超次元ゲイム ネプテューヌ THE TRANSFORMATION 作:投稿参謀
前回の設定ミスですが、そのまま突っ走ることにしました。
この話は、あくまでもパラレルです。そういうことにしておいてください。
※2015年12月23日、改稿。
「よう!」
在りし日の惑星サイバトロンは首都アイアコンの中央議事堂。
その通路を歩いていた若きオプティマスは、急に後ろから声をかけられた。振り返ると見たことのない灰銀色のトランスフォーマーが、柱の影に腕を組んで立っていた。
「おまえが、オプティマスか?」
そのトランスフォーマーはニヤリと笑いながら、オプティマスに近づいてきた。
こうして近くに立つと、その大きさが分かる。
大柄な部類のオプティマスよりも頭一つ分は上回る巨体だ。真っ赤なオプティックが印象的だった。
オプティマスはその顔を見上げ、たずねる。
「そうですが、なにか御用ですか?」
「なに、一介の司書から現プライムの従士に抜擢されたラッキーボーイの顔を見ておきたくてな」
ああ、またか、とオプティマスは思った。こういう手合いは最近多い。
好奇、羨望、そして嫉妬。
現プライムの弟子になることになってから、嫌と言うほど味あわされた、トランスフォーマーの一面。
この男もそうなのだろうと、オプティマスは思考する。
しかし、その灰銀のトランスフォーマーは、ニッと気さくな笑みを浮かべた。
「なにせ、初めての弟弟子だからな」
その言葉に、オプティマスは打って変わって明るい表情になる。
「それじゃあ、あなたがメガトロン? あの有名な!」
オプティマスの言葉に、メガトロンは照れくさそうな顔になる。
「まあ、そうなるな」
「あなたの噂は聞いています! 鉱山労働者から剣闘士を経て、ついにプライムの従士にまでなった、ヒーローだと!」
興奮して捲し立てるオプティマスを、メガトロンが手で制す。
「まあ待て、兄弟、歩きながら話そうじゃないか」
「はい! ……兄弟?」
「同じ炉のエネルゴンを食うんだ、兄弟みたいなものだろう? 敬語もいらん!」
そう言ってメガトロンは、笑顔でオプティマスの背を力強く叩く。
「さあ、おまえの話を聞かせてくれ! オプティマス!」
「は……ああ! 君の話も聞きたいな! メガトロン!」
二人は顔を見合わせて笑い合いながら、通路を歩いていった。
こうして兄弟弟子は親友になった。
二人は互いに強い信頼で結ばれ、向かう所敵なし、サイバトロン最強のタッグと呼ばれるようになるのに、時間はかからなかった。
オートボット総司令官オプティマス・プライムと、
ディセプティコン破壊大帝メガトロン。
後にそう呼ばれることになる二人の若き日の姿だった。
* * *
「ふわぁぁ…… おはよ~う」
ネプテューヌが欠伸をしながら寝室からリビングに出てくると、そこにはすでに彼女を除く女神と女神候補生、そしてイストワールが勢ぞろいしていた。
さらに、大きめの上着を着て茶色い髪を長く伸ばした小柄な少女と、毛糸のニットを着てフワフワとした長い髪の柔らかい雰囲気の少女がいた。
「あいちゃん、こんぱ! 来てたんだ!」
ネプテューヌが、元気に声をかけると、あいちゃんと呼ばれた少女とコンパと呼ばれた少女がそちらを向く。
彼女たちは、茶髪の少女がアイエフ、ふわふわ長髪の少女がコンパといい、アイエフはプラネテューヌの諜報部員として、コンパは看護員として、それぞれ働いており、ともにネプテューヌの親友だ。
「ねぷねぷ、おはようです!」
「遅いわよ、ネプ子! もう、ご飯できてるわよ」
コンパとアイエフがそれぞれ返事をした。
一国の統治者たる女神に対して、あまりに親しげな態度であるが、それを無礼ととがめる無粋な輩は、この場にはいない。
何よりネプテューヌ自身がそれを望まない。
「お姉ちゃん、おはよう!」
ネプギアも姉に朝の挨拶をする。
「おはよう、ネプギア! みんなもおはよう!」
ネプテューヌも挨拶すると、皆もそれぞれ朝の挨拶を返してくる。
見れば、長テーブルの上には、すでに朝食が並べられている。
ネプテューヌはそそくさと、自分にあてがわれた席に着く。
なにはともあれ、朝ご飯だ。
* * *
しばらくは皆で談笑しながら朝食に舌鼓をうっていたが、ネプテューヌがリモコンを取り、テレビのチャンネルを変える。
「いや~、やっぱりこの時間は、鼻緒と餡だよね!」
鼻緒と餡とは、この時間にプラネテューヌ国営テレビで放送している連続テレビ小話だ。
「私、見たことないのよね」
ノワールが興味なさげに言う。
「アタシは見てる。結構、面白いよ!」
ノワールの隣に座っているユニが、テレビの方を向く。
「確かになかなか良く出来てますわね、我がリーンボックスのドラマには及びませんけれど」
ベールは、褒めつつも自分の国の自慢は欠かさない。
「あなたの国のドラマは、『キリのいいところでやめる』という言葉を知るべき……」
ブランが、ベールに突っ込みを入れつつ、テレビに視線を向ける。
「おもしろそうね! 見てみよう、ロムちゃん!」
「うん、ラムちゃん(わくわく)」
ロムとラムも興味津々だ。
ネプギア、イストワール、アイエフ、コンパも画面を見る。
ニュースが終わり、鼻緒と餡のオープニングが映った瞬間、画面にノイズが走り、次に映ったのは、悪鬼羅刹のごとき恐ろしい顔のアップだった。
そしてそれは、女神たちにとって、忘れたくても忘れられない顔だった。
『メガトロン!?』
四女神の声が重なる。
「ねぷぅ!? なんでメガトロンの顔がアップで!? 放送事故ってレベルじゃないよ! 全国の小さいお子様やご高齢のかた、または心臓の弱いかたが卒倒しちゃうよ!? というか、鼻緒と餡は!? 鼻緒と餡はどうなってるの!?」
「落ち着いて、ネプ子」
早口で喚くネプテューヌをアイエフがなだめた。
「この人が…… メガトロン」
「こいつが、お姉ちゃんたちを倒した……」
ネプギアとユニがメガトロンの恐ろしい顔を見て、震えた声をだす。
ロムとラムも、その迫力に震えている。
女神化した姉たちの強さを知っている女神候補生たちにしてみれば、メガトロンは衝撃的な存在だった。
「これは……」
「電波ジャックね……」
ノワールとブランは冷静だ……少なくとも表面上は。
「今、連絡してみましたが、プラネテューヌ国営テレビの方ではこの映像を消せないそうです。それだけでなく、他の局も同じ状態だとか……」
イストワールは、小さな体で器用にチャンネルを変えながら、緊迫した面持ちで言った。他のチャンネルも全てメガトロンのアップだ。
画面の中のメガトロンは重々しく言葉を発した。
「初めまして、ムシケラどもよ。我こそは破壊大帝メガトロン、ディセプティコンのリーダーだ」
* * *
家庭の、職場の、街頭の、あらゆるところのテレビにメガトロンが映っていた。
「我らディセプティコンは、エネルギーを求めている。莫大なエネルギーをだ」
その声には、恐ろしげで侮蔑的にもかかわらず、人々の注目を集める力があり、プラネテューヌの国民たちはテレビに釘付けになっていた。
「先日、ラステイションの海底油田を襲撃したのも我々だ。結果は知ってのとおり、油田には破壊が降りかかった。なぜか? 我々の要求を拒む者がいたからだ」
メガトロンはニヤリと嗤って見せる。
「そう、貴様らが頼りにする女神どもだ。だが、奴らはディセプティコンの前に敗北したのだ!」
テレビの前の国民たちに動揺が走る。
「さて、ここで我らからの要求だ」
メガトロンは国民の間に動揺が十分に広がったのを見計らうかのように、間を開けてから言葉を続ける。
「先も言ったとおり、我々ディセプティコンはエネルギーを求めている。そこで、貴様らの持つ最大のエネルギーであるシェアエナジー。それをプールしておくことのできるシェアクリスタルを渡してもらおう!」
* * *
「女神どもが無力であると分かった今、我々に対抗できる戦力は残されてはいまい!」
「野郎! 好き勝手抜かしやがって!」
アイアンハイドは、地下倉庫の壁に掛けられた巨大なモニター、そこに映るメガトロンに向かって罵声を飛ばす。
「オプティマス、すぐに出撃しよう! 奴を叩き潰してやる!」
「落ち着けって、アイアンハイド」
逸るアイアンハイドをジャズが諌める。
ミラージュは壁に寄りかかってそんな二人を見ている。
バンブルビーは、オプティマスの横で困ったように電子音を鳴らした。
「これが落ち着いていられるかよ! 我が物顔のメガトロンを見るだけで回路がショートしちまいそうだぜ! 一体、いつになったらあのクソッタレを始末しろって命令をくれるんだ!」
「待つんだ、アイアンハイド。まずはネプテューヌたちと合流しよう」
なおも言い募るアイアンハイドだが、オプティマスは首を横に振った。
不満そうなアイアンハイドに加え、ミラージュも無言で不満を訴えている。
なぜ、わざわざそんなことをするのかと。
オプティマスがなにか言うよりも早く、バンブルビーがラジオ音声を流した。
「『郷に入っては郷に従え』」
「そのとおりだぜ。ここは俺たちの世界じゃない。ここの住人に義理を立てておくのが、筋ってもんだ」
ジャズもその言葉に頷く。
異文化交流の第一人者でもある副官の言葉に、ようやく二人も納得したらしい。
オプティマスは、これは先が思いやられるな。と内心で呟いていた。
* * *
「我らの要求に対し、愚かにもノーと答えた場合、プラネテューヌの街は破壊で埋め尽くされることになるだろう。逆にイエスと答えた場合、貴様らの生命を保障してやろう」
「ふざけないで! このガラクタ野郎!」
「落ち着きなさいな、ノワール」
「でも、たしかにふざけてやがる……」
ノワールが、画面の向こうのメガトロンに怒り心頭で怒鳴りつけ、ベールがそれを諌める。そしてブランは怒りを内燃させながらも画面を見ていた。
シェアクリスタルは、国民の信仰心から得たシェアを集め、女神へと中継する大切な物だ。
よこせと言われて、はいどうぞと渡せるものでは、断じてない。
第一、メガトロンがシェアクリスタルを手に入れたとしても、シェアエナジーを引出せるとは思えない。
「正午まで待ってやる! それまでに答えを決めるがいい!……フフフ、フハハハ、ハァーハッハッハッハッ!!」
笑い声が途切れるとともに、メガトロンの映像が消え、放送事故特有の『しばらくお待ちください』の画面になる。
ノワールはまだその画面を睨みつけている。
「答えなんか、決まってるわ! そうよね、ネプテューヌ!」
ネプテューヌは力強く頷いた。
「うん! 鼻緒と餡を潰すような奴に、シェアクリスタルを渡すわけにはいかないよ!」
「いや、あなた…… どれだけそのドラマ好きなのよ……」
ネプテューヌのやる気はあれど呑気な台詞に、ノワールは脱力せざるをえなかった。
と、電話の音が鳴り響き、イストワールがそれに出た。
「はい、こちらイストワール……えッ!? はい、はい! 分かりました。こちらで対処しますので、そのまま抑えておいてください」
イストワールは電話を切ると、ネプテューヌたちのほうを向き、焦った声をだした。
「たいへんです、皆さん!」
* * *
「おい! あの映像はどういうことだ!?」
「女神様が負けたって本当なの!?」
「なにかコメントをください! この件に対する教会の対策は!?」
プラネタワーの前は、いまや先ほどの映像の正否を問う国民たちと、マスコミ関係者でごった返していた。
警備兵が抑えているものの、今にも教会の敷地に押し入らんばかりだ。
ゲイムギョウ界の住人にとって、女神の敗北とは、それほど衝撃的なことなのだ。
「女神様がやられただなんて!」
「もうだめだぁ…… おしまいだぁ……」
「死にたくない、死にたくなぁぁい!」
国民たちはパニックになりかけている。
いやすでに一部はパニックを起こしている。
警備兵だけでは収拾がつかない。
「みんな、落ち着きなさい!」
突然、その場に凛とした声が響き渡った。
国民も、マスコミも、警備兵もその声の主を探す。
やがて誰かがプラネタワーの上のほうを指差した。
そこには、二つの長い三つ編みにされた明るい紫の髪、レオタードの如き衣装、そして背中には光の翼。
プラネテューヌの女神、パープルハートことネプテューヌがそこにいた。
「あれはネプテューヌ様だ!」
「無事だったんだ!」
「降りてくる!」
国民たちから安堵の声が上がる。
マスコミたちも、いっせいにカメラを女神たちに向ける。
「私たちはこのとおり、無事よ! だからみんな、いったん落ち着いてちょうだい!」
ネプテューヌは呼びかけながら、国民たちの前に降りてくる。
イストワールから話を聞いたネプテューヌは、聞き終わるやいなやバルコニーに走って行き、そこから飛び降りると同時に変身、こうして空から降りてきたのだ。
信仰する女神の無事な姿を見て、国民たちは一応の冷静さを取り戻した。
だが一部の国民やマスコミは、いまだ混乱しているようだ。
「ネプテューヌ様! あのメガトロンとか言うのは何なんです!?」
「今回の騒動に対する対策はどうなってるんです!? シェアクリスタルを渡してしまうんですか!?」
「私たちはどうすれば良いんですか!?」
矢継ぎ早に飛び出てくる質問に、ネプテューヌはできるだけ穏やかに答えていく。
「みんな、落ち着いてちょうだい。……あのメガトロンは、このプラネテューヌを脅かす悪党よ。そして、そんな奴にシェアクリスタルは渡さない。対策は……」
そこまで言ったところで、ネプテューヌたちと民衆を挟んで反対側に、数台の自動車が走って来たのに気が付いた。
その先頭は赤と青のファイヤーパターンの大型トラック。オプティマス・プライムだ。
その後ろには黄色いスポーツカーの姿のバンブルビーもいる。
ということは、後ろにいる車たちは、彼らの仲間に違いない。
ネプテューヌは国民たちの頭上を飛び越え、オプティマスのそばに飛び、笑顔で大きく腕を広げる。
「対策は! 彼らと同盟を結ぶことよ! さあ、オプっち! みんなに紹介するわ。変形してちょうだい!」
しかし、オプティマスはうんともすんとも言わない。
「………どうしたの?」
なんの反応も示さないオプティマスを訝しむうちに、国民たちがザワつきだす。
なぜ、ネプテューヌは誰も乗っていないトラックに話しかけているのだろうかと。
「ちょっとオプっち! いったいどうしたというの?」
そんな空気を感じ、さすがにマズイと思ったネプテューヌは、トラックに顔を近づける。
すると、ネプテューヌにしか聞こえないような小さな声で、彼女に話かけて来た。
「……ネプテューヌ、ここではまずい」
「まずいって…… なにが?」
オプティマスの言葉はネプテューヌには理解不能だった。
トラック姿のロボットは小声で続ける。
「我々は、この世界の住人にみだりに正体を明かさないことにしたのだ」
「はあッ!? なんで!」
「混乱を避けるためだ」
それは今更だろう。というか、タイミングが悪すぎる。
――これでは、自分が無人のトラックに話しかける痛い人ではないか。
ネプテューヌの思考をよそにオプティマスは動かないままだ。
国民の間の動揺も大きくなっていく。
ひょっとして自国の女神は頭がおかしくなってしまったのでは?
オプティマスは静かに続ける。
「不必要な接触は、災いを呼びかねない」
「私たちは!? 私たちには変形するところを見せてくれたじゃない」
「君たちは特別だ。私を助けてくれたし、私たちのことを秘密にしておいてくれるだろうと思ったのだが……」
ネプテューヌは、一つ大きく息を吐き、オプティマスの車体に額を当てて静かに言葉を紡ぐ。
「……ねえ、オプっち、聞いて」
オプティマスの車体は冷たく硬い。
しかし、中身はそうではないことをネプテューヌは知っている。
「国民たちは怯えているわ。このままでは満足に避難もできない。……私だって本当は怖い。必要なのよ、不安を吹き飛ばして、恐怖を乗り越えさせる。……ヒーローが」
オプティマスは答えない。しかし、葛藤しているのではないかと、ネプテューヌは思った。
「それに、このままだと私、トラックに話しかける変な人になっちゃうわ。……私を助けてくれない?」
ネプテューヌの言葉に、オプティマスは根負けしたように、大きく息を吐くような音を出す。
「少し、離れていてくれ」
今度は小さな声ではなく、はっきりと聞こえる声だった。
ネプテューヌは頷くと少し距離を取る。
オプティマスは覚悟を決め、大きく声を出す。
「オートボット戦士、トランスフォーム!!」
その声とともに、ギゴガゴとトレーラートラックが細かく寸断され、パーツが移動し組み変わり、巨大な人型へとその姿を変える。
そうしてオートボット総司令官オプティマス・プライムが姿を現した。
続いて黄色いスポーツカーが丸っこくて小柄なバンブルビーへと姿を変える。
銀色のスポーツカーも、黒いピックアップトラックも、真っ赤なスポーツカーも、次々と人型へ変形していく。
国民もマスコミも呆気にとられ静まりかえった。
ネプテューヌは今度こそ笑顔を浮かべ、大きく息を吸い込むと、あたりに聞こえる大きな声で話し始める。
「みんな聞いて! 彼らはオートボット、私たちの味方よ!」
ネプテューヌの言葉に国民たちが再びざわつく。
しかし、否定的な空気ではなかった。
「あのロボットたちが味方になってくれるのか?」
「それなら、大丈夫なんじゃないか?」
「たしかに、見た目もヒーローっぽいしな!」
国民から好評を得て、ネプテューヌの笑みが大きくなる。
「彼らが私といっしょにディセプティコンと戦うわ!」
居並ぶオートボットたちの先頭に立つオプティマスは大きく頷くと、右拳を高く掲げ、堂々たる声で宣言する。
「我らオートボットは、女神とともに戦おう!」
その言葉に国民たちが歓声を上げる。
巨大で見るからに強そうなロボットたちが味方になってくれたのだ。これほど頼もしいことはない。
ネプテューヌはホッと一息吐くと表情を引き締める。
ここからが本番なのだ。
「みんな! そう言うことだから、今は警備兵の指示にしたがって避難してちょうだい!」
彼女の言葉に、警備兵が国民を誘導するために動きだす。
メガトロンが予告した時間が近づいていた。
* * *
プラネタワー前に集まっていた国民たちは、警備兵に誘導されてすでに避難していた。
今残っているのは、人間の姿に戻った女神と女神候補生、アイエフとコンパ、イストワール、そしてオートボットたちだ。
「時間はないが、皆を紹介しておこう。バンブルビーはもう知っているな。では、彼はジャズ。私の副官だ」
「なんだいなんだい、オプティマス! 女神ってのが、こんな美人さんぞろいなら、もっと早く言ってくれよ!」
オプティマスの言葉に、ジャズがおおよそ副官らしくない、茶化すような声を出す。
「あら、お世辞がお上手ですわね」
ベールが、上品に笑う。
女神たちの中でも、特に美貌に自信のある彼女だ。悪い気はしないらしい。
「お世辞じゃないぜ、特にアンタなんか実にイカス」
「まあ」
「どうだい? ディセプティコンを片付いたら、俺と海辺をドライブってのは?」
「考えておきますわ」
ベールはあくまで上品に返す。
ジャズはヒュウと口笛のような音をだした。
「……アイアンハイド、武器のスペシャリストだ」
「まっ、よろしくな、お嬢ちゃんたち」
アイアンハイドはぶっきらぼうに言った。
「お、お嬢ちゃん!?」
ノワールは驚いた。
ラステイションでは彼女のことを、そんなふうに呼ぶものはいない。
「お嬢ちゃんでなけりゃ、小娘だな」
「はいぃっ!? あなたねえ、私を誰だと思ってるの!」
「誰だって関係ないさ。俺にとっちゃな」
「……もういいわ。あなたみたいな無礼な奴は初めてよ」
ノワールは鼻を鳴らす。
アイアンハイドもフンッと排気して終わりだった。
「…………そしてミラージュ。まだ若いが、接近戦のプロだ」
「オプティマス、俺は有機生命体と歩調を合わせるとは言ったが、ガキの面倒を見るとはいってない」
オプティマスが紹介するとミラージュは憮然と言い放った。
「ミラージュ」
オプティマスが低い声を出す。
ミラージュは女神たちと視線を合わせようとせずに言葉を出した。
「……俺の邪魔だけはするなよ。特にそこのチビガキ」
「…………って、わたしのことか!?」
ブランがミラージュを睨む。
「てめえ! だれがチビガキだ! だれが!」
「おまえ以外に誰がいる」
「……OK、どうやら叩き潰されたいらしいな」
「…………」
「無視すんなあッ!!」
ブランが怒鳴り散らすが、ミラージュはそっぽを向いたままだ。
オプティマスは大きく排気せざるをえなかった。
一方、ネプテューヌは元気な声をだす。
「え~っと、ジャズに、アイアンハイド、それにミラージュだね! それじゃ今度はわたしたちが自己紹介するね! まずはわたし、ネプテューヌ! プラネテューヌの女神なんだ!」
他のメンバーも、ある者は笑みを浮かべて、ある者は溜め息混じりに自己紹介を始める。
* * *
「では、自己紹介も済んだことだし、そろそろ行動に移ろう」
オプティマスが厳かに言った。
それを聞いて、オートボットたちの表情が、戦士のそれに変わる。
「なにか、ディセプティコンの動きについての情報を知っているものはいないか? どんな小さなことでもいい」
「あの……」
オプティマスの言葉に、イストワールが控えめに手を上げる。
「プラネテューヌ近郊の森に、大量のモンスターが集結し、プラネテューヌに向かっているとの報告が入っています。そのなかに、巨大なサソリがいたとも」
その言葉に女神たち、とりわけノワールの表情が硬いものになる。
無理もない、そのサソリとは、おそらくディセプティコンのスコルポノックだろう。
彼女とネプテューヌは奴に殺されかけたのだ。
「モンスターたちの位置を教えてくれ」
オプティマスの言葉に、イストワールが頷き、彼のブレインサーキットに直接情報をアップデートする。
かつての女神が作り出した人工生命体である、イストワールならではの技だ。
「……ありがとう。これで敵がどこから来るか、おおよその見当がついた」
オプティマスはオートボットたちを見回し、これからの行動について説明する。
「敵はシェアクリスタルへの、すなわちプラネタワーへの最短ルートである、メインストリートを行軍してくるはずだ! そこで奴らを迎え撃つ!」
「陽動の可能性は?」
ジャズのその言葉に、オプティマスは首を横に振る。
「メガトロンは、プラネテューヌの戦力を過小評価している。自分たちの力を見せつけるように進んでくるはずだ」
ジャズも、その言葉に納得する。
確かにメガトロンは女神が生存していることも、オートボットと同盟を結んだことも知らないはずだ。
残った人間などムシケラとしか思わぬ破壊大帝は、危機感を持っていないだろう。
「それじゃあ、わたしたちは避難所を護るわ」
「わたしもいっしょに行くです!」
「うん、頼んだよ! あいちゃん! こんぱ!」
アイエフとコンパの言葉に、ネプテューヌも頷く。
避難所は、プラネタワーの他に何か所かある。
そこをディセプティコンやモンスターが襲わないとは限らない。
アイエフがバイクに跨り、コンパを後ろに乗せて走り去ると、ネプギアがおずおずと姉に声をかけた。
「お姉ちゃん……」
不安そうなネプギア。その後ろには他の候補生たちも不安そうな顔で並んでいる。
「ユニ、そんな顔しないの、私の妹なんだから」
「ロム、ラム、しっかりするのよ……」
「ネプギアも、プラネタワーをしっかり護ってね!」
ノワール、ブラン、ネプテューヌが、それぞれの妹に声をかけた。
妹たちは力強くとはいかないものの頷く。
女神候補生たちには、本丸であるプラネタワーを護るという仕事が与えられたのだ。
「うん、お姉ちゃんもがんばってね」
「大丈夫だって、ネプギア! 負けイベントなんて、そんな二回も三回も続くもんじゃないから!」
「う、うん、そうだね」
よくわからない自信を漲らせ、ネプテューヌは笑って見せる。
オプティマスはそんなネプテューヌに苦い顔で声をかけた。
「ネプテューヌ、君たちも下がっているべきだ。戦いは我々に任せてもらってかまわない」
ネプテューヌは、驚いてオプティマスのほうを見上げると、次いでムッとした顔になる。
「もう、オプっち! 冗談キツイよ! わたしにだって、この国を護る責任があるんだからね!」
この言葉を聞いて、イストワールが、「どうしていつもこれくらいの責任感をもってくれないのでしょう……」と嘆いていた。
「しかし……」
「それに!」
なおも、ネプテューヌを止めようとするオプティマスに、紫の女神はハッキリと言う。
「わたしたち、友達でしょう。友達は助け合うものだよ!」
オプティマスは一瞬、驚いたように目を見開き、そして力強い笑みを浮かべる。
「そうだったな。友よ」
そう言うオプティマスを見て、ジャズはニヤッと笑う。
「なるほど、惚れ込むわけだぜ」
もちろん、恋愛的な意味ではなく、人間性に対してだ。
ジャズは嬉しくなってきた。
なにせ、この総司令官を本当の意味で理解している者は、オートボットの中にさえ少ないのだ。
彼女には、それを期待しても良いかもしれない。
「では、行こうか」
「うん!」
オプティマスとネプテューヌは頷き合う。
そして、オプティマスは整列した四体のオートボットに号令をかける。
「オートボット戦士、
メガトロンの指定した正午が目前に迫っていた。
前回のあとがきで、次回は戦いだとか言っておいて、まだ始まらないという……
今回の冒頭における、オプティマスとメガトロンの出会いは完全な妄想です。平和だった時代には、兄貴分のメガトロンが、オプティマスの世話を焼いてたんじゃないかな、と思いまして。
もし、公式設定と違っていても、あくまでもパラレルということで、ご容赦ください。