超次元ゲイム ネプテューヌ THE TRANSFORMATION   作:投稿参謀

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やっとこさ新国家建国……その内容とは?


第104話 エディン、興る

 R-18アイランドの海岸……ヒワイキキビーチに、惑星サイバトロンの降下艇が着陸した。

 以前、ラチェットがロックダウンから奪った物だ。

 降下艇の前部扉が開き、中から四国の女神とネプギア、そのパートナーであるオートボットたちが降りて来た。

 ……いざと言う時、撤退することを考えてこの降下艇で来たのだ。

 

「R-18アイランド……何か怪しいとは思ってたけど」

「あの砲台は、目を逸らすための単なるブラフだったってことか」

「予兆をみすみす見逃してしまいましたわね……」

 

 すでに女神化しているノワールとブラン、ベールは油断なく辺りを見回す。

 

「ぷるるんの探してる大きな力もここにいるのかしら?」

「ああ、そう言えばそんな設定だったわねぇ。ほとんど忘れてたわぁ」

 

 ネプテューヌに加え、今回はプルルートもすでに女神化している。

 

「話しは後にしな。……どうも妙だ」

 

 アイアンハイドがセンサーの感度を上げて辺りを索敵しながら、女神たちに注意を促す。

 ビーチには観光客の姿は一切なく、ただ波の音だけが響く。

 前回来た時は乱痴気騒ぎが行われていたR-18アイランドは、今は不気味なほど静まりかえっていた。

 

「ようこそ、ゲイムギョウ界各国の女神、並びにオートボットの皆々様。新国家エディンへ。謹んでお迎え致します」

 

 と、森の中から人影が現れた。

 

「ッ!? あなたは……!」

 

 ネプテューヌが思わず目を丸くする。

 その人物は、薄青の長い髪と頭の左側の角飾りが特徴的な女性……レイだ。

 だが、いつもの露出度の低い黒い改造スーツではなく、動きやすそうな青いドレスを着こんでいる。

 

「レイさん!?」

 

 驚愕するネプテューヌに構わず、レイは穏やかに微笑む。

 すると、彼女の後に森の中から20人ほどの装甲服の一団が現れた。

 皆、黒地に青いラインというレイとお揃いのカラーリングと鋭い意趣のフルフェイスヘルメットからなる装甲服を身に着けている。

 装甲服の一団はレイの後ろに整然と縦二列に並ぶ。

 

「本日は、我が新国家の建国記念式典にご出席いただき、最大級の感謝をお送り致します」

 

 すわ戦闘かと身構える女神とオートボットだったが、装甲服の兵士たちは全員で拍手をする。

 

「申し遅れました。私はレイと申します」

「……そう、あなたがキセイジョウ・レイ」

 

 丁寧に自己紹介をするレイに、ノワールは眉をひそめる。

 

「話しは聞いてるわ。脱女神運動家……その正体はタリの女神で、今はディセプティコンの手下!」

「まあ、そんな所です。あ、それとキセイジョウの姓は捨てましたので、レイと呼んでください」

 

 苛立たしげなノワールに、レイは余裕を持って頷く。

 

「レイさん、あなたがいると言うことは、まさかエディンって……!」

「今は、そのご質問にはお答えしかねます。……さあ皆さま、こちらにどうぞ。会場までご案内致します」

 

 ネプテューヌが問おうとすると、レイは答えずに何処かに案内しようとする。

 

「馬鹿なこと言わないで! キセイジョウ・レイ! あなたは国際指名手配犯なんだから、ここで捕まえてやる!」

 

 大剣を正眼に構えるノワールだが、レイは余裕を崩さない。

 

「ブラックハート様。ここは独立国ですよ? 女神様と言えども、御無体が過ぎるのでは? ……それと、私の名前はレイです」

 

 ノワールはレイを睨みつけ、吼える。

 

「ふざけないで! こんな所に国なんか認められるワケないでしょう!!」

「何故です? 国家に必要な物は全て揃えましたよ? 国民、土地、主権」

「女神がいないわ! ゲイムギョウ界では、女神のいない国は認められない! まさか女神とか言い出すんじゃないでしょうね!」

 

 ノワールのその言葉にレイは感情の読めない笑みを大きくする。

 

「まさか! 私は単なる執政官ですよ。……それではご紹介しましょう! 我らがエディンの女神様、その名も……」

「うわああああ!!」

 

 レイの言葉をさえぎるように、遥か上空から叫び声と共に誰かが落ちてきた。

 

「え? きゃあああ!!」

「ノワール!?」

 

 誰かが反応する間のなく、その何者かはノワールに激突しもろとも地面に墜落する。

 

「あいたたた……飛ぶの難しいよー」

 

 落ちてきた何者かは座り込んだまま頭を振る。

 

 明るい金色の長髪の一部を頭の後ろで括り、衣装は白いレオタード。

 

 体つきはアンバランスなほど豊満だが、表情は子供のようにあどけない。

 

 背中には光の翼を背負っている。

 

 瞳には、シェアクリスタルの形と同じ円と線を組み合わせた紋章が浮かび上がっている。

 

 その特徴はまさに……。

 

「あなたは……!?」

「まさか、女神なの!?」

「ん? そうだよ! 名前はねえ、ええと……イエローハート!」

 

 思わず出たネプテューヌとネプギアの問いに、その女神……イエローハートは無邪気に笑って名乗る。

 そのタユンと揺れる余りに豊満な胸に、ベールは衝撃を受ける。

 

「な、何て大きさ……!」

「ベールのアイデンティティが無くなっちまうな」

「俺は君くらいの大きさが好きだぜ。ベール」

 

 何だか馬鹿なことを言い合うベールとブラン、そしてジャズだった。

 とにかくそれくらいイエローハートの胸は大きかった。

 

「ええと……段取りと違いましたが、彼女がエディンの守護女神イエローハート様です!!」

 

 この登場の仕方は予定になかったらしく、レイは少し慌てた様子になったものの、すぐに調子を取り戻して、朗々と紹介する。

 だが、落下に巻き込まれたうえに文字通り尻に敷かれているノワールはそれどころではない。

 

「ちょっと、いいから早く退きなさいよ!!」

「うわあ! お尻から人が生えた!!」

「生えてないわよ! アイツらを倒すんだから、早く退きなさい!!」

「倒す……?」

 

 イエローハートはその言葉の意味を飲み込むのに、少しかかったようだった。

 だがやがて、怒りにその身を震わせた。

 

「そんなの……させない!!」

 

 宙に浮きあがったイエローハートは、立ち上がったノワールに向かって拳を振るう。

 一瞬の間の動きとは思えないほど力強く、それでいて非常に洗練された動きだった。

 

「きゃあああ!!」

「ノワール!!」

 

 拳を受けたノワールは大きく後ろに吹き飛ぶが、アイアンハイドがそれを受け止める。

 だがアイアンハイドの力と体躯を持ってしても力を殺し切れず、ノワール共々後ろに倒れ込む。

 

「ぐおお!? 大丈夫か、ノワール?」

「ええ。……あの子、何て力!」

 

 アイアンハイドとノワールが呻く。

 

「ママをいじめるなんて、そんなの許さない!!」

 

 気迫と共にイエローハートは女神たちに向け拳を向ける。

 対するベールとブランは己の得物を構えた。

 

「そっちがその気なら、覚悟はよろしくて!!」

「ボロ雑巾にしてやるよ!!」

 

 長槍と戦斧は狙い違わずイエローハートを打ち、イエローハートは地面に叩き付けられる。

 が、イエローハートは何事も無かったかのようにムクリと起き上がった。

 

「あははは! 楽しいねー!! もっといっぱい遊ぼうよー!」

「ほとんどダメージがない、だと?」

「いっくよー!」

 

 驚くブランだが、イエローハートはいっそ異常さほど感じさせる無邪気さで両腕に爪付きの籠手を召喚して女神たちに向かって来る。

 

「ッ! ネプテューヌ、ネプギア! 私たちもいくわよ!!」

「ええ! でも気をつけて。……女神はあの子だけじゃないわ」

 

 戦列に加わるべく飛び上がるネプテューヌたちだが、泰然としているレイにも警戒を向ける。

 

「オートボット! 女神を援護するぞ!」

「待てオプティマス! 周囲に敵影! この反応は……?」

「『そんな、まさか!?』」

 

 ネプテューヌたちを援護しようとするオプティマスだったが、ジャズの声に周囲を警戒する。

 バンブルビーは、驚愕にオプティックを見開く。

 

 何処からか、何台もの小型クロスオーバーUSVが現れてオプティマスたちを取り囲むや、次々と粒子に分解していく。

 

「人造……トランスフォーマー、だと?」

 

 警戒を緩めないものの思わず呟いたオプティマスに答えるように、人造トランスフォーマーたちはロボットモードになり手持ちの機銃を構える。

 バイザー状のオプティックと右腕に二枚刃の爪のようなブレードを持っていて体色もバイザーの色も様々だが、その全員が何処かスティンガーを思わせる姿をしていた。

 

「初陣だー! 初任務だー!」

「さっそく攻撃しようよ!」

「ダメだよ! 命令があるまではこのまま!」

 

 一糸乱れぬ動きに反し、聞こえてくる声と言葉は酷く子供っぽい。

 バンブルビーはその姿に戸惑いを隠せない。

 

「『いったい』『何なんだアンタ』『ら』!?」

「ボクたち? ボクたちは『トラックス』だよ!」

「動かないでね! 動くと撃っちゃうよ!」

「いや、そこは撃つと動くで!」

 

 突如現れた人造トランスフォーマーたちにオートボットたちが混乱する間にも、上空では女神たちの戦いは続いている。

 

「何んて頑丈さと体力! これじゃあまるで……」

「もっと遊んでよー!」

 

 ネプテューヌの斬撃がイエローハートを打つが、堪えた様子は全くない。

 

「…………」

「あらぁ? あなたはイかないのぉ?」

 

 一方、未だ戦いに参加していなかったレイの傍に、いつの間にかプルルートが迫っていた。

 周囲の装甲服の一団がレイを守るように展開する。

 

「やめなさい。あなたたちが勝てる相手ではないわ」

「もう、勝ち目もないのに向かってくる健気な子を苛めるのも楽しいのにぃ。……まあ、まとめて苛めてあげれば問題ないわよねぇ」

 

 正義側の人物が浮かべてはいけない残虐な笑みを浮かべて蛇腹剣を握る手に力を込めるプルルート。

 その瞬間、プルルートは振り返って飛来した光弾を障壁で防いだ。

 視線をそちらに向ければ、いつの間にか赤い単眼が特徴的な深紫の金属巨人がこちらに右腕と一体化した砲を向けていた。

 

「ショッ君……!」

「久しいな、プルルート。……非常に論理的でないが、あえて嬉しいぞ」

 

 因縁深い科学参謀の姿に、プルルートは一瞬複雑そうに顔を歪めた。

 一方のショックウェーブは静かな中に抑えきれない細かい震えを含んだ声を出す。

 

「この場で決着をつけたいところだが、今は色々とイベントがある。またの機会にしておこう。……トラックスたち、攻撃開始だ」

『はーい!』

 

 子供っぽい相槌を打ち、トラックスたちはオートボットに襲い掛かる。

 

「やはりディセプティコンが絡んでいたか! 致し方ない、オートボット攻撃!」

『了解!』

 

 オプティマスの号令の下、オートボットたちはトラックスの一団を迎え撃つ。

 バンブルビーも意を決してブラスターを展開する。

 左右から挟み撃ちにしようとする二体のトラックスをジャズが回し蹴りで文字通り一蹴し、アイアンハイドの砲撃の前に、トラックスの体に容易く大穴が開く。

 

「わー! やられたー!!」

「うわー、いいなー! 破壊されたら、新しいボディがもらえるんだよ!」

「ボクも新しいボディが欲しいなー! 次はもっとカッコいい奴!」

「な、何なんだこいつら……。調子が狂うぜ……!」

 

 そう呻いたのはアイアンハイドだ。

 一体一体の戦闘力は大したことはないが、仲間がやられても呑気に笑っている姿にオートボットたちはやり難さを感じていた。

 

 上空ではイエローハートを四ヵ国の女神たちが囲んでいた。

 女神たちが肩で息をしているにも関わらず、イエローハートに疲弊の色は見えない。

 

「はあ…はあ…。こうなったらしょうがないわね。みんな! 練習してたアレをやるわよ!」

「対メガトロンを想定して編み出したアレを? ……致し方ないわね!」

 

 ノワールの号令にネプテューヌが応じ、ベールとブランも身に力を溜める。

 

「ええ~? もう遊ばないのー?」

 

 だが、どこまでも無邪気なイエローハートはまるで恐れる様子はなく無防備でさえある。

 

「ええ、これで終わりよ。……私とベールで斬りこむわ!」

「何処まで耐えられるか、楽しみですわね!」

 

 まずはノワールとベールが超高速でイエローハート目がけて左右から斬りかかる。

 もちろんイエローハートは防御しようとするが、次々と繰り出される斬撃をいなし切れない。

 

「うわわわ!?」

「叩き斬ってやる!!」

 

 動きのとれないイエローハートに向かって、ブランが大上段から渾身の一撃を食らわす。

 咄嗟に両腕の爪を交差させて防ぐイエローハートだが、大きな衝撃を受けて爪が砕け散った。

 

「きゃあああ!!」

「ネプテューヌ! テメエが止めだ!!」

 

 ブランの声を合図に、上空からネプテューヌが太刀を前に突き出しエネルギーを纏ってイエローハートに突撃する。

 

「この一撃に全てを出し切る!!」

「わあああああ!!」

 

 一本の矢の如きネプテューヌの刺突は狙い違わずイエローハートに命中。

 イエローハートは悲鳴を上げて吹き飛ばされ、海へと落下した。

 

 これぞ、四女神の合体技、『ガーディアンフォース』である!

 

「やったか!?」

「やってないフラグですわよ、それ」

「わりい……」

 

 落下の衝撃で海上に起こった波紋を見下ろしながら、ブランとベールが言い合う。

 

「ネプテューヌたちが勝ったようだな。オートボット、このまま押し切るぞ!!」

 

 オプティマスはテメノスソードで何体目かのトラックスを斬り伏せながら、部下たちに檄を飛ばす。

 

「さて? そう上手くいくかな?」

 

 地獄から聞こえてくるかのような重低音の声だった。

 ハッとオプティマスが声のした方を向けば、仮面のような笑みを顔に張り付けたレイの傍に、灰銀の巨体が立っていた。

 トラックスたちが戦闘を止め、メガトロンを守るように整列する。

 

「メガトロン! やはり貴様の企みだったか!!」

「まあ待てプライム。ここからが面白いところだ。……見るがいい」

 

 ニィッと血も凍るような笑みを浮かべ、顎でイエローハートが墜落した海を指す。

 

「……ぷはっ! いたかったー! へんしんとけちゃったよー!」

 

 海から、誰かが浜に上がって来た。

 明るい色の金髪に青い瞳。

 黒と黄色の子供服。

 年齢は10にも満たない。

 状況から見て、イエローハートの人間としての姿だろう。

 ネプテューヌはその姿を見て、茫然と呟く。

 

「ぴー……こ?」

 

 イエローハート……ピーシェは辺りを見回すと、目当ての人物を見つけて声を上げた。

 

「パーパー! マーマー!」

 

 一目散に、駆けていく。

 

 ……メガトロンとレイの所へと。

 

「パパー! ママー!」

「ハッハッハ! よく頑張ったぞイエローハートよ!」

「ええ、良い子ね。ありがとう」

 

 メガトロンは上機嫌に、レイは仮面染みていない本物の笑顔で穏やかにピーシェを褒める。

 

「だっこしてー!」

「はいはい」

「えへへ! わーい!」

 

 レイはピーシェを抱き上げ頭を撫でてやると、ピーシェは嬉しそうに笑った。

 ネプテューヌはその近くに降り立ち、混乱しながらもピーシェに声をかける。

 

「ぴーこ! どうしてあなたがここにいるの!? まさか、あなたがイエローハート……そんなワケないわよね」

 

 状況はピーシェがイエローハートだとハッキリ示しているが、ネプテューヌにそれを受け入れることは出来ない。

 

 まして、メガトロンを父と呼ぶなど!

 

 ピーシェは、レイの腕の中でネプテューヌを睨みつけた。

 目からは光が消えて異様な有様だ。

 

「……きらい! あっちいって!!」

「ぴーこ……?」

「パパとママをいじめるひと、だいっきらい!!」

 

 ネプテューヌは視界がグラつくのを感じた。

 まるで世界から現実感が失せてしまったようだ。

 ピーシェの声からは、本気の嫌悪と怒りを感じたからだ。

 

「ちょっと! その子に何をしたの!!」

「メガトロォォンン……!!」

 

 ノワールとオプティマスが激烈な怒りを込めてメガトロンとレイを睨む。

 レイの瞳に一瞬だけ悲しげな光が宿ったが、すぐに仮面のような笑みに戻ると事務的に宣言した。

 

「何も……とは言いませんが。……改めまして、この方こそ我らがエディンの女神、イエローハートことピーシェ様です!」

「そんなことは許されませんわ! 我がリーンボックスは、そのような暴挙を許しません!」

 

 ベールが吼えるが小馬鹿にしたようにメガトロンは鼻を鳴らすような音を出す。

 

「ふん! 許す許さないの前に、自分の国のことぐらい把握しておくのだったな!」

「? どういうこと……」

『お姉様! ベールお姉さま! 応答してくださいまし!!』

 

 突然、ベールのインカム型通信機に彼女の国の教祖、箱崎チカから通信が入った。

 

「チカ? どうしましたの? 今は立て込んでいて……」

『緊急事態です! リーンボックスのいくつかの都市が……』

 

 

 

 

『エディンの軍を名乗る者たちに占拠されました!!』

 

 

「なん……ですっ……て……?」

『突然、何処かに潜んでいた武装集団とトランスフォーマーが都市を攻撃! 国軍や警備兵も抵抗しましたが力及ばず……』

 

 チカの言葉が進むたびにベールの顔が青くなっていく。

 その姿を見て、メガトロンはしてやったりという顔だ。

 

「そう言うワケだ。貴様の国の一部、我がエディン領として貰い受けるぞ」

「メガトロン……!」

 

 怒りに任せて仇敵に詰め寄ろうとするオプティマスだが、その時地面が揺れ出した。

 

「フハハハ! ハァーハッハッハ!! さあ、仕上げだ! 行くぞレイ、イエローハート!」

「はい。メガトロン様」

「はーい!」

 

 メガトロンは変形して、レイとピーシェは女神化して何処かへと飛んで行く。

 その間にも、揺れはどんどん大きくなっていく。

 

 メガトロンたちが空中で静止したのは、シャボン玉発生装置の砲台の上空だった。

 地面の揺れと共にイミテーションの砲台は崩れ、その瓦礫を突き破って地中から何かが浮上してきた。

 イミテーション砲台だけではなく、周囲の木々や地面を押しのけて現れたのは大小無数の砲台を備えた塔のような建物だった。

 それがギゴガゴと音を立てて天に向かって伸びていく。

 この島の地下に隠されたディセプティコンの秘密基地が変形を繰り返し地上に現れたのだ。

 塔の中腹にあるバルコニーでは、ミックスマスター以下コンストラクティコンたちが歓声を上げている。

 

「だーはっはっは! どうでい、コンストラクティコンが時間と汗と涙を込めて造り上げた傑作! 名付けてダークマウントでえ!!」

 

 自らの作品の完成に喜ぶコンストラクティコンたち。

 

 メガトロンたちは塔の屋上に降り立ち、並んで遥か下の女神たちやオートボットを見下ろす。

 すると周囲にカメラなどの撮影器具が現れ、三人の姿を映す。

 レイは女神化を解いて、一歩前に進み出た。

 

「ゲイムギョウ界の皆さん、初めまして。私は新国家エディンに所属するレイと申します。いきなりお騒がせしたことを、まずはお詫びします」

 

 同じころ、ルウィーで突然流れてきた映像を見たアブネスが椅子から転げ落ち、プラネテューヌでアノネデスがマスクの下で難しい顔をし、別の場所でトレイン教授が紅茶のカップを床に落とした。

 

「本日は我がエディンの奉ずる女神イエローハート様より、ご挨拶があります。……イエローハート様、どうぞ」

「はーい! イエローハートでーす! よろしくお願いしまーす!」

 

 満面の笑みでカメラに向かって手を振るピーシェ。

 状況がよく分かっていないのは明らかだ。

 

「はい、ありがとうございました。……続きまして、イエローハート様の政治的代理人にしてエディン全軍の最高指揮官である、メガトロン様からのお言葉です」

 

 レイの言葉を受け、カメラが一斉にメガトロンの方を向く。

 

「御機嫌よう、ゲイムギョウ界に生きる者どもよ。……改めて自己紹介する必要はないだろう。メガトロンだ」

 

 堂々たる声が、カメラを通してあらゆる場所、あらゆるメディアに流れていく。

 

「諸君らから見れば我らは侵略者であろう。……しかし! 我らは断固たる信念を持って建国に望んだのだ!!」

 

 ダークマウント各所の扉から、ディセプティコンたちと数えきれないほどの装甲服の兵士、トラックスたちが吐き出される。

 装甲服のデザインはレイの近くにいた者たちのそれと同じだが、カラーリングは黒地に濃い黄色で、ヘルメットの意趣と相まって蜂の群れを連想させた。

 

「ゲイムギョウ界は自由な世界だ! だが、自由の本質をどれだけの人間が理解している?

 自由の本質、それは無責任であり無秩序だ!! 

 他者を傷つける自由!

 働かずに怠ける自由!

 何の意味のない娯楽に耽る自由!!

 テレビ、映画、アニメ、漫画……それにゲーム!!

 

 どれもくだらん!

 

 有りもしない夢物語など、現実から逃げ出す弱さと愚かさ以外の何の意味もない!!

 

 人間は誰かが見張っていなければ容易く他者を傷つけ、いくらでも怠け、僅か百年にも満たない貴重な時間を無駄にする!

 トランスフォーマーも同じだ!

 故に我がエディンは鋼の統制を! 完全無欠の支配をゲイムギョウ界にもたらすのだ!! 

 支配して押さえつけなければ、平和は訪れないのだから!!

 

 罪人には呵責なき罰を!

 怠け者には労働の喜びを!

 そして無駄な娯楽には規制を!

 

 今、ここに宣言する!! エディンはゲイムギョウ界を統一する!! 世界に唯一無二の秩序を築くために!!

 

 圧制を通じての平和を(ピース・スルー・ティラニー)!!」

 

圧制を通じての平和を(ピース・スルー・ティラニー)!! 圧制を通じての平和を(ピース・スルー・ティラニー)!!』

 数え切れない装甲兵が、人造トランスフォーマーが、ディセプティコンたちが敬礼と共に斉唱する。

 その声はとてつもない奔流となって大気を震わす。

 

「違う……!」

 

 メガトロンの声が轟く中、オプティマスは呟く。

 

「違う!! 断じて違う!!

 自由とは、より良き存在になる自由だ!!

 

 人もトランスフォーマーも確かに弱く愚かだ。

 だからこそ、支え合い励まし合って成長するために努力することが出来る!

 生きとし生きる者には、その権利が与えられているのだ!!

 

 メガトロン!

 お前の言う唯一無二の秩序は、多様な価値観や進歩の可能性を封殺してしまう!

 自由とはあらゆる(フリーダム・イズ・ザ・ライト)知的生命体の権利なのだ(・センティエント・ビーイングス)!!」

 

 オプティマスの叫びは遠く離れたメガトロンには届かない。

 だが、メガトロンはオプティマスを見た。その視線には計り知れない怒りと憎しみが込められている。

 両雄はお互いの相容れぬ思想を、ここで改めて確認したのだった。

 

「わー! すごいすごーい!!」

 

 メガトロンの演説に反応して、内容は半分も理解できていないもののピーシェは嬉しそうに笑っていた。

 

 ネプテューヌは彼方のピーシェを見上げながらも上の空だった。

 

 ピーシェがエディンの女神で、メガトロンをパパと呼んで……。

 

 まるで現実感がない。

 

 これは、本当に現実なのか?

 

 悪夢か何かではないのか?

 

「オートボット、撤退! 撤退だ! 降下船まで戻れ! ネプテューヌ、しっかりするんだ!」

 

 傍にいるはずのオプティマスの声が遠くに聞こえる。

 視界の端に、ディセプティコンに飛びかかろうとするベールをジャズが無理やり抱えているのが見えた。

 プルルートは殿で兵士を薙ぎ倒している。

 アイアンハイドとミラージュに庇われながらノワールとブランが悪態を吐いているのが聞こえた気がした。

 気付けばネプテューヌ自身もまた、オプティマスに抱えられていた。

 

『ぴーす・するー・てぃらにー♪ ぴーす・するー・てぃらにー♪』

 

 飛び立とうとする降下船に乗り込む時に最後に聞こえたのは、歌うようなピーシェの声だった。

 

  *  *  *

 

 かくして、エディンは興った。

 R-18アイランドに加えリーンボックスの一部を占拠し自らの領土だと主張するエディンはゲイムギョウ界全土に宣戦布告。

 

 ここに歴史に残るエディン戦争が始まったのだった……。

 




今回の解説。

エディン
原作のエディンが女神も兵士も洗脳していて、領土が島一つ、執政官(自称)が雇われ者のアノネデス、最高指揮官がレイという……何て言うかな感じなので、ここでは超強化。
しかし所属してるのが、元被差別民族のディセプティコン、亡国の女神のレイ、アイデンティティがややこしそうな人造トランスフォーマーとクローン兵という、これはこれで何て言うか……。

トラックス
トラックスたちの人格の身チーフは、攻殻機動隊のタチコマとかロックマンDASHのコブンとか。

ダークマウント
この要塞の名前を『ハイブシティ』にするか『ニューケイオン』にするか悩んだけど、結局この名前に。

『圧制を通じての平和を』『自由はあらゆる知的生命体の権利』
ご存じ、G1の頃からの破壊大帝と司令官の座右の銘。
要約すると
メガトロン「人間もTFも弱く愚かだ! だから押さえつけてでも平和にしなければならない!」
オプティマス「人間もTFも弱く愚かだ! だからより良い存在になるよう努力する自由が必要だ!」
と言うことだと作者は解釈しております。どっちを選ぶかは、それこそ人次第。

次回以降は、しばらく各地での戦いの話になります。
では。

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