超次元ゲイム ネプテューヌ THE TRANSFORMATION   作:投稿参謀

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IDW社のアメコミ、フォー・オール・マンカインドを読みました。

人間は脆く儚い、だからこそ強く美しい。
普通ならヒーロー側が主張しそうな、その考えを得て地球に魅了されたのが、親人間であるはずのオートボットたちではなく、サンダークラッカーであったのが、何よりも印象的でした。
(オートボットたちは「早く地球からオサラバしたい」みたいなノリだし)



第134話 オプティマスとメガトロン

 オプティマスが泣いている。愛してくれた人の死に、炎の中で泣いている。

 メガトロンが泣いている。ままならぬ運命に、雨の中で泣いている。

 

 それは誰かの過去だった。

 

 ネプテューヌが笑っている。卵から孵った雛を、高く掲げて笑っている。

 レイが笑っている。卵から孵った雛たちに囲まれて笑っている。

 

 それは誰かの記憶だった。

 

 オプティマスが、メガトロンが、ネプテューヌが、レイが、

 オプティマスの、メガトロンの、ネプテューヌの、レイの、

 

 過去の記憶を見ていた。

 

  *  *  *

 

 R-18アイランド。今はエディン本土……エディンが壊滅した今となっては、旧エディンとでも呼ぶべきか。

 そろそろ水平線に差し掛かった夕日に照らされ、ディセプティコンの要塞ダークマウントが赤く輝いている。

 

 島の周囲の海はリーンボックスの艦隊が包囲していた。

 戦艦、巡洋艦、駆逐艦。いずれも前時代に活躍した旧式の艦艇であり、まるで艦隊のコレクションルームである。

 これらはR-18アイランド攻略に向け、各国から秘密裏に集められた物であった。

 しかしながら、戦闘らしい戦闘は起こっておらず、島の各所の設置された防衛システムもアノネデスが無力化することに成功していた……彼をして、「二度としたくない」と言わしめるほど困難な作業だったようだが。

 

 少し前は大人向けのテーマパークとして、最近は新興国家エディンの本土として常に喧騒に包まれていたこの島であるが、今は表面上穏やかさを取り戻していた。

 

 と、突然ダークマウント上空の空間が歪み、何も無い空間に穴が開いてそこから何か……あるいは誰かが飛び出してきた。

 

 赤と青のファイアーパターンのボディに紫のジェット戦闘機のパーツが合体したオートボットの戦士……オプティマス・プライムと、灰銀の巨躯に銀と青のSF戦車のパーツが合体した戦士……メガトロンだ。

 

 両者は空中でそれぞれと合体していたパーツ……ハードモードのネプテューヌとレイの一部をバラバラと分離させながら、ダークマウントの屋上へと墜落した。

 ほとんどのパーツは屋上に落ちたが、オプティマスの愛刀テメノスソードは彼の手を離れ塔の下へと落下していく。

 

「ぐううう……今のはいったい? ……ネプテューヌ!」

 

 金属的な音を立てて屋上に落ちたオプティマスは、ダメージを押して起き上がり、恋人の無事を確かめる。

 

 要塞の規模に比例してかなりの広さのある屋上のあちこちに、戦闘機形態の(ハードモード:)ネプテューヌのパーツが散らばっていた。

 パーツはオプティマスの声に反応するように光の粒に分解し、オプティマスのすぐ横で人型に結集した。

 

「あいたたた……それにしても、転送されて落ちるのっていい加減ワンパターンだよね。でも、さっきのは何だったんだろう?」

 

 ネプテューヌの体にはあちこちに痣があり服もそこかしこが破れていたがまだメタな台詞を吐く元気は残っているようだ。

 

「……そうだ! ロディマス! レイさん!」

 

 しかし、すぐにハッとなって周りを見回すと、自分と同じようにバラバラのパーツから人間態に戻ったレイを見つけた。

 屋上に倒れ伏し、体もネプテューヌ以上にボロボロだ。

 

「レイさん、しっかりして! 月から地上に帰ってきたんだよ!」

「…………色気のない月世界旅行もあったもんですね」

 

ネプテューヌに助け起こされたレイは、皮肉を言いながらもゆっくりと目を開いた。

 

「……ああよかった! ロディマスは何処に……ねぷうッ!?」

 

 幼い雛の姿が無いことに気付き、慌てて探そうとするネプテューヌだが、当のロディマスがネプテューヌの頭上から降ってきた。

 金属の塊であるトランスフォーマーの雛を顔面で受け止めるはめになったネプテューヌだが、倒れるには至らない。

 

「きゃあ! ちょっとネプテューヌさん、大丈夫ですか!!」

「う、うん……ロディマス、無事で良かったよ……」

 

 驚いて悲鳴を上げるレイは、とりあえずネプテューヌの顔からロディマスを引きはがす。

 それからホッと息を吐き、ようやく手に抱けた我が子を抱きしめる。

 

「ロディマス……昔話の英雄ですね。良い名前です」

「気にいってもらえてよかったよ」

 

 二人は、ロディマスを挟んで微笑む。

 ロディマスは母の温もりに、嬉しそうにキュイキュイと鳴く。もうさっきまで泣いていたことは忘れているようだ。

 表情を柔らかくしていたネプテューヌだが、ふと顔を引き締める。

 

「ねえレイさん、さっきの……ポータル?の中で見たのって……」

「やっぱり、あなたも見たんですね。細かい理屈は分かりませんが、おそらくポータルを通ったことで全員の精神が結びついて……記憶を共有したんだと思います」

 

 オプティマスの記憶、ネプテューヌの記憶、レイの記憶、…………メガトロンの記憶。

 断片的ではあるが、ネプテューヌたちは互いに互いの記憶を垣間見たのだ。

 ロディマスだけは、自身でポータルを発生させたからか影響はないようだ。

 

「そうか、あれはやはり……」

 

 オプティマスは立ち上がって一人ごちる。

 垣間見た記憶の中でも、特に強い印象を残したのはメガトロンの記憶の一場面だった。

 自分が師であるセンチネル・プライムによって次期プライムに選ばれた、あの日のことだ。

 夢破れたメガトロンに、センチネルが投げかけた言葉。

 

――お前がオートボットだったならば、あるいは別の運命があったのかもなあ……。

 

 あの当時、メガトロンはプライムになるために死にもの狂いで努力していた。

 しかしながら頑迷な評議会にディセプティコンというだけで功績を評価されないことに苦悩していたことも、オプティマスは知っていた。

 だからこそ、あの何気ない言葉は、しかしメガトロンにとってはどんな暴言よりも残酷だったはずだ。

 

 もちろん、それだけが原因ではないだろうが、あの言葉がメガトロンの中の決定的な『何か』に火を点け……彼を怪物に変えてしまったのではないか?

 

 それでこれまでのことが許せるワケではないが、それでも問わねばならない。

 

 メガトロンは一人立ち上がり、ボンヤリと水平線に落ちていく夕日を眺めていた。

 その背に近づき、オプティマスは声をかける。

 

「メガトロン、教えてくれ。お前は……ガッ!」

 

 不意に、メガトロンが振り向くや、オプティマスの顔面を殴った。

 無防備に拳を受けて後ずさるオプティマスにメガトロンはさらに殴りかかる。

 相変わらず怒りに燃える顔だが……オプティマスにも上手く表現できないが、今までの怒りとは様子が違った。

 

「プライムに成りたくない? プライムに成りたくないだと! 貴様が、よりもよって貴様がそれを言うのか!!」

 

 我武者羅にオプティマスを殴るメガトロンの咆哮に、ネプテューヌはメガトロンが何を見たのか理解した。

 師によってプライムに選ばれたあの日、オプティマスは自室を訪れたエリータ・ワンに縋るようにして弱音を吐露した。

 

 プライムになんか成りたくないと。

 

「貴様って奴はいつもそうだ!! 俺が持っていない物、俺が欲しい物、全部持ってやがる癖に、その価値を理解しちゃいない! 昔から俺は、貴様のそんな無神経なところが大嫌いだったんだ!!」

 

 よほど頭にきているのか、口調が崩れているメガトロン。

 オプティマスは、反撃も防御もせずに只々殴られていた。

 

「オプっち……?」

 

 しかしネプテューヌが助けに入ろうとした瞬間、オプティマスはメガトロンの拳を掌で受け止めた。

 

「無神経? お前こそ……お前こそ! 何であの時、私に相談してくれなかったんだ!!私は……私たちは! 少なくともあの時までは…………友達だった! はずだ!!」

 

 そして、今度はメガトロンの顔面を拳で殴る。

 表情は、どこか泣き出しそうになるのを堪えているように見えた。

 負けじとばかりにメガトロンも殴り返す。

 

「相談? 馬鹿を言え!! お前に泣きつけとでも言うのか!! オートボットのお前に! プライムのお前に! そんなみっともない真似が出来るか!!」

「私が無理なら、エリータにでも言えば良かったはずだ!! 何でもかんでも一人で抱え込もうとして! 私はお前の、そういう独りよがりなところが、どうしても好きになれなかった!!」

「何を!!」

 

 怒鳴り合いながら、オプティマスは、メガトロンは、殴り合い続ける。

 ブラスターもエナジーブレードもない、純粋な拳と拳のぶつかり合い。

 それどころか、防御もせず、フェイントやカウンターといった技巧すら無く、湧き上がる感情を突き出す拳と言う形で発露しているにすぎなかった。

 

 ひたすらに拳を交え合う二人を、ネプテューヌはポカンと眺めていた。

 一方レイは、無邪気にはしゃいでいるロディマスの背を撫でながら深く息を吐く。

 

「はあッ……まったく、男の人って……本っ当に馬鹿ですね」

 

 止める気はないらしく、レイはペタリと屋上の床に座り込んだ。

 その時、ネプテューヌのインカム型通信機に通信が入ってきた。

 辛うじて壊れていないそれのスイッチを押して、通信を開く。

 

「もしもし?」

『ネプテューヌ! やっと繋がった!!』

「ノワール?」

 

 通信してきたのはノワールだった。

 彼女は激しい剣幕でネプテューヌに質問を浴びせる。

 

『プラネテューヌの戦場から消えちゃったって聞いて心配してたら、急に要塞の上に現れるんだもの! あなたもオプティマスも何処へいってたのよ!』

「ああー……ちょっと宇宙旅行? お土産に服に付いてた月の石あげるから許してよ」

『はいぃッ!? 何をワケの分からないこと言ってるの! ……まあ、いいわ。戦闘してるのはコッチからも見えるから、援護に向かう』

 

 ノワールがいるのはリーンボックス艦隊の旗艦だ。すぐに到着できるだろう。

 さらに旗艦にはジャズやアイアンハイドもいる。

 彼等がいればオプティマスの勝利は確実だ。

 

 …………しかし。

 

「……いいや。邪魔しないであげて」

『はいぃぃッ!? 何言ってるの!!』

 

 バツが悪げではあるが、はっきりと援軍を拒否するネプテューヌに、ノワールは素っ頓狂な声を上げる。

 

『どういうことだい?』

「んんー……何て言うかさ。オプっちは今、やっと『オートボット総司令官オプティマス・プライム』じゃなくて、『ただのオプティマス』として戦えてるんだと思うんだよ。メガトロンもね」

 

 ノワールの傍にいるのだろうジャズの疑問に、ネプテューヌは自分なりの考えを言う。

 ネプテューヌの視線の先では、相変わらずオプティマスとメガトロンが殴り合っていた。

 二人を突き動かすのは、オートボットやディセプティコンの種族的な禍根や、軍団としてのイデオロギーではなく個人の意地と因縁のみだ。

 今の彼等は、総司令官でも破壊大帝でもない、ただのオプティマスとメガトロンなのだ。

 

『…………そうか、なら邪魔するのは野暮だな』

『ああもう、分かったわよ! でも何かあったら呼びなさい。それと何があったか、後でちゃんと話してもらうわよ!』

「うん、ありがとう。……アッ! それからノワールに頼みたいことがあるんだけど……」

 

 どうやら理解してくれたジャズとノワールにあることを頼んだ後で、ネプテューヌはレイの横に座って、彼女の膝の上のロディマスを撫でる。

 まだまだ、オプティマスとメガトロンは倒れる様子はない。

 

 ふと、レイが微妙な顔でネプテューヌに声をかけた。

 

「ああー……そう言えばネプテューヌさん? さっき、ポータルの中で見えたんですけど、あれはちょっと無いんじゃないかと。『あなたが不幸になるとわたしも不幸になる』とか、後追い自殺するとか……正直、ドン引きです」

「うええ!? 見えたの!? い、いやだってあれくらい言わないと、オプっち自己犠牲の塊だし、平和になっても『オレの墓標に名はいらぬ。死すならば戦いの荒野で!』とか言って去っていっちゃいそうだし!」

 

 自らの重過ぎる告白を知られたと分かって、ネプテューヌは慌てる。

 思い出してみれば、自分でもあれは少し……いやかなり病んでいると思う。

 

 ネプテューヌの闇は深い。オプティマスの闇が深いからしょうがない。

 

「そ、それならレイさんだって! 何でメガトロンに自分以外の女の人と……その、あ~んなことやこ~んなことをするを進めるのさ! レイさん、メガトロンのこと好きなんでしょう!!」

「私、基本的にメガトロン様の傍にいられるなら愛人でもお妾さんでもペットでもOKなんで。それに強い男は、たくさんの女の人に囲まれたいっていうハーレム願望を持ってるものです」

「ええー……メガトロンには、そんなの無さそうだけど」

 

 違う意味で、レイの闇も深かった。

 

 そうこう言っている間にも、オプティマスとメガトロンは殴り合い続ける。

 金属のフレームが歪み、火花とエネルゴンが飛び散る。

 

 ただでさえ連戦に継ぐ連戦で疲弊しているのだ。すでにお互いフラフラでいつ倒れても可笑しくはないのだが、それでも体を支えているのは意地だった。

 

「『自由はあらゆる生命体の権利』だと?」

 

 メガトロンがオプティマスに掴みかかる。

 しかし、オプティマスはメガトロンの両手を自らの両手で受け止めた。

 四つに組み合った状態で、メガトロンはいつになく必死な表情と声で吼える。

 

「俺には、俺たちには、そんな物は無かった!! 最初から!! だから奪い取るんだ!! 奪い取らねば、勝ち取らなければ、自由も権利も、得ることは出来なかったんだ!! そんな考えは、ただの偽善だ!!」

「…………違う!!」

 

 そのままオプティマスを押し潰さんとするメガトロンだが、オプティマスは強烈な頭突きで相手を怯ませ、いったん距離を取る。

 痛む頭を振ってオプティマスを睨み付けるメガトロンのオプティックには依然として憎しみの炎が燃えていた。

 

「何が違う!! そもそも、その思想はセンチネルの受け売りだろうが!!」

 

 オプティマスもまた、吼え返す。

 

「確かにそれは師の教えだ! だが、それだけじゃない!! 自由が万人の権利だと私が信じたのは、お前がいたからだ!」

「何!?」

「お前が種族の差にもめげすに自由を得ようと頑張っているのを見て、私は師の教えが正しいと信じることが出来たんだ!!」

「…………ッ!」

 

 その言葉を聞いて、メガトロンは明らかに動揺する。

 しかし、一瞬後には咆哮を上げて最後の一撃を繰り出す。

 オプティマスがそれに合わせるようにして、最後の拳を振るう。

 

『うおおぉぉおおおッッ!!』

 

 咆哮と共に突き出された拳が交差し、まったく同時に両者の顔に叩き込まれる。

 

 そのままの姿勢で硬直していたオプティマスとメガトロンだが、ついにゆっくりと前のめりに倒れこみ、必然的にお互いに支え合うような形になった。

 肉体はとっくに限界を超え、精も魂も尽き果てた二人を最後に支えるのが、宿敵であるとは何と皮肉で劇的なことだろうか。夕日に照らされて抱擁し合っているかのような姿は、まるで無二の親友同士のようにすら見える。

 どこか憑き物が落ちたような顔のメガトロンだが、宿敵の耳元に囁きかけるようにして、呪詛を吐く。

 

「……俺が、あの頃の俺が……いったいどれだけ、お前のことを羨んでいたと思う? 妬んでいたと思う? 有り余る才能に、師の寵愛。……極めつけにプライムの遺伝子だ」

「それなら、私だってそうだ。……お前が羨ましくてたまらなかった。……自信に、決断力、それに友達……お前はあの頃の私が欲しくてたまらなかった物を全部持っていた。……実は私、お前に声をかけてもらうまで、ほとんど友達いなかったんだぞ?」

「…………そうかよ」

 

 呪詛に返されたのは、懐かしげな笑みと愚痴だった。

 メガトロンの口元に、苦笑が浮かぶ。

 しかし続く言葉はやはり呪いの言葉だった。

 

「それでも……俺は……貴様を……貴様らを……許すことはできん……」

「…………」

「ガルヴァを……俺の息子を……返してくれ……!」

「ならば、お返ししましょう!!」

 

 その時、場違いなくらい明るい声が聞こえた。

 オプティマスとメガトロンが思わずギギギと比喩でなく金属音を響かせながら首を回せば、ネプテューヌとレイがいつの間にか傍に立っていた。

 

 その後ろに、『二体』のトランスフォーマーの幼体がいた。

 一体は未だ小さい赤い雛、ロディマス。

 そしてもう一体は、銀と青の体の人間大の幼体だ。

 

「が、ガルヴァ……!」

「ちちうえー!」

 

 ガルヴァは父たるメガトロンに駆け寄り、その足に飛び付く。

 メガトロンはオプティマスから離れ、我が子を抱き上げた。

 

「ガルヴァ、ガルヴァ……! 生きていた、生きていたのか……」

「ちちうえ……ごめんなさい、ぼく、おうちをまもれなかった……」

「いいんだ、お前が生きていてくれたなら、それで……」

 

 メガトロンのオプティックから液体がこぼれ出す。

 そんな二人にレイがロディマスを抱えたまま近づき、慈愛に満ちた笑みをこぼす。

 

 再会を喜ぶメガトロンたちを眺めながら、ネプテューヌは満足げにウンウンと頷いていた。

 隣では、女神化したノワールが肩を回していた。

 

「まったくもう、あの子を連れて来いなんて、何を言い出すのかと思ったけど……。重いわ、暴れるわで大変だったのよ」

「ありがとう、ノワール。来てくれて」

「二人とも、あの子はいったい?」

 

 オプティマスは傷つきに傷ついた体を引きずってネプテューヌたちの傍に寄ると、説明を求める。

 ノワールは深く息を吐いてから答えた。

 

「ああ……何か例のシェアを集める装置を壊そうとした時に襲ってきてね。捕まえたの。アイアンハイドはすごく警戒してたけど、いくらディセプティコンでも子供を傷つけるのは……ちょっとね」

「そうか……」

 

 自分でも意外なほどに、オプティマスは安堵していた。

 何か、取り返しのつかない事態は避けられたようだ。

 ノワールは視線でメガトロンたちを指す。

 

「で? アイツらどうするのよ?」

「それは……」

 

 オプティマスは言葉に詰まった。

 メガトロンさえ倒せば、戦争は終わる。平和がやってくる。

 

 ……本当に?

 

 本当にそれでいいのか?

 今のメガトロンはあれほど憎んでいたオプティマスでさえ眼中に入っていないようだった。

 その姿に破壊大帝の面影はなく、再会した我が子を抱く父がいるのみだった。

 

 オートボットは、決して無抵抗な者を殺しはしない。

 

 それ以前に、自分はメガトロンを殺したくないと思っていることに、オプティマスは気付いていた。

 

 思い悩むオプティマスに、ネプテューヌが少し控えめに声をかけた。

 

「ねえオプっち?」

「なんだい?」

「ええと、プラネテューヌはあの人たちを捕虜にします。これはオートボットとディセプティコンの戦争じゃなくて、プラネテューヌとエディンの戦争だったので、彼らの処遇を決める権利は、プラネテューヌにあります……なんてね」

 

 悪戯っぽいネプテューヌの言葉に、オプティマスはオプティックを丸くした。見れば、ノワールは「好きにすれば」とでも言いたげに肩をすくめている。

 

「ちちうえ、ははうえ、このこはだれですか?」

「あなたの兄弟よ。名前はロディマス」

「ろでぃます。あたらしいおとうとですね!」

 

 再びメガトロンたちに視線をやれば、ロディマスがガルヴァにじゃれつき、ガルヴァもそれを受け入ていた。

 メガトロンは無言であったが、雛たちを見る目には慈しみがあった。あのメガトロンの目にだ。

 それが欺瞞でないことは、あのポータルの中で見たメガトロンの記憶からも明らかだった。

 逃げたり暴れたりする様子はない。もはや、メガトロンとレイにそれだけの力は残っていないだろう。

 

 オプティマスはフッと排気し、表情を緩めて、その場に座り込む

 

「まったく……君には敵わないな」

「当然! ドヤッ!」

 

 言葉通りのドヤ顔でネプテューヌが胸を張る。

 さっきの提案は、メガトロンを倒さねばならないオートボット総司令官としての責任を持っていることと、メガトロンを倒したくないという私心の板挟みになっていることを察してのことだろう。

 

 本当に敵わない。

 

 海を見れば、夕日が水平線の向こうに沈んでいくところだった。

 上手く表現できないが、スッキリした気分だった。

 

 思えば、メガトロンとああして本音でぶつかりあったことは無かったかもしれない。

 

 センチネルの下で兄弟弟子として共にあった時ですら、オートボットとディセプティコンということで、お互いに遠慮や隔意があったのかもしれない。

 

 そう考えれば、オプティマスとメガトロンは、ようやく僅かながらでも理解し合えたのだ。

 

 無論、これまでのこと……種族同士の因縁、長く続いた戦争で積もり積もった憎悪を全て水に流せるはずもないが……少なくとも、この場に置いて怒りも憎しみも、もう存在しなかった。

 

 夕日が水平線に沈んでいく。

 それはあたかもエディンの落日を示すようであったが、しかしオプティマスには自分の中の憎しみの火が消えていく、その象徴のように思えたのだった。

 




オプティマス対メガトロン

第一ラウンド:素の状態での殺し合い。

第二ラウンド:合体形態でのスーパーロボット的なバトル。

最終ラウンド:夕日に照らされて殴り愛宇宙(ソラ)

……っていう流れなのは早い段階から決まっていました。

ここ何回にもわたってドツキ合いしてたのも、前四話がオプティマス『対』メガトロンだったのも、オプティマスとメガトロンを精神的に追い詰めてたのも、ロディマスにポータルを使える設定盛り込んだのも、全てはこの回のためです。

何て言うか、オプティマスとメガトロンは、一回肩書きとか称号とか剥ぎ取って、ぶつかり合う必要があると思いまして。

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