超次元ゲイム ネプテューヌ THE TRANSFORMATION 作:投稿参謀
飢え、飢え、男たち、女たち、痛い、痛い、ごめんなさい、苛めないで。
飢え、飢え、寒い、寒い、孤独、孤独、助けて、誰か。
飢え、飢え、林檎、美味しい、男の人、剣闘士、優しい、好き。
女神、私のこと?
たくさんのご飯、綺麗な服、暖かい寝床、キラキラした金銀宝石。
キラキラ、好き。
もっと、もっと……。
欲しい、欲しい、奪え、奪え、捧げよ、捧げよ。
侵略、破壊、支配、全てを。
崇めよ、称えよ、敬え、私を、私を、私を。
私こそ……。
炎、炎、怒号、悲鳴。
痛い、痛い、刺された、誰に?
男の人、剣闘士、好き、刺された、何で? 何で?
悲しい、痛い、悲しい、痛い、悲しい、痛い。
悲しい、痛い、悲しい、痛い、悲しい、憎い。
悲しい、痛い、悲しい、憎い、憎い、憎い。
悲しい、憎い、憎い、憎い、憎い。
憎い、憎い、憎い、憎い、憎い。
嗚呼、そうだ、私は……。
* * *
研究区画にいる兵士たちは、パニックにならないように自分を律するので必死だった。
部屋の外では敵が隔壁を破ろうとしているし、部屋の最奥のカプセルは不気味に鳴動している。
フレンジーを閉じ込めた箱はガタガタと揺れて今にも壊れそうだ。
「なあ、どうする? マルヴァの奴は逃げちまったし」
「どうするったって……この部屋は袋小路だ。もうここ以外に逃げ場はないぞ」
「降伏……は、許してもらえるのか?」
銃を構えつつ話合う非クローンの兵士たち。
一方、運悪く……悪いのは日頃の行いかもしれない……逃げ遅れた何人かの研究者は、計器を前に驚愕していた。
「この数値は……被験体が安定値を示している?」
「被検体が因子に適合しているのか?」
「馬鹿な! これほどの量の因子だぞ! 万が一適合していたとしても、タダで済むはずがない!」
「しかし実際に……」
瞬間、カプセルの蓋が内側から爆発した。
轟く爆音と煙に、何事かと兵士たちが振り向き、研究者たちが尻餅を突き、フレンジーの入った箱がひっくり返り、その拍子に鍵が壊れる。
「ぷはッ! テメエら! よくもやって……何だこの反応は!? 何が起こってるんだ!?」
すぐさま箱から這い出したフレンジーだが、センサー類が感知した異常に戦慄する。
呆れ返るほどのエネルギーを発する何かが、この部屋の中にある。
誰もがシンと静まり返る中、煙の向こうから誰かがゆっくりと歩いて来る。
いや誰かは分かる。カプセルに入っていた人物はキセイジョウ・レイしかいないのだから。
しかし、あれは本当にレイなのか?
悠然とした足取りで煙の中から現れる、その姿は間違いなくレイに他ならない。
しかし、髪は空気の流れに逆らってうねり、淡く光り輝き、稲妻のように見える青いエネルギーが、体を包んでいる。
表情は超然としていて、慈悲と堪えきれない怒りとは同居しているように見えた。
その……レイと思しき何者かは、無数の銃口が向けられているにも関わらず、全く気にせずに歩いていく。
「と、止まれ! 止まらんと撃つぞ!」
一人の兵士が正気に戻って警告すると、やっとレイは足を止めてそちらを向くと微笑み、そして言った。
「兵士たちよ。他の者を無力化しなさい。……殺さないように」
突然の言葉にクローン兵士たちはキョトンとして、
『イエス、マム』
それから、非クローン兵を攻撃した。
* * *
すぐに戦いは終わった。
不意打ちによってアッと言う間に非クローン兵は無力化され、もののついで研究者たちも殴り倒された。
クローン兵は全てが跪き、頭を垂れている。
レイに向かって。
「片付きました」
「御苦労さま。……外が騒がしいけど、何が起こっている?」
先頭の兵士が恭しく報告すると、レイは短く労ってから問う。
「ディセプティコンが襲撃してきました。基地はすでに壊滅状態です」
「……そう、ではディセプティコンの中にメガトロンはいるかしら?」
「はい。手ずから指揮を取っているようです」
フレンジーは可能なら大口を開けただろう。
『メガトロン』
レイは破壊大帝を呼び捨てにしたりしないはずだ。
「では次に、他の兵士たちにも、周りの敵を無力化して、速やかにディセプティコンに降伏するように伝えなさい」
「アイ、マム」
ただちに兵士たちは
フレンジーは唖然として、レイを見上げていた。
「れ、レイちゃん……?」
何とか声を絞り出すが、目の前で起こっていることが信じられない。
「レイちゃん、どうしちまったんだい? アイツらになんかされたのかい?」
レイは不安げなフレンジーの前までやってくると、その体を持ち上げ、優しく声をかけた。
「フレンジーさん、お願いがあるんです。この場所に一人で来るように、メガトロン様に伝えてください」
そう言って、レイはフレンジーの額に人差し指を当てる。
それだけで、フレンジーのブレインに位置情報が浮かび上がった。
「な、何でこんなことができんのさ!?」
「お願いしましたよ。……必ず伝えてください。待ってますから」
疑問に答えずフレンジーを床に下ろし、レイは手の中に杖を召喚すると、何もない空間に向かって横薙ぎに振るった。
ガオン!という異様な音と共に空間に亀裂が入り、大きく開く。
「フレンジーさん、今までいろいろありがとうございました。ガルヴァちゃんたちや皆さんには、よろしく言っておいてください。……さようなら」
それだけ言うと、レイは振り返ることなく空間の裂け目の中に入って行った。
「ッ! レイちゃん!!」
タダならぬものを感じ、フレンジーは咄嗟にレイに飛び付こうとする。
だが、その爪先が背中に届くよりも早く、空間の裂け目が閉じた。
外の隔壁が破られ、ドレッズとリンダが入って来たのは、その直後だった。
* * *
メガトロンは不満げだった。
総攻撃を始める直前にハイドラの兵士たちがアッサリと降伏したからだ。
正確には、司令部内で反乱を起こした半数が、残りの半数を不意打ちして残らず拘束。
そして、その反乱を起こした方の半数が、無抵抗の証として武装解除してメガトロンの眼前に整列していた。
『我ら一同、ディセプティコンに降伏致します』
殊勝な態度の兵士たちだが、ディセプティコンたちとしては、少々消化不良である。
「……理由を問おう。何故だ?」
『全ては、
一斉に答える兵士たちに、メガトロンは僅かに気圧されるが、すぐに気を取り直す。
「ま、いい。とりあえず、貴様らの処分は後で決める。それよりも……」
首を巡らすと、整列したドレッズの横で、リンダとフレンジーが意気消沈していた。
「フレンジー、報告せよ」
「…………」
「フレンジー」
「は、はい!」
メガトロンにドスの効いた声で促され、フレンジーはようやっと報告を始めた。
「さっき話した通りです。レイちゃんが目の前で消えちゃいまして……で、この座標に……」
「一人で来いと。はん! フレンジー、お前は母艦に戻って体に接続してこい。いつまでも頭だけと言うのも鬱陶しい」
鼻を鳴らすような音を出したメガトロンは、フレンジーに指示を出し、続いて近くに控える参謀の方を向いた。
「スタースクリーム、俺は行く。この場は任せるぞ」
当のスタースクリームは、虚を突かれたような顔になる。
「どちらへ?」
「聞いてなかったのか? せっかくのデートのお誘いだ。行かなければ失礼と言うものだろう?」
* * *
レルネー上空で悠然と滞空している空中戦艦に戻ったフレンジーは、目の前の光景に再び唖然としていた。
壁のモニターに戦闘の様子がリアルタイムで映されている。これはいい。
珍しく、ドクター・スカルペルが出張ってきて機材を弄っている。これもいいだろう。
何故かワレチューが走り回っている。まあ許容範囲内。
ジェットファイアが座ってボケーッとモニターを見ている。もこれはまだいい。
問題は部屋の中央に鎮座している青く発光している卵の塊と、ジェットファイアの前で並んでモニターを見ているガルヴァと、その弟たちだろう。
「何でガキどもを連れてきてんだ? しかも卵まで……」
「ん~? なんか、ガキどもに戦場の空気を憶えさせるんだと。で、基地がもぬけの殻になるんで、卵も持ってきたんだよ。ま、まだ孵化する様子はないし、大丈夫だろ」
フレンジーの問いに答えたのは、機材を弄るドクターだ。
それを聞いてフレンジーは、メガトロンはきっと雛たちに自分のカッコいい所を見せたいのだろうと思った。
「はあ……じゃあ俺は下に戻るから、体と接続してくれ。早くレイちゃんとメガトロン様を追わないと……」
「一人でって言われたんだろう? ほっときゃいいじゃねえか」
「ほっとけるか! あの時のレイちゃんは、普通じゃなかった! 何て言うか……死を覚悟したみたいな凄みがあった!」
必死なフレンジーに、ドクターは一つ排気してから体を付ける用意をする。
「しっかし、いちいち他人の手を介さないと頭と体がくっ付かないのは不便だよな~。いっそ自分で着脱できるように改造するか。名付けてヘッドマスター! なんてのはどうだ?」
「いいから早よせい!」
グチャグチャと言い合いながらも、準備を始めるドクターとフレンジー。
彼ら二人も、雑用に追われるワレチューも、モニターに集中しているジェットファイアと雛たちも、後ろの卵の塊の中の一つが、モゾモゾと動いていることには気が付かなかった……。
* * *
レイが指定した座標、そこはハイドラの基地レルネーのある溶岩洞よりも、さらに奥、火山の真下に位置する場所だ。
メガトロンは溶岩洞の最奥の壁を破壊し、そこへ通じる抜け道へと侵入する。
そこは石造りの通路が続いていた。
彼のタリショックで地下に沈んだ遺跡だろうか?
知ったことではないとばかりに、メガトロンは通路を進んでいく。
後ろでは一人でに石の扉が重々しい音を立てて閉じるが、メガトロンは意にも介さない。
やがて突き当たったのは、途方もなく広い、神殿のような空間だった。
石の円柱が高い天井を支え、柱に埋め込まれた光る結晶が光源となっていた。
その奥には、祭壇があり精緻な細工が施された金属製の箱が祭られていた。
祭壇の前にレイはいた。
「レイ」
「……来てくれたんですね」
祈るような姿勢を取っていたレイは、立ち上がって振り返る。
その髪は青く輝き、顔は微笑んでいた。
「メガトロン様。ここ、何だと思います?」
レイは笑顔のまま問うが、メガトロンは答えない。
「ここは結婚式場です。多くの男性と女性が、ここでタリの女神に見守られて夫婦になった」
昔を懐かしむような雰囲気のレイだったが、フッとその表情が翳る。
「……だけど、同時に女神の墓場でもある。タリの女神はここで殺された。この場所で。まるで昨日のことのように思える」
だんだんとレイの声が低くなり、目つきが鋭くなっていく。
「あの日も、結婚を見届けてほしいと、ここに呼び出された。でも待っていたのは、何人もの武装した男たちと……一人の剣闘士だった」
その肉体が黒いオーラと青い雷光に包まれる。
「あの裏切り者どもが、私から全てを奪った。この私から。この……タリの女神である、私から!!」
そして、レイの姿は変わった。
衣服は黒を基調としたレオタードのような衣装に。
薄青の長い髪は燐光を帯び。
胸は豊満になっている。
背には刺々しい意趣の大きな翼。
特徴的な角飾りは二本になっている。
そして、瞳には女神の証たる紋様が浮かんでいる。
表情は、憤怒と怨念に彩られ、傲慢と狂気に歪んでいた。
トレイン教授が、あるいはオプティマス・プライムがこの場にいれば、その姿が壁画や伝承に残るタリの女神、その物だと言っただろう。
レイはフワリと宙に浮きあがると、手の中にさらに大きくなった杖を召喚し、メガトロンに向けると普段とは違う、狂気染みた声色で吼えた。
「子供たちのお守りも、お前の野望も終わりさ! お前は最初から私が女神だと気付いていた。だから私を味方に引き込んだ! そうだろう!」
「…………そうだ」
メガトロンは少し間を置いてから無表情で答えた。当然とばかりに。
レイは一瞬、悲しそうな顔になったが、すぐに傲慢な表情に戻る。
「お前の考えを当ててやるわ、メガトロン! お前はどうやってか知らないが、このゲイムギョウ界からシェアエナジーを奪い、シェアを味方にした女神を使ってサイバトロンにもたらす……そうすることで星を再生させる。それが狙いなんでしょう!!」
「…………そうだ」
「ハッ! あの坑道で私に自分の過去を語ったのも、ケイオンで私を助けに来たのも、全部、私を抱き込むため。女神の力が目合てだったんだろう!!」
「…………そうだ」
「は、ハハハ、アーハッハッハ!! 傑作だ! こいつは!!」
どこまでも無表情なメガトロンに、レイは哄笑し小馬鹿にしたような薄ら笑いを浮かべる。
「でも残念でしたぁ~! 私の女神としての力は不完全だしぃ~? 肝心のシェアを土地に還元することが出来ないんですぅ~! いわゆる無駄骨ぇ~? アハ、アハハハ!!」
ヒトの神経を逆なでする声色と口調でメガトロンを挑発し、睨みつけるレイ。
「何より! この私……大いなるタリを統べる女神を利用しようって腹が許せない。この場で神罰を下してやるよ!!」
「滅んだ国の女神が、ようも吠えおる。……よかろう、躾け直してやろう」
「ハッ! 滅びゆく民の大帝様がほざくじゃあないか! そっちこそ思い知らせてやるよ!」
冷厳と吐き捨て、右腕のフュージョンカノンとデスロックピンサーを展開し、背中からハーデスソードを抜くメガトロンに、レイは狂ったような笑みを浮かべて杖を構える。
「終わらせましょう、何もかも。メガトロン」
「いいだろう。来るがいい、レイ」
レイの体から黒いオーラと青い稲妻が吹き出し、メガトロンのハーデスソードが禍々しい光を放つ。
次の瞬間、両者は激突した。
ここにキセイジョウ・レイ、最後の戦いが始まった。
主な意味は婚約。
……あるいは交戦。
では。