超次元ゲイム ネプテューヌ THE TRANSFORMATION   作:投稿参謀

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今回語るべきことは、あとがきにて。


第95話 いつか希望を継ぐ者

「お~い、ぴーこー! どこ~?」

 

 何処かに行ってしまったピーシェを探して、ネプテューヌは密林を歩いていた。

 

「ぴーこー! いないならいないって返事してよー!」

 

 無論、返事はない。

 いったい誰が「いない」なんて返すと言うのか。

 

「いないよー!」

「うん、いないんだ……って、そんなワケないでしょ」

 

 ノリツッコミをしつつ、声のした方へと向かうネプテューヌ。

 案の定、ピーシェはホィーリーを伴って、木の陰から現れた。

 

「見つけたー! もう、ぴーこ! 離れちゃダメでしょー!」

「ねぷてぬー! みてみてー!」

「もう、ぴーこ! 話を聞いて……って、ええぇぇえええッ!?」

 

 駆けてくるピーシェを叱るネプテューヌだったが、その姿を見て仰天する。

 

 ピーシェのお腹が大きく膨らんでいるのだ。

 

「うええええ!? どうしたのぴーこ!! そのお腹ぁぁああ!!」

「これ? あかちゃ!」

「あ、赤ちゃんんん!? そ、そんないくらアブノーマルな性癖を持つ作者だからって、幼女を妊娠させるだなんてぇええ! 相手は誰ぇええええ!?」

「いや落ち着けって。んなワケねえだろ。いくらなんでも数分でこんなんなるかよ」

 

 取り乱すネプテューヌに、ギゴガゴとラジコントラックから変形したホィーリーが冷ややかなツッコミを入れる。

 

「ほれピーシェ、見せてやんな」

「うん!」

 

 ホィーリーに言われて、ピーシェは子供服の前を開けて、中から何かを取り出す。

 

 それは、サッカーボールほどの大きさの、半透明な青い球体だった。

 内部は淡く光る液体が満たされ、その中で『何か』が体を丸めている。

 

「はい、ねぷてぬ!」

 

 ニコニコと笑うピーシェに差し出され、その球体を受け取るネプテューヌ。

 球体は手に持つと不思議と温かく、内部で丸くなっている『何か』がモゾモゾと動いているのが分かる。

 

「これって……卵?」

「ああ、トランスフォーマーの卵さ……」

 

 ホィーリーは、自分でも信じられないという風に言った。

 珍しく真剣な様子だ。

 

「トランスフォーマーの……でも、何でこんな所に?」

「俺が聞きたいよ。さっき歩いてたら、どっからか転がって来たんだ」

「そんなオムスビじゃないんだから……」

 

 肩をすくめるホィーリーに、ネプテューヌは戸惑った声を出す。

 一方、ことの重大さをよく分かってないピーシェは無邪気に笑う。

 

「ねぷてぬ! あかちゃ、おうちにつれてこ! ぴぃがおねえちゃんになる!」

「う~ん……そうだね。ここに置いてくのもあんまりだし、これも何かの縁!」

 

 ピーシェの提案に、ネプテューヌは少し考えてから承諾する。

 どの道、捨ててくなんて選択肢はない。

 掌に伝わる温もりと小さな鼓動は、命の重さを感じさせた。

 

 その時だ。

 

 ネプテューヌたちの上に影が差した。

 ハッと見上げれば、そこには大きな翼と二本の角を持つ女性が、空から舞い降りてくる所だった。

 

「レイさん……」

「おばちゃん?」

「卵を探しに来てみれば、まさかアンタが拾っていたとはね」

 

 頭上にハテナを浮かべているピーシェと、ついでにその後ろに隠れたホィーリーを後ろに庇ったネプテューヌの前に、レイは着地して女神化を解く。

 

 しばし、女神二人は対面したまま黙っていた。

 

 最初に口を開いたのは、やはりと言うかネプテューヌだった。

 『探しに来た』というフレーズを聞いて彼女の頭の中で、状況がカッチリと整理された。

 

「そうか、この卵が、あなたの言ってた『子供たち』なんだね」

「………………ええそうですよ。あの人が守ろうとしている、オールスパークが産み落とした最後の子供たち。先に三人ほど孵っています」

「あの人……メガトロンのことだね」

「はい」

 

 静かに、ただ静かに、二人は事実の確認をする。

 ピーシェはよく分かっていないらしく、小首を傾げている。

 

「えっと? おばちゃんは、このこのママなの?」

 

 フッと、レイは笑顔を作った。

 

「ええ。その子は私の大切な子供なの」

「じゃあ、かえしてあげないと! ねぷてぬ!」

 

 幼い正義感を発揮したピーシェは、ネプテューヌの裾を引いてレイに向かっていく。

 ネプテューヌはされるがままだ。

 

「えっと、はい」

 

 ネプテューヌは卵を差し出した。

 だが、レイは柔らかく微笑むと、卵を軽くネプテューヌの方へ押し返した。

 

「え……?」

「これも何かの縁。ネプテューヌさん、この子はあなたに預けます」

 

 その言葉に、ネプテューヌは目を丸くしてから慌てて反論しようとするが、それより早くレイに口に人差し指を当てられた。

 

「ネプテューヌさん、私は『あなたは』子供たちを傷つけないと信じてみます。……でも、『オートボットが』子供たちを駆除しないとは、まだ信じきれないんです」

 

 つまりそれは、この子を育てることで、オートボットが子供たちを……ディセプティコンの子供を受け入れると証明して見せろと言うことか。

 

「母親としてどうか、って言うのは分かってますけどね。でも私は、出来ることなら子供たちに平和な未来を生きてほしいんです」

「レイさん……オプっちたちに子供たちのことを言えば、きっと考えてくれるよ! メガトロンだって戦いを止めてくれるかもしれない!!」

 

 必死なネプテューヌに、レイは困った顔になる。

 

「オートボットとディセプティコンの対立は、あなたが思うより根が深いですよ? それにあの人は、私以上に頑固ですし、子供たちだけが戦う理由じゃありませんから」

「…………私は、ディセプティコンが皆を傷つけるなら、全力で戦うよ」

 

 ネプテューヌは平和のために武力を捨てる無抵抗主義者ではない。

 暴力には、侵略には、断固として抵抗するだろう。

 それはレイにも分かっていた。

 

「どうしても、止められない?」

「ええ。……いつかも言ったでしょう?」

 

 フワリと、レイは空中に浮かび上がる。

 どうやら、女神化しなくてもある程度飛べるようだ。

 

「あなたがオプティマスを選んだように、私はメガトロン様を選んだ。

 

 …………私が選んだ私のヒーローは、あの人なんです。

 

 だから、あの人のために全力を尽くすのが、私のこれからの生き方」

 

 ネプテューヌはレイに向かって手を伸ばす。

 

「レイさん!」

「そうそう、子供には名前を付けてあげてくださいね。DQNネームとかキラキラネームだと、怒りますよ。名前は大事ですから」

 

 そして、光を纏ってレイは女神の姿へと変わる。

 

「また会いましょう、ネプテューヌ。…………おそらく次も、敵として!」

 

 突風と雷鳴が巻き起こり、たまらずネプテューヌが顔を逸らす。

 ゆっくり目を開くと、すでにレイの姿は無かった。

 

 いつの間にか晴れた空を見上げ、ネプテューヌは残された卵をギュッと抱きしめる。

 その横では状況が全く飲み込めていないピーシェが、アッケラカンと呆けていた。

 

「ほえ~? おばちゃん、どこいっちゃったの?」

「レイさんは帰ったんだよ。家族のトコへ」

 

 彼女を待つ子供たちの下へ。

 ディセプティコンの……メガトロンの傍へ。

 

  *  *  *

 

「ネプテューヌ! 帰りが遅いから、そろそろ探しに行こうかと……!? それは!」

 

 ネプテューヌたちを出迎えたオプティマスは、彼女が腕に抱えた卵を見て驚愕する。

 

「トランスフォーマーの卵……! なぜ、それがここに!?」

「オプっち、ごめん。何も言わずに、この子を連れて帰るのを許してくれないかな?」

 

 彼女らしくない酷く緊張した、それでいて決断的な表情だ。

 

「黙って、とは穏やかではないな」

「うん、ごめん。いつかちゃんと話すから」

 

 少しの間、オプティマスとネプテューヌは見つめ合っていた。

 

 やがて、オプティマスが根負けしたように表情を柔らかくして排気した。

 

「分かったよ。だが、いつかは必ず話してくれ」

「もちろん」

 

 柔らかく笑み合う二人。

 

「なになに! どうしたのよ?」

「二人とも戻ったのね」

 

 と、ネプテューヌたちが戻って来たのを察知したアブネスとアノネデスが歩いてきた。

 アブネスは目ざとくネプテューヌの抱えた卵を見とめる。

 

「ん? 何よ、そのビーチボールみたいなの」

「ああもう、面倒臭いのが来た!」

 

 トランスフォーマー嫌いのアブネスのこと、卵に何をするか分からない。

 そう考えたネプテューヌは、卵をアブネスから遠ざけようとする。

 

「何よ! 見せなさいよ!」

 

 それに気が付いたのか、あるいはいつものことか、不機嫌そうな顔でネプテューヌから卵を引っ手繰ろうと手を伸ばす。

 

「ダメー! これは大切な物なんだからね!!」

「取材拒否する気! 権力者の横暴よ、権力の不当な行使よ!!」

 

 半ば飛びかかるようにネプテューヌに組み付くアブネス。

 

「ちょ、ちょっと! 危ないじゃない……アッ!」

 

 その拍子に、ネプテューヌの手から卵が落ちる。

 

「だめぇぇええ!!」

「おっと!」

 

 だが地面にぶつかる前に、オプティマスが両手で優しく卵を受け止めた。

 

「危なかった……おや?」

 

 ホッと息を吐いたオプティマスだったが、その手の中で卵がモゾモゾと動きだし、表面にピシリとヒビが入った。

 

「え、ひょっとして!」

「あかちゃ! うまれるの?」

「赤ちゃん!? どう言うことよ、幼女女神!」

「あらあら……」

 

 騒ぐ一同の前でオプティマスが両手を降ろすと、卵のヒビは広がっていき、そして……。

 

 卵の殻を破って、トランスフォーマーの雛が頭を出した。

 

 赤とオレンジの鮮やかな体色が、燃え盛る炎を連想させる。眼の色は、透き通るような青だ。

 生まれたてで未熟でありながら、その姿は一種の美しさを備えていた。

 

「生まれた……!」

 

 自然と、感極まったネプテューヌの口から言葉が漏れた。それに答えるように、雛はキュウと鳴くと首を傾げる。

 

「わ~い! あかちゃ、あかちゃ! ぴぃのおとうとだよ!」

「こりゃあ…………」

 

 ピーシェは無邪気にはしゃぎ、ホィーリーは難しい顔で黙り込んでいた。

 

「ねえ、アブちゃん」

「………………はえ?」

 

 一方、アノネデスは冷静な様子で、状況を飲み込め切れずにポカンとしているアブネスに声をかける。

 

「あの子も、トランスフォーマーみたいだけど、あの子も嫌い?」

「んなワケないでしょ! 罪を憎んで幼年幼女を憎まず! 子供に貴賤はないわ!」

「即答ね。アブちゃんのそういうブレないとこ、結構好きよ」

 

 オプティマスは、手の上でパタパタと手足を動かして体に付いたエネルゴン溶液を払っている雛を只々見つめている。

 命の重みを、(スパーク)に刻みつけようとしているかのようだった。

 

 ネプテューヌは女神らしい、優しい笑みを浮かべる。

 

「ねえ、オプっち、その子に触ってもいい?」

「ん? ああ、大丈夫だ」

 

 差し出された雛をネプテューヌはそっと抱き上げる。

 雛はネプテューヌの顔をジッと見つめていたが、やがて顔を摺り寄せた。

 

「ああ、ぴぃもぴぃも!」

 

 それを羨ましく思ったのか、ピーシェもネプテューヌと雛に飛び付く。

 

「うわ、っちょ! 二人は無理……あわわ!」

 

 さすがに支えきれず、ネプテューヌは雛とピーシェごと後ろに倒れた。

 

「ネプテューヌ、大丈夫か!」

「こら幼女女神! 幼年幼女が怪我したらどうすんのよ!」

「アブちゃん……本っ当にブレないわねえ……」

「あいたた……うん、わたしはダイジョブ」

 

 騒ぐ三人を余所に、ネプテューヌは後頭部を摩りながら上体を起こす。

 

「こらぴーこ! 危ないでしょ!」

「えへへ」

 

 怒られてもピーシェは無邪気に笑い、雛は同調してキュルキュルと鳴く。

 その様子にネプテューヌは毒気を抜かれて、それから子供たちを抱きしめた。

 

 トクントクンと小さな鼓動が二つ、伝わってくる。

 

「ねぷてぬ?」

「あったかいなあ。それに重いや」

 

 有機と金属の違いはあれど、幼い命は等しく尊かった。

 

「ねえ、オプっち、私がこの子に名前を付けていいかな?」

「ん? ああ、構わないが、何と付ける?」

 

 問われて、ネプテューヌは少し考える。

 

 そして思い出した。

 

 プラネテューヌに昔から伝わる、おとぎ話。

 

 星を喰らう邪神を倒した英雄の話。

 

 何時とも何処とも知れぬ国の言葉で『希望を継ぐ者』を意味する、彼の名は……。

 

「ロディマス」

 

 雛の目を覗き込み、ネプテューヌは、その名を紡ぐ。

 

「君の名前はロディマス。希望を継ぐ者、ロディマスだ!」

 

 

 

 

~中編 Rei Kiseijou is Dead(キセイジョウ・レイの死)~

 

 





いつから卵から孵るのがディセプティコンだけだと錯覚していた?

オールスパークが最後に残した子供たちがディセプティコンだけだなんて、おかしいじゃあないですか(ゲス顔)

はい、すいません。

いつだったか書いた嘘予告で、未来から来たトランスフォーマーの内、ロディマスだけ出自がハッキリしないのも、ガルバトロンと幼名で呼び合う仲なのも、このための布石です。
初期構想から、ロディマスとガルバトロンが兄弟になるのは決まっていました。
サイクロナスとスカージを兄弟にするか、あるいはロディマスを次兄にするか四男にするかは、迷いましたけど。

ちなみに、ネプテューヌの言う『おとぎ話』は、こういう話がゲイムギョウ界にある、と言う程度で、ロディマスの名に『意味』を持たせるための独自設定です。
もちろんロディマスには本来、そんな意味は有りません。(でも、ロディマスはホット『ロッド』がオプティ『マス』を継いだから『ロディマス』なので、そこまで間違ってないと勝手に思ってたりします)

ちょっと語りますと、実は作者が最初に見たトランスフォーマーは、実写でもビーストでもG1でもなく、ザ・ムービーでして。
多分、親がレンタルビデオ店で借りて来てくれたんでしょう。
当時G1のカオスを知らなかった自分は、エライハードなロボアニメだと思ったもんです。
そんなワケで、作者にとって、ロディマスやガルバトロンたちザ・ムービー初登場組は、思い入れもひとしおです。

さて次回は、後始末的な話。
(この章は)もう少しだけ続くんじゃよ?

では。

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