超次元ゲイム ネプテューヌ THE TRANSFORMATION 作:投稿参謀
ハイドラの基地レルネーの上空は、今や騒然としていた。
対空砲が火を噴き、戦闘機が緊急発進する。
ディセプティコンの空中戦艦は、対空砲のとどかないギリギリの高度で悠然と静止していた。
基地から発信した計15の戦闘機、最新鋭とはいかないものの未だに第一線で活躍する主力機の一機に乗ったパイロットは、自信に満ち溢れていた。
彼は腕利きの戦闘機乗りであり、かつてはリーンボックスの国軍に属していたこともある。
そんな彼がハイドラなどと言うテロ組織に組みしているのは、敵を撃ち落とす快感に憑りつかれてしまったからだ。
戦争を放棄した祖国と女神などに用はない。
他の機に乗るパイロットたちも似たようなものだ。
彼らは自分たちこそが、こと空中と言う戦場に置いて最強だと信じており、女神でさえ地に落とす自信があった。
だから、宙に浮かぶ甲殻魚のような空中戦艦を見て、思わず失笑を漏らしてしまったのだ。
『何だ? あの不恰好なクジラみたいのは? 飛行船の時代はとっくに終わってんだぜ』
『所詮、ディセプティコンと言っても、空の戦い方については素人だな』
『よし、誰があの木偶の坊を落とせるか競争しようぜ!』
勝気な言葉が通信回線を飛び交う。
そんな時、件の空中戦艦の下部ハッチが開き、一機の戦闘機が現れた。
ハイドラの戦闘機よりも一世代先の、鋭角的なシルエットが特徴的な最新鋭ステルス戦闘機。
それがハッチから自由落下を始めたかと思うと、後部ブースターを吹かして飛行を始めた。
どうもこちらを攻撃する気らしい。
思わず、口元に嘲笑が浮かぶ。
世界最高の戦闘機乗りのチームに、ドックファイトを挑もうと言うのか。
――面白い。その傲慢、後悔させてやる。
すぐさまノロノロと飛ぶステルス戦闘機の後ろに付き、機銃の狙いを定める。
――ゲームオーバーだ。
スイッチを押して銃弾が吐き出された瞬間、……ステルス戦闘機の姿が消えた。
『何!?』
『どこへ……』
『後ろだ!!』
レーダーを確認すれば、敵機は魔法のようにこちらの編隊の後ろに現れていた。
振り切ろうとスピードを上げ急旋回や上昇と下降、錐もみ回転を繰り返すも、獲物を狙う毒蛇のようにピッタリ後ろに付いて離れない。
『駄目だ! 振り切れな……うわああああッ!?』
敵機の機銃の弾によって、僚機の一機が破壊された。
『よくも……あああぁあ!!』
続けてミサイルの的になって二機目が火球になった。
『畜生畜生! こんなのアリか……ぎゃあああ!!』
『あいつはまるで悪魔だ! ……ああああ!?』
次から次へと、味方機が落とされていく。
機銃もミサイルも、全て躱された。
瞬く間に15機いたハイドラ戦闘機は半数以下にまで減っていた。
だが、快進撃もここまでだ。
敵機の後ろに付いた。
さっき敵がそうしたように、猟犬よろしく逃がさず、灰燼に帰すべく、ミサイルを発射しようとする。
その瞬間、敵機が人型に変形した。
逆三角形のフォルムと猛禽のような逆関節の脚を持つ、異形のロボット。
人型になったことで空気抵抗が増し、強制的に減速する。
これが魔法のように消えた理由か。
交錯する瞬間、ディセプティコンは爪を振るって機体を引き裂く。
その時、ディセプティコンと目が合った……気がした。
その顔に浮かんでいたのは、敵に対する憎悪でも、獲物を前にした歓喜でもない。
『退屈』
猛禽が羽虫を食むような、翼竜が小鳥を引き裂くような、勝負にすらならない、そんな表情。
「俺は敵ですらないってのか。畜生……!」
あまりの屈辱に毒づくが、最早彼にできるのは、脱出スイッチを押すことくらいだった。
* * *
全ての敵機を堕とし、さらに対空砲を破壊したスタースクリームは、ロボットモードのまま滞空しながら不満げに首を回した。
せっかく、久々に空戦ができるかと思えば、どうしようもない雑魚ばかり。
他者をいたぶるのが好きなスタースクリームでも、あまりにも張り合いが無さ過ぎて拍子抜けしてしまう。
「ったく、運動にもなりゃしないぜ」
ブツブツ言いながらも、母艦に通信を飛ばす。
「こちらスタースクリーム、羽虫は全て叩き落としましたぜ」
『御苦労。ではディセプティコン、降下開始!!』
メガトロンの号令と共に戦艦は降下を始め、適当な位置で静止すると下部ハッチを開けてディセプティコンを降ろしていく。
豊富な武装を持つ直属部隊。
建機集団コンストラクティコン。
監察部隊ドレッズ……とリンダ。
さらに悠々と地面に降り立った破壊大帝メガトロンの傍らに、スタースクリームも着地する。
ディセプティコン大集合である。
しかし皆、敵地のど真ん中にいると言うのに緊張感はなく、どこかノンビリとした雰囲気だ。
全員いるのを確認し、メガトロンは目の前の地下基地への通路を見る。
通路は金属とコンクリートで出来た隔壁で閉ざされているが、メガトロンは鼻で笑うと右腕をフュージョンカノンに変形させて発射。
隔壁を破壊すると、後ろの部下たちの方に振り向き、一言。
「ゲームスタートだ」
* * *
「来たか」
基地が慌ただしくなる中、マジェコンヌは研究棟の自室でノートパソコンに向き合っていた。
ディセプティコンが襲撃してきたというのに、表情からは危機感が感じられない。
「さて、予定通り餓鬼どもを逃がさないとな……餓鬼どもの送り先はプラネテューヌでいいか。イストワールたちなら悪いようにはしないだろう」
独り言を呟いてからノートパソコンを畳んで電源を抜くと、小脇に抱えてゆったりと部屋を後にしたのだった。
* * *
ディセプティコンたちは我先にと、基地に侵入していく。
真っ先に突撃したのは、足のタイヤでローラースケートのように走るボーンクラッシャーだ。
彼は他のメンバーと違い、怒り狂っていた。
「テメエら、ぶっ潰す! 叩き潰して踏み潰して、それから磨り潰してやる!!」
レイを浚われたことで、ボーンクラッシャーの中に往年の『方向性無き破壊衝動』が復活したのだ。
いや、方向性はある。
「うおおおお!! レイを返せやゴラァアアア!!」
レイを傷つける者に、その怒りは向けられているのだから。
身内から沸きあがる憤怒のままに、ボーンクラッシャーは敵に敵陣に突貫する。
待ち受けていた装甲車を2、3台まとめて跳ね飛ばし、
その後ろの戦車をひっくり返し、
さらに電流の流れるフェンスを突き破り、
自動兵器を何機も蹴散らし、
鉄骨製の監視塔を殴り倒し、
建物の壁を破壊して反対側に突き抜け、
そこに待機していた戦闘ヘリを叩き潰す。
それでも、ボーンクラッシャーは止まらない。
* * *
基地の一角にあるロックダウンのアジト。
「大変ですオヤビン! ディセプティコンの奴らが攻めて来ました!」
「数は?」
「正確には分かりやせんが、大勢いやした! メガトロンとスタースクリームが直接出張って来てるみたいです! マルヴァから、応戦しろって依頼が来てやすぜ!」
ロックダウンは歩きながら、副官格の手下の報告を聞いて首を回してから排気する。
「割に合わんな。……すぐに全員に伝えろ。持てる物だけ持て。例の抜け道で撤収するぞ」
「よろしいんで?」
「構わん。命まで懸ける義理もない。オプティマスを連れていくぞ。奴と女神を人質に、教会から身代金を搾り取る」
そう言って、ロックダウンはオプティマスが囚われている部屋の扉を開ける。
だが、鳥籠のような檻はもぬけの殻だった。
スキャンしてみれば、拘束具が力づくで壊されている。
「ッ! あの野郎、この拘束具は特殊合金製だぞ!? 無茶苦茶しやがって! 筋肉式脱獄ってか!?」
怒りに顔を歪めるロックダウンに、手下が不安げに問う。
「ど、どうしやす!?」
「…………仕方がない。このまま逃げるぞ」
いずれ落とし前は付けるとしても、今は避難の方が先だ。
自分と部下たちとスチールジョーの命には代えられない。
* * *
「派手にやってるなアイツ……」
ボーンクラッシャーが暴れているのを遠目で見たブロウルは、戦車からギゴガゴと変形して立ち上がる。
すでにディセプティコンたちは方々に散っていた。
装甲車や戦車、自動兵器がブロウルを取り囲むが、ブロウルはまるで動じない。
「さ~て、久々の
言うやブロウルは全身の火器を発射する。
両肩のミサイル。
右腕の四連バルカン。
左腕の機銃。
腰だめの主砲。
背中の副砲も迫撃砲として使う。
全ての砲が火を噴き、振り注ぐ砲弾が建物どころか地形ごと敵を吹き飛ばす。
「はっはー! 花火にしちゃ、ちと風流に欠けるな!!」
跡に残るは、焼け焦げた更地ばかり……。
ブラックアウトは自分を模した無人兵器をプラズマキャノンで薙ぎ払っていた。
今回は遠慮する必要がないので、最初からフルパワーだ。
「ふん! この程度で俺の模造とは片腹痛いわ!!」
「兄者、油断するな」
ブラックアウトの背を守るのは、もちろん義弟のグラインダーだ。
二体のヘリ型ディセプティコンの巻き起こすプラズマの波は、基地を容赦なく飲み込んでいく……。
敵を迎え撃つべく進む自動兵器の群れを何処からか飛来した刃物の塊のような物が回転しながら切り刻む。
残った兵器群が反応するより早く、物陰から現れたバリケードが新武器レッキングクローで叩き斬った。
「手応えのない。これならスピード違反をする餓鬼の方がまだマシだ」
バリケードは回転する刃物……ブレード・ホイールアームを回収すると皮肉を吐き捨て、さらなる獲物を求めてパトカーに変形して走り去った。
「カーッペッ! 他の連中に負けてられるか! コンストラクティコン、合体デバステイターだ!!」
リーダーたるミックスマスターの号令に、建機集団コンストラクティコンは集結する。
「コンストラクティコン部隊! トランスフォーム、フェーズ1! アゲイン、トランスフォーム、フェーズ2!!」
ミックスマスターの号令の下、ギゴガゴと異音を立てながらコンストラクティコンたちは、建設車両に変形し、さらに合体していく。
そうして誕生するのが、圧倒的な巨体を持つ怪物ロボット、合体兵士デバステイターだ!!
デバステイターは咆哮を上げると動き出す。
全身から機銃やミサイルをばら撒き、歩くだけで建物を崩し、戦車や装甲車を遠慮なく踏み潰すその姿は、怪獣映画その物だ。
他の者たちが思い思いに破壊に興じる中、ドレッズとリンダは特別な任務を帯びていた。
「情報によると、あのドームにレイとフレンジーがいるようだ」
「ま、回収対象が纏まっててくれるのは、ありがたいYO!」
「ガウガウ!」
彼らがメガトロンから仰せつかったのは、レイたちの保護である。
そのために、研究棟へと向かう。
先頭をズンズンと大股で足早に進むのは、真剣な顔のリンダだ。
「貴様ら! ここから先には……」
「邪魔だ」
飛びかかってきた兵士を右手に持った鉄パイプで殴り倒し、リンダは無人の野を行くが如く歩き続ける。
「姐さん、待っててください!」
彼女を突き動かすのは、一刻も早くレイを助け出そうという思いだ。
建物の上に立ったメガトロンは、一方的な、只々一方的な戦況を若干満足げに眺めているのだった。
* * *
監獄区画にも、戦いの音は届いていた。
「ちょっと! コレどうなってるのよ!」
アブネスは独房の戸をドンドンと叩くが、すでに兵士たちは持ち場を離れていた。
「誰かいないの! 訴えるわよ!!」
怒っても喚いても、扉は微動だにしない。
「こうなったら……うりゃあああ!!」
意を決したアブネスは扉に向かって助走を付けて体当たりを敢行する。
その瞬間、扉が開いた。
「え、ちょ? きゃあああ!!」
勢い余って外へ飛び出して止まることができず、反対側の壁に激突した。
「いたたた……何なのよ、いったい!」
ぶつけた額をさすりながら振り返ると、ゴーグルと覆面で顔を隠した兵士が立っていた。
「ちょっとアブちゃん、大丈夫?」
「うるさいわね! アンタたちなんかに……ってその声?」
心配そうな声を出す兵士にアブネスは涙目になって睨みつけるが、声を聴いて首を傾げる。
兵士は覆面の下でニッと笑うと、アノネデスの入っている独房を開けた。
そして、黙ってベッドに座っているアノネデスの傍に歩いていく。
「ほい、身代わり御苦労さま」
その肩を兵士が軽く叩くと、アノネデスの体……正確にはメカスーツが粒子に分解して兵士に纏わりつく形で結集してメカスーツに再合体する。
「いや、オートボットの技術でスーツを改造しといて良かったわ。おかげで結構自由に動けちゃった♡」
そう言って兵士……に扮していたアノネデスは、唖然とするアブネスに鍵を投げ渡した。
「さ、みんなを出してあげましょ♡」
* * *
『第1、第2区画壊滅! 第3区画も時間の問題だ! まるで地獄だぜ!!』
『戦車が……玩具みたいに、宙を舞って……』
『こちら、居住区画! 辺り一面火の海だ!! 消火が追いつかん!!』
『発電施設が破壊されたぞ! あの怪獣みたいな奴だ!!』
『メガトロンだ! メガトロンが来た!!』
『誰か救援を! 救援をよこしてくれ! こっちの部隊はもう壊滅状態なんだ!!』
『馬鹿を言え! そんな余裕ない!』
『畜生! こんなの勝てるワケがあるか!!』
『救援はまだかぁああああ!! 誰か助けてくれぇえええ!!』
『こんな状況で、まだ撤退命令は出ないのか!?』
『撤退ったって、どこに逃げんだよ!?』
『マルヴァはどうした! あの女が指揮官だろが!』
『そうだ! 撤退でも応戦でも、とにかく指示を、指示をよこせ!!』
『俺は見たんだ! あの女…………自分だけ真っ先に逃げやがったぁああああ!!』
* * *
研究棟の子供部屋。
子供たちとネプテューヌには、外の様子は伝えられていないが、絶えることのない爆発音がここまで聞こえてくる。
「ねぷてぬ……」
「大丈夫だよ! みんな、落ち着いて!」
不安げな子供たちを、ネプテューヌはなだめる。と言っても根拠なぞないが。
何とかして子供たちを逃がさなくては……。
と、扉が開いて何人かの人間たちが入って来た。
それはアブネスとアノネデス、それにトレイン教授と発掘隊の面々だ。
「女神様、ご無事ですか!」
「教授! うん、わたしたちは無事だよ!」
トレイン教授の呼びかけに答えてから、知らない大人たちに怯えている子供たちに笑いかける。
「みんなー! 大丈夫だよ、この人たちは味方なんだ!!」
「味方?」
しかし、子供たちは大人たち……の中のオカマと幼女モドキに疑いの眼を向けていた。
「は~い、ねぷちゃんたち~♡ 元気してた~♡」
「うぉおお! 幼女がたくさん!! ここは天国!? 幼女天国なの!?」
「……味方?」
「み、味方だよ。濃いけど、見た目よりは良い人たちだし」
こんな状況でもブレない二人に、ネプテューヌも苦笑を漏らす。
一方で、トレイン教授が話を切り替える。
「だいたいの話はミスター・アノネデスから聞きました。子供たちもいっしょに脱出しましょう。後はどうやって逃げるかですが……」
「それなら大丈夫。兵士に化けてる間に『ある人』から、脱出用の通路の情報を入手したの。そこから逃げましょ」
アノネデスは口元に手を当てて笑う。用意周到なことだ。
トレイン教授は頷いた。
「では急ぎましょう。ここにもディセプティコンがやって来るかもしれない」
「あ! ちょっと待って!」
さっそく移動しようとする一同だが、ネプテューヌが声を上げた。
アブネスが目を光らせる。
「何よ、幼女女神! 今は幼女たちを安全な場所まで連れてくのが最優先でしょう!」
「うん、もちろん。だから、みんなは先に行ってて。わたしはオプっちやレイさんを助けに行くから」
ネプテューヌは女神であり、この中では一番戦闘力が高い。
アノネデスは頷き、トレイン教授やアブネスも不満げながら納得したらしい。
だが、ピーシェが不安げにネプテューヌを見上げた。
「ねぷてぬ……」
「大丈夫だよぴーこ! 悪者なんかやっつけて、レイさんたちといっしょに後を追うから! みんなはぴーこが守ってね」
「うん……」
なおも不安そうなピーシェを一度ギュッと抱きしめてから、ネプテューヌは立ち上がる。
オプティマス、レイ、マジェコンヌ。
彼らを置いて逃げるワケにはいかない。
* * *
唯でさえ戦力差がある上に、指揮官が逃げ出し士気を欠いたハイドラに勝ち目などあろうはずもない。
残されたのは、それでも無駄な抵抗を続けるか、あるいは一縷の望みをかけて降伏するかだ。
兵士たちは前者を選んだ。
有機生命体を下等と考えるディセプティコンが、降伏を許してくれるとは思えないからだ。
残った兵士たちは司令部に当たる建物に集結し、周辺に戦車や装甲車を配置して陣を敷いていた。
司令部の周りを包囲したディセプティコンたちは、ちょっと一休みとばかりに弁当として持ってきたエネルゴンやオイルを食べる。
メガトロンもエネルゴンを摂取していたが、その傍にいつの間にか人影が現れた。
黒い衣服に、トンガリ帽子の魔女のような風体の女性だ。
そう、マジェコンヌである。
ハイドラに組みし、ディセプティコンからすれば裏切り者も同然の彼女だが、メガトロンは別段怒りを向ける様子も見せず、それどころかニヤリと笑った。
「御苦労。我が同盟者よ」
「なに、これでも、昔から人を欺くのは得意でね」
マジェコンヌも笑い返し、持っていたノートパソコンを地面に置く。
するとノートパソコンはギゴガゴと音を立てて、金属の体を持つ鳥へと変形した。
甲高い鳴き声を上げると、鳥……レーザービークは飛び上がり、メガトロンが差し出した腕に止まる。
「レーザービーク、お前も御苦労だった。大義である」
「光栄の至り」
慇懃に頭を下げるレーザービークに、メガトロンは満足げだ。
「それにしても、お前がこんなにも優秀なスパイだとは思わなかったぞ、マジェコンヌ」
「私は唯の
珍しくマジェコンヌを褒めるメガトロンだが、マジェコンヌは皮肉っぽく肩をすくめた。
「ともあれ、これで約束通り借金はチャラだ」
「感謝する。……しかしメガトロン、貴様の策はまどろっこし過ぎるぞ」
「ククク、だからこそ、策が上手くハマった時は気分が良いのだ」
事の起こりは、マジェコンヌがマルヴァから勧誘を受けた直後まで遡る。
マジェコンヌはハイドラからの誘いを秘密とはせず、すぐさまメガトロンに報告したのだ。
結果、メガトロンはそれを利用することにした。
借金帳消しを条件に、マジェコンヌをハイドラに送り込み、その動きを自分の計画の一部に組み込んだ。
人造トランスフォーマーの限定的な情報を流すことで、粒子変形を求めるように誘導し、トゥーヘッドをワザとオートボットに捕まえさせ、ハイドラの……その背後にいる企業連の手に渡るよう仕組んだ。
これだけのことをしたのに、マジェコンヌは怪しまれなかった。
実際にスパイ活動をしていたのは、私物としてマジェコンヌに持ち込ませたレーザービークで、彼女自身は協力的だったのだから当然だ。
……さしもに子供たちの助命を願い出るとややこしいことになるので、独断でアノネデスに情報を流して逃げさせたが。
「で? レイの奴は回収したのか?」
「あれなら問題なかろう。いざと言う時は、一人で逃げるくらいの戦闘力はある」
当然と言わんばかりの顔のメガトロンだが、マジェコンヌは腕を組んで少しだけ口角を上げる。
「分かってないな。あれは情が篤すぎる。まさか、その情がトランスフォーマーの雛にだけ向けられるとでも思っていたのか?」
「……どういうことだ?」
「レイは休暇の間に発掘隊と仲良くなってな。そいつらを人質にでもされたら、逃げるどころではないだろう」
マジェコンヌの言葉に、メガトロンはチッと舌打ちのような音を出してから通信回線を開く。
「クランクケース、応答せよ」
『はいメガトロン様。こちらクランクケース。何かご用でしょうか?』
「そちらの制圧状況を報告せよ。レイを回収したのだろうな?」
『施設そのものは問題なく制圧完了しておりますが、隔壁によって特に堅く閉ざされた区画があり、侵入するのに難儀しております。レイとフレンジーはそこにいるものと思われます』
メガトロンは目つきが鋭くして声を荒げる。
「何をグズグズしておる! 急がんか!」
『は、ハッ! 可及的速やかに処理いたします!』
「重ねて命じる、急げよ! 通信終わり!」
イライラと通信を切るメガトロンだが、マジェコンヌが口に手を当てて笑いをこらえていることに気が付いた。
「何が可笑しい!」
「いやなに、貴様もレイのことになると、随分と人間臭くなると思ってな」
「ふん! あれは俺の遠大なる計画に欠かせぬ
「……ま、それならそれでいいさ」
マジェコンヌはヤレヤレと肩をすくめる。
メガトロンは荒く鼻を鳴らすような音を出すと、部下たちに檄を飛ばす。
「気が変わった! ちゃっちゃと抵抗する馬鹿どもを片付けるぞ! 総員、攻撃準備せよ!」
ディセプティコンたちは、不満そうな者もいたものの、すぐに攻撃準備を始める。
「準備が出来次第、総攻撃だ! 宴の締めにデカい花火を上げるぞ!」
* * *
そのころ……。
研究棟の地下、ドレッズが開けようと悪戦苦闘している分厚く堅牢な隔壁の奥にある研究区画には異常な光景が広がっていた。
破壊された実験器具の数々。
意識を失い床に転がる非クローン兵士や研究者たち。
そして、何者かに向かって跪くクローン兵たち。
「れ、レイちゃん……」
愕然として、フレンジーは発声回路から言葉を絞り出した。
視線の先では何人ものクローン兵に傅かれ、レイは杖を手に雷のような青い光に包まれて立っていた。
その表情には、超然とした冷酷さと、母が如き慈愛とが同居していた。
見る者あれば、こう思うだろう。
まるで、女神のようだと……。
マジェコンヌ、フラグ一覧。
①ハイドラに入るの嫌がってたのに入った。
②やたら限定的なディセプティコンの情報。
③ゲハバーン編の間の誰の味方とも付かない行動。
④レイのことをハイドラに誤魔化す。
⑤レイの方もマジェコンヌと普通に会話してる。
⑥ノートパソコンのデスクトップがリーンボックスのトップアイドル=5pb.
ここまで露骨に伏線張ったのに、意外と気付かれないもんだな、なんて思ったり。
では。