超次元ゲイム ネプテューヌ THE TRANSFORMATION   作:投稿参謀

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何か、ホットロッドがラストナイトに出るそうで……。


第99話 ゲイムギョウ界横断特急 part2

 四ヵ国の末永い友好を願って開催された一大レース『ゲイムギョウ界横断特急』に出場した女神とオートボットたち。

 だが優勝賞金目当てに出場したリンダの妨害により、一般出場者に多数の脱落者が出ていた。

 それでも、レースはさらに白熱していく……。

 

  *  *  *

 

 レースは中継地点のルウィー首都を越え、ゴールであるラステイションに向かっていた。

 当然ながら、このレースは数日に渡って行われ、すでに三日目を迎えている。

 ルウィーの街道は舗装された道路ではなく整地されたむき出しの地面で、こうなるとスポーツカーをビークルモードに持つ者は今までのようにはいかない。

 

「くそ! 何で舗装してないんだよ! ケチりやがって!」

「うっせえ! 景観を壊さないためにあえて舗装してねえんだ!! 我が国は伝統を重んじるんだよ!!」

 

 ロードバスターの悪態を耳聡く聞きつけたブランが吼える。

 一方、パワーが自慢のオプティマスとアイアンハイドは、悪路に苦戦する先頭グループに対し猛スピードで迫っていた。

 

「いっけー、オプっちー! これまでの遅れを取り戻すよー!」

「ああ、このまま行けば直に追いつく!」

「アイアンハイド! ネプテューヌに負けるんじゃないわよ!!」

「落ち着けってノワール」

 

 はしゃぐネプテューヌに冷静なオプティマス。

 対抗意識を燃やすノワールと諌めるアイアンハイド。

 ある意味いつもの光景である。

 

『どうやら、選手たちは我がルウィーの大地の洗礼を受けているようです!』

『ああ、レーシングカーやスポーツカーは、本来オフロードを走るようには出来てないからな。こういう場所では、パワーのあるオプティマスやアイアンハイドが優位と言える』

 

 プラネテューヌにいるフィナンシェとシアンは、ヘリからの中継を見て実況解説する。

 

「道がガタガタですぅ!」

「うむ。より安全運転で行こう」

 

 オートボットの中では最後尾にいるラチェットとコンパは、やはりマイペースだった。

 

「こうなったら……ミラージュ、指示する道を進んでちょうだい」

「何?」

「近道するわ。……大丈夫、このルウィーでわたしが知らない道はないわ」

 

 自信満々なブランの言葉に迷ったのも一瞬、ミラージュは指示通り、一団から離れていく。

 

「ロムちゃん、お姉ちゃんが近道しようとしてる! わたしたちも行こう!」

「うん、ラムちゃん。……スキッズ、マッドフラップ、お願い」

『合点!』

 

 それを目ざとく見つけた双子組は、姉と師を追ってコースから外れていった。

 

「ああー! ブランがどっか行こうとしてるー! オプっち、追いかけよう!」

「いや、我々にはルウィーでの土地勘がない。無暗にコースを外れるのは危険だ」

「……うーん、分かったよ」

 

 ネプテューヌも気付いて追跡を提案するが、オプティマスは至極冷静にそれを却下した。

 納得したらしく、ネプテューヌもそれ以上は特に何も言わない。

 

「ブランの奴ぅ、地元だからって勝手なことを!」

「まあ、コースについてはザックリとしか指定されてませんものね」

 

 ノワールは眉根を吊り上げ、ベールは息を吐く。

 やはり女神は負けず嫌いであるらしかった。

 

「くっそう! 俺らもラステイションなら近道できるのに!」

「アンタ、そう言っていつも迷うじゃないの」

 

 一方、サイドスワイプはユニに冷たくツッコまれるのだった。

 

  *  *  *

 

 オプティマスやアイアンハイドが合流し、先頭集団を形成しているオートボットたちだが、そのやや後方では未だ生き残っている一般レーサーたちが走っていた。

 

 その中には、アリスが乗ったサイドウェイズの姿もあった。

 

「サイドウェイズ、あんまりオートボットに近づき過ぎないでね! それでいて賞金もらえるくらいの位置で!」

「無茶言うなあ……む!」

 

 アリスの無茶ぶりに呆れるサイドウェイズだが、急に真面目な雰囲気になる。

 

「サイドウェイズ?」

「……妙な気配がする。気を付けろ」

 

 サイドウェイズの言葉に、アリスも顔を引き締める。

 この元斥候は、呑気な癖にこういう勘はいいのだ。

 

 次の瞬間、すぐ横の地面が爆発した。

 サイドウェイズは爆発の寸前にハンドルを横に切ってかわし、ブレインズがノートパソコンの姿からロボットに戻ってシートベルトにしがみつく。

 アリスの感覚は、空のガラス瓶に油を入れて導火線を付けた所謂火炎瓶が飛来し地面に着弾したのを捉えていた。

 

 続いて、どこからか刺々しく改造された車やバイクが何台も現れレーサーたちを取り囲む。

 

「ヒャッハー! レースだか何だか知らねえが、ここは俺たちメダルマックスの縄張りだぜー!」

「ここを通る奴らは、残らず身ぐるみ剥いでやるぜー!」

 

 鉄バットやら斧やらを振り回し、出場者たちを攻撃してくるならず者たち。

 さすがに今回は銃器の類は持っていないものの、手製らしい火炎瓶やボウガンで攻撃してくる者もいる。

 レーサーたちは自慢のドライビングテクニックでこれを躱すが、徐々に取り囲まれつつあった。

 サイドウェイズの横にも、棘だらけでならず者を満載したオープンカーが走ってくる。

 

「姉ちゃん、俺たちと遊ぼうぜー!」

「お茶しようやー!」

 

 ならず者たちは乗っているのが若く美しい女性であると知るや、下卑た笑みを浮かべる。

 

「馬鹿言わないで」

 

 が、アリスは冷厳と言い捨てるやすかさず手の内に召喚した弓矢で器用に射る。

 暴走車はタイヤを撃ちぬかれ、あっさりと横転した。

 ならず者たちが車から飛び出して地面に落ちるが、死にはしないだろう。ギャグ補正もあるし。

 

「レース中に乱入だなんて、不躾な殿方たちね。……サイドウェイズ! こいつらに礼儀を叩き込んでやるわよ! 弓が届くギリギリの位置をキープして、敵の攻撃はかわしなさい!」

 

 髪をかきあげ、息を吐くとサイドウェイズに指示を出す。

 

「無茶言ってくれる! だが了解!」

 

  *  *  *

 

 先頭を行くオートボットたちにもならず者たちは襲い掛かってきていた。

 

「もう! 何なのよ、コイツら!」

「知らないが、邪魔するなら容赦しないぜ!」

 

 ユニが女神化して車内から飛び出し、サイドスワイプは変形する。

 足がタイヤである彼はスピードを落とすことなく次々と暴走車を切り裂いていく。

 

「オラオラ! 怪我したい奴だけかかって来な!!」

 

 アイアンハイドはその重厚な車体で、ぶつかって来る暴走車を逆に跳ね飛ばしている。

 その背にアーシーが変形しながらアイエフを抱えて飛び乗った。

 

「アイアンハイド! 背中借りるわよ!」

「お、おい!」

「ごめん、後で埋め合わせはするわ!」

 

 アイエフは銃を取り出し、アーシーはエナジーボウを展開して荷台から敵を狙い撃つ。

 

「イヤッハアア! ダンスの時間だぜ!」

 

 ジャズはスポーツカーの姿で走る速度を利用してジャンプと同時にロボットモードに変形。

 クレッセント・キャノンで敵を撃ち、地面に落ちる前にビークルモードに戻って着地、ということを繰り返している。

 

「さあて、もう一踊り行こうぜ、ベール! ……ベール?」

 

 すぐ近くを飛んでいる女神態のベールに声をかけるジャズだが、彼女は首を巡らして後方を見ていた。

 

「今の矢は……そんな、まさか……」

「どうしたんだい、ベール?」

「いいえ、何でもありませんわ。今はこの方々に礼儀を教えてあげましょう」

 

 ビークルモードのままあちこちから火器を展開したバンブルビーは、小型ミサイルで荷台にならず者を乗せたピックアップトラックを破壊する。

 

「『ヒャッハー!』『汚物は消毒だー!』」

「ちょ、それ俺らの台詞……どっひゃあああ!!」

 

 レッカーズのロードバスターとレッドフットは、武装がないながらも幅寄せや体当たりで暴走車やバイクを蹴散らしている。

 

「ああくそ! どうせなら武器を付けてくるんだったぜ!! そうすりゃあ、レースに割り込んでくるクソ野郎どもに地獄を見せてやれたのによ!!」

「おう! ……そう言やあ、トップスピンの奴はどこにいったんだ?」

 

 さらには空を飛ぶ女神たちと、地面を走る車の群れでは明らかに相性が悪い。

 

「ボスゥゥ! やっぱり無理ですってこんなん!」

 

 瞬く間にやられていく仲間たちに、副リーダー格のならず者がリーダーのモヒカンに向かって通信機越しに叫ぶ。

 

「ガガガー! 無理じゃない! こうなったら秘密兵器を見せてやる!」

 

 少し離れた場所から戦況を見ていたモヒカン男は、自身の新たな愛車のエンジンを回転させて、オートボットたちの前に回り込んだ。

 他のならず者たちもコース上に横に広く陣取り、オートボットたちの行く手を阻む。

 

「ガガガー! オプティマス、勇気あるなら俺と勝負しろー!」

 

 彼が乗り込んでいるのは、オプティマスとよく似た黒いトレーラートラック……ビークルモードのネメシス・プライムだった。

 強固な装甲が追加され、さらに全体にメダルマックス流の刺々しい装飾が為されている。

 

「ああもう! 今はレース中なのに空気の読めない人たちね。もう誰も憶えてないようなオリキャラ出すのやめましょうよ!」

「やれやれ」

 

 すでに2、3台の暴走車を片付けたネプテューヌが冷たく言い、オプティマスは溜め息を吐くような音を出す。

 

「ガガガー、どうしたこのチキンがー! かかってこんのかー!」

「一つ聞きたい。そのトラックはどこで手に入れた?」

「ああん? こいつはハイドラのクソ野郎どもが壊滅した時にドサクサ紛れに流出した物を買ったんだ! ローンで!」

「盗んだとかじゃなく、買ったのね。しかもローン」

 

 オプティマスの問いに正直に答えるモヒカンとその内容に、ネプテューヌは何とも言えない気分になる。

 

「当たり前だ! 三時のオヤツを抜いて、コツコツバイトして貯めた金で買ったこのトラック! さらに装甲とスパイクを付けて最強だ!!」

「この顔でティッシュ配りとかコンビニのレジは苦行だったぜー! 子供に泣かれたぜー!」

「新聞配達はルウィーの朝が寒すぎて死にかけたぜー! 薄着はするもんじゃないぜー!」

「いや、もう何て言うか……」

 

 何故かテンションの高いならず者たちに、ネプテューヌは呆れて息を吐く。

 どうも、ネメシス・プライムが人造トランスフォーマーだと気が付いていないようだ。

 

「とにかく、勝負だー! ガガガー!」

「いいだろう」

 

 オプティマスはビークルモードで前に進み出る。

 

「オプっち、こんなのの言うこと聞くことないんじゃあ……」

「いや、さっさと決着を付けたほうがいい。ネプテューヌ、少し離れていてくれ」

「ガガガー! それでこそだ! 行くぞぉおおお!!」

 

 モヒカンの乗ったネメシス・プライムは、最大限エンジンを回転させトップスピードを出して突っ込んでくる。

 オプティマスもまた、アクセル全開で走り出す。

 

「ガガガー! 正面衝突でペッチャンコだ!! プライムペッチャンコ、イエイ!!」

 

 追加した火炎放射機から炎をまき散らし、モヒカン男は爆走する。

 オプティマスは何も言わず、正面から突っ込む。

 二台の距離が近づいていき、そして……。

 

 轟音を立てて正面衝突した。

 

「ば、馬鹿なー!?」

 

 が、吹き飛んだのはネメシス・プライムの方だ。

 グルリと縦に回転してひっくり返る。

 車体前面が無残にへこみ、火炎放射機が無茶苦茶に炎を吐く。

 

「まあ、こうなるよね」

 

 ネプテューヌは当然の結果だとフウと息を吐いた。

 いかな人造トランスフォーマーと言えど、オプティマスと正面からぶつかって勝てるはずもない。

 モヒカン男が運転席から這い出した直後、ネメシス・プライムは爆発を起こして炎上する。

 

 これで、ハイドラの作り出したオプティマスのコピーは残らず破壊されたのだった。

 

「が、がが、ローンで買ったのに……」

「ボス!」

 

 メダルマックスは戦闘を止めてモヒカン男の周りに集まってきた。

 

「く、くそう……」

「もう諦めろ。大人しく出頭するなら悪いようにはしない」

 

 オプティマスが警告するが、ならず者たちは親分の仇を取ろうと殺気立つ。

 モヒカンも諦めてはいないらしく、両手に火球を作り出す。

 

「オプティマス、こうなったら残らずぶちのめして警備兵に突き出そうぜ?」

「同感。本当ならブランの仕事なんだけどね」

 

 いつの間にかロボットモードに変形したアイアンハイドと女神化したノワールが砲と剣を構える。

 心なしか、二人とも楽しそうだ。

 

 それしかないかとオプティマスもロボットモードに変形した時だ。

 

「なんなの、この騒ぎは……?」

 

 件のブランがミラージュと共にやってきた。

 ノワールが首を傾げる。

 

「あれ、ブラン? 近道するんじゃなかったの?」

「……道をトナカイの群れが横切っていて通れなかったの。この時期は群れの大移動があるのを忘れていたわ……」

「自分の国を把握できていないなんて、情けないわね」

 

 呆れた調子のノワールにちょっとムッとするブラン。

 

「まったくよ! お姉ちゃんったら、普段は『ルウィーでわたしに知らないことはないわ(キリッ)』みたいな感じなのに!」

 

 ラムが尻馬に乗ると、ブランはギロリと睨んで黙らせる。

 それから咳払いをしてミラージュから降りる。

 

「それで、どういう状況?」

「あの連中が

 通せんぼ

 すごく邪魔」

「OK、把握したわ」

 

 ネプテューヌが三行で説明したのを受けるや、ブランは女神化して戦斧を召喚する。

 

「つまり、アイツらを全員ぶっとばしゃあいいんだな!」

「レースよりは好みだ」

 

 前に進み出るブランの後ろでミラージュたちも変形し、さらにロムラムも女神化しツインズも戦闘態勢を取る。

 

「お姉ちゃん、わたしたちも手伝うわ!」

「うん、ルウィーで悪いことするなんて許せない……!」

「ヘッ! やっぱりドンパチになるか!」

「いいぜ、顔グッチャグチャにしてやる!」

 

 一方のメダルマックスは何だかざわつきはじめ、動揺しているようだった。

 

「みんな、ルウィーの悪党はわたしたちが片付ける。邪魔するなよ」

「どうぞ、ご自由に」

 

 ブランが好戦的に宣言すると、ベールは頷いた。

 

「どうした? こないならこっちから行くぞ!」

 

 いつまでも動かない、ならず者たちにブランが痺れを切らしそうになった時、メダルマックスの首魁のモヒカン男が前に出た。

 

「う、おおおお!!」

 

 やおらモヒカン男が雄叫びを上げて走り出す。

 ブランは一瞬面食らったものの、戦斧を構える。

 

「おおおおお!!」

 

 だがモヒカン男は走りながら懐から何かを取り出し、それをブランに向かって突き出した。

 

「ブラン様! サインください!!」

 

 ……それはサイン用紙だった。

 

  *  *  *

 

 そのころ、リンダとクランクケースはメダルマックスの襲撃を離れ、レースの中継地点であるルウィーを目指していたのだが……。

 

 彼らはトナカイの群れのど真ん中にいた。

 群れは地平線の彼方から反対の地平線まで長蛇の列が続いている。

 

 追い払っても追い払っても、いつの間にか列をなしている。

 そうこうしている内に気が付けば群れの中で動きが取れなくなっていた。

 

「こりゃ、日が暮れても通れそうにないYO……」

「ちっくしょおおおお!! 何でこうなるんだよおおおおお!!」

 

 絶叫はルウィーの寒空に虚しく溶けたのだった。

 

  *  *  *

 

 ルウィーとラステイションの国境近くの集落。

 

「……はい、書けたわ。次の人、どうぞ」

「はいは~い! ロムちゃんとラムちゃんのサインがほしい人は、こっちに並んでね!」

「……こっちだよ~」

 

 村の広場では、青空の下、ブランとロムラムのサイン会が行われていた。

 メダルマックスがゾロゾロと並んでいる。

 世紀末な無法者が女神のサインを求めて行儀よく列を作っている姿は、とてつもなくシュールだった。

 

「ヒャッハー! ブラン様のサインだぜー!」

「ロム様のサイン、俺、一生大事にする!」

「馬鹿野郎! そこは末代までの家宝だろうが!」

 

 全員してルウィーの女神にサインをもらって嬉しそうな、ならず者(?)たち。

 良心や理性は母の胎に置いて来たと自称する彼らだが、信仰心はしっかり持っていたらしい。

 自首する代わりに、という条件を飲むのだから相当だ。

 

「ほっほっほ、やはり女神はルウィーのブラン様たちに限るのお」

「おお、爺さん! 分かってるねえ!」

「ぶ、ブラン様、こ、こっちにもサインを……」

 

 何処から現れたのか、列には関係のない普通のルウィー信者まで混じっている。

 ラチェットとコンパ、ジョルトは負傷者の手当てに辺り、アイエフとアーシーもその手伝いをしていた。

 

 和気藹々としているルウィーの皆さんや張り切って仕事をしている医療班に対し、他の女神たちやオートボットたちは何とも言えない顔をする他ないのだった。

 

「あれ? そう言えばベールは?」

「さあ、確かめたいことがあるって走ってったけど?」

 

 と、緑の女神の姿がないことにネプテューヌが気付いたがノワールは肩をすくめるだけだった。

 ネプテューヌの脇に立つオプティマスはチラリと民家の壁に寄りかかったジャズを見たが、ジャズは曖昧に笑むのみだった。

 

  *  *  *

 

 集落の端には、レースに参加してる車が一緒くたに停められていた。

 その内の一台、黒いスポーツカー……サイドウェイズにアリスが荷物を積み込んでいる。

 

「さあ、レースはお終い! とっとと引き上げるわよ!」

「へいへい」

「もうちょっとノンビリしてこうや」

「ダメ!」

 

 もうこれ以上、レースを続けるのは危険だ。

 知り合い……どちらの側にせよ……見つかる前に去らなければ。

 

 しかし……。

 

「あの、すいません……」

 

 ビクリと、後ろから聞こえた声にアリスは硬直した。

 一番聞きたいような、それでいて聞きたくないような、そんな声だった。

 

「ひょっとして、アリスちゃん……?」

「ッ! ベ……」

 

 ベール姉さんと言いかけて、グッと飲み込む。

 

「……人違いじゃありませんか? 私はしがないただの旅人ですよ」

 

 サイドウェイズのフロントガラスに息を飲むベールの姿が写った。

 それから、アリスの無理にツンと澄ました顔も。

 

「……そう、ですか」

 

 ベールは悲しそうに目を伏せたが、意を決したように顔を上げた。

 

「……それなら、旅人さん? 少しだけ、お願いしてもよろしいでしょうか?」

「………………お好きにどうぞ」

「もし、もしも、旅先でアリスと言う女の子に会うことがあったなら、どうか伝えてください」

 

 鏡像越しにベールが真っ直ぐこちらを見ていることに、アリスは気が付いていた。

 自らが本気であることを示す、彼女のちょっとした癖のような物だ。

 

「あなたが辛いのは分かっています……などとはとても言えませんが、それでも、わたくしはあなたの力になりたい。あなたと、もう一度笑い合える日が来ることを、願っていると。……いいえ、これはお為ごかしですわね。もっと単純に、あなたに会いたい、と」

 

 アリスはしばらく黙っていたが、やがて声を絞り出した。

 

「……はい、必ず伝えます」

 

 静かに、ただ静かに、アリスは返事をした。

 

「確かに、お願いしました。……では、ごきげんよう」

 

 ベールは、深く頭を下げてから去って行った。

 決して、振り返ることはなかった。

 

 やがて駐車場には少女の嗚咽が響くのだった……。

 

  *  *  *

 

『この愚か者めが!!』

 

 所かわって、ルウィー某所のディセプティコン臨時基地。

 ホログラムのメガトロンが、ドレッズとリンダ、ワレチューに向かって怒鳴っていた。

 

『この大事な時に、勝手に動きおって!! オートボットに我らの動きを勘付かれたらどうする気だ!!』

 

 その怒りの内容は、オートボットに進めている計画が漏れる可能性が生じる行動を犯したという、一点に尽きた。

 ドレッズは無論だが、リンダも小さくなって震えていた。

 

「も、申し訳ありません! た、ただアタイはメガトロン様のお役に立てればと……」

『問答無用! クランクケース、貴様らが付いていながら、何と言う醜態だ!!』

「……責任は全て、チームリーダーの私にあります。他の二人とリンダちゃんには、なにとぞ寛大なご処置を……」

 

 クランクケースは何とか平静を保ちながら、主君に願い出る。

 

「ば、馬鹿言うなクランクケース! 全部アタイが悪いんです! どうか罰ならアタイだけに……」

「さすがに連帯責任だろう。……止めなかった俺らも悪い」

「ガウガウ!!」

 

 庇い合うドレッズとリンダに、メガトロンの視線が剣呑さを増していく。

 

『よかろう! そこまで言うなら貴様ら四人、まとめて降格処分と……』

『お待ちを、メガトロン様』

 

 平身低頭するクランクケースやリンダに向かって、処罰を与えようとしたメガトロンだが、そこで横からレイが割り込んだ。

 

『ドレッズの皆さんは優秀かつ忠実な兵士、加えてリンダさんの忠誠心はメガトロン様もご存知のはず。メガトロン様に断りなく行動したことは問題ですが……今回は少し功を焦り過ぎたのでしょう』

 

 穏やかなレイの言葉が、しかし遠回しにではあるが自分を咎める物であることを察し、リンダは深く項垂れる。

 

『そうは言うがな。時期が時期だ』

『しかしこの時期だからこそ、人手は……それも忠実な人手はあって困ることはありません。ここはどうか……私の知る偉大な統治者は、皆寛大でした。もちろん、メガトロン様はその誰よりも偉大ですが』

 

 メガトロンは恐ろしい沈黙の後、ハンと排気した。

 

『よかろう。……とっとと基地に帰ってこい。貴様らにもやることは山とあるのだからな』

『リンダさん、早く帰ってきてくださいね』

 

 その言葉を最後に通信は一方的に切れる。

 

「ああ……なんて言うか、お咎めナシで良かったっちゅね……」

 

 ここまで黙っていた……ついでに話題にも上らなかった……ワレチューが努めて呑気な声を出した瞬間、リンダは自分の拳を床に叩き付けた。

 

「何やってんだアタイは! 勝手に動いて、姐さんやみんなに迷惑かけて……!!」

「り、リンダちゃん……そんなに気を落とさないで……」

 

 何とか慰めようとするクランクケースだったが、リンダは床を殴るのを止めようとはしなかった……。

 

  *  *  *

 

 さて、レースの方がどうなったかと言うと……。

 

「ゲイムギョウ界横断特急! 一位でゴールしたのは……レッカーズのトップスピンです!!」

「………………」

 

 まさかのレッカーズのトップスピンが優勝だった。

 皆がメダルマックスに手間取っている間に、いつの間にかゴールしていたのだ。

 表彰台の上でトロフィーを掲げる彼に、マスコミがインタビューを試みる。

 

「おめでとうございます! トップスピンさん、この喜びを誰に伝えたいですか?」

「………………」

「勝利の決め手となったのは、何だと思いますか?」

「………………」

「し、賞金は何に使いますか?」

「………………」

「あ、あのぉ、何か一言、一言だけ! お願いします! 何でもしますから!」

「………………」

 

 頑ななまでに喋らないトップスピンに、インタビュアーは涙目になってしまうのだった。

 

 この後、意外にも賞金はほとんどの額がオートボットとディセプティコンの戦いで破壊された町の復興資金として寄付されたのだが……。

 

 同時に結構な額が、兵器の開発資金とオイル代に消えたのだった。

 




そげなワケでレース回……の皮を被った『ベールとアリスの一時の再会』『リンダ焦る』のお膳立ての回。

……メダルマックスは余計だったと自分でも思います。

次にこの章のエピローグ的な話を入れて、次章に入ります。

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