超次元ゲイム ネプテューヌ THE TRANSFORMATION 作:投稿参謀
ロストエイジと三部作を見て改めて思ったこと。
……サム、君はやっぱり、すごい奴だったんだな。
第14話 オートボット基地
さて今日の超次元ゲイム ネプテューヌ THE TRANSFORMETIONは、プラネテューヌ某所、オプティマスが最初に運び込まれた、あの地下倉庫から物語を始めよう。
オートボットはここを臨時基地とし、活動していた。
この地下倉庫、やたらと広い上に部屋数があり、基地にはちょうど良かったのだ。
そのなかの一室、機械が所狭しと設置された部屋。
「ふむ…… 興味深いな」
そこでは、一体のオートボットが台の上に置かれた、女神の瞳に浮かぶ模様と同じ形をした、小さな結晶……シェアクリスタルを眺めていた。
そのオートボットは暗めの青い色のボディに老人を思わせる顔をしていて丸眼鏡のような物をかけている。周りにはオプティマスとラチェットもいた。
「あの、そろそろよろしいですか?」
そこに声をかけたのは、プラネテューヌの教祖イストワールだ。
「ああ、かまわんよ」
老人オートボットは、そう言ってシェアクリスタルをイストワールに返す。
「それでどうだった? ホイルジャック」
ホイルジャックと呼ばれた老人オートボットはオプティマスの方を向き、首を横に振った。彼はあの戦いのあと合流したオートボットの一体で、機械技師であり科学者だ。
今は女神と教祖の許可をもらい……教祖はともかく女神は二つ返事でOKを出した……シェアクリスタルを調べていたのだった。
「確かに、このシェアクリスタルからはオールスパークとよく似たエネルギー波形が発せられている。だがこれがオールスパークか、と聞かれればノーだ」
「……そうか、メガトロンがあそこまで執着していたので、もしやと思ったのだが……」
オプティマスは目を伏せる。せっかく掴んだ希望が水泡と帰してしまった。
「まあ、前向きに考えよう。これで少なくともこの世界の人々と揉めずに済む」
「……そうだな」
ラチェットが努めて明るく言い、オプティマスもそれに頷く。ものは考えようだ。もし仮に、シェアクリスタルがオールスパークと関係があった場合、この世界の住人、特に女神と争いになった可能性があったのだ。
「しかし実に興味深い、シェアエナジーだったかね、そのエネルギーと我々トランスフォーマーのスパークは共鳴し合い、お互いに強化できるようだ」
ホイルジャックが、ややマイペースに自分の考えを述べる。
オプティマスも、その言葉に心当たりがあった。メガトロンとの戦いの最中、オプティマスとネプテューヌ、双方が自身の限界を超える力を発揮したのだ。
それもシェアエナジーとスパークの共鳴により強化されたのだとしたら納得がいく。
「しかし、不思議だな。あの場で女神とともに戦っていたのはオプティマスだけじゃない、アイアンハイドにジャズ、ミラージュもだ。だが彼ら、そして一緒に戦っていた女神たちは、そこまで強化されたわけではなかった……」
ラチェットが疑問を口にした。
「そのことですが、仮説を立ててみました」
イストワールが横から口を挟んだ。三人のオートボットは本に乗った小さな妖精のような教祖に注目する。
彼女は控えめながら、しっかりとした口調で話しだす。
「おそらくですが、オプティマスさんとネプテューヌさん。お二人の信頼関係が重要なのではないかと」
「信頼関係?」
ホイルジャックが首を傾げる。イストワールは大きく頷いた。
「はい、シェアエナジーは国民の信仰がその源、言い換えるなら“信頼”の力なのです。ですから、お二人に芽生えた信頼関係がシェアエナジーとスパークの共鳴を呼んだのではないかと」
その言葉に、三人のオートボットは顔を見合わせる。オプティマス以外の二人は納得できないらしいのが表情から分かる。科学者でもある二人からすると、荒唐無稽な仮説なのだろう。
イストワールは言葉を続ける。
「信じられないのは分かります。しかし、シェアエナジーは私たちでさえ、その全貌を知り得ない神秘の力。そういうことも起こり得るのです」
「我々にとってのオールスパークのような物か」
オプティマスが納得したように言葉を出した。
オールスパーク、かつて宇宙に失われたトランスフォーマーたちの生命の源。なぜ、いつから、なんのために存在するのかさえ知れない神秘の存在。
オプティマスはシェアエナジーをそれと似た存在であると解釈した。
「まあ、シェアエナジーについては、いずれじっくり調べさせてもらうとして……」
四人は少しの間、それぞれ黙考していたがホイルジャックが言葉を出した。
「イストワール君、技術提携の件、感謝するよ」
「あ、いいえ、お互い様ですから」
ホイルジャックの感謝の言葉に、イストワールも頭をペコリと下げる。女神たちとオートボットの同盟に伴い、彼らとゲイムギョウ界の国々との間で技術提携がなされることになったのだ。
「しかし、正直に言わせてもらって意味はあるのか?」
ラチェットが渋い顔で言う。
イストワールの手前、言葉を選んだが、それは“我々にとって”意味があるのかという意味だ。
「いやいや、この世界、特にプラネテューヌの科学技術は部分部分では我々を凌駕していると言っていい。お互いに実りある取決めだよ」
微妙に空気を読まずにホイルジャックが明るい調子で言う。
イストワールはラチェットの言葉の意味を正確に察し、なおかつそれを意にも介さないホイルジャックに苦笑する。
オプティマスも頷いた。
「ああ、我々は協力しなければならない」
ディセプティコンの再度の襲撃に備えて、そしてオートボットがこのゲイムギョウ界で生きていくために、この世界の住人たちとの協力は欠かせない。
と、
「こんちわー! ここがオプっちたちのハウスね!」
明るい声を響かせて、誰かが部屋に入って来た。
オプティマスが振り返る。
「ネプテューヌか」
「うん、そうだよー! オプっち、今日は基地を案内してくれるんでしょ?」
そう言いながらオプティマスの足元までやって来たのは、もちろんプラネテューヌのグータラ女神、ネプテューヌである。
「ああ、そうだったな」
オプティマスは微笑むと屈みこんでネプテューヌの前に手のひらを差し出す。するとネプテューヌはその掌に腰掛けた。
「ではラチェット、ホイルジャック、後を頼んだ」
オプティマスがそう言うとラチェットとホイルジャックは頷き返事をする。
「ああ、分かった」
「また後でな、オプティマス」
二人の返事を聞き、オプティマスは手のひらの上のネプテューヌに話しかける。
「待たせてすまない」
「別にいいって! しかしあれだよね、私主人公なのに出番遅くない? もう今回2,500文字超えてるよ」
二人は談笑しながら部屋から出て行った。
「しかし…… オプっちか」
ラチェットが苦笑しながら言った。
「ああ、なかなか個性的なあだ名だな」
ホイルジャックも少しおどけた感じで言う。
しかし、二人とも否定的な響きはない。
「我らが総司令官には、少し息抜きが必要だからな。いい機会だ」
ラチェットがそう言うと、二人は少し笑い合う。なにせオプティマス・プライムは真面目で使命感が強く、それゆえに心労が絶えない。
そんなわけで、オートボットたちはネプテューヌのことをガス抜き役として期待していた。
「……お休みも良いのですけど」
イストワールが硬い声を出した。
「ネプテューヌさんには、お仕事をしていただかないと……」
その疲れたような声に、ラチェットもホイルジャックも肩をすくめて苦笑するのだった。
* * *
オプティマスがネプテューヌを手のひらに乗せて最初にやって来たのは、壁一面にディスプレイが設置された部屋だった。オートボットサイズのコンソールと椅子が置かれ、モニターと反対側の壁にはオートボットのエンブレムである柔和なロボットの顔が描かれていた。
「まず、ここが司令室だ」
部屋の中央に立ったオプティマスは厳かに言った。
「ここでは、世界中のオートボットとタイムラグなしで会話できる」
「へー、なんて言うか、ザ・基地って感じだね!」
ネプテューヌが陽気に言うとオプティマスは彼女を乗せている方とは反対の手で器用にコンソールを操作する。
するとディスプレイに三つのウインドウが現れ、それぞれに映像を映す。
それには右からジャズ、アイアンハイド、ミラージュの顔が映っていた。
「オートボット、定期報告の時間だ」
オプティマスが厳かにそう言うと、映像の向こうの三人は小さく頷く。
「まずはジャズ、そっちはどうだ」
「ヤッホー! ジャズー!」
オプティマスが厳かに、ネプテューヌが元気に声をかけると、ジャズは陽気な笑みを浮かべた。
「ああ、オプティマス。それとネプテューヌも、こっちは問題なしだ。とりあえずはな……」
ジャズは若干含みを持たせて言う。
「? なにかあったのか?」
オプティマスが聞くとジャズは微妙な顔になる。
「なに、女ってのは色んな顔があるもんだって話さ。気にしないでくれ」
「……そうか、ではアイアンハイド」
長い付き合いのオプティマスはそれ以上追及せず、アイアンハイドに視線を移す。
「アイアンハイドー! 元気してるー?」
ネプテューヌが手を振るが、黒いオートボットは「おう」と答えるも仏頂面だ。
「相変わらずだよ、お嬢ちゃんたちは俺たちのことを、害獣駆除の業者かナンかと勘違いしてるみてえだ」
不機嫌そうなアイアンハイドの言葉に、ネプテューヌは苦笑する。
「あ~、ノワールって人使い荒そうだもんねー」
「アイアンハイド、それも必要なことなのだ」
オプティマスは真面目な顔と声だ。
「我々を受け入れてくれた、恩返しだと思えば良い」
「へえへえ」
アイアンハイドは納得いかなげだが、他ならぬオプティマスの言葉には従う。
「では最後に、ミラージュ」
「おーい! ミラージュー!」
オプティマスとネプテューヌが最後のウインドウに映った赤いオートボットを見る。
「……オプティマス」
ミラージュはネプテューヌを無視し、オプティマスに対して疲れたような声を出した。
「有機生命体と歩調を合わせると言ったのは俺だ、あのチビと組むことも百歩譲って許容する。……だが、なんで、よりにもよって双子と組まなきゃならないんだ!?」
彼らしくない悲痛とさえ言える声を上げるミラージュに、オプティマスはあくまで真面目な顔で返す。
「ミラージュ、年下の者を育てるのも戦士の仕事だ」
「だとしても! 明らかに俺向きの仕事じゃないだろう!」
叫ぶミラージュの姿に、ジャズとネプテューヌは笑いをこらえている。一方、アイアンハイドは神妙な態度だ。
「まあ、それも良い経験だ。スタンドプレーばかりじゃ一流の戦士とは言えないぜ」
黒いオートボットの言葉に、ミラージュはブスッとして黙り込む。
「まあ、皆変わりないようだな。引き続きディセプティコンの動きに警戒しつつ、女神たちの仕事を手伝ってくれ」
「了解」
「おう」
「……ああ」
オプティマスの言葉に三人のオートボットはそれぞれ返事をして通信を切る。
「いやー、みんなとりあえず馴染んだみたいで、良かったね!」
「ああ、そうだな」
ネプテューヌの呑気な言葉に、オプティマスが小さく笑う。
オートボットたちは現在、各国に常駐し有事に備えつつ、女神の仕事を手伝っている。
女神の仕事を手伝うのは、住む場所とエネルギーを提供してくれる恩を返すためでもあるし、オートボットのイメージアップ戦略の一環でもある。
この前の戦いで民衆に受け入れられたとはいえ、オートボットを歓迎しない人々もいるのだ。
ちなみに各国へ誰を派遣するかは各員からの意見をもとに、オプティマスが決めた。
結果、アイアンハイドとサイドスワイプがラステーションに、ミラージュと最近発見された双子のオートボットがルウィーに、そしてジャズが本人のたっての希望によりリーンボックスに厄介になることになった。
オプティマスとしては、これで部下たちが女神との間に信頼関係を結んでくれればと思っている。
だが、先はまだまだ長そうだ。
* * *
次に二人が訪れたのは、巨大な格納庫だった。
オプティマスでさえ普通の人間の大きさに見えるような途方もない広さがあり、ここの奥の坂は地上へ通じていて、カタパルトも兼ねていた。中央には数台のこれまた巨大な輸送機が鎮座している。
「ここは輸送機の格納庫だ」
「おおー!」
ネプテューヌが辺りを見回すと、何十人もの作業員たちが仕事をしている。
「有事の際には我々はこれに乗り、世界中に駆けつけることが出来る」
「ふえー、でっかーい!」
オプティマスとネプテューヌは輸送機を見上げる。
「最大77トンまで載せられ、理屈の上ではゲイムギョウ界の反対側に5時間で移動する速度を持つ。まさに我々のためにあるかのような輸送機だ」
「おおー、すごい!……でも」
ネプテューヌは首を傾げる。
「わたし、こんなの造ってたなんて聞いてないよー? なんでー?」
いくらなんでも、これだけの物を造れば女神である自分の耳に入るはず。資金だって必要なはずだ。
ネプテューヌの言葉が響いた瞬間、作業員たちが居心地悪そうになる。
実はこの異様な広さの地下倉庫と巨大な輸送機、プラネテューヌの科学者たちが資金を押領し教会に秘密で造ったのだ。
別に国家転覆とか世界征服とか企んでのことではない。主犯者は「必要だから造ったんじゃない。造りたいから造ったのだ。芸術に理由などない」と悪びれずに言ったそうな。
それを聞いたときのイストワールはすばらしい笑顔でこう言った。
「そうですか、では裁判を楽シミニシテイテクダサイネ」
実はここの作業員たちはその時の関係者がほとんどで、減刑と引き換えに無償で働いているのである。それでもどこか楽しそうなあたり、業が深い。
「まあ、後でイストワールにでも聞くといい」
オプティマスはこの場所を借りている手前、困ったように言うのだった。
* * *
「そして、ここが開発室だ」
最後に二人がやってきたのは、無数の機械が所狭しと並んでいる部屋だった。
「その名の通り、我々の武器や道具を開発する場所だ」
「へー!」
ネプテューヌが呟いた瞬間、大声が室内に響く。
「このグズが! こんな簡単なことも分からねえのか!」
「おら、テメエらさっさと作業しねえとノロマなやつから、その役立たずのタマを引っこ抜くぞ!」
「ちげえっつってんだろが! その頭にはクソが詰まってんのか! さっきと工程が違う? 口答えすんじゃねえ!」
とてつもない罵詈雑言の列挙。ネプテューヌでさえ目が点になる。
そこでは三体のオートボットの指揮の下、人間の技術者たちが作業していた。
オプティマスがオプティックを鋭く細めた。
「レッカーズ。手荒にならないようにと言っただろう」
大きくはないが良く響くその声に、三体のオートボットたちが振り返る。
そのなかの一体、緑の身体をもったオートボットが一歩進み出て反論してくる。
「そうは言うけどよ、オプティマス! こいつら、てんで使い物にならねえんだぜ」
その後ろに立つ、赤い太った男性を思わせる姿のオートボットは大袈裟に肩をすくめる。
「まあ、プラネテューヌの奴らは、まだマシだけどな。他の国の連中ときたら、タマなし野郎ばっかりだ!」
最後の青い一体も頷いて見せる。
最初、技術提携はプラネテューヌのみと行われる予定だったが、他の国の女神たちが黙っているはずもなく、友好条約を結んでいるのを理由に技術の開示を要求してきた。
それに対する国家の最高責任者たる女神の「いいよー!」の一言により、オートボットの科学技術は各国に惜しみなく開示されることとなった。
ここらへんが、プラネテューヌの女神が国家運営のセンスの無いと言われる所以だろうか。
そんなわけで各国の技術者たちが、この基地に集ったのだが……
オートボットの優秀な技術者集団の熱烈な歓迎に耐えられたのは結局のところプラネテューヌの技術者たちだけだった。
彼らは、どれだけ口に出すのを憚れるような罵詈雑言をぶつけられようが、武器を突きつけられようが目を輝かせて技術を吸収しようとするのである。
他の国の技術者たちはオートボットに教えを乞うより、後々プラネテューヌの変態的な技術者たちに頭を下げるほうが得策と判断し、その約束をとりつけると、それでも技術をモノにしたいと言う奇特な者たちを除いては早々に帰国していった。
オプティマスは、軽く排気すると頭痛を抑えるようにコメカミに指を当てる。
「そうは言うがな、我々は協力しあうことになったのだ。もう少し友好的に……」
「甘いぜ、オプティマス!」
緑のオートボットは言葉を返した。
「宇宙じゃ、完璧か、まったく役に立たねえかの二択だ! グズに用はねえんだよ!」
「そうだぜ! 役立たずはぶっ殺せ!」
後ろの赤のオートボットもそれに同調し、青いオートボットも無言で頷く。
「しかしだな、程度と言うものが……」
「ねえ、オプっち!」
過激なことを言う三体のオートボットを諌めようとするオプティマスに、その手のひらに乗ったネプテューヌが声をかけた。
「この三人のこと紹介してよ! わたし、初対面だからさー」
空気など読まぬ呑気な言葉に、毒気を抜かれたオプティマスは苦笑する。
「ああ、そうだったな、ネプテューヌ。彼らはレッカーズ、我がオートボット最高の技術者たちだ。……多少、乱暴な部分はあるが、信頼できる腕前の持ち主たちだ」
手のひらに座る紫の女神にそう言うと、レッカーズに向き直る。
「緑のボディの彼が指揮官のロードバスター、赤が戦略家で武器デザイナーのレッドフット、最後に改造の達人トップスピン」
「おう」
「まあな」
緑のロードバスターと赤のレッドフットは横柄に答え、青いトップスピンは無言で手を上げる。
オプティマスは、空いているほうの手でネプテューヌを示す。
「レッカーズ、彼女はネプテューヌ。この国の守護者であり統治者、女神だ」
「いやー、いまさらながらそうやって紹介されると照れるねー」
ネプテューヌはまんざらでもなさそうだ。
「ロードバスターにレッドフット、トップスピンだね! よろしくー!」
しかしレッカーズは興味なさげである。
その横柄な態度にオプティマスは一瞬顔が強張り、ネプテューヌも少しムッとする。
「むー! そう言う態度だと、ボッチになっちゃうよー!」
まったく迫力を感じさせない声と顔で言うネプテューヌと、無言で迫力を滲ませるオプティマス。……このとき、執務をしていた黒い女神がクシャミをしたが、別に関係ない。
ロードバスターは、チッと隠しもせず舌打ちのような音を出し、レッドフットは鼻をほじくる。
「女神だかなんだか知らねえが、俺たちの仕事には口を出すなよ!」
ロードバスターが吐き捨てるように言う。基本的に彼らは権力者が嫌いなのである。オプティマスだけがギリギリ例外だ。
「別に口なんか出さないってー! あ! でも作ってほしい物ならあるかな」
その言葉にレッドフットが侮蔑的な視線を送った。権力者の欲しがる物などたかが知れている。
「へえ、何をでえ! 自家用ジェット機か? それとも豪華客船かなんかか?」
「ちがうよ! あのねえ、造ってほしいのは、ゲーム機!」
ネプテューヌは真剣な表情で言い放った。レッカーズは三人そろって唖然とする。
「ゲーム機……だと?」
「そうだよ! オートボットの技術を使ったゲームなんて面白そうでしょ!」
ロードバスターがようやっと発生回路から声を絞り出すと、ネプテューヌは笑顔で肯定した。
これはレッカーズにとって完全に予想外だったらしい。
「てめッ…… ふざけてんのか!?」
レッドフットはどうにか混乱から回復し、言葉を出した。
「ええー、ふざけてなんかないよー!」
ネプテューヌは口をへの字にしつつ軽い調子で言う。
「くッ…… ふふふ」
誰かが忍び笑いをもらした。それは、ネプテューヌの頭上から聞こえてくる。
オプティマスが笑っている。
レッカーズは信じられないモノを見る目で総司令官を見た。
「くっくっく…… いや失礼した、続けてくれ!」
オプティマスは慌てて笑いを引っ込め、取り繕う。
その姿も、レッカーズにとっては見たこともない姿だった。
ロードバスターは自分のバイザー状のオプティックを何回もこすり、トップスピンはブレインサーキットの不調ではないかと自己スキャンし、レッドフットに至っては大口を開けたまま固まっている。
「もう、オプっちまで! ゲームは楽しいんだからね!」
ネプテューヌはその姿をどう受け取ったのか、両腕を振り上げてオプティマスに抗議する。
「いや、すまない。別にゲームがどうというわけではなくて、ただ、それをレッカーズに頼むのがだな……」
「んもう! わたしにとっては大事なことなんだから、笑わないでよ!」
噛み合っているのか、いないのか、呑気な会話を続けるオプティマスとネプテューヌ。
と、仕事を続けていた作業員たちのなかから、だれかがオートボットたちの足元に駆けて来た。
「あ! お姉ちゃーん!」
それはプラネテューヌの女神候補生、ネプギアだった。
いつものセーラーワンピではなく、作業用のツナギを着て長い髪を結い上げている。
メカ好きである彼女は、折を見ては基地を訪れレッカーズやホイルジャックに教えを請うているのだ。
「おお! ネプギアー!」
ネプテューヌはオプティマスの手のひらから飛び降りると妹に駆け寄る。
「大丈夫、ネプギア? 変なこと言われたりしてない?」
ネプテューヌは妹を心配する言葉を出す。まあ、当然だ。レッカーズの口の悪さは今しがた見聞きしたばかりだ。
「うん! 大丈夫だよ。レッカーズの皆さんもホイルジャックさんも優しいもん!」
ネプギアは満面の笑みだ。
「や、優しい?」
ネプテューヌは目が点になる。ホイルジャックはともかくレッカーズにその形容詞は不適当ではなかろうか?
「だってとっても厳しく、技術を教えてくれるんだもん!」
「い、いや、さっき言ってたことと矛盾してるような……」
「甘いよ、お姉ちゃん! 機械技術の道は厳しいんだよ! 生半可な覚悟で来た人間を追い返す厳しさも、優しさなんだよ!」
優しいのではなかったのか? という疑問が表情に現れている姉に、ネプギアは両手を握りしめて力説する。
固まっていたレッカーズの面々は、気まずそうにしていた。
オプティマスは合点がいったという風にレッカーズを見る。
「そうだったのか」
「ほ、本気にしちゃったよ…… ひょっとしてオプっちって天然?」
そんなオプティマスの姿に冷や汗を垂らすネプテューヌ。
天然ボケ女神に天然呼ばわりされたオプティマス・プライムは、気にせず話を続ける。
「そういう事情があったのなら、仕方がない。これからもその調子で頼む」
「お、おう……」
「そうだな……」
ロードバスターとレッドフットはオプティマスと目線を合わせようとせず、適当に答える。トップスピンも同様、無言のまま視線を逸らす。
その様子にさすがのネプテューヌも苦笑する。
「あはは……」
「そんなわけだから、お姉ちゃん! オートボットとの技術提携を決めてくれてありがとう!」
「あ、うん……」
引き気味の姉を気にも留めず、ネプギアは瞳を輝かせる。擬音にするならキラキラなんてカワイイものではない、ビカビカというのがふさわしい危険な光を目に宿らせて、オートボットたちの方を見る。
その手には、いつのまにかレンチと電動ドライバーが握られている。
「これであとは、だれか分解させてくれたらなあ……」
その発言と妖しい眼の輝き、手の中で鈍く光る工具の醸し出す不気味な迫力に、レッカーズは全員ネプギアから一歩遠ざかり、オプティマスは寒気をおぼえ、ネプテューヌは最愛の妹の危険な一面に戦慄するのだった。
* * *
その後、ネプテューヌはやんわりとネプギアを聡し、ネプギアも一様はそれに応じた。
「いやー! いろいろカオスだったけど楽しかったよ!」
基地の出入り口で、ネプテューヌは朗らかに笑う。
「ああ、私も楽しかった」
オプティマスも笑う。今日は本当に楽しかった。悩み多き総司令官だが、ネプテューヌとともにいると心が安らぐ。
彼女は本当に不思議な魅力の持ち主だ。
ネプテューヌの身体が光に包まれ女神化する。
「それじゃあ、オプっち! また明日!」
「ああ、また明日」
飛び去るネプテューヌにオプティマスは手を振る。
「また明日、か……」
明日をも知れぬ戦いのなかを生き抜いてきたオプティマスにとって、その言葉は酷く新鮮だった。
* * *
どこか暗いところに全部で五台の機械が集まっていた。
ホイールローダー、ダンプトラック、クレーン車、とてつもなく巨大なパワーショベル、そしてミキサー車。
俗に建設機械と呼ばれる無骨な姿の乗り物たちが円陣を組むように並ぶ姿は、見る者がいれば圧倒的な威圧感を感じただろう。
その中の一体、黒いミキサー車が円陣の中央に進み出る。そのドラム部分には鋭角的なロボットの顔……ディセプティコンのエンブレムが描かれていた。
ミキサー車はギゴガゴと音を立てて細長い腕にドラムが分解した四枚の盾を備えた歪な人型へと変形する。そのオプティックが赤く輝いた。
「そいじゃあ……」
盾を備えた人型は、静かに言葉を発した。
「始めるか」
その言葉とともに、周りの建機たちはギゴガゴと音をたてて、変形しはじめた……
日常回ってこんな感じでよかったんでしょうか? 分かりません。
プラネテューヌの科学者とか技術者は、良い意味でも悪い意味でも変態です。
次回はラステーション組の主役回の予定。
では、ご意見ご感想、お待ちしております。