超次元ゲイム ネプテューヌ THE TRANSFORMATION   作:投稿参謀

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第155話 反逆

 ラステイション、教会前大通り。

 オートボットと人造トランスフォーマー、国軍とクローン兵が入り乱れての戦いが繰り広げられていた。

 

「女神を捕らえろ!! それで戦いは終わりだ!!」

「おっと! お前らの相手は俺たちだ。良く言うだろ? 人間の敵は人間ってな!」

 

 女神たちを狙うクローン兵を、雨宮リント以下神機使いと呼ばれる一団が防ぐ。

 

「ゴッドイーター! 命令は三つ! 無理はするな! 必ず生き残れ!! それでも女神様は何が何でも守れ! そして女神様に人殺しをさせるな!! これじゃ四つか……!」

 

 リントは、後ろで戦う露出の高い黒を基調とした衣装とピッグテールにした銀髪が特徴的な少女に声をかける。

 ゴッドイーターと呼ばれた彼女は、銃と一体化した身の丈よりも大きな剣を振り回していた。

 

「は、はい! リントさん!!」

 

 少女は、神機と呼ばれる武器でトラックスの足を叩き切った。

 

「見るがいいであります、吾輩のパーフェクトパワードスーツを!!」

 

 一方で自分のパワードスーツを強化改修したジェネリア・Gは絶好調で暴れ回っていた。

 右腕に備え付けた二連装ビームライフル、手持ちのビームライフルと肩に担いだ大型キャノン砲などを撃ちまくり人造トランスフォーマーを薙ぎ払っている。

 

「もう止めてください! 兄弟たち!!」

「うるさい裏切り者!! 僕たちはディセプティコンだ!!」

「勝って、認めてもらうんだ!!」

 

 スティンガーは兄弟たる人造トランスフォーマーに訴えかけるが、もはや彼らは応じない。

 元より、今戦っているのはエディン戦争の折にスティンガーによる投降の呼びかけに応じずにディセプティコンに残ることを選んだ者たちなのだ。

 

「死ね……ぎゃ!!」

 

 スティンガーを撃とうとしたトラックスを、バンブルビーがブラスターで撃ち抜く。

 

「『兄弟!』『ボーっとするな!』『やられるぞ!!』」

「バンブルビー……ええ、分かっています」

 

 一方で、ノワールとネプギアは背中合わせに戦っていた。

 

「いったいどれだけいるのよ……!」

「女神ブラックハート! 覚悟!!」

 

 何体目になるか分からないトラックスを斬り捨て、荒く息を吐くノワールだが、そこへ剣で武装したクローン兵がリントたちを突破して襲い掛かる。

 剣を剣で防ぎ、ノワールは吼える。

 

「何でよ! 何でそこまでして戦うの!? あいつらがキセイジョウ・レイを解放するとでも思ってるの!?」

「そんなことは分かっている! それでも! 俺たちにはこれ以外に思いつかんのだ!!」

「この……分からず屋!!」

 

 吼え返したクローン兵を蹴り飛ばすが、敵は次々と襲い掛かってくる……。

 

「クローンどもは突出するな! 人造トランスフォーマーの援護に徹するんだ!! 勝てる戦だが、手は抜くなよ!」

 

 一方で、スタースクリームは上空から戦場を俯瞰しつつ、人造トランスフォーマーに指示を出していた。

 

 戦力差を理由に女神やオートボットに降伏を迫ろうとも、ザ・フォールンはそれを許さないだろう。

 あの古代のプライムの頭には、狂気しかない。

 

 ならば、最初から手を抜かずに全力を出し、早々に相手を撤退させるしかない。

 

「はあ……はあ……大丈夫、ネプギア?」

「正直、きついです。色んな意味で……」

「……まったく、まだ『準備』できないの? みんな何をして……」

 

 疲弊して思わず愚痴っぽく呟くノワールだが、その時耳に付けたインカム型通信機からブランの声が聞こえてきた。

 

『お待たせ、配置完了したわ……』

「やっとか……総員、退却!!」

 

 ノワールが声を上げるとラステイション軍は敵に背を向け路地や建物の中に逃げ込んでいく。

 

「それじゃあネプギア! 手筈通りに!」

「はい!!」

 

 女神たちも目の前の敵を放ってビークルモードに変形したバンブルビーとスティンガーに乗り込む。

 すると『友』を意味する名を持つ黄色いスポーツカーと、『風』という意味を持つ名の真っ赤なスーパーカーは、エンジンを吹かして走り去った。

 

「逃げるか、卑怯者め!!」

「女神を追うんだ!! 他に構うな!!」

「回り込め!!」

 

 人造トランスフォーマーは、我先にとビークルモードに変形し女神が乗った二台を追いかけていく。

 幾つかの路地を曲がった所で、バンブルビーとスティンガーは別々の路地に入る。

 

「別れたぞ!」

「手分けして追え!!」

 

 色とりどりの小型クロスオーバーUSVやクーペの群れは、二手に分かれて女神を追う。

 その内、ネプギアを追った一団はとある路地に入った所で頭上から氷の塊に降られた。

 

「おーい! ディセプティコンの悪い子たちー!」

「こっちだよー……!(どきどき)」

 

 見上げれば、幼い姿の双子が建物の屋上からヒョッコリと顔を出して、こちらを見下ろしていた。

 ルウィーのロムとラムだ。

 

「女神だ! 捕まえろ!」

「プラネテューヌのはボクたちが追う! お前らはあいつらを!」

 

 一団の中から何台かが分かれてロボットモードに変形し、建物をよじ登って幼い双子を捕らえようとする。

 手に入れる女神は多ければ多いほどいい。

 

「きゃー、逃げろー!」

「逃げろー!(だっしゅ)」

 

 双子は軽やかに屋根から屋根へと飛び移り、逃げていく。

 トラックスたちは、それを追いかけていく。

 

 一方で、ノワールを追った一団も、途中で見かけたブランを追って二手に分かれていた……。

 

「馬鹿! 追うんじゃない!! 分断されてるのが分からねえのか!!」

 

 上空にいるスタースクリームは、何とかして別れた兵士たちを呼び戻そうとしていたが、手柄に目がくらんだ兵たちは言うことを聞かない。

 

「だークソッ! まったく……おい! 何処に行く!?」

 

 その内、いくらかの部隊が追跡を止めて都市各所に散っていることに気が付いた。

 

「待て、報告しろ!」

『僕たちは、ザ・フォールン様から指示を受けたんです!』

『腕輪といっしょに直接命令を貰いました! 発電所を目指せって!』

「なにぃ……?」

 

 トラックスたちの答えに、スタースクリームは怪訝そうに顔を歪める。

 猛烈に嫌な予感がする

 

 何故、センチネルは人造トランスフォーマーやクローンを先行させた?

 普通に考えるなら、彼らに戦わせて戦力を温存し、敵が疲弊した所で本隊を投入して一気に押し潰す。

 センチネルなら、そう考えるだろう。

 

 しかし……ザ・フォールンなら?

 

 あの、オールスパークに寄らぬ命を命と認めない存在なら、人造トランスフォーマーやクローンをどう使う?

 

「…………まさか!?」

 

 その可能性に至った時、スタースクリームのフレームの芯までも戦慄した。

 

 

 

 

 

 孤立した部隊を女神やオートボット、兵士たちは各個撃破していた。

 

「テンツェリントランペ!! 吹っ飛べ、おらあ!! 遅れんなよ、ミラージュ!!」

「無論だ」

 

 ブランはハンマーを振りましてトラックスやアビスハンマーをぶちのめし、ミラージュはそれに追随する。

 

「アイスコフィン! ……もう! いったいどれだけいるのよ!」

「頑張って、ラムちゃん……!」

「右! 敵が密集してるトコを狙うぞ!」

「いや左だ! あっちの方からも敵が来てる!」

「右!」

「左!」

 

 ロムとラムは屋上から眼下の敵に向けて氷の魔法を唱え続け、その双子女神の相方である、スキッズとマッドフラップは、合体砲を駆使して半ば固定砲台と化していた。

 彼らの魔法と火力は、この場面では非常に頼りになる。

 

「おら、ここが終点だ!!」

「全員、無理はしないで! 敵が数体以上の時は、迷わず逃げなさい!」

「数が多い! まったくどれだけ頭数をそろえたのよ!」

 

 サイドスワイプは目に付く人造トランスフォーマーを全て斬り捨て、アイエフは兵士たちの指揮を執り、アーシーはエナジーボウで狙撃する。

 

 ノワールはスティンガーと共に、退き付けた敵兵を昔ながらの単純な罠にはめていた。

 

 落とし穴だ。

 

 直系10m、深さも10mほどの大きな穴の底に撒かれた粘着性の液体に身動きを封じられた人造トランスフォーマーたちがもがいていた。

 この穴は元々道路工事で開いていた物で、その上に簡単な板を置いていた。

 スティンガーとノワールくらいならともかく、何体もの人造トランスフォーマーが乗ればご覧の通りである。

 

「畜生……!」

「ここは私たちの国よ。土地勘はこっちにあるわ。……ゲリラ戦なら負けない」

 

 穴の底でもがくトラックスを、ノワールは決意を込めて睨み付ける。

 憎々しげに、トラックスたちが見上げてきた。

 

「畜生、僕らは認めてもらうんだ、軍団の一員だって……! 僕らは、そのために作られたんだから……!」

「…………」

 

 もう、何故とは問うまい。

 彼らにとってそれは、生きる意味、生まれてきた意味なのだ。

 スティンガーは、悲しげな様子で自身を基に作り出された戦士たちを見ていた。

 

「行きましょう、スティンガー。やるべきことはまだあるわ」

「はい…………ん?」

 

 ノワールとスティンガーは短い会話の後でその場を離れようとするが、トラックスたちが見慣れない腕輪をしていることに気が付いた。

 

「これは? …………な、なんてことだ!!」

 

 何か新兵器かと、腕輪をスキャンしたスティンガーは、恐怖に凍りついた。

 

 ネプギアは、何体目かに分からないトラックスをビームソードで切り裂く。

 その背にトラックスが飛びかかろうとするが、バンブルビーがジャズ直伝の回し蹴りで弾き飛ばす。

 二人の活躍は、味方の中にあってなおも輝かしい。

 

「おかしい……何でこんなに人造トランスフォーマーばっかり……」

 

 しかし、ネプギアはこの戦況に言い知れぬ違和感を覚えていた。

 好戦的なディセプティコンたちが、いつまでも人造トランスフォーマーやクローンの背に隠れているなんて有り得るだろうか?

 

 その時、スティンガーからの通信が入った。

 

『みんな逃げてください!! 逃げて!!』

「スティンガー?」

 

 そして、視界が暗転した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ルさん! ノワールさん! しっかりしてください!」

「ッ……な、何が……」

 

 ノワールが頭を振って呟く。

 どうやら、意識が飛んでいたようだ。

 

 痛む頭に手をやれば、ベットリと血が付いた。

 何かの破片で、切ったらしい。

 他にも全身が痛い。

 

 それでも……自らの体を盾にしてくれたスティンガーのおかげで大事には至っていない。

 

「い、痛い……痛いよぉ……」

「た、助け……て……」

 

 目の前の大穴からは激しい炎と黒煙が上がり、その底では不幸にもまだ意識のある人造トランスフォーマーたちが呻いている。

 まるで地獄の蓋が開いたようだ。

 

「な、にが……」

「人造トランスフォーマーがしていた腕輪です。あれは小型の高性能爆弾だったんですよ」

「ッ! 最初から捨て駒だったっていうの!? なんで……そうだ! みんな、無事!?」

『こっちは大丈夫だぜ! ロムとラムもな! ……精神的にはキツイってレベルじゃないが』

『ミラージュだ。すまん、ブランが負傷した……』

『こちらアイエフ。……被害、甚大。負傷者を下がらせるわ』

『人造トランスフォーマーだけじゃない! クローンも爆発したぞ!? ひでえ……』

『吾輩の……吾輩の、パーフェクトパワードスーツがぁ……』

衛生兵(メディック)衛生兵(メディーック)!!』

『街のあちこちから火の手が上がっています!! くそう! こんなのありかよ!!』

 

 慌てて通信を開けば、芳しくない報告が続く。

 全ての人造トランスフォーマー……そしてクローン兵にあの腕輪が与えられていたとしたら、それが一斉に爆発したのなら、被害は凄まじいはずだ。

 しかし、その中にネプギアの声はない。

 

「ネプギア、無事!? ネプギア!!」

『なんで……』

 

 やっと聞こえたネプギアの声は、人造トランスフォーマーが何をされたのかを察したようで酷く震えていた。

 

 恐怖に? ……否、怒りにだ。

 

『どうして、こんな……こんなことが出来るの!!』

 

 ネプギアの絶叫が、炎に包まれたラステイションの街に響く。

 その答えを知っているだろう人物を、睨み付ける。

 

 大穴の向こう側に泰然と立つ、センチネル・プライムを。

 その後ろには、コンストラクティコン以下ディセプティコンたちが並んでいる。

 センチネルが一跳びで大穴を飛び越えてくると、ノワールの周囲にもいつの間にか回り込んできたらしいディセプティコンが現れる。

 

「おい、センチネル!! こりゃいったいどういうことだ!!」

 

 センチネルの傍に、上空からスタースクリームが舞い降りた。

 完全な無表情で、センチネルは答える。

 

「どうもこうもない。これは作戦だ。確実に勝つために」

「ふざけんじゃねえ!! こんなのが作戦であってたまるか!!」

『待て、スタースクリームよ』

 

 怒りのままにセンチネルに詰め寄ろうとするスタースクリームだったが、大穴から立ち昇る炎と煙が、渦を巻いて一つの形を作り出す。

 

 ディセプティコンのエンブレムの基になった顔……ザ・フォールンの顔だ。

 

 その姿に、ノワールらよりも、むしろディセプティコンの方が震えあがる。

 

『これは俺の授けた手だ』

「な、何だって……!?」

 

 呆けたように、スタースクリームはザ・フォールンの顔を見上げた。

 

「何故そんな……」

『決まっている。奴らに、あの醜い女神どもに、それに追従するオートボットどもに、絶望を与えてやるためだ。……こちらの策を読み、それなりに戦えていると思った所をひっくり返される。……どうだ、面白いだろう?』

 

 まるで、『今日は天気が良いですね』とでも言うような調子で淡々と語るザ・フォールン。

 人造トランスフォーマーを捨て駒にしたことに対する罪悪感も、嗜虐心もありはしない。

 

「そ、それだけの、それだけのために……!?」

 

 もはや、スタースクリームは戦慄を通り越して呆れすら感じていた。

 この戦いに、人造トランスフォーマーやクローンの犠牲は不可欠だったか、と言えば断じて否だ。

 

 つまり、彼らの死は全くの無駄。……犬死だ。

 

 この始祖は、ただ自分の歪んだ怒りを晴らすために、そんな下らない理由のために……あいつらを殺したのか。

 

 認めてもらいたいとあがく人造トランスフォーマーたちを、敬愛する女神を救おうとするクローンたちを。

 

 只々慄然とする航空参謀に構わず、センチネルは感情を殺した目をノワールに向ける。

 

「……こうして地の利を生かして各個撃破を狙ってくることは予想できた。だからそれに乗じて、街中に人造トランスフォーマーを配置させてもらった」

 

 ザ・フォールンは個人的な感情から兵を殺そうとした。

 そしてセンチネルは、その兵を合理的に使い潰したワケである。

 

 それで『軍団の一員として認められる』『レイを解放してもらえる』と騙された彼らが報われるはずもないが。

 

「外道……!!」

 

 聞こえてくる会話のあまりの内容に、スティンガーは怒りを超えて殺気を漲らせる。

 ノワールも、怒気を込めてセンチネルとザ・フォールンを睨み付ける。

 

「守るべき部下を……こんなふうに殺すだなんて!」

『部下? それはあの紛い物と人口肉の塊どものことか?』

 

 炎で出来た顔が、僅かに傾く。

 

『前にも言ったはずだ。生命とは、オールスパークによってのみ齎される奇跡。それに寄らぬ者どもなど、ただの『物』。物をどう使おうが俺の勝手だ』

 

 やはり、自らの行いに全く疑問を感じていない様子だ。

 スティンガーは思わずその顔にブラスターを撃とうとするが、その瞬間にはセンチネルが赤い人造トランスフォーマーの首に剣を突き付けていた。

 

「センチネル……貴方はもっと、賢いヒトだと思っていました!!」

「何とでも言え。どうせ、戻れぬ道よ。ならば、とことんまで堕ちてみるのも一興。……連れてこい!」

「へい」

 

 センチネルが大穴の向こうのディセプティコンたちに声をかけると、一団の中から一体のディセプティコンが進み出た。

 ディセプティコンは、両手で金属製の籠を持っていた。

 

 その中には、赤いツナギに短く切った青い髪の女性……シアンと、数人の幼い子供たちが入れられていた。

 

「シアン!」

「ラステイションの女神よ。あの連中の命が惜しくば、共に来てもらおう」

「だめだ、女神様! こんな奴らの言うことを聞いちゃ!!」

「黙ってろ!!」

 

 ディセプティコンは、檻を乱暴に揺らしてシアンを黙らせる。

 

「ッ! 止めなさい! ……いいわ、行く。その代り、あの子たちは解放してちょうだい」

「約束しよう」

 

 凛として言うノワールに、センチネルは感情の読めない表情ながらしっかりと頷いた。

 それをスティンガーは手を伸ばして止めようとするが、針だらけがシアンたちの入った檻に銃を向けるのを見せつけられて、動きを止める。

 センチネルがノワールの体を掴む。

 炎で出来たザ・フォールンの顔が嘲笑に歪む。

 

『愚かな。仮にもオールスパークから生まれた存在が、そうではない塵のために命を投げ出すとは』

「女神は、国民のためにある物。それを忘れたら、私たちは女神じゃなくなってしまうのよ」

『尊い物が、そうでない物のために犠牲になるとは。まったく愚かなことよ』

 

 一切恥じることなく毅然と宣言するノワールを、ザ・フォールンは完全に見下している。

 そして、さらに信じられないことを言い出した。

 

『よし、では檻の中の塵どもを潰してしまえ』

『なっ!?』

 

 その言葉に、ノワールはもちろんコンストラクティコンたちやスタースクリームも目をカッと見開き、センチネルでさえ動揺するような様子を見せる。

 

「お待ちを。見ての通り、女神どもには人質が有効と証明されました。生かしておけば、何か使い道が……」

『ならば、その都度調達すればいいだけのこと。それにその塵どもを見ていると反吐が出る……やれ』

 

 センチネルが言い含めようとするが、ザ・フォールンは聞き入れない。

 ディセプティコンは、檻を地面に降ろし、銃の引き金に指をかける。

 シアンと子供たちは、実を寄せ合って恐怖に震える。

 

「止めなさい!! 約束が違うじゃない!!」

『約束とは同等の存在同士の間で成立するものだ。……故に、オールスパークから生まれたとはいえ、下等な有機物と俺の間に約束など成立せん』

「ッ! このクズ! 下種!! 畜生!!」

 

 シアンたちを救うべく動こうとするノワールだが、ディセプティコンに捕まえられてしまう。

 スティンガーもいつの間にか向こう岸に回り込んだディセプティコンたちに押さえられる。

 檻を持ったディセプティコンの顔がサディスティックに歪む。

 

「待った!」

 

 しかし、そこで声を上げて止める者がいた。

 全員が声の方に視線を向けると、そこには細長い手足に四枚の盾を装着したディセプティコンがいた。

 

 コンストラクティコンのリーダー、ミックスマスターである。

 

 センチネルは鋭い視線でミキサー車ディセプティコンを射抜く。

 

「何だ?」

「あー、いや……そ、その女! その女は優秀な技術者なんで! どうせなら生かしといた方が得策ですぜ! つ、ついでに餓鬼どもも……」

 

 揉み手しながら進言するミックスマスターを、他のコンストラクティコンたちは固唾を飲んで見守る。

 センチネルは眉を吊り上げた。

 

「何? 技術者とな?」

「へ、へい! なんせ、あのソーラータワーを造ったのは、この女なんでさあ! 他にもこの国には、卓越した職人や技師が多くいるんで! どうせなら、そいつらを生かしといて利用した方が得策でさあ! だから……ガッ!」

 

 調子良く説明するミックスマスターだが、その身体が突然空中に浮かび上がる。

 炎のザ・フォールンの目が危険に輝いていた。

 

『優秀な技術者? 職人、技師だと? くだらん! この塵でもの作り出した文明に意味などない! ……見よ!』

 

 すると、空中に映像が映し出された。

 ラステイションの端に立つ、ソーラータワー……だった場所だ。

 

 あの輝くばかりだったソーラータワーが、ガラクタの山と化していた。

 

 人造トランスフォーマーの爆発で破壊されたのだ。

 

「なッ……!? そ、ソーラータワーが……!」

 

 愕然とするコンストラクティコンたち。

 シアンも、言葉を失っている。

 あのタワーを完成させるために、コンストラクティコンたち、そしてシアンたちがどれだけ苦労したか……。

 

『あのタワーだけではない。この世界の者どもが造りだした全ては、跡形もなく破壊してくれよう。この忌まわしい世界が、肉の塊どもが存在した痕跡を、一切消し去ってくれる』

「ッ……!」

 

 ミックスマスターを建物の壁に叩きつけ、ザ・フォールンは吼える。

 

『さあ、やれ!』

「へい。……へっへっへ、さあ痛くするからねえ~、せいぜい泣き叫んで……へ? あぎゃああああッ!?」

 

 命令のままにシアンたちを殺そうとするディセプティコンだが、ミックスマスターに殴られてその勢いで炎の渦巻く大穴に落ちていった。

 

『なんのつもりだ……?』

「ええいもう! やめだやめだ!! ディセプティコンなんか辞めてやらあ!! コンストラクティコン、やっちまえ!!」

『おお!!』

 

 かつてなく鋭い顔つきのミックスマスターが号令をかけると、ロングハウルが隣のディセプティコンを持ち上げると大穴に放り捨て、ランページが地面に突いた腕を軸にしての回し蹴りで周囲の兵隊を蹴り倒し、ハイタワーは鉄球で叩き潰す。

 さらにオーバーロードが鋏や足のエッジで切り裂き、スカベンジャーは巨体で押し潰す。スクラッパーは地味にシアンたちの檻を確保していた。

 

「逃げるぞ!」

 

 ミックスマスターたちは、そのまま変形して路地裏に入ったり、ロボットモードのまま建物によじ登ったりして逃げていく。

 

『おのれ、出来損ないどもが……! センチネルよ、あの裏切り者どもを始末せよ』

 

 怒りと憎しみを滾らせるザ・フォールンの顔はそのまま霧散していった。

 それを他人事のように眺めながら、センチネルは息を吐いてから、傍らのスタースクリームを睨む。

 

「……で、お前は何をしている?」

「見て分かんねえか?」

 

 スタースクリームは腕をミサイル砲に変形させ、センチネルに向けていた。

 

「……奇襲の情報を女神どもに流したのもお前か」

「ご想像に任せるぜ……さあ、その女神を下ろしな」

「ディセプティコンにとって神のような存在であるザ・フォールンに逆らうと?」

「俺を誰だと思ってんだ? 気に食わないなら神様にだって反逆するスタースクリーム様だぜ?」

 

 お互いに鋭く睨み合うセンチネルとスタースクリーム。

 センチネルは、ゆっくりとノワールを地面に降ろす。

 

「どういうつもり……?」

「いつもの裏切り癖さ。……おっと、そっちのバンブルビーモドキも放してもらうぜ!」

 

 訝しげなノワールに、スタースクリームは飄々とした調子で答えると、ミサイルをセンチネルに突き付ける。

 しかし、センチネルはまるで動じる様子を見せず、手振りでディセプティコンたちにスティンガーを解放するよう指示を出す。

 何やら納得している様子のセンチネルは、ビークルモードのスティンガーに乗って走り去るノワール、そして背中のスラスターからジェット噴射して飛び去るスタースクリームを見送ってから、不安げにしている周囲のディセプティコンに号令をかける。

 

「第二次攻撃を開始する! サイバトロンに連絡を取れ!! ……ザ・フォールンの求心力も、この程度か」

 

 慌ただしく動き出したディセプティコンは、最後のセンチネルの呟きに、気付くことはなかった……。

 




思ったより長くなってしまった……(いつものこと)

姿の見えないユニとダイノボットは他の仕事をしてます。



……そろそろ、最後の騎士王のネタバレ、OKですかね?

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