超次元ゲイム ネプテューヌ THE TRANSFORMATION   作:投稿参謀

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祝! ネプテューヌVⅡR発売!!


第152話 旅立ち

 セターン姉妹が去ってより、しばし後。

 

 市庁舎の中庭で、ネプテューヌが惑星サイバトロンへ行く準備をしていた。

 

 簡単な食料と水、救急キットをリュックサックに詰め、さらに……。

 

「はいこれ」

 

 リュックサックを背負って立ち上がったネプテューヌに、アイエフが自分の愛用品であるオートマチック拳銃と、いくつかの弾倉を差し出した。

 

「あんたには、必要でしょ? 今は普通……よりちょっと頑丈な女の子なんだから。弾は対トランスフォーマー用特殊弾。ディセプティコンにも効くのは実証済みよ。使い方は狙って撃つ。弾が切れたら、リロード」

「あいちゃん……うん、ありがとう。大丈夫! FPSで散々やってるからね!」

「ゲームと違って難しいから、撃つ時は慎重にね」

 

 すっかり調子を取り戻して銃を受け取ったネプテューヌにアイエフが苦笑する。

 

「ねぷねぷ、絶対に帰ってきてくださいね」

「もちろん! こんなの、よくあるお使いクエストだからね!」

 

 コンパはネプテューヌの肩からずれたリュックサックを直してやりながら、心配げに言う。

 対してネプテューヌは明るく答えた。

 

「お姉ちゃん、帰ってくるまでのことは任せて! 頼りにしてね!」

「いつだって、わたしはネプギアのこと頼りにしてるよ」

 

 両手を握り拳にして胸の前に持ってくることでやる気を表現する妹ネプギアに、姉たるネプテューヌは優しく激励する。

 

「私はラステイションに戻るわ。ディセプティコンから国民を守らないとね」

「……わたしたちも、ノワールたちに協力するつもり。……ヴイとハイのためにも全力を尽くすわ」

「妹たちもこちらに来てもらう手筈になっていますの。敵の狙いが女神である以上、バラバラになるのは危険ですもの」

「そっか……」

 

 ノワールら三女神の言葉を聞いて、ネプテューヌは少し顔を曇らせる。

 やはり自分だけが……という思いがあるのだろう。

 そんな紫の女神の僅かな迷いを察したノワールは、キッと眉を吊り上げた。

 

「ヴイとハイが行ってたでしょ! オプティマスを助けることがゲイムギョウ界を救うことにも繋がるって! あなたは、全力でマトリクスとやらを探してきなさい!」

「ノワール……うん! もちのろんだよ!」

 

 素直でない態度のノワールに、ネプテューヌのみならず他の者たちも顔を見合わせて苦笑する。

 そこへ、ジェットファイアがのっそりと寄ってきた。

 

「そろそろ行くぞ。時間が惜しい」

「あ、うん! それじゃあ、みんな! そろそろ行って……」

「ネプテューヌさん! 大変です!!」

 

 笑顔で旅立とうとするネプテューヌだったが、イストワールが急に大声を出した。

 面食らったネプテューヌが目を丸くする。

 

「ど、どうしたのさ、いーすん? せっかくの旅立ちシーンを邪魔して……」

「それどころじゃありません! 今、連絡があって市庁舎の前に国民が詰め掛けているそうです!」

「ッ! まさか、暴動!?」

 

 アイエフが悲鳴染みた声を上げる。

 さっきのザ・フォールンの映像を見て不安を煽られた国民が、ついにパニックになって女神に助け……あるいは責任を求めてきたのか?

 しかし、イストワールは困惑しているようだった。

 

「いえ、それが……とにかく行きましょう!」

 

  *  *  *

 

 市庁舎の正門前に国民たちが集合していた。

 教会職員や警備兵、軍人がいる。

 サラリーマンや主婦、コンビニのアルバイトがいる。

 男性や女性がいる。

 老人や若者、子供もいる。

 

 ただ彼ら彼女らは騒ぐようなことはせず、静かに『待って』いた。

 そして市庁舎の正門が開き、国民たちが待っていた人物……この国(プラネテューヌ)の女神、ネプテューヌが仲間たちを伴って現れた。

 

「みんな……」

 

 何も言えないネプテューヌの前に、群衆の中から一人の男が進み出た。

 デフォルメされたネプテューヌの顔がパーソナルマークとしてペイントされたバイザー付きのメットを被った軍人だ。

 その後ろには、ネプ子様FCの副団長が続く。

 

「ネプテューヌ様……今日はお願いが有ってきました」

 

 ああ、やっぱりか、とネプテューヌは思った。

 彼らは、ネプテューヌに自分たちの守護を願いにきたのだろう。

 こんな状況なのだ、それを攻めることは出来ない。

 

 心配そうなコンパが何か言おうとするが、隣のアイエフが止めた。

 

 軍人は深く頭を下げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうか……オプティマスを助けてやってください」

『お願いします!』

 

 群衆も一斉に頭を下げる。

 ネプテューヌは面食らった。

 確かに彼らは自分たちに助けを求めてきた。

 しかし、自分たちを、ではなくオプティマスを、だった。

 

 軍人は視線でオートボットたちの最後尾に立つジェットファイアを指した。

 

「そっちの人が言っていたのを聞いたんです。オプティマスを生き返らせる手段があるって」

 

 その横に、ネプ子様FCの副団長が並ぶ。

 

「そして皆で話し合って決めたんです。……ネプテューヌ様のために私たちが何を出来るか……」

 

 教会職員や軍人たちが進み出る。

 

「こんな時だからこそ、自分たちがネプテューヌ様たちを支えます!」

「そして、この国を、人々を護ります!」

 

 サラリーマンや主婦が前に出て笑顔を浮かべる。

 

「私たちも微力ですが、お手伝いします!」

「炊き出しなら任せといて!」

 

 そして、子供たちがネプテューヌの前に駆け出た。

 みんなオプティマスやオートボットたちの玩具を手にしている。

 

「ネプテューヌ様! 司令官を助けてあげて!」

「僕、オプティマスに助けてもらったんだ!!」

「わたしも!」

「おれ、司令官とあそんでもらんただぜ!」

 

 それを皮切りに、国民たちは次々と口を開いた。

 

「俺は、GDCにいました! ずっと近くで戦えて、オプティマスが本当にこの世界のことを思ってくれてるって知ってます!」

「いつか、事故に巻き込まれた時、あの人が助けに来てくれたんです!」

「ネプ子様FCで一緒でした! また一緒に会合に出るって約束したんです!」

「他の街や村にいる人たちも、オプティマスを助けてほしいって言ってきていますよ!」

 

 それは感謝だった。

 それは友情だった。

 それは信頼だった。

 

 言葉と共に群衆の中から、シルクハットの考古学教授が現れる。

 

「ネプテューヌ様。私はルウィーの国民ですが……それでも、ミスター・オプティマスとは友達同士だと思っています。彼とはまた話す約束をしました」

 

 そして、バイザー付きメットの軍人は静かな声を出した。

 

「……私はGDCには参加せず、この国を守ることに注力してきました。それは、この国を愛していると同時に、オートボットを信用していなかったからです。彼らが何か企んでいた時、この国とネプテューヌ様だけでも守ろうとしたのです」

 

 軍人の声には、どこか悔恨が含まれていた。

 

「しかし、私はプライベートでオプティマスと知り合う機会を得ました。最初は、ネプテューヌ様の近くにいる彼に嫉妬していた部分もありました。……しかし付き合う内に、彼は本当に誠実であり同時に内側に苦悩を秘めた男で……そしてネプテューヌ様とこの世界を、心から大切に思っているのだと理解できたんです。……出来ることなら、助けになりたい」

 

 軍人がメットを脱ぐと下から現れたのは、ネプテューヌを模した髪型の若い男で、頭に巻いた鉢巻に『ネプテューヌ様、命!』と刺繍されている……ネプ子様FCの会長だった。

 会長はもう一度深々と頭を下げる。

 

「オプティマスは私の……私たちの大切な友達です。だからどうかネプテューヌ様。……私たちの、友達を助けてください」

 

 副会長も、軍人たちも、教会職員も、他の国民たちも、皆揃って頭を下げた。トレイン教授もトレードマークのシルクハットを脱いで一礼する。

 彼らは皆で、ネプテューヌの後押しをしているのだ。

 

「みんな……」

 

 溢れてきた涙で、ネプテューヌは視界が霞んでいた。

 こんなにも多くの人々が、オプティマスのことを想ってくれている。

 オートボットたちがこの世界に来たことは、してきたことは、決して無駄ではなかった。

 

「……大したもんだ」

 

 不意に聞こえた声にそちらを向けば、いつの間にかロックダウンとその手下たちが立っていた。

 

「契約更新だ。もう少し手伝ってやる」

「え、でも……?」

 

 彼らは、もう戦わぬと去ったのではなかったか?

 表情でそう問うネプテューヌに答えたのは、ネプ子様FC会長だった。

 

「私たちがお願いしたんです! 皆で少しずつお金を出し合って!」

「全然足らなかったがな。しかし、この馬鹿が……」

 

 ロックダウンはぶっきらぼうに言いながら、傍らの手下の頭を叩く。

 カイマダイ渓谷の戦いでネプギアと共に敵戦艦に乗り込み負傷した、あの傭兵だった。

 

「そこの妹女神に命を救われたとか言うからな! 俺は借りを作るのは嫌いだが、借りを返さないのは、もっと嫌いなんだ。だから、今回だけはサービス料金で受けてやった」

「ロックダウン……うん、ありがとう!」

 

 ネプテューヌの感謝の言葉に、ロックダウンはプイっと顔を逸らす。

 そこでネプギアが姉の隣に並ぶ。

 

「お姉ちゃん。……サイバトロンに行ってる間のことは、私に任せて! 大丈夫、ビーたちもいるもん!」

「『全力で』『戦うぜ!』『だから』『司令官を』『頼む!』」

「もちろん、私たちも忘れないでね」

 

 ネプギアが力強く笑みながらグッと拳を握って見せ、その後ろのバンブルビーがサムズアップし、アイエフとコンパも頷く。

 イストワールも、静かに笑んでいた。

 

「プラネテューヌ……なるほど、シェア最下位国の癖にいつまでも潰れない理由が、分かった気がするわ」

「……ええ、そうね」

 

 感極まるネプテューヌを囲んで笑い合うプラネテューヌの人々を、ノワールら三女神は少し離れた後方から見ていた。

 そしてネプテューヌの前に、ジェットファイアがノッソリと進み出た。

 

「さてと……ではプラネテューヌの女神よ、そろそろ行こうか?」

「……うん!」

 

 ネプテューヌは力強く頷く。

 今は時間が惜しい。

 

 ネプギアたちはネプテューヌとジェットファイアから距離を開ける。

 するとジェットファイアは少し集中した様子を見せ、二人の周りに電気状のエネルギーが走り出した。

 

「それじゃあみんな、行ってくるねー!」

 

 仲間たちと国民に元気良く手を振るネプテューヌ。

 同時に呆気なく、二人の姿は消失した。

 

「……さてと、私は急いでラステイションに戻るわ。アイアンハイド、行きましょう。……アイアンハイド?」

 

 感傷もそこそこに、己の為すべきことに戻ろうと相棒に声をかけるノワールだが、いつの間にか黒いオートボットはいなくなっていた……。

 

 

 

 

「ぐはッ! はあ……はあ……」

 

 市庁舎の裏で、アイアンハイドは壁に手を付いていた。

 口元に当てた手を見れば、赤錆がベッタリと付いていた。

 

「ああ……畜生。そろそろヤバイか……」

「アイアンハイド!」

 

 突然の声に振り向けば、いつの間にかラチェットが立っていた。

 無理矢理にアイアンハイドの手を取り、その手に付いた赤錆をスキャンする。

 

「コズミックルストか……!」

「センチネルに撃たれた時にな。ほんの一滴だったから、大丈夫かと思ってたんだが……」

「ふざけるな! コズミックルストの恐ろしさは、君もよく知ってるはずだ! 君の体の中は、もう錆に食い荒らされているはず! どうして今まで黙ってたんだ!!」

 

 必死なラチェットに、アイアンハイドは一つ息を吐いた。

 

「この状況だ。俺だけ寝てるワケにもいかんだろ……」

「馬鹿を言え! すぐに手術すれば、助かるかもしれない!!」

「…………」

「アイアンハイド!!」

 

 ラチェットは何も言わずに歩きだそうとするアイアンハイドの肩を掴もうとするが、振り払われた。

 

「手術だと? 状況が分かってるのか? もうすぐ、ディセプティコンの大軍がラステイションに押し寄せる! サイドスワイプや、ユニや、ノワールが戦ってる時に、俺だけ寝てろってのか!? そんなのはごめんだ!」

「この……馬鹿野郎!!」

 

 アイアンハイドの顔を、ラチェットは思いきり殴りつける。

 よろけるも倒れるには至らないアイアンハイドに、ラチェットが吼える。

 

「こんな状況だからだ!! ノワールやサイドスワイプを残して逝く気か!? クロミアはどうするんだ!!」

「アイツらなら、大丈夫だ! 自分の死に場所は、自分で決める! 俺は兵士だ、戦場で死ぬ!!」

「勝手なことを……!!」

 

 しばしの間、古参兵と軍医は睨み合う。

 どちらも譲る気がないのは明らかだった。

 

「……アイアンハイド?」

 

 その均衡を崩したのは、第三者の声だった。

 アイアンハイドは、しまったとばかりに顔を歪める。

 この状況では、一番会いたくない相手の声だった。

 

「ノワール……」

「どういうことよ……死ぬって……答えてよ! アイアンハイド!!」

 

 二人の表情からタダならぬ物を感じ、ノワールは叫ぶ。

 非難するような顔のラチェットに睨まれ、アイアンハイドは再度大きく排気した。

 

「聞いた通りさ。センチネルに腐食銃で撃たれた時、ほんの少しだが、コズミックルストがかかってたんだ。……あの錆の威力は、お前も見ただろう? 一滴で十分、俺の体はボロボロだ」

「だったら、すぐに手術でもなんでも受けなさいよ!!」

 

 ワザと少し冗談めかして言うアイアンハイドにノワールは怒りを露わにする。

 しかし、アイアンハイドは動じない。

 

「んな時間はないだろ? さあ、ラステイションに戻ろう、時間がない……」

「ふっ、ざけるなあああッ!!」

 

 次の瞬間、ノワールは思いきり助走を付けてジャンプし、アイアンハイドの顔面にドロップキックを叩き込む。

 シェアを失っているのに、このジャンプ力。火事場の馬鹿力的なアレだろうか?

 

「ぐふぉッ!?」

「この程度の奇襲も躱せない! そんな状態で戦場に出てこられても、足手まといなだけよ!!」

 

 よろけるアイアンハイドに向かって、ノワールは綺麗に着地して吼える。

 

「ぐッ……しかしノワール、今はとにかく手が足りんだろう!」

「ラステイションを凌いでも、まだ終わりじゃない! っていうかその後が本番!! あなたには、まだまだ戦ってもらわなきゃいけないの!! こんな時に死なれても困るだけ!」

「むう……そりゃそうだが……」

 

 感情的になりながらも理屈で攻めるノワールから、アイアンハイドは視線を逸らす。

 その視線の先に回り込み、ノワールはさらに続ける。黒い女神の目には、いつしか涙が光っていた。

 

「何? 格好よく散りたいっての? そんなの、結局はただの自己満足じゃない! それに、それに……私……アイアンハイドに、死んでほしくない……」

「お、おい、ノワール……!」

 

 ついに嗚咽を漏らして泣きだしてしまったノワールに、アイアンハイドはオロオロとする。

 

「わ、分かった。分かったよ! 手術を受けるから! 泣くなよ、な?」

「……本当に? 死んだりしない?」

「死なないって! お前らを残して死ねるか!!」

「本当に、本当? 約束してくれる?」

「約束する! 男に二言はない!!」

 

 困ったアイアンハイドが思わず言ってしまうと、ラチェットは「あ~あ」という顔をして、ノワールはニヤリと笑った。

 

「……はい! 言質取ったわよ!」

「な!?」

 

 涙を拭ってケロリとするノワールにアイアンハイドは呆気に取られる。

 嘘泣きだったようだ。

 不意打ちの蹴りで気勢を削ぎ、強気の態度と理屈詰めで弱らせたところで、しおらしく泣いちゃうギャップで止め……。

 

 ネプテューヌがいたら、「汚い、さすがノワール汚い!」とでも言うだろう。

 

「まったく、すっかり騙されたぜ……」

 

 アイアンハイドは額に手を当てて何度目かに分からない排気を吐く。

 ノワールは勝気に笑いを不意に悲しげな物に変えた。

 

「でも、死んでほしくないのは本当」

「…………ああ、分かったよ。男に二言はないからな」

 

 今度こそ、アイアンハイドは折れて穏やかな表情を浮かべる。

 こんな娘を残して死ねるほど、アイアンハイドは往生際が良くない。

 ラチェットはホッと一息吐くが、すぐに表情を厳しくした。

 

 ここからは、医者としての彼の戦いだ。

 

 コズミックルストに感染したアイアンハイドを直すとなれば、ラチェットでも経験したことのない大手術になるだろう。

 基地が壊滅した今、厳しい戦いになるのは間違いない。

 

――しかし、必ず救ってみせる! 仲間は死なせない!!

 

 微笑み合う親子同然の二人をラチェットを眺めながら、ラチェットは強く決意するのだった。

 

 




……ええまあ、この期に及んでも国民がオプティマスやネプテューヌを責めたち縋ったりするのがリアリティなんでしょう。
でも自分には、そんなの書けない。

ヒーローが民草を救うなら、民草がヒーローを救うために立ち上がってもいいじゃないか。
ロストエイジでは、あんなだったし。

そしてアイアンハイドはちょっとの間、戦線離脱。

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