超次元ゲイム ネプテューヌ THE TRANSFORMATION   作:投稿参謀

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前回のあとがきでは、色々不用意な発言をしてしまい申し訳ありませんでした。
また、作中でランページの使う広島弁は、かなり適当です。
広島在住の方がご覧いなったら、気分を害されるかもしれません。

こんな作者の作品ですが、どうぞお付き合いいただければ幸いです。

※2016年1月5日、改稿。


第11話 乱入、また乱入

 ディセプティコンの襲撃により、戦場と化したプラネテューヌ。

 現在、プラネテューヌ市街では三か所で戦闘が行われている。

 

 メインストリートにて、両陣営の本隊同士の激突。

 

 自然公園にて、諜報員と輸送兵の予期せぬ遭遇戦。

 

 そして、プラネタワー前庭にて、プラネタワー防衛隊対ディセプティコン奇襲部隊。

 

 まずは、プラネタワー前庭の戦いから見ていこう……

 

  *  *  *

 

「喰らえや、ワレええぇぇぇ!!」

「『あたらないよ~だ!!』」

 

 ランページが雄叫びを上げながら、両腕の鞭を縦横無尽に振るうが、バンブルビーが軽やかな動きでそれを躱し続ける。

 

「『今度は』『こっちの番だ!』『駆逐してやる!』」

 

 物騒なラジオ音声を流しながら、ランページに殴りかかるバンブルビー。

 その拳は的確にランページの顔面に突き刺さった。

 

「グオッ!」

 

 呻き声を上げよろめくランページだが、ダメージは軽かったらしく、すぐにバンブルビーを睨みつけた。

 

「ワシを舐めんな! エビモード!!」

 

 黄色いディセプティコンは叫ぶと脚を再び一つにまとめ、大きく飛び上がるとバンブルビーに勢いよく飛び蹴りを繰り出した。

 

「『なんの!』」

 

 凄まじい速さの蹴りだが、紙一重で躱す。

 

「甘いんじゃ!」

 

 ランページはそのまま一本足を軸に体ごと横回転し、鞭をバンブルビーの体に叩き込む。

 小柄なオートボットの体は大きく吹き飛ばされた。

 

「どうじゃ! ワシャ赤いのとは違うんじゃ、赤いのとは!」

 

 わけの分からないことを叫びながら、再び飛び上がり、今度は縦回転も加えて飛び蹴りを放つ。

 バンブルビーは寸でのところでこれを転がって避け、その勢いで立ち上がる。

 しかしランページは片手を地面に着けるとそれを軸にして、強烈な蹴りを繰り出し、その一本足をバンブルビーの体に叩き付けようとする。

 

「これで終いじゃあ!!」

「『そう簡単に』『終わるか!』」

 

 なんとバンブルビーは、ランページの一本足を避けることなく受け止め、そのままジャイアントスイングの要領でランページの体を振り回し、投げ飛ばす。

 

「なんとおぉぉッ!?」

 

 叫び声を上げて投げ飛ばされたランページは、警備兵と戦っていたモンスター数体に激突して止まる。

 

「このガキャア! やってくれたのお!!」

 

 ダメージは有るはずだがそれを感じさせず、すぐさま立ち上がり、今度は両腕を銃に変形させる。

 

「『いいね』『徹底的にやろう!』」

 

 バンブルビーも、右腕をブラスターに変形させる。。

 二体のトランスフォーマーは、銃撃戦へと突入した。

 

 戦いは始まったばかりである。

 

  *  *  *

 

 バンブルビーとランページが激闘を繰り広げている周りでは、警備兵とモンスターが戦っていた。

 警備兵たちは、もちろん女神には劣るものの、治安維持を任されるだけあって戦闘力はソコソコだ。

 中には女神が相争っていた時代に従軍していた古強者も混じっており、危うげなくモンスターを駆逐していく。

 その戦場の一角では、女神候補生たちとスコルポノックが戦っていた。

 最初こそモンスターを相手にしていた候補生たちだが、機械サソリのほうから砲火を持って戦いを挑んできた。

 

「当たれえ!」

 

 ユニが長銃でスコルポノックの顔面を狙い撃つ。撃ちだされたビームは顔面に命中した。

 しかし、ダメージはさして通っていないようで、機械サソリは怒りの咆哮を上げると、ユニに向かって両腕のプラズマキャノンを発射するが、ユニは走り回ってそれを躱す。

 

「そこです!」

 

 そして、ユニの動きを追うスコルポノックの死角から、ネプギアが斬りかかる。

 しかし、その動きに気付いた機械サソリは長い尾を振り、ネプギアを打ち据えようとする。

 ネプギアは素早くそれをよけ、尾の半ばの装甲の薄い部分を斬りつける。

 痛みに悶え、のた打ち回るスコルポノックから離れると、ネプギアは声を上げる。

 

「今だよ! ロムちゃん! ラムちゃん!」

『アイスコフィン!』

 

 少し離れたところで隙をうかがっていたロムとラムが得意の魔法を繰り出す。

 二人の声と同時に、その頭上に大きな氷塊が出現し、スコルポノックに向けて飛んでいく。そして命中。当たった部分が凍りつく。

 しかし氷塊はスコルポノックの巨体に対し、あまりに小さい。

 だがスコルポノックは、苦しみを訴えるように鳴き声を上げる。

 トランスフォーマーを始めとする金属生命体は凍結に極端に弱いのだ。

 

「やったね、ロムちゃん!」

「うん、ラムちゃん!」

 

 ラムとロムはハイタッチを交わす。

 二人の使う魔法は生まれ故郷の北国ルウィーの風土が関係しているのか、氷結属性に特化している。

 女神候補生の中でも最も幼く、普段は皆から守られる立場にいるラムとロム。

 しかし、この姉妹は金属生命体にとっては、一種の天敵と言えるのだ。

 

「よーし、このちょうしでがんばろう!」

「うん、……がんばろう!」

 

『エターナルフォースブリザード!』

 

 ラムとロムは、さらに魔法を唱え、巨大な氷塊がスコルポノックに降りかかる。

 女神候補生たちは、初陣としては規格外の戦果を上げていた。

 なぜかバンブルビーと共に戦っていると、力と勇気が湧いてくる気がするのだ。

 その意味に気付くのはもう少し先の話だ。

 

 ディセプティコン奇襲部隊の誤算は、バンブルビーの参戦だけではない。

女神候補生たちと警備兵たち、プラネタワーに残された戦力を過小評価していたことこそが最大の失敗だった。

 

 まずいな、とランページはモンスターを盾にしてエネルギー弾を防ぎ、ブレインサーキットを回転させる。

 戦況は確実にこちらが不利に傾いてきている。

 ここらが潮時かもしれない。

 

「じゃが、われのタマだけはもろぉていくけんのぉ!」

 

 そう吼えるとまたしても大きく跳躍し、バンブルビーに踊りかかる。

 

「『同じことを』『何度も!』『馬鹿な奴め!』」

 

 バンブルビーは、もう一度ランページの一本足を掴もうとする。だが……。

 

「馬鹿は貴様じゃ! カニ脚モード!」

 

 ランページは空中で四本足を展開する。

 バンブルビーは避けようとするが間に合わず、ランページに組み敷かれる。

 

「これで終いじゃあ!」

 

 ランページは両腕の銃口をバンブルビーの顔面に向けた。

 

 絶体絶命の危機だ。

 

 だが赤いディセプティコンが、銃を撃とうとした瞬間、その背に斬撃を浴びせる者がいた。

 

 ネプギアである。

 

「させません!」

 

 バンブルビーのピンチを察知した彼女が、背後からビームソードで斬りつけたのだ。

 エネルギー刃は十分とは言えないもののディセプティコンの肉体に食む。

 痛みに悶えるランページを、バンブルビーは渾身の力で跳ね飛ばした。

 

「大丈夫!? ビー!」

「『ありがとう! そして、ありがとう!』」

「がああぁ! こんのムシケラがあぁぁ!!」

 

 それでも体勢を立て直したランページはネプギアに銃を向けるが、今度はバンブルビーがブラスターを撃ちこむ。

 さらに体勢を崩したランページにタックルを仕掛ける。

 そのタックルをもろに受けてしまい後ろに吹き飛ばされたランページは、手近にいた者に飛びかかり鞭を振るう。

 

 この破壊の申し子が何者の命も奪わず撤退するなど有り得ない。

 

「こうなりゃあ、誰でもええ!」

 

 そこにいたのはユニだった。

 

「え?」

 

 眼前の機械サソリに集中していてランページを気にしていなかった彼女は、一瞬硬直してしまう。

 無理もない、彼女は『油断大敵』という戦場の不文律を知らなかったのだ。

 

「きゃああ!」

 

 ランページの鞭がユニに迫る。しかし、その鞭がユニを潰すことはなかった。

 なぜなら直前で閃光が走り、鞭が切り落とされたからだ。

 

「……え?」

 

 閃光の正体は、何者かの剣閃だった。

 その主は、目にも止まらぬ速さでユニとランページの間に割り込むと、一刀の下にランページの鞭を斬って見せたのだ。

 その何者かは、はたして金属の肉体を持ち、足がタイヤになっていて、両の腕に硬質ブレードを備えた銀色のトランスフォーマーだった。

 表情や立ち振る舞いは、若者を思わせる。

 

「危ないな。そんな乱暴じゃあ、モテないぜ」

 

 そのトランスフォーマーは、そう言って両腕のブレードを構え直す。

 バンブルビーが軽快な電子音を鳴らすことで喜びを表現した。

 

「オートボットの増援じゃと!?」

 

 ランページが焦った声を出す。

 

「大丈夫かい、お嬢さん」

 

 銀色のトランスフォーマーは、ユニに声をかけた。

 ユニはコクコクと頷く。

 銀色のトランスフォーマーはフッと笑い、それからランページに向き直る。

 

「どうする? まだ続けるかい」

「『無駄な抵抗』『だぜ』」

 

 銀と黄のオートボットに挟まれ、ランページはあたりを見回す。

 モンスターたちはあらかた掃討され、凍りかけのスコルポノックはオートボットがもう一体参戦するに至って、 自らの命の危機に迷わず逃走を選び……そう、共生主から命令されていた……地下へと姿を消した。

 一転、絶体絶命の危機にあるのはランページだった。

 

「もう、あなたに勝ち目はありません! 投降してください!」

 

 ネプギアがビームソードをランページに向けながら宣言する。

 それに対し、ランページは低く笑う。

 

「ふ、ふっふっふ……。このワシが投降? するわけないじゃろ、こういうときにすることは一つ!」

 

 まだ何かする気かと、一同が身構えた次の瞬間である。

 

「逃げるんじゃよおお! さいならああ!!」

 

 ビョオーンと大きく、とんでもなく大きく跳ねて、ランページはその場を離脱する。

 呆気に取られる一同が正気に戻ったときには、ランページの姿はビルの向こう側へと消えていた。

 

「やれやれ、拍子抜けだな」

 

 最初に言葉を発したのは銀色のオートボットだった。

 物足りなげにブレードを収納する彼に、バンブルビーがラジオ音声で話しかける。

 

「『友よ』『遅かったじゃないか……』」

 

 その言葉に銀色の戦士は快活に笑って見せた。

 

「なに、ヒーローは遅れてやってくるもんだろ?」

「『また』『迷子だろう』『知ってるぞ』」

「あ~…… それで? 奴を追うか?」

 

 バンブルビーが呆れたようにオプティックを細めると、銀色の戦士は誤魔化すように話題を変える。だが、妥当なその問に、バンブルビーはその言葉に頷いて返事とする。

 

「それじゃ、俺が行くから、おまえはここの護りを頼む」

「『まっかされよ!』『また』『迷子に』『なるなよ』」

「なんねえよ!」

 

 サイドスワイプの提案に、バンブルビーはラジオ音声で肯定を示した。

 

「あ、あの!」

 

 と、いままで黙っていたユニが声を上げた。気のせいか顔が少し赤い。

 

「あ、アナタの名前は……」

「俺かい? 俺の名は……」

 

 銀色の戦士はクルリとその場で一回転し、ポーズを決めた。

 

「サイドスワイプ! オートボットの戦士、サイドスワイプさ!」

 

  *  *  *

 

 かくして、プラネタワーへのディセプティコンの奇襲作戦はプラネテューヌ側の快勝で終わった。

 では今度は、自然公園で突如勃発したプラネテューヌの諜報員と、ディセプティコンの輸送兵の戦い。

 その顛末を見てゆこう。

 

  *  *  *

 

 眼前の巨大なディセプティコンに斬りかかったアイエフだったが、そのカタールの刃は金属の装甲に虚しく弾かれる。

 だが、これは想定の内だ。

 

「効かないんダナ!」

 

 ロングハウルが腕の斧を振るうが、アイエフはそれをヒラリと躱して見せる。

 思った通り、この大柄なディセプティコンの攻撃は大振りであり、狙いも雑だ。

 アイエフは、駆け出す。

 

「こっちよ! この不細工なズングリムックリ野郎!」

「な…… 言いやがったんダナ! このムシケラ!」

 

 ――そうよ、付いて来なさい。

 

 内心で思いながら、ロングハウルを引き付け、その場を離れる。

 この巨大なトランスフォーマーに、あの場で暴れられるわけにはいかなかった。

 もしミサイルでも撃たれたら目も当てられない。

 避難が完了するまで自分が時間を稼ぐ必要があったのだ。

 

「待つんダナ!」

 

 ロングハウルは地響きを立ててアイエフを追う。

 アイエフは、着かず離れずの距離を保ちながら走って行く。

 バイクに乗る暇はなかったし、乗れたとしても変形されたら追いつかれる可能性がある。逆に距離を取りすぎるとミサイルを使われる可能性がある。

 幸いにも、このズングリとしたディセプティコンは素早いとは言い難い。

 適当なところで街に入り、奴を撒く。綱渡りだがやるしかない。

 親友のグータラ女神だって戦っているのだ。自分だって頑張らなければならない。

 

 ――足には自信がある。あんな奴に追いつかれるものか。

 

 唯一の懸念はミサイルを使われることだが、この至近距離で撃つとは思えなかった。

 

 ロングハウルは激昂していた。

 自分を見失っていると言ってもいい。

 スペースブリッジの暴走に巻き込まれ、有機生命体だらけのこの世界に飛ばされ気が付くと自分一人、味方も敵もいない。

 さらに転送の余波による通信機器の故障のせいで、仲間と合流することもできない。

 途方に暮れるも、とりあえず手近なビークルをスキャンし……忌々しいことに輸送機械だった……有機生命体から身を隠していたとき、ロングハウルは『それ』に出会った。

 芳しい香りと芳醇な味、エネルゴンほどではないが自分の身に活力を与えてくれる。

 

 オイルの一種であった。

 

 それを飲むたび、気分が高揚し下等生物から逃げ回る屈辱が紛れた。

 それを飲んでいる間は気が大きくなり、自分が無敵であると言う自信が生まれる。

 

 人、それを酔っ払いと言う。

 

 今日も朝から、オイル集積所のオイルを盗み、飲んだくれていたのだ。

 そうすると気づけば有機生命体の気配が消えていた。

 これはきっと自分に恐れをなしたに違いない。

 気分の良くなったロングハウルは無人の街をビークルモードで爆走しだした。無敵かつ偉大な自分には当然の権利だ。

 そうして走っていると有機物(木)がたくさん自生している場所を見つけた。

 

 気に食わない。このロングハウル様の領土に有機物など不要だ。

 

 そんなわけで、この不届きな有機物を踏み潰していたところ、姿を消したはずの有機生命体が大量にいた。

 気に食わない、どうしてやろうかと考えていると、その中の二匹が自分に声をかけて来た。

 寛大にもその言葉に答えてやると、自分のことをメガトロンの手下だと言い出した。

 まったくもって苛立たしい。

 いまや自分はメガトロンとは関係ない。

 自分を運び屋扱いするディセプティコンともだ。

 

 そう、ここにはオートボットもディセプティコンもいない。自分こそがボスなのだ。

 

 ……断っておくと、ロングハウルが普段からこんな誇大妄想めいた考えに憑りつかれているわけではない。

 オイルを飲んで、気が無限大に大きくなっているだけである。

 でなければ、ディセプティコンにとって絶対の存在であるメガトロンを侮辱するようなことは絶対に言わない。

 それを口にしてしまうほどに、今のロングハウルは自分を見失っていた。

 そして、そのことが、逃走者アイエフと追跡者ロングハウルの両方にとって不幸な事態を呼ぶことになった。

 

「ちょこまかと、鬱陶しいムシケラなんダナ!」

 

 巨体のディセプティコンはそう叫ぶと、なんとミサイルをアイエフに向け、そして発射した。

 アイエフにとって幸運だったのは、やはりロングハウルが酔っぱらっていたことだ。

 この至近距離にも関わらずミサイルは、アイエフを大きく外れた。

 

「きゃあああ!!」

「どわあああ!!」

 

 それでも、爆風に煽られ、アイエフの体が宙を舞った。

 さらにロングハウル自身も爆風に巻き込まれ、ひっくり返る。

 むしろ彼のほうがアイエフよりも爆発が近かった。

 

 

  *  *  *

 

「は~い、これで大丈夫です~」

 

 コンパは怪我をした子供の治療を終え、ニッコリと微笑む。

 

「これで元気になったですね!」

「うん、じゃあね、お姉ちゃん!」

 

 その女の子は元気よく歩いていった。

 コンパがしたことは、怪我の治療と言うよりは、不安そうな子供を元気づけただけだ。

 しかし、それが今は重要だった。

 周りの人々にとっても、コンパ自身にとっても。

 避難所からさらに避難した先ほどとは別の公園で、コンパは自分にできる限りのことをしていた。

 そうすれば、自分の無力感を誤魔化すことができた。

 

 親友たちが戦っている今は特に。

 

 ネプテューヌも、ネプギアも、そしてアイエフも、みんな自分の大切な親友だ。

 なのに、自分にできるのは、みんなの無事を祈ることだけだ。

 涙が溢れてきそうになる。

 

「だ、ダメです。泣いちゃダメですぅ……」

 

 自分に言い聞かせるが、次から次から涙が出てくる。

 

「お嬢さん、医療に携わるものが、人前で簡単に泣くもんじゃない」

 

 そこに、声が聞こえてきた。

 それは、壮年の男性のものと思しき落ち着いた声だった。

 

「え……?」

「医の道に携わる者は、たとえ何があっても患者の前で不安を見せてはいけない……ごらん」

 

 その声にコンパが顔を上げると、さっきの女の子が不安そうな顔でコンパを見ていた。

 

「お姉ちゃん、大丈夫?」

「あ、はい、大丈夫です!」

 

 コンパは慌てて笑って見せるが、女の子はやはり不安そうだ。

 

「え~と、わ、わたしになにかご用ですか?」

「うん、お母さんがお礼を言ってきなさいって……」

 

 誤魔化すように話題を変えると、女の子は正直に答えてくれた。

 

「あの、それでお姉ちゃん、元気ないみたいだから、心配で……」

「……ありがとうです」

 

 コンパは、ギュっと女の子を抱きしめる。

 

「でも、私は大丈夫です。心配をかけて、ごめんなさいです」

 

 そう言って、静かに女の子を放す。

 

 --そうだ、自分が落ち込んでどうするのだ。こんな小さな子に心配をかけるなんて看護師失格だ。

 

「うん、それじゃああたし行くね、お姉ちゃん、ありがとう!」

 

 女の子は笑顔を浮かべ、今度こそ母のもとへ走って行った。

 それを笑顔で見送り、さっきの壮年の声がしたほうへ振り返る。お礼を言わなくては。

 

「あの、ありがとうございました!」

 

 そこにいたのは、壮年の男性……ではなく、薄いグリーンで塗装されたUSVのレスキュー車だ。

 

「なに、礼には及ばないさ。私は、医者として後進に言葉をかけただけなのだから」

 

 レスキュー車からの声は落ち着いたものだった。

 

「いえ、わたし、色々あってすごく不安で、だから泣いちゃって、そのせいであの子を不安にさせて……」

「そして、あの子を安心させた。それはとても尊いことだよ。自信を持ちなさい」

「は、はいです!」

 

 なんだか、この声を聞いていると気分が落ち着く。きっと歴戦の名医に違いない。そう考えたコンパは、レスキュー車の運転席を見て驚いた。

 

 誰も乗っていない。

 

 そして、思い当たった。

 

「もしかして…… オートボットさんですか?」

「おや、ばれてしまったか」

 

 レスキュー車は呑気に言う。

 だが周囲の人間を混乱させないためか、変形はしない。

 コンパの中に希望が湧いてきた。

 

「あ、あの、オートボットさん!」

「ふむ、なにかな?」

 

 コンパは、イチかバチか頼んでみることにした。

 

「わたしの友達を……助けてくださいです!」

 

  *  *  *

 

「痛ううッ……」

 

 倒れていたアイエフは呻き声を上げて立ち上がろうとする。

 奇跡的に骨は折れていないらしい。

 しかし、その目の前ではロングハウルが何事もなかったかのように起き上がった。

 強固な装甲に包まれた巨体を持つディセプティコンと、鍛えているとはいえ小柄な少女に過ぎないアイエフとでは、ダメージに大きな差があった。

 

「痛たた……。よくも避けてくれたんダナ」

 

 アイエフは、なんとか体を起こそうとするが、うまくいかない。

 なんとか這って逃げようとするが、すぐにロングハウルに追いつかれてしまった。

 

「生意気なムシケラなんダナ!」

 

 自分でミサイルを撃ったことを棚に上げ、緑のディセプティコンはアイエフの小柄な体をつまみ上げる。

 ちょうど、子供が人形を掴み上げるような構図になった。

 

「どうした? 命乞いでもするんダナ!」

 

 相手の生命を文字通り握ったことで気をよくしたのか、そんなことを言ってきた。

 しかし、アイエフは不敵な笑みを浮かべる。

 

「すると思う、このデブメカ野郎!」

 

 諜報員になったときから、死ぬ覚悟はできている。

 ネプテューヌやネプギア、コンパはきっと怒るだろうが。

 

「そうか…… そんなに死にたいんダナ! なら望み通り、潰してやるんダナ!」

 

 ロングハウルは、手の中のアイエフを握り潰そうとする。

 その瞬間、その手首に光弾が突き刺さった。

 

 そう突き刺さったと言う表現が正しい。

 エネルギーで構成された矢のような物が、ロングハウルの強固な装甲を貫通し、内部機構を傷つけていた。

 

「ぎ、ぎゃあああ!」

 

 ロングハウルが絶叫を上げ、アイエフを手から落とす。

 その下に滑り込んできた何者かが、アイエフの体を優しく抱き留めた。

 

「危なかったわね」

 

 それは紫のロボットだった。

 これまでアイエフが見てきたどのトランスフォーマーより小柄で、細身のその身体は、驚くべきことに女性的なラインを描いている。

 

「あ、あなたは!?」

 

 アイエフは思わず声を上げた。

 

「私はアーシー。とりあえず、あなたの味方かしら?」

 

 青いオプティックを細めて微笑んで見せる、アーシーの顔は、やはり女性的な特徴を備えていた。

 アーシーはアイエフを抱きかえたまま、痛みに悶えるロングハウルから離れる。

 

「ぐおお! オートボットのクソアマが! 女の分際で男に逆らう気か!」

 

 ロングハウルは、怒りでオプティックを輝かせながら、アーシーとアイエフを睨みつける。

 

「あら、差別的」

 

 アーシーが冷めた口調で言う。

 

「あたりまえなんダナ! 女なんざ男に媚びるしか能のない生き物なんダナ!」

 

 その言葉にアーシーよりも、むしろアイエフがムッとする。

 

「なによ! 女一人殺せない無能デブが、息巻いてんじゃないわよ!」

 

 アイエフの啖呵に、ロングハウルが比喩でなく頭から湯気を噴き出す。

 

「む、む、無能デブ!? お、おまえ言って良いことと悪いことが……」

「無能が嫌ならガラクタダルマよ!」

 

 アイエフの攻撃ならぬ、口撃に少なからぬダメージを受けるロングハウルに対し、アーシーは快活に笑い、アイエフを優しく降ろす。

 

「アハハ! あなた根性があるわね、気に入ったわ! でも、今は下がっていてちょうだい。ここからは私の仕事よ」

 

 アイエフは素直に頷いた。怪我人の自分は、足手まといにしかならないだろう。

 痛む体を引きずって、手近な建物に身を隠す。

 アーシーはロングハウルと向き合い、左腕に装着した弓矢のような武器、エナジーボウを構える。

 

「さあ、女の子をいじめる悪い子は、おしおきよ!」

 

 アーシーの言葉が終わるより早く、ロングハウルは腕の装甲から斧を展開し、それをアーシーめがけて振るう。

 しかしアーシーは難なくそれを躱し、舞うように動きながらエナジーボウからエネルギーの矢を発射する。

 その矢、エナジーアローは、ロングハウルの装甲に突き刺さる。

 ロングハウルはこれまでにないスピードで斧を何度も振るうが、全てかわされ、かわりに体に突き刺さった矢の数が増えていく。

 

「お、ま、えええええ!!」

 

 ロングハウルは絶叫とともに両腕のミサイルを発射しようとするが、それより早くアーシーが矢をミサイルに撃ちこむ。

 

「ごあああああ!!」

 

 ミサイルに次々と誘爆し、爆炎に包まれるロングハウル。

 

「これでお終いね」

 

 アイエフは、ホッと息を吐き、身を隠していた商店から出ようとする。

 すると、それをアーシーが制した。

 

「まだよ!」

「ぐぐぐ、よくもよくも……」

 

 火と煙の中から、ロングハウルが姿を現した。

 傷だらけだが、致命傷には至っていないらしく、アーシーをギラギラと光るオプティックで睨みつける。

 

「そんな、あれだけやって、まだ動けるだなんて……」

「ホント、嫌になるくらいタフね」

 

 アイエフは、ディセプティコンの強靭さに戦慄するが、アーシーは呆れた様子だ。

 ロングハウルは怒り心頭で吼える。

 

「舐めんな! これからが本当の……」

 

「どいてくれえええ!!」

 

 と、その時どこからともなく絶叫が響いてきた。

 思わず、敵味方問わず叫びの聞こえた方向、上のほうを見ると、なにかが上空から落ちてくるところだった。

 誰かが何か反応するより早く、その怪物体はロングハウルに激突した。

 金属と金属の衝突する轟音があたりに響き、土煙が立ち昇る。

 

「痛いんダナ……。何なんダナいったい? って、ランページ!?」

「ぐおお、じゃからどけと……おお!? ロングハウル!」

 

 ロングハウルの上に落ちてきた物体。

 それはプラネタワーから逃走してきたディセプティコンのランページだった。

 

「おまえさん、どこでなにしとったんじゃ! 心配したぞ!」

 

 喜ばしげな声を上げてランページはロングハウルの上から退く。

 

「あ~…… まあ、それはどうでも良いんダナ。それより、手伝ってほしいんダナ」

 

 ロングハウルはバツの悪そうな顔をしつつ、目線でアーシーを指す。

 ランページは理解したとばかりに頷き、凶暴な笑みを浮かべる。

 ちょうどイライラしていたのだ。

 

「これはちょっとマズイかしら?」

 

 アーシーはそう言いつつもエナジーボウを構え直す。

 と、一台のレスキュー車が、ロボット三体が睨み合う戦場に突っ込んできた。

 

 薄いグリーンのUSVレスキュー車だ。

 

 そのレスキュー車はアーシーのすぐ横に停車する。

 

「ずいぶんと遅い到着ね、お医者さま?」

「なに、少し寄り道をしていてね」

 

 アーシーが、レスキュー車に向かって悪戯っぽく話しかけると、レスキュー車から壮年の男性を思わせる穏やかな声が返ってきた。

 そして、レスキュー車は他の同類たちと同じく、人型ロボットへと変形した。

 薄いグリーンのボディに、穏やかそうな顔立ち。

 

 彼こそはオートボットの軍医ラチェットである。

 

「ラチェット、無事で良かったわ」

「君もな、アーシー」

 

 再会した戦友同士は、微笑み合った。

 ディセプティコンたちは、顔を見合わせる。二人ともすでに結構なダメージを負っているのに対し、オートボット側はほぼ無傷。

 加えて。

 

「実はのう、ロングハウル。ワシ今、オートボットに追われとるんよ」

「へー」

 

 つまり、遠からず3対2になると言うことだ。

 そして、二体は頷き合う。こういうとき取るべき手は一つだ。

 

「本日二度目の、逃げるんじゃよおおお!」

「右に同じなんダナあああ!」

 

 一瞬にしてダンプカーに変形したロングハウルの荷台に、ランページが素早く飛び乗ると、緑の巨大ダンプは凄まじい速さで走り出した。

 

「待ちなさい!」

「いや、やめておこうアーシー」

 

 すぐさまディセプティコンを追おうとするアーシーを、ラチェットが止め、痛む体を引きずりながら、隠れていた商店から出てきたアイエフを指す。

 

「今は、彼女を安全な場所に連れて行くほうが先だ」

「……そうね」

 

 アーシーも、それに頷いた。

 

  *  *  *

 

「あいちゃああん!」

 

 二体のオートボットとアイエフが、避難所となった公園に辿り着くと、そこにはコンパがまっていた。

 彼女はアイエフの姿を認めると全速力で走ってきて、その小柄な体に抱きつく。

 

「心配したですよお!」

「ちょっ、コンパ、痛い! 痛いって!」

 

 しかし、全身傷だらけのアイエフには、今のコンパの抱擁は痛みをもたらすものだった。コンパは慌てて離れる。

 

「ご、ごめんです!」

「痛たた。……でもありがとう、心配してくれて」

 

 アイエフは照れたように微笑み、コンパも笑い返した。

 

「あ、そうです! あの、あいちゃんを助けてくれて、ありがとうございました」

「礼ならアーシーに言ってくれ。君の友達を助けたのは、彼女なんだ」

 

 コンパは、レスキュー車の姿のラチェットに頭を下げた。

 ラチェットは穏やかに言うが、コンパは首を横に振った。

 

「もちろん、アーシーさんにもお礼を言うです。でも、あなたがあいちゃんを助けに行ってくれたのにもお礼が言いたいんです!」

「ふむ」

 

 ラチェットは小さく苦笑するような声を出した。

 

「良い娘ね、あなたのお友達」

 

 アーシーはビークルモードであるバイクの姿でアイエフの傍に近づくと、そう言った。

 

「ええ! 自慢の親友ですもの!」

 

 アイエフは、ニッコリと微笑む。

 

「ふむ、不思議だな……」

 

 いつのまにか近づいてきたラチェットが怪訝な声を出した。

 コンパは少し離れた所でアーシーにお礼を言っている。

 

「君はコンパ君と話をしているときにホルモンバランスの異常がみられるのだが」

 

 ラチェットの言葉にアイエフは猛烈に嫌な予感がした。

 

「それが指し示すことは、つまり君はコンパ君との交尾を望んで……」

「魔界粧・轟炎!」

「熱う!!」

 

 そんな二人を見て、コンパは首を傾げていた。

 

「二人とも何をしてるんでしょうか?」

「あなたは聞かなくてもいいことよ……」

 

 アーシーの聴覚センサーは二人の会話をしっかり捉えていたが、言わないでおいてあげたのだった。

 

  *  *  *

 

 こうして、諜報員と輸送兵の戦いは、オートボットたちの助力によって諜報員の勝利とあいなった。

 そして、残す舞台はメインストリート。

 女神とモンスター、オートボットとディセプティコン、その主力同士がぶつかり合う最も激しい戦場のみである。

 

 だがその前に、ランページを追いかけ姿の見えなくなったサイドスワイプはと言うと……。

 

「ここ、どこだ……」

 

 迷子になっていた。

 




書いていたらなぜか、女神候補生たちの戦いよりもアイエフ関連の話のほうが長くなってしまった。そんな第11話でした。

今回初登場のアーシーは、実写第一作の玩具をもとに、プライムのアーシーを参考にしてキャラ付しています。

また、ロングハウルの使う斧や、ランページの四脚モードも玩具に仕込まれているギミックがもとになっています。

ところで、コンストラクティコンのキャラ付けは、残りのメンバーは自重しようと思っています。

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