超次元ゲイム ネプテューヌ THE TRANSFORMATION   作:投稿参謀

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TFADV最終回!

いやー、とりあえず丸く収まって良かった。
難点を言うなら、もうちょっと賞金稼ぎたちのキャラを掘り下げてほしかったかな?(特に、もとオートボットのラフェッジ)


第122話 プラネテューヌ サイバトロンの掟

 時間は遡る。

 マイダカイ渓谷でプラネテューヌ軍とエディン軍が激突する、その少し前のこと。

 プラネテューヌの遥か南の海に浮かぶ孤島。

 その海岸にクジラを思わせる武装飛行船が停泊していた。

 

 島の中央にそびえる山の上にある遺跡。

 かつてはこの島に存在したセターンと言う王国の王城だったここに、赤と青のファイアーパターンの体色も眩しいオートボット、オプティマス・プライムが立っていた。

 

「騎士たちよ、ゲイムギョウ界に危機が訪れた。友人たちが助けを求めている。どうか、私たちに力を貸してほしい」

 

 厳かに言うオプティマスの前に、遺跡の奥から光の球体が二つ現れたかと思うと、人の姿になる。

 ネプテューヌ、ネプギア姉妹とよく似た容姿だが、異国情緒溢れる衣装と蛇を模した髪飾り、浅黒い肌に白い髪の少女たちだ。

 オプティマスは深く頭を下げた。

 

「ヴイ・セターン姫、ハイ・セターン姫。ご機嫌麗しゅう」

「久しいなオプティマス。……だいたいのことは把握しているつもりだ。我らはこの場にいても外の世界のことを感じ取れるが故な」

「あなた方には恩があります。出来れば助けになりたいのですが……それを決めるのは我々ではなく、騎士たちです」

『……出でよ! 竜の騎士たち!』

 

 声を合わせるヴイとハイに答えるように咆哮が四つ、城の奥から聞こえてくると、地響きのような足音を立てて、オプティマスの二倍はある巨大な影が姿を現した。

 

 強靭な二本の足に短い腕、力強い顎と長い尻尾、そして二本の湾曲し角。金属で構成された肉体を持つ太古の竜だ。

 

 両肩に牙の生えた顎の意趣を持ち、額に一本の角が生えた、騎士甲冑を思わせる姿の巨人だ。

 セターン王国を守護する竜の騎士団(ダイノボット)のリーダー、炎の騎士グリムロックである。

 オプティマスは今一度、礼をする。

 

「騎士よ。まずは再会に感謝を」

「我、グリムロック! 友よ、また会えて、グリムロック、嬉しい」

 

 豪放に笑うグリムロックに、相変わらずのようだと笑い返すオプティマス。

 

 いつの間にかダイノボットの残る三騎士が周りに立っていた。

 

 マントを背負った小柄な風の騎士ストレイフ。

 

 肩に突起の生えた重装甲の大地の騎士スラッグ。

 

 右腕が長く太い鞭のようになっている巨躯の水の騎士スコーン。

 

 セターン改めダイノボット・アイランドを守る竜の力を宿す騎士団、ダイノボットがここに集合した。

 

「友よ、我々に力を貸してくれないか?」

「応! ……でもその前に、オプティマスの腕、鈍ってないか確かめたい」

 

 グリムロックの言葉に、オプティマスは頷く。

 ダイノボットの力を借りたければ、自らの力を示すしかない。

 

「時間が無い。早く始めよう」

 

 剣と盾を構えるオプティマス。

 グダグダと文句を言って時間を無駄にしたくない。

 グリムロックは金属の顔に凶暴な笑みを浮かべた。

 両者は、雄叫びを上げる。

 

「オートボット総司令官オプティマス・プライム! 参る!!」

「ダイノボットが長、炎の騎士グリムロック! 受けて立つ!!」

 

 闘いが始まった。

 

  *  *  *

 

 そして、時間は現在に戻る。

 

 ――まだか……。

 

「敵の攻撃は苛烈! 我、救援を乞う! 繰り返す、我、救援を乞う! クソが! あっという間に傷が塞がっちまう!!」

「駄目です! こいつら火力も上がって……!」

「プラネテューヌ華撃団、敗走! 幸い死者は出ていませんが、もう戦線を維持できません!!」

「残存兵力は集結して防御陣形を組んで! 急いで!!」

 

 ダイカマイ渓谷の戦場を、エディンの軍が蹂躙する。

 傷付いてもすぐに全快で戦線復帰し、さらに力を増したディセプティコン相手に、プラネテューヌの軍とオートボットたちでは持ちこたえることが出来そうになかった。

 

 ――まだか、まだか、まだか……!

 

「ヒャッハー!! 皆殺しだぁああ!!」

「殺せ、殺せ、殺せ!!」

『うおおおお!!』

 

 シェアエナジーの共鳴には、戦意を高揚させる効果もあるらしく、人造トランスフォーマーたちはいつにない凶暴な雄叫びを上げる。

 

 ――まだか、まだか、まだか、まだか、まだか、まだか!!

 

 そんな中、航空参謀スタースクリームは、ただ一つの報せだけを待っていた。

 

『落ち着け、若いの。焦ってコトを仕損じたたら、元も子もないぞ』

『分かってらあ! だが、このまま手遅れになったらこっちの負けも同じだ! ここらへんが、ピーシェが許されるギリギリなんだよ!』

 

 ジェットファイアからの秘匿通信に、スタースクリームは焦燥した調子で答える。

 これ以上犠牲が出れば、ピーシェの洗脳が解けても禍根が残る。

 敵国の女神の、憎い仇の、幸せを願わぬ者が必ず現れる。

 

 ピーシェが何の遺恨も無く、元に戻るためには、この辺りが限界なのだ。

 

 故に、スタースクリームはホィーリーからの通信を待ち焦がれる。

 

  *  *  *

 

「うーん……!」

「集中して、心を震わせるの。……そう、よく出来てるわ」

 

 エディン軍とシェアエナジーを共鳴させ続けているイエローハートにレイが優しく声をかける。

 この戦いにおけるレイの仕事は、イエローハートのサポートと守護だ。

 元々、偶発的に起こる共鳴を無理やり起こさせているのだから、イエローハートにも負担が掛かるのだ。

 

「大丈夫、気を落ち着けて……」

「ピーシェ!」

 

 そこへ、合流したネプギアに指揮を任せたネプテューヌが飛んできた。

 

「ピーシェ!! もうやめてちょうだい! これ以上は……!!」

「……待ちな」

 

 悲痛な声を上げるネプテューヌだが、その前にレイが雷を纏って立ちはだかった。

 

「退きなさい。これ以上の戦いは無駄。素直に兵を引き、首都に最終防衛線を築くことをお勧めするわ」

「そんなことは……」

「出来ないと? 何故? このままではあなた方の敗北は必至よ。それよりは、再起に賭ける方が無難だと思うけど」

 

 女神化した状態でも、冷静かつ平静とした態度のレイに、ネプテューヌは内心の混沌とした感情を見つめる。

 国を守るため、オプティマスとの約束を守るため。

 いやそうではない。

 それもあるが、それだけではない。

 

「……これ以上、ピーシェを傷つけないためよ」

「…………」

「その子が正気に戻った時、いつか罪悪感を抱かなくてもいいように、その子がこれ以上、誰かを傷つけないで済むように、ここで止める」

 

 ネプテューヌの言葉を受けてなお、当のイエローハートは首を傾げるばかりだ。

 

「ママ、何言ってるの、あの女神? ねえ、ママ……ママ?」

「……ハッ!」

 

 一方で、レイは表情を嘲笑とも愉悦とも付かぬ笑みで歪める。

 瞳が小さく窄まり、狂気的な表情へと変わる。

 

「大した女神様だこと! 子供一人のために、国を質に入れるのかい!!」

「そんなことはしない。ピーシェも、プラネテューヌも、両方護る!!」

「欲張りなこって……なら、仕方がないねえ。来な、後輩女神。遊んでやるよ。……ピーシェは、そこで共鳴を続けなさい」

 

 天覆う黒雲で雷が鳴り、レイは杖を構える。

 

「クロスコンビネーション!!」

「破戒の舞闘!!」

 

 ネプテューヌとレイ、二人の女神の連撃を繰り出す。

 太刀と杖が交錯し、火花が散る。

 武器での戦いでは、ネプテューヌの方が僅かに上……いや、そこにレイが蹴りを差し込み、ネプテューヌの脇腹を蹴る。

 

「ッ!」

「武器に頼り過ぎだよ! もっと感覚を研ぎ澄ましな!!」

 

 最後に戦った時よりも技の切れが上がっている……いや、記憶とともに切れを取り戻したと言った方が正しいか。

 

「ほらほら休んでる暇はないよ! 審判の雷霆!!」

 

 杖と太刀の応酬が続くなか、レイが杖を掲げると暗雲から次々と稲妻が落ちる。

 

「キャアアア!!」

「これが本家本元の女神の天罰さ!!」

「くうう……!」

 

 躱そうとし、あるいは防ごうとするネプテューヌだが、強力な雷を前に上手くいかない。

 女神の頑強さで持って耐えるネプテューヌに、レイはさらなる雷を浴びせる。

 

「どうしたんだい? このままじゃ丸焼きになるよ!!」

「ッ……ううう! はあああッ!!」

 

 気合いの雄叫びを上げたネプテューヌの体から強いパワーが放たれ、一瞬だけ雷を弾く。

 その一瞬で、ネプテューヌは人間、女神に続く第三の姿である四枚の前進翼を持った未来戦闘機の姿に変じると、スラスターからジェットを噴射してその場から離脱した。

 

「ッ! なるほど、そういう方がお好みかい!」

 

 次いでレイも光に包まれて飛行戦車の姿に変身し、ネプテューヌを追う。

 砲塔の両サイドから生えた角から、電撃弾を機銃のように発射するレイ。

 回避されるが、続いて主砲を発射。

 ネプテューヌは、これを躱しつつ宙返りでレイの後ろに回り込み、ビーム機銃を浴びせる。

 

「む!」

「どうやら、こういう戦いは私の方が得意なようね。伊達にシューティングゲームで遊んでいないわ!」

「思いっきり伊達だろ、それ!」

 

 ツッコミを入れつつ、レイは一切ダメージを負っている様子はない。

 スピード、機動性ならネプテューヌ。火力、耐久力ならばレイの方が勝っているようだ。

 ドッグファイトの決着は中々つかず、両者は超高速で飛行し続ける。

 

 その間にもピーシェは共鳴を続けるが、その身体から吹き出す光が途切れ途切れになってゆく。

 

「あれれー……? ママー……何かおかしいよー……」

「ッ!」

 

 すぐさま、レイは女神の姿に戻りネプテューヌを放っておいてイエローハートの傍に飛んでいく。

 

「ふええ……力が入らない」

「ピーシェ! ……メガトロン、メガトロン! 」

 

 ふらつくピーシェを支え、レイはメガトロンに通信を飛ばす。

 

「そろそろ限界よ! いったん調整がいる!!」

『もうか!? 早すぎるぞ!!』

「しょうがないだろう! 今はここまでで良しとしな!!」

『……まあいい、渓谷は制圧した。ここからは単純な力押しでいける』

 

 獅子のような唸り声を出したメガトロンが通信を切ったのを確認し、レイはやはり女神態に戻ったネプテューヌに視線をやる。

 

「と、言うワケさ。今は兵を引かせな」

「…………」

「これ以上やったら、双方無駄死にだって言ってるのよ」

 

 ピシャリと言い放ち、レイはイエローハートを連れて飛び去る。

 

『お姉ちゃん! 軍を後の砦に下がらせたよ!』

「……分かったわ、今は体勢を立て直しましょう」

 

 ネプギアからの報告に答え、ネプテューヌは後方の陣に向け飛んでいくのだった。

 

  *  *  *

 

 スタースクリームは敵機を撃墜しながらも、殺さないように気を使う。

 向こう側の兵器は総じて生存性に拘った作りになっているようなので、比較的容易ではあるが……それも長くは持たない。

 

 焦りがジワジワとスタースクリームのブレインを蝕む。

 いっそ、計画を前倒しにしてメガトロンを攻撃すべきかと迷うが……。

 

『……スタースクリーム、待たせた。洗脳電波発生装置の無力化に成功したぜ』

 

 待ちわびた通信がやってきた。

 

「やっとか、ギリギリだぞ……」

『しゃあねえだろ! 俺みたいのが警戒厳重な臨時基地の奥に忍び込むのは骨だったんだぜ!!』

「まあ、いい。テメエはさっさと脱出しろ」

 

 考えてみれば、このタイミングで良かったのかもしれない。

 ちょうど、プラネテューヌ軍は体勢を立て直すために後方に結集し、エディン軍はこれを完全粉砕するために集結していて、ピーシェは後方に下がって調整を受けている。

 

 『こと』を起こすなら、今しかない。

 

「時が来たな」

 

 いつの間にか、隣にジェットファイアがいた。

 まったく不思議なご老体である。

 何を考えているのか分からない、何処まで正気かも分からない食えない御仁だ。

 

 しかし、何だろう、スタースクリームはまるで何万年も前からの友人であったかのように、この老人に頼もしさを感じていた。

 

『スタースクリーム!』

「ホィーリーか、何だよ?」

『絶対に成功させろよ! ピーシェも、爺さんも、テメエも無事に終わらせて、めでたしめでたしってエンディング以外、俺は認めねえからな!! それがヒーロー物のお約束てもんだろ! テメエは、愚か者で、ニューリーダー病で、スタースクリームだけど! あの子にとっちゃスーパーヒーローなんだよ!

 

あの子(ピーシェ)が選んだ、あの子(ピーシェ)のヒーローは、お前なんだよ!

 

だから、だからよ……」

「……ハッ! 誰に物言ってやがる!!」

 

 泣きそうな声のホィーリーに、スタースクリームは不敵に笑う。

 仲間は錆びついた老人と針金細工のようなチビ。

 ああしかし、少なくとも、一人で事を起こすよりは、だいぶマシだ。絶対にマシだ。

 

「行くぜ……!」

 

  *  *  *

 

 両軍は、いったん戦闘を中止してそれぞれの前線基地に戻っていた。

 ここまでの間に、渓谷を占拠したエディン軍は、本格的な橋の建造を初めていた。

 それを眺めながら、メガトロンは満足げに嗤っていた。

 

 リーンボックスが陥落したのは予想外だったが、まだまだこちらの優位は揺るがない。

 戦艦が落ちたことで下がりかけた士気も、虎の子のシェアエナジーの共鳴を見せることで回復した。

 

 オプティマスが現れないのは、おそらくエディン本土を攻めているからだろう。

 だが、本土を守るのは科学参謀ショックウェーブ。メガトロンが最も信頼するディセプティコンの一人。

 敵を殲滅出来ずとも、徹底して防衛するだけで良い。

 そうすれば勝てる。

 

「メガトロン様! 我ら直属部隊に敵の掃討をお任せください! 必ずや女神とオートボットどもを破壊してご覧に入れます!!」

「俺たちコンストラクティコンに任せてくれりゃあ、デバステイターに合体してすぐに叩き潰して見せますぜ!!」

「まあ、待て……む」

 

 逸る部下たちを宥めていたメガトロンだったが、その隣にガオン!という異音と共に空間が切り裂かれ、中からレイが出てくる。

 メガトロンが一瞥すると、レイは一礼してから報告する。

 

「メガトロン様。ピーシェちゃんは、今しばらく調整が必要です」

「そうか、終わりしだい呼び戻せ。……しかし便利な物よな。そのポータルとやらは。輸送や攻撃に転用できそうだ」

「残念ながら、ポータルは非常に不安定で、私以外が入ると何が起こるか分からないんですよ」

「なるほどな」

 

 二人で話していると、スタースクリームとジェットファイアが近くに降り立ち、ゆっくりと歩いてきた。

 その顔は堂々としていて、覇気があった。

 最近、スタースクリームがこういう顔をするようになったのはメガトロンにとって嬉しい誤算だった。

 才覚と気骨を見込んでNo.2にしたが、どうにも小悪党な部分が抜けない。

 いい加減、見限ろうかとも思っていたが、ようやっと男の顔をするようになってきた。

 

 スタースクリームは、その目を挑戦的にギラギラと燃やす。

 

「メガトロン……俺は、あんたに挑戦する!!」

 

 しかし、その言は、さすがに予想外だった。

 いつものこと、そう切り捨てることは出来ない熱意があった。

 

「……何のつもりだ?」

「言った通りさ。……こっちからも質問させてくれ。この戦いは何のためだ」

「何を言う。宇宙支配、圧制を通じての平和ために決まっている」

 

 淀みなく答えるメガトロン。

 直属部隊とコンストラクティコンがスタースクリームを取り囲むが、構わずスタースクリームは続ける。

 

「圧制を通じての平和、ね。……それはディセプティコンの大義じゃねえ、あんたの大義だ!」

 

 航空参謀は、破壊大帝に指を突きつけた。

 

「この戦いの大義は、最初は抑圧と差別からの解放だったはずだ!! それがいつの間にか宇宙支配に拡大した!! 圧制からの解放者だったはずのあんたは、今や自分が圧制者に成り果てたんだ!!」

 

 スタースクリームの言葉に、ディセプティコンの兵士たちはざわつく。

 

「……もっとも、俺らに非が無いとは言わない。ディセプティコンってのは強い者の言葉には、よく考えずに従っちまう部分があるからな。もうほとんど誰も、軍団の大義なんざ憶えてないのかもな」

 

 今にも飛びかからんとするブラックアウトを、メガトロンは視線で制した。

 スタースクリームは、大きく排気する。

 

「今や変革の時、トランスフォーマーは老いぼれていない、新しいリーダーを求めている!」

 

 お決まりのフレーズ。だが、今回はいつもと違った。

 

「……憶えてるか? 元々は、あんたの言葉だ。かつて、この言葉にディセプティコンは夢を見た。もう、ディセプティコンだからって理由で権利を奪われ、尊厳を奪われ、生命を奪われることのない世界をだ! 俺だって、その一人だった」

 

 言葉を聞くうちに、メガトロンの表情が剣呑に歪んでゆく。

 

「……だが、結果はどうだ? 星は焼かれ、オールスパークは失われた!! この戦いの正当性なんざ、当の昔に失われてたんだよ!!」

「何を言い出すかと思えば……大義? 正当性? そんな物は、勝ち取ればいい。力で奪い取るのが、我らディセプティコンの在り方よ。言葉を並べて何かを得ようと言うのは弱者の絵空事、そんな言葉に耳を傾けるのは、もはや武官ではなく文官だ!!」

 

 天を揺るがすが如き、破壊大帝の怒声。

 しかし、スタースクリームは真っ向からそれを受け止める。

 

「話しを逸らしてんじゃねえよ! ゲイムギョウ界に来てからの俺たちの目的は、エネルギーを確保することと、惑星サイバトロンを復興することだったはず! それだって、ピーシェがいる時点で、達成出来たはずだ! しかし、あんたはオートボットを……オプティマス・プライムを倒すことに拘った! ……あんたは私怨で、目的を見失っているんだ!! 今も、昔も!!」

 

 言っていて、スタースクリームの表情は段々と泣きそうな物になっていった。

 気付いたからだ。

 

 スタースクリームにとって、メガトロンは『憧れ』だった。

 

 自覚してしまえば、あまりに簡単で滑稽な答えだ。

 

 メガトロンはスタースクリームの必死な言葉にも傲然とした態度を崩さない。

 

「俺が目的を見失っているだと? ……愚かな。最初から変わってなどいない。宇宙を支配し、平和をもたらす。故郷を甦らせる。そのどちらも果たすために、イエローハートを味方に付けたのだ」

 

 その言葉に、スタースクリームは何とも言えない顔をする。

 怒りと悲しみが複雑に混じり合った顔だ。

 

「味方、味方ねえ……だったら何で……何で素直にピーシェに頼まなかったんだ?」

「…………………何だと?」

「ちょいと頭下げて頼み込めば、あのチビは「いいよー!」とでも言って手を貸してくれるだろうさ。そうしなかったのは、テメエが頭を下げるのが嫌だったからだ、他人の下に付くのが嫌だったからだ!!」

「それがどうした? 結局は同じことではないか」

 

 僅かに首を傾げ、メガトロンは当然のこととばかりに言い放つ。

 視線には怒気が宿り、膨れ上がる殺気に周囲のディセプティコンたちが震える。

 それでもスタースクリームは怯まない。

 

「いいや、大違いだね。結局のところ、俺はピーシェの意思を奪って道具のように扱う、その一点がどうしても気に食わねえんだ!! ああ、偉そうなことを言ってきたが、それが全てさ!」

 

 ありったけの怒りと意地を込めてメガトロンを睨む。

 

「アイツが苦しんでると……魂って奴が、痛んでしょうがねえんだよ!!」

「くだらんな。そんなことのために、長々と口上を垂れたワケか」

「最後まで聞きな、メガトロン! 俺は貴様に、『サイバトロンの掟』に則った決闘を申し込む!!」

 

 瞬間、ディセプティコンたちが動揺してザワザワと騒ぎ出す。

 メガトロンは少し驚いた素振りを見せるも、傲然とした態度を崩さない。

 

 『サイバトロンの掟』

 

 それは、何者の力も借りず一対一で戦い、敗れた者は例え死なずとも軍団を永遠に去ることが義務付けられた戦い。

 オートボットにも同名の掟があるがディセプティコンのそれは、さらに重大な意味合いを持ち、今までのなんだかんだと許されてきた反逆とは違う。

 

 戦えば二人の内どちらかが確実にいなくなる、それが『サイバトロンの掟』による決闘なのだ。

 

「どうだ、メガトロン! 俺の挑戦を受けるか!!」

「……あんな餓鬼一人のために、俺に刃向うか。……よかろう。受けて立つ」

 

 鷹揚に、メガトロンは申し出を受けた。

 隣に立つレイが驚愕して破壊大帝を見上げる。

 

「メガトロン様!? 今は戦いの真っ最中ですよ! 何もこんな時に……」

「こんな時であろうと、決闘から逃れることは出来ん」

 

 答えたのは、メガトロンではなくスタースクリームの後ろにセコンドのように控えるジェットファイアだった。

 

「ディセプティコンにおいて、決闘から逃げ出した者は、生命の続く間、そして死した後も臆病者として罵られる。例え、何者であろうともだ。……では、決闘の立会人は俺が務めよう」

「ジェットファイア……貴様、セレブロシェルの影響から逃れていたか!」

 

 メガトロンにねめつけられても、老兵は笑う。

 

「いいや、影響はあるとも。記憶はあちこち虫食いだ。……それでも、俺は己の意思を失わん。俺はジェットファイア様だぞ?」

 

 伝説の戦士の勇名に恥じぬ、不敵な笑みを見せるジェットファイアに、メガトロンは凶暴な唸り声を上げつつもスタースクリームと向き合う。

 

 自然と、ディセプティコンたちが場所を開ける。

 まるで円形の闘技場のように。

 

 挑戦者(スタースクリーム)王者(メガトロン)の間に立ったジェットファイアが老いてなお良く通る声を上げる。

 

「では古来よりの決闘の作法に従い、双方、この名誉の短剣を持ってエネルゴンを流し、栄光の板に自分の名を刻め」

 

 ジェットファイアがどこからか差し出したのは、二本の鋭い短剣と一枚の厚い鋼板だった。

 装飾の施されたそれらは、実戦用ではなく儀式のために使う物だ。

 メガトロンが短剣の一本を受け取ると、自分の掌を薄く切ってエネルゴンを刃に付ける。

 そして鋼板に短剣を使って惑星サイバトロンの文字で自分の名前を刻み込んだ。

 続いて、スタースクリームも、もう一本の短剣を受け取り同じように掌を切って、自分の名前を刻む。

 双方が自分の名前を書き込んだのを確認し、ジェットファイアは鋼板を周囲に見えるように掲げる。

 

「見よ! これぞ、栄光の板! この決闘は、不可侵なる『サイバトロンの掟』に則った物であり、いかなる者の手助けも無く己の持てる力のみで戦うこと。決して逃げ出さないこと。敗れた者は潔く軍団を去ること。また、これに背く者は未来永劫、名誉と栄光無き者として扱われること。以上のことを誓う板だ! ……無論、シェアエナジーも無しだ」

 

 噛んで含めるように付け加えるジェットファイアに、メガトロンは顔をしかめる。

 だがすぐに挑戦者たる航空参謀に視線を移す。

 

 果たしてスタースクリームは、かつてメガトロンが期待した通りの決意と覚悟を秘めた顔をしていた。

 思わず、口角が吊り上る。

 

「この闘いをオールスパークに捧げる! 願わくば、末世まで語り継がれる良き闘いとならんことを!!」

 

 ジェットファイアの口上を合図に、両者は互いに咆哮を上げる。

 

「俺に勝てると思っているのか? スタースクリーム」

「『勝てると思ってる』じゃねえ、『勝つ』んだよ! 航空参謀スタースクリーム! 参る!!」

「ディセプティコン破壊大帝メガトロン! 受けて立つ!! そのつまらぬ意地、通してみせよ!!」

 

 ディセプティコンの命運と、黄色の女神の未来と、男の意地と矜持を懸けた闘いが始まった。

 




いつもの:独りよがりで場当たり的でボンクラな反抗。

今回の :仲間といっしょに前もって準備した男の意地と矜持の全てを賭けた反逆。

ちょっと語りますと、スタースクリームこそはこの作品のテーマである『君が選ぶ、君のヒーロー』を筆者が誰よりも強く託したキャラなんです。
『君が選ぶ、君のヒーロー』とは群像劇であるTFで、自分の好きなキャラをヒーローとして選ぶと言うこと。

……逆に言えば、誰かに選んでもらえたなら、誰だってヒーローに成れるということなんじゃないかと。

それこそ、ヘタレで愚か者でニューリーダー病のスタースクリームであっても。

今回の解説。

ダイノボット
ものすごく久しぶりのダイノボット。
色んな意味で相変わらず。

サイバトロンの掟
尚武の民たるディセプティコンでは、決闘はより重い意味を持つんでないかと思います。

名誉の短剣と栄光の板
もちろん、オリジナル。
オートボットのそれに比べ掟が重い意味を持つことを示すための小道具。

次回、いよいよ決闘。

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