超次元ゲイム ネプテューヌ THE TRANSFORMATION 作:投稿参謀
ディセプティコンが臨時基地としている山中の廃村。
プラネテューヌの戦いに敗走したディセプティコンたちは、なんとかここに帰り着いていた。
日も暮れはじめ、あたりは夕焼けに包まれている。
「まったく、どいつもこいつも情けのねえ!」
スタースクリームは、広場の中央で喚いていた。
「あんな、下等生物どもと組まれたくらいで、オートボットどもに良いようにヤラレやがて!」
その周囲では、ブラックアウト、グラインダー、ランページ、ロングハウルが煩わしそうにしている。
「フンッ! そう言う貴様はどうなのだ? スタースクリーム!」
兄弟で向かい合い修理し合っていたブラックアウトが、スタースクリームに反論する。その視線は航空参謀の脇腹の傷に注がれている。白の女神の不意打ちによりつけられたモノだ。
「俺様は別だ! あそこで退却命令がでてなきゃ勝てたんだよ!」
喚くスタースクリームを白い目で見る一同。
「どうじゃかのう」
「負け犬の遠吠えなんダナ」
こちらも互いに修理し合っていたランページとロングハウルがボソリと言った。
「ああんッ! テメエらが言えた義理かッ! テメエらの相手は女神でさえなかったんだろうが!」
スタースクリームはそれに耳聡く反応し、二体に詰め寄る。二体はバツの悪そうに黙り込んだ。
「……いいかげんにしておけ、スタースクリーム」
グラインダーが低い声を出す。
それに対し、スタースクリームは嘲笑する。
「はあ? 敵に碌なダメージを与えられなかった、役立たず君は黙っててくれませんかねえ」
その言葉にグラインダーではなく兄貴分の同型機が激昂する。
「貴様! 俺の弟を侮辱する気か!」
「はんッ! また兄弟ごっこか! 正直、うぜえんだよ!」
「貴様…… そんなに死にたいのか……!」
スタースクリームとブラックアウトはお互いに武器を展開し睨み合う。黒いヘリ型ディセプティコンの足元では、スコルポノックが両の爪を振り上げスタースクリームを威嚇している。
「兄者、俺は大丈夫だから。スタースクリームも傷に響くぞ」
平静な声でなだめるグラインダーに、ブラックアウトはフンッと排気音を鳴らし、スタースクリームはケッと吐き捨て、それぞれ修理に戻る。
廃村はギスギスとした空気に包まれていた。
だが、これこそがディセプティコンと言うモノなのである。
* * *
礼拝堂の内部、メガトロンは外での喧騒に一切興味を抱かずに、幾何学模様の球体の前に佇んでいた。
「あの力…… ではシェアエナジーとは…… ならば、あの女…… やはり拾い物だったか……」
全身を治療のため這いまわるドクター・スカルペルを気にせず、破壊大帝はブツブツと呟きながら何事か思索している。
真面目に仕事をこなすドクターは、主君の顔の傷の治療に取り掛かろうとした。
「その傷はよい」
すると破壊大帝は静かにそう言った。
「はッ!? よ、よい、とは?」
「その傷は残しておく、己への戒めとしてな。エネルゴン漏れだけ止めておけ」
動揺するドクターにそう告げると、幾何学模様の球体を軽く撫でる。
「すまんな、与えてやれるエネルギーが少なくて」
そう、普段の彼からは考えられない穏やかな声色で言うと、顔の傷口から流れ出るエネルゴンを指先で拭い、それを球体に垂らしていく。
「今は、これで我慢してくれ」
エネルゴンが球体の表面を覆う幾何学模様を描く切れ目に吸い込まれ、球体は鼓動のように青く明滅する。
「あの…… メガトロン様」
顔の傷のエネルゴン漏れを止めていたドクターが、オズオズと言葉を出した。
「医者の立場から言わせていただきますと、そのようなことを繰り返しますと、お体にさわる場合がございます」
「分かっておる」
心配を滲ませるドクターの声に、メガトロンはにべもなく言った。
トランスフォーマーにとって、自分のエネルゴンを与えると言うことは、命を分け与えるに等しい。ドクターの言うとおり、繰り返せば自らの力を減じ、命を縮めかねない方法であり何回もはできない。
「分かっておるとも……」
だからこそ必要なのだ。莫大なエネルギーが、どんな手段を使ってでも。
メガトロンはブレインサーキットのなかで考えを巡らす。
今回の敗因は、女神たちを侮っていたことが大きい。もちろん、油田でオプティマスと女神たちに止めを刺しそこなったことは自分の責任だ。
しかし、二度目に戦ったとき、自分を含めたディセプティコンは女神を物の数とは考えていなかった。そして、この結果だ。
認めなければならない。女神たちは侮りがたい強敵であり、それがオートボットと組んだ以上、こちらも対策を練らねばならない。
さしあたっては戦力の増強と、本拠地の設営だ。
戦力についてはすでに手を回し、この世界に散ったディセプティコンたちを集めている。
あの女……キセイジョウ・レイとフレンジーが上手くやることを期待しよう。
本拠地については、レイから得た情報をもとに適当なところを見繕ってある。この場にとどまり続けるのは、あまり得策とは言えない。今はまだいいが、部下たちが集まってくれば発見される危険性がある。
準備が整いしだい、移動するとしよう。
「ゲイムギョウ界か……」
メガトロンは、自分の口元に笑みが浮かんでいることに気が付いた。
「なかなかどうして、楽しませてくれるではないか」
さらなる戦いの予感に、メガトロンは自らのスパークが燃え上がるのを感じていた。
そんな破壊大帝を、無駄口を封じて治療を続けるドクター・スカルペルと、青く明滅する幾何学模様の球体だけが見ていた。
* * *
同じ日の深夜。
プラネテューヌのとある地方都市
その片隅にある、廃車置き場。ここを場違いな人影が歩いていた。
そこそこ美人と言える顔立ちに、頭には角のような飾り。おおよそ、深夜に出歩くとは思えない気の弱そうな女性だ。
だがなによりも奇妙なのは、CDラジカセを抱えていることであろう。
女性は何かを探すように廃車の間を進み、やがて一台のパトカーの前で止まった。
その黒いパトカーは、廃車置き場に置いてあるだけあってあちこちに錆が浮き、塗装が剥げていた。その車体後部にはTo punish and enslave(罪人を罰し服従させる)の一文がペイントされている。
ちなみにゲイムギョウ界におけるパトカーとは、警備兵が乗る物である。
「こ、このパトカーみたいです、フレンジーさん」
女性が気弱げに声を出し、抱えていたCDラジカセを地面に置く。
「おう、そうみたいだな!」
するとCDラジカセはギゴガゴと音を立てて変形し、四つの青い目と細長い体を持った、人間の子供ほどの大きさのロボットへと姿を変える。
ディセプティコンの特殊破壊兵フレンジーである。
そして女性のほうは反女神の市民活動家、今はいやいやながらディセプティコンの協力者となったキセイジョウ・レイだ。
フレンジーはパトカーのボンネットを勢い良く開ける。するとそこには、おおよそ廃車らしくない最新式の、いや最新式の数世代先を行くエンジンが詰まっていた。
「あ~あ、こりゃエネルゴン切れだな。レイちゃん、礼の物を!」
「は、はい!」
フレンジーのその言葉とともに、レイは懐からなにやら金属製の容器を取り出し、そのフタを開け、フレンジーのほうへ差し出す。
「ど、どうぞ!」
「サンキュー!」
フレンジーは、容器の中に入っている青く光る小さなキューブ状の結晶を指でつまみ上げると、それをパトカーの給油口を開いて放り込む。
フレンジーはパトカーから少し離れ、レイもそれに倣う。
しばらくは何も起きなかったが、突然パトカーから咳き込むような音が聞こえ、ギゴガゴと音を立ててパーツが組み変わり歪な人型のロボットへと変わっていく。
黒い全身に長い腕と逆関節の脚、肩にはPOLICEの文字が皮肉っぽく存在感を発揮している。面長の顔のオプティックは赤だ。
フレンジーはパトカーから変身した人型に陽気に話しかける。
「いよう! 起きたかい、相棒?」
「……フレンジーか?」
パトカーロボは低い声で返す。
「おう! しばらくぶりだな! 助けに来たぜ!」
「助け、だと?」
フレンジーの陽気な声に、パトカーロボは訝しげな調子で返す。
「どう言う風の吹き回しだ? ディセプティコンが仲間を助けにくるなど」
その言葉が、ディセプティコンの仲間意識と言う物を如実に物語っていた。
「メガトロン様のご命令さ! オマエを見つけるのは苦労したんだぜえ、バリケード!」
* * *
フレンジーに与えられた任務、それはゲイムギョウ界に散ったディセプティコンたちの情報を集め、できるならば直接迎えに行くことだった。
フレンジーは直接的な戦闘力こそ低いが、ハッキングを得意とする諜報のエキスパートである。この任務にはうってつけと言えた。
しかし、人目をさけなければならない彼だけだと情報収集に限界がある。インターネットを利用することは簡単だが、それだけでは足りない。
いつの世も、もっともセキュリティの脆い情報源は人間の噂なのだ。
そこをカバーするためにレイは存在する。もちろん拒否権はない。
* * *
「ま、そんなワケで最初は一番近くにいたオマエを迎えにきたってわけさ!」
「やはり解せんな、あのメガトロン様がそこまでして部下を助けようとするなど……」
フレンジーは体をブラブラと揺らしながら言った。それに対しパトカーロボ……バリケードの声は変わらず訝しげだった。
「今はサイバトロンに居たころとは状況が違うんだぜ! ここじゃディセプティコンは、あの時スペースブリッジに巻き込まれた奴らだけだ。戦力は貴重なんだよ」
呆れたようなフレンジーの言葉に、バリケードはようやく納得したらしい。
「なるほどな、……それで、そこのムシケラは何のためにいるんだ?」
バリケードの発したその言葉に、レイはビクッと体を震わせる。
「おいおい、オマエを見つけたのは、このレイちゃんなんだぞ! もう少し感謝したらどうだい?」
「……なんだと?」
フレンジーの話の内容に、バリケードは驚いたらしかった。
* * *
なんのことはない、レイがしたことはフレンジーが最近増えた巨人の目撃例と不審なパトカーの目撃例を照らし合わせ、だいたいの場所を割り出しと後に聞き込みをしただけだ。
老若男女、特に警戒せずに聞かれたことを教えてくれた。レイの見るからに気弱で人畜無害な姿が警戒心を感じさせないらしい。そしてある警官から、ある日のことパトカーの数が増えていて気味が悪かったので廃車にしたことを突き止めたのだ。
* * *
「それで? 俺がそのムシケラに感謝するとでも?」
冷たい声でバリケードは言った。その言葉にレイは涙目になる。
しかしフレンジーはあくまで陽気だ。
「ま、そう言うなって! これから俺たち三人、組んで仕事することになんだからよ!」
「……なんだと?」
その言葉にまたしても驚くバリケード。
「いや、俺とレイちゃんだけだと他の国とか行くの大変だろ? だから足がいるんだよ」
フレンジーのその言葉で自分が必要とされた理由を理解し、バリケードは深いため息のような排気音をだした。
「たっぷり寝た後は、美人とドライブか。泣けるね」
「美人だなんて、そんな……」
バリケードの言葉にレイは一転顔を赤らめる。
皮肉効かねえのかよコイツ! とバリケードが内心でツッコミ、フレンジーは笑い出しそうになるのを堪えている。
「はあッ…… まあいい、乗れ。まずはメガトロン様の下まで案内しろ」
バリケードは再びパトカーの姿に変形するとドアを開け、フレンジーとレイに乗るよう促した。
「おうよ! さ、レイちゃんも乗った乗った!」
「は、はい!」
フレンジーは助手席に乗り込み、レイはそれに続いて後部座席に座った。
「じゃ、行くぞ」
バリケードはぶっきらぼうに言うとドアを閉め、エンジンを吹かして走り出す。突然、運転席に無表情な警官姿の男性が現れた。
「うえッ!? だ、誰ですかこの人!」
「誰でもないさ、ただのホログラム」
驚くレイにフレンジーが呑気に返した。そしてバリケードに話しかける。
「しっかしバリケード、このボロっぷりじゃ逆に目立つぜ! どっかで適当なビークルをスキャンしろよ!」
「ああ、そうだな」
しばらく走っているとフレンジーはレイが座席に身を預け、静かに寝息を立てていることに気が付いた。この状況でも眠れるとは、意外と肝が据わっている。……鈍いだけかもしれない。
「ありゃりゃ、寝ちまったか。ま、朝から聞き込みしてたし当然か」
「……ずいぶん、その下等生物を気にするんだな」
バリケードはフレンジーに問う。
「なぜだ?」
「なぜって、別に理由なんかねえよ。ただ、嫌悪感を感じないってだけさ」
その言葉にバリケードは怪訝そうな声を出した。
「嫌悪感を感じない?」
「そッ! 普通は有機生命体に対して俺ら金属生命体が感じる一種の嫌悪感。でも、なんでだかレイちゃんにはそれを感じない。おもしろいだろ?」
「……本当にそれだけか?」
訝しげなバリケードの声に、フレンジーはヤレヤレと首を振る。
「後は、メガトロン様に言われたんだよ、レイちゃんを見張れってな」
「なに? それはなぜだ?」
「さあな、あのヒトの考えることは俺らにゃ分からねえからな。だけど、おもしろいことになりそうじゃねえか」
フレンジーは忍び笑いを漏らし、振り返って後部座席で眠るレイの方を見た。
「ま、せっかくだからな。これからも仲良くやろうぜ、レイちゃん!」
一人の女性とディセプティコンを乗せたパトカー型ディセプティコンは、街の明かりを離れ夜の闇の中へ消えていった。
ディセプティコン、訳するならば欺瞞の民。
そんなわけで、今回はミニシリーズにおけるディセプティコン側のエピローグ的な話でした。
次回からは新章突入! まずは日常回(?)の予定です。
ご意見、ご感想、本当にお待ちしています。