超次元ゲイム ネプテューヌ THE TRANSFORMATION   作:投稿参謀

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最後の騎士王。
……やはり来たか、クインテッサ。しかもお供つきで。


第131話 オプティマス対メガトロン part2

「メガ……ン様! メガトロン様! しっかりしてください!!」

 

 メガトロンは自分を呼ぶ声で強制スリープモードから覚醒した。どうやら、地面に仰向けで倒れているらしい。

 まだ戦闘が続いているが、ここは少し戦場から離れていた。

 視線を脇にやれば、レイが涙を目に浮かべている。

 

「レイ? 何故ここに」

「心配だから、来たんです!」

 

 ふと、初めて会った時と似た状況だと思った。

 空から落ちてきて倒れている自分、べそをかいているレイ。

 

――相変わらず、泣き虫な奴だ。出会ったころから、そこは変わらんな。

 

 実のところ、メガトロンは最初に会う前からレイを知っていた。

 『師』によって見せられたゲイムギョウ界の映像。その中で女神として君臨していた女こそがタリの女神……レイだった。

 だからこそ、メガトロンはレイを自分の手元に置き、味方に引き込んだのだ。シェアエナジーを手に入れ惑星サイバトロンを再興するために。

 

 彼女を籠絡するのは簡単だった。

 少し優しくすれば容易く警戒心を解き、同情を引けば呆気なく心を許す。

 しかし扱いやすいかと言えばそうでもなく、こちらの予測を外れた行動を繰り返す。

 いつのまにやらフレンジーやボーンクラッシャーと仲良くなり、戦闘に出るようになり、極めつけは雛たちの母親になったことだ……。

 

――まったく飽きさせない女だ。……いやさ、今それは関係ない。

 

 意味の無い思考を断ち切り、意識を失うより直前のことを記憶回路から引き出した。

 オプティマスと激戦の末、大ダメージを負わせることに成功したものの、自身も限界を超えたメガトロンは意識を失った。

 確か、すぐ後ろに崖があったので足を踏み外してしまったのだろう。

 

「状況は?」

「本隊は撤退をほぼ完了しました。メガトロン様もお早く!」

「……仕方がない」

 

 レイに促されて、メガトロンはそれを受け入れる。

 そして、自分が落ちて来た崖の上を見上げた。

 メガトロンには分かっていた。オプティマスはまだ生きている。

 

――俺が生きている限り、お前が生きている限り、戦いは続くぞ……! 決着はまた今度だ!!

 

 闘志は衰えない。しかし、ダメージを負い過ぎた。

 翼を片方失って顔のフレームが歪み、腹には大穴が開いている。

 

『メガトロン様。こちらサウンドウェーブ、応答されたし』

 

 内心で再戦を誓い、立ち上がろうとしたメガトロンのブレインに、信頼する情報参謀から通信が飛び込んできた。

 リーンボックスが奪還されて以降、追手を撒くために姿を消していたが、こうして連絡してきたということは逃げ切ったのだろう。

 しかし、いつもの機械的に加工された声ではなく彼本来の声だ。映像の上でもバイザーが無くオプティックが露出している。

 

「こちらメガトロン。サウンドウェーブ、聞こえている。……しかし、顔と声はどうした?」

『ただのイメチェン。気にしないでいただきたい』

 

 意外な返答に、メガトロンは少し戸惑う。

 

「そ、そうか……とにかく、こちらは撤退する。ダークマウントで落ち合おう」

『メガトロン様、それはお勧めしない。ダークマウントは陥落した。兵員は全てダークマウントを脱出済み』

「なんだと……?」

 

 腹心の言葉に、メガトロンは眉根をひそめた。

 

「どういうことだ!?」

『先ほど、ブラックハート率いる部隊がダークマウントに潜入、シェアアブソーバーを破壊した』

「やはりか! それでイエローハートの洗脳が解けたのだな! しかし、ショックウェーブはどうした? あやつがそう簡単にシェアアブソーバーの破壊を許すなど……」

『ショックウェーブは、地下農場でステイシス・ロックにあった所を回収された。ドレッズの言葉と合わせて考えると、暴走して指揮放棄の後、単身で敵女神と交戦、結果的に撃破された模様』

「敗れただと!? いや、それ以前に指揮放棄? ショックウェーブがか? そんな馬鹿な!!」

 

 思わず、メガトロンは大声を出していた。隣のレイがビクリとする。

 ショックウェーブは、メガトロンへの強固な忠誠心を持っている……依存と言ってもいい。

 だからこそ、メガトロンの命令を命に代えても守るはずだった。

 

 ……はずだった、のだ。しかし現実にショックウェーブは命令違反と言える行為をして自滅した。

 

 混乱しかけるメガトロンだが、何とか冷静さを保とうとする。

 

「い、いや今はそれどころではない! シェアアブソーバーが破壊されたとしても、まだダークマウントはそう易々とは落ちん!! 誰が放棄を許した」

『…………私だ』

 

 今度こそ、メガトロンは衝撃を受けた。

 

「何……?」

『私が、彼等に退却の許可を出した。状況を鑑みて、他にないと判断した』

 

 サウンドウェーブは、メガトロンに提案することはあっても、メガトロンに断りなく重大な決定を下すことはなかった。

 

『無論、理由はある。すでにリーンボックスの艦隊が島を包囲している。幼体と卵の安全が第一と考え、撤退に踏み切った。加えて……』

 

 らしくもなく、やや緊張した面持ちでサウンドウェーブは何かの音声情報を再生した。

 

『兄弟たち! 人の手によって生まれた人造トランスフォーマーたち! 私はオートボット所属のスティンガー! トゥーヘッドの力を借りて通信しています! どうか、投降してください!!』

 

 どこか少年的な声が、通信に乗って流れてくる。

 

『トゥーヘッドが持つ人造トランスフォーマーの専用回線での通信記録だ』

 

 サウンドウェーブが説明している間にも、スティンガーの言葉は続く。

 

『プラネテューヌには、皆の投降を受け入れる用意があります! 出来る限り人道的な配慮を……!』

『馬鹿言うな! 僕たちはプログラムに投降なんて無いぞ!!』

『そうだそうだ!!』

『プラグラムに無いことは出来ないに決まってるだろ!!』

 

 一体のトラックスが反論したのを皮切りに、他の人造トランスフォーマーたちも口々にプログラムの絶対性を唱える。

 それは、あくまで人為的に生み出された人造トランスフォーマーにとっては当然のことだった。

 しかし、とスティンガーが言葉を続ける。

 

『我ら人造トランスフォーマーは思考能力を持って生み出されました! 我々はプログラムを超えて自分で考えることが出来るんです! 兄弟たち、どうか投降してください! これ以上、傷つかないでほしい!!』

 

 この後は、人造トランスフォーマーたちが言い合う音声が流れ続ける。

 ある者は投降すべきではないかと言い、ある者はあくまでもディセプティコンとして戦い抜くべきだと言うが、結論は出ず、混乱するばかりだ。

 動揺が、人造トランスフォーマー全体に広がっていた。

 

『さらに、クローン兵たちが自己判断で敵軍に投降している』

「ッ……!」

『各地に展開していた部隊も、次々と戦闘を放棄している。全体の約32%の兵士たちは、そのまま戦闘を継続する意思を見せているが……』

 

 ギロリと、メガトロンは傍らに立つレイを睨み付けた。

 

「どういうことだ! なぜ、クローンどもが降伏している! 貴様の指示か!」

 

 メガトロンの剣幕に一瞬、体を震わせて一歩後ずさったレイだったが、すぐに表情を引き締めて足を踏み出した。

 

「……はい。万が一にピーシェちゃんの洗脳が解けることがあれば、戦闘を止めるように言いました」

「何故だ!!」

「彼等はあくまで『エディン』の兵士です。国なき兵が戦う道理はありません」

 

 しっかりした口調のレイに、メガトロンは内心で酷く動揺していることを自覚した。

 彼女(レイ)は、自分(メガトロン)に愛を誓った。愛など持たぬメガトロンだが、そのことにある種の満たされた感覚があるのは確かだった。

 だからこそ、ある程度の独断も不問とした。

 それがオートボットの言うところの信頼なのなら、おそらくはそうなのだろう。

 

 ――しかし、レイは信頼を裏切った。スタースクリーム、サウンドウェーブ、ショックウェーブ、そしてレイ。皆、俺を裏切るのか……。いや、今はそれどころではない。

 

 メガトロンは、無理矢理に思考を切り替えた。

 女神を失い、人造トランスフォーマーとクローン兵は現状役に立たない。

 此方に絶対有利だったはずの戦況が、音を立てて崩れていく。

 

――いつだってそうだ。俺が労力と長い時間を懸けて準備したことを、オプティマスは土壇場で台無しにしやがるんだ……。

 

 相次ぐ想定外の事態と、意外な行動をする部下たちに、メガトロンは我知らず冷静さを削り取られていた。

 

『メガトロン様、それともう一つ、報告がある』

 

――オプティマス、貴様はいつだったか、俺がどれだけ破壊すれば気が済むのかと問うたな。ならば……。

 

『ガルヴァが、敵に拿捕された』

 

――ならばお前は、俺からどれだけ奪えば、気が済むんだ?

 

 

 

 

 

 

 

「め、メガトロン様……?」

 

 急に黙り込んだメガトロンに、レイは気遣わしげに声をかけた。

 確かにレイは自らを慕うクローン兵たちに指示を出して戦争の犠牲者を少なくするように暗躍していたが、それはあくまでもメガトロンのためを思ってのことだった。

 ……しかし、それでもクローンたちをあたら無駄死にさせることは出来ず、彼等にはエディンが実態を失ったなら投降するように言っておいた。あくまでもクローンたちの自由意思に任せたが。

 

 浅知恵ではあるが、しかし傷つく者を少しでも減らすためであった。

 

 後はこの状況ならリスクに敏いメガトロンのこと、迷いなく撤退を選ぶだろうと思っていたのだが……。

 

「…………ディセプティコン、総員に告ぐ」

 

 突然、メガトロンが声を出した。

 あらゆる感情が死んでしまったかのような、妙に平静な声だった。

 レイは冷静さを取り戻したのだと思ったのだが……。

 

「オートボットを殲滅せよ! 奴らを皆殺しにするのだ!!」

「な!? め、メガトロン様!?」

 

 驚愕するレイに構わず、メガトロンは部下たちに通信を飛ばす。

 レイの耳に付けたイヤホン型通信機からは、ディセプティコンたちの動揺する声が聞こえてきた。

 

『抗戦だって?』

『そんな無茶です!!』

「黙れ! 俺に許可なく一人も撤退することは許さん!! 先に撤退した奴らも呼び戻せ!! オートボットも女神も一人残らず殺し尽くしてくれる!!」

「お止めください!! これ以上の戦闘に意味はありません!!」

 

 何とかメガトロンを宥めようとするレイだが、向けられた視線のあまりの冷たさに……そこに込められた怒りと絶望に息を飲む。

 

「…………意味が無いだと? 奴らはガルヴァを奪っていったのだぞ!! おそらくはもう……」

「ッ!! ガルヴァちゃんが!?」

 

 ショックのあまり、ふら付いて倒れそうになるレイだが、頭を振って冷静さを保つ。

 

「落ち着いてください! まだ殺されたと決まったワケじゃあ……」

「言ったはずだ! オートボットはディセプティコンの子供など、容易く駆除するとな!!」

「それは……万が一、オートボットが子供たちを害そうとしたとしても、女神たちがそれを許すとは思えません!!」

 

 少なくとも、レイにはあのお人好しの女神たちが、子供を殺すなんて思えない。捕まったにしても、無事なはずだ。

 なんにしても、まずは状況を把握しなければ……。

 

 辛うじてではあるが冷静さを保とうとしているレイを、メガトロンは疑念に満ちた目で見る。

 

「貴様、随分と冷静ではないか……ああそうか、これも想定の内なのだな? そうかそうか、そういうことか……ハハハ、ハーッハッハッハ!!」

 

 エネルゴンを流しながら立ち上がったメガトロンは、急に笑い出した。

 そのあまりにもらしくない酷く虚ろな笑い声に、レイは背筋が凍りつくのを感じた。

 

「メガトロン様、どうしちゃったんです!? 何を言ってるんです!?」

「……どいつもこいつも裏切り者ばっかりだ! ……よかろう、俺一人で片付ける。俺は、最初から一人だったのだからな!!」

 

 突然、メガトロンの体から黒いオーラが噴き出した。

 かつてレイの体から、その憎しみに呼応して湧き出したオーラと同じ物……信頼や愛の力、シェアエナジーとは対極に位置する、憎しみと拒絶の力、『ネガティブエネルギー』だ。

 

 黒いオーラと発現したネガティブエナジーは、蛇のように伸び、レイの体を絡め取って中空に持ち上げる。

 

「メガトロン様! ダメ! その力は……!!」

「貴様には最後まで付き合ってもらうぞ……! 貴様は、俺の欠片(ピース)なのだからな!!」

「だ、ダメ……う、うあああああ!!」

 

 もがくレイが悲鳴を上げると、その身体が強制的に戦車形態(ハードモード)に変身させられ、分解されてメガトロンの体に融合していく。

 合体した部品は、機械的な接続の域を超えて細胞レベルで同化していき、その証の如く魔神の如き威容に赤黒い血管のような模様が浮かび上がる。

 同時に傷が矛盾した言い方だが破壊的な音を立てて塞がっていく。

 それは、レイと言う女神をメガトロンが乗っ取るのと同意だった。

 

 合体が完了したメガトロンは、崖の上を見上げた。

 そこにいるであろう……たった一人の宿敵を。

 

「オ、プ、ティ、マァァァァァス!!」

 

 踵のスラスターからジェットを噴射して、メガトロンは崖の上まで飛び上がる。

 やはり、オプティマスはそこにいた。

 すぐ傍には何故かパープルハートもいたが、メガトロンにとってはどうでもよいことだった。

 

『メガトロン!?』

「オートボットの屑どもめが! 一人残らず滅ぼしてくれる!!」

 

 二人を見とめたメガトロンはいきなり右腕のディメンジョンカノンを発射するも、合体しているレイが抵抗して狙いが逸れる。

 

「おのれぇぇ! レイ、何故邪魔をする!!」

 

 虚空に向かってメガトロンが吼える。

 

「いったい、何が……?」

「メガトロン!! 話しを聞いてよ!! オプっちとあなたに言わなきゃいけないことがあるんだ!!」

「俺には話しなど無い!!」

 

 ネプテューヌの言葉を斬り捨て、メガトロンは雷状のエネルギーを放ち、ディメンジョンカノンを連続で発射するも、悉く命中しない。

 

 レイはメガトロンの中で、必死に抵抗していた。

 メガトロンの抱えた怒り、悲しみ、劣等感。それらが激しい渦となって周りを取り巻いている。

 何よりも今までとは比較にならないほどの激しい憎しみと絶望。

 

――どうか止めてください! 止めて! 全部話すから!!

 

 しかし、もはやメガトロンはレイの言葉を聞いてなどいない。

 どうしてこうなった?

 簡単だ。やはり秘密を持つべきではなかった。

 もっと早くに話すべきだった。

 

 後悔しても遅い。

 

 しかし、同時にふと気が付いた。

 この怒りは、いつものメガトロンの怒りとは違う。

 自分の境遇や種族的な不遇に対する反発からくる憎悪でも、オプティマスへの拭いきれぬ劣等感の裏返しの怨念でもない。

 今のメガトロンの怒りの源は……つまるところ、ガルヴァへの愛なのだ。

 ガルヴァを消失したと思い込んだことが、これまでにない感情の爆発を生み、メガトロンが何重にも纏っている欺瞞の鎧に穴を開けたのだ。

 

 だとすれば、それは喜ばしいことなのかも知れない。

 

 そんな場違いなことを思いながら、レイの意識はだんだんとメガトロンの意識に溶けていった。

 

 




今回の展開に至るD軍各員の動きを簡単に説明すると……。

スタースクリーム:せっかく手に入れた女神を解放する(ただし、重い覚悟の上で)
サウンドウェーブ:勝手に本拠地を捨てる(ただし、周囲を敵艦隊に包囲された+雛を守るため)
ショックウェーブ:暴走して独断専行のあげく撃破される(地味に一番の大チョンボ)
レイ      :クローン兵を降伏させる(ただし、ガルヴァが捕まったのは想定外)
ガルヴァ    :抜け出して敵にとっ捕まる(メガトロンは殺されたと思い込んでる)

メガトロン   :上記のことが重なったのと肉体的なダメージもあって精神的限界を超え、完全に冷静さを失う。

こんな感じです。

次回、オプティマス対メガトロン第二ラウンド。

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