超次元ゲイム ネプテューヌ THE TRANSFORMATION   作:投稿参謀

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第156話 究極のアイアンハイド

 遥か上空に広がるサイバトロン星から、大気圏突入形態(エントリーモード)のディセプティコンたちが隕石となってラステイション首都に降り注ぐ……が。

 

 突如として何処からか飛来した砲弾が、隕石に命中。哀れ変形していたディセプティコンはゲイムギョウ界の地を踏むことなく爆発四散した。

 

「いや、まさか俺らの造ったレールガンを、ああ使うたあなあ……」

 

 首都近郊の森の中で、ミックスマスターは次々と撃墜されていく隕石を見上げながら呟いた。

 あの弾は、かつてコンストラクティコンがラステイションに要塞都市を建設したおり、防衛の要として設置したレールガンに違いない。

 

 ちなみに、電磁力によって弾を加速させる超電磁砲(レールガン)ではなく、レールに弾を乗せて撃ち出すガンである。

 

「大丈夫ですか? シアン」

「ああ、平気だ。……助かった」

 

 檻を地面に置いて開いたスクラッパーに、シアンは頭を下げる。

 しかし、子供たちは異形の金属生命体に囲まれて怯えていた。

 子供たちからすれば、今街を攻めているディセプティコンとコンストラクティコンの違いなど、分かろうはずもない。

 

「こいつらは、味方だよ。私といっしょに仕事した仲なんだ」

「で、でも……」

 

 シアンは子供たちの不安を取り去ろうと笑みを浮かべるが、子供たちは聞き入れる様子はない。

 

「ま、しゃあねえやな。おう、野郎ども行くぞ」

 

 ミックスマスターはハアと息を吐いてから、仲間たちに号令をかける。

 思い思いに休んでいたコンストラクティコンたちは、立ち上がって動き出した。

 

「それで、これからどうするんです?」

「さあてな。考えてなかったぜ」

 

 不安げなスクラッパーの問いに、ミックスマスターはおどけた調子で答える。

 実際、軍団を抜けてどうするかというプランはまるでない。

 ここまでの事態になって、今更オートボットに降ることもできないだろう。

 

「まったくもう、考えなしなんだから……」

「うっせ! お前らだってノリノリだったじゃねえか!」

「そりゃ、ワシらだってムカついたしのぅ」

「我慢の限界だったんダナ」

 

 ガヤガヤと騒がしく去りゆくコンストラクティコンたちの背に、シアンは意を決して声をかけた。

 

「なあ……ありがとうな! 助かったよ!」

「……ありがとう!」

「ありあとう、ロボットさん!」

 

 釣られて、子供たちも感謝を口にする。

 その声にコンストラクティコンたちは答えない。

 しかし、口元が僅かに綻んでいた……。

 

  *  *  *

 

 サイドウェイズは山中に置かれたレールガンの砲座に座っていた。

 正確には、そのシステムとリンクして操作していた。

 

 前述の通りこの砲は砲というかカタパルトで、キャタピラまで付いている。

 これをレールガンと言い張るのは、色々無理があるだろう。

 おかげで、ここまで移動させることが出来たが。

 

「貴様は気にならんのか?」

 

 そんなサイドウェイズに声をかける者がいた。

 髑髏を思わせる顔をした、痩身の黒いトランスフォーマー、賞金稼ぎのロックダウンである。

 その足元には、ディセプティコン兵の残骸が転がっている。

 レールガンを破壊するためにポータルで送り込まれてきた兵たちだが、対空砲の防衛のために配置されたロックダウンと手下たちに撃破されたのだ。

 

「気になるって、何が?」

「貴様はディセプティコンだろう? 仲間と戦うことが嫌じゃないのか」

「…………そりゃあ、まあ。一応にも仲間だったし戦いは怖いし」

 

 いつもの仏頂面のままのロックダウンの問いに、サイドウェイズは少し考えてから答えた。

 

「でも俺の仲間……っていうか何て言うか、そういう娘がいるんだ。訓練兵だったころから何かと縁があって。……でもあいつ、昔はちっとも笑わない奴だったんだ。ところが、最近は良く笑うようになって、笑うと可愛い……あー! とにかくさ、仲間殺しの汚名でも何でも、アイツが笑ってられる場所を護れるなら……それもありかなって」

「つまり、女のためか」

「……ああ、まあそんな感じ」

 

 自身の言葉を簡潔に噛み砕くロックダウンに、サイドウェイズはやや照れくさげに笑んだ。

 賞金稼ぎは、お決まりの不機嫌そうな顔のまま、狙撃手に背を向け、しかしボソリと呟く。

 

「男が戦う理由としちゃ、上等だ」

 

 それを耳聡く聞いていたサイドウェイズは、ニッとディセプティコンらしからぬ快活な笑みを浮かべるのだった。

 

  *  *  *

 

「失敗か」

 

 ラステイション首都のとあるビルの屋上。

 隕石となって大気圏突入してくるディセプティコンたちが撃ち落とされるのを見上げながら、センチネルは冷静に呟いた。

 予想出来ていたことだ。

 上空からの強襲への対策を、重点的に守るのは当然。

 

「ならば、やはり正攻法でいくとしよう。ディセプティコン! ポータルを通ってやってこい!」

 

 すぐさま判断したセンチネルは、再びスペースブリッジの中心柱を操作してポータルを開き、プラネテューヌ首都に待機しているディセプティコンの大軍を呼び寄せる。

 ビルの下の広場に大きな空間の裂け目が開き、そこからディセプティコンたちが押し寄せてくる。

 

「ディセプティコン! 女神を捕らえ、オートボットを叩き潰せ!!」

 

 センチネルは、軍団に檄を飛ばす。

 瞬間、センチネルは盾を出して突如として飛来した弾丸から中心柱を守る。

 

「ッ! 狙撃……!」

 

 ギラリとセンチネルが視覚センサーを最大感度にして弾が飛んで来た方向を睨めば、数百m離れた建物の屋上に、黒い服とツーサイドアップにした黒髪が特徴的な少女が長銃を手に腹這いになっていた。ユニだ。

 

「……なるほど、そういうことか」

 

 センチネルは、すぐさま敵の思惑を察した。

 なにせ、ポータルを使え何時でも何処にでも軍団を送り込めるのだ。ゲイムギョウ界の者たちに逃げ場はない。

 しかもポータルの大本であるタリの女神は空中神殿に囚われている。

 ならばこちら側に唯一スペースブリッジを扱えるセンチネルを誘き出し、中心柱を破壊してしまおうという魂胆だろう。

 

「だが、残念だったな。初撃が凌がれた時点で、貴様らに勝ち目はない。……東のビル、屋上に女神。捕らえよ」

 

 通信で眼下のディセプティコンに指示を出せば、血に飢えた幾人かの兵士たちが迅速にユニを捕らえるべく走りだす。

 慌ててユニが退散するのを捉えたセンチネルは、さらに指示を出そうとする。

 

 が。

 

 ユニはビルの向こうへ飛び降りる寸前、こちらに向かって不敵な笑みと共に親指を立てて下に向けてみせた。

 

「ゲッターラヴィーネ!!」

「……ッ!?」

 

 不意に現れた白い女神、ブランがセンチネルの頭上からハンマーを振り下ろす。

 人造トランスフォーマーの爆発で負傷した手足に包帯を巻いているが、まだまだ元気そうだ。

 

狙いはセンチネル本人ではない。手に持つスペースブリッジの中心柱だ。

 

 しかしその瞬間にはセンチネルは後ろに飛び退いた。

 轟音と共にハンマーが屋上のコンクリートを叩き割る。

 

「チッ! 避けんな!」

「ルウィーの女神か、残念だったな。……ちょうどいい、君にも話を聞きたいと思っていた」

 

 ハンマーを振りかぶる白の女神をセンチネルは鋭く睨むが、当のブランは怒りに満ちた目つきで睨み返してくる。

 

「ああ!? こっちに話なんざねえよ!」

「まあそう言うな。……君は何故この国で戦う? この国は、君の国ではないだろう?」

「……んな理由、いちいち考えてられるか!! 女神ってのはなあ、人助けてなんぼなんだよ!」

 

 ブランの振り回すハンマーを、センチネルは中心柱を持ったまま片手で抜いたプライマックスブレードでいなす。

 その顔は納得したようだった。

 

「なるほどな。女神は人間の信仰を力の源とする。それが目的というワケかな?」

「それもあるけどな! それだけじゃねえ! ネプテューヌならこう言うだろうぜ、仲間だから、ってな! ……今だ、ミラージュ!」

 

 ネプテューヌの名が出てセンチネルが顔をしかめた瞬間、ミラージュがステルスクロークを解除して姿を現し、ブレードでセンチネルに斬りかかる。

 センチネルは、プライマックスブレードでそれを防御し、ブランとミラージュの二人がかりでの攻撃を潜り抜けてみせる。

 

「甘い!!」

「どうかな?」

 

 その瞬間、また別の方向からロケット弾が飛んできて、センチネルの手からスペースブリッジの中心柱を弾き飛ばした。

 中心柱が煙と火花を吹きながら、ビルの屋上に転がる。同時に、二つの国の首都を結んでいたポータルが消失する。

 

「なッ……!?」

「人間を、甘く見たな?」

 

 ニヤリと、ミラージュは不敵に笑んだ。

 

 

 

 

「よっし! 当たった!!」

 

 センチネルがいるのとは広場を挟んで反対側のビルの中ほどの階で、アイエフはビークルモードのアーシーに跨った状態で担いでいたロケットランチャーを投げ捨てる。

 

「さてアーシー、もう一踏ん張りよ!」

「ええ! ……うふふ」

「何笑ってるのよ?」

「ああ、人間って強いなって思ってね」

 

 唐突な相棒の言葉に、アイエフはフッと笑みを浮かべる。

 

「前にも言ったでしょ? 女神様やオートボットにおんぶに抱っこなんて御免だってね。さあ、行きましょう!」

 

 

 

 センチネルは、自らが出し抜かれたことに新鮮な驚きを感じていた。

 最初の狙撃も、女神の強襲も、ミラージュの奇襲も、今の一撃のための布石に過ぎなかったのだろう。

 いや、あるいは首都に残って抗戦していたこと自体が、センチネルをおびき寄せるためだったのかもしれない。

 しかし中心柱は完全に破壊されてはいない。スキャンしてみれば、修復は可能な範囲。

 ゲイムギョウ界と惑星サイバトロンを結ぶ巨大ワームホールは待機状態になった物の健在だ。

 

「これで、後はコッチに来た連中を一掃すりゃ、わたしらの勝ちだ」

 

 ブランは勝気にニヤリとしていた。

 それを見て、センチネルは珍しく明確に怒りを露わにする。

 

「よくやったと褒めてやる。だが無駄骨だ……! すでにやってきたディセプティコンは50体近く! それだけの軍勢を相手にする力が何処にある!」

「ここにあるわ!!」

 

 待ってましたとばかりに、何処からか声が聞こえた。ノワールの声だ。

 

「ぐるぉおおお!! やっと出番! ダイノボット、攻撃!!」

 

 すると軍勢がいる広場に隣接するビルの壁面が吹き飛び、瓦礫を押し退けて巨大な影が姿を現した。

 太い後足と短い前足、ズラリと鋭い牙の並ぶ口と二本の角を持つ暴君竜。

 ダイノボットのリーダー、グリムロックだ。

 

 続いて広場に隣接するビルの壁面を突き破って、三本の角を持つ角竜、スラッグがディセプティコンに突撃していく。

 

 さらに、広場横の河からは背中に長い棘の並んだ棘竜の姿のスコーンが飛び出してディセプティコンの不意を突く。

 

 上空からは、二つの頭を持つ大きな翼竜としての姿でストレイフが襲い掛かる。

 

 たちまち、ディセプティコンは大パニックに陥り総崩れになっていく。

 

 さすがに愕然とするセンチネルが気配を感じて視線を移せば、彼らがいるビルの隣のビルの屋上に、ノワールが立っていた。

 負傷した頭に包帯を巻き、赤い瞳がギラギラと燃えている姿は、センチネルをして気圧されそうになるほどの凄みを感じさせる。

 

「戦力を温存していたのは、あなたたちだけじゃなかったってことよ」

「……なるほど、なるほど」

 

 勝ち誇るでなく淡々と言うノワールに、センチネルは後ずさりながらもまた冷静さを取戻したようだった。

 

「いいだろう。ここは負けを認めよう。……どの道、シェアエナジーを吸い尽くせば最終的な勝ちは我らの物だ。その日を楽しみにしておくがいい……!」

 

 言うやセンチネルは中心柱を拾い上げると同時にビルから飛び降り、壁面にプライマックスブレードを突き刺して落下の勢いを殺し、そのまま老体に見合わぬ軽やかさで地面に降りる。

 そして逃げる先は路地裏や裏道ではなく、大胆にもダイノボットたちが暴れ回る戦場だ。

 ほぼ同時に動いたミラージュがブランの体を掴んでビルを飛び降りる。

 同じようにブレードを壁に刺して落下のスピードを緩め、安全に着地しセンチネルの後を追おうとする。

 

 だがディセプティコンを蹴散らしているスラッグが目の前を横切り、センチネルの姿を見失ってしまう。

 

「クソッ! 逃がしたか!!」

 

 地団太を踏むブランだが、それどころではない。

 この状況でも女神を捕らえようと襲い掛かってくるディセプティコンに阻まれ、二人はセンチネルの追跡を断念せざるを得なかった。

 

「……センチネルは逃がしたけど、これでポータルを使った奇襲はもう出来ないはず」

 

 ビルの上に残っていたノワールは、それでもこれで良しとしておき、あらかじめビルの端から垂らしておいたロープを伝って地面に降りる。

 そこは戦場になっている広場とは反対側の通りだ。

 

「さて、早くみんなと合流しないと……」

 

 そのままビークルモードで待機していたスティンガーに乗り込もうとして……。

 

 後ろから自分を掴もうとした手から逃れるべく飛び退いた。

 ノワールを捕まえようとしたのは、人間の髑髏のような顔を持った鎧武者の如き姿のディセプティコンだった。

 そのディセプティコンは、背中から長刀、腰から脇差を抜き、構える。

 

「我が名はブラジオン。我が主君、ザ・フォールンは女神の身柄を求めておられる。……共に来てもらおう」

「お断りよ! ……スティンガー、出して!」

「合点です!」

 

 ブラジオンの言葉を即座に切り捨て、ノワールはスティンガーの運転席に滑り込む。

 しかし、むざむざそれを捨て置くブラジオンではない。

 

「スモルダー、逃がすな!」

()ィ~()()()! 合点!」

 

 骸骨武者の号令に合わせて、屋根の上に放水砲を乗せたUSVタイプの消防車が現れ、スティンガーの進路を塞ぐ。

 

「チョップスター、かえんほうしゃだ!」

「もっと熱くなれよー!」

 

 消防車は放水銃を発射するが、勢いよく噴き出したのは水や消火剤ではなく激しい火炎だ。

 炎に阻まれて、スティンガーはいったん止まらざるを得ない。

 

「消防車の癖に火炎放射なんかしてんじゃないわよ!!」

 

 ツッコミを入れるノワールだが、消防車はギゴガゴと音を立てて、消防士のヘルメットのような頭部と上に突きだした肩が目立つ赤いディセプティコンへと姿を変え、放水砲ならぬ放火砲はモノクル状の眼を持つ人間大のロボットモードに変形する。

 

火火火(ヒヒヒ)! 俺の名はスモルダー! そして、こいつは相棒のチョップスター!」

「今のはメラゾーマではない……メラだ!」

 

 よく分からないことを言いつつもチョップスターは両刃の斧に変形してスモルダーの手に収まる。

 

「チョップスターには四つの変形がある。その中で俺が一番気に入っているのが、このファイアーアックスだ!」

 

 スモルダーは斧でスティンガーに斬りかかるが、スティンガーは紙一重で避けながら粒子に分解。

 ノワールを地面に降ろしつつ、ロボットモードに結合しブラスターを撃とうとした瞬間、ブラジオンの振り下ろした刀がブラスターに変形しているスティンガーの腕を斬り落とした。

 

「ぐわ……!?」

 

 さらに怯む間もなくスモルダーの斧の刃が肩辺りに食い込む。

 

「スティンガー!」

「ノワールさん、逃げてくださ……」

 

 即座にノワールはトランスフォーマーたちが入れない狭い路地に向けて走りだした。

 

 怖気づいたのでも、スティンガーを見捨てたのでもない。この場を切り抜け、助けを呼ぶためだ。

 

火火火(ヒヒヒ)! こっちは通行止めだぜ、女神!」

「燃え尽きるほどヒート!」

 

 しかし、路地の前にはすでにスモルダーとチョップスターが陣取っていた。

 

「さあ、一緒に……」

「絶対に、御免よ! レッスン1、デカい相手には懐に飛び込め!」

 

 ノワールは、あえてスモルダーに突っ込んでいく。

 驚いて一瞬固まるスモルダーの体をよじ登り、片手で頭の凹凸に掴まり、もう一方の手に持った剣を顔面に振るう。

 

「ガッ……!」

「レッスン2! どんな奴でも顔は弱点!」

 

 アイアンハイドの教えを思い出し、片手で持った剣何度も斬りつける。

 身をよじり、頭を振ってノワールを振り落とそうとするスモルダーだが、ノワールは獲物に噛みついた猟犬の如く手を放さない。

 チョップスターは相棒に踏みつぶされないようにするので精一杯だ。

 そのまま首筋に大振りな一撃を加えようとするが、その瞬間、意識が少しだけ遠のきスモルダーの頭を掴まっていた手から力が抜け……そのまま地面に落ちた。

 

――しくじった。予想よりもダメージが大きかった。

 

『若い奴はみんなそう言うんだ。そして、無理をして潰れる』

 

――ええ、そうだったわね。

 

 一瞬頭の中で聞こえたアイアンハイドの声に懐かしい気分になるノワールだが、すぐに立ち上がろうと体に力を入れる。

 しかし、腹の上に刃があることに気が付いた。

 ブラジオンが刀をノワールの腹の上に置いている。

 僅かでも力を入れるか、逆に手から力を抜けば、ノワールの体は両断されてしまうだろう。

 

「手こずらせおって……仕方がない、手足の一本でも斬っておくか」

「じょ、冗談じゃ……!」

 

 何とか抜け出せないかと考えるノワールだが、この状況では下手に体を動かせば刃で体が斬れてしまう。

 一瞬、今度こそ駄目かと諦めかけるが、またしてもアイアンハイドの声がした。

 

「ノワールから離れやがれ、外道ども!!」

 

 幻聴かと思ったが、スティンガーと彼を押さえているスモルダー、さらにブラジオンもその声に反応していた。

 

 通りの向こうから、黒く無骨なピックアップトラックが爆音を立てて走ってくる。

 

 ブラジオンはノワールから刀を離すと、ギゴガゴという音と共に変形する。

 そのビークルモードは、ブロウルとはまた違う種類の戦車だ。

 戦車姿のブラジオンは、主砲を発射。砲弾がピックアップトラックに迫るも、ピックアップトラックは右へ左へと蛇行運転して砲弾を躱す。

 続けて主砲を撃ち続けるブラジオン。

 

 ピックアップトラックは走りながら変形し、その勢いでジャンプして砲弾の上を飛び越える。

 空中でパーツが細かく寸断され、移動し、組み上がって現れたのは筋骨隆々とした男性を思わせるやはり無骨でガッシリとした黒いトランスフォーマー。

 右腕に丸い砲口のキャノン砲、左腕に四角い砲口のブラスター、好戦的だが決して残虐ではない顔付き。

 

 全体的に細かい部分が変わっているが間違いない。アイアンハイドだ。

 

 アイアンハイドは両腕の砲を地面に向かって撃って、その反動でさらに跳び、またしても重々しい見た目によらない軽やかな動きで砲弾を躱す。

 

「おっと、俺も忘れないでくれよ!! ジャズ様、華麗に参上、ってね!」

 

 さらに主砲を撃とうとするブラジオンだが、横合いから突っ込んでき新たな姿のジャズが砲身に飛び付かれた。

 砲身を圧し折ろうとするジャズを、ブラジオンはロボットモードに変形して振り払おうとするが、ジャズは素早く自ら敵から離れた。

 その瞬間にはアイアンハイドの新武器アームブラスターがブラジオンの胴体に命中。

 ブラジオンは倒れないものの後退する。

 

「燃えちまえ!」

「そうはいかないよ!! 放火は重犯罪だよ君!」

「俺のこの手が真っ赤に燃える!!」

「あらあら、可愛らしいおチビちゃんですこと!」

 

 ブラジオンを援護しようとするスモルダーだが、脇から現れたラチェットに殴り倒され、チョップスターは両腕の機銃を撃とうとしてベールの槍を受ける。

 ブラジオンは刀と脇差を抜き、アイアンハイドに斬りかかる。

 

「アイアンハイド、その不愉快な面を胴体から切り離してやろう!」

「テメエこそ、その髑髏面に相応しい場所に送ってやるぜ!」

 

 両腕の武装を撃ち迎え撃つアイアンハイドだが、ブラジオンはそれを掻い潜り、長刀を上段から振るう。

 アイアンハイドはあえて前に出て刀を持つ腕を掴んで防ぐ。

 これを予想していたのかブラジオンはもう一方の手に持つ脇差を横薙ぎに振るってアイアンハイドの腹を切り裂こうとする。

 しかし、これもアイアンハイドはブラジオンの腕を掴むことで防ぐ。

 ブラジオンは、足払いをかけてアイアンハイドのバランスを崩し、膝蹴りを腹に叩き込んで僅かに距離を取ると、刀を持った腕を掴む手を振り払いそのまま斬りつける。

 十分に力を乗せられなかったのか、アイアンハイドの体が頑丈過ぎるのか、ついた傷は大したことはなかった。

 

「痛てえ! ったく、おニューのボディだってのに、いきなり傷がついたじゃねえか!」

「懐は我がメタリカトーの間合い! 貴様に勝ち目はない!」

 

 ブラジオンは一旦距離を取り、今度は前に踏み込みながら刀と脇差を同時に横薙ぎに振るう。

 アイアンハイドは両腕の砲を撃とうとするが、それよりも早くブラジオンが姿勢を低くして懐……砲のついた腕の下に飛び込む。

 

「もらった!」

「そいつはどうかな?」

 

 勝利を確信したブラジオンだったが、アイアンハイドはニヤリとする。

 その分厚い胸板が左右に割れ、内部から大口径の八連装ガトリングキャノンが姿を現し回転を始めた。

 

「なっ!?」

 

 ガトリングキャノンが火を吹き、至近距離から無数の光弾がブラジオンを襲う。

 

「があああああッッ!?」

 

 光弾の数だけ小爆発が起こり、ブラジオンを後方に吹き飛ばす。

 地面に倒れたブラジオンに、ジャズに翻弄されていたスモルダーが駆け寄る。

 

「ブラジオン!」

「ぐ……ふ、不覚……!」

 

 かなりのダメージを負い、装甲がボロボロになりながらも致命には至っていなかったブラジオンは、刀を杖に立ち上がろうとするが上手くいかず、スモルダーに助け起こされる。

 

 胸のガトリングキャノンを収納し、アイアンハイドはノワールを守れる位置に立った。

 

「アイアンハイド……!」

「よう、ノワール。敵を残しといてくれてありがとな。……ま、確かにつまらない奴しか残ってないが」

 

 安堵と喜びで笑顔になるノワールに、アイアンハイドはニッと力強い笑みを浮かべる。

 その姿に、ノワールはこぼれそうになる涙を拭った。

 

「ふふふ、そうね……アイアンハイド、その姿、素敵よ。若く見えるわ」

「何たって、体ほとんど丸ごと交換したからな。おかげで元気モリモリ、絶好調よ! 今の俺はまさに究極(アルティメット)だぜ!」

 

 力瘤を作るような仕草をするアイアンハイド。

 その言葉の通り、あちこちに古傷のあった体はブラジオンに斬られた箇所以外は新品同様のピカピカであった。

 コズミックルストで死に瀕したことが、嘘のようだ。

 

 ラチェットとホイルジャックの考案した『バイナルテック計画』とは、負傷したトランスフォーマーのスパークとブレインなどを取り出し、別に用意した肉体に移植するという治療法だった。

 

 これはホイルジャックがかねてより進めていた人造トランスフォーマーの研究で培ったノウハウと、ショックウェーブが開発したトランスフォーマーの重要部位を体外に脱出させる緊急脱出システムを掛け合わせた物だ。

 

 オートボットとディセプティコン、両軍を代表する天才たちの発明を合わせた、だから双方(バイナル)科学技術(テック)計画なのだ。

 

「よう大将! どうやら、また死にぞこなったようだな!」

「ヘッ! お前こそな」

「まったく君たちは……医者である私たちのおかげだろう?」

 

 並び立ち笑い合うアイアンハイドとジャズに、スティンガーを助け起こしたラチェットが声をかける。

 オプティマスの最も古い戦友である、歴戦の勇士たちの集結だ。

 

 それを見て、ブラジオンはギリリと歯噛みする。

 

「……退くぞ、スモルダー!」

「了解!」

「逃がすと思うのか! 今回ばかりは容赦しねえ!!」

 

 撤退しようとする敵に攻撃しようとするアイアンハイドだが、突然ミサイルが両者の間に降り注ぎ爆発を起こす。

 

「ッ! あいつか!」

 

 アイアンハイドが見上げれば、平べったくカクカクとした、全体的には鏃のようなシルエットのステルス機がこちらに向かって降下してきた。

 『夜鷹』の愛称で知られるリーンボックスのステルス攻撃機だ。

 ブラジオンは、そのステルス攻撃機の下部に掴まる。

 

「遅いぞ、マインドワイプ」

「キキキ……こいつは貸しだぞ、ブラジオン」

 

 ブラジオンををぶら下げたまま、ステルス攻撃機には飛び去り、スモルダーとチョップスターもドサクサに紛れて逃亡した。

 

「待ちやがれ! ……あーくそ!」

 

 アイアンハイドが両腕の砲を撃つが、すでに二体は砲が届かない場所まで逃げ去っていた。

 

 ベールに助け起こされたノワールはホッと息を吐く。

 アイアンハイドには悪いが、とりあえずの勝利と言っていいだろう。

 

「ぐるぉおおおお!! 勝った! ラステイション編、完!!」

 

 ビルを挟んだ向こうの広場からは、グリムロックの勝鬨が聞こえてきた。向こうも勝ったようだ。

 ネプテューヌなら勝ってないフラグとでも言うのだろうが、大丈夫だろう。

 

「勝ちましたわね。……とりあえずは、ですけど」

「ええ、後はネプテューヌ次第か。……正直、オプティマスが復活しても、この状況もひっくり返せるとは限らないけど」

 

 しかしベールとノワールの表情は険しい。

 敵のポータルは、しばらく使用不能なはずだし、結構な数のディセプティコンを倒した。

 それでもシェアエナジーが奪われ続けている状況は変わらない。

 

 さらに、深刻な話題は続く。

 

「それに問題はもう一つ……」

「ええ…………行方が分からない、ロディマスのことね」

 

 ネプテューヌが旅立った時以来、あのトランスフォーマーの雛は姿を消した。ロディマスを入れていた部屋の換気扇が外され、そこから逃げたらしく、何処を探しても見つからない。

 そうなると、おそらくロディマスはネプテューヌたちに着いていってしまったのだろう……つまりトランスフォーマーの故郷、惑星サイバトロンに。

 

「……しっかりやりなさいよ、ネプテューヌ」

 

 不確かな伝説のアイテムを求める旅路に、同行者は言葉も放せない雛。

 ここにはいない紫の女神の苦難を思い、ノワールはせめて祈る他ないのだった。

 

 




今回の解説

アイアンハイドの新たな姿
元ネタは、DTOM時に発売されたリーダークラスの玩具、その名も『アルティメットアイアンハイド』
今回のタイトルもこれにちなみます。
アイアンハイドをズミックルストに感染させたりラステイションでの戦いを書いたのも、これを出したいが故でした。

バイナルテック
指摘された方もいらっしゃいましたが、元ネタはTFシリーズの一つ、実車に変形する『トランスフォーマーバイナルテック』
双方、二つを意味する『バイナル』と、科学技術を意味する『テクノロジー』を合わせた造語だそうで、本来はサイバトロンと人間を技術を組み合わせるが故のネーミング。
コズミックルストによってサイバトロンが全滅の危機に立たされたので、人間が作った車から変形するロボットにサイバトロン戦士の意識を転送する……というストーリー。

スモルダー&チョップスター
元々はリベンジのスピンオフアニメ、サイバーミッションに登場したディセプティコンで、パワー・コア・コンバイナーという別シリーズからのゲスト。
放火魔な消防車というキャラ。
本来は意志を持たないドローン四機と合体して合体兵士になれますが、この作品で合体形態を披露するかは未定。

次回はようやっとネプテューヌ側の話。

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