超次元ゲイム ネプテューヌ THE TRANSFORMATION   作:投稿参謀

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何でや!
何で最後の騎士王、外国だと6月公開なのに、日本だと夏公開なんや!


第139話 異分子

「ふむ、つまりタリの文明が、そのスペースブリッジの柱を持ち去った、と?」

「ああ。何か分かるなら教えてほしい」

 

 オプティマスとセンチネルは、失われたスペースブリッジの柱についてのさらなる情報を求めて、トレイン教授の下を訪れていた。

 と、言っても教授のホームであるルウィーまで足を延ばしたワケではなく、たまたまプラネテューヌに来ていた彼と待ち合わせただけだが。

 

 国立博物館の一室で、教授は顎に手をやる。

 この部屋は展示しない物をしまっておくための部屋であり、オプティマスたちが入れるくらいの余裕があった。

 

「ふ~む、ちょうどよかったかもしれませんね。例の遺跡から古い石版が見つかりまして、その内容を解読し終えたところだったんです」

 

 そう言って、教授が傍らの机に置かれた石版を視線で示す。

 石版には今は使われていない太古の文字が刻まれていた。

 オプティマスは、その石版の保存状態の良さに驚いた。

 それを表情から察した教授は温和な笑みを浮かべて説明を始める。

 

「これは遺跡の密閉された一室に土の詰まった石棺に入れられて保存されていました」

「なるほど、外気に触れずにいて劣化しなかったのか。それにしてもよく一万年も……」

「それについては、他に例がないワケではありません。例えばルウィーでは未開の森の奥で無傷の状態の神殿が発見されました」

「ああ、なるほど。確かラステイションでも、数千年前の寺院が……」

「ん、んん!」

 

 本題を忘れ濃厚な考古学トークを繰り広げそうになるオプティマスと教授に、センチネルが咳払いで注意する。

 

「そろそろ本題に入ってくれないか?」

「すいません……」

「ああ失礼……やはり、ミスター・オプティマスとの会話は楽しいもので」

 

 オプティマスはバツが悪げだが、教授は悪びれずに説明に移る。

 

「この石版によると、『夜天より神の船、流星となりて来たり。霊山の麓に落ちしその船より鋼の柱を得る。我ら女神の命により、これを栄光の証として領土に突き立てることとする』と、あります」

「つまり?」

「タリは、征服した地に例の柱を使った建物……あのストーンサークルのような……を支配の証として建てたということです」

 

 教授の言ったことを整理してみるオプティマス。

 タリはゲイムギョウ界のほとんどを征服していた。

 もし、その支配の証として柱を内蔵した建造物を建てていたとしたら……。

 

「つまり、あのストーンサークルと同じように、ゲイムギョウ界の各地に柱が仕込まれている?」

「可能性はあります」

 

 頷く教授に、難しい顔になるオプティマス。

 もしそうなら、柱の回収は難しくなる。

 センチネルも、深く息を吐く。

 

「何らかの方法を考えなければならないな……」

「しかし、国を跨ぐとなると大事ですし、まずはタリの遺跡の場所を把握しないと。未発見の場所も多いでしょうし」

「う~む……」

 

 さすがのセンチネルと言えど、容易には良いアイディアは浮かばないらしく悩ましげに髭を撫でる。

 

「いっそ回収は無理、と割り切ってもいいのでは?」

 

 そこで、教授が口を挟んだ。

 するとセンチネルは感情の籠っていない瞳を考古学者に向けた。

 

「……貴重な情報、感謝する。しかし、ここからは儂たちの仕事だ」

「差し出がましかったようですね、失礼しました」

 

 穏やかながら断固とした声に、教授は門外漢が出過ぎたことを察して、素直に謝る。

 

「いいや、いいんだ。ありがとう、教授」

「いえいえ、気にしないでください」

 

 一方で、オプティマスは和やかに頭を下げ、教授も微笑む。

 トランスフォーマーと人間ではあるが、一種の『友情』と言っていいものが、二人の間にはあった。

 

「しかし、スノート・アーゼムですか……」

 

 と、教授がふと疑問を口にした。

 

「私の知る限り、そのような名前はいかなる文献にも記されていません。そもそも、タリに今で言う教祖に当たる人物がいたという記録すらありません。全ては女神の意思の下に行われた……つまり、女神のみが悪の根源であったと。まるで意図的に神官の存在を抹消したような……」

「オプティマス、もう行くとしよう。お邪魔した」

 

 急にセンチネルが教授の話を遮り、踵を返した。

 オプティマスは、慌てて後を追う。

 

「師よ、お待ちください! ……教授、この話はまた今度しよう」

「ええ、次はゆっくり語り合いたいですね」

 

  *  *  *

 

 博物館を出た二人は、それぞれビークルモードに変形して走り出す。

 センチネルがスキャンしたのは、空港などで使われる特殊な化学消防車だった。

 前に突き出た運転席と、六輪が特徴的な真っ赤な車体は、頼もしさと同時に一種の優美さを備えていた。

 オプティマスは正にセンチネルに相応しい姿だと思っていた。

 

 二台の大型車両が道路を行く姿は、それだけである種の雄々しさがあった。

 

「あの店はゲームショップで、ネプテューヌによると少しレアなゲームも売っているのだそうです」

「ほう……」

「あちらの学校では、この前学園祭がありまして、ネプテューヌと共に私も招かれたのです」

「なるほど……」

 

 いったん基地へ戻るまでの道すがら、オプティマスはセンチネルにプラネテューヌの街を案内していた。

 実際、オプティマスにとってプラネテューヌはもう庭のような物だ。勝手知ったる、と言う奴である。

 師にもこのプラネテューヌとゲイムギョウ界を好きになってほしいという、その一心ゆえに、オプティマスは口早に説明する。

 

「あそこに見える丘で、私やバンブルビーはネプテューヌたちとピクニックなどをしました」

「ほほう……」

「ああそれと、あの店のプリンが美味しいそうでネプテューヌが……」

「うむ……」

 

 一方でセンチネルは、何処か弟子の様子に圧倒されているようだったが、興味深げではあった。

 やがて二人はプラネタワーの前庭の前を通りがかった。

 前庭では、ダイナマイトデカい感謝祭に向けて準備が進められている。

 色々な資材が搬入され、人々が忙しなく動き回っている。

 

「あれは?」

「近々感謝祭が開かれるので、その準備をしているのです」

「祭りか……呑気なものだ。こうしている間にも、サイバトロンは死にかけているというのに、彼らはそのことを知りもしない。我ら種族が長い間、どれほど苦しんできたかも」

 

 センチネルの口ぶりに、少し棘が混じる。

 

「センチネル」

「……すまない、言ってどうなることでもなかった。さあ、行こう。柱の件も含めてこれからどうするか考えなければ」

 

 短く非難するような声を出す弟子に短く答え、走り出そうとするセンチネル。

 

「オプティマス!」

 

 しかし、誰かが弟子を呼び止めた。

 前庭の方から、オプティマスの倍をある体躯に、両肩に竜の頭部の意趣を持った騎士のような姿のトランスフォーマーが歩いてくる。

 さらにその後ろから同じような大きさの右腕が鞭のようになっている騎士、マントを背負った騎士、両肩に突起のある騎士がやってきた。

 

 グリムロック、スラッグ、ストレイフ、スコーンのダイノボットたちだ。

 

「グリムロック! 調子はどうだ?」

「ぐるるぅ、やっぱり都会、狭い!」

 

 ダイノボットたちは前の戦いの後、今のゲイムギョウ界を見て回るために残っているのだ。有体に行ってしまえば観光である。

 そこでネプテューヌが、ここぞとばかりに彼らに感謝祭への参加を要請した。

 

 何せ、恐竜でロボットで騎士……子供の好きな物てんこ盛りだ。

 

 もちろん、プライドの高いダイノボットたちのこと、最初は嫌がったのだが……。

 

「そう言うなグリムロック。楽しめることを見つけるのが、物事を楽しむコツだ」

「そうですよ、私たちは楽しんでいますし」

 

 大都会の喧騒はお気に召さない騎士たちの前に、淡く発光する白い球体が二つ現れたかと思うと人の姿になる。

 ネプテューヌとネプギアに瓜二つだが、褐色の肌に南国風の恰好をした少女たち。

 

 セターン王国のヴイ・セターン姫と、ハイ・セターン姫の姉妹である。

 

 実は霊体であることを利用してダイノボットたちにくっ付いてきていた彼女たちは、騎士たちのお守りも兼ねて観光を楽しんでいるのだった。

 そして、彼女たちの鶴の一声で感謝祭に参加を決め、ついでに準備の手伝いもすることになり今に至る。

 

「ヴイ姫、ハイ姫、ご機嫌麗しゅう」

「騎士よ、ここは貴殿らの国だ。そう硬くなることもあるまい」

 

 ロボットモードに変形して恭しく頭を下げるオプティマスに、姫君たちは苦笑する。

 頭を上げるオプティマスだが、礼儀は礼儀として敬語は外さない。

 

「楽しんでおられるようで何より」

「ああ、しばらく見ない間にゲイムギョウ界も随分変わったが……民の笑顔だけは変わらないな」

「ええ、人々は皆楽しそうに暮らしている……ここは良い国です」

 

 感慨深げに微笑む姉妹姫。

 このプラネテューヌの民は、彼女たちの国セターンの人々の遠い子孫に当たる。

 だからこそ、民の幸福が嬉しいのだろう。

 

「それはそうとオプティマス、そちらの御仁は?」

 

 と、ヴイは弟子と同じくロボットモードに戻ったが、居並ぶ騎士たちを驚いた顔で見上げているセンチネルに視線をやりながら聞いた。

 

「ああ……この方は先代のオートボット総司令官センチネル・プライム。私の師です。センチネル、こちらはセターン王国のヴイ・セターン姫とハイ・セターン姫。そして王国を守護するダイノボット。伝説の騎士たちです」

「お目にかかれて光栄だ」

 

 オプティマスの紹介にセンチネルは完璧な角度でお辞儀をする。

 

「ほう、オプティマスの師! なるほど、名のある戦士とお見受けする」

 

 ヴイが歓声を上げると興味を持ったのが戦いを愛するダイノボットたちだ。

 

「ぐるるぅ……オプティマスの、師。強い戦士」

「俺、スラッグ! 強い奴と戦う、大好き!」

「強敵、歓喜」

「是非、手合せ願いたいな」

 

 好戦的に笑むダイノボットたちに、センチネルは一瞬にして彼らに負けないほどの闘気を発し、背中から銃を抜く。

 

 センチネルの持つ『あの銃』ならば、いかなダイノボットと言えど……。

 

「こらこらこら! 止めないか!! まったくお前たちは!!」

 

 騎士たちをヴイが慌てて止めた。

 すると竜の騎士たちから闘気が失せていく。

 闘争をこよなく愛する騎士たちだが、姫の命には負けるらしい。

 

「申し訳ありません、センチネル殿。何分、うちの騎士たちは好戦的なもので……」

「……いや、構わん」

 

 深々と頭を下げるハイに、センチネルも銃を下げて戦闘態勢を解く。

 オプティマスはホッと息を吐く。

 

「司令官!」

 

 そこへ、感謝祭の準備を手伝っていたバンブルビーの弟分たるスティンガーがやってきた。

 

「スティンガー、頑張っているようだな」

「はい、スティンガーは楽しくやってます」

 

 言葉通り、明るく返事するスティンガー。

 センチネルは髭を撫でながら、人造トランスフォーマーを興味深げに眺め回した。

 

「それは良かった。そう言えば、今日はネプギアやバンブルビーと一緒ではないのか?」

「ネプギアは、リーンボックスに行っています」

「……ああ、なるほど」

 

 スティンガーの一言で、オプティマスはネプギアがアリスに会いに行っていることを察した。

 しかし、母と慕うネプギアや兄弟分のバンブルビーがいなくても、スティンガーはそこまで寂しそうにはしていない。

 かつてはネプギア恋しさのあまりにバンブルビーと決闘にまで発展したことを考えれば、大きく成長したものだと、オプティマスは嬉しくなる。

 

「ふむ、人造トランスフォーマーか……不思議なものよな」

 

 センチネルは物珍しげにバンブルビーとよく似た姿のスティンガーを見る。

 スティンガーは丁寧にお辞儀した。

 

「お目にかかれて光栄です、偉大なるセンチネル・プライム。私はスティンガー、人造トランスフォーマーの第一号。ネプギアの子、バンブルビーの兄弟です」

「オールスパークに寄らぬ命か。いや、それを命と言って良いのか……」

 

 難しい顔のセンチネルが言うと、スティンガーは正直に頭を上げた。

 

「それはスティンガーにも分かりません。ですが一つハッキリしているのは、スティンガーには心があるのです」

「それは感情プログラムという意味か?」

「プログラムは単なる規範です。我々の精神は、ここから来ています」

 

 スティンガーは自分の胸に手を当てた。そこには疑似シェアクリスタルが収められている。

 センチネルは、一応納得したようだった。

 

「さて、我々はそろそろお暇……」

「オプティマス司令官!」

「オプティマス! 来てたんだ」

 

 そのまま弟子と共に去ろうとするセンチネルだったが、オプティマスがいるのを聞きつけた感謝祭の参加者たちがゾロゾロと集まってきた。

 

「司令官、御苦労様です!」

「こちらこそ、御苦労様」

 

 教会職員や警備兵たちは、会釈や敬礼で挨拶する。

 その目には、確かな敬愛があった。

 

「オプティマス! ここのところファンクラブの会合に来ないから心配したぞ。レッツ、ねぷねぷ!」

「団長、自重してください」

 

 何やら感謝祭に出し物をする予定らしいネプ子様FCの団長と副団長は、いつものノリだった。

 それが、何か嬉しい。

 

「オプティマスさん! わたしたちはマジックをするですぅ!」

「見に来てね、とっておきなんだから」

 

 R-18アイランドから帰ってきたアイエフとコンパもいる。

 

「ぐるるぅ! オプティマス、また勝負する」

「だから、我慢だぞグリムロック」

 

 そしてダイノボットたちはあくまでマイペースで、ヴイとハイに怒られている。

 

「ははは、構わないさ」

「オプティマスさんの寛容さはオカン級ですぅ」

 

 みんな、ゲイムギョウ界(こちら)に来てから出来た、オプティマスの友人たちだ。

 

「おーい、オプっちー!」

 

 そして恋人の気配を察知したのか、一番のお祭り大好き女神がやってきた。

 

「やあネプテューヌ……!?」

 

 しかし、その恰好が問題だった。

 ネプテューヌは女神化した時のようなレオタード姿なのである。

 よくよく見れば、胸元を強調するデザインで、あちこちにコウモリの意趣が取り込まれており、背中の翼もコウモリのものだ。

 

 どう見ても夢魔(サキュバス)のコスプレです、本当にありがとうございました。

 

 いつも通りの元気満点の笑顔に未発達な少女の肢体と、露出度の高い衣装のギャップが何やら背徳的な色気を醸し出している。

 その姿に教会職員や警備兵は顔を赤くし、ネプ子様FCの二人は感涙を流しながら手を合わせて拝んでいた。

 

「ちょ! ネプ子、何なのよその恰好!」

「今度の感謝祭でちょっと歌を披露しようと思って、そのステージ衣装! ほら、前に練習して歌えるようになったし、これはこれで需要がある気がするんだよね!」

「ネプテューヌさん、何を考えているんですか! そんなイヤらしい恰好で!」

 

 過激な恰好に慌ててツッコむアイエフにネプテューヌが元気よく答えると、追ってきたらしいイストワールが怒鳴り声を上げる。

 

「ええー、変身した時とほとんど変わんないじゃーん!」

「やめてください、プラネテューヌの品位が疑われます! オプティマスさんからも何とか言ってやってください!」

 

 言い合う女神と教祖に、オプティマスは照れくさげながらフッと笑む。

 

「ネプテューヌ、その恰好もよく似合っているが……私としては、いつもの恰好の方が好きかな。やはり、あの姿が一番可愛らしい」

「ッ! そ、その言い方はズルいよ! ま、まあオプっちが言うなら! やっぱり最後に初期装備なのもロマンだもんね!」

「まったく、さすがのアンタも、オプティマスには形無しね」

 

 一瞬赤くなるがすぐに調子を取り戻したネプテューヌに、アイエフが苦笑しながらツッコミをいれる。

 

 そんな女神に、周囲は笑いに包まれる。

 スティンガーも、ダイノボットも、ヴイとハイも、アイエフとコンパも、イストワールも、他の人間たちも、程度の差はあれど明るい笑いを浮かべている。

 

 皆に囲まれて、オプティマスも朗らかに笑っていた。

 戦場では、決して浮かべることの出来ない心からの笑顔だ。

 

 それを眺めながら、人々の輪の外でセンチネルは一人、佇んでいた。

 どことなく、寂しげな雰囲気が滲み出ている。

 

「あ、そうだ! センちゃん!」

「……センちゃん?」

 

 と、ネプテューヌがセンチネルへ歩み寄り、言葉をかけた。

 センチネルは何を言われたか理解できない様子で、オプティックを丸くして小さな女神を見下ろした。

 

「センちゃんも、感謝祭に出てよ! 国民のみんなに、もっともーっとオートボットと仲良くなってもらうためのお祭りでもあるんだよ!」

 

 ネプテューヌは、自分よりも遥かに大きく、長く生きているオートボットの先代総司令官に向けて手を差し出した。

 ようやっと、『センちゃん』なる単語が自分のあだ名だと気付き、センチネルは感情の読めない顔になると女神の手を見下ろし、それから人々に囲まれてこちらを見ているオプティマスと視線を合わせた。

 弟子は、ある種の期待を込めた目つきをしていた。

 

 センチネルのオプティックが一瞬揺れる。

 その輝きから、オプティマスは動揺や躊躇を感じ取った。

 

「すまないが、他にやることがある。……それと、センちゃんというのも止めてくれ」

 

 少しの沈黙の後、感情の読めない声色できっぱりと言うと、センチネルは踵を返す。

 

「オプティマス、来るんだ。少し二人で話しがしたい」

「師よ、お待ちを! ……ああ、すまないな皆。ネプテューヌも、また後で」

「うん、後でねー!」

 

 そのまま歩いていくセンチネルを、オプティマスも仲間たちに謝りながら追いかける。

 変形して走り去る新旧司令官を、ネプテューヌは手を振って見送るのだった。

 

  *  *  *

 

 そろそろ太陽が西に傾き、赤く燃えている。

 プラネテューヌ首都を見下ろせる丘の上に、センチネルが佇んでいた。

 

「ここは良い世界だな」

 

 不意に、センチネルは振り向かずに後ろに立つ弟子に言った。

 相変わらず感情を排した声だが、僅かに震えていた。

 

「人々は優しく、我々を受け入れてくれている」

「はい、守るに足る場所です」

 

 力強く、オプティマスは頷く。

 しかし続くセンチネルの言葉は、何処か冷たさを含んでいた。

 

「オプティマスよ。確かに、この世界は美しい……しかし、お前はこの世界に惹かれすぎている」

「それは……?」

 

 言葉の意味を測りかねたオプティマスが真意を問うより早く、センチネルは次の言葉を発した。

 

「儂は……そう、この世界の人間たちが、少し怖い」

 

 それは意外な言葉だった。

 オプティマスの知る限り、最も勇敢なオートボットの一人であるセンチネルが、恐怖を抱くとは。

 弟子の疑問を見透かしたように、センチネルは振り返らずに頷いた。

 

「ここでは我らは異分子に過ぎない。圧倒的な少数派だ。仮に、あの女神たちが我らを排斥しようとしたら? 利用するだけ利用して、捨てようとしたら? 我々には逆らう術はない」

「そのようなことは、起こり得ません!」

「分かっておる。あくまで仮定の話しだ」

 

 思わず声を張り上げるオプティマスの顔を見ずに、センチネルは一つ排気した。

 

「心が乱れておるな。教えたはずだ。愛とは危険な感情だ。愛はともすれば執着に、執着は失うことへの恐怖へ、恐怖はそれを与える者への憎しみへと変わっていく。……オプティマスよ、お前はあの女神……ネプテューヌを愛しているのだな?」

「……はい」

 

 教えを忘れたことなどない。

 プライムたる者は、個人的な感情に囚われず大きな視点を持たなければならない。

 今でもなお、オプティマスはその教えを守れている自信はなかった。

 

「私は、ネプテューヌを愛しています。心の底から。彼女が有機生命体であることも、私が金属生命体であることも関係ない。彼女と共に歩んでいきたい」

「お前が誰かを愛するならば、それはエリータだと思っていたが……」

 

 センチネルは空を見上げ僅かに肩を震わせた。

 それが教えに反した愛弟子への怒りなのか、あるいは弟子が巣立ちゆく喜びなのかは、オプティマスには分からなかった。

 

「オプティマスよ、儂はしばらくの間、一人でこの世界を見て回ろうと思う。お前のようにこの世界の人々と触れ合うことで、この世界を理解できるかもしれない」

「しかし、お一人では危険では……」

「心配するな。ディセプティコンが現れたなら必ず連絡する。それに柱の回収も容易にはいかないであろうし、中心柱さえ無事ならとりあえずは心配はいらなかろう」

 

 師の急な提案に心配げに反論するオプティマスだが、センチネルの声色は柔らかいものだった。

 

「例の、何とかという祭りの時には戻る。それまでは、お前たちに倣い、擬態(ディスガイズ)して過ごすとしよう」

「……分かりました」

「儂はもう少し、この場所で街を見てから行く。お前は先に戻っていてくれ」

「はい、では、ダイナマイトデカい感謝祭で」

 

 頭を下げたオプティマスは、踵を返して丘の上から去っていった。

 

 

 

 

 

 弟子が去った後も、センチネルは一人、プラネテューヌの町並みを眺めていた。

 夕暮れ時の街では、人々が家路についている。

 

 公園で遊んでいた子供たちが、また明日も一緒に遊ぶ約束をしてそれぞれ家族の待つ家へ帰る。

 学校が終わった学生たちが談笑しながら、歩道を歩いていく。

 仕事帰りの父親が玄関先まで迎えに来てくれた我が子を抱き上げる。

 

 しばらくそうしていたセンチネルだが、やがて何か諦めたような顔で身を翻し、夕日に照らされる街とは反対側の、日の光の届かない森へと向かっていく、

 

 やがてその姿は闇へと消えていった。

 




簡単に言えば、今回の話は、センチネルがオプティマスの(こっちの世界で出来た)友達と会う話。

次回、ちょっとネプギアたちとアリスの話の予定。
その後あたりで、感謝祭。つまり……。

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