・【島津岳人】と共に【板垣竜兵】に【勝利】した。
⇒【板垣竜兵】の好感度が上がった。
⇒【島津岳人】が【KOS】から【脱落】した。
・【S・クッキー解析データ】を手に入れた。
・【忍足あずみ】に襲撃された。
⇒多馬川に落とされて【敗北】した ▽
・現在の友達数:1人
+ 風間ファミリー(9人+1体)
あの後、俺は水面に叩き付けられた衝撃で意識を失い、そのまま溺れかけた。まさかこの齢で、子供のころから遊び慣れていた多馬川で溺れる事になるとは思いもしなかった。
幸い、完全に溺れる前に九鬼財閥のKOSスタッフによって救助されたが、しかしスタッフによって救助されたという事は俺がKOSから脱落したという事も意味する。というよりも俺が目を覚ました時にはもうKOSでの最終決戦に突入していた。
こうして俺のKOSはいつの間にか終わりを告げたのだった。
しかし俺が脱落した後もKOSは続いていたわけで、その経過を簡単に語っていくこととしよう。
あの後、橋の上に残っていたキャップたちと俺達を襲ってきた九鬼のメイドさんを含めたヒゲ先生チームに、横槍が入ってきた。
例のサイコクッキーなる巨大なロボット2体と釈迦堂さんを従える野党幹事長である。
彼らはいきなりミサイルを撃って橋の上を一掃しようとしたらしく、モロは何とか川に飛び込めたが、キャップは間に合わずに爆発に巻き込まれケガを負ったらしい。ガクトは既に棄権していたため、俺のチームはこれで事実上の全滅となった。
その後、ヒゲ先生チームと幹事長チームの戦いになったものの、サイコクッキーと釈迦堂さんの暴威を崩す事が出来ずにメイドさんを残して脱落した。
そして爆発音を聞き駆けつけたワン子チームが参戦し、サイコクッキー1の破壊に成功する。しかしその際に京をレーザーからかばった麗子さんとサイコクッキーの装甲を撃ち抜くために気力を出し切った京が脱落、そしてサイコクッキーに止めを刺したワン子は、その自爆に巻き込まれて脱落した。
クッキーはもう一機のサイコクッキー2を相手に奮戦するも、バッテリー切れによって動けなくなり脱落した。
その後、釈迦堂さんによってメイドさんも脱落し、残りチームは幹事長チームと総理チームの二つに絞られた。
次の日のKOS三日目に総理チームと幹事長チームは浜辺にてぶつかり合った。
総理チームは、地の利を得るために足場の悪い岩場を戦場に指定して、さらにモロによって齎されたロボのデータによって戦闘を有利に動かしていき、見事撃破に至った。
それよりも驚いたのは、まゆっちがあの釈迦堂さんを下したという事である。正確には釈迦堂さんが何故か引いたのだけれど、それでもまゆっちが釈迦堂さんと渡り合えるほどの実力を持っていた事にはビックリである。
結果、幹事長チームを見事に下し、総理チームがKOS2009を制し、優勝したのだった。
さて、では次に俺の周りでのKOSでの被害状況を述べていこう。
まずは優勝した総理チーム所属の二人だが、大和が擦り傷だったり打撲だったり細かいケガが多いが、軽い物ばかりみたいだし、まゆっちに至っては全くの無傷である。
続いてクリスチーム。このチームは失格理由が理由なのでクリス、マルギッテ、クリスパパ、梅先生誰一人としてケガを負っていない。
次にワン子チーム。ビームの直撃を食らったという麗子さんだが意外とピンピンしてて、気力を振り絞った京もピンピンしてて、電源の切れたクッキーもピンピンしてて、敵クッキーの自爆に巻き込まれたワン子はというと、ピンピンしていた。……おかしい、全員ピンピンしている……
次に俺達キャップチーム。モロは無傷だったが、キャップが爆発に巻き込まれて全治一週間程度の、ガクトは全治二、三週間くらいのケガを負った。俺も特にケガらしいケガはない。
そしてヒゲ先生チーム。メイドさんともう一人のメンバーがどうなのかは知らないが、ヒゲ先生は対人ミサイル食らって重傷、ゲン先輩は……詳しくは聞いてないけど重傷。二人とも入院する事となった。まあ重傷とは言ったものの、全治一か月くらいで、大体二週間弱くらいで退院できるそうだ。特にヒゲ先生の方はある意味奇跡的とも言える。
……こうして見ると、明らかに重傷者がいてもおかしくないワン子チームに一人も重傷者がいないことに疑問を抱いてしまうが、まあ無事であるのならば構わないだろう。
しかし、ヒゲ先生とゲン先輩が入院となった事で、ある事態が発生した。
それを俺が聞かされたのは、二人の見舞いに行った時の事である。
実際に入院中の二人と会って、二人が聞いていた話よりも元気そうなのでホッとしたのだが、次のヒゲ先生の言葉に驚かされることになった。
「てなわけで、俺達が退院するまで俺達の穴埋め頑張ってくれ」
「……は?」
ここで改めて説明すると、俺はヒゲ先生が経営する宇佐美代行センターにてバイトをしている。
社長であるヒゲ先生とそこで働いているゲン先輩が入院するという事は、その二人が行っていた仕事を他の従業員が捌かなくてはならない。
ただでさえ人数の少ない宇佐美代行センターなので、新たにバイトを雇うわけにもいかずに、さらにいえばすでに雇っているバイトを遊ばせておく余裕もない。
要は、あれだ。二人の仕事が俺に降りかかってくるわけだ。
「まあ重要な案件とかはさすがに任せないけどさ、お前も忠勝の下でやってきたわけだし、出来ないわけではないと思うんだよ。オジサンとしては」
「え? え? ええ?」
ヒゲ先生の言葉に戸惑いながら、俺は助けを求めるように視線をゲン先輩に向けた。
「……まぁ、テメェも一人でそこそこはやれるようになっただろうし、やれるだけの事をやってみな」
……何故か後押しされた。これはあれだな。この話は俺が来る前からもう既にこの二人の間で決まってた話だったわけか。
「お、忠勝のお墨付きをもらえるとはなぁ」
「勘違いすんじゃねぇよ。俺はただコイツが変なミスをして俺の教育が悪いって言われるのが嫌なだけだ」
まあ、そんなわけで、夏休み前半はバイト漬けになる事が決まった。
もちろん休みが全くないというわけではなく、夏休み後半はバイトを空けてくれるらしいのでラッキーとも言えるが、しかしそれまでにバイト三昧の日々を送らなければならないと思うと、どこか憂鬱になってしまう。
こういう時は現実逃避……でなく気分転換に誰かと遊ぶのがいいだろう。
という事で気分転換もかねて、誰かしらいるであろう秘密基地にでも行ってみる事にした。
◆◆◆◆◆◆
総理チームの一員としてKOS優勝に微力ながら貢献した俺は今、秘密基地にて……
姉さんこと川神百代に押し倒されていた。
……何を言ってるのかわからないと思うから順序だって説明すると、俺が秘密基地にて一人涼みながら読書をしている所に姉さんがやってきたのだが、何か様子がおかしかった。
危機感を抱いた俺は咄嗟にまゆっちに電話をかけたが、途中で姉さんに携帯を取り上げられて電源を切られた。
そして次の瞬間には押し倒されて、馬乗りにされて、普段のスキンシップよりも過激なスキンシップをされている。
姉さんの言葉から察するに、どうやら戦闘欲求が満たされなくて、精神が安定しなくなってるようだ。
サガが満たされないストレスによって限界を迎えかけていた姉さんは、その飢えを誤魔化すために俺を抱こうとしているらしい。
確かに姉さんは美人でスタイルも抜群で、そういう対象として見た事がないとは決して言えないし、男としても嬉しいけど、それでも聞かなければならない事がある。
「……姉さんは、俺が男として好きなのか……?」
「いや、恋愛なら私は男に精神的にも雄々しさを求める。お前とはただ飢えを満たすためだけの関係だ……」
「…………」
「こんな事、弟分であるお前にしか出来ない。だが、お前に恋愛感情は抱いていない」
お前にしかできないと言われたら男として嬉しくないといえば嘘になる。けど、姉さんが俺に対して恋愛感情を持ってるならともかく、そうじゃないのに抱かれたり飼われたりするなんてできるわけがない。
もしここで承諾してしまえば、きっと俺も姉さんも後々後悔することになるし、ファミリーの中にだって不和が生まれるかもしれない。そして何よりそんな関係、俺が嫌だ。
たとえ身体が反応しても理性をもって拒否しなくてはならない。……まあ身体が反応してしまったのは男として仕方ない事だと思う。
幸いというべきか、俺は主に京のおかげでこういう異性の色仕掛けには慣れているので、ある程度は姉さんの誘惑にも抵抗できるだろう。
しかしそれだけで何とか出来るほど今の姉さんは甘くない。
「私に飼われろ、大和……私が主人で、お前が犬だ」
「いや、だけどそれは……」
「黙れ。お前は私の言う事を聞いていればいい」
「う……」
どうすれば俺は今のおかしくなってる姉さんを止められるんだ?
そう俺が蕩けそうな思考の中で必死に考えていた、その時だった。
「――――何やってんだ馬鹿姉」
その声とともに、背後から姉さんの側頭部に蹴りが入った。
蹴り飛ばされた姉さんは本棚へと突っ込み、大量の本と本棚に埋もれてしまった。
そして俺の前には姉さんを蹴り飛ばした張本人が立っていた。
「と、十夜!?」
「俺の気配にも気付かないくらい錯乱してさ。武神の名が泣くぜ」
姉さんを蹴り飛ばすという偉業を成し遂げた十夜の顔は、まるで様々な負の感情が混ざり合いそれが表情に浮かび上がったかのように酷く歪んでいた。その中でも色濃く読み取れたのが、怒りや侮蔑といったものであった。
「――邪魔をするな十夜」
何事もなかったかのように倒れた本棚の下から立ち上がる姉さん。頭への蹴りもほとんどダメージを負っていないようだ。
威圧するように十夜へと言葉をかけるが、十夜はそれに全く怯む事はなく視線を返す。
「するに決まってんだろ馬鹿。ファミリー内でこんな不和残すわけにもいかねーだろ。何だ“飼われろ”だの“主と犬”だのって」
その言葉と共にその蔑むような視線でチラッとこちらを見たので、微妙に流されかけた俺のことも批難してるんだろう。つーか聞いてたのかよ。
「弟は姉の言う事を聞いていればいいんだ」
「もしそうなら兄弟喧嘩なんて言葉は生まれないだろ。この場合は姉弟喧嘩か」
話の流れからすると今から姉さんと十夜のケンカが始まりそうだが……どう考えても無謀だろ。武道をやめて日が長い十夜じゃどう足掻いても姉さんと張り合えるわけがない。本来なら俺が仲介役となって止めるべき状況だ。
……だが俺は敢えて逃げる事を選択した。
今の姉さんの様子はどこかおかしい。ひとまず距離を取って姉さんに落ち着いてもらわないと話もできない。まずは逃げてでも距離を置いて、それが無理なら川神院に逃げ込む。
そのためには時間を稼いでもらう必要があるが……そこは十夜に賭けるしかないか。
「すまん! ここは頼む十夜!」
「私が逃がすとでも……!」
「こっち見ろボケ!!」
部屋を飛び出すとともに、階段を一気に駆け降りる。後ろを気にしている暇もない。ただ降りる事だけに集中した。
そして廃ビルの勝手口に当たる出口が見えてきた所で、人影が見えた。
「あ、大和さん!」
「ま、まゆっち!?」
その人影はさっき携帯で連絡したまゆっちだった。
「あのどうしたんですか?先程の電話も途中で切れましたし……」
「あのさー、さすがのオラもね、そっちから電話かけといていきなり切るっていうのはマナー違反だと思うんだ」
まゆっちの実力は本物だが姉さんを止められるのかと聞かれるとわからない。俺が姉さんを盲目的に強すぎると思い込んでるだけかもしれないが、もしまゆっちが姉さんを止められなければ本格的に拙いかもしれない。十夜には悪いが、ここはまゆっちを伴って川神院へ逃げ込むのが最善策!
「今は逃げるぞ!」
「え? え?」
「事情は後で説明するから!」
なのでまゆっちの手を引いて廃ビルの勝手口に当たる所から外に出たが……
「――――逃がさないぞ、大和」
その言葉とともに、進行方向を塞ぐように姉さんが上空から現れた。おそらく窓から飛び降りたんだろう。
「姉さん……!」
姉さんが降りてきたという事は、十夜はもう倒れたんだろう。ここまで時間を稼いだだけでもスゴイと思うが、せめてもう少しだけ頑張って欲しかった。
「え? え?」
「さあ大和、お前を私色に染めてやる」
「え? ええぇぇ!?」
「あのー、これどういう状況なの? 誰かオラにもわかるように説明して」
まゆっちと松風が状況を掴めずにアタフタしている中、姉さんは一歩踏み出して、咄嗟に上に片手を伸ばした。そしてその手は、上から飛来した何か――姉さんがそうしたように窓から飛び降りてそのままの勢いで蹴りを放った十夜の蹴り脚を掴んでいた。
「もうさっきみたいな不意討ちは効かんぞ」
「ぐっ……!」
そう言いながら姉さんは掴んでいた脚を放す。空中からよろつきながらも地面に着地した十夜は、すぐさま姉さんに向かっていく。
「それだけやってまだ向かってくるのは嬉しいが、今のお前と戦ってもつまらん。今はどいてろ!」
「ぐふッ!?」
しかし姉さんは一瞬で十夜の懐に入り込み、腹に拳を叩き込んだ。まともにその一撃を食らった十夜はそのまま地面に倒れ込み、痙攣を起こしていた。明らかなオーバーキルである。
「……しばらく寝ていろ」
地面に倒れ込んだ十夜を見て姉さんはそう呟き、そして再びこちらに目を向けた。
その時、今までオロオロしていたまゆっちが、静かに口を開いた。
「何を、しているんですか、モモ先輩」
「大和を私色に染めるために襲おうとしたら十夜に邪魔されたから制裁しただけだ」
「大和さんを見る限り嫌がってますし、十夜さんへの攻撃も過剰じゃないですか」
「嫌がってるからこそ私色に染める必要がある。十夜に関してもそれを承知で挑んできたんだからかまわないだろう」
自分の主張がさも当然のように語る姉さんの言葉を聞いて、戸惑ってオロオロしていたまゆっちの雰囲気が変わった。
「今のモモ先輩は何か変です。なので――」
先程とは打って変わって、どこか凛とした闘気を纏ったまゆっちが刀に手をかけ、抜刀した。
「――止めさせていただきます」
「無駄だ。まゆまゆに私は止められ――」
その瞬間、俺には何が起こったかわからなかった。
「――な……に……!?」
気付いた時には、まゆっちが姉さんに刀を振り下ろしていて、驚く姉さんの体から一筋の切傷から血が噴き出していた。
「――まさか私がこうも簡単に斬られるなんて……!」
姉さんの傷は瞬間回復によってすぐさま治ったが、斬られたという事実は決して消える事はない。
しかし姉さんの顔には苦渋の表情はなく、獰猛な笑みが浮かんでいた。
「斬ッ!」
「だが喰らわん!」
そこから姉さんとまゆっちの攻撃の応酬が始まった。俺ではもう目で追うことも出来ない程の凄まじい速さで拳と刀が振るわれている。
「せいっ!」
「きゃあっ!」
その中の姉さんの一発がまゆっちにヒットし、吹き飛ばされた。
「これで終わりだ。もう起き上がれないだろう」
姉さんは勝利を確信したようだが、まゆっちはというと。
「――っと」
「しなやかに受身成功!」
すんなりと受身をとってすぐさま起き上がった。松風による茶々が入ったことを見るとまだまだいけるみたいだ。
「――はは……ははは……いいなまゆっち! もっと私を楽しませてくれ!!」
姉さんの身体から出る威圧感がさらに増した。さすがのまゆっちも表情が強張っていく。
「――行くぞッ!」
獰猛な笑みを浮かべた姉さんが飛びかかろうとするように身体を沈めた――
「――こらっ! 何をしておるか!!」
「百代の気が高まっタと思ったラやっぱリ……!」
「全く、手のかかる孫じゃのぅ……」
――丁度その瞬間、そこへKOSで処刑人だった三人が現れた。
「げっ……!?」
それを見た姉さんは一瞬動きが固まった。その次の瞬間……
「――喝ッ!!!!」
局地的な地震が発生した。
…………
……………………
「――モモ、お前は夏休みの間儂と山籠もりじゃ」
「何だと!? 私の天使の羽をもぐつもりか!?」
「今お前に必要なのは精神修行じゃ。事実、今回の一件はお前の精神の弱さから起こった事じゃろう」
「うっ!? だ、だがそれなら実戦に勝る修行はないだろ!」
「そこは問題ない。我もその山籠もりに付き合うからな」
「あ、揚羽さんが?」
「うむ。我もまだまだ精神的に未熟ゆえな」
……学長の喝によって地震が起きた後、姉さんの暴走は治まり、説教がてらに何やら姉さんたちの夏の予定が決まっていくが、俺とまゆっちは完全に蚊帳の外。かといってこのままどこかへ去る事も出来ずに呆然としていた。
そんな中、ルー先生は姉さんによってグロッキー状態になっている十夜を介抱していた。
「ほら、大丈夫かイ?」
「ふぅぅぅ……ふぅぅ……」
多少は楽になったように見えるものの、いまだにその顔から大量の脂汗を流している。
その様子を見て、姉さんが恐る恐るといった感じで十夜に近づいていった。
「あー……その、悪かったな。大丈夫か?」
「……別に……いいさ……これ、くらい……エフっ!ゴフッ!」
「お、おい。あんまり無理しなくていいぞ」
……どうみても大丈夫には見えないが、追及するのはやめておこう。
十夜はさらに時間をかけて呼吸を整えて、姉さんに言葉をかける。
「さっき姉貴も言ってたけど、こうなるのを承知で、挑んだわけだしな」
「だけど、やりすぎたのも事実だしだな……」
ここまで落ち込む姉さんを見たのは久しぶりだ。前見たのは何の時だっただろうか……?
「……てい!」
と、ここで何を思ったのか、十夜は落ち込んでいる姉さんにデコピンをした。
「った!? な、何をする!? 危うく前髪のクロスが崩れる所だったじゃないか!」
あ、心配なのはそっちなんだ。
「姉貴が正気に戻ったんなら、俺としてはそれで十分さ。だからシャキッとしろよ」
「十夜……」
どうやら直接対決した二人の関係も特にこじれる事無く収まったようで安心である。
「ま、今は爺ちゃんにこってり絞られてきな」
「おぉう……ちょっとはお姉ちゃんをフォローしようとは思わないのか」
「もう十分にしただろ? じゃ、いってきな」
「何を言っているんだイ十夜? 君も一緒に来なさイ」
「え?」
「別に説教するわけではないから安心せい。ただ怪我人をそのままにしとくわけにもいかんじゃろ」
「無謀と知りながら己が思いを貫くために百代に立ち向かうとは天晴れだ! 我自ら運んでやろう!」
「え? 揚羽さん自ら運ぶって、どうやって……って、うわぁ!?」
揚羽さんがそういうと、軽々と十夜を抱き上げた…………所謂お姫様抱っこという形の抱き方で。
「は、恥ず……!」
まあ確かに女性にお姫様抱っこされるとか、男として恥ずかしいだろうな。
「では百代にはこれから川神院でみっちり説教をするからのぅ」
「うげっ!」
「今回はきっちり反省してもらわなイとネ」
姉さんが学長とルー先生に連行されていき、それに続いて十夜を抱きかかえた揚羽さんも続こうとしたので、十夜に一つ訊きたい事があった俺は咄嗟に呼び止めていた。
「あ、十夜。一つ訊きたいんだけどいいか?」
「ん? なんだ?」
「なんでこんな無茶を……?」
「……その無茶に何の躊躇もなく頼ったお前が言うか?」
それはごもっとも。だが、だからこそ聞きたいと思ったのだ。十夜はどういう意図で姉さんに挑んだのかを。
「まあ、なんだ。意地……というか、何というか……」
俺の質問に、あまり答えたくない事なのか、十夜は言いよどむ、が、しかしようやく回答を口にした。
「……――――だよ」
……が、その十夜の答えは、突如吹いた風に掻き消されてしまった。
「え? 今何て……」
「――フハハハハ! 成程な! ますます気に入ったぞ!」
聞き返そうとしたら、揚羽さんの高笑いによって遮られた。どうやら十夜を抱きかかえている揚羽さんには十夜が何を言ったのか聞こえていたらしい。
「っと、こうしている間に鉄心殿達と距離ができてしまったな。我らも早く行かねばなるまい。ではさらばだ!」
そして揚羽さんはそのまま十夜を抱きかかえて飛び立ってしまった。
……十夜のあの様子だと、今度聞こうにも答えてくれないだろう。つまり俺は十夜が姉さんに挑んだ理由を知る事がほぼ不可能になったのであった。
「あ、あのー大和さん? 何と言いますか……」
「よくわかんねーけど、ドンマイ」
「……あー、うん」
……その後、その場に残された俺とまゆっちは、特に何をするでもなく、島津寮へと帰路を共にした。
……しかし、俺には少し気になったことがある。
姉さんは俺を襲った時にこう言った。こんな事は弟分である俺にしかできない、と。
では弟である十夜を抱くという選択肢はなかったのだろうか?
もし弟分であればいいのなら、俺が逃げた後に十夜を抱いていれば、まあ別の問題は起きるもののあの騒動はその時点で一時中断していたはずだ。
しかし、そんな事は起きる事なく、姉さんはすぐに俺の前に再び現れた。つまり十夜は姉さんにとってそういう対象には含まれていなかったという事になる。
では、その姉さんの基準はいったいどのようなものなのだろうか?
――姉さんにとって弟分と弟では違うのか?
――錯乱してもさすがにそういった倫理が働いたのか?
――あるいは相手が直江大和だったからこそなのか?
……これは、もう姉さんが普段通りに戻った以上気にした所で何になるでもない疑問だ。
そんな些細な事が、どうしてか少し気になっていた。
<今回での十夜の戦果>
・【KOS】が終了した。
・【夏休み前半】の予定が埋まってしまった。
・【川神百代】と戦った。
⇒手も足も出ずに【敗北】した。
⇒【川神百代】の好感度が上がった。
⇒【九鬼揚羽】の好感度が上がった。 ▽
・現在の友達数:1人
+ 風間ファミリー(9人+1体)
というわけでKOS編終了です。強敵揃いだったKOS編でしたが、一番の強敵にはKOS終了後にエンカウントするという……w
Q.どうして十夜は百代に一撃入れられたの?
A.百代の錯乱+不意打ち+戦闘勘を取り戻していた+主人公補正などによってです。ちなみに百代が攻撃を食らった事に一番驚いていたのは、蹴りを入れた十夜本人です。
Q.主人公補正があるのに、何で特に描写もなく一方的にやられてたの?
A.百代に一撃入れた時点で主人公補正を使い切ってしまったからです。もし主人公補正が働いたとしても武道をやめた十夜がまともにMOMOYOと戦えるわけがありません。
※当作品では原作と違って、大和は不死川フラグを建てていません。S・クッキー爆発時に不死川を庇える位置にいなかった、という設定です。
※またKOSがあったからといって、大和はまゆっち√にいったというわけではありません。大和自身まだ自分の気持ちが定まっていません。なので当然まゆっちの唇を奪っていません。