超次元ゲイム ネプテューヌ THE TRANSFORMATION   作:投稿参謀

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苦節144話+α……ついに暫定ラスボス登場です。

※ちょっと説明不足だったんで、少し内容を追加。


第144話 堕ちし者

 突如としてプラネテューヌに出現した空中神殿。

 不気味に鳴動するそれに近づく、一つの飛行物体があった。

 

 プラネテューヌがオートボットの技術を使って造り上げたクジラのようなシルエットの武装飛行船、フライホエールである。

 センチネルが消えた後すぐに、オートボットたちはプラネタワーの裏手に停泊しているこの船に乗り込み、ここまでやってきたのだ。

 

 フライホエールの操舵室は、トランスフォーマーでも入れる造りになっていて、オプティマスと女神たちが近づく空中神殿を眺めていた。

 空中神殿は、一見して土砂と瓦礫の塊のような土台の上に、神殿本体と思しい建造物群が乗っている。

 

「上部に見える街のような部分は、タリ様式の建造物だ。やはりこれは空中神殿……古の大国タリの栄華の象徴。しかし、その実態について記した資料はなく、単なる伝説だと思われていた」

「すごいぞ! 空中神殿は本当にあったんだ! ……って感じの雰囲気じゃないね、こりゃ」

 

 オプティマスの説明に、ネプテューヌが重い空気を少しでも緩和しようと、おどけた調子で相槌を打つが、あまり効果は無かった。

 息を吐いたノワールが、オプティマスに問う。

 

「ねえ、せめて基地のオートボットか、他の兵を連れてくるべきだったんじゃないの?」

「いや、空中神殿の出現以降、あらゆる通信手段が使えなくなった。……しかし直接呼びに行く時間はない」

 

 しかしオプティマスは首を横に振る。

 早い方がいいと状況判断し、あの場にいたメンバーだけで神殿に乗り込むことにしたのだ。

 

「それにしても……これだけ近づいて迎撃の一つもないのは、おかしいわね」

「ええ。嫌な予感がしますわ」

 

 ブランとベールが不安を口にする。

 オートボットたちと女神を乗せたフライホエールは、警戒しながらも空中神殿の上層……建物の集まりのような部分へと近づき、その端の広場に着陸した。

 

 後部ハッチを開き、そこからオートボット、女神、ダイノボットの順で降りる。

 当たり前だが、見える範囲には人っ子一人いない。

 オプティマスを先頭に中央部に向かって進んでいくが、朽ちかけた石畳と崩れかけの建物ばかりで、かつては栄華を誇ったとは思えないほどに荒れ果てていた。

 

「ずいぶん、寂しいトコね」

「う~ん、ラストダンジョンにしては色気が足りないかな?」

「かつてタリの女神……つまりレイは、この神殿で贅沢の限りを尽くしたと言うが……そうは見えんな」

 

 思い思いの感想を口にする、ノワール、ネプテューヌ、オプティマス。

 

「アイアンハイド、あなたはどう思う? ……アイアンハイド?」

 

 傍らの相方に問うノワールだが、当のアイアンハイドはしきりに頬を掻いている。

 

「アイアンハイド、どうしたの?」

「ん? ……ああ、何でもない」

「もう、しっかりしてよ!」

 

 気の無い返事をするアイアンハイドに、ノワールは肩をすくめる。

 

「グルルル……! 奴の気配、する!」

「ああ……この感じ、忘れねえ……!」

「仇敵」

「俺、スラッグ! すごく、嫌な感じする!」

 

 ダイノボットたちも中央に近づくほどに警戒心を増しているようだった。

 だが敵の襲撃はなく、やがて一同は遺跡の中央部へと到達した。

 そこにあったのは、輪を描くように立つ円柱状の巨石群……あの遺跡にあったのと同じ、ストーンサークルだ。その中央に、プラネテューヌの遺跡にはなかった高い祭壇があった。

 石を積み上げて造られた祭壇はトランスフォーマーたちの視点に合う高さだった。

 その前に立っている二つの影がある。

 一方は赤い体にマントのようなパーツを背負った老戦士。

 もう一方は、攻撃的な意趣の灰銀色の巨躯。

 

「来たか……オプティマス」

「センチネル、メガトロン……!」

 

 プラネタワーから姿を消した裏切りのオートボット先代総司令官と、ディセプティコンの破壊大帝メガトロンが並んで立っていた。

 しかし、両者ともに意図して表情を消し、感情を読まれないようにしているようだった。

 

「ッ! レイさん!!」

 

 祭壇の上に女神化したレイと黒いローブと仮面で姿を隠した男が立っているのを見つけたネプテューヌが叫ぶ。

 

「レイさん、どうしてこんなこと!! ……レイさん?」

 

 呼びかけるネプテューヌだが、レイは反応しない。

 虚ろな目は何も映しておらず、半開きの口からは意味を為さない呻き声が漏れている。

 仮面の男はレイの前に出て大きく腕を広げた。

 

「ようこそ、オートボットども。そして女神を僭称する薄汚い塵どもよ。我はスノート・アーゼム」

「スノート・アーゼム? お前はタリの神官だと言うのか?」

 

 男の名乗りに、オプティマスは怪訝な視線を向ける。

 スノート・アーゼムを名乗る神官が生きていたのはタリ全盛期……一万年近く前だ。

 普通の人間がそんな時間を生きていられるはずがない。

 オプティマスが真実を問うより早く、ネプテューヌが前に出た。

 

「あなたが黒幕だね! 今時有り得ないくらいコッテコテの『私が悪役です!』って恰好して!」

「確かに、センスを疑う恰好ね。どうせならこう……黒いコートにシルバーのアクセサリーとか」

「……『黒』が悪と言うのは古い価値観よ。今は敢えて白い服を着せるの」

「何にせよ、美形の方が受けますわよね。いっそ女の子とかでもいいですわ」

 

 好き勝手なことを言う女神たちに、いきなり出ばなを挫かれて、アーゼムは少し沈黙し、それからすぐに怒気を発した。

 

「まったく……相も変わらず、この世界の連中はふざけてばかりだ。汚泥の中を這いずる屑どもめが……!!」

「はん! 変に取り繕ってないで、最初からそういう態度でこい!」

 

 怒りと蔑みを隠そうともしなくなった仮面の男にアイアンハイドが好戦的に笑み、キャノン砲を向ける。

 他の者たちも武装を展開し、あるいは召喚するが、アーゼムは仮面越しでも分かる侮蔑の視線を返した。

 

「よかろう。望み通り、オールスパークの下へと逝くがいい」

「お待ちを」

 

 何事かを為そうと腕を上げたアーゼムだが、それを片側に立つセンチネルが止めた。

 それから恭しい態度で頭を下げた。

 

「まずは、私めに話しをさせていただく約束のはず」

「…………よかろう、センチネル。我が僕よ。貴様のために時間を割いてやろう」

 

 ややあってアーゼムが鷹揚に頷くと、センチネルはオートボットたちに向き合った。

 

「オートボットたちよ、警告する。即刻、立ち去れ。この世界を守るなどと言う無駄なことは止めて、故郷サイバトロンに帰るのだ。そのための道も用意しよう」

「何だと!?」

「ふざけたことを言わないで!!」

 

 思わぬセンチネルの言葉に、激昂するオートボットと女神たち。

 しかし、センチネルは動じた様子は無い。

 

「お前たちが守るべきは我らトランスフォーマーの故郷、惑星サイバトロンだ。この世界ではないはず」

「この世界も故郷だ」

 

 オプティマスが間髪入れずに言い切る。

 アイアンハイドとジャズは勝気な笑みで頷き、ミラージュもフッと息を吐く。

 センチネルは淡々と続ける。

 

「故郷、か……。しかし、真実を知ってもそう言っていられるかな?」

「真実?」

「そうだ……儂もそれを知ったからこそ、こうすることを決断したのだ。オプティマス、最後のプライムよ。お前は気が付いているはずだ。この世界の者どもがシェアエナジーと呼ぶそれが、本当はいったい何なのかを……」

 

 アーゼムの言葉に、オプティマスは黙考する。

 以前にもメガトロンにその問いを投げかけられた。

 シェアエナジーの正体について当たりはついている。

 

「……答えられんか。つくづく甘いな」

「もう! もったいつけてないで教えてよ! そういうの、読者に飽きられるよ!」

「いいだろう。ならば分かり易く教えてやる。見るがいい」

 

 ネプテューヌの文句に、センチネルは目から光線が放たれ周りの景色が変わっていく。

 いつの日かオプティマスが見せた物と同じ、立体映像による仮想空間だ。

 現れたのは無限に広がる星空……宇宙空間だ。

 

 終わりのない虚空を、一つの物体が飛んで行く。

 正立方体のそれは、表面にゲイムギョウ界の物ではない文字が刻まれていた。

 

「あれは……オールスパーク!」

 

 オートボットの誰かが、そう叫んだ。

 立方体は、あらゆる金属生命体に命を吹き込んだ超常の存在、オールスパークは、宇宙をどこまでも飛んでいく。

 

「そう、オールスパークだ。我らトランスフォーマーの命の源。母にして父なる存在。……惑星サイバトロンより放逐されたオールスパークは、宇宙を旅し、やがてその内に秘めた超常の力と智慧によって時空間を超え、過去へと遡ったのだ……」

 

 センチネルの声が仮想空間に響く。

 オールスパークの周りの空間が歪み、光と情報、エネルギーが渦巻く底知れない縦穴へと落ちていく。

 かつてネプテューヌがスペースブリッジの転送空間の中で経験した現象によく似ていた。

 やがて、唐突に縦穴を抜けたオールスパークの前には……青い惑星があった。

 

 白い衛星を抱いた、真っ青な惑星。

 

「やがてオールスパークは、異なる次元の、ある惑星に辿り着いた……」

 

 その星に向けてオールスパークは落ちていく。

 大気圏との摩擦で赤熱しながら、そのまま眼下の海に浮かぶ、ある島へと。

 

「あの島は……まさか!」

 

 そして、オールスパークは大きな爆炎を上げて島に墜落し、そのまま粉々に砕け散った……。

 

「そんな!?」

「オールスパークが、砕けた!」

「うろたえるでない、あの立方体はエネルゴンキューブ……真なるオールスパークの、容れ物に過ぎぬ。オールスパークとは、その無限のエネルギーと知識その物なのだ」

 

 驚き、呆気に取られるオートボットたちだが、センチネルは説明に合わせるように墜落現場を中心に虹色の光が広がっていく。

 何処までも何処までも、星を覆い尽くすようにして。

 そして、光は地面に染み込むようにして消えていった。

 

「そして、容れ物が壊れても、オールスパークは新たな容れ物に移るだけだ。……すなわち、この世界その物へと……」

 

 そしてオールスパーク落下の後に残された島は、落下の衝撃による地形変化でダイノボットたちにとって見慣れた形になっていた。

 

「セターン王国……! そうか、だからあの島ではエネルゴンクリスタルが採掘出来たんだ。あのエネルゴンは、オールスパークの容れ物だったエネルゴンキューブの欠片だったのだな!」

 

 オプティマスが呻くように言う。

 島の形はダイノボットたちが守護するセターン王国その物だった。

 では、やはりこの世界は……。

 

「この世界には、すでに極めて原始的な知性体が存在した。……未熟で、愚鈍で、お互いに奪い合い、殺し合い、現実を受け入れられない……そんな生き物がな」

 

 場面が変わり、粗末な木造の建物が並ぶ集落で、原始的な毛皮や枝葉を寄り合せた服を着た人々が何かに向けて平伏し祈っている。

 

 十字に組んだ木の枝を地面に立て、動物の毛皮を被せることで人型に見立てた異様な偶像にだ。

 偶像は頭部に当たる部分に牛の原種らしい二本の角が生えた動物の頭蓋骨を乗せ、その後ろから髪の毛のつもりなのか植物の長い葉が垂れている。

 

「愚かなことだ。この世界に彼らの祈りに応える神はいない」

 

 夏には水の一滴までも干上がる日照り、冬には全てを凍てつかせる吹雪。

 前触れなく流行する疫病、唯でさえ少ない作物を食い荒らすイナゴの群れ、集落の人間では太刀打ちできない恐ろしい獣たち。

 嵐が、洪水が、火山の噴火が、大地震が、まるで人を根絶せんとばかりに襲い掛かる。

 そんな中でも人々は、僅かな食料や安全な土地を巡り、争い続けていた。

 この世界は、人が生きていくには厳し過ぎた。

 

 だからこそ人々は願った。

 

 疫病や獣、災害からの守護を。

 豊かな実りと、多くの獲物を。

 自分たちと子供たちの繁栄を。

 

 しかし、祈りの甲斐なく全ての住人が死ぬか去るかした集落に残されたのは、あの偶像だけだった。

 

「この世界に神はいない。……いない、はずだった」

 

 ある時、打ち捨てられた偶像に虹色の光が集まってきた。

 大気の中から、大地の下から、漏れ出してきた光は偶像を包む。

 すると、木の枝の腕や足は緩やかな丸みを帯びた人のそれへと変わり、木の葉は艶やかな長い髪に、毛皮は瑞々しい柔肌へと変じていく。

 やがてそこには、一人の女性が立っていた。

 灰色がかった青の髪が長く伸び、頭の元となった羊の頭蓋骨の影響か、髪の間から二本の角が生えている。

 

「レイ、さん……!?」

 

 間違いない、あれはタリの女神、レイだ。

 

「この星その物に染み込んだオールスパークのエネルギーが、人間の祈りに反応して新たな存在を生み出した。彼らの祈りに応える、女の形をした神……すなわち女神を」

 

 センチネルの言葉に応えるように、生まれたてのレイは天に向かって獣の咆哮か鳥の鳴き声かのような産声を上げ、それと同時に立体映像は消え去り景色が元に戻る。

 明かされた真実に、オートボットも女神も言葉を失っていた。

 どういうわけか、これが嘘偽りない真実であると、納得出来てしまったからだ。

 ゆっくりと、センチネルはオートボットを見回す。

 

「……これで分かっただろう? シェアエナジーとは……オールスパークの力なのだ。このゲイムギョウ界は、オールスパークによって成り立ったのだ。……どうだオートボットたちよ、我らの下にオールスパークを、昔日の栄光と溢れる生命を取り戻そうとは思わんか?」

「そのための……シェアを奪う機械、というワケね……!」

 

 ブランはすぐに理解した。

 ここのところの不自然なシェアの動き。他の国のシェアが減るのと同じ分だけプラネテューヌのシェアが上がる。

 あれは、やはり誰かがシェアアブソーバーを使ったからだろう。

 センチネルは頷く。

 

「そうだ。この世界からシェアエナジーを全て取り戻し、惑星サイバトロンに齎す。……メガトロンもそうしようとしていた」

 

 チラリとセンチネルは傍らに立つメガトロンを見た。破壊大帝は、沈黙を貫いている。

 エディンの戦いは、つまるところシェアエナジーをゲイムギョウ界から奪うための物だったのだ。

 オプティマスはそれでも反論する。

 

「しかし! 我々が調べた時は、オールスパークのエネルギーとシェアエネルギーは似て非なる物だと結果が出ました!」

「それは、お前たちがエネルゴンキューブを介したエネルギー波形のデータしか持っていなかったからだ。……オートボットたちよ……この真実を知ってなお、ゲイムギョウ界を守るのか?」

「……もちろんだ」

 

 センチネルの問い掛けに、まずジャズが静かに答えた。

 

「あんたが言いたいのは、つまりこの世界からオールスパークを取り戻そうってことなんだろうが、そうするとこの世界の皆が迷惑する。女神がいないと国が荒れるからな。……だったらまずは、両方救う道を模索しないとな! それがオートボットの使命だ!!」

 

 続いて、アイアンハイドが両腕の砲をセンチネルに向けながら好戦的に笑む。

 

「それに正直、ここの連中に情が移り過ぎた。今更、見捨てることなんざ出来ねえんだよ!!」

 

 ミラージュはゆったりと両腕のブレードを構える。

 

「俺は最初、この世界の連中が嫌いだった。……しかし、ここで過ごすうちに、こいつらのことが好きになってきた。……ここは守るに足る世界だ」

 

 そしてオプティマスも大きく頷いてから師を見据えた。

 

「それにシェアエナジーがオールスパークの力であり、女神がそれによって生まれるなら、我々にとっては兄妹のような物ではありませんか!!」

 

 オートボットたちの言葉に、女神たちはそれぞれ笑んで女神化し、パートナーの横に並ぶ。

 センチネルは、そんなオートボットと女神を無表情に見ていたが、その目が僅かに揺れていた。

 オプティックに浮かんでいるのは、動揺……あるいは感心、だろうか?

 

「……兄妹? 馬鹿を言うな。見るがいい、その臭い蛋白質とカルシウムの塊の体、何よりも自らの複製を肉の間からひり出す『女』という、醜い化け物の姿を!!」

 

 答えたのは感情の読めない顔の老雄ではなく、祭壇の上に立つ、黒衣の男だった。

 憎悪……と言うのも生温い怨念に満ちた言葉に、一瞬唖然とするネプテューヌたちだが、すぐにノワールが持前の勝気さを発揮して吼える。

 

「何言ってるのよ! あなただって、母親が生んでくれた人間でしょう!」

「いや、この流れだと多分……」

 ネプテューヌは敵の正体を何となく察っする。

 

「グルルルゥ、そう! 奴、人間、違う! もっと恐ろしい者!! 破滅を呼ぶ、黒き神!!」

「黒き神……セターンを滅ぼしたという、あの?」

 

 最大級の怒りと警戒心を剥き出しにするグリムロックに、オプティマスはセターンの遺跡で見た壁画を思い出していた。

 ダイノボットたちが守護するセターン王国は、黒き神とその眷属に攻め入られ、その時の戦いの余波で結果的に滅びてしまったのだ。

 思考するオプティマスや唸るダイノボットを、スノート・アーゼムは祭壇の上でせせら笑う。

 

「もうよかろう、センチネル。こやつらは、お前の温情を無碍にしたのだ」

「は……」

 

 センチネルが頷きアーゼムは振り返ると、足元の岩盤を突き破って無数の機械触手が現れた。

 機械触手はレイに向かって殺到し、その先端がレイの肌に突き刺さり、肉に食い込んでいく。

 

「ぎゃあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッッ!!」

「レイさん!!」

 

 激痛に悲鳴を上げるレイに、たまらずネプテューヌが女神化して接近しようとする。

 しかしその前にメガトロンが立ちはだかった。

 

「! メガトロン!! 貴方はいいの!? レイさんをあんな目に合せて!!」

「…………サイバトロンの、ためだ」

 

 感情を殺した顔のメガトロンは、平坦に言う。

 そんなメガトロンにネプテューヌは怒りを募らせとともに違和感を覚えた。

 レイとは違った意味で、破壊大帝からは生気が感じられない。まるで、何か心折られてしまったかのように。

 その間にも状況は進む。

 

「フフフ、ついにこの時が来た……!」

「何だ! 神殿が揺れてるぞ!」

 

 ジャズが叫んだ通り、空中神殿が大きく震え、女神やオートボットからは見えないが、空中神殿の底部の土砂を振り落として、何かが現れた。

 

 逆向きの台座のようなパーツを、六本の昆虫の節足のようなパーツが取り囲んでいる。節足は内側に向かって何かを掴もうとするかのように曲がっていた。

 

 そして節足の中央、台座の直下には、虹色の光が輝いていた。

 

「っう……! 何なの、こ、これは……!」

「力が……抜けていきますわ……!」

「やっぱり、あのシェアを奪う機械がここに……!」

 

 場所は戻り、ストーンサークルでも異変が起きていた。

 ノワールも、ベールも、ブランも苦しげに呻きながら、地面に降りる。

 女神たちの肉体から、その力の源であるシェアエナジーが抜けていっているのだ。

 

「ネプテューヌ! 皆!」

「で、でも、こんなに力が奪われるなんて……!」

 

 オプティマスに助け起こされながら、ネプテューヌは苦痛を感じながらも疑問に思う。

 かつてのエディンで使われていたシェアアブソーバーでは、女神から直接シェアを奪うことは出来なかった。

 

「この神殿のシェア収穫装置(シェアハーヴェスター)を、メガトロンが用意した装置と一緒にしてもらっては困るな」

 

 アーゼムは心の底から嘲笑しているといった様子でネプテューヌたちを見下ろす。

 痺れを切らしたグリムロックが襲い掛かる。

 

「無駄話は終わり! 黒き神! 覚悟!!」

「貴様!!」

 

 センチネルが阻もうとするが、その瞬間横合いからスラッグが角竜に変形して突進してきた。

 

「俺、スラッグ! 難しいことはブッ飛ばしてから考える!!」

「ぬう!?」

 

 背中から腐食銃を抜く間もなかったセンチネルは盾を構え、闘牛士のようにヒラリヒラリと突進を躱す。

 

「粉砕! 玉砕! 大喝采!!」

 

 メガトロンはおっとり刀で動き出そうとするが、次の瞬間には飛び退いて、棘竜に変じて跳躍し背中から落ちてきたスコーンを避けた。

 

「お命、頂戴!!」

「ッ! 相も変らぬ獣っぷりよな!! セターンの騎士ども!! ……がッ!!」

「セターン王国が風の騎士、ストレイフ様を忘れてもらっちゃ困るぜ!」

 

 いかなる力による物か、アーゼムが手をかざすと見えない壁がグリムロックのメイスを受け止めるが、後方から飛来した双頭の翼竜、ストレイフの爪が黒いローブ諸共その肉体を引き裂く。

 

 だが、アーゼムの体から散らばったのは、臓物でも肉でも増して血でもなかった。

 歯車、バネ、ネジ、それに金属製のパーツの数々。

 それらが地面に散乱するも、仮面だけは空中に浮かんでいた。

 仮面にさらにメイスで殴りかかるグリムロックだが、仮面から放たれた波動によって吹き飛ばされた。

 異様な光景に、オプティマスが思わず問う。

 

「お前はいったい……!」

「……この体は端末に過ぎぬ。俺の本来の体は兄弟たちによってスペースブリッジでさえ接続できぬ異次元に封印され……そして今、戻ってくる準備が整った!! さあ、愚かなる女神よ! お前の本来の力は次元に干渉することが出来る! その力を持って、俺を呼び戻すのだ!!」

 

 アーゼムの仮面の声に合わせ、レイに突き刺さったコードからシェアエナジーが送り込まれ、無理矢理に女神としての力を引き出す。

 

「あああ、あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!」

 

 レイの悲鳴が上げ、それに呼応するように天空の黒雲が渦巻いていく。

 

「いかん! 止めるぞ!!」

 

 アーゼムが何をするにせよ阻止するべく、オプティマスは仲間たちに号令をかけ、レーザーライフルで宙に浮かぶ仮面を狙い撃つ。

 しかし、祭壇の周りにエネルギーの障壁が現れ、光弾が霧散した。

 

「ッ! フォースバリアか!!」

 

 他のオートボットやダイノボットも祭壇に攻撃するも、同じように防がれてしまう。

 

「ハハハハ! 神殿の機能が回復した今、何をしても無駄骨よ! ……さあ、見るがいい!!」

 

 レイの悲鳴が最高潮に達すると同時に、仮面が砕け散り、祭壇から天に向かって光が伸びる。

 

 そして、空が割れた。

 

 レイやロディマスが普段開くのとは違う、もっと無理やりに空間を繋げた感じだった。

 割れ目の向こうに広がるのは、想像を絶する世界だ。

 何もかもが『こちら側』の法則に当てはまらない、そんな空間の彼方から何かがこちらに向かってやってくる。

 

 オートボットの英雄オプティマスが、

 歴戦の強者揃いのオートボットたちが、

 伝説の騎士団ダイノボットが、

 怖い物知らずのネプテューヌが、

 負けん気に溢れるノワールが、

 勇猛果敢なブランが、

 誇り高いベールが、

 寝返ってなお、超然としていたセンチネル・プライムが、

 そして誰もが恐れる破壊大帝メガトロンが、

 

 そのシルエットを垣間見ただけで圧倒された。

 

 やがて『それ』が空の割れ目を完全に抜け、その全貌が明らかになる。

 

 細身ながらも、オプティマスやメガトロンを凌ぐ巨躯。

 曲線的なパーツで構成された黒い金属の体は、所々がその内側に満ちる得体の知れないエネルギーで赤熱しているかの如く発光している。

 八本もの細長く湾曲した指が、長い杖のような物を握っていた。

 そして縦に長い太古の王朝の仮面にも似た顔は、計り知れない怨嗟と狂気で彩られ、何処かディセプティコンのエンブレムを思わせる……いや、エンブレムの方がこの顔を模しているのだ。

 

 裂け目が閉じると同時に、圧倒的な力と存在感を纏って祭壇の上にゆったりと降り立った『それ』は、この場にいる者たちを睥睨すると、突然声を上げて笑った。

 

「はははは、ふはははは!!」

 

 得体の知れない闇の彼方から轟くような、悍ましさを孕んだ笑い声だった。

 哄笑に合わせて、背骨や顔の縁に沿って並んだ羽根のようなパーツが蠢く。

 ひとしきり哄笑した『それ』は、大きく腕を広げて天を仰ぎ吼えた。

 

「見ているか、兄弟たちよ! 永い時を経て、堕ちし者(ザ・フォールン)がこの世界に舞い戻ったぞ!!」

 

 最初の13人が一柱。

 闇に堕ちたプライム。

 ディセプティコンの創始者。

 兄弟殺しの裏切り者。

 かつてメガトロナス・プライムと呼ばれていた者。

 

 ……堕ちし者(ザ・フォールン)が、ここに降臨した。

 




そんなワケで、今回は伏線回収回でした。

メガトロンが最初からシェアエナジーを狙ってたのも、それがオールスパークの力だから。
セターン王国にエネルゴンが埋まってたのは、そこにオールスパークinエネルゴンキューブが墜落したから。
女神が変身できたりTFと恋愛関係になったりテックスペックがあったりするのは、彼女たちがオールスパークによって生まれた命、いわばTFの一種だから。

そして、ゲイムギョウ界は世界その物がオールスパークが宿った容れ物。

これらのことは、セターン関連を除き作品を書き始めた当初からあった設定です。

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