超次元ゲイム ネプテューヌ THE TRANSFORMATION   作:投稿参謀

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少し燃え尽き気味……。


第125話 エディン 直観と論理

 プルルートは直観的な女神である。

 断っておくと、別に頭脳労働が苦手なワケではなく、本気を出せば……滅多に出さないが……教祖イストワールのミスを指摘出来るほどの能力が有る。

 それでも、考えるよりも感じるのが得意な彼女は、直観的に『正しいこと』を選ぶことが出来る。

 

 ショックウェーブは論理的なディセプティコンである。

 彼にとっては戦いも研究も論理の積み重ね。

 論理を是とするが故に論理から抜け出せない。

 

 直観に従う者と、論理を尊ぶ者。

 

 この二人がお互いに激しい敵愾心を燃やすようになったのは、必然だったのかもしれない。

 

  *  *  *

 

 エディンの地下農園。

 メガトロンが国民を養うために造らせたこの場所は、今や戦場と化していた。

 

 ショックウェーブは粒子波動砲を拡散タイプにセットし連続発射。

 無数の光弾の中を、縫うように飛ぶプルルート。

 しかしショックウェーブはプルルートの動きを緻密に計算し、予測した位置に弾を撃つことで正確に命中させる。

 

「ッ!」

 

 翼に被弾し、墜落しそうになるも何とか持ち直す。

 だが、ショックウェーブはさらに粒子波動砲からミサイルを撃ち出し、さらにプルルートを追い詰める。

 

「君の動きは全て予測済みだ。技も癖も、全てのデータを収集した上で分析させてもらった。もう君のことで知らないことなど何もない」

「熱ぅい告白ねぇ。火傷しちゃいそうだわぁ」

 

 プルルートは蛇腹剣を鞭のように振るいミサイルを払い落していくが、ミサイルは直撃せずともプルルートの近くに来ると自動的に爆発し、ジリジリとプルルートを追い詰めていく。

 しかし、それでもプルルートは楽しそうに笑う。

 

「さあ、もっともっとぉ……激しく踊りましょう!」

 

 プルルートは前面に障壁を張り、そのまま弾幕の中を敢えて突っ切ろうとする。

 

「……愚か!」

 

 さらに撃つショックウェーブ。

 プルルートの障壁に次々と光弾が、ミサイルが命中し限界が迫る。

 そしてショックウェーブの眼前でついに限界を迎えた障壁が消失、プルルートにミサイルが直撃する。

 

 だが、プルルートは止まらない!

 

 ダメージを受けながらも、ショックウェーブに斬りかかる。

 

「ファイティングヴァイパー!」

「ぬう……!」

 

 雷を纏い鞭のように伸びた蛇腹剣が、ショックウェーブの胴体に叩き込まれる。

 が、ショックウェーブもまた斬撃も電撃も物ともせずに右腕を通常の腕に変形させ、蛇腹剣を掴んでプルルートを振り回そうとする。

 プルルートは咄嗟に蛇腹剣を手放したが、その瞬間にはショックウェーブは左腕のブレードで得物を失った宿敵を突き刺そうとする。

 身を捻って間一髪でブレードを躱すプルルートだが、次の瞬間には右腕に掴まれていた。

 

「ッう……!!」

「言ったはずだ。君のデータは全て収集、分析した。私はここで君を抹殺し、論理的思考を取り戻す。そうすることで、私はメガトロン様のために全霊を尽くすことが出来るのだ!」

 

 何時になく興奮気味に語りながら、ショックウェーブはプルルートを握り潰そうと指に力を込める。

 しかしそれでもプルルートは笑みを消さない。

 

「相変わらずメガトロンにお熱ねぇ……妬けちゃうわぁ。ああでも、レイ、だったかしら? 最近のお気に入りは、あの人みたいだしぃ? ひょっとしてショッ君、飽きられちゃったんじゃないのぉ?」

「黙れ! 私のあの方に対する忠誠は、そんな非論理的な物ではない!」

 

 レイの名が出た時、ショックウェーブの単眼が危険な輝きを増す。

 

 怒り、憎悪、嫉妬。

 

 本来ならショックウェーブが何よりも嫌うはずの非論理的な感情。

 

「怒った? 怒ったのね? 怒ったわよねえ!」

「何が可笑しい! 何がソンなに面白イ!」

 

 プルルートを握る手を自分の顔の前に持ってきたショックウェーブは、さらに手に力を込めて彼女を握り潰そうとする。

 瞬間、プルルートは口の中に含んだ血をショックウェーブの単眼に吹きかけた。

 

「ッ!?」

 

 ほんの一瞬だけ力が緩んだ手から、プルルートはスルリと抜け出して素早く蛇腹剣を拾う。

 

「アハハハ! ショッ君言ってたわよねぇ! あたしのデータは全部収集したってぇ! これもデータ通りかしらぁ?」

「ッ! プルルートォォ! 殺す! 殺す! 殺すぅ!! お前だけハ、私の手デ殺しテやル!!」

 

 ショックウェーブは単眼に付いた血を拭い、エイリアンタンクに変形するとエネルギー弾を乱射し始める。

 

「アハハハ! ショッ君が怒ったぁ! アハハハ!!」

 

 光弾を躱し続けながら、楽しくて仕方がないと言う風にプルルートは笑う。

 

「認めちゃいなさいよぉ! あなたは感情を失くしてなんかいない、本当は凄く感情的だってさぁ!!」

「黙レ! こンな物ハ、唯のエらーだ! 論理こソが私の全てテ! だカラこそ、ダからこソ……!!」

 

 ショックウェーブはロボットモードに戻り、ブレードで斬りかかる。

 プルルートはそれを真っ向から受け止め、質量差から押されるものの踏みとどまる。

 

「だかラこそ! 私ハ、あノ人に焦がレる! 論理を超エていく者ヲ羨む! 貴様に、貴様ニ、分カってなルものカぁぁアあ!!」

「ぐッ!」

 

 粒子波動砲を撃とうとせず、砲身で直接プルルートを殴るショックウェーブ。

 吹き飛ばされたプルルートは、地面に墜落。

 さらにショックウェーブは粒子波動砲を乱射。

 プルルートは爆炎に包まれた。

 

「はあッ…はあッ…はあッ……は、ハハハ」

 

 荒く排気するショックウェーブは、やがて乾いた笑いを漏らした。

 

「ハハハ! ハーッハッハッハ!! ハッハッハ……?」

 

 しばらく笑っていたショックウェーブだが、ふと自分の顔に手をやる。

 何か、黒い液体が単眼から流れ出ていた。

 

「何だこれは……? ああ、そうか。私もダメージを受けて何処か損傷したのだな。さあ、早く敵軍を追わねば。そうとも早くせねば」

 

 誰にともなく呟いたショックウェーブは踵を返し、何かを振り切るように足早に去ろうとする。

 

 だが、何か音がした。

 

 すぐさま、ショックウェーブは振り向く。

 

 そこでは炎の中瓦礫を押しのけてプルルートが立ち上がっていた。

 傷だらけで、血に塗れ、得物の蛇腹剣にもヒビが入っている。

 それでも、プルルートは笑っていた。

 

 楽しそうに、嬉しそうに、恍惚と、艶然と、凄惨に、可憐に、笑っている。

 

「ああ……ショッ君……やっぱり、あなたとの戦いは楽しいわぁ……あたし、こんな感情を覚えたヒトはあなたが初めてよぉ」

「馬鹿な! すでに肉体は限界を超えているはずだ! 論理的に考えて、動けるはずがない!!」

「いつかも言ったでしょう。論理なんか……超えて見せるってぇ!!」

 

 あくまでも笑うプルルート。

 ショックウェーブは、その姿から目が離せなかった。

 

「あなたはどぉう? 楽しくなぁい?」

「わ、私は……いや! ここに至っては認めてやろう! 確かに、私は貴様との戦いを楽しんでいる! だからこそ、こんな非論理的な思考を捨てるために、貴様を抹殺するのだ!!」

「なら……今は最後まで! 楽しみましょう!!」

 

 もはや空を飛ぶほどの余力さえないプルルートは蛇腹剣を捨てショックウェーブに向けて走り出す。

 

「……いいだろう! 今度の今度の今度の今度こそ! 私の手で! 死ぬがいい!!」

 

 粒子波動砲に最大までエネルギーを溜め、プルルートに向け発射する。 しかしプルルートは大きく跳んでエネルギー弾を避け、さらに爆風を利用して高く舞い上がる。

 そして上空の暗雲から落ちて来た落雷をその身に受けた。

 プルルートの体が光り輝き、キックの体勢で真っ直ぐショックウェーブに向かってくる。

 

「サンダーブレード……」

 

 しかし、ショックウェーブは粒子波動砲を撃つことも、ブレードを振るうことも、防御することも、回避することも忘れていた。

 

「ああ、何て……何て…………美しい」

 

――ああそうか、彼女もまた、論理を超えてゆく者なのだ。だから私はこんなにも彼女に執着して……。

 

「……キィィック!!」

 

 蹴りはショックウェーブの胸に狙い違わず命中した。

 

 

 

 

 

 

 倒れ伏すショックウェーブを見下ろして、プルルートは大きく息を吐いた。

 回復薬を召喚して煽り最低限の体力を取り戻すも、蛇腹剣を拾って杖代わりにすることで何とか歩く。

 

 

 ショックウェーブは最早瀕死だった。

 胴体が大きく凹み、粒子波動砲と胴体を繋ぐチューブも千切れている。

 頭部の角は片方折れ、特徴的な単眼も罅割れていた。

 全身からエネルゴンを流し火花を散らしている。

 

 しかし、意識を失っていても、それでもスパークは消えずにいた。

 

 プルルートは止めを刺すべく蛇腹剣を振り上げようとするが……。

 

――ぷるるーと、ぼくはしょっくんじゃないです。DD-05です。

 

――ぷるるーと。ぼくのトモダチになってくれませんか?

 

――ぷるるーと、これあげます!

 

――ぷるるーとは、すごくきれいです。

 

「………………や~めた」

 

 突然、プルルートは蛇腹剣を粒子に分解した。

 そしてノワールたちの後を追うべく歩きだそうとして……途中でパタリと倒れた。

 

「少し疲れちゃったからぁ……お昼寝しましょう……」

 

 女神化が解け、少女の姿に戻ったプルルート仰向けになると満足げな笑みを浮かべて眠りにつく。

 炎はいつの間にか作動したスプリンクラーから降り注ぐ水によって消火されていた。

 

 破壊しつくされた農場で、プルルートとショックウェーブは、共に……ただ安らかに眠り続けるのだった。

 

  *  *  *

 

 プルルートにショックウェーブを任せたノワールたちは、ダークマウント内部に侵入していた。

 しかし、そこでのエディン軍の抵抗は苛烈を極めた。

 数え切れないセントリーガン、無数の人造トランスフォーマーとクローン兵。

 

 しかし、そこは女神ノワールとオートボット屈指の武闘派アイアンハイド。

 そして歴戦の兵士たちである。

 ジリジリとではあるが前に進んでいた。

 

「もう、こんなトコまで来るとは予想GUYだYO……」

 

 司令部のモニター映像でそれを見ていたクランクケースはどうするべきか、悩んでいた。

 そもそも彼は一監察部隊のリーダーに過ぎず、これほどの大人数を動かすことに慣れていない。

 内心で論理論理言ってる癖にこの大事な時に指揮放棄しやがったショックウェーブに愚痴りながらも、最終的には撤退も視野に入れておく。

 いくらなんでも、この状況でそんなことになるとは思えないが……。

 

「とりあえず、俺らも迎撃するYO!」

「おい、クランクケース! アタイも新兵器で出撃するぞ!!」

 

 と、脇にいたリンダが声を上げる。

 しかしクランクケースはそれを拒否する。

 

「駄目だYO。あの新兵器は……いや、ありゃ新兵器なんて上等なもんじゃない。リンダちゃんはここで待ってるんだYO」

「な、何でだよ! アタイだって……」

「いいから! コイツは命令だYO!」

 

 懇願するリンダだが、クランクケースは切って捨てると外へ出ていく。

 クロウバーとハチェットもリンダの方を一瞥しつつもリーダーに続く。

 司令部に一人残されたリンダはグッと拳を握るのだった。

 

「アタイにだって、……アタイにだって出来ることはある! ……やってやるぜ!」

 




そんなワケで、プルルートとショックウェーブ、痛み分け。

次回はエディンでの戦い決着の予定……あくまで予定。

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