超次元ゲイム ネプテューヌ THE TRANSFORMATION   作:投稿参謀

178 / 203
第159話 ベルフラワー

 ソラス・プライムの娘、ベルフラワーが産まれてから、いくばくかの時がたった。

 ベルフラワーには母以外に三人の家族がいる。

 

「……御本が読めないわ、みんなあっちにいってちょうだい」

「スノー、みんなで読みましょう」

 

 一番上の姉、スノームーン。

 雪のように白い姿が、ある世界の月のようだと名づけられた。

 長姉なのに、姉妹で一番体が小さいのが悩み。

 

「ふん! 姉妹なんかいなくたって、私一人で十分よ! ……さ、寂しくなんかないんだから!」

「はいはい、レイヴンも皆と遊びたいのね……」

 

 黒い体色が特徴の二番目の姉、レイヴン

 別世界に住む黒い羽の鳥が名の由来らしい。

 しっかり者だが、素直じゃない。

 

「おねえさまなんかいりません! おかあさま! わたくしも、いもうとがほしいですわ!!」

「リーフ、そんなこと言わないの。お姉ちゃんも大事なのよ。…………もう一人はさすがに肉体的にキツイわ」

 

 そしてベルフラワーの妹で末っ子のリーフウィンド。

 名前の通りの淡い緑のカラーリングが鮮やかだ。

 何処で覚えたのか、不思議な言葉づかいをする。

 

「あ、あのお姉ちゃんたち。それにリーフも。仲良くしようよ……」

『べル(おねえさま)は黙ってて!!』

「は、はい……」

「ベル……貴方はもう少ししっかり意見を言いなさい」

 

 そしてベルは、心優しいが少し引っ込み思案な子に育っていた。

 

「スノー! 私のエネルゴン取ったでしょ!」

「……リーフじゃないの? わたしは知らないわ」

「レイヴンおねえさまが、わたくしのおもちゃをとるからですわ!」

「み、みんな止めて……」

 

 しかしどう言うワケか、この四姉妹はしょっちゅう喧嘩していて、その度にソラスが止めていた。

 

「ああー! もう喧嘩しない!! 喧嘩する子は、お母さん嫌いです!!」

『ごめんなさーい!』

 

 こんな感じに。

 

「あー……疲れるわー」

「貴方が望んだことでしょう」

「そーなんだけどねー。やっぱり大変。……でも充実はしてるわ」

 

 この個性豊かに過ぎる四姉妹に囲まれて、ソラスと言えど、さすがに四人も子供がいると疲労がたまるようだが、兄弟の中でも仲の良いクインタスの手助けもあって何とかやっていた。

 

 そんなある日のこと。

 最初の13人は、それぞれの眷属と共に思い思いの場所で暮らしていた。

 ソラス一家が暮らしている、始祖が所有しているにしては中々質素な家に、プライムのうちの一人……メガトロナス・プライムが訪ねてきた。

 ベルフラワーは駄目と言われていたのに、気になって母の部屋を覗き見ると、母と客人が言い争っていた。

 

「君たちは、あの世界に惹かれすぎだ! オールスパークから貰った体をそのように改造してしまって恥ずかしくないのか!」

「そうしろというのが、オールスパークの啓示だったでしょう。それにこの星のエネルギーもどんどん減っているわ。今は良くても、いずれは枯渇する。その時のために、私たちは種を保存する方法を模索しているのよ」

「だとしても! 有機物の真似をするなど! 本来生命は、オールスパークが齎す神聖な物のはずだ!!」

「メガトロナス、貴方のオールスパークへの信奉と愛は良く分かっているつもりよ。……それでも、それを他の者に押し付けないで」

「いつか罰が下るぞ……それからでは、遅いんだ! あの眷属たちに掛り切りで、鍛冶師としての仕事も疎かになっているようだし……!」

「仕事を疎かにしているつもりはないわ。……それと眷属という言い方はやめて。あの子たちは私の娘よ」

 

 怒鳴るメガトロナスに対し、ソラスは断固として反論する。

 何処までも平行線をたどる二人のプライムは、やがて無言で睨み合うが、メガトロナスの方が折れた。

 

「はあ……まあいい。こうして兄弟で争うことこそ、オールスパークの意に反するはずだ」

「そうね……」

 

 母が疲れたように金属の顔を歪めるのを見て、ベルフラワーは踵を返して駆け出した。

 

 幼く多感な少女には、メガトロナスの言葉が自分を攻めているように聞こえたのだ。

 自分たちがいるから、母は兄弟と喧嘩して、罰を当てられるのだと

 

 走りに走ったベルフラワーは、家の近くにある金属の岩の上に隠れた。

 

 それから、どれくらい経ったろうか。

 

 すすり泣いていたベルフラワーに声をかける者がいた。

 

「君、どうしたんだい?」

 

 見下ろすと、赤と青のサイバトロニアンがこちらを見上げていた。

 丸みを帯びた騎士甲冑のような姿だ。

 

「…………」

「女性体……ということは、ソラスのところの子供かな?」

「おじさん、お母さんの知り合い?」

「ああ、私はソラスの兄弟の一人だよ」

 

 そのサイバトロニアンは、ベルフラワーに優しく微笑んだ。

 訝しげにジーッと母の兄弟(自称)を見下ろしていたベルフラワー。

赤と青のサイバトロニアンはキョトンとする。

 

「どうしたんだい?」

「…………貴方も、お母さんと喧嘩しにきたの?」

「喧嘩? どうしてだい?」

「さっき、メガトロナスってヒトが、お母さんと喧嘩してたの」

「ああ、なるほど……」

 

 幼い少女の言葉に、赤と青のサイバトロニアンはヤレヤレと排気する。

 

「私は喧嘩しに来たんじゃないよ。ソラス……君のお母さんの顔が見たくてきたんだ」

「ホント?」

「本当さ。さあ。降りておいで」

 

 安心させようとする穏やかな声にベルフラワーも落ち着いてくる。

 時間をかけて岩から降りたベルフラワーは赤青のプライムと手を繋いで歩き出した。

 その手はとても大きく、暖かかった。

 何だか、このヒトといっしょだと安心できる。

 

「ベル! ベルフラワー!! ……あら?」

 

 しばらく歩いていると、家の方からソラスが走ってきたが、手を繋いでいる赤青のプライムの姿を見て首を傾げる。

 

「貴方は……」

「やあ、ソラス。君の娘に案内してもらったよ」

「ああ、そうだった! ベル! 家にいないから心配したのよ! いったいどうしたの!」

 

 どうやらソラスは、家から飛び出したベルフラワーを探していたようだ。

 ベルフラワーは母から顔を逸らした。

 

「ベル」

「……あのメガトロナスってヒトが言ってたの。私たちがいるから、お母さんに罰が当たるって……それに、私たちがいるから喧嘩してるみたいで」

「ああ、聞いてたの……」

 

 躊躇いがちにポツポツと漏らす娘に、ソラスは溜め息を吐き、それから真面目な顔をして娘の両頬を手で包んだ。

 

「ねえ、ベル。そんなことないわ。オールスパークはお母さんのお母さんみたいなものですもの。貴方たちを嫌いなはずないじゃない」

「……ホント?」

「うん、本当。それにメガトロナスと喧嘩していたのも、貴方たちのせいじゃないわ。あのヒトはあのヒトなりに、私たちのことを心配してくれてるだけなのよ」

「……うん」

「良い子良い子。……でーも!」

 

 素直に頷く娘に、ソラスは微笑んでから厳しい表情を作り、額にデコピンを当てる。

 

「痛い!」

「これは心配をかけた罰! これからはしないように」

「うう……はーい」

 

 涙目で謝る娘の頭を撫でるソラスを、赤青のプライムは微笑ましげに見ていた。

 ソラスは娘を抱き上げてから、兄弟に顔を向ける。

 

「それで、今日はどうして来たの?」

「近くに来たので寄っただけさ。君の自慢の眷属を見てみたくなってね。……良い子じゃないか」

 

 兄弟の言葉に、ソラスはフッと柔らかく笑む。

 

「ありがとう。……でも眷属という言い方はよして。この子たちは、私の娘、子供よ」

「その違いが上手く理解できないが、ふむ、分かった」

 

 真面目くさった顔で頷く末弟に、ソラスはプっと噴き出した。

 そんな母とその兄弟を見て、ベルフラワーは暖かい気持ちになる。

 

「お母さーん!」

「ベルー!」

「どこですのー!」

 

 家の方から、ベルフラワーの姉妹たちの声がする。

 

「あらいけない! 皆にもベルを探してもらってたんだったわ!」

「そうか。ならば、私はこれで」

「家に寄っていきなさいよ。エネルゴン茶ぐらいは出すわよ?」

「いや、お気遣いなく」

 

 赤青のプライムはソラスの申し出をやんわりと断ると優しく笑んでから踵を返して歩き出した。

 

「では、また」

「ええ、またね。……ほら、ベルもさようならって言ってあげなさい」

「さようならー!」

 

 母の手に抱かれて、ベルフラワーは赤と青のプライムに手を振る。

 彼は、振り返って手を挙げてから去っていった。

 

「優しいヒトだったね」

「ええ、あの子は兄弟の中でも一番優しいの。……そこが心配でもあるんだけど」

「?」

 

 優しいことの何がいけないのか分からず首を傾げる我が子に、ソラスは曖昧に微笑んだ。

 

「ベルにはまだ早いか。……さあ、早く帰りましょう。皆が待ってるわ」

「はーい!」

 

 母の言葉の意味をベルフラワーが知るのは、随分と先の話だ。

 

  *  *  *

 

 それからまた、いくらかの時が流れ、ベルフラワーは家族共々アイアコンを訪れることになった。

 

 この時の幼いベルフラワーは分かっていなかったが、メガトロナスが勝手に他の世界に迷惑を懸けたので、それを裁くための集まりだった。

 

 アイアコンはこの頃からすでにサイバトロンの首都であり、プライムの内の何人かはここで暮らしていた。

 この頃オールスパークを安置していた聖堂の一部屋で、ベルフラワーと姉妹たちが揉めていた。

 

「おねえさま! わたくしは、ひとりでもだいじょうぶですわ!」

「駄目だよ、リーフ。貴方はまだちっちゃいんだから……」

「むー! いまにすのーおねえさまよりおおきくなってみせますわ!! すのーおねえさまちっちゃいですし!」

「…………」

 

 末っ子のリーフウィンドの手を引くスノームーンだが、当の末妹はそれを鬱陶しく思っているようだった。

 

「レイヴンお姉ちゃん……あの……」

「何よ、ベル! 言いたいことがあるなら言いなさい! イライラするから!」

「ご、ごめん……」

「ほら、すぐ謝る! だ、か、ら! イライラするの!」

 

 勝手に動こうとする姉を止めようとするベルフラワーだが、レイヴンは妹の煮え切らない態度の妹に怒りを感じていた。

 

 まあ、概ねいつもの光景である。

 

「いい加減になさい! こんなとこまで来て喧嘩しない!」

 

 そして母の一喝でピタリと止まる。

 息を吐いたソラスは、娘たちを招き寄せる。

 

「もう、どうして仲良くできないの?」

『だって……』

「だってじゃありません! ……私はね、皆に仲良くしていてほしいの」

 

 そう言ってソラスを四人の娘を抱きしめた。

 

「貴方たちが、仲良く、健やかに、幸せになってくれることが、私の望みよ」

『…………はい』

 

 四人娘は母を抱き返す。

 少し離れた場所にフワフワと浮かんでいたクインタスはそんな家族を暖かく見守っていたが、時間が迫っていることに気付き女性プライムに声をかけた。

 

「ソラス、そろそろ行きましょう」

「ええ……それじゃあ、スノー、レイブン、ベル、リーフ。みんな良い子で待っててね」

『はーい!』

「返事だけはいいんだから……」

 

 元気よく返事した娘たちにソラスは苦笑する。

 何とかして娘たちに本当の意味で仲良くなってもらいたい。

 クインタスは、腰に手を当てて姉妹を嗜める。

 

「そう言わないの。あれが、あの子たちなりのコミュニケーションなんだから」

「ま、そうなんだけどね……」

 

 実のところ、ベルフラワーら四姉妹が喧嘩ばかりしているのは全員が『自分が一番、母に愛されている!』と自負しているからだったりする。

 ヒトは優劣や順番を付けたがる物。母が分け隔てなく愛を注いでも、子らは自分こそが一番と思いたがるのである。

 

 『親の心、子知らず』の理は、サイバトロニアンも同じらしい。

 

 二人が部屋を出ていくと、さっそくスノームーンとレイブン、リーフウィンドが辺りを物色しはじめる。

 

「ふ、二人とも、止めなよ……」

「何よ! ベルは黙ってて!」

「あうう……」

 

 止めようとするベルフラワーだが、レイヴンに強く言われて黙ってしまう。

 ベルフラワーは思う。

 もっと、グイグイ強気でいられたらいいのにと。

 

 しばらくは部屋で遊んでいた四人だったが、疲れてきたのかお昼寝を初めてしまう。

 

「むにゃむにゃ……おっきく、なる……」

「すーすー……友達ほしい……」

「くーくー……いもうと……」

「すぴー……」

 

 安らかに眠る四人。こんな時だけは仲良しだ。

 しかし急に轟いた爆発音に揃って飛び起きる。

 

「な、なに?」

「わ、分からない……」

 

 爆音に混じって怒声や悲鳴も聞こえてくる。

 不安げに身を寄せ合う四人だが急に部屋の扉が開かれ、誰かが入ってきた。

 

「四人とも! 外に出て、早く!!」

 

それは母ソラスと一番仲の良い兄弟であり、四姉妹にとっては叔母のような存在であるクインタスだった。

焦ったような表情で、髪の毛のような触手が忙しなく蠢いている。

 

「クインタス? いったいどうしたの……?」

「いいから、ほら!!」

 

 首を傾げるスノームーンに立つよう促すクインタス。

 その後ろには、あの赤と青のプライムが大斧を手に自分の物ではないエネルゴンに塗れて立っていた。

 

「急げ、クインタス! ……奴らが来る!」

「分かってる! ……ねえ、お願いだから、早くして」

 

 半ば懇願するようなクインタスの必死な言葉に、子供たちはワケが分からないながら立ち上がり、急かされるまま部屋を出ると、通路を足早に歩かされる。

 スノームーンは不安げな顔で険しい表情のクインタスに問う。

 

「ねえ、クインタス。お母さんは……?」

「後で合流するわ」

「皆、声を立てないようにしてくれ……」

「いたぞ! ぶっ殺せ!!」

 

 一同の先頭に立って進む赤青のプライムは、子供たちに静かにするように言うが、その時廊下の向こうから恐ろしげな姿をしたサイバトロニアンたちが現れた。

 三人のサイバトロニアンたちは手に持った剣や槍、棘付きの棍棒を振るって一行に襲い掛かる。

 しかし、赤と青のプライムは素早く斧を振るって先頭の一体の首を刎ね飛ばし、首を失った敵の体をその後ろの敵に向けて蹴り飛ばし、怯んだ所を首なし死体ごと横薙ぎに両断した。

 

 残る一体が赤青のプライムの脇をすり抜けて幼い姉妹に向かっていくが、クインタスが手から電撃を放って破壊する。

 

「さあ、行こう……」

 

 赤青のプライムは先を急ごうとするが、幼い子供たちは突然の暴力に、只々震えるばかりだった。

 

「怖がってるのよ、当然だわ」

「……そうだな。仕方のないことだ」

「正直、驚いたわ。貴方はもっと、優しい男だと思っていた。敵も殺せないほどの」

「…………私も驚いているんだ。己の中に、こんな暴力性があったとは……」

 

 クインタスの言葉に青と青のプライムは無表情で頷く。

 返り血もあって、その姿は暴力の化身めいていて恐ろしい。

 しかし、ベルフラワーには、赤と青のプライムが泣くのを堪えているように見えた。

 

 そのまま止まってもいられないので、聖堂の外へと向かう一行だが、先々で恐ろしい姿のサイバトロニアンたち……ベルフラワーは『ワルモノ』と呼ぶことにした……が襲い掛かってくる。

 その度に、赤と青のプライムが剣を振るいサイバトロニアンを情け容赦なく葬った。

 

 やがて、聖堂の出口に辿り着くと、前庭ではプライムたちが数え切れないワルモノと戦っていた。

 

 一際立派な白銀のプライム、13人の長兄たるプライマが愛刀テメノスソードを華麗に振るってワルモノを両断する。

 

 二本の角の生えた立派な体躯のリージ・マキシモは、凄まじい勢いで鎚鉾を振り回し、ワルモノを打ちのめす。

 

 獣のような四足の下半身の上に獣の爪と鳥の翼を備えた人型の上半身が乗った姿を持つオニキスは、爪と野生のパワーでワルモノの体を引き裂く。

 

 ネクサスは五体が合体した巨体を生かしワルモノたちを踏み潰していた。

 

 そしてもう一人、杖を持ったプライムが衝撃波を発生させたり、念力で手を触れずにワルモノを投げ飛ばしたりしていたが、赤青のプライムとクインタスの姿を見つけて声を上げた。

 

「二人とも遅いぞ! 他の者は退避した! お前たちも早く!!」

「ソラスは!?」

 

 掌からの電撃でワルモノを攻撃するクインタスに問われ、杖のプライムは視線で聖堂の屋根の上を指した。

 

 そこではソラスが柄の長い鎚で迫るワルモノを次々と薙ぎ倒していた。

 

「ソラス! 子供たちを連れてきたわ!! 貴方もこっちに!!」

 

 クインタスの呼びかけが聞こえたのかソラスは、聖堂の下を見下ろし、娘たちの無事を確認して安堵の笑みを浮かべ………。

 

「ッ! ソラス、後ろ!!」

 

 ハッと後ろを振り向いた瞬間、その腹部を杖が貫通していた。

 いつの間にかソラスの後ろに立っていたメガトロナスが、手に持った杖でソラスの腹を刺し貫いていた。

 

「め、メガトロナス……! なんで……こんな……」

 

 ソラスは兄弟に向けて手を伸ばすが、メガトロナスはその手を払いのけ、杖を引き抜いてソラスの体を屋根の上から蹴り落とした。

 サイバトロニアン最初の女性の体は、落下の末に地面に叩きつけられた。

 

「ソラス!!」

『お母さん!』

 

 プライムたちが固まるなか、クインタスと四姉妹はソラスに駆け寄る。

 ソラスの体には完全に穴が開き、そこからエネルゴンが止めどなく流れ出していた。

 

「スノー……レイヴン……ベル……リー、フ……ゴホッ!!」

 

 娘たちに向かって手を伸ばし何か言おうとするソラスだが、その口から咳と共にエネルゴンが吐き出された。

 

「お母さん! お母さん!」

「しっかりして……お母さぁん……!」

「お母さん、死なないで!」

「おかあさま……いや、いやぁ……」

 

 四姉妹は母の手を握り、口々に母を呼ぶ。

 ソラスは力を振り絞って、娘に笑いかけた。

 せめて、我が子たちに伝えるために

 

「そん……な……顔、しない、で……みんな……仲良く、しなさい、ね……」

「うん! するよ! 私たち、仲良くするから! 良い子にするから! だから……!」

 

 母の命が尽きていく。

 それでも、笑っていた。

 

「みん……な、ありが、とう……し、あわせ……に……なりな……さ、い…………」

 

 それが、ソラスの最後の言葉だった。

 スノームーンは茫然自失していた。

 レイヴンは震えて何も言えず、リーフウィンドは母の遺体に泣きついていた。

 そしてベルは聖堂の上に立つ、黒いプライムを見上げた。

 

「ははは……はーっはっはっはっは!!」

 

 それは嗤っていた。

 大声で嗤っていた。

 

「はははは、ははは、あーはっはっはっは!!」

 

 只々、狂ったように嗤い続けていた。

 いや、おそらく本当に狂ってしまったのだろう。

 

 何故なら、メガトロナスは、嗤いながら、エネルゴンの涙を流しているのだから。

 

 泣き、嗤いながら、メガトロナスは忽然と姿を消した。瞬間移動したのだ。

 いつの間にか、ワルモノたちも消え、ソラスの遺体の周りに、プライマ、リージ、オニキス、杖を持ったプライム、そして赤青のプライムが集まった。

 

「いったい、メガトロナスはどうしてしまったんだ……」

「分からん。狂ったとしか思えん……」

 

 オニキスとリージ・マキシモが顔を見合わせる中、杖を持ったプライムは何かに恐怖……あるいは悔恨しているかのように体を震わしていた。

 赤と青のプライムは、オズオズとベルフラワーの肩に手を伸ばそうとした。

 

 その時、プライマが兄弟たちを見回し、声を上げた。

 

「兄弟たちよ……平和の時代は終わった。我々は、団結して戦わなくてはならない。……メガトロナスの眷属、恐るべき『ディセプティコン』と!!」

 

 そして、愛刀テメノスソードを振り上げる。

 

「私はこの剣に誓う! 亡きソラスの無念を、裏切り者、メガトロナスに思い知らせると!!」

「うむ、その通りだ! 儂も鎚に誓う!」

「私は爪と牙にだ!」

「私も、この四肢に懸けて、メガトロナスを打ち倒す!」

「…………杖に、誓おう」

 

 その言葉に、リージ、オニキス、ネクサスら兄弟たちが同調して得物を掲げる。杖を持ったプライムだけは、何処か諦観混じりだったが。

 しかし、赤青のプライムはその輪に加わらずに戸惑った表情をしていた。

 

「待ってくれ! その前に、話し合うことは出来ないだろうか!? それにメガトロナスの眷属の全てが彼に賛同したとは限らない。まずは慎重に……」

「この身に、誓う……」

 

 しかし、聞こえた小さな声に凍りついた。

 母の遺体に縋りついていたベルフラワーが、静かに立ち上がっていた。

 

 幼い目には、憎しみの炎が煌々と燃えていた。

 

 スノームーンが、レイヴンが、幼いリーフウィンドまでも、同じように立ち上がり声を合わせる。

 

『母のCNAに誓ってメガトロナスに……復讐を!!』

「…………」

 

 赤青のプライムは子供たちの目に憎しみの炎が灯っているのを見て、悲しそうな顔をした後で、斧を掲げた。

 

「ならば、私も誓おう。……メガトロナスへの報復ではなく、平和と自由の守護を……この魂に」

 

 それは、幼い少女たちを守るという誓いでもあったが、ベルフラワーはそれに気が付かなかった。

 この場にいる全員が誓ったのを確認したプライマは厳かに宣言する。

 

「自由と平和の守護者『オートボット』の誕生だ!!」

 

 こうして、二つの軍団が生まれ、伝説に語られるプライム戦争が、幕を開けたのである。

 

 

 

 

 

「ああ、ソラス……ソラス……」

 

 クインタスはそれらの事に一切構わず、物言わぬ骸と化した姉妹の顔を永延と撫でていた。

 その目に、悲しみ以上の恐ろしい何かが宿り始めていた。

 




過去編に、長い時間を割くのが悪い癖(でも止められない)

ソラスの子供四人は、

ベルフラワー:実在する紫色の『花』

レイヴン:英語でワタリガラスの意。黒い『鳥』

リーフウィンド:リーフは葉っぱ、ウィンドは『風』

スノームーン:2月ごろの雪景色に浮かぶ『満月』のこと。

で花鳥風月になる小ネタがあったり。

次回もまだまだ過去編です!(白目)

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。