超次元ゲイム ネプテューヌ THE TRANSFORMATION   作:投稿参謀

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第160話 プライム戦争

 南洋のとある島で、二つの軍勢が戦いを繰り広げていた。

 両軍はどちらも金属の肉体を持ち武器を手にしていて、空には数隻の空中戦艦が浮かんでいる。

 

 オートボットとディセプティコンだ。

 

 オートボットはプライマの顔を模した柔和そうなロボットの顔のエンブレムを身に付け、ディセプティコンはメガトロナスの顔を表す鋭角的なロボットの顔のエンブレムをその身に刻んでいる。

 

 各々手に持った剣や槍で、あるいは体を変形させた剣や棍棒で敵と戦っていた。

 中には爪や牙で敵を引き裂く者もいたし、もっと先進的な光弾を放つ武器を使う者もいる。

 その中にあって、一際大きな体躯を持ち、一騎当千の活躍を見せる戦士の一団があった。

 

「我、グリムロック!! 恐れは知らぬ!!」

 

 この島……セターン王国を守る騎士たち、太古の竜の力を宿したダイノボットである。

 

「ディセプティコンども! 覚悟しろ!!」

「オメガ、ターゲット確認、ディセプティコン。作戦内容、殲滅」

 

 空では黒い翼を持つジェットファイアと、飛行戦艦に変形したオメガスプリームが暴れ回っている。

 

「第一部隊は前へ! 敵陣に穴を開けるぞ!! 第二、第三部隊は右翼へ回れ! 第四、第五部隊は左翼へ!!」

 

 その中にあって、赤と青のプライムが先頭に立ち大斧を振るって敵を蹴散らしながら味方に指示を飛ばしていた。

 低いがよく通る声もあって、軍勢はまるで彼の手足のように動く。

 少なくとも現場での指揮と言う意味なら、彼は天性の物を持っていた。

 

「大変です! 敵陣に突貫している部隊がいます!!」

 

 部下からの報告に赤青のプライムは顔をしかめる。

 一部隊が突出すれば、陣形が崩れてこちらに大きな被害が出るだろう。

 それが誰なのか、赤青のプライムには分かっていた。

 

「彼女たちか……!」

 

 最前線では、一体のディセプティコンがオートボットを蹴散らしていた。

 ディセプティコンの中にあって体が大きい一体で、右手に持った蛮刀でオートボットの体を叩き斬り、左手に握った棍棒で頭を砕く。

 敵のエネルゴンをその身に浴びて、ディセプティコンは始祖に祈りを捧げる。

 

「メガトロナスのために! オートボットの死を捧ぐ!!」

「ならば、私は貴方たちの死を母に捧ぐわ」

 

 だが、その前に一人のオートボットが立ちはだかった。

 そのオートボットは紫の体を持ち、小柄で曲線的な身体を持つ……女性だった。

 ディセプティコンは不機嫌そうな顔をする。

 

「女か! 始祖によれば、女とは愚かで下劣で、弱い生き物だ!!」

「試してみれば?」

 

 紫の女性は、興味無さげに言うと背中から曲刀を抜いてディセプティコンに向けて走り出した。

 ディセプティコンは雄叫びを上げて棍棒を敵の頭に振り下ろすが、紫の女性は軽やかにそれを躱し、さらに横薙ぎに振るわれる蛮刀の下を滑り込むようにして潜り抜け、すれ違いざまにディセプティコンの下腿を斬りつける。

 続いて痛みにうめいて膝を突くディセプティコンの片腕を切断し、返す刀で反対の腕も斬り落とす。

 もはや反撃が不可能になったディセプティコンは、信じられないと言った顔で女性を見た。

 

「ま、まさかこんな……」

「女を舐めるから、こうなるのよ」

 

 そして一閃、ディセプティコンの首を胴体から斬りおとす。

 地面に転がる敵の首に目もくれず、紫の女性はさらなる獲物を求めて敵の群れに飛び込んでいった。

 

 ……やがて戦闘はオートボットの勝利に終わり、ディセプティコンは撤退していった。

 

 女性がフッと息を吐くが、向こうから歩いてくる白い体色の若いオートボットの姿に顔をしかめる。

 

「突出しすぎだ! もう少しで陣形が崩れるところだったぞ!!」

「ノヴァマイナー。……別にいいでしょ? 勝ったんだし」

 

 あからさまに嫌そうな顔をする紫の女性に、白いオートボット……プライマの眷属であるノヴァマイナーは渋面を作る。

 

「そう言う問題ではない! 君たちは、少し独断専行が過ぎる!!」

「貴方たちに合わせてたら、いつまで経ってもメガトロナスに辿り着けない。私たちは私たちのやり方でやる」

 

 紫の女性の態度に、ノヴァマイナーの元々吊り上っていた眉の角度が上がる。

 

「命令を聞け! 私はプライマ様の副官だぞ!」

「落ち着け、ノヴァマイナー」

 

 しかし、そこでいつの間にか近くに立っていた赤と青のプライムに諌められ、居住まいを正して礼をする。

 

「ッ! 申し訳ありません!」

「真面目なのはいいことだが、そこまで根を詰めるな。持たないぞ。……君もだ、そんなやり方では、いつか破滅するぞ」

 

 矛先を自分に向けられて、紫の女性は顔を露骨に怒りに歪めた。

 

「なら、私が破滅するより先にメガトロナスとディセプティコンを破滅させてやるわ!!」

 

 ノヴァマイナーに向けるのとは違う、激しい口調で詰め寄る紫の女性に、赤青のプライムは悲しそうな顔をする。

 正直、紫の女性はこの顔が苦手だった。

 

「昔の君は、そんな風じゃなかった。……ソラスはこんなことは望まないだろう。分かるはずだ…………ベルフラワー」

「母が何を望んでいたのかなんて、もう永遠に分からない! 知ったようなこと言わないで!!」

 

 感情的になる女性……ベルフラワーに、赤青のプライムの顔に刻まれた悲しみが深くなる。

 何とも言えない気分になり怒りも萎んでくるベルフラワーだが、その近くに別の女性オートボットが寄ってきた。

 

「ベル。おつかれ、奴ら逃げ出したわ」

 

 身の丈ほどもある大剣を背負った黒い女性。……次女のレイヴンだ。

 首を回しながら、物足りなげな顔をしている。

 

「まだまだ戦い足りないわ。……そうは思わない?」

 

 純粋に憎しみを原動力にして戦っているベルフラワーと違い、レイヴンは何処か、戦いに快楽を感じているような節がある。

 自分の顔に付着した敵のエネルゴンを指で掬い、恍惚した表情でペロリと舐める姿からは、一種の狂気すら感じられ、ノヴァマイナーなどはあからさまに不愉快そうな顔をする。

 こうなってしまった姉を見ていると、赤青のプライムの言葉にも頷いてしまいそうになる。

 

 ベルフラワーは姉妹に曖昧に微笑みかけると、赤青のプライムと顔を合せようとせずに歩み去っていった。

 ノヴァマイナーも一礼してから、自分の仕事に戻る。

 

 若者たちを見送ってから赤青のプライムは大きく息を吐いた。

 その近くに、杖を持ったプライムとプライマが並ぶ。

 

「苦労してるみたいだな」

「まあな。……彼女たちは、あまりにもディセプティコンへの憎しみが強すぎる」

「これは戦だ。それは必ずしもマイナスにはならんのではないか」

 

 杖を持ったプライムの言葉に、赤青のプライムはゆっくりと首を横に振った。

 

「私は彼女たちを守ると誓った。……それは、彼女たち自身からもだ」

「過保護にすぎるぞ。……彼女たちにも活躍してもらわねば。戦局はこちらが優位とは言えない。……すでにアルケミストとアマルガモス、マイクロナスは殺された。ネクサスは行方不明だし、リージとオニキスは協調性に欠ける。クインタスは……アレの考えていることは分からん」

 

 プライマが重々しい声で言うと、赤青のプライムはグッと拳を握る。

 ソラス・プライムが殺されプライム戦争が開幕してより時が経ったが、ディセプティコンの数はプライムたちが想定していたよりも多く、戦いは『あの世界』にまで拡大して、泥沼化の様相を呈していた。

 そしてこの世界の住人たちを巻き込んで、今はこのセターン王国を舞台に戦いは続いていた。

 

「何とか、和解は出来ないだろうか? ジェットファイアのように、ディセプティコンにもメガトロナスに反感を持つ者もいるはずだ」

「無理だ。……すでに、その段階は過ぎた」

 

 赤と青のプライムの言葉を斬り捨て、プライマは厳しい顔をする。

 

「それよりも、ディセプティコンに動きがあった。決戦の時は近いぞ」

 

 その言葉に、プライムたちは顔を引き締めるのだった。

 

  *  *  *

 

「お前たちには感謝しているよ。おかげで我が民を逃がす時間が稼げた」

 

 島の岬から、ベルフラワーとヴイ・セターンは、避難船が出港していくのを見送っていた。

 この島の王女であるヴイ・セターンは、ベルフラワーにとってこちらに来てから初めて出来た友達だ。

 

「礼なんかいいわ。私たちにとって、ディセプティコンは倒すべき仇ですもの」

「それでもだ。そこにどんな思いがあれ、助けられたのだから感謝するのが道理だ」

 

 キッパリと言い切るヴイに、ベルフラワーは苦笑いする。

 しかしヴイは真面目な顔をした。

 

「それにしても、仇か……それはジェットファイアもか?」

 

 ヴイの視線の先では、ディセプティコンを抜けてオートボットに加わったシーカーが、ダイノボットたちと一緒に騒いでいる。

 どうも騎士たちが彼に付けた『天空の騎士』なる称号に文句を言っているらしい。

 

「……彼は別よ」

「ふむ、ならいいんだが。そのメガトロナスが母君の仇というのは分かる。しかしその憎しみがディセプティコン全体にまで拡大している気がしてな」

「……彼みたいなこと言うのね」

 

 他意はないのだろが咎めるようなことを言うヴイに、ベルフラワーはプイと顔を逸らす。

 

「彼……ああ、あのプライムか」

「ええ。彼ときたら、いつも『憎しみに呑まれるのはよくない』とか『君は無茶をしすぎだ』とか小言ばかり! ジェットファイアの時だって、私は反対したのに彼が勝手に仲間にしちゃうんですもの! 結果としては良かったけど……だいたい本当はもの凄く強いのに、それを滅多に発揮しないのはどうなのよ? 決して臆病じゃないんだけど、優し過ぎるんだから……」

 

 気付けば赤青のプライムへの愚痴がポロポロと出てくる。

 母の死後、まるで自分たちの保護者のように振る舞い、戦い方から何から教えてくれた恩人ではあるのだが、どうにも気に喰わない。

 

「心配してくれてるのは分かるのだけど、私だっていつまでも子供じゃないんだから……なによ?」

 

 何故だかヴイがクスクス笑っている。

 

「いや別に。なあ、気が付いているか? ベルフラワーは、気が付くとあのプライムのことを話しているんだ」

「…………そう?」

 

 指摘されて、首を傾げるベルフラワー。ヴイが何を言いたいのか分からない。

 するとヴイは何処か呆れたような顔になる。

 

「ああ、ひょっとして気付いてないのか?」

「気付いてない、って何に?」

「いや、こういうことは自分で気付かないとな。私が言って余計な思い込みを与えてはいけない」

 

 一人納得しているヴイに、ベルフラワーは怪訝そうな顔をする。

 と、視界の端に、姉妹の一人であるリーフウィンドの姿が映った。

 避難のために海へ漕ぎ出そうとする最後の船の横に立って、船に乗った少年と何か話しているようだ。

 あの少年は確か、ディセプティコンの攻撃からリーフウィンドによって命を救われた少年で、以来彼女を慕っているようだった。

 失礼だとは思いつつ、聴覚センサーの感度を上げて会話を拾ってみる。

 

「お姉さん! 僕といっしょに行きましょう!! 貴方に戦いは似合いません!!」

「あらあら……そんなことは出来ませんわ」

 

 少年の熱烈な告白に、緑色の体色を持ち、かつて言っていた通り姉妹の中で一番背が高くなったリーフウィンドは困ったような顔をする。

 セターン人らしい褐色の肌の少年は、自分よりも大きな女性オートボットを真っ直ぐに見上げた。

 

「僕は、貴方のことが好きです! 恋、してるんです! 貴方に、傷ついてほしくない!!」

「好き……恋……? それは、何なのかしら?」

 

 言葉の意味が分からず、リーフウィンドは小首を傾げる。

 その様子に、少年は悲しそうな顔をした。

 

「貴方がたは、そんなに美しい姿をしているのに、恋をしらないんですね……」

「ええ……」

 

 戸惑うリーフウィンドに、少年は決意に満ちた顔をする。

 

「……では、こうしましょう。この戦いが終わったら、僕が貴方に恋を教えてあげます!! だから、きっと生きてください!!」

「ええ……楽しみにしていますわ」

 

 リーフウィンドは、戦いを初めてから久しく見せていない柔らかい笑みを見せるのだった。

 

 

 

 

「うーむ、ロボっ娘萌えでおねショタとは、業の深い……」

「いや、何だか分からないけど貴方、台無しよ」

 

 そんな情景を見ながら良く分からない上に空気ぶち壊しなことを言うヴイに、ベルフラワーはツッコミを入れる。

 

「ベルフラワー、ここにいたのか。少し話があるんだが、いいか?」

 

 そこに、赤と青のプライムがやってきた。

 さっきの話もあって、ベルフラワーは顔をしかめつつも応じる。

 

「ええ、構わない。……それじゃあ、ヴイ。また」

「ああ、またな」

 

 ヴイに断ってから、赤青のプライムの背を追うベルフラワー。

 二人はジャングルの中を少し進み、オートボットたちが基地にしているセターン王国の王都跡の中を抜ける。

 

「お、ベルフラワー! どこに行くんだ?」

 

 そこで、巨大な白い狼に跨ったスノームーンに声をかけられた。

 長い戦いは、このかつては物静かな少女だった白い女性オートボットを、獰猛な女戦士へと変えていた。

 

「スノー姉さん。……別に、彼が話があるからって」

「ああ、なるほどな。ま、頑張れよ」

 

 何故かニヤニヤとするスノームーンに、ベルフラワーは我知らずムッとする。

 

「姉さんは、また幻影と狩り?」

「おう! やっぱりこいつの乗り心地が最高だからな! サイバトロニアンの男じゃ、こうはいかない」

 

 彼女が跨る狼、名を幻影は仮にもサイバトロニアンであるスノームーンが跨れることからも分かるとおり、その身体は像ほどもある。

 元々は北の地にて神とも崇められる巨狼であり、ディセプティコンの攻撃で一族を失い死にかけていたところをスノームーンに助けられて以来、彼女の相棒として戦場を駆けている。

 スノームーンの方も幻影を目に入れても痛くないほど可愛がっていた。比較対象が男なのはどうかと思うが。

 

「今回で最後かもしれないからな。だから、こいつとタップリ遊ぶつもりだ」

「……そう、邪魔したわね。それじゃあ、後で」

「おう、後でな!」

 

 駆けていく幻影とスノームーンを見送って、ベルフラワーと赤青のプライムは歩き出した。

 

『最後かもしれない』

 

 そうスノームーンは言っていた。

 元より、戦士はいつ死ぬとも分からぬ身だ。

 

 不滅の存在のように思えたプライムたちでさえ、戦いの中で死んでいったのだ。

 

 ヴイによると人間は明日をも知れぬ時、異性に告白したりすると言う。

 二人きりで外出したり、誰も来ない場所にいったりして……。

 

 ふと思った。それって、まさに今の自分の状況ではないか?

 

 そう考えると落ち着かなくなり、ピタリ、と足が止まる。

 ベルフラワーは、少なくとも恋を理解できないリーフウィンドよりは人間の心の機微に敏いつもりだ。

 しかし、恋や愛と言うのが、何か素敵なことなのは分かるが、それ以上は良く知らない。

 

「ベルフラワー?」

「……ねえ、何処へ連れて行く気なの?」

「着くまでの秘密だ」

 

 急に止まったベルフラワーに赤青のプライムは振り返るが、不安げな疑問をそう言って誤魔化すと、また歩き出した。

 仕方なく、ベルフラワーも続く。

 

 やがて辿り着いたのは、山地の一角だった。

 標高のせいか、山が日の光を遮っているせいか、はたまた近くに湧く水のせいか、南国の島とは思えぬほどに涼しい。

 

「偶然見つけたんだ。……これを君に見せたかった」

 

 赤青のプライムが岩陰を指差した。

 岩陰には、隠れるようにして紫色の小さな花が、いくつか集まって咲いていた。

 

「これって……」

「ベルフラワー、君の名の由来になった花だよ。本来、もっと北の方に咲く花のようだが何かの偶然でここに根付いたらしい」

 

 自らの名の由来になった花を、ベルフラワーは不思議そうに見つめた。

 和やかな顔になる女性オートボットに、赤青のプライムはいくらか満足そうだった。

 

「花言葉というものがあるそうだ。花から連想される言葉らしい。この花の場合は、感謝や、誠実。そして楽しいお喋りなどだ」

「……楽しいお喋り?」

 

 堅物なプライムから出た、らしくもない言葉に、ベルフラワーは思わず失笑してしまう。あんまりにも、自分には似合わない言葉だからだ。

 

「なるほどね。この花と私の在り方はまるで正反対。戦いばかりで、お喋りしてても楽しくないでしょうし……」

「そんなことはない。私は君と話していると、とても楽しい」

「なあっ!?」

 

 自嘲気味な言葉を遮って真顔で放たれた発言に、ベルフラワーは素っ頓狂な声を出してしまう。

 

「君は本来、この花のようなヒトだ。……憶えているだろうか? 君たちの母の最期の言葉を」

「……ええ」

 

『みんな、仲良くね』

 

『ありがとう。幸せになりなさい』

 

 それが、ベルフラワーたち四姉妹の母、ソラス・プライムが遺した言葉だ。

 

「私には、この状況が君たちの幸せだとは、どうしても思えない。……今からでも遅くは無い、戦いを止めてはくれないだろうか?」

「…………結局、そういう話になるのね」

 

 真剣な表情のプライムに、ベルフラワーは酷く残念に思っていることに気が付いた。それが何でかは、よく分からなかったが。

 

「幸せ? 貴方がそれを言うの? ……私には、貴方の方こそ幸せには見えないわ」

「私はいいんだ。他者のために尽くすことこそ、プライムの使命なのだから」

「いっつもそう。そう言って、いらない苦労まで背負いこんで、誰よりも傷ついて……自分の幸せも分からないヒトが、私にお説教しないで」

「……すまない」

 

 イライラと言うベルフラワーに、赤青のプライムは悲しそうな顔をした。

 

 そう、この男はいつもそうだ。悲しみ、痛み、苦しみ……そういった物で、この男の内面は満ちている。

 

 かつて母ソラスは言った。彼は優し過ぎると。

 今なら分かる。この男は、敵を傷つければ自分の方が深く傷ついてしまう。周りの者が苦しめば、同じだけの苦しみを背負ってしまうのだ。

 それが、どういうワケか堪らなく気に喰わない。

 

「……もう行くわ。……花を見せてくれたのは、嬉しかった。ありがとう」

 

 赤青のプライムに背を向け、ベルフラワーは足早に歩み去る。

 彼がどんな顔をしているのか、見たくもなかった。

 

 その時、王都跡の方から、けたたましい鐘の音が聞こえてきた。あれは敵の襲撃を告げる鐘だ。

 

 二人は顔を見合わせる。

 すでに、センチメンタリズムは綺麗さっぱり消え去り戦士の顔になっていた。

 

 同じころ、レイヴンやダイノボットらは好戦的に笑み、スノームーンは幻影の背を撫でながら決然と空を見上げ、リーフウィンドは何処か不安げに海の彼方を見つめていた。

 

 そして、何処か別の場所で、プライマと杖を持ったプライムが深刻な表情で話し合っていた。

 

「なあ、プライマ。兄よ……本当に、他に道はないのか?」

「ない。……分かっているはずだ。これは、決まっていることなのだ。皆とも話し合ったではないか」

「だとしても、この状況で私だけが逃げ出すなど……」

「オールスパークの意思に、反することは出来ない。……少なくとも私には」

 

 強い口調で長兄に言い含められ、杖を持ったプライムは渋面を作る。

 

「……今日、この日のことを、私は永遠に後悔するだろう」

「私だってそうだ。オールスパークの予言を賜ってから、苦しみと後悔のなかった日はない。…………さらばだ、弟よ」

「………さよなら、兄さん。愛しているよ」

 

 お互いに果てない苦さを含んだ口調で言い合い、それきり二人のプライムは口を効かずに背を向けあって反対の方向に歩き出した。

 

 プライマは、戦場へ。

 そして杖を持ったプライムは、決められた未来に向けて。

 




Q:過去編長くねえ?

A:過去編が終わった後には、もう最終決戦しかないんで……。

今回の小ネタ

ノヴァマイナー
後にノヴァ・プライムと呼ばれることになる男。
名称はIDW版より。

すでに半壊してる13人
許せ、尺が足りんのじゃ……。

ベルフラワーの花言葉
感謝、誠実、共感、後悔、楽しいお喋り、誠実な恋、など。

名づけた後で知りました。
……なんやねん、この親和感。

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