超次元ゲイム ネプテューヌ THE TRANSFORMATION 作:投稿参謀
盛り上がんないなあ……(二度目)
その上短い。
じゃあ、どこから話そうか?
……そうだね、最初からにしよう。
昔、わたしたち女神は争っていたんだ。
最初の理由は、もう思い出せない。
……うん、思い出せない程度の理由だったんだと思う。
とにかく、もう何十年、何百年も、私たちは戦っていた。
わたしは、それが当然だって思ってた。
戦い続けるうち、わたしはドンドン戦いにのめり込んでいった。
教会の職員の中には、それを嫌がる人もいたよ。いーすん……教祖のイストワールも、その一人。
だけど、わたしは聞かなかった。
あの頃のわたしは女神だってことに驕ってたんだと思う。
戦って勝つことが、敵を倒すことが、みんなの幸せに繋がるんだって、信じてた。
せっかくできた妹にも、他の国の女神候補生と、仲良くしちゃダメ、あなたはこの国を背負うんだから、なーんて言っちゃってさ。
そうやって、周りにも戦いを強いていた。
国民にも、プラネテューヌが一番なんだって、一番になれって言い続けた。
そんなある日、女神四人で直接戦うことになったんだ。
切っ掛けは、全面戦争になる前に国民を巻き込まないように、女神だけで決着を付けようって、ノワールが言い出してさ。
で、四つ巴で戦ってたんだけど、これが中々終わらない。
何せ強さは互角くらい、その上全員が負けず嫌いで意地っ張り。
そのまま、ずーっと、それこそ何千年も戦うことになるかと思ったんだけど、誰かが言ったんだ。
じゃあ、最初に力を合わせてネプテューヌから倒そうってさ。
……誰が言ったかって? さあ?
ノワールだったような、ブランの気もするし、ベールかもしれない。
とにかく、それで三人ともいきなりわたしに襲い掛かってきたんだ。
わたしは快刀乱麻に返り討ち! ……とはもちろんいかず、寄ってたかってフルボッコ! まいっちゃったよ、まったく。
その上、周りに被害が出ないように、空高くで戦ってたのが悪かった。
必殺技を三連続で喰らわれたわたしは、気を失って地上まで真っ逆さま!
んで、プラネテューヌに墜ちたわたしは……ここらへん良く覚えてないや。
目撃者が言うには、流れ星みたいに落っこちて、頭から地面に突き刺さってたんだって。
幸いって言っていいのか、わたしはその目撃者の、コンパっていう看護師見習いの女の子に手当してもらったんだけど……。
ここからが問題。
な、なんと! わたしは記憶を失ってしまってたんだ!
……うん、マジだよ。
過去の記憶が綺麗サッパリなくなって、自分が誰なのか、何処から来たかも分からない。辛うじて、ネプテューヌって名前は憶えてけどね。
* * *
レイは絶句していた。
――まるで私のよう。
声にせずとも言いたいことは分かったらしいネプテューヌは、一つ頷いてから続ける。
* * *
レイさんも知ってるでしょ?
あの頃のわたしって、滅多に人前に出ない上に、出る時は必ず女神化してたんだよ。
わたしの人間としての姿を知ってるのは、いーすんや一部の教会職員だけ。
だから、だーれもわたしのことなんか知らない。分からない。
で、記憶を探すためにあちこち旅してみることにして、旅費を稼ぐためにクエストを受けるようになったんだけど、ある時、洞窟を調べるクエストを受けたんだ。
そこでわたしとコンパは、ある女の子に出会ったんだ。
クールで可愛いその子と、こんぱは幼馴染だって言うじゃない!
喜んだのも束の間、その子は、ものすごく機嫌が悪くてさ。
こんぱにも、結構キツイこと言うんだよ。
『久し振りに見れば、相変わらず能天気そうね』とか、『アンタたちみたいな子供、ここにいても邪魔なだけよ』って感じでさ。
こんぱもう泣きそうだったよ。
でも、わたしは何でかその子の方が泣きそうに見えた。
だから言ったんだ。
『だったら、アイちゃんもいっしょに行こうよ! きっと楽しいよ!』って。
最初は、嫌がったんだけどね。
そこはわたし! 無理やり……もとい熱心に誘ったら、ついに首を縦に振った!
そんなワケで、わたしとこんぱと、その子……アイちゃんこと、アイエフちゃんの三人でゲイムギョウ界を旅することになったんだ。
* * *
「何て言うか、記憶がない割には、バイタリティ溢れてますね」
自分なんか、記憶がないと自覚した時には、絶望しかけたのに。
少し辛辣なレイの物言いに、ネプテューヌはゆっくりと首を横に振った。
「ううん。しょーじき、心細くて泣きそうになったよ。誰かが『ネプテューヌよ、四つの鍵を探してください』みたいな感じで目的をくれたら違ったのかもしれないけど、それもなかったから。それでも挫けずに済んだのは、こんぱが、わたしの記憶をいっしょに探してくれたから」
* * *
それからは、三人であちこち旅した。
ラステイションは、機械がいっぱいで面白かった。
ルウィーは、初めて見た雪が綺麗だった。
リーンボックスでは、船旅も体験した。
お金に困ったら、クエストを受けて稼いだ。
困っている人を助けたりもした。
こんぱがあいちゃんとばっかり仲良くしちゃって、ちょっとヤキモチを焼いたりもしたっけ。
ホント、楽しかったなあ……。
でも、何処へ行っても、戦争の影におびえて、暗い顔をしてる人がいた。
そんな人たちは、わたしがどんなに頑張っても、笑顔にできなかった。
実はこのころに、わたしは他の女神とも会ったんだ。
ノワールは、人間の姿で町を見て回ったりしてたから、その時に。
ブランとは妹ちゃんたちを連れて遠足中だったな。
ベールなんか、なんとゲーム屋さんでだよ!
向こうはわたしに記憶がないなんて分かんないから、色々揉めたっけ。
ノワールは問答無用で襲いかかってきたし、ブランはいきなりキレるし、ベールは……マイペースだったなあ。
でも、色々あって皆、自分の国とそこに住んでる人たちが大好きなんだってことは分かった。
……ここからが、ある意味本番。
結局、記憶は戻らなくてプラネテューヌに帰った時だよ。
プラネテューヌの女神の……つまり、わたしの……熱心な信者だっていう父子に会ったんだけどね。
この父親の方が……なんて言うか熱心過ぎる人で、プラネテューヌの女神以外の神様を認めなかったんだ。
他の女神を信仰してる奴らなんか、他の国の奴らなんか、全部殺してしまえって、そういつも言ってった。
……でも本当に問題なのは、子供の方だった。
その子はまだ、10才にもならない男の子で、元気で優しかった。
サッカーとゲームが好きで、勉強と歯磨きが嫌いな、隣に住んでる女の子に好きなのに意地悪しちゃう、普通の男の子。
そんな子がさ、言うんだよ。
僕は、早く大人になりたいです。
大人になって、女神様のために他の国の奴らを殺したいです、ってさ。
……わたしは、なんて馬鹿なんだろうって思った。
その子がじゃない、その子の父親でもない。
こんな子供が憎しみを受け継いでるのをほっといてる、プラネテューヌの女神が。
* * *
「……まあ、その馬鹿な女神はわたしでした!ってオチが付くんだけどさ!」
あえて明るく笑っているのだろうネプテューヌに、レイは何と言っていいのか分からなかった。
これは、安易に同情することも、非難することも許されない。
簡単に感想を言うことすら憚られる。
そんなレイの内心を見透かしたのか、ネプテューヌは薄く微笑む。
* * *
……そのすぐ後だった、いーすんとネプギアがわたしたちを訪ねてきたんだ。
いーすんは、ちょちょいのちょい!でわたしの記憶を元に戻した。もう、今までの旅は何だったの?って感じだよ!
……ううん、あの旅は決して無駄な時間じゃなかった。
わたしは知った。
プラネテューヌ以外の国々とそこに住む人々だって、とっても素敵だってことを。
わたしは知った。
敵としか思ってなかった他の女神たちも、みんな必死に自分の国と民を守っているだけだってことを。
わたしは知った。
こんな馬鹿なわたしでも、家族だって、友達だって言ってくれる子たちがいることを。
わたしは知った。
憎しみを次代に、未来に残すことの、どうしようもない罪深さを。
……あなたの言う通り、過去は人の本質なのかもね。
色んな頭のいい人が言うみたいに、戦いはなくならないのかもしれない。
でも、誰がなんて言ったって、憎しみを子供に押し付けるのは、とっても悪いことなんだよ。
陳腐と言われても、薄っぺらいと言われても、事実、傲慢な偽善だったとしても!
わたしを助けてくれた大切な友達や、愛する妹のために!
『戦いは終わって、みんな仲良く幸せに暮らしました』っていうハッピーエンドが欲しいんだ!
* * *
「……これで、わたしの話はお終い」
ネプテューヌはフウッと息を吐いてから、いつもの能天気な笑みを作った。
「いや、柄にもなく自分語りとかしちゃったよ! ホントは結構恥ずかしいんだよ! こう言うの、言葉にすると何か安っぽくなっちゃう気がしてさ! ……言えて、ちょっとスッキリした。聞いてくれてありがと」
レイは最後まで圧倒されていた。
これが、ネプテューヌの中身。
おそらく、この姿はネプテューヌの一面に過ぎない。
普段の能天気で無邪気なネプテューヌも、彼女の偽らざる姿なのだろう。
ただ、一つだけ分からないことがある。
「……どうして、そのことを公表しないんです? それをみんなに言えば、もっとスマートに友好条約が結べたはずです」
友好条約を結ぶまでに、他の国の女神たちや、教会の人間を説得するのは大変だったらしいことは、レイも知っている。
ネプテューヌは柔らかく微笑んだ。
「平和を作るのにさ、そんな御大層な理由、いらないじゃん。平和になってほしいって、ただそれだけでいいんだよ」
その答えに、レイはぐうの音も出ない。
かつて、レイは彼女を薄っぺらいと扱き下ろした。
しかし、彼女には在ったのだ。
平和を希求し、憎しみを終わらせようとする、その理由が。
――じゃあ、私は? 私の憎しみは、それほどまでに重要な物なのか?
答えてくれるはずの『過去』は姿を見せず、ヒントをくれるはずの『未来』は無情に沈黙する。
思い浮かんだのは、破壊大帝の背と、雛たちの声だった。
破壊大帝の過去と、雛たちの未来。
天秤に賭けるには、どちらも重すぎる。
* * *
檻の中でネプテューヌの話を聞いていた……盗聴していた……オプティマスは、一人納得していた。
ネプテューヌに、平和を求める確たる理由があるのは察していた。
それを問わなかったのは、ネプテューヌにとって、平和を求めるのに深い理由はいらないことも分かっていたからだ。
彼女はただ、自然体で皆の幸せを願いたかったのだ。
最初にそれを打ち明けたのが、自分ではなかったことには一抹の寂しさを感じるものの、自分はそれに応えるのみ。
……その行く末に、自分の居場所がなかったとしても。
* * *
「…………」
オプティマスが盗聴しているのをさらに盗聴していたロックダウンは、何も言わなかった。
しかし仕事なので、オプティマスがネプテューヌに盗聴器を仕掛けたことを、マルヴァに報告するために立ち上がった。
ただ、その足取りは酷く重たげだった。
知人に、『トランスフォーマーとネプテューヌでする話じゃねえよwww。 読者はドンパチやギャグを求めてんだからwww。ホントセンスねえなwww』(やや意訳)
その通りです。
でも、『憎しみを未来に受け継がせるのは、どうしようもなく罪深いこと』
これは自分が固く信じてることです。
例え、この世の何物がどう言おうとも。
傲慢な物言いを、どうかお許し下さい。
では。