておいてやろうと思っておったのに。こんな馬鹿なことに出るとは」

「これがディセプティコンの、俺の道よ!!」

 

 突進を繰り返すたびにメガトロンの巨体が何度も何度も何度も超能力で壁や床、天井に叩き付けられる。

 まるで大人に挑む子供の如く、破壊大帝が弄ばれている……。

 

 しかし、それでも、メガトロンは大怪力で無理やりに体を動かす。

 僅かずつでも、ザ・フォールンに近づいていく。

 

「ぐおおおお!! す、すでに軍は抑えた。俺を潰したところで貴様もお終いだ!!」

「ああ、そうだな……まったくお前たちはよくもよくも、オールスパークの偉大なる未来絵図を破壊してくれたものだ……」

 

 上から凄まじい圧力を掛けられて身動きが取れないメガトロンに、ザ・フォールンは怒りと嘲りが混じった表情を向ける。

 多くのディセプティコンが寝返り、神殿にオートボットが迫っている現状でも、まるで意に介していないとばかりに。

 その目にはいつにも増して狂気的な光があった。

 

「だが、まだ間に合う。貴様らイレギュラーを残らず排し、あの餓鬼どもにお互いに憎しみ合うように教育すれば、あの未来はやってくる……!」

 

 オートボットとディセプティコンが変わらず憎しみ合う未来。

 トランスフォーマーが永遠に戦い続ける未来。

 ガルヴァとロディマスが……メガトロンの息子たちが殺し合う未来。

 

「う、おおおおおお!!」

「なに……!?」

 

 瞬発的に全ての力を爆発させて超能力を振り切ったメガトロンは瞬時にエイリアンジェットに変形。全力でジェット噴射し、ザ・フォールンに突撃する。

 虚を突かれたザ・フォールンは反応が遅れ、再び変形したメガトロンに組み付かれた……。

 

  *  *  *

 

 レイは、何処とも付かぬ白い空間にいた。

 いや違う。ここはレイの内面、精神世界だ。

 

 果てない白の中で、レイと『もう一人のレイ』が向き合っていた。

 

「…………」

「いつまでそうしてるつもり? いい加減、諦めなさいよ」

 

 虚空を見上げる改造スーツと一本角のレイに、レオタードのような衣装と二本角の……つまり女神態のレイが嘲るような声をかける。

 

「あいつが……メガトロンが助けにくるとでも、思ってるわけ?」

「くるわ。あの人はきっと来る。あの人が来ると言っていたから」

 

 決然と返す人間のレイに、女神レイは表情を歪める。

 

「何で、アイツをそんなに信用できる? 何で、お前はそんなに強いんだ? ……同じ私なのに」

「それはあなただって分かっているはずよ。もう一人の……いえ、『本当の私』」

 

  *  *  *

 

 ディセプティコンの戦艦同士が撃ち合うプラネテューヌの空を、スタースクリームは飛ぶ。

 戦闘機型ディセプティコンを叩き落とし、戦闘艇を撃ち落とし、戦艦を撃沈する。

 

 空という戦場において、スタースクリームと並ぶ者などいない。

 

 この反乱劇におけるスタースクリームの役目は、ディセプティコンから離れて惑星サイバトロンへと向かい……明確にメガトロン配下の者の中で、見える範囲にあるとはいえ単独で異星まで飛べるのは彼ぐらいだ……ケイオンに残った軍団をメガトロンの味方に付けることだった。

 ラステイションでは折を見て『いつもの裏切り癖』を出して逃走するつもりだったが、コンストラクティコンまでもが反逆するのは予想外だった。

 何とかサイバトロンまで辿り着いた後も、大変だった。

 元々、ザ・フォールンの狂信者と言える者の多くはブラジオンと共にゲイムギョウ界に乗り込んでいた。

 ケイオンに残っていたのは、メガトロンへの忠誠に篤い者やトップが誰でもそこまで気にしない日和見者ばかりだ。

 それでも、やはり始祖たるザ・フォールンに逆らうことに難色を示す者、結果的にオートボットに組みすることになることを嫌がる者、百歩譲ってオートボットに味方するのはいいとして有機生命体を助けるなど御免こうむると言う者などはいた。

 それらを説得し、ついでに残留していたザ・フォールン派を『黙らせる』のにいらぬ時間を喰ってしまった。

 

「すたすくー!」

 

 思考していると遥か下方で、懐かしい顔がこちらを見上げているのを察知した。

 彼にとっては、忘れることのできない少女、ピーシェだ。

 何故ここにいるのかは分からない。

 しかし、ここにいるのなら、するべきことは一つ。

 

――ヒーローってのは、カッコよくなくちゃあな!

 

「わーい! すたすく、カッコいいー!」

 

 一つ宙返りを決めてやると、ピーシェが歓声を上げた。

 可能なら頬が緩んでいたことだろう。

 

「よーう、スタースクリーム!」

「上手くいったようだな!」

「お前らか……まあな」

 

 そこへ、スタースクリームと同型のステルス戦闘機に変形した二体のディセプティコンが飛んで来た。スカイワープとサンダークラッカーだ。

 もちろん、彼らはこちら側に付いている。スカイワープは元々メガトロンへの忠誠心が強く、サンダークラッカーはザ・フォールンの非道なやり方に憤っていた。

 彼らが反乱計画に乗るのは自然と言えた。

 

「いやしかしまさか、オートボットに味方するたあヒューズがぶっ飛ぶかと思ったぜ!」

「俺は英断だと思うが」

「無駄口はそこらへんにしとけ! コンビネーションアタックを仕掛けるぞ!!」

『おお!』

 

 スタースクリームの号令に、まずスカイワープが敵編隊に突っ込む。

 短距離ワープを駆使して敵の後ろに回り、素早く変形してミサイルを撃ち込む。

 何体かはそれを躱すが、すれ違いざまにサンダークラッカーが振り撒く衝撃波に粉砕される。

 それすら凌いでみせた凄腕は、さらなる凄腕であるスタースクリームが残らず撃ち落とす。

 

 こと空において、彼らジェッティコンに並ぶ者なし。

 

  *  *  *

 

 精神世界で対峙する二人のレイ。

 人間の姿のレイは、すなわちザ・フォールンが植え付けた仮想人格としてのレイであり……今までずっとメガトロンたちと過ごしてきたレイだ。

 そして女神の姿のレイは、仮想ではない本来の人格『だったはずの』レイだった。

 

「正直、ビックリよ。アンタは、タダの偽物に過ぎないはずだったのに……時がくれば、私が表に出て、この世界にもアーゼム……ザ・フォールンの奴にも復讐するはずだった」

「そして、私は綺麗さっぱり消滅するはずだった……でもそうはならなかった」

 

 強い意思を秘めた顔の人間のレイに、女神のレイは自嘲気味に笑む。

 

「ああ、そうさ。……気付いているんだろう? 私たちは一つになりつつある」

「……ええ」

 

 きっかけは、ガルヴァが生まれたあの時だ。

 あの瞬間、レイの中に本来の人格が抱いていた女神と世界への憎しみでも、ザ・フォールンが植え付けた思考ルーチンでもない、強い望みが芽生えた。

 この無垢な命を助けたいと。

 それ以降、単なる仮想人格に過ぎなかったはずの『キセイジョウ・レイ』は、様々な経験を積んで確固たる自己を得た。

 

 それこそ、本来の人格を飲み込むほどの。

 

 さらにタリで失っていた『タリの女神レイ』の記憶を得るに至り、『キセイジョウ・レイ』と『タリの女神レイ』の人格が統合されはじめた。

 

「あんたは成長した。子供を慈しみ、命の重さを知り、愛する者を得た。……羨ましいよ。私には、恨むことしかできなかったてのに…………今じゃあ、あんたが『本当の私』だ」

 

 そう言う女神レイの体は、末端からまるで砂のように崩れ始めていた。

 

「私みたいなのが混じっちゃ、迷惑だろう? 潔く消えてやるさ。……メガトロンとガルヴァたちに、よろしく」

 

  *  *  *

 

「この距離なら超能力も関係あるまい!」

「…………ッ!」

 

 メガトロンはザ・フォールンの細い首を圧し折るべく、腕を回して力を籠める。

 しかし、後ろから巨大な手に掴まれてザ・フォールンの体から引き剥がされる。

 

「馬鹿め! ここは俺の体内も同じぞ。壁も、床も、天井も! 何もかも俺の意のままよ!!」

 

 離れた瞬間、床から生えた巨大な手はメガトロンを握り潰そうと力を籠めるが、メガトロンは咄嗟にフュージョンカノンを発射。掴んでいた手が内側から吹き飛んだ。

 自身もダメージを負ったが構わずザ・フォールンに向かっていこうとするも、無数の機械触手が床や壁から現れてメガトロンを絡め取ろうとする。

 

「諦めろ……そもそも、そこまでするほどの女かコレは? 度し難いほど傲慢で、いつでも自分が一番可哀そうという面をして、考えは浅はかで薄っぺらい、どうしようもない女だぞ?」

 

 触手をデスロックピンサーで切り裂き、四肢に力を入れて引き千切るメガトロンだが、今度は壁から槍のような物が発射される。

 飛んでくる槍をある時は避け、あるいは破壊しながら、メガトロンは進む。

 

「俺には……その価値がある!!」

「愚かな」

 

 突如として床からメガトロンの胴回りほどもある柱が飛び出し、その体を吹き飛ばした。

 仰向けに床に落ちると、頭の上に台座があり、その上にあの剣があった。

 

 大振りな鈍色の両刃剣。

 先端が両側に飛び出し、全体のフォルムをまるで船の錨のように見せている。

 かつて、タリの女神……レイが建国記念に作らせ、そして支配地が増えるたびに大きくしていった剣。

 ゲイムギョウ界においては、『無用の長物』『役に立たない虚栄心』といった故事としても扱われる、その剣。

 

「この女に価値などない。その剣のようにな……死ね!」

 

 ザ・フォールンの声に合わせ、床から一際太く長大な機械触手が現れる。

 その先端に備えられた、メガトロンの体を貫通して余りあるドリルが、唸りを上げて迫る。

 

「……!」

 

 咄嗟に、メガトロンはタリの剣を取り、両手で握って立ち上がる勢いで思い切り振り抜く。

 するとドリル触手はまるで紙のように、呆気なく真っ二つになった。

 

「なんだと……!?」

「…………」

 

 目を見開く堕落せし者を余所に、メガトロンはしげしげと手の中の剣を見た。

 剣は吸い付くように手に馴染む。

 重みはあるが、逆にそれが心地よい。

 まるで、メガトロンのために用意されたような剣だ。

 

 今ここに伝説は更新された。

 浪費や虚栄心の象徴であった大剣は、ついに自らを十全に振るうにたる英傑と出会ったのだ。

 

「おのれ! たかが剣の一本、今更なんだというのだ!!」

「俺を誰だと思っている? 剣一本で成り上がってきたメガトロン様だぞ?」

 

 不敵に笑い、メガトロンは剣を振るう。

 

  *  *  *

 

「駄目よ! 消えないで!!」

「……!」

 

 砂像ように崩れゆく女神レイに、人間レイは手を伸ばす。

 握られた手に、女神レイは心底驚いたような顔を向ける。

 

「どうして……!」

「貴方は、もう一人の私。私たちは二人で一人のレイよ。切り離すことなんて、できない」

「馬鹿いわないでよ! ほら、あんたには待ってってくれる人と子供がいるんでしょ? 私みたいな地雷成分は綺麗に落としときなさい!」

 

 人間レイを振り払おうとする女神レイだが、人間レイは頑として離さない。

 

「そっちこそ馬鹿言わないで! ……そう言って死のうとした女を、止めてくれた男を貴方も知っているはずよ」

「……ッ!」

 

 その言葉を聞いた途端、女神レイの表情が強張った。

 

「貴方も、愛しているんでしょう? 彼のことを」

「……どうなのかしらね? あんな男は私の近くにはいなかった。もし、あの時いたのがメガトロンだったら……いや、今更言ってもしょうがない。あの頃の私なんて、アイツは見向きもしなだろうから」

 

 観念したように大きく息を吐いてから苦笑する女神レイ。

 そんな女神レイを、人間レイが優しく抱く。

 

「貴方は、あの頃の貴方じゃないわ。私が、前の私とは違うように」

「……ああ、そうだね」

 

 皮肉なものだ。

 孤独が故に、女神のレイは国を滅ぼすほどの過ちを犯した。

 孤独が故に、人間のレイは欺瞞の民を仲間と受け入れた。

 そしてもう、レイは一人じゃない。

 

「まったく馬鹿だねえ。せっかく、罪も業ももっていってあげようってのに……」

「それも含めて私だもの。罪も、業も、まとめて背負うくらいじゃないと、あのヒトの傍には立てないわ」

「はは、違いない」

 

 笑い合う二人のレイが重なり、白い世界を光が満たしていく……。

 

「それじゃあ、行こうか、あのヒトのもとに」

「ええ、帰りましょう。あのヒトの傍に」

 

  *  *  *

 

 タリの剣を縦横に振るい、伸びてくる触手を斬り捨て、飛んでくる槍を叩き落とし、突き出す柱を両断する。

 ダメージはゼロとはいかない。避けそこなった槍が脇腹に刺さり、腕に巻き付いた触手を引き千切るたびに関節から火花が散る。

 先程の超能力によるダメージも含めて、馬鹿にならないほどに傷ついていた。

 

 それでも進もうとするメガトロンの上の天井が、突然落ちてきた。

 ただで潰されるようなことはなく、両腕で天井を支えるが、体中がミシミシと軋む。

 

「ぐ、お……!」

「愚かだな。この女は、もうお前の物になどならん。いい加減に諦めろ、見苦しいぞ」

 

 ザ・フォールンは余裕に満ちた態度で、メガトロンを嘲笑う。

 しかし、メガトロンは不敵な笑みを浮かべた。

 

「……貴様こそ、随分とレイに拘るじゃあないか。そんなに俺に渡したくないか?」

「なにを言っている?」

「ずっと疑問に思っていたのだ。何故、レイに仮想人格を植え付け、定期的に記憶をリセットするなんて面倒くさい真似をしたのか? 利用するだけなら、センチネルのように何処かに封印しておけばいい」

「なにを言っている!」

 

 弟子が何を言い出すのか分からず、ザ・フォールンは困惑する。

 構わず、メガトロンは続ける。

 

「……俺の記憶を消したのもそうだ。俺の心を折るだけなら、そんなことをする必要はなかったはず。……お前はレイを独占したかった。だから、万が一にも他の奴の手に渡らないように、偽の人格を用意したんだ。『お前の知っているレイは偽物に過ぎない』『本当のレイは俺だけが知っている』そんな風に悦に浸るためにな。……よく分かるぞ、俺もそうだからな!」

「何を馬鹿な……」

 

 否定しようとするザ・フォールンだが、両眼が揺れている。

 メガトロンは、全身をミシミシと言わせながらも笑みを崩さない。

 

「しかし、女を痛めつけるのはどうかと思うがな。好きだから苛めるというのにも限度があろう。あれは、特に被虐体質なワケでもないしな」

「…………」

「ああそうか。その想いを否定したいのだな。確か、『愛は何かに与えるほど減っていく』『だから、オールスパークのみを愛する』のだからなあ。だからレイを傷つけると。何ともはや……」

「……もういい、消えろ」

 

 ザ・フォールンが杖を振るうと、さらなる圧力がかかりメガトロンは何をする間もなく天井の下敷きになった。

 

「…………愚かだな、どこまでも。俺が、あの女に惚れているだと? 馬鹿馬鹿しい」

 

 頭を振って、天井に潰された弟子に背を向ける。

 

「何にしても、貴様の企みもここまでだ。貴様はあの女を救い出すことが出来ずに……」

 

 そこまで言って、硬直した。

 視線の先は部屋の奥の祭壇の上。

 そこには、レイが機械触手に取り込まれているはずだった。

 

 しかし……。

 

「いない!? いつの間に!!」

 

 機械触手が切断され、レイが姿を消していた。

 見回せば、いくつものダクトの一つの金網が外されている。

 

「まさか……メガトロンは囮!?」

 

 自分の目を引き付けている間に、手の者がレイを救出する手筈だったのか?

 そんな手をメガトロンが……。

 

「おのれ……!」

 

 急いで天井を上げてみれば、メガトロンの姿はなく床が円形にくり抜かれている。ここから下に逃れたようだ。

 

「おのれ! メガトロォォォオオン!!」

 

 まんまと出し抜かれたことに、そしてレイを奪われたことに極限の怒りを感じ、ザ・フォールンは絶叫するのだった。

 

  *  *  *

 

「メガトロン様! こちらでーす!!」

 

 要塞の外壁を破壊し脱出したメガトロンは、エイリアンジェットの姿に変形し、要塞上部に降りる。

 傍のダクトからはフレンジーがひょっこりと顔を出していた。

 

「上手くいったようだな」

「はい、この通り! レイちゃんはしっかり助けましたぜ!!」

 

 フレンジーの後ろには、リンダがグッタリとしたレイを背負っていた。

 この二人が、ザ・フォールンの目がメガトロンに向いている間にレイを助け出したのである。

 リンダとフレンジーはレイを地面に寝かした。

 人間態に戻っているようだが、服はほとんど残っておらず、あちこちにコードが突き刺さったままの肌が痛々しい。

 

「姐さん、体が凄く冷たくて……あちこち傷だらけだし、早く手当てしないと」

「大丈夫だ。こいつがそう簡単に死ぬものか」

 

 不安げな顔でレイの体に布をかけるリンダに力強く言った時、不意にレイが目を開けた。

 

「おお、レイ……!」

「メガトロン様……やっぱり来てくれたんですね……信じてました……」

「言っただろう? かならず、お前を取り戻すと」

 

 何時にない優しさを声に込め、メガトロンはレイの顔の近くまで手を伸ばす。

 レイは金属の指を愛おしげに撫でた。

 メガトロンは少しの間だけ、させるがままにしていたが、すぐに顔を引き締めた。

 

「さあ、急いでここを脱出……」

 

 言いかけた時、神殿全体が震えた。

 次いで、恐ろしい声が聞こえる。

 

『メガトロォォォォンッ!!』

「おお! 怒ってる、怒ってる!」

「乗れ、行くぞ!」

 

 急かされて、フレンジーとリンダはレイを抱えてメガトロンの掌に乗る。

 三人を抱えて、メガトロンは全力で走り出した。

 地面から機械触手や槍が飛び出してくるが、メガトロンは一切無視して神殿の縁へと疾走する。

 

「掴まってろ!!」

 

 そのまま、地面を蹴って縁から思い切り跳躍した。

 

「わああああ」

 

 リンダが悲鳴を上げるが、下には飛行戦艦が待ち構えていた。キングフォシルだ。

 

「ドクター! 出せ!!」

『了解!!』

 

 その上に着地し、メガトロンは操船しているザ・ドクターに指示を出してから、後ろを見る。

 空中神殿が鳴動し、炎と煙、雷が巨大なザ・フォールンの顔を作り上げていた。

 

『メガトロォォォン! その女は俺の物だぁぁああッ!!』

「勝手に決めないで……! 私は貴方の物じゃない!」

 

 レイは布を体に巻くと立ち上がって、ザ・フォールンの顔を睨み付ける。

 

「私が誰の傍にいるかは、私が決める! そしてそれは貴方じゃない、このヒトよ!!」

 

 啖呵を切りながら、傍に立つメガトロンの足に手を触れる。

 メガトロンは勝ち誇るような笑みを浮かべ、ザ・フォールンは怒りに唇を震わせる。

 

『ディセプティコン!! あの船を撃ち落とせ!! メガトロンを滅殺するのだ!!』

 

 ザ・フォールンの怒声に、周囲の空中戦艦や戦闘艇が集まってくる。

 

「では、もう一仕事だ。そこで待っておれ、レイ」

「はい、嫌です!」

「そうか、嫌か……」

 

 格好よく出撃しようとしたのに、いきなり出鼻を挫かれて、メガトロンの背に哀愁が宿る。

 それに構わず、レイは強い意思を込めてメガトロンを見上げる。

 

「私も一緒に行きます!」

「姐さん、ダメっすよ! そんな傷だらけで……」

「いいんじゃないの?」

 

 慌てて止めようとするリンダだが、フレンジーは腕を頭の後ろで組んで体をブラブラと揺らしながら、呑気に許可する。

 そして、メガトロンに進言した。

 

「レイちゃん、意外と頑固だし、こうなったら聞かないもんな」

「フレンジーさん。……ありがとう」

 

 黙って一連の流れを見守っていたメガトロンは、その悪鬼羅刹に例えられる顔に豪放な笑みを浮かべた。

 

「フッ……よかろう! 破壊大帝の隣に立つは、聖母の如き慈愛と魔神が如き苛烈さを併せ持つ女こそ、相応しい!!」

「買い被りすぎですよ、もう」

 

 苦笑するレイがメガトロンの隣に並ぶと、二人は揃ってザ・フォールンの顔を見据えた。

 

「ゆくぞ、レイ!!」

「貴方の隣が私のいる場所、どこまでもお供いたします」

 

『ユナイト!!』

 

 声を揃えて叫ぶと、二人の体が光に包まれる。

 合体……いや違う。

 

 光の粒子にまで分解されたレイの体は、メガトロンの金属の体に溶け込むようにして一体化する。

 するとメガトロンの体がギゴガゴと変形を始めた。

 

 身体は一回り小さくなり、オプティマスと同サイズにまで縮む。

 攻撃的で刺々しい意匠は、騎士甲冑の如き丸みがありつつも重厚な物へと変化し、左肩から短い角のような突起が突き出した。

 合体形態同様に右腕に大振りなキャノン砲を備え、背には新たに手に入れたタリの剣を背負う。

 猪の牙の如き角が両側から前に突き出した顔は、より恐ろしさと厳めしさ、そして雄々しさを増していた。

 全身から雷の如きエネルギーが迸り、サイズダウンしたにも関わらず、威厳と迫力はむしろ強まっている。

 

「メガトロン様、レイちゃん……!」

「すっげえ……!!」

 

 新たな姿になったメガトロンに驚嘆するフレンジーとリンダだが、当の二人に驚きはなかった。

 唯、今までの合体など問題にならないほどに、深く結びついているのを感じる。

 どうしてこの姿になったのか、どういう理屈があるのか、そんなことは、どうでもいい。

 力と気力が身内に漲っている。もう、抑えられない。

 

「……メガトロン様、レイちゃんのこと、よろしくお願いします」

 

 深々と頭を下げるフレンジーにメガトロンは小さく頷く。

 

「さあ、行くぞ!! 因縁も宿命も、ここで完全粉砕してくれるわ!!」

 

 顔の角をバトルマスクに変形させ背中から展開したスラスターからジェット噴射し、雲霞の如き敵に向かって、新たな姿のメガトロン……女神と完全に一心同体となった、神機一体メガトロンは飛び立つのだった。

 




今回の解説。

二人のレイ
分かりやすく(?)説明すると

①女神レイ
レイ、本来の人格。
傲慢で短気。おおよそ原作の女神化した状態のレイそのまま。
しかし、メガトロンらと触れ合うことで改心。

②人間レイ
ザ・フォールンが植えつけた仮想人格。
しかし、ガルヴァ誕生を機に完全な自己を確立する。
元はオドオドとした弱気な性格だが、メガトロンらと触れ合って成長。

③レイ
①と②の人格が融合した現在のレイ。
子供とメガトロンのために頑張るお母さん。

こんな感じ。

神機一体メガトロン。
メガトロンがレイと深く結びついたことで発現した新形態。
見た目は最後の騎士王のメガトロンそのままだが、レイ由来の雷のようなエネルギーを纏っている。

次回は、オプティマスとネプテューヌの話。

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