超次元ゲイム ネプテューヌ THE TRANSFORMATION 作:投稿参謀
プラテューヌ市街、メインストリート。
ここではついに、オートボットと女神の同盟軍対ディセプティコンとモンスターの混成軍による決戦が行われていた。
「クロスコンビネーション!」
先陣を切るのはネプテューヌだ。その鋭い剣技で次々とモンスターを屠っていく。
「うおおおお!」
その次にオプティマスが続く。押し寄せるモンスターを右腕から展開したエナジーブレードで斬り捨て、左手に持ったイオンブラスターで狙い撃つ。
「メガトロン!!」
オプティマスが吼える。だがメガトロンはモンスターの群れの向こう側で超然とこちらを見ていた。他のディセプティコンが各々動いたのに対し、メガトロンは最初の場所から動こうとしない。まるで、ここまでたどり着いて見ろと言う風に。
「オプっち! 私が!」
そのメガトロンに向け、ネプテューヌが飛んでいくがメガトロンは片腕を砲に変え撃つ。
それを避けたネプテューヌに、次々と飛行型のモンスターが襲い掛かる。
「トルネードソード!」
しかし、ノワールの振るう大剣がそれを切り裂いた。
「だらしないわよ! ネプテューヌ!」
「ふふ、ありがとう。ノワール!」
ネプテューヌがノワールに微笑みかけると、黒の女神はプイっとそっぽを向く。
「! ノワール! 気を付けて!」
そこへ、巨大なヘリが覆いかぶさるように上空から飛来してきた。ブラックアウトだ。
「フハハハ! 貴様らなどメガトロン様が相手をするまでもない! この俺が屠ってくれる!」
そのまま、押し潰そうとするが如く二人の上に降下するブラックアウト。そこへ砲撃がどこからか撃ち込まれ、ブラックアウトはそれを避けて二人から遠ざかる。
「よう、俺の相手をしてくれよ」
アイアンハイドがモンスターの死骸を踏みつけニヒルに笑っていた。その両腕のキャノン砲から煙が上がっている。
「アイアンハイドか! よかろう、このブラックアウトに勝てると思うな!」
ブラックアウトがロボットモードに変形して地響きを立てて地面に降り立つ。そしてプラズマキャノンをアイアンハイドに向け撃つ。アイアンハイドはそれを、その無骨な外観に似合わない軽快な動きで避けつつ、左右から飛びかかってきたモンスターにキャノンをお見舞いする。
「へっ、当たんねえよ!」
「そうか! なら、これはどうだ!」
ブラックアウトは、さらにプラズマキャノンを発射した。だが今度はプラズマが放射状に広がっていく。
「うおっと!」
アイアンハイドは咄嗟に横道に飛び込んでそれを躱す。プラズマ波はアイアンハイドの代わりに路上のモンスターたちを飲み込んだ。
「おいおい、味方を巻き込んでんじゃねえか」
アイアンハイドが呆れたように言うと、ヘリ型ディセプティコンはフンと音を立てて排気した。
「どうせこいつらは使い捨ての駒だ! いくらでも代わりは効くわ!」
そして、さらなる大威力でプラズマキャノンを放とうとした。
「そう、それがディセプティコンのやり方ってわけね!」
そのときである。ブラックアウトの背後から、ノワールが大剣で斬りかかった。
「なに!?」
ブラックアウトは間一髪でそれをかわし、手首のローターブレードを振るう。
しかしノワールは華麗にそれを躱すと身を翻し、路地から出てきたアイアンハイドの横に移動する。
「余計なことしやがって」
アイアンハイドはぶっきらぼうに言った。
ノワールはムッとして言い返す。
「なによ! 助けに来てあげたんでしょ!」
「別に頼んでねえだろ! それになんだ、あのへっぴり腰の技は! 女のダンスみたいな動きだったぞ!」
「私は女よ!」
ギャーギャーと言い合うアイアンハイドとノワールを見て、ブラックアウトは怒声を上げる。
「ふざけてるのか、貴様ら!」
そう言って、プラズマキャノンと機銃を乱射し弾幕を張る。
二人は、再び路地に入り込み、プラズマ弾と機銃の弾を防ぐ。
「しょうがねえ! おい、お嬢ちゃん! 俺が突っ込むから、援護してくれ!」
「冗談でしょ! 突っ込むのは私、援護はあなた!」
言うや否やノワールは路地を飛び出し、ブラックアウトに向かっていく。
「お、おい! まったく、なんてじゃじゃ馬だ!」
文句を言いつつも、ノワールを援護するために路地を出てキャノンを撃ちまくる。
ノワールはプラズマ弾を躱し機銃の弾を障壁で防ぎながら、ヘリ型ディセプティコンに向かい飛んでいく。
ブラックアウトの弱点は分かっている。その装甲が見た目に反し薄いことは、前回戦ったときに証明済みだ。
途中、路地や瓦礫の影からモンスターが飛びかかってきたが、その爪牙がノワールに届く前に、残らずあの口の悪いオートボットの砲撃によって粉砕される。
無礼だが、頼もしい味方には違いなかった。
もう少しでブラックアウトが技の射程に入る。ノワールはさらに加速した。
だが……
「あぶねえ! 高く飛べ、お嬢ちゃん!!」
その声が聞こえた瞬間、ブラックアウトの周囲に巨大なプラズマの大波が出現する。
とっさに、声の指示に従い高度を上げる。
プラズマの波はノワールの僅か下を通過し、モンスターも周りの建物も飲み込みながら、さっきの声の主であるアイアンハイドに迫る。
黒いオートボットは道に横転していた車を掴み上げ盾にしたが、防ぎきれず後ろに大きく吹き飛ばされ、道路に倒れた。
「フハハハ! 見たか! これが最大出力のプラズマキャノンだ!」
ブラックアウトは高笑いとともに、オートボットに止めを刺すべく再度プラズマキャノンに充填する。
「ちょっと、あなた! 大丈夫なの!?」
ノワールは、アイアンハイドに向かって飛んで行こうとする。
だが、アイアンハイドは黒の女神をチラリと見て首を横に振る。見た黒の女神は一瞬頷くと、ブラックアウトを見据える。
「ヴォルケーノダイブ!」
ノワールの剣に炎が宿り、黒の女神はそれをブラックアウトに向け一直線に急降下していく。
「馬鹿め! 狙い撃ちだ!」
ブラックアウトは狙いを変え、プラズマキャノンをノワールに向ける。
「お前がな!」
その身体に、キャノン砲の砲弾が直撃する。
「がッ……」
それは道の向こうで倒れていたアイアンハイドだ。
そしてよろめくブラックアウトにノワールの大剣が襲い掛かる。
「お、おのれえええッ!!」
とっさに飛び退き直撃を逃れたものの、大剣はブラックアウトの右胸を切り裂きその装甲に大きな傷をつける。
「くっ、浅い! もう一発!」
「させるか!」
ノワールはさらに追い打ちをかけようとするが、ブラックアウトは胸の中央から砲塔がせり上がってくる。
「喰らえ!」
そのまま無念お砲塔……もとい胸の砲塔を発射する。
ノワールは距離を取って砲弾を避けた。そして立ち上がったアイアンハイドの横に降り立つ。
「どうかしら、これでも私はお嬢ちゃんかしら?」
「まあ、お嬢ちゃんにしちゃ上出来だな。レッスン1『まずは敵を倒すべし』は、ぎりぎり合格ってとこか」
「むうう」
あくまでもノワールを子供扱いするアイアンハイドに、ノワールは思わず……それこそ子供っぽく……むくれる。
「さあて、レッスン2! 『ディセプティコンの上手なぶちのめし方』だ!」
それを見たアイアンハイドはキャノン砲をグルグルと回して見せながら笑った。
「じゃあ、私もレッスンをつけてあげるわ! 名付けて『ディセプティコンを三枚におろす方法』よ!」
ノワールは大剣をブンブンと振り回しながら言う。
「ふざけるな! 勝負はこれからだ!」
ブラックアウトが吼える。
黒いオートボットと黒い女神はお互いに好戦的な笑みを浮かべているのを確認すると、黒いディセプティコンに向かっていった。
* * *
そこと別の路地で、ジャズは八方から迫るモンスターに回し蹴りを叩き込み、そのまま愛用の盾と一体化したエネルギー砲、クレッセントキャノンを撃ち、ベールの後ろから不届きにも襲い掛かろうとしたモンスターを撃破する。
「あら、ありがとうですわ」
ベールは長槍で、モンスターを串刺しにしながら柔らかく笑う。
「どういたしまして。どうだい? 俺とドライブしてくれる気になったかい?」
「ポイント1、と言ったところですわ」
辛口な評価のベールに、ジャズはヒュウと口笛のような音を出した。
「つれないねえ、だが、そこがいい!」
ジャズはクルクルと回りながらクレッセントキャノンを撃ち、モンスターを薙ぎ払う。
と、ベールが槍を投擲しジャズの頭上から迫っていた飛行系モンスターを撃墜した。
「いまのでポイント-1ですわ。差し引き0点ですわね」
「……ほんっとにつれないねえ」
言葉とは裏腹に、緑の女神と銀のオートボットは微笑み合う。
そこへ、プラズマ弾が撃ち込まれるが、二人は難なくかわした。
「おいおい、空気の読めない奴もいたもんだな」
「無粋ですわね」
女神とオートボットの軽口に、さらなる砲火で答えたのはグラインダーだ。数十メートルの距離を挟んで、機銃とプラズマキャノンを構えている。
「それじゃ、一曲ダンスといくかい?」
ジャズは軽快なステップを踏みながら言った。
「いいですわね。あなたワルツは踊れて?」
ベールは宙返りをしてプラズマ弾を躱しながら答えた。
「好きなだけ踊るがいい、……死の舞踏をな」
グラインダーは言葉とともに機銃とプラズマキャノンで弾幕を張る。
女神と二体のトランスフォーマーが銃声と砲撃音をもって奏でる音楽が路地を満たす。
「いや、なかなかどうして、ノれるじゃないの!」
銀のオートボットは踊るような動きで迫る弾幕を躱し続ける。
「ええ、素敵ですわね!」
緑の女神が長槍を投擲しながら笑う。
「理解不能だ」
銀のディセプティコンが冷静に槍を躱しながら機銃を撃つ。
「あら? ノリの悪い男性はモテませんわよ?」
「言っていろ」
グラインダーはプラズマキャノンを放射状に発射する。ジャズはビルの合間に逃げ込み、ベールは高く飛んでこれを避けた。
「ヘイ! 約束より少し早いがドライブといこう!」
「ふふ、お受けしますわ」
ビルの合間から飛び出してきたジャズはスタイリッシュなスポーツカーに変形し、その屋根にベールが片膝をついて乗る。
「しっかりつかまってな! 全速で飛ばすぜ!」
「月までお願いしますわ!」
急発進したジャズ目掛け、モンスターの群れが四方から殺到する。
しかし、ジャズは華麗なハンドル捌きでそれらをことごとく躱して走って行く。
グラインダーは、冷静にプラズマキャノンを放射状に撃つ。あのスピードでは避けられまい。
しかしプラズマ波が届く寸前、ジャズは道端の車をジャンプ台代わりにして高く跳んだ。
「イィヤッハアアアッ!!」
そのまま、プラズマ波を飛び越える。
しかし、グラインダーは冷静に、あくまで冷静にプラズマキャノンでジャズを狙い撃とうとするが、銀のスポーツカーの上から弾丸の如く飛んで来た、緑の女神に一瞬驚愕する。
とっさに狙いをそちらに変えるが、間に合わない。
「キネストラダンス!!」
すれ違いざまに、グラインダーの全身をベールの長槍が切り刻む。
「だが、浅いな!」
それでも大きなダメージを受けてはいないグラインダーは、逆にベールを切り裂くべく手首のローターブレードを振るおうとする。
「俺を忘れてもらっちゃ困るな!」
その瞬間、ジャズがロボットモードに戻り突っ込んできた。その右腕をレイピアの如き細く長い剣、テレスコーピングソードに変形させている。
銀のディセプティコンは間一髪で飛び退いたが、ジャズのソードは容赦なくその腹部を横一文字に傷つけた。
「ぐおおおッ!!」
グラインダーはたまらず叫び声を上げ、瞬時に巨大ヘリに変形して飛び去った。
「イエイ! ザッとこんなもんさ!」
ジャズはベールに向け、甘く微笑みかける。
「どうだい? 俺たち、相性は悪くないと思うんだけど?」
「そうですわね」
ベールは上品に微笑み返した。
「イエス! それじゃ、改めて俺とドライブの約束を」
「それも、悪くありませんわね。でも……」
そのとき路地裏から、建物の屋上から、次々とモンスターが現れアッと言う間に二人を取り囲む。
「この方々を躾けるほうが、先ですわ」
「そうだな、それじゃあ……」
二人は不敵に笑った。
「「let's rock n roll!!」」
声を揃えると緑の女神と銀のオートボットは、モンスターの群れに突っ込んで行った。
* * *
「待ちやがれ! この逆三角形野郎!」
プラネテューヌ市街上空、ブランはジェット戦闘機形態のスタースクリームに空中戦を挑んでいた。無数の光弾を発射する。
「ひゃははは! 待つわけねえだろ! このノロマ!」
スタースクリームはそれを全て避けて見せる。そして空中でロボットモードに変形すると機銃をブランに向け発砲する。
「たんと味わえや、ムシケラ!」
「クソッ!」
ブランは体の正面に障壁を張り、銃弾の雨を防ぐ。
その次の瞬間にはスタースクリームは白の女神の背後に回り込んでいた。右手をブラン目掛け振り下ろす。
「うわあッ!」
避ける間さえなく、それこそムシケラのように叩かれ、とてつもない衝撃を受けたブランは気を失って変身が解け、あっけなく地面に向かって落ちていった。
* * *
ビルの屋上で四方から飛びかかってきたモンスターを両腕のブレードで切り刻んでいたミラージュは、視界の端に白の女神が落下してくるのを捉えた。
それに気付いていて、なおかつ助けに行く余裕のあるのは自分だけのようだ。
「チッ!」
舌打ちのような音を出しながらも、ミラージュはブランの落下予測地点に向かって走り出した。
* * *
ビルの谷間に向けて落ちていく白の女神を、スタースクリームはジェット戦闘機の姿で追いかける。もちろん、止めを刺すために。
スピードを抑え機体下部からミサイルを展開し、それでブランを狙い撃とうとする。
しかしブランの小柄な身体がビルの谷間に入り込む寸前、赤い影が一瞬横切りブランの姿が消える。
「なに!?」
スタースクリームは機体を起こしてロボットモードに変形し、地面に着地した。そしてミサイル砲と機銃をいつでも撃てる状態にして、ビルの合間に入って行く。
「鬼ごっこか、いいぜ、付き合ってやる」
獲物を今一歩のところで取り逃がしたにも関わらず、ディセプティコンの声は機嫌良さげだった。
弱いものを追い詰めることほど、楽しいことはないからだ。
* * *
「んッ……」
ブランが目を覚ますと、薄暗い場所にいた。
霞む目を凝らすと、そこは狭い路地だった。日影になっていて目の前の壁には「女神反対!」などと書かれた訳の分からないポスターが一面にベタベタと張られている。
なぜ自分はこんな所にいるのだろうか?
最後に覚えているのは、自分に向かって振り下ろされる金属の腕だ。
そうだ! 自分は、あのアイスクリーム野郎に叩き落とされたのだ!
霞がかった頭でそこまで思考し体に力を入れるが、動かない。
慌てて自分の姿を確認すると、ようやく自分が赤いオートボット、ミラージュの腕に抱えられていることに気が付いた。
「て、テメエ! なにしやが……」
慌てて逃れようと身をよじり、声を上げるブランだったが、次の瞬間、路地の外から声が聞こえてきた。忌々しい、スタースクリームの声だ。
「ムシケラちゃんや~い、出ておいで~、痛くしないから~、……嘘だけど」
楽しそうな声でこちらを探している。
ミラージュは口に人差指を当ててシィーッと小さく排気音を出した。ブランはコクコクと無言で頷く。
赤いオートボットはブランを片腕で抱えたまま、路地をスタースクリームがいるのとは反対側へと抜ける。金属の巨体は驚くべきことに、まったく音を立てなかった。
しばらく、移動すると最初と同じような薄暗い路地裏で、ミラージュはブランを降ろした。どうやら敵の気配はない。
「……一応、お礼を言っておくわ。……ありがとう」
ブランが低いテンションで言うが、ミラージュは答えない。
白の女神がムッとした顔になっても、赤いオートボットは知らん顔だ。
「おい! なんとか言ったらどうなんだ! こっちがせっかく……」
「黙れ」
思わず怒鳴り声を上げるブランを、ミラージュは低い声で遮る。
「こっちは、どうやってスタースクリームを倒すか考えてるんだ」
ミラージュは、イライラとしている様子で言った。ブランはその言葉に、腹立たしげに黙り込む。
と、そのすぐ横にミサイルが着弾し、轟音と爆炎が路地を満たす。ミラージュはとっさに屈んでブランを庇い、爆炎と舞い上がる粉塵をその背に浴びた。
「見~つけた!」
スタースクリームだ! ビルの上からこちらを覗いている。
「おやおや、オートボットのクズも一緒か。二人そろって逃げ隠れしか出来ないたあ、情けのない奴らだぜ」
そう言ってミサイル砲を二人に向ける。
本人は気付いていないが、ブランの顔は真っ青になっていた。
絶望が、その心に浸食していく。
その瞬間ミラージュが叫んだ。
「走れ!」
ブランは弾かれたように走り出す。
その頭上からミサイルが降り注いだ。
ミラージュは走りながら再びブランを抱き上げ、そのまま逃げた。
「ひゃはは、ひゃは、ひゃあっはっはっはっは!!」
スタースクリームはそんな二人を見て、腹を抱えて大笑いしていた。
* * *
なんとかスタースクリームの気配のないところまで逃れた二人だったが、すぐに追いつかれるだろう。ミラージュはブレインサーキットを最大限回転させて打開策を練っていた。
「……悪かったわ」
ブランは、顔を伏せつつ言った。
「たしかにあなたの言うとおり、わたしはアイツに正面から挑んで二度も負けたわ……」
ミラージュは答えない。黙って辺りをうかがうだけだ。
「……頭に血が昇っちゃって、アイツに仕返しすることしか考えられなくなってた」
ミラージュは無言だ。
「……わたしがいても足手まといだわ」
ミラージュは黙っている。
「だから、わたしが囮になる。その間にアイツに……」
「黙れ」
ミラージュは低い声で遮った。
「俺を舐めるな。有機生命体は気に食わないが、見捨てるほど落ちぶれてもいない」
その声は決然としていた。
「ごめんなさい……」
ブランは涙声で顔を伏せたままだ。二度までもスタースクリームに敗れ、不様に逃げ回り、そのプライドはズタズタに傷つけられていた。
「……手を思いついた。おまえの力がいる」
ミラージュは唐突に言った。
「……え?」
ブランは顔を上げる。ミラージュは片膝を突いて白の女神の顔を真っ直ぐ見る。
「俺だけじゃ勝てない、おまえだけでも勝てない。なら、方法は一つ、“歩調を合わせる”んだ」
* * *
「お~い、出てこいよ~」
スタースクリームはコキコキと首のジョイントを鳴らした。
そろそろ、このゲームにも飽きた。いい加減、オートボットとムシケラを始末することにしよう。
と、ビルの陰からあのムシケラが顔を出し、こちらの様子をうかがっているのが見えた。なんてお粗末な隠れ方だろうか。
こちらに気付いたムシケラは慌てて顔を引っ込める。
「さ~て、今から潰してやるから待ってなあ」
スタースクリームは、ムシケラが隠れた路地を覗き込む。
そこは行き止まりになっていて、ムシケラはその奥で震えていた。あのオートボットの姿はない。おそらくムシケラを置いて逃げたのだろう。自分だって迷わずそうする。
「さ~て、ムシケラちゃ~ん! あ そ ぼ う ぜ ! !」
オートボットをここで倒せないのは面倒だが、それはそれ。まずはこのムシケラを叩き潰すべくワザとゆっくりと、近づいていく。
「い、いや、こないで……」
涙目で座り込むムシケラ。もちろんそんな姿はスタースクリームにとっては憐みではなく、嗜虐心を刺激するだけだ。
「ひゃははは! そう言われてもな~、どうしよっかな~。……やっぱり殺しとこっと!」
スタースクリームは右手を丸鋸に変えてムシケラに斬りつける。
その瞬間、ムシケラ……ブランはニヤリと笑った。
スタースクリームの丸鋸はブランをすり抜け、地面を削る。
「なにぃ!?」
驚愕するスタースクリームの前で、ブランの姿が霧散する。
「ホログラムだと!?」
そのとき、誰もいなかったはずのスタースクリームの背後に突如ミラージュが現れ、その背に斬りかかった。
これこそがミラージュの特殊能力、ホログラム発生能力と透明化能力だ。ミラージュはブランのホログラムを作り出すことでスタースクリームを誘い出し、自身は透明化能力で姿を消して隙をうかがっていたのだ。
まさしく、
だがスタースクリームは瞬時に反応し、振り向きざまミラージュのブレードを丸鋸で受け止める。
「残念だったな!」
スタースクリームは嘲笑い、左腕を振り上げる。
ミラージュはそれを見て不敵な笑みを浮かべた。
「ああ、残念だよ。……おまえに一撃入れるのが、俺じゃなくてな!」
スタースクリームが訝しげな表情になった瞬間、ブランの声が響き渡った。
「ツェアシュテールング!!」
「な!? ごっばああああ!!」
真横からの一撃がその胴体を捉え、スタースクリームは真横に吹き飛ばされビルの壁面を破りその中に消えた。
「作戦通りだったな!」
女神化しているブランはニッコリとミラージュに笑いかける。
「……ああ、そうだな」
ミラージュはそっぽを向き、ぶっきらぼうに言った。
スタースクリームは、ブランのことを弱者として見ている。だから、ブラン一人なら必ず油断する筈だ。ここでミラージュが一緒だと警戒されるから彼は隠れておく。不意打ちが防がれるのも計画の内、本命はブランの一撃だったのだ。
「ったく、愛想のない奴だな。……けど、ありがとな」
ブランは素直に礼を言った。ミラージュなしでは、スタースクリームに勝つことは難しかっただろう。
ミラージュは答えず、スタースクリームが突っ込んだ壁面を睨みつけた。ブランも文句を言わずそれに倣う。
スタースクリームはジェットを吹かして、ビルから飛び出してきたからだ。
「き、貴様らあああッ!!」
怒り心頭のスタースクリームは、両腕をミサイル砲に変形させる。
ミラージュは両腕のブレードを、ブランは戦斧をそれぞれ構えた。
白の女神と赤いオートボットは、ディセプティコン航空参謀に挑んでいった。
そんなわけで、いかがだったでしょうか。
バトルって本当に難しいですね。
次回は、そしてボス同士+1の対決。
一応、次回で一区切りつく予定です。
ご意見、ご感想お待ちしています。