超次元ゲイム ネプテューヌ THE TRANSFORMATION   作:投稿参謀

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第162話 そして『今』に至る

 ある夜のことだ。

 

 サイバトロンの荒野にポツンと建つ塔の一部屋で、一人の老人が書き物をしていた。

 金属製の紙にレーザーペンで字を焼きつける、廃れて久しい方法だ。

 

 静かにペンを走らせていた老人だが、不意に塔に鳴り響いた警報に、表情を鋭くする。

 急いで立ち上がり部屋の窓を開けて空を見上げると、満点の夜空を一筋の流れ星が横切った。

 

 流星は大気圏で燃え尽きることなく、塔の近くの荒野に墜ちた。

 

 それを見届けた老人は、厳しい顔で机に立てかけてあった杖を取り、部屋を出た。

 

 塔を出た老人は手に持った長杖の先に光を灯して夜道を進み、やがて流星の落下した地点に辿り着く。

 落下の衝撃で地面は赤熱し空気が揺らいでいるが、老人は構わずクレーターの中心に向かって降りていく。

 当然、その中心には、隕石……いや金属で出来たポッドがあった。

 

 老人はポッドの表面を撫でながら、小さく呟く。

 

「ついに来たか……」

 

 ゆっくりとポッドの表面が開き、水蒸気と共に光が漏れる。

 老人は感嘆の声を上げた。

 

「おお……!」

 

 ポッドの中には、鮮やかな赤と青の体色をした小さな赤ん坊が寝転んでいた。

 

  *  *  *

 

 トランスフォーマーは幼少期において、種族ごとに育成施設に割り振られ、そこで仲間と共に集団生活をしながら育つ。

 後にエリータ・ワンの名で知られることになるAA08もまた、そうした育成施設の一つ、女性(ウーマン)用の施設で暮らしていた。

 

 特に真面目なAA08は、大人からは高評価を得たが、同じ子供の中には『悪戯すると先生に告げ口をする妖精さん』などと陰口を叩く者もいた。

 

 そんなある日のこと。

 AA08はアイアコンの街に出かけた。

 都市は色とりどりの光と楽しげな音楽で溢れ、多くの人でごった返していた。

 

 今日はお祭りなのだ。

 

 同じ施設に暮らす女性(ウーマン)の仲間たちは仲の良い者同士で祭りを楽しんでいた。

 AA08も例にもれず、いくらか年上の親友RA11……後にクロミアと呼ばれることになる、ウーマンオートボットと一緒に遊ぶ予定だったが、生憎と彼女がサイバトロン風邪にかかってしまったため、一人で祭りに出かけることとなった。

 

 どんなに素晴らしいお祭りも、一人ではつまらないものだ。

 

 退屈に思っていると、建物の影で何人かの少年が一人の子供を囲んでいることに気が付いた。

 囲んでいる方は標準的なオートボットの男の子たちだが、囲まれている方は全身をスッポリと覆う金属繊維製ローブを纏っており体は見えないが、何か板のような物を抱えていた。

 

「お前見ない顔だな! どこの育成施設から来たんだよ?」

「知ってるぜ! こいつ、街の外の塔で、変人の爺さんと一緒に暮らしてるんだよ!」

「せ、先生は変人じゃないよ……」

 

 少年たちに囲まれて、ローブの子供はビクビクと震えつつもしっかりと反論する。

 その態度が気に喰わないのか、一団の中でも大柄な少年が、無理矢理に板のような物を取り上げた。

 板と見えたのは、古い本だった。

 

「あ……!」

「何だこれ? コネクターもリーダーもないじゃん?」

「こ、これは先生から貰った本で……! 書いてある字を読むんだ……」

「なんだよそれ、ダッセエの」

 

 本を持つ手を高く掲げ、取り返そうと手を伸ばすローブの少年を突き飛ばす大柄な少年。

 尻餅を突いた子供を、少年たちは嘲笑う。

 

「返してほしかったら、反撃してみろよ!」

「やだよ……」

「弱虫め! ほら、殴ってみろよ!」

「やだ……!」

 

 調子に乗って、少年たちはローブの子供に殴る蹴るの暴行を加える。

 AA08は弱い者いじめをこれ以上は見ていられないと声をかけた。

 

「こら! 君たち、止めなさい!」

「なんだよ、女の子ちゃんじゃねえか! 何の用だよ?」

 

 大柄な少年は敵の小柄な姿を見て、嘲笑を浮かべる。

 そんな姿にAA08はムッとする。

 

「弱い者苛めは止めなさいと言っているの! すぐにそれをその子に返しなさい!」

「……チェッ! 行こうぜ! ほら、返すぜ!!」

 

 さすがに女の子と争う気は無いらしく、少年は本を乱暴に床に落とすと、仲間を伴って歩いていった。

 驚いて固まっているローブの子供を助け起こし、AA08は本を拾って差し出してやる。

 

「ほら、これ君のでしょう?」

「あ、ありがとう……」

 

 ローブの下から見える顔はAA08と同年代らしいあどけない少年の物だ。

 青いオプティックが出自を表している。

 

「どうしてやり返さなかったの?」

「喧嘩は嫌いだから……」

 

 気弱に言うローブの少年に、AA08は呆れてしまう。

 

――何て弱々しい子なのだろう!

 

 思わず溜め息が出てしまう。

 

「はあッ……もういいわ。君の個体識別番号は?」

「……番号はないよ。先生が着けてくれた名前なら……オプティマス」

 

 その答えに、AA08は目を丸くする。

 普通、トランスフォーマーの子供は個体識別番号で呼ばれ、一定年齢に達すると初めて身体的特徴や能力に合わせた『名前』を貰えるのだ。

 

「変わってるね、君」

「良く言われるよ。……それじゃあね。助けてくれて、ありがとう」

「待ちなさい!」

 

 頭を深く下げてから、ローブの少年……オプティマスは踵を返して去ろうとするが、AA08はその腕を掴んで引き留めた。

 少年オプティマスは驚いて振り返る。

 

「な、なに!?」

「君、一人? 一人なら、私といっしょにお祭りを回らない?」

 

 何でこんなことを提案したのだろうか?

 一人で祭りを回るのが寂しかったとはいえ、会ったばかりの男の子を誘うなんて、少しばかり慎みに欠ける。

内心で疑問に思う、AA08だが……。

 

「う、うん!」

 

 少年オプティマスがパッと笑ったのを見たら、どうでも良くなった。

 

 その後は二人で、祭りを楽しんだ。

 

 二人でタバラ……蟹のような金属生命体……の網焼きを買って半分こにし、二人で音楽に合わせてダンスもした。

 彼は年齢の割にとても博学で、話していると楽しかった。

 

「……それじゃあ、君は歴史学者の先生に育てられたんだ?」

「うん。荒野で生まれたばかりの僕を拾ったんだって。色んなことを教えてくれるし、とっても尊敬してるんだ! ……でもやっぱり変だよね。他の子は番号なのに僕だけ名前だし、」

「ううん、むしろ羨ましいな。育成施設の人たちは優しいけど……なにかこう、違う気がするんだ」

 

 歩きながらお互いの生い立ちについて語り合っていた。

 

「違うって? 育成施設で育つのは、普通のことだろ?」

「そうなんだけど、う~ん……」

「君って変わってるね」

 

 首を捻るAA08に、少年オプティマスは嫌味なく返す。

 短い付き合いの中で、お互いにサイバトロンの社会では変わり者であることを察していた。

 しかしAA08は、少年の育ての親に対する『先生』という呼び方に奇妙な違和感を覚えていた。何故かは分からなかったが。

 

「おい、貴様ふざけるなよ!」

 

 と、何処からか怒声が聞こえた。

 見れば、往来のど真ん中で先程オプティマスに絡んでいた大柄な少年が、大人に睨まれていた。

 灰銀色の体は大人としてみても非常に大きく、赤く光る鋭い目が恐ろしげなディセプティコンだ。

 まだ若いようだが、すでに迫力、貫禄、ともに十二分だ。

 

「ぶつかっておいて、詫びも無しか? 別に弁償しろとか、地に額をこすり付けろとかは言わない。しかし一言謝るのが筋だろう」

「やだよ! だれがディセプティコンなんかに!」

 

 大柄な少年は、自分より大きい大人たちに対しても強気な姿勢を崩さない。

 ディセプティコンはムッとして少年の首根っこを掴んで摘まみ上げる。

 

「おい、誰か助けろよ……」

「嫌だよ……あいつ、例の剣闘士だぞ」

「あの、サイキルを瞬殺したっていうアイツか!?」

 

 周りの大人たちは厄介事を恐れて誰も助けようとしない。

 同じ子供相手なら勇敢さを見せたAA08も、悪鬼羅刹の如き顔のディセプティコンには二の足を踏んでしまう。

 

 しかし、少年オプティマスは迷わず前に出ると、ディセプティコンに声をかけた。

 

「あの、すいません。……その子が何かしたんですか?」

「何だお前は?」

「通りがかりです」

 

 新たに現れた子供に、ディセプティコンは訝しげな顔をするが、すぐに不機嫌そうに鼻を鳴らし、すぐ傍の地面に落ちているゴスプ……巻き貝型の金属生命体……の壺焼きを視線で指す。

 

「この餓鬼が俺にぶつかって来て、おかげで食い物を落としてしまった」

「そうですか。なら、君。一緒に謝ろう」

 

 オプティマスはさっきまで大柄な少年に謝るように促す。

 少年は戸惑いながらもムッと顔を歪める。

 

「嫌だ! 相手はディセプティコンだぜ!!」

「でも君からぶつかったなら、謝らないと」

 

 ガンとして譲らない少年に、オプティマスは辛抱強く諭した。

 その様子に、灰銀のディセプティコンは少し感心した様子だった。

 

「ほう、子供にしては道理が分かっているじゃないか。……おい餓鬼、この小僧に免じて、今日は勘弁してやる」

 

 ディセプティコンは少年を下ろすと、今までとは一転、機嫌良さげな顔になる。

 そうなると、この男は意外と若く、オプティマスともそんなに歳が離れていないのではないかと思われた。

 

「まあ俺も大人気なかったか。どうにも、ディセプティコンと言うだけで色々言ってくる輩には、少しムキになってしまってな。すまなかった」

「いいえ、その気持ち僕にも少し分かりますから」

「そうか……お前も苦労しているようだな」

 

 朗らかに少年オプティマスと笑い合った灰銀のディセプティコンは、颯爽と身を翻す。

 

「小僧、お前とはまた会うことになりそうな気がするな」

 

 振り返らずにそう言った灰銀のディセプティコンは、雑踏の中に姿を消した。

 

 ……記録に残っておらず、本人たちの記憶にもないが、これが少年時代のオプティマスと若き日のメガトロンの初めての会合だった。

 

 ディセプティコンの背を見送ったオプティマスは、座り込んでいる少年に手を差し出す。

 

「君、大丈夫かい?」

「……うるさい!」

 

 しかし、その手は跳ね除けられた。

 

「何だよお前! ディセプティコンなんかにヘコヘコしやがって! オートボットの面汚しめ!!」

「オートボットとかディセプティコンとか関係ないよ。悪いことをしたなら、謝らないと」

「…………チッ!」

 

 前とは違う毅然とした態度の少年オプティマスに、少年は舌打ちのような音を出して足早に去っていった。周りの野次馬も散っていく。

 ここまで呆気に取られていたAA08は、ハッと正気に戻ると少し悲しそうな顔のオプティマスに声をかける。

 

「ちょっと、君! どうして、あんなことしたの!?」

「どうして? 喧嘩は止めないと」

「そうじゃなくて、怖くなかったの?」

 

 子供相手には為す術もなくボコボコにされたのに、大人相手には物怖じしないアンバランスさが、AA08には理解できなかった。

 少年オプティマスは照れくさげに笑んだ。

 

「怖かったよ。でも、二人とも困ってたようだったから」

「さっきはあの子たちを怖がって、全然反撃しなかったじゃない! それなのに……」

「殴ったりしたら、痛いじゃないか。痛いのは可哀そうだよ」

 

 当然と言い切るオプティマスに、AA08は唖然とする。

 この少年は反撃できないほど弱々しいのではなく、反撃できないほど優しいのだ。

 何だか妙におかしくなって、AA08は声に出して笑う。

 

「プッ! あは、あはは!!」

「わ、笑わないでよ……あはは!」

 

 それをどう取ったのか、オプティマスは少し恥ずかしそうだったが、同じように笑う。

 

「オプティマス! オプティマース! どこにいるんだー!」

 

 しばらく笑い合っていた二人だが、人混みの向こうから声がする。

 老人の声だが、この雑踏の中でも良く聞こえた。

 

「! 先生が呼んでる! もう行かないと!!」

「そっか、それじゃあバイバイだね」

 

 保護者の呼び声に慌てるオプティマスと、少し残念に思うAA08。

 楽しい時間はアッと言う間だ。

 

「うん。……また会えるかな?」

「う~ん、そうだね。君がもっと強くなったら、なんてね!」

「! うん! 僕、強くなるよ!!」

 

 少しからかうつもりで言ったAA08だが、少年オプティマスは本気にしたようだ。

 ついでに、もう一つアドアイスしてやろう。

 

「それとさ、先生のこと……『お父さん』って呼んでみるといいよ」

「おとうさん? ……やってみる!」

 

『お父さん』

 

 その呼び方は、AA08の記憶の何処かに残っている言葉だった。

 遠い前世の記憶に由来する言葉だったが、AA08にそれが分かるはずもない。

 駆けていくオプティマスに、AA08は手を振る。

 

「それじゃあ、またいつか!」

「うん、いつかね!! ……そうだ! 君の名前は?」

 

 ヒトの間を縫って走っていくオプティマスだが、不意に振り向くと声を上げた。

 そう言えば名乗ってなかったと思い、悪戯心を込めて名乗りを上げる。

 

「『妖精さん(エイリアル)』!! なんてね!!」

 

 人垣の向こうにいるオプティマスに、その声が届いたかどうかは分からない。

 それでもAA08は、満足していたのだった。

 

 

 

 

「オプティマス! 一人で祭りに出かけてしまうから、心配したぞ!」

「ごめんなさい……」

「はあッ……さあ、帰ろう。この場所の猥雑さは、お前にはまだ早い」

 

 『弟子』の姿を見つけたアルファトライオンは、溜め息を吐くと踵を返す。その姿は何処か疲れているように見えた。

 老歴史学者は、賑やかな場所は苦手らしい。

 

「あ、あの……」

 

 養育者の背中に、オプティマスは勇気を出して声を出す。

 アルファトライオンは振り返らない。

 

「何かな? この祭りの由来ならば、かつて最初のプライムたちが戦争に勝利したことを記念する物だ。しかし、それは後付で実際の終戦日とは大きなズレが……」

「そ、そうじゃなくて……!」

 

 自らの知識を披露する歴史学者を、オプティマスは遮った。

 いつもなら黙って傾聴するはずの弟子の態度に、アルファトライオンは怪訝そうに顔を巡らせる。

 

「では、何かね?」

「…………」

 

 俯く少年オプティマスだが、ギュっと拳を握り締めて顔を上げる。

 

「あの……お父さん、って呼んでもいいですか?」

 

 その問いに、アルファトライオンは目を見開いて硬直する。

 

「なぜ……?」

「あ、あの……妖精さんがそうすると、先生が喜ぶからって……あ、妖精さんというのは僕の友達です!」

 

 期待に目を輝かせるオプティマスだが、一方でアルファトライオンは悲しい気持ちになっていた。

 

 オプティマスの言う妖精とは、孤独な彼が創り出した空想上の友達だろう。

 思えば、いずれや重要な使命を果たすであろうこの子を弟子として育ててきたが、随分と寂しい思いをさせてきたのかもしれない。

 ここに至って、老人は理解した。

 知識ばかりでなく、愛も必要であると。

 

「もちろんいいとも。……いいに決まっているじゃないか」

 

 アルファトライオンは、未だ幼さの残るオプティマスの体をギュッと抱きしめるのだった。

 

 

 

 

 

 

 その後のことは、あまり語らなくてもいいだろう。

 

 大人になり、エリータ・ワンと名を付けられた(AA08)は、その優秀さを認められてセンチネルの弟子となり、オプティマスと再会した。

 

 彼の方は、私が『妖精さん』だとは気付かなかったようだが。

 

 大人になってもなお、優しいが故に強く、そして脆い彼の気質は変わっていなかった。

 そんな彼を、私は支えたいと願うようになっていた。

 

 いや、最初に出会った幼き日から、私は彼に惹かれていた。

 

 かつての生では、その感情にはまだ、名は無かった。

 

 しかし今なら分かる。

 これは『愛』だ。

 

 やがて戦争が起こり、私は彼と並んで戦い、彼を支え、彼を助けた。

 皆は彼を英雄と呼んだけれど、そんな称号は彼にとって何の意味もない物だ。

 日に日に彼の身体が、精神が、何よりも魂が傷ついていく。

 

 そして……。

 

「ねえ、オプティマス……私……あなたのことが……、好き……」

「ああ、私も好きだ! 君は私にとって最高の親友で……」

「違うわ……、愛してるの……あなたのことを……」

「え、エリータ……?」

「オプティマス……、あなたは…本当は……とても優しいヒト……あなたの苦悩を……、孤独を……、癒してあげたかった……」

 

 あの水晶の街(クリスタルシティ)で、私は最後の時を迎えた。

 

「あなたが……愛してくれなくても構わなかった……。あなたと出会えただけで……、幸せだった……!」

 

 この戦争で、辛いこと悲しいこともたくさんあったけど、私は幸福だった。

 

「愛してるわ……、生まれ変わってもきっと……」

 

 心残りは、『今回も』彼を幸せに出来なかったこと。

 彼はきっと、私の死を抱え込んで、自分を攻めてしまう。

 私は、『また』彼を幸せに出来なかった。

 

 それに……出来れば彼をこう呼びたかった。

 

 『オプっち』って……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 魂は流転する。

 彼方から此方へ。

 

 惑星サイバトロンから、ゲイムギョウ界へ……。

 

「……ようこそ、プラネテューヌへ。新しい女神様。お待ちしていました」

 

 光の中で誰かの声がする。

 それは良く知る声……イストワールの声だ。

 

「あなたの名前は……ネプテューヌ。天に輝く星にちなんだ名前です」

 

 こうして(ベルフラワー)(エリータ・ワン)を経て、わたし(ネプテューヌ)へと至ったのだった。

 

  *  *  *

 

 意識だけで何処か広い海のような場所を漂うわたしの傍に、三つの影が現れた。

 

「貴方は誰?」

「貴方は誰?」

「あなたは、誰?」

 

 影たちは次々に問い掛けてくる。

 

「私は、ベルフラワー。ソラス・プライムの娘」

 

 影の一つが私に重なる。

 

「私は、エリータ・ワン。オートボットの戦士」

 

 もう一つの影も私に重なる。

 

「そして……やっぱり、ネプテューヌだよ。またの名をパープルハート。プラネテューヌの女神。それは変わらない」

 

 最後の影が私に重なる。

 わたしはベルフラワーであり、エリータ・ワンであり、やはりネプテューヌだった。

 それらは決して矛盾しない。

 

 ベルフラワーやエリータは、わたしの前世だったのだ。

 

 女神がトランスフォーマーの一種であり、トランスフォーマーは肉体が滅べば魂はオールスパークに還り、そしてまた生まれてくる。

 故に、女神の前世がトランスフォーマーであることは、何ら不思議ではない。

 

 これはわたしが別人に変貌したとうことではない。

 わたしがネプテューヌであることは、決して揺るがない。

 

 ベルフラワーの贖罪のためではなく、エリータ・ワンの無念のためでもなく、わたしはわたしとして、あのヒトを愛したのだ。

 

 それに前の二回の分の愛が加算されただけ。

 人生三回分ほどの決意と覚悟を得ただけだ。

 

――そう、君は君だ。……さあ、過去を巡る旅は終わりだ。君が向き合うべき『今』にお帰り。

 

 いつかのように誰かの……オールスパークの声が聞こえると同時に、わたしの意識は急速に浮上し、あの小部屋へと戻っていった。

 




これで前世編は終わりです。

今回の解説。

AA08、RA11
どちらも、玩具の販売番号が由来。

タバラの網焼き、ゴスプの壺焼き
どちらもかの伝説のゲーム『コンボイの謎』の雑魚的より。
タバラは蟹型、ゴスプは巻貝型。

妖精さん
サイバトロン編あたりからアルファトライオンが言及してきた、幼き日のオプティマスのイマジナリーフレンド……その正体は、幼き日のエリータ。
このネタ、サイバトロン編の最後で明かす予定でしたが、場の流れ的に先延ばしになり、結局ここで明かすことに。

エリータからネプテューヌへ。
一応、クリスタルシティの回とかで伏線は張ってありました(エリータの理想像がネプテューヌに近い、エリータがオプっちと言いかける、ネプテューヌとエリータが同調する場面がある、など)
ネプテューヌの愛がやたら重い理由づけでもあったりします。
しかしまあ、今時前世ネタとか流行んない上に、現世での努力や決意を台無しにしかねないので、最後まで明かすかどうか悩んでました。

でも、ここまで来たらってことで書いた次第。

あくまでもネプテューヌはネプテューヌとしてオプティマスを好きになって、前世のこと思い出したらもっと好きになった……ってな感じです。

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