超次元ゲイム ネプテューヌ THE TRANSFORMATION   作:投稿参謀

100 / 203
あるいは、オプティマスの巨人退治。


第85話 荒野の決闘

 プラネテューヌの北西部。

 この辺りには、何もない荒野が広がっている。

 

 太陽の光が地面を照らす中を、コンテナを牽引した赤と青のファイヤーパターンが特徴的なトラックが走っていた。

 

 トラックはやがて舗装された道路を外れ、道なき道を進み、岩山に掘られたトンネルに入る。

 木組みの壁のトンネルは、古い時代の物らしい。

 

 トンネルを抜けると、そこは古い鉱山跡だった。

 

 ルウィーにあった鉱山とは違い、ここはいわゆる露天掘りの鉱山らしく、すり鉢状の谷になっていた。

 トラックが出たのは、その谷の底だ。

 

 谷底の真ん中で停車すると、ギゴガゴと大きな人型ロボット、オプティマス・プライムに変形する。

 コンテナは各種武装へと変形した。

 

「ハイドラヘッド! 誘いどおりに来てやったぞ! 姿を表せ!!」

「フフフ……オプティマス、来てくれて嬉しいよ」

 

 オプティマスが吼えると、どこからかハイドラヘッドの声が聞こえてきた。

 見回せば、こちらを見下ろす位置に黒いトランスフォーマーが立っていた。

 

 オプティマスを模して作られた人造トランスフォーマー、ネメシス・プライムだ!!

 

「さあ、ネプテューヌたちを返してもらうぞ!!」

「連れないなあ。せっかくなんだ……まずは楽しんでくれ!!」

 

 ネメシス・プライムが指を鳴らすと、高台の向こうから戦闘ヘリが飛来した。

 ゴテゴテと重火器で武装した姿は、もはやヘリとは言い難い何かだ。それが数機。

 

 さらに反対側からは、これまた何台かの戦車が現れる。

 砲塔には主砲に加え、機関砲とミサイル砲が存在感を放っている。

 

 ヘリにせよ戦車にせよ、人の乗るスペースが見当たらない。

 

 そもそもオプティマスのセンサーはそれらが全て人の乗っていない無人兵器であることを察知していた。

 

「ハハハ! 誰も一対一だなんて言っていないよ! 以前捕らえたディセプティコンのデータを基にした自動兵器の数々! 味わってくれたまえ!」

 

 卑劣なハイドラヘッドに、オプティマスは怒気を強くする……かと思ったが、すぐに呆れたように排気した。

 

「そんなことだろうと思っていた。貴様が一対一の決闘など、するはずもないからな」

「おや、私のことを理解してくれて嬉しいよ。さあ、我がハイドラとの決闘……いや戦争と洒落込もう!」

「いいだろう」

 

 言うやオプティマスは一瞬でガトリングを構えて掃射する。狙うは空中に浮くヘリ型だ。

 凄まじい勢いで吐き出される弾丸が、無人兵器に命中する。

 

 やがてガトリングの弾が切れるとポイと捨てて、レーザーライフルと強化イオンブラスターを手に、敵の中に飛び込む。

 

 戦車の装甲の薄い部分を的確に撃ちぬき、ヘリを次々と撃ち落としていく。

 その間にも、敵がまとまっている所に手榴弾を投げ込んでやるのも忘れない。

 

  *  *  *

 

「頑張れー! オプっちー!!」

 

 ハイドラの地下都市基地レルネーの一角。

 研究棟になっているドーム状の建物の一室で、ネプテューヌは恋人を応援していた。

 周囲にはマジェコンヌとレイもいる。

 何を思ったのか、ハイドラヘッドはオプティマスとの戦いの様子を中継してネプテューヌたちに見せていた。

 

「あの場所なら、高い場所から狙い撃てると踏んだのだろうが、あそこを選んだのが裏目に出ている。その上、無人兵器は思考が単純だからな」

「うん。普段オプっちは、あんまり被害が出ないように戦ってるけど、今は気にしなくていいから」

 

 マジェコンヌの言葉にネプテューヌは頷く。

 強大な戦闘力を持つオプティマスだが、周囲や仲間に巻き添えにすることを恐れて、力を抑えている。

 

 それが今回は、たった一人での戦いであるが故に全力を出している。

 

「あるいは、……全力を出させるのが狙いかも?」

 

 意外な言葉に、ネプテューヌとマジェコンヌがそちらを向く。

 発言者であるレイは慌てて手を振るが、むしろ二人は納得した様子だった。

 

「ああ、いえ! ふとそう思っただけで……!」

「ううん。多分それで合ってると思う」

「奴は、オプティマスと戦うことに病的な執着を持っているからな」

 

 三人が揃ってモニターを見れば、オプティマスが敵を蹴散らしている。

 

 恋人を浚って怒りを煽り、周囲の被害を気にせずに戦える場所に誘き寄せ、容赦のいらない無人兵器をぶつける。

 

 まるでオプティマスの本気を引出そうとしているかのように、思えてならなかった。

 

  *  *  *

 

 戦いが始まっていくらか経つ頃には、ほとんどの戦車とヘリが残骸と化している。

 

「こんなガラクタで私を倒せると思っているのか? だとしたら、舐められたものだ」

「ハハハ! ここからが本番さ!!」

 

 ネメシス・プライムは大きくジャンプする。

 その背のバックパックから翼が展開し、ブースターを噴射して飛び上がる。

 

「どうだい? 君と、あの女神を研究して作ったジェットパックだ!!」

「だからどうした、下らん」

 

 テンションの高いハイドラヘッドに対し、オプティマスは冷厳と言い放つと、ビームバズーカを構えて撃つ。

 エネルギー弾を避けたネメシス・プライムは、手に持った銃を撃つ。

 最小限の動きで弾を躱すオプティマスだが、地面に当たったエネルギー弾が弾けると、オプティマスの足を巻きこんで凍りつく。

 

「ハハハ! 以前奪ったマジックボムを応用したマジックブラスターだ!」

「全て人から奪った物か、猿真似ばかり。それを自慢とは、程度が知れるな」

 

 オプティマスは氷を殴って割り次の弾を避けるや、トラックに変形してネメシス・プライムに向けてアクセル全開で走り出す。

 

 ネメシス・プライムの放つ、炎、雷撃、カマイタチ、様々な魔法が襲い掛かるも、それらを避けながら、あるいは当たっても無視して突っ走る。

 土の盛り上がっている所をジャンプ台代わりにして、空中のネメシス・プライムに向かって大ジャンプする。

 

「ッ!」

 

 さらに高度を上げて躱そうとするネメシス・プライムだが、オプティマスは空中でロボットモードに戻って自分の複製に組み付く。

 

「うおッ!?」

「貴様に空は似合わん! 地面に這いつくばるがいい!!」

 

 そのまま組み合いながら地面に墜落する両者。

 オプティマスは相手に隙を与えず、馬乗りになって自分を模した顔面を殴る。

 

「ぐおぉおお!?」

「ネプテューヌを! 返せと! 言って! いる!」

 

 怒りを込めて何度も何度も殴る。

 

 最初に会った時から、こいつはヒトの神経を逆なでするようなことばかりする。

 いい加減うんざりだった。

 

 ネメシス・プライムも殴られっぱなしではなく、顔に内蔵されたビーム砲で反撃しようとするが、オプティマスはそれを許さず、自身の拳にナックルダスターを被せるように展開して顔面に突き刺す。

 砲口ごと、ネメシス・プライムの頭部はグシャリと潰れた。

 

「ハハハ、ハッハッハ! ハッハッハッハ!!」

 

 しかし、ネメシス・プライム……ハイドラヘッドは笑う。

 

「何が可笑しい!!」

「ハハハ! やっとだオプティマス! やっと君と戦争している!! 私はやっと戦争が出来てるんだ!!」

 

 異様な様子に、オプティマスは一瞬動きを止める。

 その隙を逃さず、ネメシス・プライムはオプティマスを投げ飛ばすと、体勢を立て直す。

 人造トランスフォーマーとは言っても、実態は有人式のロボットに過ぎないネメシス・プライムに取って、頭部を破壊されることは致命打とは言えない。

 

「私は戦うために生まれてきた! 戦うために生み出された!! 戦いの中でしか、私は生きる意味がないんだ!! だから世界に戦争を振りまく! 生きるために!」

 

 笑いながら、しかし、どこか泣きそうな声で、ハイドラヘッドは叫ぶ。

 

「君もそうだろう! 君は戦士だ! 戦いに生き、戦いに死ぬ! そういう生き方意外、もう出来ない! 違うか!?」

 

 その問いに、オプティマスは油断なく銃を構え直しながら答える。

 

「……その通りだ。私は、戦いの中でしか生きられないのだろう」

「ハ……ハハハ! やっと認めたな! そうだとも、我々は同類だ! 平和な世界に、我々の居場所はないんだよ!!」

 

 ハイドラヘッドは哄笑する。

 

「あの女神どもの言う通り平和になった時、君の居場所はないぞ! 人間なんて勝手なもんだ。戦時の英雄も、平和になれば用済みのゴミみたいに捨てられる! そんな世界を君は受け入れるのか!?」

「そんなことか。受け入れる他に何がある」

 

 静かに、オプティマスは答えた。

 

「…………は?」

「戦士に居場所がないのなら、作るように尽力するまで。誰かが仲間に犠牲を強いるなら、抗おう。だが、もしも、私一人が死ぬことで故郷に、このゲイムギョウ界に平和が訪れるのなら……私は喜んで、この首を差し出す」

 

 一切の迷いなく放たれた解に、ハイドラヘッドは愕然とする。

 

「ば、馬鹿な……お前は、忘れ去られるのが、必要とされなくなるのが怖くないのか!?」

「それこそが望みだ。戦士を必要としない世界なら、その方がいい」

「女神に、人間に、仲間たちに捨てられてもいいと言うのか!!」

「それが、皆の幸福ならば」

 

 淀みなく、全くの躊躇なく、胸を張って、顔を上げて、オプティマスは当然とばかりに言い切る。

 

「貴様は! 貴様は、自分の幸せはどうでもいいと言うのか!!」

「何を今さら」

 

 後ずさりするネメシス・プライムの姿を見て、オプティマスの顔に僅かに自嘲染みた笑みが浮んだ。

 

「そんな物は、プライムになった時から度外視だ」

 

  *  *  *

 

「何と言うか……凄まじいな。あそこまで自己犠牲的になれる奴は、そうはいないだろう」

 

 そう言いつつも、マジェコンヌの顔には複雑な表情が浮かんでいた。

 決して賞賛はできない、でも否定することは彼女にとって大切な何かの否定と同意、そんな顔だ。

 一方のレイは険しい顔だ。

 

「私は嫌いです、ああいうの。……際限のない自己犠牲なんて、自己満足に過ぎません」

 

 ガルヴァら子供たちが自己犠牲を是とするようになってほしくないと言う母親的な視点からの言葉だった。

 

「……そうだな。その通りだ。……そうでなくてはならないんだ」

 

 マジェコンヌは未だ複雑そうながら頷く。

 

 そしてネプテューヌは……。

 

「……………」

 

 只々、唇を血が出るほど強く噛み締めていた。

 

 あれもまた、オプティマスの一面であると、受け入れるために。

 その上で、まだ彼を幸せに出来ていないことに、胸の内を悔しさと無力感で一杯にしながら。

 

  *  *  *

 

「は、ハハハ、ハハハハ! ど、どうやら君は私が思っていた以上のタマだったらしい! だが、これだけでは終わらん!! 見ろ!!」

 

 気圧されたハイドラヘッドだったが、調子を取り戻し、ネメシス・プライムの胸部装甲を開く。

 ハイドラヘッドの乗る操縦席の上部に、輝く物体が接続されていた。

 それは菱形の金属フレームの内側に球形の金属容器があり、その隙間から暗い紫の結晶が禍々しく輝いているのが見えた。

 

「それは……ゲハバーンか!」

 

 オプティマスは両眼を鋭く細める。

 あのゲハバーン……超高純度、超高純度のダークマターの結晶で作られた、女神殺しの魔剣。魂を喰らうと言われる、呪われた剣だ。

 

「その通り、折れたゲハバーンの欠片を加工し、アダマンハルコン合金製のフレームと制御装置で覆った、名付けて『ダークスパーク』!! そしてこれは、こう使うのだ!!」

 

 ハイドラヘッドが機械を操作すると、ダークスパークから稲妻状の光が放たれ、戦場に転がっている兵器の残骸を打つ。

 するとどうだろう! ヘリが、戦車が、宙に浮かび上がり、ネメシス・プライムに向かって飛んで来たではないか。

 さらにネメシス・プライム自体もブースターを吹かしてもいないのに、空中に浮かび上がる。

 

「ここからが本番だ!! 融合合体(ユナァァイト)!!」

 

 ハイドラヘッドの咆哮と共に、戦車やヘリはバラバラのパーツに解れ、ネメシス・プライムを中心に再構成されていく。

 

 オプティマスの三倍はある人型。

 

 戦車由来の重装甲。

 

 歪に長い両腕の先の五指は、全てバルカン砲だ。

 

 全身から飛び出した無数の機関砲、戦車砲、ミサイル。

 

 そして新たに形成された頭部は、黄色い両眼と大きく裂けた口を持つ怪物的な物だ。

 

 まるで古い怪奇映画に登場する死体を繋ぎ合わせた人造人間……その兵器版だ。

 

「見よ! これぞ、合体兵器クロスファイアだ!!」

 

 ハイドラヘッドは哄笑と共に、オプティマスに向け指からバルカン砲を発射する。

 オプティマスは横に跳んで間一髪で躱すが、クロスファイアは全身の火器を乱射し始める。

 嵐のような弾幕を掻い潜りながら、オプティマスはビームバズーカを撃つ。

 

 ビーム弾は見事命中、クロスファイアはよろけるものの、ほとんどダメージは見られない。

 オプティマスはすかさず、肩のミサイルランチャーを発射する。

 だが、クロスファイアの左肩にバカバカしい大きさのプロペラが現れると、凄まじい勢いで回転。ミサイルを全て弾いてしまった。

 

「ハハハ、アーハッハッハ!! この圧倒的な力を見ろ!! 強靭! 無敵! 故に最強!!」

「無駄口を叩くな! まだ勝負はついていないぞ!!」

 

 テンションが最高潮に達しているハイドラヘッドに対し、砲撃の雨の中を逃げ回るオプティマスは冷静さを失っていなかった。

 

 ――いかに強大で巨大であろうとも、所詮は残骸を継ぎ接ぎ(パッチワーク)したに過ぎない。どこかに弱点はある!

 

 センサーを最大感度にして、勝機を探る。

 

 そして見つけた。

 

「一か罰か、やってみるか」

 

 小さく呟いてから、オプティマスはロケットランチャーとビームバズーカを発射する。

 飛び交う砲撃を避け動き回りながらも、撃ち続ける。

 ミサイルのバズーカの残弾が切れると両者を投げ捨て、両手にレーザーライフルとイオンブラスターを構えてクロスファイア目がけて撃つ。

 

「ハハハ! 血迷ったか!!」

 

 巨人に挑む蟻が如き所業だが、オプティマスに迷いはない。

 

 二丁の銃では、クロスファイアの重装甲に覆われた巨体は揺るがない。

 

 やがてクロスファイアの手がオプティマスを捕まえる。

 

「どうやら、万策尽きたな! 私の勝ちだ!!」

 

 文字通りオプティマスを手に握り、勝ち誇るハイドラヘッド。

 だがオプティマスの表情は、冷淡そのものだ。

 

「一つ教えておこう。……かつてのある神話に登場する青銅の巨人は、足が弱点だったという」

「……何?」

「巨人は無敵の肉体を持っていたが、踵の(びょう)を抜くと、全身の血が抜けてしまう。それが唯一の弱点だったそうだ」

「いったい何の話をしている!!」

 

 急にカビの生えた神話の話など始めるオプティマスに、ハイドラヘッドはイラつく。

 

「ああ、つまりゲイムギョウ界的に言うと……『足元がお留守ですよ?』と言う奴だ!」

 

 言うや、オプティマスは自分を掴む指の隙間からレーザーライフルを捩じりだし、実体弾の弾倉に仕込んでおいたグレネード弾を発射する。

 しかし、狙いはクロスファイアではない。

 

 その足元の地面だ。

 

「何を……おお!?」

 

 ハイドラヘッドの疑問の答えは地面の振動とひび割れだった。

 次々と地面に亀裂が走り、だんだんと足元が沈んでいく。

 

「この鉱山は、無理な採掘で地盤が緩くなっている上、地下にも坑道が蟻の巣のように広がっている。そんな上で大暴れすれば、こうもなる」

「まさか……さっきの攻撃も、このために!?」

 

 ミサイルやバズーカを無駄撃ちしているように見せかけて、地層を揺さぶり、ここに誘い込んでいたと言うのか?

 逃げる間もなく、クロスファイアは地面が陥没してできた大穴に肩まで落ち込んでしまい、動けなくなる。

 

「ぐ、おおおお! こ、この程度ぉおお!!」

 

 それでも、ハイドラヘッドはクロスファイアの力を振り絞って穴から抜け出そうともがく。

 

「いいや、これで終わりだ!」

 

 もがく巨人の眼前まで近づいたオプティマスは、エナジーアックスを大上段に振り上げた。

 振り下ろされた戦斧の刃が、クロスファイアの頭部を首元まで両断する。

 オプティマスはガラクタの山と化したクロスファイアの中に手を突っ込むと、本体であるネメシス・プライムを力任せに引っ張り出すと、仰向けに寝かせる形で乱暴に降ろした。

 

 そしてエナジーアックスを地面に突き刺し、ネメシス・プライムの胸部装甲にエナジーブレードをフック状に変形させたエナジーフックをひっかけ、無理やりこじ開ける。

 

 操縦席で固まっているハイドラヘッドの上部でダークスパークが淡く発光していた。

 オプティマスはダークスパークに手を伸ばし、力任せにこれをもぎ取った。

 

 

 ――ギィイアア嗚呼アアああァアア!!

 

 

 恐ろしい悲鳴のような音が轟き、ダークスパークは光を失った。

 

「さあ、私の勝ちだ。ネプテューヌを返してもらう」

 

 ダークスパークを投げ捨て、ハイドラヘッドがいる操縦席にレーザーライフルを突きつけ、ドスの効いた声を出す。

 

「ふ、ふふふ……」

 

 しかし、ハイドラヘッドはくぐもった笑いをもらした。

 

 まだ何か奥の手があるのかと訝しがるオプティマスだったが、次にハイドラヘッドが発した言葉は予想外だった。

 

「ネプテューヌの居場所は、私を殺せば自動的に君に送信される……さあ、私を殺せ!」

 

 面食らったのも無理はない。

 

「何を言っている? 今度はどういう企みだ?」

「企みなど、ない。……私を殺せ!」

 

 だがオプティマスは冷め切った態度だ。

 

「断る。私はネプテューヌたちを救出したいだけだ。居場所を吐けば、それでいい」

「吐くものか! 殺せ! 殺してくれ!!」

 

 くぐもった笑いはいつしか、悲痛な懇願に変わっていた。

 

「お願いだ! 私に戦いの中での死を!!」

 

 さしもに顔をしかめるオプティマスに、ハイドラヘッドは自分の顔のない仮面に手を掛け、おもむろに外した。

 

「それしか、このクソッタレな人生から解放される方法はないんだ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 仮面の下の顔は、あどけなさを残していて、まだ少年と言っていいくらいだった。

 

  *  *  *

 

「あれは……あの時の兵士さん?」

 

 露わになったハイドラヘッドの素顔に、ネプテューヌは見覚えがあった。

 先日、レイを他の兵士から助けてくれた若い兵士だ。

 

「でも、殴られた痣がないし、あの時はすぐにハイドラヘッドも出てきたよ!」

「確かに……これはいったい?」

 

 二人がマジェコンヌの方を見れば、彼女は苦虫を噛み潰したような顔になっていた。

 

「奴は……いやハイドラヘッドだけではない、ここにいる兵士たちの半分……顔を出してない奴らは、皆同じ顔だ」

「それって……」

「兄弟とか……じゃないよね?」

 

 マジェコンヌは頷く。

 

「あいつらは……クローンなんだ。

 『赤い彗星』と恐れられたパイロット、

 『拳を極めし者』とまで呼ばれた格闘家、

 『蛇』のコードネームを持つ伝説の傭兵、

 『片翼の天使』と言われた英雄的な剣士。

 ……とにかく歴史上の強い奴らの遺伝子をかき集めて混ぜ、

 そこにタリ(ここ)の女神の因子を入れることで調整した、な」

 

  *  *  *

 

「さあ、私に死を与えてくれ! 敵を殺すのが、兵士の役割だろう!!」

 

 懇願するハイドラヘッド。

 だがオプティマスは、銃口をハイドラヘッドに向けながらも決して引き金を引かない。

 

「……断る。この世界の人間を殺すのは、私の権限に反する。どれだけの悪人であろうとも、法の裁きを受ける権利がある。」

「これは戦争だ!! 戦争中なら、法の裁きも何も……」

「くどい」

 

 一種冷酷に、オプティマスは言い切る。

 

「私は貴様と戦争などしていない。貴様はただのテロリスト……犯罪者だ。貴様はゲイムギョウ界の司法により裁かれるだろう」

 

 どれだけ憎くとも、殺すことが情けだとしても、殺すワケにはいかない。

 総司令官としての冷徹な計算がそれを許さない。

 オートボットの総司令官たる自分が、この世界の人間を勝手に罰することはできない。

 それに、これだけの組織にバックがいないとは考え辛い。洗いざらい、吐いてもらわねば。

 

「いい加減にネプテューヌたちの居場所を教えろ」

 

 あくまでも、大切なのはネプテューヌと発掘隊の安全だ。

 そもそも勝負に持ち込めていないことに気付き、ハイドラヘッドの表情が絶望に染まる。

 

 その瞬間、どこからか飛来した弾丸がオプティマスの腹を直撃した。

 

「ぐおおお!?」

 

 腹を押さえて膝を突くオプティマス。

 またもハイドラヘッドの計略かと思ったが、当の本人は何が起こったのか飲み込めていない様子だ。

 

 ――ならば……。

 

 弾が飛んで来た方を索敵すれば、案の定、黒い痩身のトランスフォーマー、ロックダウンが立っていた。

 顔面から伸びた砲身を収納し、ゴキリと肩を回す。

 周囲には配下の傭兵とスチールジョー、そしてハイドラ兵が展開していた。

 

「ロックダウン、貴様……!」

「戦争ごっこは終わりだ」

 

 オプティマスが反撃するより早く、ロックダウンは手をブラスターに変形させてオプティマスを撃つ。

 

「ぐわッ!!」

「安心しろ、スタン弾だ。依頼主は生け捕りがご所望でね。……これでいいのか?」

 

 仏頂面を崩さず、ロックダウンは足元に立つ赤い髪の女……マルヴァに問う。

 

「ええいいわ。このデカブツを持って帰れば、社長たちも喜ぶでしょう」

「マルヴァ! ここには来るなと命令したはずだぞ!!」

 

 命令違反にハイドラヘッドは怒声を上げるが、マルヴァは嘲笑で返した。

 

「生憎とヘッド、あなたは先ほど指揮官の任を解かれました。まあ実働部隊であるハイドラを私物化していたから、仕方ありませんね。指揮は私が引き継ぎます」

 

 マルヴァは、ツカツカとハイドラヘッドに近づく。

 

「つまり、お前は、もう用無しってことだよ!」

 

 そして、さっきまで上官だった相手の顔を嬉しそうに殴った。

 

「がッ!」

「この! クローン風情が! いつもいつも! この私に! 偉そうに! 命令しやがって! クローンの分際で! この!! 私に!!」

 

 呪詛を吐きながらも、その顔はサディスティックに歪んでいた。

 ひとしきり殴ると、満足したのかハイドラヘッドの顔に唾を吐いてからロックダウンに向き合う。

 

「さて、そのデカブツをいったんレルネーに連れてくわよ! この負け犬とガラクタもね! さあ、さっさとしな!」

 

 言われてロックダウンはオプティマスの足に鉤をひっかけて引きずり、何人かの兵士がネメシス・プライムの残骸からハイドラヘッドを乱暴に引っ張り出す。

 

 何処からか飛来した空中戦艦が下部からトラクタービームを発射し、兵士やその『分捕り物』を回収していく。

 

 ロックダウンとオプティマス・プライム。

 

 兵士に拘束されたハイドラヘッド。

 

 傲慢で嗜虐的な笑みを浮かべたマルヴァ。

 

 ネメシス・プライム他、兵器の残骸。

 

 そして、兵士の一人が手に持ったダークスパークには、妖しい紫の光が灯っていた。

 




最近驚いたこと。

いやまさか、カー○ィで『惑星を機械化しようとする悪の企業』なんてのが出てくるとは思わなんだ。ってかロ○ボアーマーかっけえ!

今回の解説

無人兵器
一応、ヘリ型がブラックアウト、戦車型がブロウルのデータを元にしてる。
変形能力をオミットして量産化に成功しているが、つまり独力ではこんなもんしか作れない。

合体兵器クロスファイア
合体『兵士』ではなく、合体『兵器』
ブルーティカスもどき。
名前の由来は……『ブルーティカス』『非正規』で検索すれば分かるんじゃあないでしょうか。作者は責任持ちません。

際限なき自己犠牲
まるで某エミヤンのようですが、違うのは、自ら選択して滅私奉公に徹していること。
故に覚悟は重く、業は深い。

クローン
ええ、クローンウォーズ、好きなんですよ。
色んな強い人間の良いとこ取りして、女神の因子を繋ぎにしてます。
遺伝子混ぜすぎて、元になった人たちの誰とも似てません。

ダークスパーク
呪いは終わらず。

では。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。