捻くれボッチの転生記   作:ジャージマン

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二十三話 擦れ違い

―――ギャアアアアアアアアアアア!!!

 

とある夜の日、何かの断末魔が暗闇に響いた。その場所は工場。そこにいるのは二つの化け物。

 

一つは地面に倒れ、もう直ぐ命が消えるであろう体が歪な者。

 

一つはその倒れている物を冷静に見下し、剣を突き刺したままの者。

 

この光景を見た時、第三者は何を思うだろうか。何を感じるだろうか。

 

殺人犯? 機械みたいな奴? 人形みたい? それとも思う事は無くただ嫌悪、軽蔑、恐怖の対象として見るのだろうか。

 

「・・・まぁ、それらの感情は全て」

 

―――俺、比企谷八幡に向けられるものだろう

 

たった今、人ではないにしろ命を奪ったばかりなのに表情はピクリとも動かない。心も、体の何もかもがいつもと同じ。例えば家でリラックスしている時と全く変わらない、そんな人間に好意的な感情を持つことが出来るだろうか? 答えは否だ。呼吸をするように、瞬きをするように淡々と命を奪っていく者に好意的な感情を抱く方が間違っている。

 

そんな考え事をしながら俺は工場の中から出る。この考え事はいつになっても辞めることが出来ない。初めて裏で仕事して命を奪ったときから、今この瞬間に命を奪ったときまで。そしてそれは永遠に続くのだろう。自分で楽になる為に、諦めることが出来なければ妥協することさえできない。それは死んだ者の俺に対する最後の抵抗だろう。殺したことを、お前の罪を忘れるなと夢の中でいくつも俺が殺してきた者が訴えかけてくる。

 

―――決して、許しはしない

 

そう言われている気がするのだ。だから俺は機械の様に命を奪うことが出来ない。だが慈悲を持ち、相手を殺さず心を救いあげることなんて俺には出来ない、できないのだ。出来ることといえば今のように考え続けること。殺した人の命のことを考え、後になって本当にそれでよかったのかと後悔に近い感情を抱く。こんな感情を人はなんて呼ぶのだろうか。もし、アニメの熱血系主人公なら殺しに慣れてしまっていないのなら、殺戮マシーンに成りきれていないのなら、まだ引き返せるなどと言ってくれるのだろうか。

 

しかし、俺はそうとは思わない。一回犯罪に手を染めてしまった人がまた同じ罪を重ねてしまうように、俺も裏から足を洗ったとしても必ずまた命を奪ってしまうだろう。

 

その以前に命を奪ってしまっているのに引き返すも何もないだろう。

 

そして何より。俺は命を奪った後にそのことに後悔の様な感情を抱くときがある。それは人によっては君はまだ人間を止めていないと言う、または思う人がいるのかもしれない。だが俺のやっていることは何よりやってはいけないことなのだ。俺がこんな感情を抱いていることが命を奪われた本人、またはその親しいものが分かったら激怒するだろう。

 

―――ふざけるな、と

 

分かりやすく表現してみよう。世界でも有名なスポーツ選手、例えばサッカー選手にもう二度と治らないという怪我を足などにさせてしまう。もうその選手は活躍することはなく、人生を狂わされた。絶望に浸る中、自分の人生を狂わした人が第三者からその人がとても後悔している、鬱みたいなものになっていると聞いたらどう思うだろう。もし、その人が謝罪に来た時に、君は十分悩んだだろう? その気持ちで十分だ――― なんて言えるだろうか? 無理に決まっているだろう。つまりそういうことだ。自分の人生を狂わせ、勝手に悩むくらいなら何故自分にこんな仕打ちをしたと大激怒する。許すなんてありえない。

 

それが今の俺の現状だ。救えないだろう?

 

「もう、朝か・・・」

 

工場から外に出るともう朝日が昇っていた。その朝日は現状の俺と対照的に美しく、光り輝いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――チュンチュン

 

小鳥が鳴いており、少し肌寒い時間帯に俺は道路をコソコソと忍びながら歩いている。目標場所まであと数メートル裏口の扉の鍵を音がならないように慎重に開ける。ドクドクと心臓が煩い。・・・落ち着け、深呼吸をして気持ちを落ち着かせ更に扉を大きく開ける。

 

よし、誰もいない!そこから靴を素早き脱ぎミッションコンプリート―――

 

「「―――おかえり、お兄ちゃん(さん)」」

 

―――できなかったようだ

 

「「どこに行ってたか、説明を求めます!!」」

 

そこには二人の鬼がいた。

 

「あの・・・、その前に一回落ち着いてもらっても・・・?」

 

「「その前に説明してもらってもいいんじゃないですか!?」」

 

「はいっ!! そうですよね! 説明させていただきます!!!」

 

その後俺はただ朝、散歩していただけと説明し何故何も言わず出ていったのかと聞かれたので俺は真面目な顔をして二人に向き合った。二人の目をジッと見ると何故か顔を赤くしたが見つめ返してくれた。なので俺は自分の頭に手を置き、テヘペロッ! をした。その後、めっちゃ怒られた。

 

 

 

「今日、忘れ物取ってくるから一回家に戻るね」

 

説教された後、朝食を食べている最中にラムが喋る。

 

「お前ら色々準備できてたからこっちにきたんじゃねぇの?」

 

あんな段ボール箱に入って堂々とこちらに住むと言ってたくせに忘れ物をしてまた戻る羽目になるとは笑えない。

 

「そのつもりだったけど忘れてたんだよ!」

 

「・・・忘れ物をしたのはお姉さまだけですけどね」

 

「レム!?」

 

「まぁ、うん。知ってた」

 

お兄ちゃん酷い・・・。といって泣いたふりをする。女の子を泣かせたはずなのに罪悪感は全く湧いてこない。不思議だ。

 

ラムをいじって朝食は終わり、俺は学校へ。彼女たちは一旦家に帰ることになった。彼女たちは今日は俺の家には帰ってこれないらしい。なら夕飯は簡単なものでいいか、と考えていると今度はレムが口を開く。

 

「・・・兄さん」

 

その顔は重々しく昨夜のことを思い出してしまう。そして昨夜といえば言われることは予想できてしまう。レムは俺の事を呼んだはいいがその次の言葉を本当に言ってしまってもいいのだろうかと迷っている感じだった。

 

しかしその躊躇いは一瞬。

 

「少しだけでも、少しだけでもでいいんです。レムに、レムたちに本当のことを教えてくれませんか・・・?」

 

それは彼女たちの切実な願いだった。俺の隠していることなど分かっている、そう顔が語っていた。

 

・・・その顔が、何よりも心が苦しめられる。俺は本当のことは言ってはいけない。いや、事実をいう事は許されていないのだ。

 

「さっきのことか? それは散歩に行ってたっていっただろ?」

 

だからこそ、俺は笑顔で平然と嘘をつくのだ。そんな俺の顔を見て二人の顔は更に歪む。

 

「・・・いつか、教えてね」

 

今にも泣きそうな顔でラムが言う。

 

―――嗚呼(ああ) そんな顔をさせたかったわけじゃなかったのに

 

そんな顔に俺は耐えられなくて、家から逃げ出すように学校へ向かった。そんな時気付いてしまった。いま、現状の俺は、過去の自分が一番嫌っていたことをしているのではないかと。偽物を嫌っていたはずなのに、それを自分の意思で作ってしまっている。

 

「・・・弱いな、俺は」

 

昨日、自分の意思を確認したはずなのにもう揺らいでしまっている。

 

俺は、もう。

 

どうすればいいのか、何をすれば正解なのか、不正解なのか分からない。

 

胸が、心が苦しい。でも、何故だろうか。顔の表情はピクリとも動いていないのが分かる。

 

それがどういう意味を指しているのか―――

 

そんな事を考える前に俺は思考をシャットダウンした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・お兄ちゃん」

 

いま、飛び出すように出ていった兄の事を考える。その顔は笑顔だったと思う。でもそれは表面だけ、裏はきっと苦しんでいるのが分かってしまった。

 

「姉さん」

 

レムが私を呼ぶ。言ってもらわなくても分かる、兄の事だ。兄は自分のことを何も話してくれない。それが優しさだという事は分かっている、・・・分かっているんだけど。

 

「―――悲しいよ、お兄ちゃん」

 

そんな優しすぎる兄の事を思うと一筋の涙が流れる。兄がもし困ったことがあったとして話してくれるときは私たちに何の危険もないときだけだ。故に少しでも兄の内側に踏み込むと危険が及ぶような話しは全然してくれない。すべてを自分の内側にしまい込み、一人で解決する。心配を掛けようとしないのは分かる、私たちのことを思ってくれているのも分かっているんだよ、お兄ちゃん。でも、でもね。

 

「少しぐらい、力になってあげたいよ―――!」

 

それは悲痛な叫び。兄の事を思うと心が絞め付けられる。私たちを救ってくれたように今度は貴方を救いたいのです。もうあんな顔を見たくないから、張り付けられたような仮面を見たくないから。

 

「待っててね、お兄ちゃん」

 

涙を手で拭い、宣言する。

 

「必ず、今度は救って見せるから」

 

それは昔、レムと誓った約束だから―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

学校の校門前に着くと人だかりができていた。何だろうと思い覗き込むとそこにはグレモリー先輩と兵藤一誠が一緒に並んで登校をしていた。それを見てとある者は驚愕を、とある者は悲鳴をあげていた。・・・驚愕するのは分かるが悲鳴は少々酷くないか? 彼の普段の行動を見ると納得せざるをえないのだがな。

 

この光景を見て、何故二人が登校しているのか分かる人は一部の者を除いてわかる人はいないだろう。・・・彼が今日、人間をやめたことを。そしてそのきっかけを作った人がグレモリー先輩だとは誰も分からないだろう。

 

「・・・まぁ、俺には関係ないことだろう」

 

そのまま俺は校舎の中に立ち去った。

 

授業が始まり、休み時間になると兵藤あたりが騒がしくなっていたが関わりたくないのでトイレや屋上などに避難した。

 

そのまま放課後、ついに兵藤に捕まり質問責めにされた。

 

「ハチッ! お前、夕麻ちゃんって知ってるか!?」

 

それは昨日、兵藤を殺した張本人のことだった。何故そんな事を急に聞いてくるのかと聞き返すとその女の子と付き合った事を変態二人に言ったはず、だが誰も覚えておらず、周りの人に名前だけを聞いてもそんな人は知らないと言われるだけだったからという。

 

・・・あいつ、記憶を改変したか。

 

だが、殺したと思った兵藤の記憶は変えておらず覚えている。それがあいつのミスか。

 

「あぁ。覚えている」

 

「本当かっ!?」

 

そういうと兵藤はやっと話しが分かる人にあったと安心したような表情を浮かべた。

 

「・・・けど何で覚えているのは俺とハチだけなんだ?」

 

そうして彼はもっともな疑問にぶつかる。確かにそうだろう。二人だけしか覚えていないのだから。兵藤は時々あの日、刺された部分を手で押さえている。ということは最悪のことまで覚えているのだろう。俺にとっては忘れて欲しいがそれは彼の定めだ。避けられないことだろう。

 

そう思い兵藤と会話をしていると気配を感じる。

 

「それはそこの教室の外でこっちを見ている奴が説明してくれる」

 

「・・・木場?」

 

そこには木場がいた。彼は俺の方を見て少し悲し気な顔をするがすぐ引っ込めて兵藤に話しかける。

 

「少し、僕についてきてくれないかな?」

 

「なんだよ、急に・・・?」

 

「君の今、疑問に思ってることが分かるよ?」

 

そう言って木場はこちらに背を向けた。兵藤はそう言われてはついて行くしかないだろう。俺は何も関係ないのでそのまま帰る準備をする。そうすると木場はおもむろにこっちを振り返り口を開く。

 

「・・・比企谷くんも、だよ」

 

衝撃なことを言ってくれやがった。

 

「勘弁してくれ・・・」

 

俺は正直ついて行きたくない。多分行く場所はあの部活場所だろう。そこには昔、顔を合わせたことがある人がたくさんいるのでできれば行きたくないのだ。

 

―――しかし

 

「来てくれないと君の妹たちが危ないよ・・・?」

 

こんな事を言われればついていくしかない。帰る準備を止めて黙ってついて行く。

 

 

 

部室に着くと中に入る。中に入りまず一番最初に目に着いたのはシャワーを浴びているグレモリー先輩が目についた。何で人を呼んでおいてまだ入ってるんだよ・・・。さすがに見ていられないので目を兵藤の方にそらすと彼はガン見していた。それも引くぐらいにガン見していた。

 

「・・・変態」

 

そんな彼の様子を搭城は思いっきり軽蔑した目で見ていた。俺が塔城を見ていると今度はこっちを見て口を開く。

 

「・・・比企谷先輩も、です」

 

兵藤のとばっちりを受けた。いや、マジで誤解だ。

 

「・・・みてねぇよ」

 

「さっきチラ見してましたよね・・・」

 

否定すると間を開けず直ぐに否定してくる。・・・何で俺こんなに攻められてるの? 兵藤じゃないの? そう思い塔城と少し言い合いをしていると目の前に紅茶が置かれた。

 

「あらあら、仲がよろしいんですね?」

 

そう言って笑顔を向けてくれるのは姫島先輩。

 

「いや、これを見て仲がいいと思いますかね・・・?」

 

どう見ても冤罪をかけてこようとする後輩と言い合いしているところで仲がいいと思えるとは思えない。

 

「いやいや、羨ましいですよ・・・? 少し嫉妬しちゃいます」

 

そう言ってスッと体を近づけてくる。そうなるとこの人のとある一部分が押し付けられるわけで・・・。

 

「何か話があるから呼び出したんですよね? ないのなら帰りますが」

 

そう言って体を離す。そんなやりとりをしている内にグレモリー先輩はシャワーから上がっていた。

 

「あら、そんなせっかちなこと言われるなんて悲しいわ、八幡」

 

「・・・時間がおしいですから」

 

そう言って目ではやく要件を言え、と訴える。そうするとグレモリー先輩はため息をついて、まず兵藤の方を向いた。兵藤は相変わらずとある部分をガン見である。

 

「ちょっとは自重しろ」

 

そう言って兵藤の額にデコピンをする。それで兵藤はやっと目が覚めたのかグレモリー先輩に向き合う。

 

「じゃあ、早速本題に入らせてもらうわね。兵藤一誠くん、あなたは悪魔になってもらったわ」

 

「―――は?」

 

そう兵藤は意味が分からないと言わんばかりの声を発する。・・・本当に早速すぎだろ。そうしてここの部活の人は皆一斉に悪魔の羽を広げる。

 

 

 

―――リアス・グレモリー説明中―――

 

 

 

 

 

説明が終わり、結論がでた。というか兵藤は言いくるめられ現在かなり喜んでいる。それは部長の一言。

 

―――ハーレムがつくれるわよ?

 

それを聞いた瞬間兵藤は舞い上がった。・・・そんなにいいか?

 

だが本人が幸せなのでいいだろう。次は俺だ、早速本題にはいってもらう。

 

「・・・で。俺には何のようです?」

 

そう、木場が俺の義妹を人質に出してまでここに呼んだのだ。くだらない事なら直ぐ帰ってやる。

 

「そんな怖い顔しないで? 戦い合う訳でもないんだし」

 

妹を人質にとっておいて言う言葉だろうか。少し頭にきたがこれも交渉の一つ。相手をわざと怒らせ本音を引き出す作戦かもしれないので冷静になる。

 

「妹を人質にしといてそんなことよく言えますね」

 

「人質なんて人聞き悪いわ? 少し監視させてもらってるだけよ」

 

・・・もう話しているのも疲れる。そう思ってさっさと本題に入らせる。

 

「腹の探り合いはいいから、早く要件を」

 

「なら言わせてもらうわ。貴方もこの部活に入らない?」

 

それは仲間へのお誘いだった。これを受けるメリットは俺にはない。断るのは簡単。だが。俺には人質がいる。本当かどうかは分からないが使い魔で監視をしていると言われ、むやみにこの要求を突っぱねるわけにもいかない。

 

―――なら。

 

「突然な話ですから後日返答ということでもいいですか?」

 

社畜スキル、返事を遅らせること。

 

「できればこの場で返答いただきたいわ? 時間はかかってもいいからね」

 

そう言って逃してはくれない。そんなやりとりが続き、埒があかないので俺は少し踏み込む。

 

「この部活に入ることはお断りさせていただきます」

 

そう言うとグレモリー先輩は少し悲し気な表情をするがすぐもとに戻る。

 

「・・・残念だわ」

 

そんなことを彼女が呟くと同時にスマホにメールが届く。

 

嫌な予感を感じすぐ開くと相手はラムから。

 

 

 

 

 

 

From:ラム

 

件名:助けて

 

 

それを見て俺は内容を見る事も無く扉に向かう。だが木場が扉の前に立っていた。

 

「邪魔だ―――!」

 

木場は何故俺がこんなに焦っているのか分かっていない顔をしていた。

 

だが、そんなものに構っている暇などない。

 

―――黒龍の権能『言霊』発動

 

『地に伏せろ』

 

そう言った瞬間この部活にいるすべての者が強制的にひれ伏すことになる。その間に俺は外に向かう。・・・まさかこいつらが俺が部活に入らなかったらここまでするとは思っていなかった。俺の落ち度だ。

 

そのまま俺は外に向かった。・・・言霊の巻き添えにしてしまった人達には少し申し訳ない気持ちも抱きながら。

 

だが、彼女たちの顔が本当に困惑していた様子をみると何か自分はしでかしてしまったのだろうか。

 

そう思うが今は彼女たちを救う為に俺は風よりも早く走った―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 




本当に更新遅れて申し訳ありませんでした!!!
一年ぐらい遅れて本当に申し訳ないです・・・
まだこんな作品を読んでくださる人がいるととても嬉しいです
いい訳などさせて頂くとすこし病院に入院しておりバタバタしておりました
・・・いや、関係ないですね。ご愛読ありがとうございました。次回作もよろしくお願いします!!

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