超次元ゲイム ネプテューヌ THE TRANSFORMATION 作:投稿参謀
レールガン。
この都市を難攻不落の物としている立役者であるこの兵器は、都市の背にそびえる山の山腹の施設に安置されていた。
その施設は、さすがに多数のトラックスと装甲兵が守っていた。
「しっかし、レールガンによる長距離砲撃なんて、よくコンストラクティコンが思いついたよね! 専門馬鹿っぽいのに、あのヒトたち」
「言い過ぎだぞ。……しかし、アレをレールガンと呼んでいいのか……」
一組のトラックスと装甲兵が話しながら施設の中を見回っていた。
その道の脇に、不自然なコンテナと段ボール箱が並んで置いてある。
ちょうど、トランスフォーマーと人間が一人ずつ中に隠れられそうな大きさだ。
「……ねえ、こんなトコにコンテナあったっけ? 段ボールも不自然極まりないんだけど」
「……ここは見過ごすのがお約束。……と言ってもいられんか」
さすがに無視はできず、コンテナと段ボールの中を確かめる二人。
だが、中には何も、あるいは誰も入っていなかった。
「ここは、『いや無視しろよ! お約束守れよ!』って中の人が文句言い出す流れじゃないのかな?」
「まあ、空なら良し。行くぞ」
すっかり安心した兵士たちが、その場を離れる。
……その気配が完全に遠ざかると、梁に手足をひっかけ天井に張り付いていたサイドスワイプと、こちらは女神なので普通に浮遊していたユニが降りてきた。
「秘儀、お約束二段重ね! 上手くいったぜ!」
「アイアンハイドさんじゃないけど、確かにこれ他の人のネタっぽいわね……」
上手く敵をやり過ごしたことにガッツポーズを取るサイドスワイプだが、ユニは複雑そうな顔だ。
しかし、すぐに顔を引き締める。
この先にレールガンが設置されているのだから。
「それじゃあ行きましょ。……それにしても、レールガンかあ。こんな時だけど、少し楽しみね」
銃器マニアの気があるユニにとって、レールガンは興味をそそられるらしい。
「レールガン……電磁力による超加速で弾丸を撃ちだす銃。実物を見るのは初めて!」
「ああー、ユニ? 壊すんだからな? 分かってるな?」
* * *
アイアンハイドは、すでに十と何体目かになるトラックスをへヴィアイアンで粉砕した。
「しゃらくせえ! ノワール、ここは俺に任せてお前は電波の発生源を叩け! このビルの上にあるアンテナだ!!」
「任せたわよ!」
ノワールは接近してきたトラックスをカウンターの要領で斬り伏せ、飛び上がる。
だが、何処からかミサイルが飛来した。
咄嗟に障壁を張って防ぐノワール。
爆発に煽られながらもミサイルの飛んで来た方向を見れば、ロングハウルが腕をこちらに向けていた。
ミサイルは彼が撃ったのだろう。
「帰って来たら大変なことになってるんダナ! 許さないんダナ!」
さらに。
「ミックスマスター! 大丈夫ですか!?」
「おやまあ、随分と美しくない事態ですね」
「うおおぉ! 暴れるぜー!」
「とりあえず、ぶっ潰すんじゃ!」
「オラ、参上だっぺ!!」
スクラッパー、ハイタワー、オーバーロード、ランページ、スカベンジャー。コンストラクティコンの面々も集まってきた。
厄介なことに戦闘ヘリも女神を撃ち落とそうと飛んでくる。
アイアンハイドは敵を迎え撃つべく全身のあらゆる武装を展開する。
「数頼みとは雑魚のやることだぜ! 全員血祭りにあげてやる!!」
「だーはっはっは! この都市に、いったいどれだけの兵隊がいると思ってんだ! 血祭りにあげられるのは、テメエらの方でえ!!」
勝ち誇るミックスマスターに、アイアンハイドは奥歯をギリリと噛む。
ミックスマスターの言う通り、このままでは数に押されて負けてしまう。
ノワールも、地上からの砲撃と集まってきた戦闘ヘリに阻まれ、電波の発信源に近づけない。
「大人しく降参しろい! そうすりゃあ、命だけは助けてやる!」
「冗談! いつかも言ったでしょう。あなたたちに私の国を支配する器はないわ!」
吼え合うノワールとミックスマスター。
しかし、状況は一向に好転しない。
コンストラクティコンたちはアイアンハイドを取り囲む。
「さあ、これで終わりだ! シャチホコモード!」
シャチホコ……もといバトルタンクモードに変形し、ミックスマスターはその砲口をノワールに向ける。
だが、その時地面が揺れ出した。
やがて、地鳴りのような音を立てて何処からか大量の水が押し寄せてきた。
「ッ! これは!」
「シアンが上手くやってくれたみたいね!」
水は凄まじい勢いで街に流れ込み、あっという間に街を飲み込んでいく。
道路が水没し、兵士たちは身動きが取れなくなり分断される。
「ぎゃあああ! 今度こそ死ぬうううう!!」
「大丈夫! 人は死なない仕様だからぁあああ!!」
装甲兵も人造トランスフォーマーも濁流と化した水に飲み込まれまいと逃げ惑う。
どう言うワケか、一般人の暮らす区画には水は流れていかなかった。
「どわあああ!!」
「溺れるぅうう! 見た目エビなのにぃぃ!!」
「オラ、泳げないっぺぇええ!!」
特に司令部前の広場には水が大量に流れ込み、渦巻く湖のように成り果てる。
コンストラクティコンたちも、為す術もなく水に飲み込まれ沈んでいった。
「パイプ一つ破壊しただけで水に没むだなんて、随分な要塞だこと」
「らしくもねえ欠陥住宅だったな」
宙に浮かぶノワールと、地面が揺れ出すや、ちゃっかり建物の上に避難したアイアンハイドは水没しゆく街を眺めていた。
別行動をしていたシアンとラステイション兵たちが、ダムから水を運んでくるパイプラインを破壊したのだ。
専門的なことは分からないが、この都市はそれだけで連鎖的にダムに繋がるパイプが崩壊し、大量の水が流れ込んで水没するような欠陥を孕んでいたらしい。
民間人のいる場所に水が来ないのもシミュレーション済みだ。
「それじゃあ、後は電波の発信源を壊すだけ……」
改めて司令部の屋上に設置されたパラボラを破壊するべく飛び上がろうとするノワール。
だが、突然水の中から五本のワイヤーが飛び出し、先端の爪のような物がビルの側面に突き刺さった。
水面が盛り上がり、巨大な影が顔を見せる。
山のような巨体に、悪夢の中の怪物のような恐ろしい姿。
コンストラクティコンが合体することで誕生する合体兵士デバステイターが、水を振り払いながら咆哮を上げた。
「デバステイター! まだやろうってワケね!」
「構うなノワール! ここは俺が……」
「そうはいかないよ!」
水面を割って、トラックスたちが飛び出してきた。
不意を突かれたアイアンハイドにトラックスたちが襲い掛かる。
「チッ! どきやがれ雑魚どもが!!」
「人造トランスフォーマー、舐めんなよー!!」
トラックスがアイアンハイドを足止めしている間に、デバステイターはノワールを追いかけ、何とビルに組み付く。
「あの巨体で、ビルを登ろうっての!? 怪獣映画じゃあるまいに!!」
驚くノワールだが、デバステイターの鈍重な動きでは自分に追いつけないと考え、一気に上昇しようとするが、 未だ健在の戦闘ヘリ部隊がノワールの行く手を阻む。
『させん! 人造トランスフォーマーばかりにいい恰好させるか!』
『女神殺しならぬ、女神落としだ!!』
その間にも、ビルの壁面をよじ登ってくるデバステイターは大口を開けて内部のヴォルテックス・グラインダーを起動し、凄まじい勢いで空気を吸い込み始める。
巻き起こる空気の渦よって、ノワールがだんだんとデバステイターに引き寄せられていく。
「クッ……ここまで来て……!」
ノワールは翼にパワーを注ぎ全力で振り切ろうとするが叶わず、デバステイターの大口はすぐ後ろまで迫っていた。
その瞬間、何処からか飛んできた砲弾が今にもノワールを飲み込まんとするデバステイターの背に命中。
デバステイターは悲鳴を上げながら塔の下へ落下していき、水柱を立てて水の底に沈んでいった……。
* * *
「命中! さっすがユニ!!」
サイドスワイプはヒュウと口笛を吹くような音を出す。
レールガンの砲塔に潜入し、ここを奪取したユニとサイドスワイプは、姉と師の危機を傍受した通信から察知し、せっかくだからとレールガンを使うことにしたのだ。
そして見事、姉たちの危機を救ったのである。
しかし、『レールガン』の銃座に座ったユニは凄まじく不満げだった。
「…………ふざけんじゃないわよ。…………ふざけんじゃないわよ!!」
「ゆ、ユニ?」
「こ、れ、の! どこがレールガンだって言うのよ!!」
ユニの乗った『それ』は、キャタピラがついて自立稼働できるようになっていた。
それはまだいいとして、問題は砲弾の発射機構。
「レールの上に砲弾乗せて、撃ちだすって何なのよ! これじゃあカタパルトじゃないの!! 何かレールガンにしては砲弾の威力が低いと思ってたら!!」
つまり、レールで挟んだ物体を電磁力で撃ちだす砲ではなく、文字通りレール『で』砲弾を撃ちだす砲だったワケである。
「ああー……多分、よく分かってなかったんだろうな。アイツら」
憤然とするユニを宥めながら、サイドスワイプは技術馬鹿っぽいコンストラクティコンの勘違いに溜め息を吐く。
「まあ、今は残りのヘリも片付けよう」
「ええ! この怒りと悲しみ! 思いっきり、ぶつけてあげるわ!」
* * *
塔の屋上に達したノワールの眼前には、洗脳電波を発生させる装置が鎮座していた。
いくつものパラボラアンテナを重ねたような機械だ。
「これで終わり。私の民と街、返してもらうわよ!! レイシーズダンス!!」
剣技と格闘の乱舞がアンテナに叩き込まれ、バラバラに破壊した。
「あれ、俺たち何やってたんだ?」
「パパー? 僕たちの女神ってブラックハート様だよね? イエローハート様じゃなくて」
「! ああ、私たちはエディンの……いやラステイションの民だ!」
電波の発信源が破壊されたことで、要塞都市の住民たちの洗脳も解けていく。
「よう! やったなノワール!!」
塔の下に降りてきたノワールをアイアンハイドが出迎えた。
喜色満面の彼は、しかし銃を水面に向けていた。
銃口の先では高台にミックスマスターがよじ登っていた。
「ここまでよ! 降参しなさい!」
「ノワール、そいつはちっと優しすぎないか? たっぷり銃弾をくれてやればすぐに終わるぜ?」
武器をミックスマスターに向けるノワールと、好戦的に銃を構えるアイアンハイドだが、ミックスマスターは小さく笑みを作った。
「よう、女神様よ! ここはいい国だな! オイルは美味いし、住民はみんな真面目で勤勉な、いい奴ばっかりだ!! ……必ず守れよ!!」
急に何を言い出すのかと訝しむノワールだが、ミックスマスターは水に飛び込み、それきり上がってこなかった。
* * *
やがて水が引き、建物はほとんど壊れず、人的被害はほぼゼロ。
あれだけいた兵士たちは、どうやってか姿を消していた。
コンストラクティコンも逃げ遂せたようだ。
要塞都市攻略戦は、ラステイション側の大勝利に終わった。
ノワールはいつもの服装に戻って、要塞の司令部のモニターで戦いと洪水の後を片付ける自分の国民を眺めていた。
アイアンハイド、ユニ、サイドスワイプ、そしてケイも並んでいる。
「とりあえず片付いたわね」
「いや、ここからが大変だよ。この要塞をどうにかしなければいけないし、それにあちこちの街にまだエディン軍がいるからね」
安心した様子のノワールにケイが現実的な意見を述べる。
「分かってるわよ。でもちょっとの間は勝利の余韻に浸ってもいいでしょう?」
「勝利といやあ……今回の勝ちは、シアンの嬢ちゃんたちのおかげだな」
アイアンハイドの言葉に一同が振り向くと、シアンが少し複雑そうな顔で立っていた。
「シアン、改めてお礼を言わせてもらうわ。エディンから街を取り返すことが出来たのは、あなたがパイプの欠陥を見つけてくれたおかげよ」
ノワールは感謝の意を込めてニッコリと微笑む。
影のオートボットからの情報には、あのパイプの欠陥のことは無かった。
それを影のオートボットが送ってきた要塞都市の資料から発見したのは、都市の攻略のために各種専門家の一人として招かれていたシアンだった。
「ああ……でも、気になることがあるんだ」
「気になること?」
しかし、シアンはこの大功績にも浮かない顔だ。
「コンストラクティコンは、優秀な技術者で超一流の建築家だ。……そんな奴らが、あんな見え見えの欠陥を残しておくかって思ってさ」
「それって?」
「ひょっとしたらアイツら、攻略の隙を作るために、ワザとこんな欠陥を残しておいたんじゃ……」
シアンの言葉に、そんな馬鹿なと言う顔になる一同。
特にアイアンハイドは有り得ないと言いたげだ。
だがノワールは、あのミックスマスターの言葉を思い出していた。
『よう、女神様よ! ここはいい国だな! オイルは美味いし、住民はみんな真面目で勤勉な、いい奴ばっかりだ!! ……必ず守れよ!!』
「…………」
あの時のミックスマスターは、負けたと言うのに妙に晴れやかな笑顔だった。
そもそも、洪水にしたって民間人を全く巻き込まないなど有り得るのか?
緻密に計算して『そう』都市を造ったのでなければ……。
真実はどうか分からない。
やはり、弘法も筆の誤りの如く、プロたる彼らも欠陥を見逃したのかもしれない。
ノワールは、もう一度街を眺める。
少なくとも、ミックスマスターの言う通り、国民は皆、真面目で勤勉で、そして助け合っているのだった。
あっさり終わったラステイション編だけど、他はそうはいかない予定。
今回の小ネタ解説。
レールで撃ちだすレールガン
ザ・ムービーオマージュ。
パイプ壊しただけで洪水
トリプルチェンジャーの反乱オマージュです。
こっちは、ワザとだけど。
ビルによじ登ってレールガンで撃たれて落とされるデバステイター。
スチールシティオマージュであり、実写リベンジオマージュ。
次回は、ルウィー編です。
……さっさと本筋を進めろ? まあ、そう言わずに。