超次元ゲイム ネプテューヌ THE TRANSFORMATION 作:投稿参謀
アドヴェンチャーに音波さん登場!!
……でもすぐに退場。
まあ、音波さんに常駐されたらA軍に勝ち目ないですからね。
仕方ないですね。
エディン占領下にある、リーンボックスのとある都市。
買い物をする主婦、外回りをするサラリーマン、話ながら歩く学生たち。
人々は、平時と全く変わらずに生活している。
しかし、よく観察すれば奇妙なことに気が付いただろう。
書店、アニメショップ、ゲームショップ、CDショップ、ゲームセンター、映画館……その他娯楽的な店舗や施設が、軒並み閉店している。
遊園地のアトラクションは全く動いておらず、町中からはあらゆる宣伝ポスターが外されている。
一際高いビルの上から、街を眺めているディセプティコンがいた。
逆三角形のフォルムに、猛禽めいた逆関節の脚。
航空参謀スタースクリームだ。
スタースクリームの視線の先では、数人の兵士が若い男を引っ立てていた。
その男の母親と思しい中年の女性が兵士に縋りついている。
「やめてください! 息子が何をしたって言うんですか?」
「何もしていないのが問題なのだ! 我がエディンでは、健康上の問題が無いのに労働をしないことは罪だ!!」
「い、嫌だー! 働きたくないでござる! 絶対に働きたくないでござる!!」
別の通りでは、何人かの男が兵士に追われていた。
「やめてくれ! 僕は漫画家だぞ!」
「ワタシはゲームクリエーター!」
「私はアニメの監督で……ほら聞いたことないか? 私の名前は……」
「黙れ! エディンに漫画家という職業はない。アニメ監督も、ゲームクリエーターも、必要ない!」
また別の場所では、家族連れの父がトラックスの一団に囲まれていた。
「駄目だよー。グリーンハートの写真を持ってちゃー」
「そうだよー。エディンの女神はイエローハート様なんだからさ」
「これは横暴だ!! 信仰の自由はないのか!?」
「無いんじゃないかなー? はいはい奥さんとお子さんもいっしょに行こうねー」
「な!? 家族は関係ないだろう! こ、この……!」
兵士たちは捕らえた人々を広場に連れていき、軍用トラックの荷台に押し込む。
「働いたら負けかなって思っている!」
「漫画を描いて何が悪いんだ!!」
「これは自由の侵害だ!!」
「やかましい! エディンの秩序に反する自由なんぞ、無いわ!!」
乱暴に荷台の扉を閉めた兵士たち。
ふと、一機のトラックスが兵士に問う。
「そう言えば、この人たちはどうなるの?」
「強制労働所へ送られるんだよ。怠惰犯はBクラス、違法娯楽犯と異端者は武装親衛隊が仕切ってる絶対出てこれないDクラスだ。噂じゃ、Dクラスは地獄のような場所らしい……さあ、行くぞ」
聞かれた兵士は興味無さげ言って、トラックの運転席に乗り込む。
トラックスも粒子変形してビークルモードになると、トラックと並んでは走り出すのだった。
一部始終を見てから、スタースクリームは視線を移す。
空を見れば、飛行船が街の上空を周回していた。
『国民よ! 労働と清貧は美徳である! 怠惰と浪費は悪である! 忘れるな、メガトロンは常にお前たちを見ている!! エディン万歳!!』
空を飛ぶ飛行船の胴体に備え付けられたモニターに、メガトロンの顔が映っている。
主婦も、子供も、サラリーマンも、学生も、道行く人々はそれを見上げ声を合わせて叫ぶ。
『エディン万歳!』
そして、何事も無かったかのように日常へ戻っていった。
……一部始終を見届けたスタースクリームは、不機嫌な様子で背中のブースターを吹かして飛び上がると、ジェット戦闘機に変形して飛び去るのだった。
* * *
エディン本土。
「俺、今度から武装親衛隊に移動になったんだ!」
「お! いいなー。俺なんかルウィーだぜ? 寒いのは苦手だよ」
帰還したスタースクリームがダークマウント内を歩いていると、角の先から声が聞こえた。どうやら数人のクローン兵とトラックスたちが話しているようだ。
どうもクローン兵と人造トランスフォーマーはお互いにある種のシンパシーを感じているらしく、仲が良かった。
別に興味もないので、そのまま通り過ぎようとするが……。
「やっぱり、どうせならレイ様の下で働きたいよなー!」
「だよなー!」
「ええー? そこはメガトロン様の下じゃない?」
奇妙な違和感をおぼえ、ピタリとその場で止まって聴覚センサーの感度を上げ会話を拾う。
「何だよ? お前ら真面目だな」
「って言うか、僕たち人造トランスフォーマーはメガトロン様への忠誠心がデフォルトとして人格に書き込まれてるしー」
「でも他なら、ブラックアウトさんかブロウルさんかなー? 面倒見いいしー」
それからしばらく、『どのディセプティコンの下で働きたいか?』と言う話題で盛り上がる兵士たち。
「サウンドウェーブ様は何考えてるか分からないし、ショックウェーブ様は何するか分からないしー」
「ミックスマスターは暑苦しいけど面倒見はいいな。ドレッズの連中は……よく分からん」
「ああ、でも有り得ないのはー……イエローハートかな!」
いつの間にか、スタースクリームは自分の手を痛いくらいに握り締めていた。
「まあ、有り得んわな。あんな子供の下で戦うのはゴメンだ」
「戦術とか分かってないだろうしな。女神としてならともかく、上官とすることはできん」
「僕、知ってるよ! そう言うの、『お飾り』って言うんだよ!」
さも面白いとばかりに笑い合う兵士たち。
スタースクリームは足早にその場を後にするのだった。
* * *
ダークマウントの司令部にて。
ディセプティコンの主だった幹部が集まり、会議を開いていた。
メガトロンとスタースクリーム、ショックウェーブ、別の場所にいるので映像での参加のサウンドウェーブ。
そして執政官のレイである。
女神たるイエローハートことピーシェの姿はない。
「……と言うワケで、本日の議題は娯楽の規制についてですが、いささか厳しすぎるのではないかと言う意見が上がっています」
「規制はこのままだ。むしろ今が甘いくらいだ」
実質的な司会進行としてレイが議題を出すと、メガトロンがにべもなく断ずる。
「しかしメガトロン様。このままでは国民に不満が出ますので、もう少し緩くしてもよろしいのでは?」
「くどい! だいたいからして、この世界には無駄な娯楽が多すぎる!」
「しかし、エディンは国民に幸福を約束していますので……」
「夢物語に何の意味がある。そんなことに沈殿する暇があるなら、食糧なりなんなり作ればよかろう。近々、無駄に華美な衣装や装飾品も禁制するぞ!」
レイの発言にも、メガトロンは意見を曲げない。
『会議』の名目ではあるが実質的にメガトロンとレイが意見をぶつけ合っているに過ぎない現状を、スタースクリームはボンヤリと眺めていた。
そして気づく。
メガトロンは、基本的に無欲である。
鋼の精神力、果てしない野望、底なしの闘争心。
傑物たる気質を多く備えながら、しかしそれゆえにメガトロンに俗な欲望は理解できない。
食欲は野望が打消し、物欲は支配欲で変換され、情欲はそもそも無駄と切って捨てる。
不世出の英傑メガトロンからすれば、俗人がつまらない欲に振り回されて生きることの方が不可解であり、全力を出していないようで我慢ならないのだろう。
そして厄介なことに、メガトロンの中には「自分が出来るんだから、他人にも出来るだろう」という考えが必ずある。
常に全力で、精力的で、ある意味無欲であれると考えているのだ。
「メガトロン様」
そこで、レイが今までと違う声を出した。
何処か甘えるような響きのある、『女』の声だ。
「メガトロン様は偉大な方です。並ぶ者のいない覇者です」
「はん、何を今更当たり前のことを……」
「いえ、メガトロン様はご自分がいかに偉大であるか、未だ十分にご理解しておりません」
フワリと浮き上がったレイは、メガトロンの顔を覗き込む。
「メガトロン様は素晴らしい方ですが、市井の者たちはメガトロン様のようには生きられません。ちょっと現実から離れて仮想の世界に避難してみたくなることもあります。ある程度の娯楽があった方が、仕事の効率が上がり、エディンの国力増強にもつながります」
「そこが解せん。作り話や夢物語に、何の合理性がある? なぜそれで作業効率が上がると言う理屈になるのだ?」
「休息ですよ、ある種の人間にとって、娯楽とは精神を休息させることなのです。兵士だって、四六時中戦ってはいられないでしょう?」
「………………」
レイの言葉に、メガトロンは考え込む素振りを見せる。
「それに、過剰に押さえつければ反発するもの。メガトロン様自身が一番よくご存知でしょう?」
「むう………。まあよかろう。物は試しだ。……しかし、規制は継続するぞ。敵国文化を賛美する者には、容赦するな」
「はい」
厳しく言うメガトロンと穏やかに笑むレイ。
その姿を見ながら、スタースクリームは自身のパーツ一つ一つが燃え上がるような怒りを自覚していた。
まず、『スタースクリームと反対側のメガトロンの隣』というレイの立ち位置。
これは、レイとスタースクリームが実質的に同格であるということであり、またメガトロンのレイに対する甘い態度も怒りを助長する。
しかし怒りの原因はそれだけではない。
だが、それが何なのかは分からなかった。
分からないと、思うようにしていた。
* * *
ダークマウントの中枢部。
ガルヴァら雛たちのための部屋には、新しい住人が加わっていた。
誰あろう、ピーシェである。
「きゃはは! わーい!」
ガルヴァやサイクロナスと追いかけっこをしているピーシェ。
雛たちもこの新しい『妹』をアッサリと受け入れていた。
多忙になってしまったレイに代わって子守り役を務めているのはジェットファイアだ。
「やれやれ、腕白な餓鬼どもだ」
「おいピーシェ。お薬の時間だぞ」
テーブルの上にいくつかの錠剤と水を用意したのは、ピーシェと共にディセプティコンに囚われたホィーリーである。
この小ディセプティコンは事実上オートボットに寝返っていたのだが、メガトロンは彼を英雄として軍団に迎え入れた。
……ピーシェをオートボットから守っていた英雄として。
「はーい! ありがと、ホィーリー!」
トテトテと駆けてきたピーシェは、『ホィーリー』に礼を言ってから席に着き、錠剤を水で飲み込んだ。
苦そうな顔をするピーシェを、ホィーリーは悲しげな眼差しで見ていた。
「おい、ちょっと邪魔するぞ。ピーシェいるか?」
と、育児室の扉が開き、スタースクリームが部屋に入ってきた。
自分の名前に反応し、ピーシェがそちらを向く。
「スタースクリーム? なにかよう?」
航空参謀は、自分の名を正確に発音するピーシェに何とも言えない顔になるが、すぐに苦虫を噛み潰したような表情になる。
「んー、ああーほら。前に約束しただろ? いっしょに空を飛ぶってよ。……ま、せっかくだからな」
こんな状況ではあるが、だいぶ前にした口約束を果たす気になったらしい。
だがピーシェは首を傾げるばかりだ。
「なにそれ? しらない」
「ッ!」
予想はしていた答えだ。
だが、スタースクリームの中に彼が知らない感情が渦巻く。
「……チッ!」
舌打ちのような音を出し、スタースクリームは立ち去った。
「なにしにきたんだろ?」
ピーシェと雛たちは揃って首を傾げ、ホィーリーは複雑そうな表情だ。
ジェットファイアは、厳しい顔でスタースクリームの背を見ていた。
* * *
ダークマウントの屋上。
夕日が海の向こうに沈んでいくのを何となしに眺めながら、スタースクリームは酷く不機嫌だった。
「……チッ! 何もかも気に食わねえ!!」
「荒れてるなぁ、若いの」
自分に話しかける声にハッと振り向けば、いつの間にかジェットファイアが沈痛な面持ちで立っていた。
「何だジジイか。何の用だ?」
「別に? ただ、老人は老人らしく若者に助言でもと思ってな」
カカカと笑う老ディセプティコンに、スタースクリームは眉根を吊り上げる。
「テメエ……」
「随分と、らしくないと思ってな。お前はディセプティコンの中でも『自分で決める』ことが出来る奴だと思っていたが」
「何が言いたい!!」
イライラと怒鳴るスタースクリームにもジェットファイアは動じない。
「自分の内心から目を逸らし、取り繕ってる姿は滑稽だと言ってるのさ」
瞬間、スタースクリームは右腕を丸鋸に変形させて斬りかかる。
ジェットファイアは杖代わりのライディングギアを構えて丸鋸を受け止めようとするが、航空参謀は恐るべきスピードで老ディセプティコンの横に潜り込み、その脇腹に向けて丸鋸を振るう。
「ッ!」
だが、丸鋸が腹に届く前に、老ディセプティコンの腕が航空参謀の腕を掴む。
――こいつ! 俺の動きに反応しやがっただと!?
すぐさまもう片方の腕に備え付けの回転機銃で撃とうとするが、そちらもジェットファイアの腕に掴まれ、狙いを外される。
「落ち着け。武器を向けられては話も出来ん」
腕に力を込めて振り払おうとするスタースクリームだが、ジェットファイアの力はその老体に見合わぬ強さだった。
しばらくそのまま硬直状態に陥っていた二人だが、スタースクリームの方が先に折れた。
「……俺が、内心から目を逸らしているだと?」
「そうとも。あのお嬢ちゃんが洗脳されて、心配なんだろう?」
「……そんなこと」
無い、と言い切れなかったのは何故か。
手を放され、その場に座り込んだスタースクリームの横に、ジェットファイアもドッカリと腰を下ろす。
「俺の見立てじゃあ、あのお嬢ちゃんのことを本気で心配してんのは、お前さんとホィーリー、後はレイぐらいだな。後は、国をそれらしく見せる飾りとしか思ってない」
ジェットファイアの言葉に、スタースクリームは自分の中で何かがストンと腑に落ちるのを感じた。
そう、エディンの女神たるイエローハートは、その実メガトロンの傀儡……操り人形に過ぎない。
政務はメガトロンとレイがこなし、決戦に備えて前線には出さない。
さらにある理由から、イエローハートを信仰させなくともシェアエナジーを集めることが出来る。
つまり、彼女はシェアを土地に還元するための装置でしかない。
誰もがそれを知るが故に、誰も人形の女神を崇めなどしない。
このエディンにイエローハートの……ピーシェの居場所など、何処にもありはしないのだ。
そのことが、スタースクリームの中にとてつもない不快感を及ぼしていた。
「チッ! ……ああ、そうだよ。認めてやる。あの状態のピーシェが、あの状態をピーシェに強いるこの国が、俺は酷く気に入らねえ。……その感情を、心配だっつうなら、そうなんだろうさ」
「カッカッカ! やっと認めやがったな! まあ、俺にして見ればお前さんみたいな他人を心配するディセプティコンが現れたのは、嬉しくてしょうがないぞ!」
「ああん?」
快活に笑う老ディセプティコンの言葉に、スタースクリームは顔をさらにしかめる。
対するジェットファイアは、沈む夕日に視線を向けた。
その眼差しは、酷く寂しそうだった。
「遠い遠い昔のディセプティコンは、そりゃあ酷いモンだった。憎しみと争いばかりで……いくら、『あいつ』が決めたとは言え、な」
「テメエ……まさか正気なのか?」
とても洗脳状態とは思えないことを言うジェットファイアに、スタースクリームがオプティックを見開くと、老ディセプティコンは自分の頭を指先でコンコンと叩く。
「色々記憶がすっぽ抜けてて、ディセプティコンを抜ける気が起きない今を正気って言うならな」
「……食えねえジジイだな、アンタ」
呆れつつも警戒しながら、しかしスタースクリームはこの老人のことが気に入り始めていた。
「それで? 俺にどうしろと?」
「それはお前自身が決めること。自由とは、自分の意思の下に生きることだ」
「ハッ! オートボットみたいな物言いだな。……だがその通り。それが俺の生き方だ。俺がどうするかは俺が決める」
メガトロンにも、ディセプティコンの仕来りにも、エディンにも従わない。
気に食わないなら、逆らうまでだ。
* * *
「メガトロン様。折り入ってご意見があります」
誰もいない通路を歩きながら、レイはメガトロンに言葉を投げかける。
メガトロンはそれを黙って聞く。
沈黙を肯定と受け取り、レイは奏上する。
「メガトロン様。……他国への侵攻は、ここらへんで打ち切ってもよろしいのでは?」
「何だと?」
「すでに、エディン内で経済を回せるくらいの領土は得ました。……先ずは内政に力を注ぎ、エディンの基盤を盤石の物とするのです。そもそも、エディンを建国したのはシェアを集め、惑星サイバトロン復興の悲願を果たすためのはず。無理に他国を攻めなくても……」
「駄目だ」
レイの言葉を遮ってメガトロンが放ったのは、拒否だった。
「オートボットを滅ぼすまで、戦いは続く」
「ッ! しかし! すでに事はオートボット対ディセプティコンと言う構図から、ゲイムギョウ界内での国際問題にシフトしています! こちらからこれ以上仕掛けなければ、外様に過ぎないオートボットたちも、とやかく言うことは……」
「くどい! この戦いはどちらかが滅ぶまで終わらん! そしてそれはオートボット共だ!!」
膨れ上がる殺気に、レイの体が震える。
それでも視線は逸らさない。
「とにかく、戦いは続ける。国内の治安維持はお前に任せたぞ。……下がれ」
「………………はい」
長い長い沈黙の後、ようやく頷いたレイは、歩き去るメガトロンの背を見つめていた。
そして、誰もいない通路を歩きながら、一人呟く。
「それならば……致し方ありません。私は私なりに動きます。……メガトロン様。あなたと、子供たちのために」
イエスマンと脳筋と日和見者が多いD軍にあって、
小悪党的ではあっても神にさえ従わない独立独歩の有り様こそが、
スタースクリームをD軍のナンバー2たらしめているんではないかと思ったり。
気付けばジェット爺さんが美味しいとこ持ってきました。
すでに内部に爆弾抱えてるエディン。
次回はラスティションでの戦いの予定。