超次元ゲイム ネプテューヌ THE TRANSFORMATION   作:投稿参謀

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やー、最後の騎士王観てきました!

ネタバレは避けますが、面白かったです!(小並感)
うん、何言ってもネタバレになるから、本当にこれしか言えません。


第148話 泣くべき時もある

 アイアコンの地下にある基地の自らの書斎で、アルファトライオンは書き物をしていた。

 サイバトロンでは時代遅れかつ、極めて珍しいとされるレーザーペンで金属製の紙に文字を焼きつけるスタイルだ。

 大抵の者はキーボードを打つか、もっと簡単に自分のメモリーをソフトにコピーすることで済ます。

 

 アルファトライオンが書いているのは、サイバトロンの歴史……永い時を生きてきた彼が見てきた全てだ。

 

「……ッ!」

 

 サラサラと淀みなくペンを走らせていたアルファトライオンだが、不意にペンを手から落とした。

 そして、苦しそうに胸に手を当てて呻く。

 

「オプティマス……!」

 

 苦悶に顔を歪めながら呻くようにして、遠く離れた世界にいる息子の名を呼ぶ。

 

「オプティマス、オプティマス……! おお、そんな……!」

「アルファトライオン! 失礼します! 空に異変が……アルファトライオン!?」

 

 そこへ青い鎧武者のような姿のオートボット、ドリフトがノックもせずに部屋に入ってくるが机に突っ伏して震える老歴史学者に気付き、慌てて駆け寄る。

 

「アルファトライオン! どうされたのです!」

「……オプティマスが」

 

 ドリフトに助け起こされたアルファトライオンの目から、液体が流れていた。

 

「オプティマスが、死んだ……」

「ッ! ば、馬鹿な……!?」

 

 超自然的な力により時空を超えて感じ取ったからだ。

 

 息子の死を。

 

  *  *  *

 

 ディセプティコンの猛攻の前に、プラネテューヌ首都は陥落した。

 だが、首都を大軍で占拠したディセプティコンたちは、その後動きを見せずにいた。

 

 通信は回復したが、同時に無残なプラネテューヌの現状が映し出され、人々の希望を削ぐ。

 そしてシェアはなおも吸われ続けていた。

 

 何よりも、空を覆い尽くす異星が、否応なしに人々を不安に陥れていた。

 

 イストワールが発令した非常事態宣言のもと、市民と教会職員は隣町のハネダシティに移っていた。

 

「避難は迅速に進んでいるようね」

「はい、皮肉ですがこれまでの戦いで国民も避難慣れしていますので……」

「わたしたちも国に帰るべきなのでしょうけど……」

「今は悪戯に動くのは危険ですわ」

 

 そして、そのハネダシティの市庁舎に置かれた臨時基地ならぬ臨時教会の一室にてイストワールとノワール、ブラン、ベールが状況を確認していたが、その内容はお世辞にも芳しいとは言えなかった。

 これまでの戦いで国民が素早く避難できるようになっていたのが、不幸中の幸いか。

 国民には不安が広がっている。

 それも当然だ。首都が占拠され、国の象徴であるプラネタワーが消滅し、空に別の世界が現れ……オプティマスが、死んだのだから。

 

「それにシェアが吸い取られるにつれて、各地で異変が起きています」

「ルウィーでは気温がどんどん下がっているとミナから報告があったわ……」

「リーンボックスでは逆に有り得ないほど暑くなっているそうですわ」

「ラステイションでも植物が枯れていっているみたい」

「プラネテューヌでも、竜巻や高波が確認されました。……このままでは、ゲイムギョウ界に人が住めなくなってしまいます」

 

 イストワールは暗い表情で首を振る。

 各地から相次いで報告される異常気象や異変。

 シェアがかつないほど奪われていることで、ゲイムギョウ界全体が環境を維持できなくなりつつあるのだ。

 女神たちも、こうして普通にしている分にはまだいいが、変身はもちろん戦うことも出来ないだろう。

 いつか惑星サイバトロンに跳ばされた時と同じ、一般人とほとんど変わらない状態だ。

 

「それで、ネプテューヌは?」

 

 ノワールは、一番気になっていることを聞いた。

 国と、恋人があんなことになって、さすがの彼女も堪えているはず。

 いやそれ以前に、ノワールたちはネプテューヌが半狂乱になる姿を見ていた。

 

 イストワールは顔を曇らせた。

 

「それが……」

 

 

 

 

 

 

 

「よーし、避難民の仮住居確保はこれでいいね! 後は食糧の配給だけど……」

「ネプテューヌ様! 仮住居の空調に問題が……」

「すぐに整備の人を手配して!」

「ネプテューヌ様! 避難民と現地住民の間でトラブルが……」

「よっし、わたしが行って仲裁するよ!」

 

 市庁舎の一室で多くの国民に囲まれて、ネプテューヌはテキパキと仕事をこなしていた。

 いつもと変わらない、いやいつも以上の笑顔で。

 普通なら喜ぶべきだろうその光景を、三女神とイストワールは痛ましい物を見る目で見ていた。

 国民を支える女神としては正しいのだろうが、あまりにも痛々しい。

 ノワールはツカツカとネプテューヌに近づいた。

 

「ネプテューヌ」

「お、ノワール! な~に、暗い顔してー?」

「あなた、大丈夫なの? ……あんなことがあって」

 

 ニパッと笑むネプテューヌに、ノワールはズバリ聞く。

 

「泣いて暮らすとか言ってなかった?」

「……うん、そうしようかとも思ったんだけどね。……そういうの、オプっちはきっと望まないよ」

 

 ネプテューヌは変わらず笑顔だった。

 不気味なくらいに。

 

「それにさ、国民のみんなも辛いのに、わたしだけ泣いてなんていられないっしょ!」 

 

 気丈に振る舞うネプテューヌ。

 しかし、ノワールにはその顔が壊れかけの人形のように危うく見えた。

 

「……それじゃ、行くね! ああ、忙し忙し……」

 

 無理矢理に話を打ち切り、ネプテューヌは歩み去る。

 ノワールは途方に暮れたようにその背を見つめていた。

 やがて、離れていくネプテューヌの背に手を伸ばして声をかけようとするが、自分の肩に添えられたブランの手と、横で小さく首を振るベールに気が付き、止める。

 女神は、国民のためにある者。

 

 ならば、女神が道を間違えた時、心折れた時に助けとなるのは……。

 

  *  *  *

 

 ややあってハネダシティ郊外の国軍基地。

 ここには首都を離れた警備兵や国軍が駐留していた。

 アイエフは、バイザー付きヘルメットを深く被った軍人と話し込んでいる。このバイザー付きメットの軍人は、若いながらそれなりに高い地位にいるようだ。メットに描かれたネプテューヌの顔をデフォルメしたパーソナルマークが、信仰心の強さを感じさせる。

 一方でコンパは他の医者や看護師と共に怪我人の手当てに当たり、ネプギアとバンブルビーも皆の仕事を手伝っていた。

 

「みんなー!」

 

 そこへ、ネプテューヌが唐突にやってきた。

 ……変身も出来ず相方のオプティマスもいないため、教会職員の運転する車でだが。

 

「ネプ子? いきなりどうし……」

「ネプテューヌ様!」

 

 アイエフが聞くより早く、車から降りたネプテューヌに警備兵や軍人たちが群がる。

 

「ち、ちょっとアンタたち……!」

「ネプテューヌ様、我々はどうしたらいんですか?」

「今こそ、先陣を切って皆に首都を奪還する時です!」

「こんな時こそ、我々をお導きください!!」

 

 アイエフが止めようとするのも聞かず四方八方から声をかける国民たち。

 その姿は、まるでゾンビ映画のようですらあった。

 国民たちの声にネプテューヌは一つ一つ丁寧に答えていく。

 

「うん、今はまずは傷を癒そう。首都奪還はもう少し後かな? ……もちろん、わたしはみんなを導くよ、女神だからね」

 

 人々を不安にさせないように笑顔を振りまくネプテューヌ。

 ある意味、女神として模範的な姿だが、アイエフとコンパは何処か不満げだった。

 

「お姉ちゃん……」

 

 ネプギアも心配げに姉を眺めていた。

 

「ハッ! まるで獲物にたかるピラニアだな」

 

 と、急に皮肉っぽい声が三人とバンブルビーの耳に入った。

 いつの間にかロックダウンが傍に立っていた。

 ロックダウンの後ろには彼の手下の傭兵やスチールジョーたちが並んでいた。皆、荷物を抱えている。

 

 かつてこの賞金稼ぎは国民は女神に頼り切りだと言っていたが、この状態では言い訳できない。

 

「契約はこれで終いだ。この状況でお前らに報酬の支払い能力は期待できん」

「そんな! 今は少しでも人手がいるんです! そこを何とか、お願いできませんか?」

 

 冷たく吐き捨てたロックダウンをネプギアは何とか引き留めようとする。

 しかし、賞金稼ぎは人に付かず、国にも付かない。縛る物は契約のみだ。

 

「断る。負け戦に付き合う気はない」

「『おいテメー!』『ディセプティコン』『嫌いなんだるぉお!』『手ぇ貸せよ!』」

「ディセプティコンは嫌いだ。だが貴様らのことが好きなワケじゃない」

 

 ネプギアとバンブルビーの言葉をにべもなく切り捨て、ロックダウンは背を向ける。

 

「お前らも早く逃げるんだな。国なんざ無くてもヒトは生きていける」

「そうはいきません。……私は女神ですから」

「『オートボットはあらゆる知的生命体の自由と平和を護る』」

 

 ロックダウンの言葉に、ネプギアは決然と答え、バンブルビーは敬愛する総司令官の言葉を再生する。

 

「……そう言って、自分が死んだら世話ない。特に女を残して死ぬのはな」

 

 ロックダウンは国民に囲まれるネプテューヌに視線をやる。

 暗にネプテューヌを残して死んだオプティマスを非難しているロックダウンだが、アイエフはそれをギロリと睨み付け、ネプギアとコンパは悲しげな顔をするだけで、咎めはしなかった。

 バンブルビーだけが、不愉快そうにラジオ音声を流す。

 

「『テメエ……!』」

「若造、この世って奴はな、理想だの思想だの、そんな物は捨てた方が生き易いんだ」

 

 そう言い捨てて去ろうとするロックダウンだが、その時、空から影が飛来した。

 黒い鳥とも言われる剣のようなシルエットを持つ高高度偵察機だ。

 高高度偵察機は、空中でギゴガゴと変形して腰が曲がって髭の生えた老人のような姿のトランスフォーマーに変形すると、半ば墜落するようにして人のいない場所に着陸した。

 

 元ディセプティコンの老兵、ジェットファイアだ。

 

「おお、こんなトコにいたか。探したぞ」

 

 変形し切らなかったパーツを無理やり定位置に押し込めながら、ジェットファイアはネプテューヌに声をかける。

 

「ジェットファイア? どうしたのさ」

「ああ……一つ、思い出したことがあってな。もしかしたら、オプティマスを救うことが出来るかもしれん」

 

 その言葉に、ネプテューヌの表情が固まり、周囲の人々もざわつく。

 厳かにジェットファイアは語り出す。

 

「儚い希望だ。おそらく地獄に垂らされた細い蜘蛛の糸に縋るような……」

「…………………だったら、いいや」

 

 しかし、ネプテューヌはその話を遮った。

 ジェットファイアは怪訝そうな顔になり、ネプギアたちは有り得ないと驚愕に顔を歪める。

 国民たちも動揺を大きくし、ロックダウンですら振り向いて眉をひそめる。

 騒然とする周囲に対し、ネプテューヌは平静だった。

 

「周りを見てよ? 今、わたしの民はわたしを必要としてるんだよ? そんな『もしかしたら』なんて可能性のために、みんなを見捨てることは出来ない。……そんなこと、きっとオプっちも望まない」

 

 らしくもなく静かに……不自然なほど静かに言ったネプテューヌは、これでこの話はお終いとばかりに、踵を返して国民に向き合う。

 

 その顔は、いつも以上の笑みだった。壊れそうなほどの。

 

「さあ! わたしに何でも言ってね! 今日はわたし、やる気全開だよー!」

 

 しかし、国民たちは黙り込んでいた。

 さすがに彼らもネプテューヌの異常を感じたからだ。

 

「あれー? どうしたの?」

「ねぷねぷ」

 

 首を傾げるネプテューヌに、ネプギアたちが近づいてきた。先頭にいるのはコンパだ。

 

「あ、みんなー! ねえみんなも何かわたしにやってほしいこと……」

 

 パンッ!と乾いた音が響いた。

 コンパが……あの、心優しくほんわかしていて、ネプテューヌに甘い、コンパが、ネプテューヌの頬を平手で張ったのだ。

 

「ねぷねぷの、馬鹿!!」

「こ、コンパ? いったい何を……」

「オプティマスさんを助けたくないですか!! そんなの全っ然! ねぷねぷらしくないです! いったい、いつものねぷねぷは、どこに行ったですか!?」

 

 彼女らしくなく怒りに顔を歪めながら捲し立てるコンパに、ネプテューヌもキッと目じりを吊り上げる。

 

「だって、だって! しょうがないじゃん! わたしがいなくなったら、誰が国民を守るのさ!!」

「プラネテューヌを守る女神ならぎあちゃんがいるです! それに……それに、わたしたちも!」

 

 吊り上っていたコンパの目が下がり、やがて涙が溢れてくる。

 

「わたしたちだって、この国をお守りするです! だから、いつもみたいに甘えてください! 頼ってください! それとも、わたしたちそんなに頼りないですかぁ……?」

 

 嗚咽を漏らすコンパを、ネプテューヌは動揺した様子で見つめ、何も言うことが出来なかった。

 アイエフがコンパの隣に並び、その肩を抱きながらネプテューヌにキツイ視線を投げる。

 

「そうね、今のアンタは自分を抑えてて、全然ネプ子らしくないわ。……感情を抑えるな。自分に嘘を吐くな。泣きたきゃ泣け! 叫びたいなら叫べ! それが私たちの知ってるネプ子よ!!」

「あ、アイちゃん……」

 

 ジワリと、ネプテューヌの目に涙が浮かんだ。

 

「で、でも……わ、わたしは……」

「友達でしょ! アンタが何言ったって私たちが受け止めてやるわ!」

「ねぷねぷ、どんと来いです! ダメなトコも含めて、わたしたちはねぷねぷのことが大好きなんです!!」

「う、うう……うああああああッ!!」

 

 親友二人の真摯な言葉に、ついにネプテューヌは声を上げて泣き出した。

 そんな女神を、アイエフとコンパは宣言通り抱き締める。

 

「オプっちぃ、オプっちぃ……!」

 

 恋人のことを想い、ネプテューヌは子供のように泣く。

 

「酷いよ……オプっち、やっと『生きたい』『幸せになりたい』って自分で言えたんだよ? なのに、なのにぃ……あんなのあんまりだよぉ……!」

 

 そしてそれは、プライムの重責と死んでいった者たちへの罪悪感に縛られ続けてきた恋人が、やっと自身の幸福を願うようになれたのに、非業の死を遂げたことへの悲しみだった。

 泣いて暮らす、後を追って死ぬと言っていた彼女だが、結局はオプティマスのためにこそ涙しているのだ。

 

「アンタたちも……これでいいワケ?」

 

 コンパとネプテューヌを抱くアイエフは、茫然と立ち尽くす周りの国民たちを睨み付ける。

 

「女神様におんぶに抱っこで、泣きつくだけ? ……私は嫌よ。そんなの、絶対に嫌。私はこの子を助けるわ」

「わたしもですぅ! ねぷねぷのために、出来ることをするです!」

 

 厳しく、しかし凛とした態度のアイエフとコンパに、国民たちはある者は俯き、ある者は視線を逸らす。

 

「お姉ちゃん……」

 

 泣きじゃくる親友の背を優しく撫でながら涙を流すアイエフとコンパを見つめ、ネプギアは何か決意を固めたように表情を凛々しいものにする。

 

 ジェットファイアは穏やかな目でネプテューヌたちを見つめ、ロックダウンは腕を組んで黙り込んでいた。

 

 そのまま、泣きじゃくるネプテューヌと共にアイエフとコンパ、ネプギアはその場を歩き去った。

 ジェットファイアはそれに当然とばかりに付いていき、バンブルビーもあえてビークルモードにならず続き、ロックダウンは今度こそ手下たちを引きつれて去っていった。

 

 残された国民たちは、誰も彼も沈黙していたが、やがて一人の男が声を上げた。

 

「なあ、みんな……」

 

 アイエフと話していた、バイザー付きメットの兵士だ。

 

「頼み、というか提案があるんだが……」

 




色々並行して書いてるから、ちょっと短め。

思わせぶりな『デフォルメされたネプテューヌの顔をパーソナルマークにしてるバイザー付きメットの軍人』は、実は新キャラではなかったり。

次回は、D軍側の内情になりそうです。メガトロンが『折れた』理由も明かしたいなあと。

……最後の騎士王を見て思う。
この作品は所詮他人の褌で相撲を取るような、それもド底辺の二次創作だけれども、それでも私の中には書く意義がある、と。

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