超次元ゲイム ネプテューヌ THE TRANSFORMATION   作:投稿参謀

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時間かかったのに短いです。(いつものこと)


第94話 ハイドラヘッドの敗北

 降臨したレイジング・メガトロンがハイドラヘッドと一体化した空中戦艦と戦っているころのこと。

 

 戦いを避けて息を潜めていたオプティマスは、冷静に脱出を選択した。

 

 助け出すはずだったレイやマジェコンヌが、メガトロンと共にある以上、ここに止まる意味は無い。

 ネプテューヌを伴い、彼女がアノネデスから聞いた脱出路を進む。

 脱出路は、オプティマスの巨体が楽々通れるほどの広さの地下通路だった。恐らくロックダウンがいざと言う時のために用意しておいたのだろう。

 

『平和のためだ』

『…………平和? 言うに事欠いて平和だと?』

 

 と、オプティマスのブレインに通信が飛んできた。

 どうもオープンチャンネルで流されているようだ。

 

『そうだ。圧倒的な支配によってこそ、絶対の平和が訪れる』

『……ハッ! ようするに支配したいのだろう! 美麗字句で飾るなよ!』

『支配欲を否定はせん。なればこそ支配によって平和をもたらすことが支配者の義務』

 

 それは、ダークスパークが齎したのだろう力によって戦艦やネメシス・プライムと一体化したハイドラヘッド。

 

『そこには、差別も、迫害も、戦争もありはしない。……精々、俺が恨まれる程度だ』

 

 そしてオプティマスに取って決して間違えることのない、宿敵メガトロンの声だ。

 

 

『オプティマスと言い、貴様と言い……この、偽善者どもが!! 素直に殺し合いたいと言えばいいだろうが!! 平和をもたらしたいのなら、何故戦う!!』

『信じているからだ。戦いの先には、必ず平和な世界が存在すると。そして平和は……それまでに積み重なった死と破壊よりも、遥かに素晴らしいものであると。……オプティマスもな』

 

 ピクリと、オプティマスの顔が強張る。

 

『何!?』

『オプティマスの奴は、自由は全ての生命の権利などと、なまっちょろい事を言っているがな。しかし奴はそれに生命と魂を懸けている! 自由な世界は守るに値すると信じて戦っておるのよ!! だからこそ奴が、奴だけが、この俺の宿敵なのだ! 俺が奴にとってそうであるようにな!!』

「………………」

 

 ふと、オプティマスは思う。

 自分は心の何処かで、メガトロンに、ディセプティコンに、悪しき存在であってほしいと考えてはいなかっただろうか?

 永い永い戦いの中で、メガトロンにも信念がある可能性を無視しようとはしていなかっただろうか?

 

 …………だとしても。

 

 メガトロンの言う支配による平和な世界では、個人の自由が封殺され、そこに至るまでに果てしない屍の山が築かれるだろう。

 自分には、それがどうしても受け入れ難い。

 

 自由な世界に生きる恋人を得てからはさらに。

 

 やはり、相いれないのか……。

 

「オプっち、見て!!」

 

 一人黙考しながら進むオプティマスだったが、ネプテューヌの声に思考の海から戻される。

 見れば、通路の先に光が見えた。出口だ。

 

  *  *  *

 

 地上に出てみれば、そこは基地から少し離れた樹海の中だった。

 空は暗雲に包まれ雷がなっている。

 遠くには、フージ火山が鎮座していた。

 

 出口の近くには、トレイン教授以下発掘隊の面々が待機していた。

 ネプテューヌたちの姿を見とめるや、その中からピーシェとアブネスが駆けてくる。

 

「ねぷてぬ!」

「ぴーこ! 大丈夫だった?」

「遅いわよ、あなたたち!! 早いところ幼女たちを逃がさないと……あれ、レイは?」

 

 抱き合うネプテューヌとピーシェだが、アブネスは怒鳴っている途中で、レイの姿がないことに気付く。

 オプティマスが口を開こうとした瞬間、フージ火山の山頂が突然爆発した。

 雲を焦がすほどの火柱と、ここまで聞こえてくる凄まじい爆発音。まるで噴火だ。

 全員が、それを茫然と見上げた。

 

「……話は後だ。とにかく、ここを離れよう」

 

 最初に正気に戻ったオプティマスの言葉に、さしものアブネスも黙って従った。

 

  *  *  *

 

「それで……レイはどうしたのよ? 迎えに行ったんでしょう」

 

 しばらく歩いてから、再度アブネスが問う。

 オプティマスは口重るネプテューヌに変わって厳かに答えた。

 

「彼女は、ディセプティコンと合流した。ディセプティコンの仲間だったのだ」

「はあ!? 何よそれ! そんなワケないでしょう!!」

 

 怒髪天を突かんばかりのアブネスに、オプティマスは冷静に語る。

 

「しかし、事実だ。彼女がメガトロンと共にいるのを見た」

「嘘言うんじゃないわよ!!」

「アブちゃん、落ち着きなさい」

 

 それでも怒り収まらぬアブネスをアノネデスが制しつつ、オプティマスを見上げる。

 オプティマスは、メカスーツの奥から懐疑的な視線を感じた気がした。

 そこでネプテューヌが声を出した。

 

「本当だよ。レイさんは……ずっとディセプティコンの仲間だったんだ。いつからか、何でかは分からない。でも、あの人は……メガトロンと一緒に行っちゃった」

「あなたまで馬鹿なこと言い出さないでよ! 何の証拠があって……」

「アブちゃん。ネプちゃんが嘘言うような子じゃないのは、あなたも分かってるでしょう?」

「ッ!」

 

 まだ何か言おうとするアブネスだったが、アノネデスに肩を掴まれてようやく黙る。

 グッと唇を噛みしめるその顔は、強い怒りと悲しみを無理やり抑え込んでいるようだった。

 ネプテューヌが何か言おうとした瞬間、銃声が響いた。

 

 全員がそちらを向くと、そこには全身が傷だらけで衣服もボロボロな、少年と言っていい年若さの男が立っていた。

 息は荒く、流れる血とオイルが痛々しい。

 だが目はギラギラと光っていた。

 

「は、ハイドラヘッド……!」

 

 そう誰かが言った。

 ボロボロの男は、クローン兵の指揮官だったハイドラヘッド、その成れの果てだった。

 撃墜された空中戦艦から間一髪、脱出した彼は、すでに死に体の身を引きずってここまでやって来たのだ。

 

「貴様……」

「オプティマス……私を殺せ。もはや、私の望みはそれだけだ……」

「……何だと?」

「ダークスパークが離れた今、私の命は長くはない。……しかし、野垂れ死には嫌だ。君に殺されたいんだ」

「な!? そんなヤンデレじゃあるまいし!!」

 

 素っ頓狂な声を上げるネプテューヌだが、それもやむなし。

 ハイドラヘッドの言っていることは常軌を逸している。

 当人は、ニィッと歪んだ笑みを浮かべた。

 

「私は戦うために生まれた。だから戦いに死にたかったが、今となってはそれも叶わない。……この上は、敬愛すべき戦士の手にかかって死ぬのみ」

「無論、断る。私にその権限はない」

 

 バッサリと、オプティマスは言い切った。

 オートボット総司令官として、オートボットが人間を殺した前例を作るワケにはいかない。

 

「ふ、フフフ、やはりそう来るか……ならば仕方がない」

 

 言うや、ハイドラヘッドは自分の顎に銃口を当て、引き金に指をかける。

 

「なッ!?」

「せめて、私のことを憶えておいてくれ。さらばだ」

 

 そして銃声が轟いた……。

 

 だが、銃弾はハイドラヘッドの頭を砕くことなく、明後日の方向へ飛んでいった。

 

 瞬間的に女神化してハイドラヘッドに飛びかかったネプテューヌが、彼の腕を掴んで銃口を逸らしたからだ。

 

「な、何を!?」

「何を、ですって? それはこっちの台詞よ!!」

 

 目を限界まで吊り上げ、ネプテューヌはハイドラヘッドを放さないまま怒声を上げる。

 

「あなたには今までの罪を生きて償ってもらうわ! ……逃げるなんて許さない!」

「貴様は……私から最後の救いまで奪う気か! 傲慢な女神め!!」

 

 ハイドラヘッドは傷ついた肉体に残った力を振り絞ってネプテューヌを払いのけようとするが、ビクともしない。

 

「救い、ですって?」

「私は戦うために生まれてきた! なのに、戦って死ぬことも出来ないなんて、そんなの最低のジョークじゃないか!!」

 

 涙を流しながら、ハイドラヘッドは慟哭する。

 与えられるはずだった救いを拒んで戦争を選んだのに、それも出来ないのなら……。

 

「私の、私の選択にも命にも意味などなかった! 死なせてくれ……頼む……」

 

 一人で死ぬことも出来ない卑怯と臆病は分かっている。

 それでも、もう命を絶つことでしか、自分の存在を他人の中に残せない。

 

 ネプテューヌは諦めたように、少しだけ力を緩め……そしてハイドラヘッドの体をきつく抱きしめた。

 

「……ッ!?」

「意味がないですって!? ……それなら、私が意味をあげる。……もう戦わなくていいの。あなたは、幸せになっていいの」

 

 ハイドラヘッドは硬直する。

 身体にネプテューヌの温もりを感じて、心の中の怒り、憎しみ、悲しみ、絶望が癒されていくのを感じる。

 理屈ではなく、心身が楽になっていく。

 

「は、ハハハ……意味をあげる、だって? 本当に傲慢だなぁ……」

「女神だもの。これぐらいの思いあがりは許されるわ。……多分ね」

「はは、ハハハハ……畜生……私の……負けだ………」

 

 ハイドラヘッド……そう呼ばれていたクローンは、手から銃を取り落として子供のように泣きじゃくる。

 ネプテューヌは慈愛に満ちた笑顔で、彼の頭を撫でてやるのだった。

 

 オプティマスの横にいたトレイン教授は、小さく呟いた。

 

「愛を知らぬ者に愛を与える……」

「……それは?」

「昔の学者が女神の存在意義について考えた仮説です。ふと思い出しまして。女神が女性であるのは、『母』として人間に無償の愛を与えるためだと。だから全ての人間は、どれだけ孤独でも女神の愛を得ているのだと」

「…………」

 

 改めてネプテューヌを見やるオプティマスの顔には複雑な表情が浮かんでいた。

 

  *  *  *

 

 ハイドラヘッドは無抵抗で拘束された。

 もはや、彼は戦争を求める兵士ではなく、やっと安らかに眠ることを憶えた少年だった。

 

「さて、後は家に帰るだけだね」

「ああ、どうやらその心配もなさそうだ。プラネテューヌの調査隊から通信があった。近くに来ているそうだ」

 

 オプティマスは厳かに人間態に戻ったネプテューヌに言う。

 とりあえず、この騒動もこれで終わりだ。

 そこでネプテューヌは、見慣れた姿がないことに気が付いた。

 

「あれ? そう言えばピーシェは?」

「え? あらら、さっきまでそこらへんにいたのだけど?」

 

 ネプテューヌに問われてアノネデスは首を傾げる。

 他のメンバーも知らないと首を横に振る。

 

「しょうがないなあ……、ちょっと探してくるね」

「あまり遠くには行かないようにな」

 

 オプティマスの声を背に、ネプテューヌは駆けていった。

 

 その背を眺めながら、オプティマスは思う。

 ネプテューヌは戦争を望む者に、愛を示すことで打ち勝った。

 比べて、自分はどうだろうか?

 

『君は戦士だ! 戦いに生き、戦いに死ぬ! そういう生き方意外、もう出来ない! 違うか!?』

 

『平和な世界に、我々の居場所はないんだよ!!』

 

『お前らが、この世界に戦争を持ち込んだ。お前らの戦争をな。この世界の連中が死ねば、それはお前の責任だ』

 

『最初はサイバトロン、次はゲイムギョウ界。どれだけ巻きこめば気が済む? 偉大なプライムが聞いて呆れる。ただの虐殺者だよ、お前は』

 

『だからこそ奴が、奴だけが、この俺の宿敵なのだ! 俺が奴にとってそうであるようにな!!』

 

「…………そうだな。その通りだ」

 

 深い溜め息を吐くように、オプティマスは呟いた。

 

 自分には戦いしかないのだろう。命を奪うことでしか生きていけないのだろう。

 ならばこそ、後に生きる者たちが平和と自由を享受できるよう、最後の最後まで……この身を構成するパーツの最後の一つまでも破壊され、エネルゴンの一滴までも使い尽くすまで、戦うのみ。

 

 そして、戦いが終わったのなら、自分が必要とされない世界が来たのなら。

 

 黙って消えよう。

 

 愛する人を、傷つけないで済むように。

 

 




コンバイナーウォーズがアニメ化されるそうで、楽しみです!!(実質G1のリメイクだし)

で、今回の解説のような何か。

形はどうあれ戦争狂を暴力でぶっ飛ばしても、それは試合に勝って勝負に負けるようなもんです。(MGRの議員とか、ヘルシングの少佐とかも、実質勝ち逃げに近いですし)
故に『愛』だの『平和』だのを受け入れることが、戦争大好き系の人間にとっては最大の敗北だろうと考えて、ハイドラヘッドの負け方はこうなった次第。

で、次回はやっと卵の行方です。

最近話が進みませんね……。

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