超次元ゲイム ネプテューヌ THE TRANSFORMATION   作:投稿参謀

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ネプテューヌもVⅡRの発売が近づいてまいりました。

……それはそうと、トランスフォーマーアドベンチャーの新シリーズはまだですか?


第143話 急転直下

「あーほら、並んで並んで! こら! 隣の子のお菓子を取るんじゃねえ!」

「…………」

「さて、子供たちのために、もう一曲ご機嫌なのを流そうか! ……そうか、変身ヒーローの曲がいいか」

 

 プラネタワーで行われているダイナマイトデカい感謝祭は、相変わらずの大盛況だった。

 オートボットとのふれあいコーナーには、アイアンハイドらも加わってより賑わっている。

 

「やれやれ、まったく。他国の女神が来たっていうのに、みんなオートボットに夢中なんだから」

「いいじゃありませんの。オートボットの皆さんが、それだけゲイムギョウ界に馴染んだということで」

「それはそう……なんだけど、最近のシェアのことを思うと、ちょっとね……」

 

 女神たちは色々言いながらも、そつなく人々の相手をしている。

 

 さしあたって、感謝祭は大成功と言えた。

 

 そんな会場を見渡し、オプティマスはウンウンと満足げに頷いている。

 

「オプティマスさん、お疲れ様ですぅ」

「コンパ、君こそお疲れ様。……おや? アイエフは?」

 

 怪我をした女の子の治療……擦り傷に絆創膏を貼っただけだが……を終えたコンパが、声をかけてくるが、いつも一緒の諜報員がいない。

 

「いーすんさんを呼びに行きました! 国民のみなさんに挨拶してもらうです。本当なら、ねぷねぷの仕事なんですが……」

「なるほど、確かにネプテューヌたちの帰りが遅いな。そろそろ連絡を入れてみるか……」

「おーい、オプっちー! みんなー! ただいまー!」

 

 そんなことを考えていたオプティマスだが、調度そこにネプテューヌが帰ってきた。

 後ろにはゆったりした足取りでセンチネル・プライムが歩いてくる。

 

「ネプテューヌ、センチネル」

「……何と言うか、実に盛大だな」

 

 センチネルは賑わう会場を見回しながら少し居心地が悪げだった。

 そこへ、展示用のトランスフォーマーの玩具を並べ終わったアブネスが黒子たちを引き連れてやってきた。

 

「おわったわよー……って! また有害なロボットが増えてる!!」

 

 先代司令官の姿を見とめたアブネスはすぐに目を吊り上げてキャンキャンと吠える。

 オプティマスは辛抱強くアブネスを諭そうと試みた。

 

「アブネス、彼はセンチネル・プライム。先代のオートボット総司令官で私の師に当たる……」

「そんなのはどうでもいいわよ!! おんなじ機械でしょ!!」

 

 しかしアブネスはヒステリックに叫び、センチネルは少し不愉快そうに顔をしかめる。

 ネプテューヌが二人の間に割って入る。

 

「その言い方は何かオバサンみたいだよ! 角が二本あって白けりゃガ○ダムってみたいで! いや確かにセンチネルはガン○ムっぽい角だけど!」

「何よ! ○ンダムもトランスフォーマーも、ロボットには違いないでしょ!」

「それ以上いけない! その台詞はファンを敵に回すよ!」

 

 言い合う二人を、センチネルは何となく額の角を撫でながら、冷えた目で見下ろしていた。

 オプティマスは二人を止めようとするが、突然頭上の空間に『穴』が開き、ロディマスが飛び出してきた。

 

「ロディマス? どうしたんだ」

 

 自身の能力で何処からか跳んできた雛を受け止めたオプティマスだが、ロディマスは何かを訴えかけるように激しく鳴いている。

 

「ああーちょっと泣いてるじゃないの! レイは何処に行ったのよ、可哀そうに……」

「トランスフォーマーは嫌いなのでは?」

「幼年幼女に善悪も貴賤は無いわ!! それにワタシはトランスフォーマーが嫌いなんじゃないの! 人間だろうが、女神だろうが、トランスフォーマーだろうが、ガンダ○だろうが、子供に悪影響を与えるなら何だって嫌いなの!!」

「…………ああ、それは豪気だな」

 

 今までから一転、ロディマスを心配するアブネスに意外そうな視線を向けるセンチネルだが、彼女の答えに初めて感心した様子を見せる。

 

「ロディマス!? どうしたの!」

「いったい何が……」

 

 ロディマスの様子からただ事ではないと感じ取ったネプテューヌとオプティマスだったが、そこへイストワールがアイエフを伴ってやってきた。

 変わらず本に乗って浮遊しているが、表情は切羽詰まっていた。

 

「オプティマスさん!」

「あ、いーすん! ちょうどいい所に! レイさん見なかった?」

「ネプテューヌさん、申し訳ありませんが、それどころではありません」

「どうしたんだ?」

 

 ネプテューヌの言を切り捨て、イストワールはオプティマスに向かい合う。

 

「……ついさっき地下監獄から連絡がありまして、メガトロンが消えたそうです」

「ッ!? 何だって!!」

 

 通信を聞いてオプティマスとネプテューヌは揃って驚く。

 仮に拘束を外したとしても警戒厳重な地下監獄から、『消える』はずがない。必ず痕跡が残るはずだ。

 ……それ以前に、今のメガトロンがロディマスを置いていなくなるだろうか?

 

「ちょっと、デカいの! あそこに幼年幼女が閉じ込められているわ! 早く助けなさい!!」

 

 考えていると、アブネスの声が飛んできた。

 見れば、何かアクシデントがあったのか観覧車が止まっていて、上の方のゴンドラに乗った子供が窓を叩いている。

 トラブルメーカーな自称幼年幼女の味方だが、今回は言う通りだ。

 

「バンブルビー、ネプギア、頼む」

「『了解!』」

「はい!」

 

 ロディマスが離れようとしないので、オプティマスはバンブルビーとネプギアに指示を出す。

 さっそく女神化したネプギアが飛んでいこうとするが、それより早く動いた者がいた。

 

 センチネル・プライムだ。

 

 いつの間にか観覧車の傍に立っている。

 しかし、そこで彼は驚くべき行動に出た。

 

 背中から銃を抜き、観覧車に向けたのだ。

 

「センチネル!? 何を……」

「全員、その場から動くな。……子供たちの命が惜しくば」

「センチネル! 今は冗談を言っている場合では……」

 

 師が何をしているのか理解できないオプティマスに、センチネルは瞬時に観覧車横のメリーゴーランドに向け一発だけ銃を発砲した。

 

 銃口から飛び出したのは、弾丸でもエネルギー弾でもなく、霧状の薬液だ。

 

 それが回転木馬の馬の一つにかかると、馬は瞬く間に赤茶けた錆びに覆われていく。

 錆は馬に(とど)まらずメリーゴーランド全体に凄まじい速さで広がり、やがてメリーゴーランドは自重に耐え切れずグシャリと潰れ、さらに砕け散って細かい錆の粉と成り果てた。

 しかし回転木馬に乗っていた人間たちは、金属製のアクセサリーや衣服の金具が錆びて崩れたものの、傷一つなく錆の山から這い出てくる。

 

 これこそが、センチネルの銃……あらゆる金属を喰い尽くすコズミックルストを撃ち出す

 彼自身が開発した腐食銃の力だ。

 

 静まりかえる一同を見回し、センチネルは改めて観覧車に腐食銃を向ける。

 

「コズミックルストは有機体には作用しない……が、観覧車が錆によって崩壊すれば、中にいる者は重力に引かれ床に叩き付けられる……この意味が分かるな? 嫌ならば、儂の物を返してもらう。スペースブリッジの中心柱をこちらに渡すのだ」

 

 感情の感じさせない声で言うセンチネル。

 スペースブリッジのコントローラーである中心柱は、教会に預けられていた。

 オプティマスは何が起こっているのか、まるで分からなかった。

 

「センチネル、いったい……」

「オプティマス、これは必要なことなのだ。敗北は最初から決まっていた。……サイバトロンを救うには、取引するしかなかったのだ」

「メガトロンに……魂を売ったって言うの?」

 

 剣を召喚したノワールが怒りと悲しみを込めて言う。

 しかし、センチネルは口元にワザとらしい嘲笑を浮かべた。

 

「いいや、儂が取引したのはあのような小物ではない。……もっと偉大な存在だ」

 

 オートボットたちは混乱していた。

 当たり前だ。絶対に裏切らないと思っていた存在が、裏切っていたのだ。

 

「グルルルゥ! 裏切り者、許さない!!」

「! やめろ、グリムロック!!」

 

 この不名誉な行いに、壮絶な怒りを感じ飛びかかろうとする騎士を、ヴイ姫が止める。

 下手に動けば、子供たちに被害が出る。観覧車のゴンドラの中で、幼い姉妹が恐怖に震えていた。

 センチネルは、一瞬怒気を膨らませて吼える。

 

「さあ! 柱を返すのだ!! ……儂に、子供を撃たせるな!!」

「……分かったよ。いーすん、持ってきて」

「ネプテューヌ!! 言うことを聞く気!?」

「仕方ないよ。……命の方が、大事だもん」

 

 人命を優先し、大人しく従うネプテューヌに、ノワールが厳しい声をかけるが、この国の女神は悲しげに首を振った。

 

「……分かりました。少々お待ちを」

 

 イストワールが女神の意を汲んで、柱を取りにいく。

 そんな中、オプティマスは茫然としていた。こんなことは有り得ない。

 

「センチネル、何故なのです。……まさか、ディセプティコンに洗脳されて……」

「いいや、弟子よ。これは儂の決断だ。惑星サイバトロンを救うためには、時に残酷な決断も必要なのだ。……お前には、その覚悟が足りていなかった」

 

 こんな時なのに、周囲から敵意を向けられているのに、センチネルは超然としてオプティマスに諭すような口調で語る。

 

「そっちの女神もだ。……為政者として甘さを捨てられない限り、いつか後悔することになるぞ」

「ならないよ。国民の祈りが、女神の力だもん」

「…………」

 

 キッパリと言い切るネプテューヌに、センチネルは一瞬何とも言えない顔を向けるが、すぐに表情を消した。

 それを最後に全員が沈黙する……はずもなく、アブネスが吼えた。

 

「ついに正体を現したわね! この幼年幼女に悪影響を与えるロボット!!」

「…………」

「何とか言いなさいよ! やっぱりオートボットもディセプティコンも同じね! 戦争するなら、勝手にやってなさいよ!! ワタシたちは関係ないんだから!!」

「……柱はまだか」

 

 アブネスを無視して、センチネルは銃の引き金にかけた指に力を込める。

 

「ち、ちょっと待ってよ! いーすんはみっかかかるのがお約束で……」

「そんなに掛かりませんよ。……お持ちしました」

 

 ネプテューヌがセンチネルを宥めようとしていると、ちょうどイストワールが中心柱を抱えたアイエフを伴って現れた。

 

「こちらに持ってくるのだ。……プラネテューヌの女神、お前が持ってこい」

「……分かったよ」

 

 心配そうな顔のアイエフから柱を受け取り、ネプテューヌはセンチネルへと近づいていく。

 センチネルは感情を排した顔でプラネテューヌの女神を見下ろした。

 

「今一度言う。……後悔するぞ。今、非情な決断をすれば、お前たちにとって最悪の事態は避けられる」

「国民を守るのが、女神の役目だもん。……プライムもそうでしょ?」

「プライムが守るのは、惑星サイバトロンの未来だ。……ゲイムギョウ界の平和では無い。それが、当然の取捨選択だ」

 

 センチネルは銃口を観覧車から逸らさずに柱を受け取る。

 

「……愚かだな、どこまでも。お前は破滅の道を自ら選んだのだ」

「その前に、アンタが破滅するかもな」

 

 いつの間にか、アイアンハイドがセンチネルの横に立ち、腕のキャノン砲を突き付けていた。

 反対側には、ミラージュがステルスクロークを解除して姿を現す。

 

「銃を下ろせ、センチネル」

「プライムである儂に武器を向けるのか?」

「……俺たちのプライムはアンタじゃない」

 

 センチネルとやり取りしつつもミラージュは両腕のブレードを油断なく構える。

 一つ排気したセンチネルは、不敵に笑み……その時、建物が揺れ出した。

 

  *  *  *

 

 突然、それまで快晴だった空に分厚い暗雲が立ち込め、雷が轟く。

 地面が揺れだし、罅割れていく。

 そして、ビル群を押し退けるようにして、地面の下から巨大な物体が浮上してきた。

 それだけで大惨事であるが、幸いと言うべきか元々無人の区画であった上に今日のダイナマイトデカい感謝祭に人が集まっているため、未だ人的被害は少ないが……。

 

 建物と大量の土砂を押し退けながら地中から現れた『それ』は、巨大な下向きの円錐の形をしていて、表面は建物の残骸や土砂に覆われているが、底面に当たる部分に街のような構造物群が乗っていた。

 浮上を続け、やがてある程度の高度に達した『それ』は、その場で静止した。

 『それ』を文字で表すとしたら……空飛ぶ島、だろうか。

 

 しかし、この島は有名な童話や名作アニメ映画に出てくるような夢とロマンを掻き立てる存在ではなく、不吉な……只々、不吉なオーラを放っていた。

 

  *  *  *

 

 揺れる感謝祭の会場で、オプティマスはロディマスを守るように抱えながら、窓の外に見える島を見上げる。

 

「アレは……まさか、伝説にあるタリの空中神殿!?」

 

 考古学的知識から、宙に浮かぶ島が何であるか、早々に当たりを着ける。

 と、グリムロックが重い足音と共に騎士姿のグリムロックが妙に真剣な顔でオプティマスの隣に並ぶ。

 彼の主君たるヴイ・セターンも霊体の状態で騎士の傍に現れる。

 

「グリムロック、ヴイ姫、どうしたんだ?」

「グルルルゥ……オプティマス、あの島、嫌な気配、する」

「ああ、幽霊の身で可笑しな話だが……寒気が止まらない」

 

 殺気立つグリムロックと、自分の肩を抱いて身を震わせるヴイ、そして腕の中で鳴き続けるロディマスに、尋常ならざる事態が起きていることを察知する。

 誰もが、異常事態にセンチネルから注意が逸れていた。

 その一瞬の隙を突き、センチネルは姿勢を低くして体を横に回転させ、アイアンハイドとミラージュの足を払う。

 

「何!?」

「ッ!」

「愚かな……!」

 

 すぐさま体勢を立て直そうとするミラージュだが、センチネルはその顔に回し蹴りを叩き込む。

 さらに組み付こうとしてきたジャズを、腐食銃を捨てるや目にも止まらぬ速さで背中から抜いた大型の盾、エネルゴンシールドで横薙ぎに殴打して叩き落とす。

 そのまま盾をしまい腐食銃を拾うと、立ち上がろうとしていたアイアンハイドの顔に押し当てた。

 

 あらゆる金属を腐食させるコズミックルスト。金属生命体が受ければ、もちろん……。

 アイアンハイドの表情が凍りつく。

 

「さらばだ」

「駄目!! トルネードソード!!」

 

 躊躇いなく引き金を引くセンチネルだが、銃口から薬液が飛び出すより一瞬早く、女神化したノワールの振るう大剣が、腐食銃を弾き飛ばす。

 それでも発射されたコズミックルストはアイアンハイドの頭のすぐ脇を通り過ぎて、後ろの仮設ステージに命中。ステージは赤錆に塗れて崩壊した。

 

「テンツェリントランペ!!」

「レイニーラトナピュラ!!」

 

 センチネルの左右から、やはり女神化したブランとベールが襲い掛かるが、老雄は柱を地面に落とすやブランを盾で、ベールをもう一方の腕で抜いた両柄の大剣、プライマックスソードで受け止める。

 

「ッ! 受け止めやがった!!」

「何て速さ! ……でも!」

 

 瞬間、ノワールがセンチネルに斬りかかる。

 

「ヴォルケーノダイブ!!」

 

 しかし、センチネルは裂帛の気合いと共にブランとベールを弾き飛ばし、大剣で太刀を防いだ。

 

「これにも反応するって言うの! メガトロン並みね!」

「儂に勝てると思うのか! 儂はサイバトロンのプライムだぞ!」

「そうかもね! でも、人質は助けたわ!」

 

 ノワールの言葉にセンチネルが首を回せば、観覧車に閉じ込められていた姉妹を、女神化したネプテューヌとネプギアが助け出していた。

 バンブルビーら他のオートボットやアイエフたちは、来場者を避難させているようだ。

 

「最初から、それが狙いか……」

「グルルルゥ……! ここからは、我らダイノボットが相手になる!」

 

 そして、センチネルの周りを四体のダイノボットたちが取り囲む。

 いかなプライムと言えど、太古の騎士四人を同時に相手にすることは出来ないはずだ。

 他のオートボットたちも、センチネルを包囲する。

 

 しかし、センチネルは余裕を失わない。

 

「馬鹿なことをしたな。観覧車の子供たちや他の人間たちに構わずにオートボットや女神が戦闘に加わっておれば、儂を葬れたものを」

 

 周囲のオートボットたちを見回し、センチネルは朗々とした声を響かせる。

 

「その上、銃器を一回も使わなかったな? この場にいる人間への被害を恐れてのことだろうが、以前のお前たちなら、この局面でそのようなことを気にはしなかった。……お前たちはゲイムギョウ界に馴染み過ぎた。この微温湯(ぬるまゆ)の世界に浸るうちに、牙を失ってしまったのだ」

 

 オートボットたちは互いに顔を見合わせた。

 プライムの声には、無視できない力がある。

 明確に裏切ってなお、センチネルはオートボットたちへの影響力を有していた。

 

「……だが何よりも惰弱なのは、お前だ。オプティマス」

 

 冷たい声に、一歩もその場を動いていなかったオプティマスはらしくもなくビクリと身を震わせた。

 

「動けなかったのだな? 儂への情ゆえか、あるいはその雛の身を案じたからか……いずれにせよ、この場面でお前は何もしなかった。感情に振り回され、決断を怠ったのだ」

 

 センチネルは冷厳とした視線でオプティマスを射抜く。

 裏切っておきながら、あまりに身勝手な物言いにネプテューヌは怒りを滾らせる。

 

「オプっちは! 師匠のあなたに裏切られたから、ショックを受けているのよ!!」

「それこそが、弱さだ。プライムは感情と思考を切り離さなければならない。いかなる時でもな。……それが出来んのなら、お前はプライム失格だ」

「……そんな! それじゃあ、本当に唯の機械じゃない! 心があるのが、唯の機械と貴方たちの差のはずでしょう!」

 

 思わず叫ぶネプテューヌだが、センチネルは冷たささえ存在しない本当に感情が無い表情になる。

 

「心か……心は素晴らしい物だが、時には弱点となる場合もある。事実、お前たちはこうして儂が逃げる時間を与えてしまったのだからな」

 

 その瞬間、センチネルの後方の空間に黒い『穴』が現れた。

 『穴』は球形に広がり、オートボットたちが何をする間もなくセンチネルと……その足元にあるスペースブリッジの中心柱、そして腐食銃を飲み込んだ。

 穴の中から、センチネルの声が響く。

 

「……そして何よりも、お前たちは道理を理解していない。大多数の幸福は、少数の幸福に勝る。お前たちにとって、切り捨てなければならない少数とは何か、よく考えるがいい……」

 

 それを最後に、穴は一瞬で消えてなくなり、センチネルの姿は無くなっていた。

 

 オプティマスは茫然と、今さっきまで師がいた場所を眺めていた。

 それから周りを見回せば、ついさっきまで人々が笑い合っていたダイナマイトデカい感謝祭の会場は、今や荒れ果てていた。

 

 メリーゴーランドと仮設ステージは錆の山と成り果て、横断幕は無残に千切れている。

 

 ふと足元を見れば、オプティマスの玩具が転がっている。その胸に、何かの欠片が刺さっていた。

 

 何故こうなってしまったのだろう。今日は、最高の日になるはずだったのに……。

 

「センチネル……何故なんだ」

「オプティマス、今は……」

 

 ジャズが、副官としての務めを果たそうとオプティマスに声をかける。

 

「…………ああ、分かっている。今のはレイのポータルに似ていた」

 

 オプティマスは思考を回し、ただちにレイの位置情報を確認する。

 首輪に仕込まれた監視装置によって、彼女の居場所が分かるはずだ。

 

 ……場所はすぐに分かった。むしろ予想通りの場所だったので拍子抜けするくらいだ。

 

「タリの空中神殿……やはりか」

「オプっち、あそこにレイさんが?」

 

 オプティマスの横にネプテューヌが並び、揃って窓の向こうに浮かぶ空中神殿を見つめた。

 

「ああ。おそらく、センチネルとメガトロンも」

「何が起こってるんだろう? 急展開すぎて、ちょっと付いていけてないよ。あれだよ、王道魔法少女アニメかと思ったら先輩魔法少女がいきなり頭をモグモグされたとか、日常系アニメかと思ったらゾンビ物だったくらいの急展開だよ」

 

 相変わらずよく分からないことを言うネプテューヌだが、声に力が無い。

 オプティマスは仲間たちに声をかけた。

 

「イストワール、すぐに首都全域に非常事態宣言と、避難命令を出してくれないか?」

「そうですね。その方が良さそうです」

「助かる。バンブルビー、アーシー、ジョルト、それにスティンガーと人造トランスフォーマーたち、この場は任せた。残りの者は付いてきてくれ」

『了解!』

 

 ジャズ、アイアンハイド、ミラージュがオプティマスの周りに集まり、当然とばかりに女神たちもそれぞれのパートナーに並ぶ。

 

「『司令官』『ご無事で……!」

「ああ、大丈夫だ」

 

 心配げなバンブルビーに笑いかけるオプティマス。

 そして、グリムロックらもいつになく真剣な面持ちで進み出た。

 

「オプティマス。ダイノボットも行く。裏切りには、罰を。……それに、あの島、きっと『奴』がいる」

「奴?」

「我らの、昔年の、敵。……恐るべき、古の悪」

 

 その口ぶりに、オプティマスは驚いた。誇り高きダイノボットが恐れを口にするとは。

 しかし、この状況に置いては彼らの力は頼りになる。

 オプティマスは大きく頷く。

 

「ああ、そうだな。頼む」

 

 表面上、オプティマスは動揺を打ち払い、総司令官としての威厳を取り戻したように見えた。

 しかし、ことはそう単純でないことは、ネプテューヌにも分かっていた。

 

「ねえ、オプっち。……無理、しないでね? 前にも言ったけど、わたし、オプっちが幸せじゃないと、全然幸せになれないからね? あれ、冗談じゃないから。メンヘラって言われようが、本気だから」

「………………………分かっているさ」

 

 随分と間を置いてから、オプティマスは答え、それから皆に向かって力強く宣言する。

 

「……皆、行こう。タリの空中神殿へ!」

 

 

 

 

 

 その背中を見つめるネプテューヌの胸の内には言い知れぬ不安が渦巻いていた。

 

 ……何か、何か、例えようもないくらいに恐ろしいことが起ころうとしている。そんな予感が。

 




……まあ、いつかは来る時が来ました。

今回の解説。

角が二本あって白ければガ○ダム。
知らない人から見れば、TVゲームは全部ファミコン、みたいな感じ。
……実際、センチネルのデザインはガン○ムやエルガ○ムを参考にしてるとか……。

腐食銃
コズミックルスト(宇宙錆)を撃ちだす銃で、皆のトラウマ。
原作ではアイアンハイド、小説版ではさらにツインズと……も犠牲になっている。
この作品では、アイアンハイドは死亡フラグを回避……?

空中神殿
原作では大陸。
しかし、いくらなんでも大陸言うには小さいだろうと思い島と表現。

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