超次元ゲイム ネプテューヌ THE TRANSFORMATION   作:投稿参謀

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第154話 詐称者

 女神やオートボットがディセプティコンを迎え撃っているころ、ラステイションの民が本当に避難している避難所の一つ。

 ここはラステイション首都近辺の山の中にある、いつかの時代の廃村だった。

 そう古くはないこの廃村は、ディセプティコンが戦術的価値を見出さないだろう場所で、なおかつ雨風を凌ぎことが出来る建物もある。

 暖房や食料も持ち込んで、とりあえずは一安心……とはいかない。

 

 国民たちは村の中央にある廃校の校庭に集まり、やはり不安に震えていた。

 女神が力をほとんど失っている上に、街の方からは戦闘音が聞こえてくる。

 

「……こんなことになったのも、オートボットのせいよ」

 

 避難民の中の、誰かが言った。

 やけによく響く声だ。

 

「そう! あいつらが来たからだ!」

「オートボットを受け入れた女神も同罪!!」

「シェアを失った今、女神は私たちを守ってくれない!!」

 

 その声に、別の誰からが同意する。

 すると国民たちの中にちらほらと、その声に同調する者が現れはじめた。

 

「た、確かに……」

「戦争なんか、俺たちには関係ない……」

「家に帰りたい……」

 

 だが、それも無理もないことだ。

 ディセプティコンとの戦いは長く続いたが、ここまでの事態になったことはエディンとの戦いの時ですらなかった。

 恐怖と苛立ちが国民たちの心にジワジワと侵食し、オートボットや女神を非難する声は少しずつ大きくなっていく。

 

「そうだ、あいつらのせいで!」

「オートボットと女神のせいで私たちは……」

「お止めなさい!! 何ですか、情けのない!!」

 

 しかし、急な大音量に遮られピタリと避難民たちが黙り込む。

 すると民衆の中から一人の女性が立ち上がった。

 品の良い初老の女性だ。

 

「女神様やオートボットさんたちは私たちを護るために戦ってくれているんですよ。それなのに、感謝もせずに文句ばかり言うなんて大人として恥ずかしくないんですか?」

「な、何だアンタは!?」

「私ですか? 私はしがない幼稚園の園長ですよ」

 

 老淑女……ノワールと懇意にしている幼稚園の園長は、穏やかに笑む。

 

「そうですよ! こんな時こそ、ユニ様やサイドスワイプ様を信じなくてどうするんです!!」

 

 他にも、赤い髪をポニーテールにした学生服の少女……サオリも周りの人々に訴える。

 

「さあさあ、腹が減っては不安になるばっかりだ! 工場式の粗雑な物だが、これでも食べて落ち着いてくれ!」

 

 青いショートヘアにツナギとゴーグル姿のシアンは、工場の仲間たちと共にパンと簡単なスープを配る。

 それを食べてホッと一息吐いた国民たちの気も治まってきた。

 しかし民衆の中から、またしても声がする。

 

「騙されるな! そんな奴らの言うことが何だと言うんだ!!」

「まあ! 顔も出さないで、失礼な。言いたいことがあるなら、私たちの目の前に出て来なさい!」

 

 園長の喝に国民たちはざわつくが、そこから園長やサオリ、シアンの前に出てくる者はいない。

 

「あらあら、どうやらこんなお婆ちゃんの前に立つ度胸もないようね」

「ラステイションの人間にしちゃ、随分と臆病だな!」

「くッ……! こ、この……ぐうッ!?」

 

 園長やシアンの挑発に誰かが答えたその時、群衆の中から悲鳴が聞こえた。

 自然と悲鳴の聞こえた当たりから人が散ると、残ったのは一人の少女が別の少女の腕を締め上げている姿だった。

 締め上げられている方は茶色い髪を三つ編みにしている少女、一方で締め上げている方は、美しい金糸の髪を肩辺りで切りそろえサファイアのような青い瞳が特徴的な美少女だった。

 

「な、何をするの! 放しなさいよ!」

「まったく、こすっからい手を使うじゃないの……久し振りね、ドロシー」

 

 当然、文句を言ってくる三つ編みの少女に対し、金髪の少女……アリスは腕を締める力を緩めずに目つきも鋭く言う。

 

「ッ! 貴様、アリス!!」

「はい、減点。初対面のはずの私の名前を知ってるなんて、自分がスパイだって言ってるようなもんよ」

「黙れ、この裏切り者め!!」

 

 手を振り解こうとするドロシーと呼ばれた少女だが、ビクともしない。

 

「アリス、しばらくね」

「お久さー」

 

 すると、民衆の中から二人の少女が飛び出し、アリスを取り囲む。

 一人は青い髪をポニーテールにしていして、もう一人は桃色の髪をショートボブにしている。

 

「ウェンディにモモね。……おっと、動かないで! 貴方たちの頭を、狙ってる奴がいるわよ!」

「ハッタリを……ッ!」

 

 アリスの警告を無視して動こうとしたポニーテール……ウェンディと呼ばれた少女の足元の地面に弾丸が突き刺さる。

 それはアリスの言う通り、こちらを狙撃せんとしている者がいることの証左だった。

 弾丸は、向こうの山の上から飛んで来た。

 あそこから撃ってきたとしたら、恐るべき飛距離と命中精度だ。

 

『アリス、こっちはいつでも撃てるぜ?』

「ん、ありがと、サイドウェイズ。で? この策を考えたの誰? メガトロン様? それともサウンドウェーブ……な、ワケないか。あの人なら、もっと巧妙な手を使うわ」

「……ザ・フォールン様だ」

 

 締め上げられたままアリスに問われて、ドロシーは渋々と口にした。

 

「ザ・フォールンが?」

「ザ・フォールン『様』だ! この売女め! ……もっとも、ここのことを察知したのはセンチネルだがな」

 

 怪訝そうな顔のアリスにドロシーは凶暴な顔をする。

 

「アリス、貴様も終わりだ!! この場所にいる連中も、全員死ぬんだ!!」

「……そんなことさせない」

 

 アリスは顔から表情を消して、冷酷な声を出す。

 元ディセプティコンの自分、元スパイの自分にこそ、出来る仕事もある。

 

 ……優しい女神たちには、出来ない仕事が。

 

 アリスの手に魔法のようにナイフが現れる。

 召喚したのではなく、単純に隠し持っていただけだ。

 

 ナイフを逆手に持つ手を振り上げ、ウェンディとモモ、さらには周りの人々が制止する間もなく、硬直しているドロシーの背中に向けて思い切り振り下ろし……。

 

「アリスちゃん!!」

 

 背中にナイフが突き刺さる寸前で、止まった。

 アリスが首を回すと、案の定ベールがやってくる。

 

「ベール姉さん、何で止めるんです?」

「アリスちゃんこそ、何をしていますの!」

「……こいつは、厄介な敵です。プリテンダー……人の姿に化けられるトランスフォーマー。生かしておけば、さっきみたいな方法で必ず人心を乱してくる。だから……」

「ああ、そうじゃなくて!!」

 

 淡々と兵士の顔で言うアリスに、ベールはもどかしげに声を上げる。

 

「その子たちは、アリスちゃんの友達だったのでしょう!」

 

 ああ、そういうことかと、アリスは理解した。

 本当に優しい人だ。

 だからこそ……。

 

「友達じゃあ、ありませんでした。私たちは、全員競い合い蹴落とし合う敵でした。この子も、そうして追い落した一人」

「そうね、お前は出来が良かったわ。サウンドウェーブのお気に入りだったしね!」

 

 ドロシーが嘲笑的に吠える。

 こういう感情を剥き出しにしやすい所が、彼女の評価がアリスより低い所以だった。

 

「この作戦に成功すれば、私たちは認めてもらえる!! もう、プリテンダーだからって差別されることはないんだ!!」

「あんたたちねえ……」

 

 必死な形相で吠えるドロシーに、アリスは呆れた顔をする。

 

「ディセプティコンの有機生命体蔑視も、女性蔑視も、元はと言えばザ・フォールンが始めたことじゃない。……この前の映像を見る限り、それを撤回してくれるとは思えないんだけど?」

「だ、黙れぇええッ!! 貴様が、貴様に何が分かる!! 厳しい訓練をこなしたってのに味噌っかす扱い! 手柄を立てても褒められることもなく皆から馬鹿にされて……プリテンダーなんぞに生まれた時点で、私たちには、他に道なんかない!!」

「…………」

 

 ウェンディとモモも俯いていた。

 その叫びは、アリスにも……いや、同じプリテンダーだったアリスだからこそ理解できる。

 有機生命体の要素を持ち、しかも女性という時点で、ディセプティコン内部ではヒエラルキー最下位だ。

 そこから解放されるために、何だってしてきた。

 

「それなら!!」

 

 そこでベールが声を上げた。

 全員の視線がベールに集中する。

 緑の女神は、至極真面目な顔で言い放った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もういっそ、全員わたくしの妹になってしまえばいいじゃありませんの!」

「い い 加 減 自 重 せ え よ !!」

 

 思わずツッコミを入れるアリス。

 完全に虚を突かれて目を点にするプリテンダー一同。

 呆気に取られているラステイション国民の皆さん。

 

 シリアスさんは何処かに吹き飛んでしまった。

 

 いち早く正気に戻ったドロシーは吠える。

 

「妹だと!? ふざけるな!」

「いいえ、ドロシー。この人は至って真面目よ。だからこそ性質が悪いの」

「ハッ! 夢見てんじゃないよ! ……見なさい!」

 

 冷めた声のアリスに、ドロシーは嘲笑的な叫びをあげる。

 その肌が細かく分かれ、裏返るようにして細く歪な手足と、ひしゃげた昆虫めいた胴体を持ち、頭から触手のような物が生えている金属生命体へと姿を変える。

 

 プリテンダー本来の姿へとトランスフォームしたのだ。

 

 その醜い姿に、国民たちが息を飲み、悲鳴を上げる。

 半ば自棄っぱちで、ドロシーは哄笑する。

 

「どうだ、これでも妹にするとか馬鹿なことが言えるか!!」

「ばっちこい! ですわ!」

「ファッ!?」

 

 笑顔でサムズアップするベールに、ドロシーはまたしても愕然とする。

 一方でベールは何やらテンションが上がってきたのかキラキラと輝いている。

 

「姿が変えられるなら、可能性は無限大! そう、ネプギアちゃんやユニちゃんの姿になってもらうことだって!」

「姉さん、最悪です」

「え、何? イカレてんの、こいつ? っていうか、さっきから姉さんって……」

「それは、まあ色々と……」

 

 もう、毒気やら殺気やら抜かれきっているドロシーの呟きに、アリスは溜め息混じりに答える。

 何やもう、シリアスさんが息をしてない状況だ。

 

「相も変わらず、甘い連中だ」

 

 だがそこに、冷厳とした声が響いた。

 アリスはもちろん、トリップしていたベールでさえ、顔を凍りつかせる。

 いつの間にか、赤い屈強な体に老人のような顔が乗ったオートボットが校庭の端に立っていた。

 

「センチネル……!」

 

 ベールが戦慄と共にその名を口にする。

 裏切りの先代総司令官が、そこにいた。

 

「センチネル、なんのつもり……?」

「貴様たちが失敗することは分かり切っていたからな。フォローをしてやりに来た。……このザマでは軍団の一員として認められることはないだろうな」

 

 自らの問いに対するセンチネルの平静な答えに、ドロシーはガックリと項垂れる。

 

「それにしても、こんな所に隠れていたとは。……人間の行動パターンと心理的傾向、そしてラステイション付近で大勢が避難できる場所を考えれば割り出しは容易だったが。だからこそ、その単純さに呆れる」

 

 さらりと困難なことを言ってのけるセンチネル。

 こういう所は、やはり先代オートボット総司令官だけはある知性だ。

 

「さて、言いたいことは分かるな? 我らは女神の協力者を欲しておる。いっしょに来てもらおうか?」

「ッ! サイドウェイズ!!」

『了解!!』

 

 アリスの号令に山の上からスナイパーライフルでこちらを狙っていたサイドウェイズが、センチネルの頭に向けて銃弾を発射する。

 

 銃口から飛び出した弾丸は、狙い違わずにセンチネルの頭部に命中……する寸前でセンチネルが掲げた長盾エネルゴンシールドに弾かれた。

 

「なっ!?」

『狙撃に反応しやがった!?』

「ふん! いるのが分かっているスナイパーなど恐れるに足らん!」

 

 彼方から飛んでくる弾丸を『躱す』のではなく『防ぐ』という神技を見せた上で、センチネルは腐食銃を取り出し、普通の弾丸を撃てるようにセットして周りにいる民衆に向ける。

 

「……さて、議論は必要かな?」

「……必要ありませんわ」

「本当に甘いな。ここにいるのは、君の民ではなかろうに」

 

 毅然と進み出るベールに、センチネルは感情を感じられない声を出す。

 ベールはゆったりとした足取りでセンチネルのもとへ向かう。

 

「待ちなさい! 連れてくなら、私を連れていきなさい!」

 

 そこで堪らないのがアリスだ。

 最愛の姉の危機に、捕まえていたドロシーを放り出してセンチネルとベールの間に割って入る。

 その姿を見て、センチネルの目に怪訝そうな色が浮かぶ。

 

「そういえば見ない顔だが、お前は……? リーンボックスの兵か何かか?」

「リーンボックスの女神候補生、アリス」

「……何? リーンボックスに女神は一人だけのはず。これはどういうことだ……!?」

 

 訝しげだったセンチネルの顔が、明らかな動揺を見せる。

 滅多に感情を他人に悟らせない彼らしくもない。よほど驚いているようだ。

 一方でドロシーは人の姿に戻って叫ぶ。

 

「女神候補生だ!? 貴様はプリテンダーのスパイ! ディセプティコンの裏切り者だろうが!」

「まあそうなんだけど色々あってね。女神候補生になったのよ、これが」

「…………まあいい。お前がディセプティコンだと言うなら、それもよかろう。我らはディセプティコンの祖であるザ・フォールン様の意を受けて動いておる。お前も我らのもとに来るがいい」

 

 アリスの存在は想定外だったのか、少し考える素振りを見せたセンチネルだがアリスに手を差し出す。

 しかし、アリスはフンと鼻を鳴らす。

 

「もちろん、喜んで……なんて言うとでも思ってんのか! このヒヒジジイ!!」

「ほう? 堕落せし者に逆らうと?」

「私の忠誠はメガトロン様の、大恩はサウンドウェーブの、姉妹愛はベール姉さんの物だ!! あんな奴に恩も情もない! むしろ文句しかないわ!!」

 

 中指を突き立てるアリスに、ドロシーたちは目を丸くし、ベールは口元を押さえる。

 

「アリスちゃん、お下品……でも嬉しいですわ」

「ふむ……なるほど。では貴様にも来てもらうとしよう。……貴様らと関係のない、別の国の民を救いたいのなら」

 

 センチネルはそれ以上動揺する素振りを見せず、すぐに顔から感情が消える。

 ベールとアリスは顔を見合わせて頷き合うと、ゆっくりとセンチネルに向かって歩き出す。

 

 しかし、またしても間に割って入ってくる者たちがいた。

 

「この恥知らず!!」

「最低!」

「それでも男か!!」

 

 それは、幼稚園の園長やサオリ、シアンたちだった。

 皆で緑の姉妹を後ろに庇い、彼女たちを護るように大きく腕を広げる。他の人々も、それに並ぶ。

 センチネルは、先ほどよりも大きな動揺を浮かべた。

 

「何のつもりだ……?」

「女神様を守っているんです! あなた、恥を知りなさい!」

 

 園長の一喝に、センチネルはピクリと眉を動かすと静かに銃を園長たちに向ける。

 しかし、園長の周りには彼女の教え子である幼い子供たちが集まっていた。

 

「めがみさまを、いじめちゃだめ!!」

「ひきょうなおっさんだ!!」

「ぼくしってるよ! ああいうのは、ひどいめにあうんだ!!」

 

 子供たちの罵り声に、センチネルの動揺が大きくなり、銃を持つ手が震える。

 しかし、意を決したように、引き金を引いた。

 

「……ッ!」

 

 弾が当たったのは、園長たちのすぐ前の地面だった。

 地面に穴が開き、煙が上がる。

 全員が静まり帰る中、センチネルがようやっと絞り出したのは、命令だった。

 

「……プリテンダー、女神どもをこっちに連れてこい」

「了解」

「他は誰も動くな、スナイパーもだ。……儂は、撃てる。」

 

 強い口調で言うセンチネル。

 ドロシーたちは、言われるままにベールとアリスをセンチネルの下に連れていく。

 

「女神様……」

「大丈夫ですわ。心配しないで」

 

 恐怖に動けない国民に、ベールはあえて優しく微笑み、アリスもそれに倣う。

 その姿は、どこか殉教者を思わせた。

 

「哀れですわね。堕ちる所まで堕ちた、と言ったところかしら?」

「気丈だな、これからお前に待ち受けるのは、恐ろしい運命だと言うに」

 

 厳しく低い……どこか苦しそうな声で、センチネルは脅し、自分の傍にやってきたベールとアリスに手を伸ばす。

 

「信じていますから。……彼が、きっと助けにきてくれるって」

 

 あくまでたおやかに、ベールは笑む。

 彼……愛するジャズは、自分が何処にいようと、どんな状態だろうと、きっと来てくれる。そう確信しているが故の笑みだった。

 センチネルの指が、ベールの金糸の髪に触れようとした瞬間……どこからか音楽が聞こえてきた。

 

 場違いなくらい明るい曲調と響きの……『ジャズ』だ。

 

 その意味に気付いたベールの顔が輝き、反対にセンチネルが目を見開く。

 

 廃村の道をこの廃校に向かって一台のスポーツカーが走ってくる。

 

 『太陽の至点』を意味する名を持つ、リアウィングが目を引くロードスターだ。

 

 純白の曲線的な車体に、青いストライプが先端から車体後部にかけて縦に走っていて、ボンネットとドアに大きく『4』とペイントされている。

 

 センチネルは手に持った銃の弾丸をコズミックルストの薬液に変更して、ロードスターに向けて発射しようとする。

 その瞬間、サイドウェイズが撃った弾丸が腐食銃に命中し、センチネルの手から弾き飛ばす。

 センチネルは慌てずに背中から双刃の大剣プライマックスブレードを抜くが、その瞬間には突っ込んできたロードスターが踊るような動きで変形し、ブレイクダンスのように逆立ちしながらの強烈な回し蹴りをセンチネルの腹に叩き込む。

 さすがによろめくも、老雄はすぐに立ち直り、新たな敵を睨む。

 

 ロードスターから変形したロボットは、まるで姫君を守護する騎士のようにベールの横に立つ。

 

 ベールが喜びと共に、センチネルが憎々しげに、その名を呼ぶ。

 

『ジャズ……!』

「それで? 俺はダンスの時間に間に合ったかい? ベール」

 

 快活に、ジャズは笑んだ。

 その身体は、白銀一色だった体色が純白に青いラインが走った物に変わり、頭部のヘルメット部や関節部などの一部が黒になっている。

 

「ええ、もちろん時間ピッタリですわ」

「何せ新しい衣装を選ぶのに手間取ってね。遅れたらどうしようって、内心ヒヤヒヤだったんだぜ! ……間に合って良かった」

「ふふふ、その姿も素敵でしてよ」

 

 軽口を叩きながら微笑み合うベールとジャズ。

 センチネルは会話は不要とばかりにプライマックスブレードを振りかざし、ジャズに襲い掛かる。

 しかしジャズが何をするでもなく、センチネルの体に弾丸が命中し、センチネルの体がよろける。

 その隙を逃さず、ジャズはセンチネルの体に以前より威力の上がったクレッセント・キャノンを叩き込む。

 

「ぐおッ……!」

「ナイスアシストだぜ、サイドウェイズ!」

『へへッ、どうも!』

 

 遥か山の上のサイドウェイズに向け、ジャズはサムズアップしてから、センチネルに飛びかかった。

 センチネルは迎え撃とうとするが、またしてもサイドウェイズの弾丸がセンチネルに襲い掛かる。

 咄嗟に盾で防ぐセンチネルだが、死角に素早く潜り込んだベールの槍の連撃が体に突き刺さる。

 怯まずに体勢を立て直そうとするセンチネルだが、すかさず繰り出されたジャズのテレスコーピングソードの一撃を双剣で防いだ。

 

「いくらあんたでも、俺たち全員の相手は無理があるみたいだな!」

「それだけではないな、貴様! 前よりも体の性能が上がったと見える!」

 

 センチネルの指摘の通り、ジャズは全体的な速度や、技の切れが格段に上がっている。

 リペアすると同時に、ジャズはラチェットやジョルトと話し合い、自分の体に様々な改善を施したのだ。

 本来、ジャズはこういったインスタントなパワーアップには否定的だ。

 技を磨き、自分の心身への理解を深めることこそが彼本来のやり方だ。

 しかし、オプティマスが散り、この世界と愛するベールに危機に瀕する今、ジャズはそのポリシーをいったん脇に置いた。

 

「おのれ、鬱陶しい……! 何をしておる、貴様らも援護せんか!!」

「り、了解!!」

 

 一連の流れを茫然と見ていたプリテンダーたちは、センチネルの一喝に慌てて全員がロボットモードに変形する。

 しかし、アリスが弓矢の狙いをリーダー格のドロシーの頭にピッタリと付けた。

 

「……アリス!」

「動かないで。私は、姉さんたちほど優しくない。撃てるわよ……三人、同時に」

 

 言いながら、アリスは弓を水平にして光の矢を三本に分かれさせる。

 三本の矢はそれぞれプリテンダーたちの頭にしっかりと狙いを付けていた。

 動けないプリテンダーたちに、センチネルはもはや援護は期待できないと看過して素早く視線を動かす。

 

「……オートボットよ、人間に味方して何になる! 思い出せ、我らは、故郷では一人一人が神の如く力を持っていた!!」

「んなこと、思ったこともないわよ! こちとらスラム暮らしのゴミ漁りだっての!!」

 

 アリスが素早くツッコムが、センチネルは無視して続ける。

 

「しかしここでは……儂らは機械扱いだ!! 今は良くとも、やがては使い捨てられる!!」

「そんなこと、しない!!」

 

 これに吼えたのは、何人かの子供たちを避難させようとしていたシアンだった。

 ピタリと、素早く動いていたセンチネルの視線が彼女たちに止まる。

 それから、その後ろに落ちている腐食銃に。

 

「私らは、オートボットもディセプティコンも受け入れる。……ゲイムギョウ界を舐めるな!!」

「口では何とでも言える」

 

 シアンの叫びを冷たく切り捨て、センチネルは視線をジャズやベールに戻す。

 

「いずれ後悔する。必ずだ……」

「なら、後悔した時にどうするか考えるさ。それに、今彼女たちを見捨てたら、それこそ永遠に後悔する。……それは分かる! あんたこそ卑劣な策ばかり弄して、プライムの名が泣くぜ!!」

「そこの女神にも言われたな、堕ちる所まで堕ちたと……だが、まだまだ甘い! 堕ちるというのは、こういうことを言うのだ!!」

 

 瞬間、センチネルは踵を返して老体に似合わぬ素早さで走り出す。

 その先には、シアンと子供たちが急な事に動けずにいた。

 

「ッ! 駄目!」

「センチネル、あんたそこまで!!」

 

 すぐさまベールとジャズが弾かれたように動くが、それより早くセンチネルはシアンと何人かの子供を掴み上げる。

 

『きゃあああッ!!』

「サイドウェイズ!!」

『駄目だ! 子供に当たる!!』

 

 アリスが叫ぶが、サイドウェイズは人質の身を案じて狙撃することが出来ない。

 その間にもセンチネルの前方に空間の裂け目、ポータルが出現する。

 センチネルは地面に落ちた腐食銃をポータルに蹴り入れ、自身も空間の裂け目に飛び込もうとする。

 ジャズとベールがそれぞれにセンチネルに飛びかかるが、一歩の差で元総司令官が飛び込むと同時にポータルが跡形もなく消え失せた。

 

「くそう! センチネル、そこまで下種になったか……!!」

「諦めてはいけませんわ! おそらく、センチネルはラステイションの首都に向かったはずです! 追いかけましょう!!」

「ああ!!」

 

 すぐさま、ジャズはロードスターに変形してベールを乗せる。

 

「ベール姉さん!!」

「アリスちゃん、貴方はここの人たちを守ってくださいな! それと、その子たちも!」

「……はい!!」

 

 アリスとの短いやり取りの後、ベールたちは首都目指して走り去った。

 ハアと深く息を吐いたアリスは、サイドウェイズに通信を飛ばす。

 

「サイドウェイズ、聞こえる?」

『ああ、聞こえる。すまん、撃ち損じた……』

「いいわよ、あの状況だもん。……それより、あんたはそのまま待機。後は『予定通り』にね」

『了解! 通信終わり!』

 

 事務連絡を終えたアリスは、背後に視線を移す。

 シアンたちのことは、姉たちに任せるしかないだろう。

 

「ドロシー……」

「やばいって、これ……」

「クソッ!」

 

 そこには、センチネルに置いていかれたプリテンダーたちが、警備兵に囲まれてトランスフォーマー用の拘束具で捕らえられていた。

 

「さて、あんたたち……」

 

 ドスの効いたアリスの声に、プリテンダーたちはビクリと震える。

 

「くそう! 煮るなり焼くなり好きにしろ!! 」

「え~、煮られるのも焼かれるのも私いやだなぁ……」

「私も……」

「お前ら、ディセプティコン兵としての誇りはないのか!?」

 

 ギャーギャーと言い合うプリテンダーたちに、アリスは咳払いしてから笑顔を作る。

 

「んん! さて、この子たちを移動させましょう。警備兵の皆さん、手伝ってくださいな」

「うわ、出たよ、アリスの猫被りスマイル。あれで何人の男を騙したか……きゃんッ!」

 

 余計なことを言うドロシーに蹴りを入れつつ、プリテンダーたちを連行する。

 この場に置いておくと、今度は彼女たちが国民に袋叩きにされかねない。

 捕虜にそれは問題だし、何だかんだ同じ炉のエネルゴンを喰った元仲間として、それは忍びない。

 

 こんな思考が出てくるあたり、姉や女神候補生仲間の甘さが移ったかと、アリスは自嘲気味に笑む。

 

 しかし、それは決して悪い気分ではなかった。

 

 




ああ、ネプテューヌVⅡRのVRイベントの女神たちが、可愛すぎる……。
反則や、アレ。

それはともかく、かくしてジャズ復活。
もちろん、G1アニメカラーの玩具がモチーフ。
この玩具、設定上は実写無印で真っ二つにされたジャズが復活した姿らしいです。

プリテンダーたちの名前の元ネタは、『オズの魔法使い』『ピーター・パン』『モモと時間泥棒』のヒロインたち。
アリスの同類なんだから、児童文学の登場人物かなと。

そして幼稚園の園長は、序盤で出たキャラだったり……。

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