超次元ゲイム ネプテューヌ THE TRANSFORMATION   作:投稿参謀

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前後編じゃ終わりませんでした。


第112話 リーンボックス 雨は止まず

 雨の降り続けるエディン占領下の都市。

 その一角にある、古びたガレージ。

 

 今ここに、自由を取り戻さんとする市民が集まりレジスタンスを結成していた。

 レジスタンスの構成メンバーは老若男女様々だが、エディンの洗脳に屈しない強い意思を持つことは共通していた。

 

 レジスタンスと合流したベールとジャズは、彼らに協力して都市を奪還しようとしていた。

 

「まずは、これをご覧ください」

 

 ガレージの中に作られた仮の作戦室で、ベールはこのレジスタンスのリーダーから説明を受けていた。

 彼はリーンボックス軍の少佐であり、実戦経験もある男だ。

 リーダーは作戦室に置かれた機械を操作し、壁にかかったモニターに建物の映像を映す。

 

「これはこの街を支配しているサウンドウェーブのいる基地の見取り図です。……これを得るために、何人もの仲間が奴らに捕まりました」

 

 遠い目をするリーダーだが、すぐに表情を引き締める。

 

「明日には、あちこちに潜んでいるレジスタンスが一斉決起し、エディン軍をこの街から追い払います! この都市に自由を取り戻すのです!!」

 

 リーダーの言葉に、周囲のレジスタンスが歓声を上げる。

 僅かに一か月の圧制、しかしそれも彼らには長すぎた。

 

 だがベールは顎に手を当て難しい顔をする。

 

「お待ちになって! ……失礼ですが、潜んでいるレジスタンスの数は?」

「全部で130人ほどです」

 

 ベールの顔がさらに険しくなる。

 

 人造トランスフォーマーを含め無数にいるエディン軍に対し、こちらはたった130人。

 

 とても、エディンの大軍団に立ち向かえる頭数ではない。

 

「それも、ほとんどが素人ばかりか。難しい戦いになりそうだな」

 

 屈んで話しを聞いていたジャズも厳しい顔だ。

 軍人や警備兵、冒険者などの戦いのプロは数えるばかりで、他は一般市民なのだからそれも仕方がない。

 

「大丈夫です! 俺たち、命懸けで戦います!」

「そうですとも! 死ぬのなんか怖くありません!」

「どうせ死ぬなら、侵略者を道連れにしてやりますよ!」

 

 精一杯力強いことを言うレジスタンスのメンバーだが、ベールの顔はさらに険しくなる。

 

「いえ、皆さん……わたくしたちの目的には、生き延びることも含まれます。どうか命を無駄にしないように」

「しかし……」

「必要ならば、女神として命じさせていただきますわ。……わたくしは皆さんを助けに来たのです。断じて、死なせるためではありませんわ」

 

 緑の女神は決然として民の自己犠牲を認めなかった。

 その姿に、ジャズは我知らず柔らかく笑む。

 全く、自分はお人よしに弱いらしい。

 

 そこで、作戦室の中にいたゴルドノ・モージャスが声を出した。

 

「……しかし、女神様。実際問題として、この戦力差です。彼らの覚悟と愛国心を無駄することはないのでは」

「ならば、あなたが先頭に立って命を捨てる覚悟を示しなさいな」

 

 ピシャリと言い放つベールに、ゴルドノは感情の読めない笑みを浮かべるが、その額に一筋の汗が流れていた。

 

「私は、あくまでパトロンで……戦いは、私の仕事では……」

「ならば、無責任なことを言うのはお止めなさい! ことはあなたのソロバンが通用する領分をとうに超えていると理解しなさいな!」

 

 それきり、ゴルドノは黙り込んだ。

 ベールはフウと息を吐き、髪をかきあげる。

 

「……さて、リーンボックス軍がこちらの決起に合わせて攻撃する手筈ですけれど……それだけでは、心もとありませんわね。もう少し、戦力が欲しいですわ」

 

 思い悩むベールの姿を見て、リーダーが意見を言う。

 

「それならばこの街のはずれにエディン軍の収容所があります。……それもDクラスの」

「確か、軍や教会の関係者、それにイエローハートを信仰しなかった者が収容されているのでしたわね」

「はい。本来なら武装親衛隊の管轄らしいですが、どうもここを支配しているサウンドウェーブと、武装親衛隊を指揮しているメガトロンの情婦とは確執があるらしく、この街の反逆者はサウンドウェーブがまとめてそこに捕らえているんです」

 

 リーダーの言葉にジャズがなるほどと頷く。

 

「つまり、そこには本来の女神を信仰してる人々が、わんさか捕まってるワケだ。……それを解放しようって腹だな」

「ええ。そうすれば、この状況をひっくり返せます!」

「さしあたっての指標は出来ましたわね。サウンドウェーブのいる司令部には、わたくしとジャズで突入しますわ。皆さんは援護をお願いします」

『はい!!』

 

 最強戦力である女神とオートボットが本丸を押さえるのは、当然の作戦だ。

 こちらが切れる手札(カード)は少ないのだから、慎重に、かつ大胆に動かねばならない。

 

「それでは、決行は明日! 皆、今日はゆっくり体を休めてくれ! ベール様にも寝室をご用意してあります」

 

  *  *  *

 

 そうは言われたものの、ベールとてすぐに眠る気にはならず、レジスタンスのアジトの中を見て回る。

 

 古びてはいるがそれなりにガレージだ。色々な人が色々な事をしている。

 

 黙々と武器の手入れをする者。

 何人かで集まって酒を飲む者。

 恋人同士らしく、愛を語り合っている者たち。

 

 ……ジャズは鍋を抱えている若い女性の傍にいた。彼も両手に一つずつ寸胴鍋を持っている。

 なので、極上の笑みを浮かべて彼に近づく。

 

「ジャ~ズ? 何をしているんですの?」

「ビ、ビル!? ベール様!!」

「…………ビル?」

 

 ごく自然に放たれた(つもりの)ベールの声にジャズより先に反応したのは、足元にいた女性の方だった。

 四角い眼鏡と四色に塗られた菱形の髪飾りが目を引く。

 その特徴的な口癖に、ベールは小首を傾げる。

 

「ツイーゲちゃん! あなたはリーンボックスの誇る天才プログラマーのツイーゲちゃんじゃありませんの!」

「は、はい……使い捨てかと思いきや、何故か出番があったツィーゲですビル」

 

 やたら説明的なベールに向かって、ツイーゲはペコリと頭を下げるのだった。

 

  *  *  *

 

「はいみんな~! 手を合わせて、いただきます! ビル」

『いただきます! ビル』

「……ビルは真似しなくていいビル」

 

 ガレージと繋がった廃工場にある、簡素な食堂では数人の子供たちがシチューを前に手を合わせる。

 ツイーゲとベール、ジャズは、並んでそれを満足げに眺めていた。

 

 エディン建国の折、ツイーゲは仕事でこの都市を訪れていたのだが、運悪く占領に巻き込まれここの人たちに助けられた。

 以来、専門のコンピューター関連はもちろん人手不足のため、家事などもしているとのことだ。

 

「ありがとうございますビル、グリーンハート様にジャズさんに手伝ってもらって助かったビル!」

「いえいえ。……それで、この子たちは?」

「……みんな、親が捕まった子たちビル。ここで面倒を見ているんだビル」

 

 ツイーゲの答えに、ベールは顔を悲しそうに歪める。

 その上で、無理やり力強い表情を作る。

 子供には大人の不安が伝播する。涙は国を奪還した時のために取っておけばいい。

 

「……あの、グリーンハート様」

 

 やがて食事が終わった頃、子供たちの中から一人の少女が進み出た。

 ベールは屈んで、目線を合わせる。

 

「あら、何かしら? 可愛いお嬢さん」

「あの、本当に、お父さんやお母さんは帰ってくるんですよね? 大人の人たちが、言ってたんです。グリーンハート様が来てくれたら、お母さんたちを助けてくれるって!」

 

 その言葉に、ベールは自身あり気な笑みを浮かべる。……本当に自信が有るかは関係ない。

 子供たちを不安にさせたくなかった。

 

「もちろん、ですわ! みなさんの家族は、わたくしがきっと助け出しますわ!」

「ああそうさ! 何たって、グリーンハート様とオートボットの副官の俺がいるんだ! ドーンと大船に乗った気でいてくれ!」

 

 言葉を交わさずとも、ベールの意思を理解したジャズも快活に笑む。

 女の子の表情が、パアッと明るくなった。

 

「はい!」

 

 子供の笑顔に、ベールとジャズは改めてこの都市の解放を誓うのだった。

 

  *  *  *

 

 雨の降り続ける街。

 建物の屋上から、別の屋上へと一つの影が飛び移る。

 影はやがてレジスタンスがアジトにしているガレージの屋根の上に飛び乗ると、傾斜した屋根の天窓へと近づく。

 

 真っ赤な単眼を持った猫科の猛獣のようなその影は、まさしく猫のように軽やか、かつしなやかに天窓の中に身を捻じ込ませた。

 

  *  *  *

 

 ベールたちが子供たちの食事を見ていた頃、レジスタンスのリーダーは明日の作戦のための戦闘用車両をチェックしていた。

 戦闘用と言っても、型落ちの軍用車で、お世辞にも立派とは言い難いが、これでも何とか手に入れた貴重な戦力だ。

 

「明日だ。明日こそ……この街を取り戻す!」

 

 不退転の決意を込めて呟くリーダーだが、そこでふと見当たらない影があることに気が付いた。

 

 ゴルドノ・モージャスがいない。

 

「おい、モージャスはどうした?」

「え? ……そう言えば、姿が見えませんね」

「食事を終えたあたりから見てないッス!」

 

 車を整備していた部下に問えば、彼らも知らないようだ。

 

 嫌な予感がする。

 

すぐに探させようとしたその時。

 

 突然、戦闘用車両の一台が爆発した。

 

「何だ!?」

 

 状況を確認する間もなく次々と車両が炎に包まれる。

 その炎の中に、四つ足の獣のような影が見えた。まるでジャガーだ。

 だとしても、金属で出来たジャガーだ。

 

「敵襲! 敵襲だ!!」

 

 すぐさま状況判断し、リーダーは周りに指示を飛ばす。

 幸いにして死傷者はでていないようで、部下たちは銃を手に立ち上がる。

 

 だが、ガレージの扉が外側から吹き飛び、同時に閃光と爆音がガレージ内を満たした。

 次いで、人造トランスフォーマーのアビスハンマーやエディン兵が雪崩れ込んでくる。

 

 リーダーは何とか反撃しようとするが、四方からエディン兵に組み伏せられる。

 エディン兵やアビスハンマーの後ろに悠々と歩いて来たのは目を覆うバイザーが特徴的な銀色のディセプティコン。

 

「サウンドウェーブ……!」

 

 現れた怨敵に、リーダーは茫然とその名も呟く。

 サウンドウェーブはリーダーの様子を全く気に留めずに部下の一人に声を懸けた。

 

「報告セヨ」

「ハッ! このアジトは問題なく制圧しました! しかしすでに、女神とオートボットは逃走したようです!」

 

 その言葉に、リーダーはホッとする。

 だが、サウンドウェーブは動じない。

 

「問題ナイ。想定通リダ」

 

  *  *  *

 

 異変にいち早く気が付いたのはジャズだった。

 爆音が聞こえた時点で聴覚センサーを最大感度まで上げつつ集音。

 事態を把握したジャズはレジスタンスが有事に備えて確保していた脱出路……廃線になった地下鉄を使ってツイーゲと子供たちを外に逃がすことにした。

 

「ベール様! みんな! こちらですビル!」

 

 ツイーゲの先導の下、線路の上を歩く一同。

 

「すいませんビル、ベール様にこんな所を……」

「今はそんなことを言っている場合ではありませんわ。早く子供たちを安全な場所へ!」

 

 女神化したベールは気丈に言うが、その間にも槍を降ろさない。

 しかし、何故アジトがばれたのか?

 

「まさか、内通者が? 一番怪しいのはやはりモージャスの奴だが……」

 

 ジャズも周囲を警戒しつつ首を捻っている。

 もしそうなら、奴には今度こそ思い知らさねば。

 

 やがて、線路は地下を抜けて地上に出る。川の上を通る鉄橋のたもとだ。

 下の川はいまだ降り続ける雨のせいで、増水して流れも速くなっている。

 ここを通れば、人のいない場所に出られる。

 

 しかし。

 

「ッ! 先回りされていたか……!!」

 

 ジャズが呻いた通り、鉄橋の上にエディン軍が展開していた。

 アビスハンマーや装甲兵が銃をこちらに向けている。

 

「皆、トンネルの中に戻るんだ!」

「駄目ですわ! 後ろからも敵が……!」

「クソッ! 前門のタイガトロン、後門のスチールジョーとはこのことか!」

 

 敵に挟まれる形になりつつも、ジャズはクレッセントキャノンを構える。

 いざと言う時は、空を飛べるベールだけでも逃がすつもりだ。

 

「抵抗ハ無駄。大人シク投降シロ」

 

 橋の上に陣取る敵の中から、サウンドウェーブが姿を現した。

 その両脇にレーザービークとラヴィッジが控え、後ろにはレジスタンスの面々がエディン兵に拘束された状態で引っ立てられている。

 エディン兵たちが、その後頭部に銃を突きつけた。

 

「くッ……グリーンハート様! 我々のことは構わずに逃げてください!!」

「グリーンハート様に何かあったら、リーンボックスはお終いです!」

「黙レ。……五ツ数エル。ソノ間ニ投降シロ」

 

 しなければレジスタンスを殺すと言外に滲ませ、サウンドウェーブは数を数えだす。

 

「5……」

「行くなよ、ベール。……君が捕まったら、全部終わりだ」

 

 エディン兵たちは、銃口をレジスタンスの後頭部に押し当てた。

 

「4……」

「でもジャズ! 彼らを見捨てることは出来ません!」

 

 レジスタンスは、毅然とした表情を浮かべようと努力していた。

 

「3……」

「冷静になれ、ベール! 時には冷酷な決断も必要なんだ!!」

 

 引き金にかけたエディン兵たちの指に力が入る。

 

「2……」

「わたくしは…………」

 

 レジスタンスたちの顔に、それでも恐怖が浮かんでいた。

 

「1……」

 

 子供たちが恐怖に震える。

 

 

 

 

「ゼ……」

 

「待ってください!! 投降します!!」

 

 カウントがゼロになる瞬間、弾かれたようにベールが叫んだ。

 

「ベール!」

「ごめんなさい、ジャズ。……わたくしに、冷酷になることは出来ません」

 

 小さく頭を振って、ベールは女神化を解いて前に進み出る。

 

「投降しますわ。……その代わり、みなさんの安全を保障してくださいな」

「イイダロウ。コッチヘ来イ」

 

 ゆっくりと、ベールはサウンドウェーブに向かって歩いてゆく。

 ジャズはたまらず飛び出そうとする自分を必死に抑えていた。

 この状況ではどう転んでも死者が出る。

 

「一つ分からないことがあります。何故、レジスタンスの隠れ家が分かったんですの? それに、脱出路の先も。……やはり、ゴルドノが?」

「イイヤ、違ウ。……オ前モ、コチラヘ来イ。秘密警察109号」

 

 ベールの問いに答えると、サウンドウェーブは誰かを呼んだ。

 すると、さっきまでベールたちが守っていた、子供たちの中から一人の少女が進み出た。

 

 父母が帰ってくるかとベールにたずねてきた、あの少女だ。

 

 その姿を見て、ベールは目を見開く。

 

「まさか……!」

「そうさ! こいつは秘密警察の一員なんだよ! 親が捕まって独りぼっちの可哀そうな女の子、なんていかにもお前らみたいな奴等の庇護欲をそそるだろ?」

 

 主人の肩を離れ、少女の両肩を掴むようにして止まったレーザービークが嗤いながら説明する。

 

「他のレジスタンスのアジトも、同じような手で把握、制圧させてもらった。ディセプ……じゃなかったエディンに逆らう連中は、これで一掃出来たワケさ!」

「どうして、エディンに味方するようなことを……あなたの両親は、彼らに捕まったのでは……」

 

 思わぬ内通者の存在に愕然としているベールが聞くと、少女は目を伏せた。

 その小さな姿に、レジスタンスのリーダーが怒声を上げた。

 

「裏切り者! お前はリーンボックスの希望を踏みにじったんだぞ!! 分かってるのか!!」

「ッ! だって! だって協力すれば、お母さんとお父さんを返してくれるって約束したんだもん!! ……協力しないと、お母さんとお父さんに酷いことするって言うんだもん!!」

 

 たまらず叫び返した少女は、堪えきれずに泣きじゃくる。

 レーザービークはそんな少女を爪でしっかり掴んでサウンドウェーブの傍まで引っ張っていった。

 その残酷な真実にベールは怒りに肩を震わせる。

 

「あなたは……あなた方は! 何て言うことを!! あなた方に、心はないのですわね!」

 

 しかし、女神の怒りにもサウンドウェーブとその配下は動じない。

 

「間諜ニ、心ハ不要ダ」

「……そうですわね。だから、アリスちゃんにあんな酷いことをさせられるんですわね」

「………………」

 

 かつてディセプティコンの間諜としてベールの傍にあり、また死したアリスの名が出たとき、サウンドウェーブのオプティックが鋭くなったが、バイザーに隠されて周りに気取られることはなかった。

 

「あんな優しくて真面目な娘に……」

「黙りやがれ!! テメエのせいでアリスはあんな目にあったんだ!!」

 

 主人の代弁をするが如くレーザービークが鳴くが、ベールはそれを睨み付ける。

 

「なんだ、その目は! アリスを惑わしやがって! アリスなら、いずれはメガトロン様のお傍にだって並ぶことが出来たはずなのに!!」

「……ソコマデニ、シテオケ」

 

 なおも怒る分身を諌め、情報参謀は冷徹に次の仕事にかかる。

 

「全員拘束セヨ」

「くそう……! 俺の流儀ではないが、本気でお前らに憎しみを感じる……!!」

 

 ジャズは普段の飄々とした雰囲気を捨ててサウンドウェーブをねめつける。

 

 その瞬間だ。

 

 何処からか一本の矢が飛んで来た。

 

 矢はベールとサウンドウェーブの間に割り込むようにして刺さると、炸裂して閃光と煙をまき散らす。

 

「何!?」

「なんだ! 何が起こった!」

「今の矢は、まさか……!?」

 

 突然の閃光と煙に混乱する場。

 その時、一番早く動いたのは、ジャズとサウンドウェーブだった。

 

 ベールを救うべく走るジャズ。

 ベールを捕らえようと手を伸ばすサウンドウェーブ。

 

 次いで、辺りを見回そうとしていたベールが正気に戻り、瞬間的に女神化しようとする。

 だが、刹那の差でサウンドウェーブの方が早かった。

 片手でベールの体を握り、飛び込んでくるジャズに向けて振動ブラスターを撃つ。

 

「ぐ、おおおお!!」

 

 ジャズは体を捻って弾をかわそうとするが、横腹に弾が命中。

 そのまま足を踏み外して、鉄橋から下の流れの速い川に落ちていった。

 

「ジャズ!! ジャァアアアアズ!!」

 

 叫ぶベールだが、その叫びは届くことなく雨音に掻き消された。

 

「……報告セヨ」

「ああ、こっちへの被害は無し。レジスタンスの連中がドサクサに紛れて何人か逃げた。……で、今のはいったい?」

「…………」

 

 サウンドウェーブは、レーザービークの問いに答えず沈黙する。

 分身たるレーザービークには彼がらしくなく、本気で戸惑っていることが分かった。

 次に情報参謀が出したのは、質問への答えではなく命令だった。

 

「……計算ニヨルト、矢ノ発射地点ハ東ノ ビル ノ屋上。確保セヨ。ソレト、ジャズ ヲ捜索セヨ。生キテイルニセヨ、死ンデイルニセヨ見ツケ出セ」

 

  *  *  *

 

 鉄橋から離れたビルの上。

 雨に打たれながら、一人の少女が弓を構えていた。

 雨避けのコートを着てフードを深く被っているが、僅かに除く口元からでも美しい少女であることが分かる。

 

「ああもう! ジャズの奴! せっかくチャンスを作ってやったのに!」

 

 フードの奥で青い瞳と金糸のような髪が揺れる。

 

「でもサウンドウェーブ相手じゃ、仕方ないか!」

『おい! エディン軍がこっちに向かってくるぞ!』

「慌てないで! 手筈通り、すぐに移動するわよ!!」

『了解!!』

 

 どこかに通信してから、少女は弓を粒子に分解して走りだし、ビルの階段など使わず屋上から飛び降りる。

 地上10階建の高さだが、少女は軽やかに地面に着地した。

 その傍に、一台の黒いスポーツカーが停車する。

 少女が迷いなく乗り込むとスポーツカーは急発進し、闇へと消えていった。

 

 そのすぐ後にエディン軍がやってきたが、何の手がかりも得ることは出来なかった。

 

 

 

 雨は、まだ止まない。

 




たまには悪役らしいことをするサウンドウェーブ。

次回、ベールたちの運命は?
ジャズの反撃なるか?
アリスはどう動くのか?

では。

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