超次元ゲイム ネプテューヌ THE TRANSFORMATION   作:投稿参謀

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最近、仕事の時間帯が変わったり、体調を崩しがちだったりで中々書く気力がわきません。


第128話 ネプテューヌとピーシェ

「クロスコンビネーション!!」

 

 ついに覚悟を固め、ネプテューヌはイエローハートを倒すべく太刀を振るう。その目には、涙が光っていた。

 

「あはは! 楽しいー! それに悪い女神を倒せばパパが褒めてくれるんだよ!」

 

 父と慕うメガトロンの言うままにイエローハートが爪を振るう。その顔には、笑みが浮かんでいる。

 

 イエローハートの爪と格闘を、ネプテューヌは的確にいなす。

 圧倒的な戦闘力を持つイエローハートだが、ネプテューヌの方が実戦経験は上だ。

 

 愛する者を傷つけなければならず涙を流す紫の女神と、己のしていることを理解していない黄色の女神。

 二人の女神の戦いは、一見して見惚れるほど華麗に見えて、しかし実態は悲惨だった。

 

 ネプテューヌの脳裏に、ピーシェと出会ってからの日々が、まるで走馬灯のように浮かんでは消える。

 

「でっかいのいっくよー! ヴァルキリークロー!!」

 

 大技を繰り出そうとするイエローハートだが、そうすることで一瞬の隙が出来た。

 その隙を逃さず、ネプテューヌは必殺の一撃を繰り出す。

 

「ごめんなさい、ぴーこ……!」

 

 だが、刃が届く直前、何者か横合いから二人の間に突っ込んできた。

 それは、逆三角形のフォルムと逆関節の足を持ち、全身にエイリアンのタトゥーを刻んだトランスフォーマー……スタースクリームだった。

 

「ッ! スター……」

「テメエ、何やってやがる!!」

 

 スタースクリームは、空中でネプテューヌと向き合うといきなり怒鳴った。

 

「テメエは『ねぷてぬ』だろう! 馬鹿でアーパーでお人好しで……底抜けに優しい、『ねぷてぬ』だろうが!!」

「何を言って……」

 

 面食らうネプテューヌに向けて、スタースクリームは掌をかざしてホログラムを投射する。

 するとネプテューヌの目の前に、トンボのような大きな目を持った、小さなディセプティコンの姿が現れた。

 

「……ホィーリー?」

『ネプテューヌ! テメエ、何ピーシェを助けるのを諦めてんだよ!!』

「諦めてなんか……」

『だったら! やり方が違うんだよ! アイツはな、いつもテメエを頼りにしてたんだ! 飯食ってる時も、遊んでる時も、風呂入ってる時も、『ねぷてぬ』の話をすんだよ! それこそ家族みたいにな! 家族に剣を振るう奴がどこにる!!』

 

 泣き声混じりにホィーリーは吼える。

 言っていることは支離滅裂で、自分でも言いたいことがまとまっていないのだろう。

 だが、必死さは伝わった。

 

 それから、もっと大切なことも。

 

 スタースクリームの体からは傷が開いたのかエネルゴンが流れ出ているが、両眼はギラギラと光っていた。

 

「いいか! ピーシェを洗脳してた電波の発生源は全部潰した! 今はバックアップで洗脳されてる状態だ! だがバックアップはあくまで予備、洗脳が解けやすくなってるのは間違いねえんだ! そしてそれが出来るのは、お前だけなんだよ!」

 

 ネプテューヌは、スタースクリームの胸のキャノピーが割れていて、その中に小さな画用紙が収められていることに気が付いた。

 画用紙には、スタースクリームらしいトランスフォーマーと、小さな女の子が手を繋いでいる絵が描かれていた。

 ネプテューヌは理解する。

 

「そう、あなたは……」

 

 お使いの時に出会ったというピーシェの、秘密の友達。

 ピーシェはついに、その正体を教えてくれなかった……。

 

「だから……アイツを取り戻せ、ねぷてぬ」

 

 今までと違い静かに放たれた言葉に、ネプテューヌは無言で、だがしっかりと頷く。

 

「ねえー、まだー?」

 

 イエローハートは二人が会話している間、つまらなそうにしていた。

 まさしく、大人が会話している間待たされる子供のように。

 ネプテューヌは地面に降りると、女神化を解く。

 

「待たせたね、ぴーこ。さあ、遊ぼう」

 

 思えば、ピーシェといる時に変身したことはほとんどなかった。

 いつも、人間の姿でいた。

 この姿こそが、ピーシェにとっての『ねぷてぬ』のはずだ。

 

 戦場で、ネプテューヌが変身を解いたことに気が付いたのはオプティマスとメガトロンだった。

 

「ネプテューヌ、何を……?」

「何をしようとしているにしても、やらせはせんぞ!」

 

 万が一にもイエローハートの洗脳が解けることがあってはならないと、メガトロンはネプテューヌを攻撃しようとするが、その前にジェットファイアが立ちはだかった。

 背中のスラスターからのジェット噴射で滞空しながら、杖代わりのランディングギアを斧に変形させて構える。

 

「おっと。邪魔はさせんぞ」

「ジェットファイア、貴様……!」

「どういうことだ?」

 

 唸るメガトロンと困惑するオプティマス。

 一方でグリムロックは嬉しそうに手を振った。

 

「おお……ジェットファイア! 戦友(とも)よ、久し振り!」

「むう……知り合いか? ええと、ベクやんじゃないしマイちゃんでもないし、ええと……おお、やっぱり記憶がすっぽ抜けてるなあ」

 

 グリムロックのことを思い出そうと頭を振るジェットファイアだが、やがて諦めた。

 

「ま、思い出せんもんはしょうがない。俺は俺の意思に従って生きるのみ」

「それでこそ天空の騎士ジェットファイア!」

「おおう……何だか知らんが、その呼び名は、ちとむず痒いな」

 

 細かいことは気にしないらしいジェットファイアとグリムロックにオプティマスは呆気に取られている。

 ジェットファイアは、状況が飲み込めずにいるオプティマスの顔をチラリと見た。

 

「話すのは初めてだな。当代のプライム」

「……そうか、あの時の氷漬けのトランスフォーマーか」

 

 オプティマスはこの老ディセプティコンが、以前メガトロンに奪われた氷結したトランスフォーマーだと当たりを着ける。

 グリムロックの知り合いのようだし、さしあたって味方と考えていいだろうと判断したオプティマスの顔をジロジロと眺め回したジェットファイアは、突然オプティックを細めた。

 

「……お前さんも、あの二人の間に割って入ろうとか考えるなよ。あの子に惚れてるなら、信じてやるのも男の甲斐性ってもんだ」

「…………」

 

 無言で、オプティマスは銃をメガトロンに向けた。

 グリムロックも咆哮を上げ、ジェットファイアは斧を振りかぶる。

 雷と破壊エネルギーを纏ったメガトロンの強化体は、この三人を持ってしても容易には倒せないことは、分かり切っていた。

 

 

 

 

「おっきいのいくよー!」

 

 イエローハートは無邪気に笑いながらネプテューヌに突撃し、拳を体に叩き込む。

 人間態のネプテューヌは、まるで木の葉のように宙を舞って地面に叩きつけられる。

 呆気ない敵に、イエローハートは小首を傾げる。

 

「もう終わりー?」

「こんなのに負ける『ねぷてぬ』じゃないよ……!」

 

 しかし、ネプテューヌはゆっくりと立ち上がると、イエローハートを真っ直ぐに見た。

 

「知ってるでしょ?」

「ねぷてぬ……?」

 

 一瞬、記憶を探るような顔をしたイエローハートだが、すぐに無表情でネプテューヌに殴りかかった。

 

「知らない」

「ッ!」

 

 踏ん張ったネプテューヌは、強い視線でイエローハートを睨む。

 

「ううん、きっと憶えてる……だって! ぴーこの『ねぷてぬ』だもん!」

「うー……知らない!」

「知ってる!」

「知らない……知らない!!」

 

 しつこいネプテューヌに、イライラとしたイエローハートは、さらなる暴力を振るう。

 爪を真正面から受けたネプテューヌは、為す術も無く地面に沈む。

 

「もう、遊ばない!! ……馬鹿みたい」

 

 そのままイエローハートはつまらなそうに飛び去ろうとする。

 

「どりゃあああ!!」

「ふあああ!?」

 

 だが、その背に突然飛び蹴りが命中した。

 イエローハートが振り返ると、ネプテューヌが傷ついてなお笑っていた。

 

「馬鹿って言う方が馬鹿なんだからね!」

『馬鹿って言う方が馬鹿なんだからねー!』

 

 瞬間、イエローハートの脳裏に『誰か』の声が聞こえた。

 父? 母? いやあれは懐かしい『ね■■■』の……。

 

 全身に装着した『防具』が発光し、急に頭に激痛が走った。

 

「嫌い……嫌い! 大っ嫌い!!」

 

 イエローハートは、発作のように叫ぶと素手でネプテューヌを殴る。

 何発も、何発も……。

 

 

 

 

 

 

「ッ……! ネプテューヌ!」

「耐えろプライム。信じているのならな」

「分かっている……!」

 

 メガトロンと戦いながらも、ネプテューヌのことを気に掛けるオプティマスを、ジェットファイアが諌める。

 向こうではグリムロックのメイスをレイジング・メガトロンが受け止めていた。

 オプティマスとジェットファイアが左右から動けないメガトロンに飛びかかる。

 

「ぐるるぅ! グリムロック、強い! メガトロン、潰す!」

「ええい! この馬鹿力の(けだもの)め! 退かんかあ!!」

 

 万力を込めてグリムロックを押し退けたメガトロンは、全身から雷状の破壊エネルギーを放ってオプティマスとジェットファイアをも吹き飛ばす。

 次いでイエローハートがネプテューヌを攻撃しているのを視界の端に捕らえるや、踵のジェットを噴射してネプテューヌに向けて飛ぶ。

 

 だが、横合いから飛んで来たスタースクリームに体当たりされ、諸共地面に墜落した。

 

「させねえよ……!」

「スタースクリィィム! 貴様、まだ邪魔をするか!」

 

 

 

「嫌い! 嫌い! 嫌い!」

 

 何度殴っても、殴っても、殴っても、ネプテューヌは倒れない。

 その姿に我知らずイエローハートはイラつき、攻撃が雑多になっていく。

 

「嫌い! 嫌い! 嫌い!」

 

 イエローハートの腕をネプテューヌが掴んだ。

 ネプテューヌは、不敵に笑っていた。

 

「捕まえたよ……ぴーこ」

「ッ! 放せ!!」

 

 残った腕に再度爪手甲を装着し、ネプテューヌの顔面を直接殴る。

 白い肌が赤黒く腫れ上がり、さらに裂けて血が流れる。

 

 それでも、ネプテューヌは手を放さない。

 

「放せ! 放せ! 放せー!!」

「絶対、離さない!! もう二度とと! 帰ろう、ぴーこ!!」

 

 イエローハートはネプテューヌを振り払うべく、空へと飛び上がる。

 

 それでも、ネプテューヌは決して手を放さない。

 

 逃れようともがくイエローハートだが、ネプテューヌはさらにもう片方の腕も掴んで、頑として離れない。

 全身の拘束具が激しく輝く。

 イエローハートは困惑していた。

 コイツの声を聴いていると、何かが、自分の中の何かが壊れそうになる。

 またしてもイエローハートの脳裏に声が聞こえる。映像も見える。

 

 あれは誰だ?

 

 知っている。コ■パ、■イちゃん、いすと■る、ねぷ■ゃー、ろ■ます……。

 

 そして、そして……。

 

 みんな、みんな、ぴぃの、ぴぃの■■。

 

 拘束具がより強く黒く輝き、イエローハートの精神を鎮静化しようとする。

 

「はーなーせー!」

「離さない! 離さないぃ!」

 

 ネプテューヌは涙を流しながらも、その手を掴み続ける。

 

「わたしも、ネプギアも、ロディマスも、皆待ってる! 思い出して、思い出してよ、ぴーこぉ!!」

 

 映像が見えた。

 いつもいっしょのあの人。

 優しくて、楽しくて、暖かい……ねぷ■ぬ。ぴぃの家族。

 

「ッ! し、知らない! 知らない! 全然、知らないもん!!」

 

 幼い精神は、記憶の祖語の理解を拒絶し絶叫する。

 それと共に、拘束具が外れて砕け散り、変身が解けた。

 

 イエローハート……幼い少女、ピーシェは泣き叫ぶ。

 

「いやだ、はなせ!」

「ぴーこ……ぴーこ!!」

 

 感極まって涙をこぼし、ネプテューヌは大切な家族を抱きしめる。

 混乱し、感情がグチャグチャになっているピーシェは、力無くネプテューヌを叩いた。

 

「きらい! きらい! きらい!」

「わたしは好き……ぴーこのことが、大好き!」

 

 二人は、そのまま重力に引かれて落ちていく。

 だが、飛来した影が両手で二人を優しく受け止めた。

 

 スタースクリームだ。

 

 

 

 

 

「なんということだ……」

 

 イエローハートの拘束具が砕け、変身が解除されるのを目撃したメガトロンは、半ば茫然としていた。

 だが、すぐに思考を回す。オプティマスに侮辱されたことでヒートアップしていた頭も冷えてきた。

 イエローハートを失った今、エディンの国は成立せず、シェアの共鳴も消えた。

 ダイノボットの参戦で数の理も通じぬ今、このまま無理に戦い続ければ全滅すらありうる。

 さらに戦艦キングフォシルを操艦しているフレンジーから連絡が入った。

 

『メガトロン様! ラステイションとルウィーの軍がこちらに向かって動いています! リーンボックスの艦隊も、R-18アイランドを包囲しようとしているようです!』

「ッ……! ええい、時間をかけ過ぎたか……!」

『メガトロン、帰りましょう。エディンの夢は覚めたわ』

 

 合体しているレイは、何処かホッとした調子でメガトロンを諭す。

 それは戦闘を中断する理由が出来たからか、あるいはピーシェが解放されたからか。

 

「おのれ、ここまで来て……! 止むを得ん。全軍退却! 退却だ!!」

 

 メガトロンは全軍に後退を指示すると、合体形態のまま飛び上がる。

 ブレインの内にレイの小さな声が聞こえてきた。

 

『さようなら、ピーシェちゃん。娘が出来たみたいで楽しかったわ。……元気でね』

 

 

 

 

 

「きらい……きらい……」

「嫌いでもいい。ぴーこがここにいてくれるなら……帰ろう、ぴーこ」

 

 航空参謀の掌の上で、それでも泣きながら弱々しく拳を振るうピーシェを、ネプテューヌは只々、抱きしめた。

 やっと取り戻した家族の温もりを、確かめるように。

 スタースクリームはそんな二人をゆっくりと地面に降ろすと、何も言わずに背中のスラスターを吹かして飛び去った。

 

 その顔は淡く笑んでいた。

 

『終わったな。……これからどうする?』

「ジェットファイアか……お前はプラネテューヌに投降しろ。いいか、オートボットにじゃないぞ、プラネテューヌにだ」

『おい、この状況で抜けろってのか?』

「この状況だからだよ。テメエがノコノコとディセプティコンに戻ってみろ、袋叩きに会うぞ」

『それはお前もだろう』

 

 ジェットファイアからの通信に、スタースクリームは笑みをニヒルな物に変える。

 

「俺はいいんだよ、いつものことだからな。ホィーリーの奴も投降させる。影のオートボットとして動いてたのはアイツだからな、悪いようにゃしねえだろうよ」

『で? あの娘(ピーシェ)には会ってかないのか?』

「ヒーローってのはな、颯爽と去るもんさ」

『……そうか。じゃあな、相棒。短い間だが、楽しかった』

 

 それだけ言って、ジェットファイアは通信を切った。

 

「……ああ。俺も楽しかったぜ」

 

 スタースクリームは、もう一度だけ地上を見た。

 

 エディン軍は、波が引くように撤収してゆく。

 ネプテューヌの腕の中で、ピーシェは泣き疲れて眠ってしまったようだった。

 

「あばよ、ピーシェ」

 

 何かをやり遂げた晴れやかな顔で呟いたスタースクリームは、ジェット戦闘機に変形し、今度こそ空の彼方へ飛び去っていった。

 

 こうして、女神イエローハートは消え、エディンはその短い歴史に幕を閉じたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 しかし、それでも戦いは終わらない。

 

 





次回、オプティマスとメガトロンの決戦。

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