超次元ゲイム ネプテューヌ THE TRANSFORMATION   作:投稿参謀

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今週のTFADVは!
うん、成績って気になるよね、やっぱり……。
セントヒラリー山か。G1オマージュですね。
マイクロンたちは仲間になるフラグが立ってますな。


第117話 リーンボックス 晴れる

「殺せ! ぶっ潰せ! 破壊しろ!!」

「引き裂け! 殴れ! 踏み潰せぇええ!!」

「うおおおお!!」

 

 雨の降り続けるリーンボックス。

 洗脳下で新たな命令を受けたリーンボックスの民は今や荒れ狂い、武器を手に目に付いた物を破壊していく。

 それでも最後の理性が働いているのか殺し合いには発展していないが、それも時間の問題だ。

 

「ち、ちょっとやめなよー!」

「止まってくださーい!」

「これ以上は発砲も視野に入れまーす!」

 

 人造トランスフォーマーたちが民衆を制止しようとしているが、上手くいっていない。

 そもそもクローン兵たちがいないので、人手が足りないのだ。

 

 そんな中、秘密警察109号こと、レジスタンスをスパイしていた少女は物陰に隠れて嵐が過ぎ去るのを待っていた。

 

 自分は生き残らなければならないのだ。

 パパに、ママに再開するために。

 女神様に謝るために。

 あのヒトにお礼を言うために。

 

 そんな少女の決意など知ったことではなく、人々は破壊の限りを尽くす。

 

 このまま、リーンボックスは力と暴力の支配する世界と成り果てるのか?

 

『みんなー! ボクの歌を聞けー!!』

 

 だが、突如として伸びやかな声が響く。

 思わず群衆が見上げると、街のランドマークである巨大モニターに青い髪と泣きボクロの少女が映っている。

 人造トランスフォーマーたちは訝しげに首を傾げた。

 

「誰よ、アレ?」

「ご存知ないのですか!? 彼女こそインディーズからチャンスを掴み、スターの座を駆けあがっている超次元シンデレラ、5pb.ちゃんです!!」

「ああ! あのサウンドウェーブ様のお気に入りの……でも、何でこのタイミング?」

 

 この状況下で歌番組だなんて、呑気どころの話しではない。

 今は緊急時、歌姫の出る幕など無いのだ。

 

 ところが、暴徒たちは武器を下げ、5pb.を見上げている。

 

「え? え? 何これ、どういうコト?」

 

 状況が飲み込めず困惑する人造トランスフォーマーたち。

 

 しかし、群衆は何も理由なく5pb.に見惚れているワケではない。

 

 実のところ、サウンドウェーブは洗脳電波が敵に奪われた時のことを考えて、ある映像と音声を認識すると動きを止めるようにしておいたのだ。

 

 それこそが、5pb.の姿と声なのである。

 

 ……越権行為じゃねえかとか、どんだけ5pb.好きなんだよとかは、この際言いっこナシである。

 

 だが、さらに驚きは続く。

 

『今日は、みんなに特別ゲストを紹介するね! リーンボックスの女神様、ベール様と、女神候補生のアリスさん!』

『ごきげんよう、皆さん。ご紹介に預かりましたベールですわ』

『え? あの、今なにか有り得ないことを聞いたような……』

 

 画面に現れたのは金糸の長髪と碧玉の瞳、そして緑を基調としたドレスと豊満な胸が特徴的な美女と、彼女とよく似た雰囲気だが肩辺りで切りそろえた髪が勝気な印象の美少女だ。

 しかし、美少女の方は戸惑っている。

 

『って言うか、何で私までテレビに映ってるんです!? これベール姉さんだけのはずじゃあ……』

『何を言っていますの? わたくしの『妹』、つまり『リーンボックスの女神候補生』であるアリスちゃんが国民の前に顔を出さない道理がありますか?』

『既成事実作って逃げられなくするつもりだ、この人ー!?』

 

 美しく優しいのに何処か黒い笑みを浮かべる美女ことベールと、絶叫する美少女ことアリス。

 何がどうなっているのか分からず顔を見合わせるエディン軍を余所に、一人納得している人物がいた。

 

 物陰からモニターを見上げるスパイだった少女である。

 

「そうかー、あの人は女神様だったんだー!」

 

 キラキラと目を輝かせる少女はすっかりアリスが女神だと信じ込んでいるのだった。

 

 降り続いていた雨は、いつの間にか止んでいた。

 

  *  *  *

 

「よおし、全回線オンライン、全周波数ジャック完了! テレビ、ラジオ、インターネット! あらゆる情報媒体でリーンボックス中にこの番組をお届けだ! 視聴率強制100%だぜ!」

 

 エディン軍基地のサウンドウェーブのプライベート空間。

 ブレインズは机の上に乗り、頭から生えたコードを基地のメインコンピューターに接続していた。

 それを手伝ってコンソールを弄っているツイーゲは浮かない顔だ。

 

「ハッキングは、あのなんちゃってオカマみたいで嫌なんでビルが……」

「こういう状況だ、仕方ねえだろ。人命が掛かってんだぜ」

「正論なんだけど、釈然としないビル……」

 

 言い合うツイーゲとブレインズだが、手は止めない。

 

 ここは音楽好きなサウンドウェーブの趣味故か、まるでスタジオのようになっている。

 即席ステージの上に5pb.、ベール、アリスが並び、その後ろでギターとベースをそれぞれ抱えているのはサウンドウェーブとジャズ、カメラを回しているのはサイドウェイズだ。

 さらに5pb.の持っているギターはレーザービークが変形している物で、音響機材を調整しているのはラヴィッジである。

 

「それではアリスちゃん! 5pb.ちゃんの歌に合わせて、踊りましょう!」

「どうしてこうなった! 何度でも言う、どうしてこうなった!!」

 

 この緊急時に満面の笑みでハイテンションなベールに対し、アリスはツッコミを入れざるをはない。

 

「ええい、もう! やったりますよ!」

 

 しかし、すぐに腹を括る。

 苦笑しつつも、5pb.は番組を進行する。

 

「あはは、じゃあ行きます! 曲はまずは定番! 『きりひらけ!グレイシー☆スター!』」

 

 軽快な音楽が流れだし、5pb,がギターを鳴らして歌い出すと共にベールとアリスが動きを合わせて踊りだす。

 5pb.の歌と演奏が素晴らしいのはもちろんだが、ベールとアリスの踊りも中々に堂の入った物だ。

 しかし、もっと驚くべきはサウンドウェーブとジャズの演奏だろう。

 卓越したテクニックを持ちながら、女性陣よりも目立たずあくまで引き立て役に徹する腕前は見事と言う他ない。

 

『しかし、この作戦を言い出した時は、どうなるかと思ったぜ』

 

 演奏を続けながら、ジャズは隣のサウンドウェーブに通信を飛ばす。

 サウンドウェーブの考えた手と言うのは、5pb.のライブをハッキングしたあらゆる情報媒体で流して動きを止めた後、女神ベールの声と姿で国民に正気を取り戻してもらうと言うものだった。

 詳しい原理はともかくとして5pb.の歌声が聞こえている間は、洗脳が解けやすくなるらしく、この状態ならベールへの信仰心をきっかけに正気を取り戻せるだろうとサウンドウェーブは踏んだのだ。

 

 正直、サウンドウェーブ的にも賭けである。

 

『彼女ノ歌ナラ、奇跡ヲ起コセル。ソンナ気ガスル』

『らしくもないな。……だが、同意するぜ』

 

 ちなみに5pb.に協力を要請するさい、サウンドウェーブ、レーザービーク、ラヴィッジの三人でジェットストリーム謝罪とかしていたが今は関係ない。

 

  *  *  *

 

 歌はリーンボックス中に広がっていく。

 国民たちは武器を降ろし、表情も穏やかになっていく。

 人造トランスフォーマーたちは只々、唖然としていた。

 

「ヤックデカルチャー……」

「何それ?」

「いや、何か言わなきゃいけない気がして……」

 

 だが、まだ足りない。

 

 モージャスの呪詛を打ち破り、洗脳を完全に解くためには、もう一押し必要だ。

 

「…………」

 

 あのスパイだった少女は、ひたすらに祈りを捧げていた。

 敬愛する女神と、自分を助けてくれた、あの人に。

 

 雲の切れ間から、日の光が差し込んでいた。

 

  *  *  *

 

 アリスは、踊りながら不思議な事を感じていた。

 

 胸の内に、体の中に、何か暖かくて強い力が流れ込んで来る。

 同時にアリスの意識は二つに分かれ、一方は踊りに集中しているのに、もう一方は何か、あまりにも大きく深い何かと対話していた。

 

――アリス、君に問おう。君は、リーンボックスを愛しているか?

 

 その何かの問いにアリスは笑顔で大きく頷いた。

 

――アリス、君は他の皆とは違う。君には拒否するチャンスと権利がある。この先に待ち受けるのは、決して平坦な道のりではない。試練の時が迫っている。二つの世界とそこに生きるあらゆる存在に対する試練が……それでも君は、その道を選ぶのかい?

 

 もう一度、アリスは頷いた。

 

――君は選択した。ならば、今はその意思を祝福しよう。……ハッピーバースデー、グリーンシスター。

 

 二つに分かれた意識が一つに戻った時、アリスの体は光に包まれ形を変える。

 

 髪は緑のサイドテール。

 

 身を包むは白いレオタード。

 

 背には四枚の光の翼。

 

 瞳に浮かぶのは、女神の証たる円と直線を合わせた紋様。

 

 新たなる女神候補生、グリーンシスターが、ここに新生した。

 

「アリスちゃん!?」

「これはいったい!?」

「ドウイウ事ダ?」

 

 その変身に、誰もが驚愕する。

 だが一番驚いているのは、当のアリス本人だった。

 その記憶から、先ほどの何者かとの対話は消え去っていた。

 

「こ、これって……」

「やっぱり、成功してたか!」

 

 自分の姿を見て愕然とするアリスに答えるように声を上げたのは、ブレインズだった。

 

「女神メモリーは、アリスと融合してたんだ! アリス、お前は女神に成ってたんだよ! だから、変形機能が作動しなかったんだ、お前はもう、トランスフォーマーとは別の存在になってたんだからな!」

 

 その言葉に、合点がいったのはサウンドウェーブだ。

 橋の上で狙撃されるまでサウンドウェーブは、アリスは死んだ物だと思っていた。

 体内に仕込んでいた発信機の反応が完全に消えたからだ。

 おそらくは女神化の影響で無力化されていたのだろう。

 

 アリスは、完全にサウンドウェーブの手を離れたのだ。

 

「私が、本当に女神に……」

 

 自分の手を見て、複雑な表情を浮かべるアリス。

 

 プリテンダーに生まれたくなんかなかった。

 

 ディセプティコンの社会なんか大嫌いだった。

 

 ベールの妹になりたいと心の何処かで願っていた。

 

 それでも、自分が自分でなくなってしまったようで、大恩あるサウンドウェーブたちやメガトロンとの繋がりが切れてしまったようで、不安の方が大きい。

 

 しかし、不思議と後悔は無かった。

 これは自分の意思による事象だという、確信があった。

 

 拳を強く握り、アリスは笑む。

 

「さあ、まだ仕事は終わってないわ! みんな、動いて動いて!」

「アリスちゃん……ええ!」

「よーし、それじゃあ次の曲は、『Dimension tripper!!!!』いくよー!」

 

  *  *  *

 

 

「ば、馬鹿な……」

 

 秘密のアジトで事と次第を高見の見物と洒落込んでいたゴルドノ・モージャスは、自分の策が瓦解してゆくのを眺める破目に陥っていた。

 

 画面には、洗脳を解かれた群衆が女神を称える様子が映し出されている。

 おまけにあのスパイが新たな女神になった。

 もう、ワケが分からない。

 

「ち、畜生! どこまで俺の邪魔をすりゃ気が済むんだ!!」

 

 悪態を吐いたゴルドノだが、すぐに冷静になろうと努める。成功しているかはともかく。

 

「と、とにかく一旦、地下に潜って再起を図ろう。女神にトランスフォーマーめ、いつか必ず思い知らせて……」

「父さん!」

 

 しかし、その思考は後ろから懸けられた声にさえぎられた。

 振り向けば、自分の息子であるマニー・モージャスが立っていた。

 

「マニー……」

「父さん! もうやめてくれよ! 女神様たちのためになるって言うから言う通りにしたのに、人々を殺し合わせるだなんて!!」

 

 サウンドウェーブたちがヘッドマスターと戦っている隙に洗脳電波発生装置に細工をしたのは他ならぬマニーだった。と、言っても父から渡されたUSBメモリを装置に差し込んだだけだが。

 ゴルドノは脇に置いてあったアタッシュケースを開けて、マニーに中身を見せる。

 

「何を言うマニー! まだこの金があればやれる!!」

 

 マニーは、アタッシュケースの中身を見て、怪訝そうに顔を歪める。

 

「父さん、何言って……?」

「俺たち親子から何もかも奪った奴らに復讐してやるんだ!! いつか必ず、奴らを皆殺しにしてやる!!」

「父さん、しっかりしてくれよ!」

 

 父がふざけているのかと思いアタッシュケースを跳ね除けるマニー。

 ケースの中身が床に散らばる。

 

「何てことを! 大事な金に!」

「金って……」

 

 這いつくばって『ただの新聞紙』を必死にかき集める父の姿に、マニーは面食らう。

 

「ヒヒヒ、俺のだ、俺の金だ! 他の奴らに何か渡すもんか! そうだ、マニーに玩具を買ってやろう! ヨットが欲しいって言ってたもんな。いつか会社をでっかくして、家族に楽をさせてやるぞ!」

「父さん……」

 

 今では何時かを見て言葉を漏らすゴルドノを見て、マニーは確信する。

 

 ゴルドノ・モージャスの心は、すでに壊れていた。

 

 ヘッドマスターは遠隔操作だったが、その操作は脳波コントロールだった。

 だが、脳波コントロールは不完全な技術であり、何らかの副作用によって精神に悪影響を与えたのだ。

 おそらく、戦いの最中にはすでに正気を失い始めていたはずだ。

 

 名士モージャス一族に生まれるも妾腹の子であったため、孤独で貧しい幼少期を送り、それをバネに身を粉にして働き一代で大企業を作り上げた男、ゴルドノ・モージャス。

 そして、どれだけ悪辣でも強欲でも、マニーにとってはたった一人の父親だった男の末路は、その精神の崩壊だった。

 

「ごめん、ごめんよ、父さん。元はと言えば俺が馬鹿だったばっかりに……俺もいっしょに罪を償うから……」

 

 新聞紙をかき集める父の背を抱きしめ、マニーは涙を流すのだった。

 

  *  *  *

 

 ライブの終わりと共に、全ての洗脳は解けた。

 

 ギターを床に置いたサウンドウェーブは、洗脳電波発生装置も破壊された今、エディン領の維持は不可能であると判断し部下に撤退を命じていた。

 モニターの向こうでは収容所が解放され、レジスタンスや反逆者たちが笑顔で外に出ててくる。

 

 空はすっかり晴れ渡り、人々を太陽が照らしていた。

 

『パパー! ママー!』

 

 あのスパイだった少女も両親に抱きしめられていた。

 

『……あ? 大きな星が点いたり消えたりしている……。あはは、大きい!  彗星かな? いや、違う……違うな。彗星はもっと、バァーって動くもんな』

『……うん、そうだね父さん』

 

 別の画面には、マニー・モージャスが父のゴルドノ・モージャスと連れ立って街に乗り込んできたリーンボックス軍に投降するのが映っていた。

 

「さて、行くか……」

 

 声を出してみて、サウンドウェーブは驚く。

 どうも、変声機能に不具合が生じているらしく、本来の声に戻っている。

 同じようにベースを置いたジャズが、ヒュウと口笛を鳴らす。

 

「へえ、それがアンタの本当の声かい。中々良い声してるじゃないの」

「…………撃たないのか?」

「この空気に水を差すほど、KYじゃないんでね」

 

 おどけて肩をすくめて見せるジャズ。

 

「行くぞ、レーザービーク、ラヴィッジ」

 

 これ幸いと、分身たちに声をかけてそのまま去ろうとするサウンドウェーブだったが、その背にアリスが声を懸けた。

 

「サウンドウェーブ、待って!」

「……何の用だ」

 

 あえて強い声を出す元上司に、アリスは真面目な顔で言った。

 

「諜報部隊所属、特殊潜入兵アリス。ディセプティコンに出頭するわ」

「アリスちゃん……」

「ケジメは付けなきゃいけないから」

 

 女神化したとて、過去が消えるワケではない。

 不安げなベールを振り切り、アリスはサウンドウェーブの後ろに続こうとする。

 サウンドウェーブは振り返らずに言葉を発した。

 

「生憎とリーンボックスの女神候補生を部下に持った憶えはない。お前たちはどうだ?」

「さてと、俺のログにはなーんもありませんねえ……」

 

 シレッと言うサウンドウェーブに、惚けた調子で答えるレーザービーク。ラヴィッジもコクコクと首を振る。

 

「サウンドウェーブ……」

「せいぜい、姉さんと仲良くすることだ。……さらばだ」

 

 サウンドウェーブは振り返らずに分身を伴って部屋の外に出ていこうとする。

 しかし、もう一人その背に声を懸ける者がいた。

 

「サウンドウェーブさん!」

 

 5pb.だ。

 だが、その言葉は彼を引き留める物ではなかった。

 

「今の方が、顔も声も素敵だよ!」

 

 やはり振り向かなかった情報参謀がどんな顔をしたかを知るのは、分身二体だけだ。

 だがニヤニヤとしているレーザービークを見るに、5pb.はまたしても、サウンドウェーブの予想を大きく裏切ったらしい。

 そんな上司に頭を深く下げてから、アリスはベールに向き合った。

 

「あ、あのそれでベール姉さん。その……」

「アリスちゃん」

 

 ベールは、ただアリスを強く抱きしめた。

 ジャズは悪戯っぽい、しかし優しい笑みを浮かべて、それを眺めていた。

 

「お帰りなさい」

「……はい、ただいま」

 

 




やっとリーンボックス編は終わり。

四女神オンライン、どうみてもソード○ート・オンラインな新キャラ、人間化してるワレチュー、麦藁帽被ってるマジェコンヌ、相変わらずカオスですなあ。

後一つほどの話を入れたら決戦編。

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