超次元ゲイム ネプテューヌ THE TRANSFORMATION   作:投稿参謀

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あるいは、メガトロンvsレイ。


第91話 ある女神の肖像

 ……レイはいつ、どこで生まれたのか、憶えていない。

 物心付いた時には、今と同じ姿で村の雑踏を彷徨っていた。

 

 資金もなく、食べ物も恵んでもらえず、衣服も捨てられた物を拾って使い、泥水を啜る日々。

 飢えに耐え兼ね盗みを働きそうになったこともある。

 鈍臭いレイでは失敗するのが常だったが……。

 そのたびに、殴られ蹴られ罵声を浴びせられた。

 

 幸か不幸か、男性から嫌らしい目で見られたことはなかった……と、思う。

 

 そうして他者の暴力に怯え、飢えと孤独に苛まれ、夏には渇きに苦しみ、冬には寒さに凍えた。

 

 当時の人々は部族単位で固まって暮らしており、今に比べて余裕がなく排他的で迷信深く、何処からか現れた得体の知れない女に親切にする者はいなかった。

 

 唯一人、とある剣闘士を除いては。

 

 この時代、ゲイムギョウ界では剣闘が盛んで、各地に闘技場があった。

 剣闘士はだいたいが孤児や戦争の捕虜、罪人だ。

 彼らは興行主の持ち物として、死ぬまで戦うことを強要させられていたが、金を貯めれば自由を買うこともできた。大半はその前に死ぬが。

 

 ある日、寝床を探していたレイは、下級の剣闘士の入れられている石造りの建物の鉄格子の嵌った窓の下に寝転がった。

 

 その窓の向こうの部屋にいたのが件の剣闘士だった。

 

 まだ少年と言っていい若さの、その剣闘士は襤褸(ボロ)を纏い、痩せ細ったレイの姿を哀れに思ったのか、窓越しに林檎を投げて寄越した。

 剣闘士に取っては気まぐれだったのかもしれないが、レイに取っては生まれて初めて人の善意に触れたのだ。

 レイとその剣闘士は、窓越しに会話するようになった。

 

 楽しかった。

 

 向こうがどう思っていたのかは分からない。ひょっとしたら、煩わしく思っていたのかもしれない。

 それでも、レイは幸せだった。

 

 だが、ある日のことだ。

 

 剣闘士が試合での怪我が元で病気にかかった。

 医療と衛生の未発達なこの時代、今では何てことない病でも致命に至る。

 治すには、高価な薬が必要だが、レイには薬を買う金はない。

 薬屋に病気の人間に飲ませたいと説明したが、聞き入れてもらえなかった。

 

 だから、盗もうとした。

 

 そして、失敗した。

 

 盗人として人々に追われ、石を投げられ、崖際に追い込まれ、そして……。

 

 咄嗟に手をかざすと、手から雷が出て、追手の前の地面を焦がした。

 驚いて反対の手を振るうと、突風が巻き起こり、追手を薙ぎ倒した。

 人々は驚き恐れ、逃げていった。

 

 何が起こったのか分からず唖然としていると、いつの間にか傍に男が立っていた。

 黒いローブで全身を覆い、手を手袋で、顔を人面を模した仮面で隠した、異様な男だった。

 

 その男は自身をスノート・アーゼムと名乗り、女神を導く神官だと称した。

 

 アーゼムが言うには、レイは女神であり、国を創るべきだそうだ。

 実際に、レイは身内に力が湧きあがってくるのを感じていた。

 全能感に満たされたレイは、アーゼムの言う通りにすることにした。

 

 自身の輝かしい未来の予感に、胸を膨らませながら。

 

 あの剣闘士のことは、頭の中から消え失せていた……。

 

  *  *  *

 

 かつて婚儀の間と呼ばれた広間では、ディセプティコン破壊大帝メガトロンと、蘇ったタリの女神レイとが激闘を繰り広げていた。

 

「喰らえ! 破戒の舞闘!!」

 

 杖を縦横無尽に振るう乱舞技を繰り出すレイだが、メガトロンは左手に持ったハーデスソードで受け止める。

 だが何と言うことだろう。レイの攻撃によって、メガトロンの巨躯が押され、後ろに下がる。

 

「ッ!」

「他の女神と私をいっしょにするんじゃないよ!! 私は最初の女神! 全ての女神は、私の影を踏んでいるに過ぎない!!」

 

 いったん離れたレイは、杖の周りに電撃を発生させ、それをメガトロンに向けて放つ。

 

「審判の雷霆!!」

 

 雷はメガトロンに向けて殺到する。

 だがメガトロンはハーデスソードをかざすことでこれを防ぐ。

 

「どうだい? 女神に逆らう者への裁きの雷は! 屋外なら、天候すら操作してもっと強力なのをお見舞いしてやるんだけどね!!」

「くだらん。この程度か?」

 

 メガトロンはハーデスソードを大きく振るって雷を弾くと、右腕のフュージョンカノンをレイに向かって撃つ。

 レイはそれを避けると、さらに電撃を放つ。

 

「無駄無駄無駄ァ~! 全然、当たりませ~ん!」

 

 馬鹿にするレイだが、メガトロンは一足でレイの傍まで移動し、デスロックピンサーを振るう。

 

「ぐッ!?」

 

 間一髪躱すレイだったが、続いて放たれた回し蹴りを受けてしまう。

 大きく吹き飛ばされ、石柱に音を立ててめり込むレイ。

 メガトロンはその隙を逃さず、フュージョンカノンを連続発射する。

 レイは咄嗟に障壁を発生させるも、障壁はエネルギー弾を防ぎ切れず砕け散る。

 そこからレイが体勢を立て直す間を与えず、メガトロンがショルダータックルの要領で突っ込む。

 石柱にめり込み、少しの間、膠着していたメガトロンだったが何かを感じ飛び退く。

 次の瞬間、雷撃状のエネルギーが瓦礫を吹き飛ばし、レイが姿を現した。

 

「頑丈だな。今ので潰れても可笑しくはなかったぞ」

「この……少しは手加減しやがれ!!」

「何だ、手加減してほしかったのか?」

 

 嘲るようなメガトロンの顔に、レイは眉根を吊り上げる。

 

「ほざけ! ならば、この攻撃で吠え面かきやがれ! 開け異界の門!!」

 

 レイの背後に青い魔法陣が出現した。

 魔法陣は円の内側に六本の線が走っており、中心で交差している。

 その線がカメラの絞りのように少しずつ開き出し、魔法陣の向こうの得体の知れない空間から、青い光が漏れだした。

 

「愚かな。そんな隙だらけの大技など、当たるものか……ムッ!?」

 

 突然、地面の下から何匹もの長大なムカデのようなクリーチャーが姿を現し、メガトロンの両足と右腕に巻きついた。

 

「アーハッハッハ!! もちろん、お前には止まっててもらうさ! 異次元からクリーチャーを呼び出す技、異界の蠱毒でね!」

 

 哄笑するレイ。

 その間にも魔法陣は開いて行き、光は強くなっていく。

 

「覇光の光芒!!」

 

 そして、魔法陣から極太のビームの如き莫大なエネルギーの奔流が吐き出され、メガトロンを飲み込んだ。

 

  *  *  *

 

 ……レイが国を創ってから20年ほどたった。

 

 レイの国、タリは世界中に版図を広げていた。

 多くの土地を侵略し、支配した。

 

 何もかもがレイの思う通りになった。

 

 空に在って地上を見下ろす大神殿。

 

 いくらでも食べられる美味しい食事と酒。

 

 山と積まれた金銀宝石。

 

 だが、足りない。

 

 どれだけの神殿を築こうと、どれだけの財宝に囲まれても、夜に目を閉じると満たされない胸の内の寒さに震えた。

 

 天上の美酒をあおり、数限りない兵士と奴隷に傅かれ、時に麻薬にさえ手を出しても、飢餓感にも似た感覚が消えない。

 

 男に抱かれる気にだけは、どうしてもならなかった。

 

 政治は全てアーゼムに任せ、自身はひたすら贅沢に溺れていた。

 国がどういう状況なのか、聞きもせずに。

 唯一の例外は結婚式で、国民が結婚を申し出た時だけは地上に降り、式を見届けた。

 そうする時だけ、わずかに飢餓が癒される気がした。

 出席者たちの顔が段々と暗くなっていくことに気が付くべきだった。

 

 やがて、来るべくして時は来た。

 

 いつものように結婚式に出席したレイを待っていたのは、武装した男たちだった。

 無礼な反逆者たちに対し、レイは最初、多少の驚きはあったものの嘲笑を浮かべて雷で吹き飛ばそうとした。

 その瞬間、暗殺者たちの間から、一人の男が躍り出るや、禍々しく紫に光る剣を女性の腹に突き刺した。

 

 何が起こったのか分からなかった。

 

 自分は女神のはずなのに、何故刺されているのだ?

 

 刺した相手の顔が見えた。

 

 かつて林檎をくれた、あの剣闘士だった。

 歳を取って肉体は頑強になり、顔には年齢相応の皺が刻まれていたが、間違いない。

 

 彼は混乱した様子でレイの腹から剣を引き抜いた。

 床に倒れ、薄れゆく意識の中で聞こえてきたのは、反逆者たちの……彼女の民の声だった。

 皆、女神の死を喜び、あるいは倒れた女神に罵声を浴びせていた。

 

 その時レイの胸に去来したのは、痛みと苦しみと、果てしない悲しみだった。

 

 ……だが、それでもレイは死ななかった。

 

 女神の肉体が、あるいは湧き上がる怒りと憎しみが、彼女に死を許さなかった。

 

 反逆者たちが去った後で、激痛を堪えて立ち上がったレイは、体を引きずるように建物の外に出ると、怨念の限りを爆発させて呪いの言葉と共に全ての力を解き放った。

 

 「呪われろ! 呪われろ! 裏切り者ども! お前たちの望み通り、こんな国なんか、無くなってしまえばいい!!」 

 

 そして、全てが光に包まれた……。

 

 次に目を覚ました時、タリは火山の噴火によって地面の下に埋まっていた。

 空中神殿はどこかにアーゼム諸共どこかへ飛び去り、あの剣闘士は生きているのか死んでいるのかも分からない。

 

 レイが得た何もかもが、かつて持っていたはずの全てが消えてしまった……。

 

 何故こうなった?

 私が女神だからか?

 だったら、女神になんて生まれなければよかった。

 女神なんて、いなければよかった。

 

 女神なんて、

 

 女神ナンテ、

 

 メガミナンテ……。

 

 全てを失ったレイに最後に残されたのは、女神に対する逆恨みとしか言いようのない憎しみだった。

 

 そして、この日以降、レイは全ての記憶を失った。

 

  *  *  *

 

 婚儀の間は、もはやかつての静謐な面影を残していなかった。

 戦いによって柱と言う柱は砕け、壁や床にはいたるところに大穴が開いている。

 祭壇の上の箱だけが、まだかろうじて無事だった。

 

「はあッ……はあッ……」

 

 魔法陣のよって開いた異次元の門を閉じ、レイは荒く息を吐く。

 覇光の光芒は、破壊エネルギーに満ちた異次元への扉を開き、そこからエネルギーを引出す技だが、異なる次元へのポータルを形成、制御するのは女神としては規格外の力を持つレイを持ってしてなお、心身に多大な負荷を要するのだ。

 

「は、ハッハッハ……これでも死なない、か。やっぱり、凄いよアンタ……」

 

 壁とその後ろの地盤に大穴が開くほどのエネルギーの奔流に晒されてなお、メガトロンはそこに立っていた。

 無論、さしものメガトロンとて無防備にエネルギー波を受けたワケではない。

 

 あらゆるエネルギーを吸収するダークマターの力を持つハーデスソードを使って防御したからこそ、耐えることが出来たのだ。

 

 それでも吸収しきれず、あちこち焦げて煙が上がり、剣を杖代わりにしている状態だ。

 

「ぬう……予想以上の力だ」

「私の最強最大の攻撃を受けて立っていられるとは、さすがはメガトロン。……でもまだまだ!」

 

 レイは掲げた杖に電撃を纏わせる。

 

「さあ、構えな! この戦いは、私たちのどちらかが死ぬまで続くんだ!!」

 

 だがメガトロンは、無表情を崩さないまま剣を引き、鼻を鳴らすような音を出した。

 

「俺を舐めるな。……攻撃に殺気がないことくらい、簡単に分かる」

「殺気がない? ハッ! 馬鹿言うんじゃ……」

「さっきの覇光の光芒、だったか? あれもそうだ。本来なら、もっと強大な力を引出せたはずだ。貴様は、俺がハーデスソードで防御することを見越したうえで、攻撃したのだ。……剣を持つ腕を拘束しなかったのは、その証左だ」

 

 レイの言葉をさえぎり、メガトロンは淡々と語る。

 しばらくの間、二人は何も言わずに睨み合っていた。

 

 やがて、レイはフッと息を吐くと女神化を解いた。

 

「敵わないなあ……」

 

 ゆっくりと床に降り、座り込むレイにメガトロンは問う。

 

「何故、こんな芝居をした? 俺にワザと斬られようとしおったな」

「……死にたかったからです」

 

 そう答えたレイの顔は、難病を抱えた老人のように疲れ切っていた。

 まるで、何千年もの時間が彼女の背に圧し掛かってきたかのようだ。

 

「……私はかつて、反逆者に討たれました……でもそれは、私が暴政を敷いたからで自業自得」

 

 いや比喩ではなく、実際に因子が呼び水となって、レイは数千年分の記憶を取り戻したのだ。

 

「その後は記憶を失い、残されたのは女神という存在への憎しみだけ……笑っちゃうでしょう? 逆恨みもいいとこ」

 

 かつてネプテューヌを薄っぺらいと嘲った。

 

 ――……どっちが。

 

 アーゼムに国政を任せていて知らなかった、などと言うのは無知無関心無責任の証明であって免罪符にはなりえない。

 むしろ、アーゼムに任せずとも自分は暴政を敷き、逆らう者を弾圧しただろうという確信がレイにはあった。

 

「その後は、今とそんなに変わらない……憎しみに突き動かされて、意味のない反女神をする日々。……しばらくすると、自己防衛なのか何なのか記憶がリセットされて……ずっとその繰り返し。何百年も何千年も」

 

 記憶を失い、憎しみに操られ、また記憶を失って……。

 まるで回し車の中のハツカネズミのように、グルグル回るだけ。

 何も得ず、何も生み出さない、無為な時間。

 

「もう、たくさんなんです。こんな無意味な生涯は……」

 

 疲れ切った笑みを浮かべながら、レイは涙を流す。

 かつてのレイなら、憎しみに溺れ狂気に酔うことも出来ただろう。

 

 だが、レイはメガトロンと出会った。

 

 彼の背を見て声を聴き、過去を知った。

 

 ガルヴァたちを育て、命の重さを知った。

 

 ネプテューヌの思いを聞き、彼女の強さを知った。

 

 そして、今のレイには自分を客観視することが出来た。

 あまりにも卑小で愚かな自分と向き合うことが出来た。

 

 もう、薄っぺらい憎悪や安っぽい狂気に逃げることは出来ない。

 

「私には、中身なんか無かったんです。……最初から、ずっと。私の生涯に、意味なんて無かった」

 

 求めてやまなかった自分の中身が空虚な幻に過ぎなかったことは、レイの心が絶望に沈むには十分だった。

 それ以上にレイの心を打ちのめしたのは、女神としてシェアを土地に還元することが出来ないことだった。

 

 自分は、メガトロンを、ディセプティコンを、ガルヴァたちの故郷を助けることも出来ないのだ。

 

「……私では、メガトロン様のお役には立てません。ゲハバーンがメガトロン様の手に有るのも、何かの縁。どうかその剣で私を斬り、女神の力を剣に宿してください」

 

 ――そして、そうすることで、魂だけでもお傍に……。

 

 話を聞く間、メガトロンは黙っていた。

 完全なる無表情からは、いかなる感情も窺うことは出来ない。

 

 一瞬とも、何日ともつかない沈黙の後、メガトロンは剣を振り上げた。

 

 僅かに、真紅のオプティックが揺れている。

 

 裂帛の気迫を込めて、剣が振り下ろされる。

 

 その軌道は、正確にレイを捉えていた。

 

 迫る死を感じながら、しかしレイは淡く微笑み、静かに目を瞑る。

 

 その顔にあったのは、恐怖でも絶望でもなく、久し振りに帰り着いた我が家で眠りにつくかのような、安らぎだった。

 

 ようやく、この長く無意味な生から解放されるのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……剣はレイの脇を通り過ぎ、床に深々と食い込んだ。

 

 レイは目を見開き、メガトロンを見上げる。

 

「な、なぜ……?」

「なぜ、だと? つまらんことを聞くな!」

 

 メガトロンは怒っていた。

 オプティックが燃えるように爛々と輝き、牙をむき出しにしている。

 

「貴様は俺の物だ! 貴様が何時、何処で死ぬかは俺が決める!! 勝手に死ぬことは許さん!!」

 

 吐き出される俺様理論に、レイは呆気に取られると同時に、胸の内からフツフツと怒りが込み上げてくる。

 

「………ふざけんなよ、おい」

「あん?」

「ふざけんなつったんだよ! このガラクタの大将が! 勝手に人を物扱いしてんじゃねえ!!」

 

 突如怒り出したレイに、メガトロンは少しだけ退く。

 

「私は、私には生きる意味なんかないの! もう死なせてよ!!」

 

 だが、レイの物言いに顔をさらなる怒りに歪め、手を伸ばして細い体を掴み、自分の顔の前に引き寄せた。

 

「意味がないだと! ……ならば、俺がくれてやる!! ……ガルヴァたちが、お前の生の意味だ!! アレらは……ガルヴァ、サイクロナス、スカージは、お前の子供なのだ!」

 

 メガトロンの手の中で、レイは目を丸くする。

 言われた意味が分からなかった。

 

「何を言って……」

「雛たちは、お前の因子を受け継いだ。この基地のクローンどもとは違う、お前の魂の設計図を直接受け取ったのだ! ……俺の遺伝子と共に」

 

 レイが疑問を出すより早く、真実を告げるメガトロンだが、最後の方だけは少し言うのを躊躇っていたようだった。

 しかし、意を決して続ける。

 

「つまり、ガルヴァたちは俺とお前の子供なのだ。お前は、あやつらを母無し子にするつもりか!?」

「ガルヴァちゃんたちが……私の子供……」

 

 そのことを飲み込むのに、レイは少しかかった。

 メガトロンは静かに頷いた。

 

「そうだ。だから、死ぬな……。俺のためにも」

 

 ポロポロと、レイの目から涙がこぼれる。

 漏れ出た嗚咽はやがて、大きな泣き声に変わった。

 

「あ……あ……うあぁあああああ!!」

 

 罰の悪そうな表情になったメガトロンはレイを床に下ろしたが、レイはメガトロンの手から離れずに泣きじゃくる。

 メガトロンは、ムッツリとした表情のまま、黙って泣かせてやることにしたのだった。

 

  *  *  *

 

 ディセプティコンたちが散々に暴れ回り廃墟と化した基地の中を、ネプテューヌは忍び足で進んでいた。

 もちろん、オプティマスたちを助けるためだ。

 敵と戦闘することは避け、何とか身を隠しながらロックダウンのアジトへと向かう。

 どうもレイには助けが来たようなので、まずはオプティマスの救助を優先する。

 

「待っててね、オプっち」

 

 決意を込めて呟いたネプテューヌだが、突然、大きな影がネプテューヌの上を覆った。

 すわ、ディセプティコンかと刀を召喚したが、相手を確認して安堵と希望に顔が輝いた。

 

「オプっち……!」

「ネプテューヌ、無事で良かった……」

 

 それはオプティマスだった。

 オプティマスは跪く形で顔をネプテューヌに寄せ、ネプテューヌはオプティマスの顔に頬を摺り寄せる。

 恋人たちは、しばしの間、再会とお互いの無事を喜んだ。

 だがネプテューヌは、真面目な顔でオプティマスの目を覗き込む。

 

「オプっち、発掘隊のみんなは逃げたけど、まだ捕まってる人がいるんだ。その人を助けるために、力を貸して」

「もちろんだ。さあ、行こう!」

 

 二つ返事で承諾したオプティマスは、ネプテューヌを伴って歩き出そうとする。

 だがその時、地面が揺れ出した。

 

「なに!? ディセプティコンの攻撃!?」

「いや、この揺れは……地面の下を何かが移動している!」

 

 二人の目の前の地面が盛り上がり、何かが姿を現した。

 

 それは一見、巨大な蛇のように見えた。

 蛇は首をもたげて天井を仰ぐと、口からビームを放った……。

 

  *  *  *

 

「ほいよ。接続終わったぜ、フレンジー」

「おう! よおし、サウンドウェーブ、下に降ろしてくれ!」

 

 体に首を付け終わったフレンジーは、さっそく戦場に戻ろうと艦橋で操舵しているサウンドウェーブに通信を飛ばす。

 だが、雛たちと共にモニターを眺めていたジェットファイアが、ふとオプティックを鋭くした。

 

「……来るぞ!」

「は? 何が……」

 

 来るんだ?とフレンジーが聞くより早く、艦体が激しく揺れた。

 

「何だ!? サウンドウェーブ、どうした!?」

『砲撃サレタ。右舷ニ ダメージ。艦体制御困難。一度着陸スル。総員衝撃ニ備エヨ』

「何だと!? とにかく、爺さん! 雛を守れ! ドクターは卵を!」

「もうやっとる!」

「同じく!」

 

 揺れる艦内で、ジェットファイアは雛たちを守るように抱え、ドクターは機材を操作して卵に防御カバーをかぶせる。

 全員が壁や床にしがみついた次の瞬間、空中戦艦は地上に強制着陸し、艦内を衝撃が襲う。

 

 ……何とか着陸できたらしいが、艦体が傾いているか、部屋が斜めになっていた。

 

 壁にしがみついていたフレンジーは、辺りを見回す。

 

「おい、みんな無事か?」

「俺は無事だ! 雛たちもな!」

「卵は……全部無事だ!」

 

 ジェットファイアとドクターの声に、フレンジーはホッと排気する。

 

「しっかし、いったい何だってんだ? サウンドウェーブ?」

『攻撃ハ下カラ地盤ヲ、貫通シテ来タ。ハイドラ ノ、地下基地カラト思ワレル』

「やっぱり、何か起こってるんだな……よっしゃ! 爺さん、ドクター! 雛たちを頼んだぜ!」

「おう! 任せておけ!」

「はいはい……」

 

 ジェットファイアとドクターに後を任せ、フレンジーは地下へと向かう。

 雛たちが揃って手を振り、ジェットファイアは雛を撫で、ドクターは卵のカバーを外してから雛たちに万が一の怪我がないかチェックする。

 

 ……だから一つの卵がモゾモゾと動いた拍子に卵の塊から外れたことに気付かなかったのも無理はない。

 

 卵は床に落ちたものの傷はなく、傾斜した床をコロコロと転がり出した。

 そのまま着地の衝撃で開いてしまった扉を抜け、砲撃で壁に出来た裂け目から艦から飛び出してしまう。

 地面に落ちてもも卵は止まらず、どこまでも転がっていくのだった……。

 

 




そんなワケでレイ、生存。
章タイトル詐欺? いえいえ、真の意味はいずれ。

今回の解説。

レイの技part2
この作品では、レイはプルルート同様、女神化すると技名が変化します。
ちなみにレイの戦闘スタイルを簡単に言うと『格闘もこなせる移動砲台』

破戒の舞闘
ブレイクアウトが変化した技。
女神伝統の乱舞技。

審判の雷霆
ミサイルコマンドが変化した(略)。
地下なので直接電撃を放っているが、本来は天から雷を落とす技。
原作アニメ終盤で乱発してたアレ。

異界の蠱毒
センティピードが(略)。
ムカデ型のクリーチャーを召喚する。
数が増えてる。

覇光の光芒
原作ゲームでも使用した、レイの必殺技。
ただし、技の概要が違う。
原作では空間を歪めて大量のエネルギーを敵に直接ぶつける技(らしい)
こちらでは異次元への扉を開いて、エネルギーを引き出す技。
簡単に言うと前者が火焔直撃砲で、後者がサイクロップス(X-MEN)のオプティックブラスト。

スノート・アーゼム
ようするに原作でのクロワールの位置にいる人。
しかし、クロワールよりも悪意的にレイを利用してました。

……だけど重要なのは、彼が『オリキャラじゃない』と言うことでしょう。

では。

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