超次元ゲイム ネプテューヌ THE TRANSFORMATION   作:投稿参謀

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ついに最終章(予定)に突入です。


Till All Are One (全てが一つになるまで)
第136話 そして蓋は開く


 プルルートとピーシェ、そしてホィーリーが旅立ってから一か月ほどが経過した。

 ゲイムギョウ界は、先のエディン戦争から急速に立ち直ろうとしていた。

 そんな中、毎度おなじみプラネタワーはシェアクリスタルの間では……。

 

  *  *  *

 

「うわ~! こんなに眩しいシェアクリスタル見るの、初めて!」

 

 ネプギアが眼前のこれまでにない輝きを放つシェアクリスタルに、感嘆の声を出す。

 今ここでは、ネプテューヌとネプギア、イストワール、そして立体映像のオプティマスが皆でシェアクリスタルを囲んでいた。

 

『ふむ、これはつまり……』

「うん、プラネテューヌ大ブレイク中、ってこと!!」

 

 感心するオプティマスに、胸を張るネプテューヌ。

 イストワールは折れ線グラフを使って説明する。

 

「これまで緩やかな下降傾向にあった我が国のシェアが、ある日急に跳ね上がり、今や他の三国を引き離す勢いなのです! 多分、エディンの侵攻を防ぐことが出来たのが大きいんでしょうね」

「ふふ~ん! 私が本気を出せば、ざっとこんなもんだよ! でも、今日の本題はこっち! 括目せよ!!」

 

 得意満面のネプテューヌは、懐から一枚の画用紙を取り出し、皆に見えるように広げる。

 そこには、いくつもの遊具に囲まれたオプティマスとバンブルビーが、独特のタッチで描かれていた。

 

「国民のみんなへのお礼と、いつも頑張ってくれてるオプっちたちオートボットへの感謝を兼ねて教会の敷地を解放して大きなお祭りやろうと思うんだ!! 名付けて、ダイナマイトデカい感謝祭!!」

『おおー!』

 

 ネプテューヌにしてはマトモな思いつきに、一同は揃って感心する。

 

「みなさーん! ご飯の用意が出来ましたよー!」

「あ、はーい! それじゃあ、詳しいことを後で決めよう! まずはご飯だね!」

 

 と、部屋の外から声が聞こえてきたので、ネプテューヌたちはリビングに移動する。

 リビングでは灰色がかった青い髪を長く伸ばし、頭の右側にだけ角飾りを着けたエプロン姿の女性が、料理が並んだ食卓の前で待っていた。

 

 元市民運動家、色々あってディセプティコンの協力者、しかしてその正体は古の大国タリの女神であるレイだ。

 食卓にはご飯と味噌汁に、野菜サラダと焼き魚が並んでいた。

 皆が席に着くとレイもネプテューヌの隣に座り、四人揃って手を合わせる。

 

『いただきます』

 

 ご飯は調度良い固さで、お出汁の効いた味噌汁が寝起きの胃に染みる。焼き魚の塩加減も良い感じだ。

 

「う~ん、レイさんの作ってくれるご飯は美味しいなー。嫁に来てほしいよー」

「はいはい」

 

 ネプテューヌの言葉を適当に流しながら、レイは自分もご飯を食べる。

 

 ……なんで当然の如くレイが食事を用意して、当然の如くネプテューヌらと食卓を囲んでいるかと言えば、レイ自身が言い出したからだ。

 

 曰く、お世話になっているのに、何もしないのは嫌だと。

 

 実際、レイは食事の用意はもちろんグータラ女神ネプテューヌの世話を甲斐甲斐しく焼き、さらにガルヴァとロディマスの世話までしてくれている。

 何故かネプテューヌもレイの言うことは比較的良く聞くため、イストワールとしても大助かりだった。

 もちろん、レイは名目上捕虜なワケだから、こうして女神の傍にいるのはどうか、という声も上がったのだが、そこはネプテューヌの鶴の一声で片付いた。

 

『うむ。レイも、すっかりここでの生活には慣れたようだな』

「ええ、前とそんなには変わりませんからね。後は、この素敵な首輪が無ければ言うことないんですが」

 

 そこまで言ってレイは、自分の首元に手をやる。

 首には、機械的な首輪が嵌められていた。

 これはレイを監視するための装置なのだ。

 

『すまないな。そればかりは出来ない』

「分かってますよ。ただの冗談です」

 

 沈痛な面持ちのオプティマスにレイは悪戯っぽい笑みを向ける。

 

「ははうえー! ははうえー!」

 

 その時、ベッドルームからガルヴァとロディマスが出てきた。

 揃ってお昼寝をしていたはずだが、目を覚ましたようだ。

 

「あらあら、二人ともどうしたの?」

「ははうえ! みてください! ろでぃといっしょにかきました!」

 

 二人の雛は揃って笑顔で画用紙を差し出す。

 どうも家族の絵であるらしい。

 雛たちにとっての家族……メガトロンとレイも、オプティマスとネプテューヌも、ここにいないサイクロナスとスカージも、元いた次元に帰ったピーシェもいる。

 

「ふふふ、素敵な絵ね」

 

 レイが二人の頭を撫でると、幼い雛たちはそれを享受する。

 

 思わず、その場にいた全員が笑んでいた。

 

 これが、最近のプラネタワーの日常風景だ。

 

  *  *  *

 

 マイダカイ渓谷では、投降した人造トランスフォーマーやクローンたちが、橋の修理に駆り出されていた。

 

「『野郎ども!』『休憩だよ!』」

「休み時間は10分でーす!」

『はーい!』

 

 真面目に働く元敵兵を監督しているのはバンブルビーと、誰あろうスティンガーだ。

 やはり、同類たる人造トランスフォーマーたちを放っておけないらしい。

 

 そんな中、人造トランスフォーマーやクローンに混じって、ロックダウン一味が働いていた。

 手下たちが充実した様子の中、何故かねじり鉢巻きを頭に巻いたロックダウンは釈然としない顔をしている。

 

「なあ、これ何か違わないか?」

「何がですか?」

「いやだって俺たち賞金稼ぎだし、こんな額に汗水流して……なんてのはちょっと違うだろ」

「ええー、オヤビン、いつも仕事を選ぶなって言ってるじゃないですか」

 

 しかし、手下たちは現状に疑問を感じている様子はない。

 

 ……まあ、しばらくは資金を稼ぐ必要があるからしょうがない。

 これも仕事と割り切って、ロックダウンは橋の再建に努めることにするのだった。

 

  *  *  *

 

 ラステイションにおけるオートボットの基地である、赤レンガ倉庫。

 アイアンハイドは自室でチビチビと秘蔵のオイルを煽っていた。

 

「アイアンハイド、何やってんのよ」

 

 声をかけられて振り向けば、ノワールが呆れた顔で立っていた。

 

「ノワールか、何の用だ?」

「別に……ここのところ、ちょっと元気がないみたいだから。……何かあった?」

 

 ツンと澄ましながらも、心配げな目つきを隠さずにノワールはアイアンハイドの傍による。

 アイアンハイドはオイルを煽るが、何も言わない。

 

「アイアンハイド」

「……あの餓鬼どものことだ」

 

 強い口調で言われて、アイアンハイドはポツリと漏らした。

 ノワールは合点がいったとばかりに頷いた。

 

「ロディマスとガルヴァ、だっけ?」

「……俺は、あの小僧どもを受け入れることが出来るだろうか」

 

 ポツリとアイアンハイドが言葉を吐く。それには彼らしくない苦悩が滲んでいた。

 

「オプティマスはあの餓鬼どもに罪はないと言うが……いや俺だってそれは分かってるんだ。でもな、俺はずっとディセプティコンと戦ってきた。信じられないくらい長い間だ。それだけじゃあない。何人も仲間を失った。飲み仲間だった奴はターンバレーの爆撃で。クロミアに惚れてた奴は錆の海で頭を撃ち抜かれた。メガトロンに殺された奴もいる。……他にもたくさん」

 

 歴戦の戦士は、それだけ多くの死別を経験している。

 それは簡単に無視できるほど、軽い物ではない。

 

「……だから、飲み込むのはその、難しいんだ」

「そうね」

 

 女神に変身したノワールは、飛び上がってアイアンハイドの首に手を回す。

 太いトランスフォーマーの首には、女神の腕は短かったが、それでも抱きしめている恰好にはなった。

 

「ねえ、アイアンハイド。私たち女神だって昔は争ってばかりだった。でも、乗り越えることが出来た。だから、あなたたちにもきっと出来るわ」

「お前らはまだ若い。しかし俺は……」

「あら? あなた年寄のつもりだったの? 自分では若いと思ってるとばかり思ってたけれど」

 

 悪戯っぽく笑うノワールに、アイアンハイドは柔らかく笑み返す。

 親子に例えられる二人だが、娘に教えられるとは、情けない父親だと内心で自嘲するアイアンハイドだが、親とは子に学ぶものだ。

 

「……ああそうだな。頑張ってみるか」

 

  *  *  *

 

「ふう、素敵だわ……世界で最も高貴な銃と言われるシングル・アクション・アーミー!!」

 

 ラステイション内、とある銃器専門店から買い物を終えて出てきたユニは、ホクホク顔でたった今買ったばかりのアンティークなリボルバー拳銃に頬ずりしていた。

 ここは普通の武器屋には置いていない珍しい銃も取り扱っているため、その筋のマニアには有名な店である。

 

 銃器マニアでもあるユニは、この店に通い詰めてはおこずかいでマニアックな銃を購入しているのだ。

 

「この、一発一発弾を込めていく手間が、銃に命を吹き込むようでたまらないわ! まさにリロードはエボリューション!!」

「本当に銃が好きだなあ、ユニは」

 

 店の外で待っていたサイドスワイプが呆れ半分感心半分な表情をしている。

 

「まあね。昔はそうでもなかったんだけど、ネプギアの影響かな。あの子、アタシの銃の手入れの仕方が悪いって色々文句言って来てね。まあ、聞いてるうちに、すっかり銃の魅力にハマっちゃったわ」

「ああ、なるほど……でも、実戦で使うのはいつもの奴だけだろ?」

「当然! 手に馴染んでるし、改造(カスタム)改造(カスタム)を重ねたスペシャルなんだから!! グリップと引き金はアタシの手に合わせた特注品で、実に馴染むの! 銃身にはラステニウム合金を使用して、軽さと頑丈さを兼ね備えているわ! フレームのデザインと実用性の両立にもこだわっているの! さらに……」

「ははは……」

 

 並々ならぬ拘りを見せるユニに、サイドスワイプは苦笑する。

 しかし、武器への拘りと言うなら、サイドスワイプの剣への愛も中々のものだ。

 

「まあ、ユニは腕は抜群だからな。俺も安心して前列で戦えるってもんさ」

「当然よ!」

 

 笑い合いながら、ユニとサイドスワイプは歩いていく。

 

  *  *  *

 

「じゃあ、例の件はやはり……」

「それはまだ何とも……もう少し、探りを入れてみます」

「……お願い」

 

 ルウィー教会の執務室で、ブランはメイド長でありながら諜報的な仕事もこなすフィナンシェから報告を受けていた。

 ここのところシェアエナジーが、不自然なまでにプラネテューヌに集中している。さらに、そのシェア上昇値は、他の国のシェア下降値とピッタリ一致するのだ。

 これは明らかに不自然なので何かがあると踏んで、フィナンシェに調査させているのだが……。

 

 フィナンシェを下がらせたブランは穏やかにお茶を飲むと、当然と言う顔で脇に立つミラージュに問う。

 

「どう思う?」

「どう、とは?」

「今回の件が、ネプテューヌの仕業だと思う? あるいは、ネプギアやイストワールの……」

「ないな」

 

 即答するミラージュに、ブランは少し眉をひそめる。

 

「……言い切るのね」

「お前だってあの女神の性格は知っているはず。……それにあいつの傍にいるオプティマスが、そんなことを許すはずがない」

「……どうかしら? だってオプティマスはネプテューヌの……」

「恋人だから、と?」

 

 ブランの疑念を、ミラージュは鼻で笑う。

 

「それこそ有り得ん。恋人ならばこそ、間違っていたら全力で止めようとするだろうな」

「…………そこまで言うなら」

 

 断言する赤いオートボットに、白の女神は溜め息を吐く。

 

「信じるわ。……ネプテューヌではなく、オプティマスでもなく、貴方のことを」

「光栄の至り」

 

 そっけなく答えるミラージュに、ブランは薄く微笑むのだった。

 

  *  *  *

 

「よーし、みんなー! 今日はかくれんぼするわよー!」

「かくれんぼ、楽しいよ……!(ワクワク)」

『おー!』

 

 ルウィー首都のとある空き地。

 女神候補生のロムとラムは、今日も街のチビッ子たちを集めて一緒に遊んでいた。その中には、クマのぬいぐるみを抱えたテスラの姿もある。

 しかしながら、スキッズとマッドフラップはそこらへんの箱に腰かけて見学である。

 

 ホログラムを応用すれば景色に溶け込めるスキッズと、姿を消すばかりか気配まで消せるステルスクローク装備のマッドフラップなので仕方がない。

 

「なあ、マッドフラップ。ものは相談なんだけどよ……」

 

 仲良く遊んでいるロムたちを眺めながら、スキッズはふと双子の片割れに声をかけた。

 

「何だよ、スキッズ?」

「うん。実はさ……俺、戦闘員止めようかと思うんだ」

「はあ!? マジで? お前オートボット止める気か!?」

 

 兄弟の突然の告白に、マッドフラップは面食らう。

 するとスキッズは慌てて首と手を振る。

 

「いや戦争が終わったらって話しだよ! 別にオートボット止めるって話しじゃねえから勘違いすんな!」

「なんだ……で? 何でそんなこと思ったんだ?」

 

 ホッとするマッドフラップだが、気になってたずねてみた。

 漠然と、この双子はずっと一緒にいるものだと思っていたのだ。

 

「いやさ……俺ら、ときどきだけど災害とか事故現場で救助の手伝いしてんじゃん? ……で、うん、まあ。人助け……とか、やっぱいいなあって」

「フワッとしてんなおい」

「何だと!? じゃあそういうお前はどうすんだよ、将来!」

「俺? 俺は……本格的にミラージュの技を継ぎたいなあって」

「テメエこそフッワフワじゃねえか!!」

「お前に言われたくねえ!!」

 

 売り言葉に買い言葉、オートボットの双子は、女神候補生の方の双子が止めるまで殴り合いと言う名のじゃれ合いを続けるのだった。

 

 二人とも、一人前はまだまだ遠そうだ。

 

  *  *  *

 

 リーンボックスの教会……その一室。

 

 ベールとアリスがテーブルを挟んで対面していた。

 二人して優雅に紅茶を飲む姿は、とても様になっている。

 

 女神候補生となったアリスだが、やはりというべきか、どう扱うべきか教会内でも意見が分かれていた。

 元はディセプティコンのスパイであったが、今は軍団を出奔した身。

 しかしそのことは一般には知られていないし、エディンに占領された都市を解放した時の活躍で、国民には解放の立役者にして女神候補生として広く知られるに至った。

 さしあたっては、教会の一室に保護……という名の軟禁する運びとなったのである。

 

 本人も仕方がないと割り切っているのだが……。

 

「あの、姉さん。毎日来てくれるのは嬉しいんだけど、仕事は……?」

「何を言っていますのアリスちゃん! 妹との絆を深めること以上の急務がありましょうか!!」

「…………」

 

 熱弁を振るうベールに、アリスは反論できない。

 何せ、ベールとこうして本当の姉妹になれて、どんな形であれ、また一緒に暮らせるのは嬉しくて仕方ない。

 そこへ立体映像のジャズが現れた。いつもの爽やかな笑みを浮かべているが、口元が引きつっている。

 

『ベール、うん分かってる。分かってるよ。君がアリスと仲良くしていたいのは分かってるんだ。……だけどそろそろ仕事に戻ってくれ! チカが過労で死ぬ!! と言うか俺も死ぬ!!』

「あらあら……」

「姉さん、そろそろ戻ってあげて。チカ様がかわいそう」

 

 必死な調子のジャズに、アリスも同調する。

 今はエディン戦争の後始末で猫の手も借りたいくらい忙しいのだろう。

 病弱な身を押して教会を切り盛りする教祖チカの苦労たるや、押して知るべし。

 

「ねえジャズ、私の方にもいくらか仕事を回して。そんなに重要な奴じゃなくていいから」

 

 もう見ていられないと、アリスは助力を申し出た。

 機密に関わらない部分でも、やらないよりはマシだろう。

 

『……こうなったら背に腹は代えられない! 頼むぜアリス!』

「ありがとう。それとサイドウェイズたちにも仕事をさせて。空いてる手は使うに限るわ。……そうね、サイドウェイズは力仕事、ブレインズにはツイーゲの手伝いでもさせるといいわ」

『そうする! それじゃあ、書類を持ってかせるな』

「お願いね」

 

 テキパキと事を進めるアリスの姿に、ベールは満面の笑みを浮かべるのだった。

 

「まあまあ、いきなり女神としての手腕を発揮していますわね! これはリーンボックスの未来も安泰ですわ!!」

「姉さんも仕事しなさい!」

 

  *  *  *

 

 旧R-18アイランド。

 青い海に白い砂浜、生い茂る熱帯の木々、そんなトロピカルな空気を読まず金属の巨塔ダークマウントが雲を突かんばかりにそびえる。

 ほんの少し前まではエディンの首府であり、多くのディセプティコンや兵隊で溢れていたここだが、今は各国から派遣れた調査隊がいるのみだった。

 

 その中のプラネテューヌから来た部隊を率いるは、優秀な諜報員にして女神の信頼も篤き女傑……つまり、アイエフである。

 

「だめね。……復旧は無理そう」

 

 何かないかと補佐のアーシーと共に要塞を制御していたコンピューターを漁るアイエフだが、結果は芳しくなかった。

 コンピューター内の全てのデータは、完全に削除された上に物理的に基盤が破壊されていた。

 

「……あなたの方はどう? 何とかならないの?」

 

 アイエフの背後に立つアーシーが、さらに背後で床に座り込んで機材と睨めっこしているショッキングピンクのメカスーツの人物……アノネデスに声をかける。

 

「無理ね。……システムにある程度干渉できた時点で、電子的にも物理的にもシステムがぶっ壊して逃げることを選んだのよ。ここまでハッキングされたなら、基地を捨てて逃げる。そういう段取りよ、これは」

 

 アノネデスは酷く不機嫌な調子だった。

 

「つまり勝ち逃げってことよ! あいつには、こっちと勝負する気なんか端からなかったんだわ!! 対等どころか、足元にさえ及ばない相手にムキになることないもんね!! ……畜生! なんて陰険なの!!」

 

 ここにはいないシステムの構築者……ディセプティコン情報参謀サウンドウェーブに向けて、アノネデスは毒づく。

 とりあえず、アイエフは気持ちを切り替えて別の場所にいるコンパに連絡を取る。

 業務連絡というのもあるが、少し声が聴きたかった。

 

「コンパ、聞こえる? こちらアイエフ」

『聞こえてる……ですぅ……!』

「コンパ……? どうしたのよ」

 

 何やら、コンパの声がいつになく真剣と言うか重いと言うか……何かあったかと心配になるアイエフだったが……。

 

『さっき……ねぷねぷから通信があったですぅ……』

「ネプ子に何かあったの!?」

『いえ……レイさんの料理が……美味しかったと……それだけですぅ……!』

「へ?」

 

 思わぬ内容に、拍子抜けするアイエフ。

 ならば、何でコンパはこんな悲しみを背負ったような声を出すのだろう?

 

『あの人……レイさんの料理を……食べたですか……?』

「え? ええ。美味しかったけど……」

『そう! 普通に美味しいんです! 素朴ながらホッとできる、故に毎日でも食べられる、まさにお袋の味!』

 

 急に語気を荒げる親友に、アイエフはビクリとしてしまう。

 

『取られる……このままでは……プラネテューヌの家事担当……いいえ、ねぷねぷの料理番の座を!!』

「え、ええとぉ……」

『この上は……さらなる腕の研鑽……味の探求……どこかの新聞記者とそのお父さんも納得するくらいの……料理を!!』

「ああうん、頑張ってね」

 

 何だか馬鹿らしくなってしまって、アイエフは何とも言えない顔になる。

 振り返れば、アーシーも苦笑しながら肩をすくめていた。

 

 

 

 

 

 ……そのさらに後ろにいるアノネデスが、マスクの下で苦い顔をしていることには、さすがに気が付かなかった。

 

  *  *  *

 

「ふうむ。やはり開かないな。いや、私がそういう風に作ったんだが」

 

 プラネテューヌのオートボット基地にある研究職のためのラボでは、ホイルジャックが自身の発明品である絶対安全カプセルを調べていた。

 タリ遺跡で発見され、この基地まで運んできたそれは、相変わらずいかなる操作も受け付けなかった。

 そこへ、ラチェットがやってきた。

 

「ホイルジャック、どうやら行き詰っているようだね」

「ラチェット……まあねえ。我ながら厄介な物を作ったもんだ」

 

 ラチェットは手に持ったエネルゴンドリンクをホイルジャックの作業机に置くと、ラボの中央にあたかも主のように鎮座する絶対安全カプセルを見上げた。

 

「時代的に有り得ない品。オーパーツって奴か」

「出所は分かってるんだ、私が発案し、設計し、製造した。……問題はこれが一万年前の遺跡から見つかったってことだ」

「まさにミステリーだな。あのタリの女神も、このカプセルについては何も知らないと言っているしねえ」

 

 作られる前から存在したという矛盾。

 それは科学者としてのホイルジャックの好奇心を刺激するとともに、一種危機感にも似た感覚を覚えさせる。

 

 果たしてこれは、希望の込められたタイムカプセルか、開けてはならない災厄の箱か……。

 

「……それはそうと、ラチェット。君の方はどうなんだね? あの、ジェットファイアは」

「ああ、手術は上手くいった。しかし彼を洗脳していたセレブロシェルは、ブレインのかなり奥に打ち込まれていてね。後遺症なく復帰するためには、もう少しステイシスロックしたままで治療しなければ」

 

 物憂げに排気するラチェット。

 ジェットファイアが目覚めるにはもう少し時間が掛かりそうだ。

 この絶対安全カプセルにせよ、老ディセプティコンにせよ、重大な秘密がありそうな者ほど、中々真実を語ってくれないものだ。

 

「まあ、何と言うかジックリやってくしかないだろう。最悪開かないなら開かないで……」

「ホイルジャック!!」

 

 ドリンクを飲んで一息ついたホイルジャックがノンビリと言っていると、急にラチェットが声を上げた。

 何事かと見れば、ラチェットは唖然とした顔で絶対安全カプセルを見ていた。

 釣られてホイルジャックも視線を移せば、ラチェットと全く同じ顔になった。何故なら……。

 

「絶対安全カプセルが、開いてる……」

 

 ホイルジャックの呟いた通り、二人の視線の先では、文字通り絶対開かないはずの絶対安全カプセルの蓋が、ゆっくりと開いていくところだった。

 

「ホイルジャック、どうなってるんだ!?」

「設定された時間が来たんだ! そうとしか考えられない!!」

 

 二人が言い合っている間にも蓋は完全に開き切る。

 内部から吹き出した蒸気の向こうから、何かが……いや、誰かが現れた。

 

 それは、何か円柱形の機械を抱えたトランスフォーマーだった。

 

「ああ、そんな……!」

「まさか、こんなことが……!!」

 

 それが誰なのか理解して、今度こそラチェットとホイルジャックは驚愕に顔を歪めた。とても信じることは出来なかった。

 

 カプセルから出てラボの床を踏んだトランスフォーマーは、言葉を発さずにフラフラと2、3歩進んだ所で前のめりに倒れ込んた。

 

「ッ!」

 

 すぐさま、ラチェットがそのトランスフォーマーを抱き起した。しかし、意識を失いグッタリしている。

 

「信じられない、こんな馬鹿な……タイムパラドックスだよ、これは……」

 

 ホイルジャックは、まだ正気に戻り切っておらずブツブツと呟いていた。

 

「ホイルジャック! 考察は後だ! オプティマスを呼ぶんだ! 急いで!!」

「あ、ああ……分かった!」

 

 ラチェットに一喝されたホイルジャックはようやく正気に戻り、慌てて通信を飛ばす。

 

 意識を失ったトランスフォーマーの上半身の体をスキャンしながらラチェットは呟いた。

 

「いったい、どうしてあなたが……」

 

 絶対安全カプセルから現れたトランスフォーマー……それはラチェットたちオートボットにとって、よく知る人物だった。

 

 背中にマントのようなパーツがある赤いボディに、髭を思わせるパーツが過ごしてきた長い年月を感じさせる顔。

 

 科学者、思想家、戦術家、戦士、そのいずれでも超一流の技能を持つ万能人。

 

 かつて、オートボットを率いていたオプティマスの先代のプライム。

 

 そして、オプティマスとメガトロンの師。

 

 その名を……。

 

「センチネル・プライム……」

 




ついに出ちゃいました、実写TFファンのヘイトを一身に背負う男、センチネル・プライムの登場です。

筆者としては、やったことは許せませんが、それでも彼を嫌いにはなれません。
少なくとも、種族と故郷を守ろうとする思いだけは、本当だったんだろうと。
……あくまでも、個人的な意見です。

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