超次元ゲイム ネプテューヌ THE TRANSFORMATION   作:投稿参謀

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raging(レイジング)
意味は、激怒、荒れ狂う、途方もない、並はずれた、など。


第92話 レイジング

 レイが泣き止んで手から離れると、メガトロンはブスッとした表情で立ち上がった。

 

「……終わったか」

「グスッ……はい。ご迷惑おかけしました……」

「まったくだ。さっさとここを出るぞ」

 

 ぶっきらぼうに言って、メガトロンはレイに背を向ける。

 レイは涙を拭ってその背を追おうとして……何かを思い出したようにクルリと反転した。

 

「どうした?」

「いえ、これを持っていこうと思いまして」

 

 そう言ってレイは祭壇の上に鎮座していた、金属製の箱を抱える。

 

「それはそんなに大事なのか?」

「ええ。この箱は特別で、私にしか開けられないんです」

「中身は何だ?」

「それは後のお楽しみ。きっとビックリしますよ」

 

 悪戯を思いついた子供のような顔でニッコリと笑うレイに、メガトロンはムッとオプティックを細めつつ、外の部下に通信を飛ばす。

 

「スタースクリーム、俺だ。こちらは片付いたからそちらに……何だ? どうした?」

 

 しかし、どうも様子がおかしい。

 

「報告はしっかりせい。………………ふむ、分かった。通信終わり」

「どうかしましたか?」

 

 レイが問うと、メガトロンは凶暴に笑った。

 

「どうも、しぶとい蛇がいるらしい。……片付けなければな」

 

  *  *  *

 

 もはやハイドラの地下基地は、これ以上ないと言うほどに荒れ果てていた。

 戦いは終わり、後には廃墟が残るのみ……。

 

 否。

 

 地下基地はまたしても戦いの喧騒に包まれていた。

 

「撃て撃て撃て! あれだけの巨体だ、撃てば当たる!!」

「効いてるかは分からんがな!」

「クローン兵どもも撃て! 生き残りたけりゃな!」

 

 泡を食ったスタースクリームの号令の下、ディセプティコンとハイドラ兵とが、何者かに向かって攻撃している。

 その何者かは、一見巨大な蛇のように見えた。

 

 だが、その長く戦艦の胴のように太い体は、無数の兵器の残骸と破壊された建物の瓦礫で出来ている。

 頭部は通常の蛇のそれと瓜二つだが、眼球の無い目と裂けた口からは紫色の光が漏れていた。

 

 それが七匹。

 いや、大蛇たちの首は根本で繋がっている。七頭の蛇なのだ。

 

 多頭蛇はズルズルと這いずりながら、取り込んだ兵器の武装を発射し、口から光線を吐いている。

 

 ディセプティコンや兵隊たちは身を守りながら応戦するも、多頭蛇は攻撃を受けて体が欠けても、すぐに周辺の残骸や瓦礫を取り込んで元に戻ってしまう。

 頭の一つが鎌首をもたげ、大口を開けると、禍々しい紫のエネルギーが口腔に満ちる。

 

「攻撃来るぞ! 回避行動!!」

「素直に避けろって言えよ!!」

 

 ブラックアウトの声に、ミックスマスターはツッコミつつも物陰に隠れる。

 直後、蛇は口からビームを吐いた。

 

 射線上にいたクランクケースは隣で銃を撃っていたリンダを抱えて横に跳ぶ。

 

 ビームはクランクケースたちのすぐ横を通り過ぎていった。

 あまりの熱にビームの当たった地面が融解している。

 

「チッ! こんな奴がいるなんて聞いてないYO!」

「早く姐さんたちの所に行きたいってのに!」

 

 悪態を吐く二人。

 

 一方で、オプティマスとネプテューヌは戦闘を避けながらレイたちを探していた。

 

「まさにカオス! って感じの状況だね! あの蛇はいったい何なんだろう?」

「見当は付いている。奴はおそらく……」

 

 母艦から降りて来たフレンジーも、この戦闘に巻き込まれていた。

 小柄な身体を素早く動かしながら、憎々しげに蛇の頭を見上げる。

 

「クッソ! お前みたいなドリラーモドキの相手をしてる時間はねえんだよ!」

 

 効かないことを承知で銃撃するフレンジー。

 蛇は全く堪えた様子がなく、フレンジーに向けてビームを発射しようとする。

 

「やっべ……!」

 

 避けようとするフレンジーだが、それより早く蛇はビームを撃つ……寸前で、横合いから飛来した灰銀のエイリアン・ジェットに体当たりされて、大きく身を反らした。

 ビームは明後日の方向へ飛んで行く。

 フレンジーはエイリアン・ジェットを見上げて歓声を上げる。

 

「め、メガトロン様!!」

 

 その声に応えるが如く、エイリアン・ジェット……メガトロンは空中でギゴガゴと変形して地響きと共に着地した。

 

「はん、随分とデカい蛇だな。……狩り甲斐がある」

 

 ゴキリと首を鳴らし、メガトロンは好戦的に笑む。

 

「あ、あのメガトロン様。レイちゃんは……?」

 

 オズオズと問うフレンジー。

 メガトロンが斜め後ろを顎で指すと、そこにレイがフワリと舞い降りた。

 

「レイちゃん! 無事だったんだね!」

「フレンジーさん、ご心配おかけしました」

 

 駆け寄って来るフレンジーに、レイはフッと微笑む。

 だがメガトロンはピシャリと言い放った。

 

「感動の再会は後にしておけ。まずは蛇を始末するぞ」

「あっはい。じゃあフレンジーさん、これ持っててください」

 

 レイは何てことないように返事をすると、抱えていた箱をフレンジーに渡した。

 

「大切な物なので、大事に持っててくださいね。……行ってきます」

 

 言うや、レイは光に包まれ女神へと変身して、メガトロンの横へと飛ぶ。

 

「おお!?」

「あれは、女神!」

「レイが女神になった!?」

「あ、姐さん!?」

 

 驚嘆するディセプティコンたち。

 それは、隠れているネプテューヌも同じだった。

 

「レイさん……!?」

 

 それらに構わず、レイは脇に立つメガトロンもかくやと言う獰猛な笑みを浮かべた。

 

「滅んだとはいえ、人の国で好き勝手してくれるじゃないか。メガトロン、先手は私がもらうよ、アレも試してみたいし」

「好きにしろ」

「それじゃあ、好きにするよ」

 

 呼び捨て!?と仰天するフレンジー以下ディセプティコンを余所に、強気な口調のレイは体に力をためる。

 

「私は最初の女神、あらゆる女神は私の影を踏んでいるに過ぎない……故に! あいつ(ネプテューヌ)に出来たなら私にも出来るはず!」

 

 レイの体が光の粒子に分解したかと思うと、別の形に結集する。

 それは銀色をベースに青く発光するラインが幾何学的に入った刺々しくも重厚な車体に、前後二対のキャタピラ。

 砲塔にはレイの角飾りに似た角が主砲を挟み込む形で生えている。

 そして、何より長く太く大きい主砲が目立つSF的な姿の戦車だ。

 

 そう! この戦車はネプテューヌが戦闘機に変身したように、レイが変身した姿なのだ!

 

「これぞ、名付けてハードモード:レイ!」

 

 戦車姿のレイは、挨拶代わりとばかりに主砲を発射する。

 女神態の時の必殺技、覇光の光芒と同じ原理で異次元から引き出された破壊エネルギーが、砲身内部に刻まれた呪文と図形によって指向性を持たされて砲口からビームとして飛び出す。

 青い色の光線は逃れようともがく七頭蛇の頭の一つに狙い違わず命中し、メガトロンのフュージョンカノンもかくやと言う大爆発を巻き起こす。

 蛇の頭は為す術も無く粉々に爆散した。

 他の首がすぐさまレイに向けて攻撃を始めるが、レイはキャタピラを回転させて走り出す。

 降り注ぐ弾雨を避け、あるいは障壁を張って防ぐレイだが、業を煮やした多頭蛇の頭の一つは、大口を開けてレイを飲み込もうと襲い掛かる。

 瞬間、レイは戦車の側面に仕込まれた翼を展開。キャタピラの後部に存在するメインスラスターと砲塔後部のサブスラスターを噴射して、空中へと飛び上がる。

 そのまま空中を飛び回りながら先ほどよりも出力を絞った砲撃と、角から放つ電撃よる攻撃を加える。

 

「……レイちゃん、何かスゴいことになっちゃって……」

「元の面影が欠片もないな」

「そうか? あんまり変わってない気がするけど」

 

 箱を抱えたフレンジーが茫然と呟くと、いつの間にか近くに来ていたバリケードも同意する。

 だが、ボーンクラッシャーだけはノンビリしたものだった。

 

「姐さん……」

「リンダちゃん、ショックを受けて……」

「カッコいい……! すっげえイカス!」

「ワッザ!?」

 

 一方、レイの変貌に衝撃を受けたかに見えたリンダだったが、目をキラキラさせていたのだった。

 ある意味大物かもしれない。

 

「はん! 図体はともかく大したことないわね! 軽い軽い」

 

 敵を翻弄し、メガトロンの傍に着陸したレイは戦車姿のまま笑う。

 だがメガトロンは油断なく剣と砲を構える。

 

「油断するな。まだ終わってはいない」

「の、ようね」

「ハハハ、ハーハッハッハ!!」

 

 何処からか笑い声が轟き、七頭蛇の中でも最も太く長い首がメガトロンたちの方に顔を向けたかと思うと、その額からトランスフォーマーの上半身が生えた。

 それはメガトロンの宿敵、オートボット総司令官オプティマス・プライムに良く似ていた。

 だが、色が黒と青のファイアパターンでオプティックが黄色だ。

 ハイドラの作った人造トランスフォーマー、ネメシス・プライムである。

 

「素晴らしい! これが憎しみ! ああ、何もかもが憎くてたまらない!! そうだ! 戦いには憎しみが必要だったのだ!!」

 

 ネメシス・プライムの胸部装甲が開き、内部が露出する。

 そこにいたのは、まだ少年と言える年齢の兵士だった。

 だが、全身にコードやチューブが突き刺さり、ネメシス・プライムと一体化しているのが遠目にも分かる。

 

「さあ戦争だ! 私とそれ以外の世界全てとの戦争だ!!」

 

 その兵士……ハイドラヘッドと呼ばれていたクローン兵は、目や口から紫の光を漏らしながら吼える。

 

「あれは確か……ハイドラヘッド!」

「ここのボスだった奴か」

「ならば……メガトロン、ここは私が」

 

 その姿を認めたレイは一度女神の姿に戻ると、つまらなそうに鼻を鳴らすメガトロンの前に進み出る。

 

「兵士よ! これ以上戦う必要はありません! 大人しくしなさい! ……お願い」

 

 レイの朗々たる声に、ハイドラヘッドとそれに接続された七頭蛇は怯むような仕草を見せる。

 ホッと一息吐いたレイだが、次の瞬間メガトロンがレイを抱えて横に飛び退く。

 直前までレイがいた場所には、光線が降り注いだ。

 

「ッ! 何で……!?」

「フフフ、アーハッハッハ!! 残念だったな! 貴様の因子は書き換えた!! ……このダークスパークのおかげな!!」

 

 哄笑するハイドラヘッドの胸から、ダークスパークが浮かび上がった。

 だがそれは、肉に食い込み血管が巻き付き、彼の肉体と一体化していた。

 

「ダークスパークが教えてくれた!! 憤怒! 憎悪! 嫉妬! そして怨念!! 心地いいぞ!」

 

 ハイドラヘッドは恍惚とした表情を浮かべながら、全身から赤い血と黒いオイルが混ざった液体を吹き出す。

 

「これで戦争が出来る! 

君たちトランスフォーマーもまた、戦うために生まれて来たのだろう?

戦うことが大好きなのだろう?

戦うことに、悦楽を感じるのだろう?

私もだ!!

さあ、戦争に憑りつかれた者同士、戦争のための戦争を、最低のジョークのような戦争をしようじゃあないか!! そのために来たんだろう!!」

 

 正気とは思えない高揚した様子で叫ぶハイドラヘッド。

 レイはその惨状に顔を凍りつかせる。

 

 感じたからだ。この子は、もう救えない。

 

「フッ」

 

 だがメガトロンは小さく小馬鹿にしたような笑みを漏らしただけだ。

 それを目ざとく察知したハイドラヘッドは、メガトロンをヌラリとねめつける。

 

「何が可笑しい? 何故笑う!」

「これが嗤わずにいられるものかよ? まさか貴様、我々が戦争をしにここに来たと思っていたのか?」

「何……? 現に貴様らは戦って……」

 

 動揺するハイドラヘッドに、メガトロンは冷笑を浴びせる。

 

「一方的な蹂躙を戦闘とは呼ばん。このところ、派手に動けず部下たちにフラストレーションが溜まっていたのでな。ちょっと運動させることにしたのよ」

 

 メガトロンはニィッと笑む。

 背筋の凍るような笑みとは、こういうのを言うのだろう。

 

「つまり、これは作戦行動ではない。ストレス解消のためのレクリエーション大会……お遊びだ」

「お遊びだと……!?」

 

 絶句するハイドラヘッドに構わず、メガトロンは続ける。

 

「だいたいからして貴様、戦争のための戦争だと? 馬鹿馬鹿しい。戦争とはあくまで『手段』であって、『目的』ではないのだよ」

 

 出来の悪い生徒に講釈する講師のようなメガトロンの物言いに、ハイドラヘッドはカッと目を見開く。

 

「貴様が言うか! 貴様らディセプティコンは戦いを愛する尚武の民ではなかったのか!!」

「俺とて戦いは大好きだとも。……だが、戦いに快楽を感じても、快楽のためだけに戦いはしない。そんなことはエネルギーの無駄だからな」

 

 メガトロンはフッと排気した後、極限の覇気を込めて口を開く。

 

「理由の無い戦争なんてのはな、小僧。最低のジョークにもなりゃしないんだよ」

 

 その圧倒的な迫力に、ハイドラヘッドは飲み込まれそうになる。

 だがダークスパークから流れ込んで来る怒りと憎しみが、踏み止まらせる。

 

「くッ……! ならば、もう貴様らに用はない! この場で皆殺しにして、その後でゆっくりとオプティマスを探し出し、彼と戦争することにしよう!」

「残念ながらそれは不可能だな。何故なら貴様はここで俺に潰されるからだ。……お遊びのついでにな」

 

 メガトロンは後ろのレイに一瞥をくれる。

 

「レイ! アレをやるぞ!!」

「ええ、借り物の憎悪に踊らされるなんて、あんまりにも哀れだわ。終わらせてあげましょう」

 

 レイは決意を込めて頷き、力を高める。が、少しだけ不安そうな顔になった。

 

「でも、ぶっつけ本番なんて大丈夫?」

「ふん! 『奴ら』に出来て『我ら』に出来ぬ道理もあるまい。仮にあったとしても……」

「そんな道理は破壊するのみ、ってワケね」

「ククク、貴様も分かってきたではないか」

 

 ニヤリと笑み合った二人は、胸に天啓めいて浮かんできた言葉を叫ぶ。

 

『ユナイト!!』

 

 レイが再び光に包まれ飛行戦車へと変身すると同時に、いくつかのパーツに解れ、メガトロンの体に合体していく。

 キャタピラは畳まれて屈強な下肢へと変形し、ブーツを履くようにメガトロンの足を包む。

 車体後部は刺々しい意趣の肩アーマーになり。

 車体前部は腕パーツとして籠手のように前腕に嵌り、人間のそれに近い五指を備えた手が飛び出す。

 砲塔から上部と主砲が分離すると、残った部分が細かい変形を経て、上に向かって湾曲した角の如きパーツと姿勢制御スラスターを備えたバックパックとなり、分離した砲塔上部は胸部アーマーとなってそれぞれ合体。

 主砲は新たなる武器『ディメンジョンカノン』として、右腕に装着。

 さらに余剰パーツが組み合わさって出来上がったレイの角飾りに酷似した二本の角を持つ兜を頭に被る。

 最後に胸にディセプティコンのエンブレムに女神化したレイの角を付けたエンブレムが浮かび上がった。

 

 神か悪魔の如きその姿こそ、メガトロンとレイが融合合体(ユナイト)することにより降臨した、レイジング・メガトロンの威容である!!

 

「ひれ伏せ! メガトロンの前に!!」

「ほざけ!」

 

 メガトロンに向けビームを発射するハイドラヘッドだが、メガトロンは踵のスラスターを吹かして飛び上がる。

 地面の爆発を後目に、蛇の首の間をすり抜けるようにして飛行する。

 多頭蛇の攻撃は、稲妻のようなエネルギーをバリアとして体の周囲に張ったメガトロンには通用しない。

 

「フフフ、フハハハ!! この程度の攻撃、インセクティコンが刺したほども効かんわ!!」

 

 メガトロンは背中と兜の角から、電撃状のエネルギーを放ち蛇の肉体を破壊していく。

 蛇たちはメガトロンに噛みつこうとするが、一端多頭蛇から離れたメガトロンは、右腕のディメンジョンカノンを撃つ。

 砲口から発射された異次元エネルギーは、空中で拡散して多頭蛇に雨のように降り注いだ。

 圧倒的な威力に、多頭蛇の体は爆発と共に崩壊していく。

 

「ぐうううう、まだだぁあああ!!」

 

 ハイドラヘッドは叫びながらも落とされた自身の憑りついている首を多頭蛇本体から切り離す。

 ボロボロと残骸や瓦礫が落ちて行き、現れたのはハイドラの空中戦艦だ。艦首の蛇の頭の像が生き物のように動いている。

 空中戦艦は、浮かび上がり艦首を上げて艦首像の口からのビームと戦艦の主砲を天蓋に向け撃つ。

 地上と地下を分かつ天蓋に穴を開け、ハイドラ艦はその穴を通って地上へと昇っていく。

 

 メガトロンは当然それを追った。

 

 地上ではフージ火山が変わらず鎮座していたが、空は分厚い黒雲に覆われ、雷が鳴っていた。

 

 空中に出たハイドラ艦は、今や生き物のように動く艦首像の口の中に最大級のエネルギーを込める。

 

「こうなれば、忌まわしき過去諸共、ディセプティコンを葬り去ってやる!!」

「もう、やめなさい! あそこには、あなたの兄弟もいるのよ! こんなことして何になるの!!」

 

 追って来たメガトロンから、レイの声がする。

 ハイドラヘッドは全身から血とオイルを流し、泡と正体不明の液体を吐きながら叫ぶ。

 

「もう、私の兄弟じゃない! それに戦争に意味なんかいらないさ! 戦争のための戦争で何が悪い!! じゃあ貴様は、星を滅ぼし世界を跨いでまで何のために戦う!?」

 

 対するメガトロンは、当然とばかりに答えた。

 

「平和のためだ」

「…………平和? 言うに事欠いて平和だと?」

 

 ディセプティコンの破壊大帝にはあまりにも似つかわしくない言葉にハイドラヘッドは呆気に取られる。

 

「そうだ。圧倒的な支配によってこそ、絶対の平和が訪れる」

「……ハッ! ようするに支配したいのだろう! 美麗字句で飾るなよ!」

「支配欲を否定はせん。なればこそ支配によって平和をもたらすことが支配者の義務」

 

 メガトロン自身、随分と自分の口が軽くなっていることに驚いていた。

 ……一体化しているレイの影響であることは何となく察していたが。

 

「そこには、差別も、迫害も、戦争もありはしない。……精々、俺が恨まれる程度だ」

 

 ハイドラヘッドは、ギラギラと目を光らせる。

 

「オプティマスと言い、貴様と言い……この、偽善者どもが!! 素直に殺し合いたいと言えばいいだろうが!! 平和をもたらしたいのなら、何故戦う!!」

「信じているからだ。戦いの先には、必ず平和な世界が存在すると。そして平和は……それまでに積み重なった死と破壊よりも、遥かに素晴らしいものであると。……オプティマスもな」

「何!?」

「オプティマスの奴は、自由は全ての生命の権利などと、なまっちょろい事を言っているがな。しかし奴はそれに生命と魂を懸けている! 自由な世界は守るに値すると信じて戦っておるのよ!! だからこそ奴が、奴だけが、この俺の宿敵なのだ! 俺が奴にとってそうであるようにな!!」

 

 再び嘲笑を浮かべるメガトロン。

 

「貴様のような阿呆の痛々しい妄想の如き奴では、オプティマス・プライムの相手にも、この俺の相手にも、余りにも役者不足。目障りだから、引導を渡してやろう。貴様は舞台に長く居座り過ぎたわ」

「ふざけるな!! 私は貴様らを消し、オプティマスと戦争をするのだ!!」

 

 吼えるハイドラヘッドは、艦首像の口から最大級のビームを撃ちだす。

 だがメガトロンは、すでに右腕のディメンジョンカノンを構えていた。

 メガトロンはただ喋っていたワケではなく、その間にこちらも最大出力で撃つ準備を整えていたのだ。

 

 凄まじいエネルギーの奔流が砲口から発射され、ハイドラ艦のビームと衝突する。

 

 当然、二本の光線は相殺……しない!

 

 ディメンジョンカノンのビームは、ハイドラ艦のビームを弾きながら直進する。

 そのままハイドラ艦の艦首から艦尾まで貫通し、それだけに飽き足らず背後のフージ火山の山頂に命中。

 山頂は噴火の如き大爆発を起こし、空の黒雲まで届く火柱が上がる。

 

「ば、馬鹿な……!?」

 

 艦首像にネメシス・プライムが憑りついたまま、ハイドラヘッドは呻く。

 

「ぐ……! ここで死んでなるものか! ダークスパークよ、私にもっと力を!!」

 

 さらなる力を引出そうと、ダークスパークに乞う。

 だが……。

 

 ――愚か者め。メガトロンとあの女の力を測るために力を貸したが、それも済んだ。貴様など、用済みだ。

 

「おい、待て……が!? が、が、ぎぐぁあああ!!」

 

 ダークスパークは用無しとなったハイドラヘッドの胸の肉と血管を引き千切り、激痛に叫ぶ哀れな宿主に構わず、何の前触れもなく消失した。

 船体に大穴の開きダークスパークの力までも失ったハイドラ艦は、炎に包まれながら墜落していく。

 そしてフージ火山の中腹に突き刺さり、一瞬置いてから粉々に爆散した。

 

 メガトロンは立ち昇る炎と煙を見下ろしながら、首を回し大きく排気する。

 

 役者不足の愚か者は滅ぼした。

 だが戦いとは、敵を倒してそれで終わりではない。

 

 まだ仕事は残っている。

 

 踵のジェットを吹かして、メガトロンは元いた地下基地へ向かって降下していくのだった。

 




ハイドラヘッド「みんな、戦争しようぜ!」
オプティマス「テロ鎮圧」
メガトロン「お遊び」
ハイドラヘッド「……orz]

今回で一区切りのはずだったけど、長くなって上に時間がかかったので後始末的な話へと続く。

今回の解説

ハードモード:レイ
当然オリジナル。
ネプテューヌの戦闘機と対を為す意味を込めて戦車。
デザインは実写リベンジのメガトロンと、WFCのメガトロンのビークルモードを折半して角を生やした感じ。

レイジング・メガトロン
メガトロンとレイがユナイトすることで現れた合体形態。
レイと合体してるからレイジング……。まあ、分かり易さ優先と、単語の意味自体が二人を表すのに調度いいかと思いまして。
デザインは、騎士、勇者的な要素を持つオプティマスと対になる鎧武者、悪魔のイメージ。
右腕のディメンジョンカノンは、もちろん初代様オマージュ。火力がおかしなことになってます。
合体機序の関係上、元のメガトロンより一回り大きくなってます。

では。

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