・【知り合い】や【友達】が見舞いに来た
⇒彼らの好感度が上がった ▽
・現在の友達数:1人
+ 風間ファミリー(9人+1体)
自宅療養が二日もしないで終わり、ちょっとガッカリしながら再び学園に通う事になったのだが、何やら周りの様子がおかしい。
何故か変な視線を向けられたり、何やら避けられるようになっていた。以前は別にそういう視線や露骨に避けられるなんてことはなかったのだが、急にそうなった理由がわからなかった。
俺自身で変化した事といえば、ストーカーに壊されて残数がゼロとなったメガネをかけずに登校した事だけだったので、その日の放課後にメガネを買いに行った。少し痛い出費だったが、それほどまでに居心地が悪かったんだから仕方ない。
しかしメガネをかけても周囲の反応はごく一部を除いてあまり変わらなかった。
何でそうなったのか首をかしげていると、何度も決闘を申込みにきて俺がドモることなく会話できるくらいにまで慣れた辺りでようやく諦めた武蔵さんが教室に駆け込んできて俺の席に詰め寄ってこう言った。
「あなた、ちゃんと戦えるんじゃない!」
「……は?」
何の事かわからずに聞き返すと、武蔵さんは親切にも教えてくれた。
どうやら今回のストーカーの件によって、学内に俺にとって迷惑な噂が流れていたようだ。
曰く、相手を一方的にボコボコにした
曰く、不意打ちしてきた相手を半殺しにした
曰く、ボコボコにした相手を校内引き摺り回しにした
曰く、頭から血を流しながらも笑いながら相手を叩きのめした
曰く、付着していた血はすべて相手の返り血である
曰く、金属バットで殴っても「……何かしたか?」で済んだ
曰く、むしろ金属バットが曲がってしまった
曰く、メガネを壊したら性格が一気に残虐になった
曰く、一度死んだけどメガネを生贄に蘇生した
曰く、い、今起こった事をありのままに話すぜ? 襲撃したと思ったら半殺しにされていた。な、何を言っ(ry
曰く、金属バットを振り下ろしたら「残像だ」という声と共に上から刃物で脳天を刺された
曰く、金属バットでボコボコにしたと思ったら、それはすべて錯覚だった
などなど。これでも数ある噂の内の極一部であるのだから驚きである。
確かにストーカーに殴られて、ストーカーを叩きのめしたのは事実だが、それに尾鰭が付いてる噂や色々と捻じ曲げられてる噂が学内に広まっていたのだ。
まあ噂の内容自体は大和とかから聞いたんだけど、こんなにも多いとは思わなかった。噂の多さにちょっとショックを受けたりもした。
しかし理由がわかれば随分と気持ちは楽になるもので、変な視線はもう気にならなくなった辺り、俺の神経は図太いのかもしれない。……露骨に避けられるのは微妙にショックだが。
それに幸いというべきか、被害者である大和田さんが噂になっていなかったことにはホッと胸を撫で下ろした。
大和田さんは自分のせいで俺の変な噂が流れたってショックを受けているようだったが、別に噂自体には全く気にしていないのでその旨を伝えておいた。まあ、それで大和田さんが気にしなくなるかどうかはわからないが、その辺りはまゆっちのフォローに期待しておくとしよう。
まあ人の噂も七十五日というし、全体的に話題の種が多い川神学園だったら一か月しない内に噂が消えててもおかしくはない…………そう思ってたら一週間くらいで消えて、安堵しながらも自分はその程度の人間だという事に悲しくなったりと複雑な気持ちになった。
あ、武蔵さんの決闘は当然断っている。……まあ今回は向こうも引き下がる気配がないのだが、向こうも引き際を見極めているのか、それとも他にすることがあるのか、頻度も執拗さも前回に比べると格段に減っているので、少しウザいぐらいで済んでいる。
また、ガクトやモロが魍魎の宴という謎の集会に関して口にしていたのを聞いた。
少し気になったのでその宴とやらについて詳しく聞いてみたんだけど……
「お前には宴に参加する資格はねぇよ!」
と、ガクトに若干キレ気味で言われた。いやまあ資格云々はともかく何故そんなにキレ気味なのか……
「ちょっと前までは審議中だったんだけど……十夜の見舞いに女子が来たって知ったガクトが、ね」
モロの言い分を解釈するとつまり、俺に資格があるかどうか微妙だったけどガクトの意見によって資格なしと判断されたわけか。成程……いやいやちょっと待て。
「その資格の有り無しを決める判断理由が10割方妬みじゃねーか!」
そうツッコミを入れたらモロがきっぱりとこう返してきた。
「まあそういう集会だからね」
……それが正当な理由として通るって、本当にどういう集会なんだ……?
ちなみに俺以外にも大和やキャップも対象外だそうだ。……別にハブにされてなくてホッとしたとか思ってないからな。
まあそんなこんなで6月ももうすぐ終わる。6月が終わり7月に入れば、恐怖の期末試験ぐらいしか学校絡みのイベントがなく、それが終わればもう夏休みである。
しかし7月に入るその前にもう一つ大きな学校での恒例とも言えるイベントが行われる。
そう、6月末には体育祭が行われるのだ。
ちなみに川神学園で体育祭は一種ではない。普通の体育祭と球技に特化した球技体育祭、そして近くの海で行われる水上体育祭の三種類があり、この三つの中から毎年ランダムに体育祭の種類が決まるらしい。
そして今年は水上体育祭である。
この水上体育祭は成績などの公式記録には残らない、いわばお遊びのようなものだが、その代わりに優勝チームには水に関連した賞品が貰えるのでS組などの一部の生徒以外のモチベーションが下がることはあまりない。……まあ男にとっては女子の水着姿を楽しむという邪念たっぷりな動機もあったりするのだが、今重要なのはつまり体育祭のヒーローになることが可能だという点である。
「チャンスですよ、松風!」
「そうだな。まゆっちが大活躍して注目を集める。そしたら皆まゆっちに寄って来る。そこで相手のハートをキャッチする!つまり友達が増える!」
「私、やります!」
それが、まゆっちこと黛由紀江がやる気を漲らしている理由なのだが……
「十夜さんも頑張りましょうね!」
「あー……まー、うん。そうだな」
……まゆっちが盛り上がってるから言いにくいが、体育祭のある日から予備日までの間の天気予報はひたすら雨。つまり高確率で体育祭は中止になるということだ。……多分雨で流れるんだろうと俺は直感がそう告げていた。……一応テルテル坊主でも作るかな。効果があるかは知らないが。
「そうだ! ちゃんと晴れるようにテルテル坊主でも作りましょう!」
「ならクラスの皆にも頼んでみようぜ!まゆっち!」
「つまりそれは、テルテル坊主を通して友達を作れってことですか、松風?」
テルテル坊主を通して生まれる友情ってどんなのだよ、と多少の興味を抱いたが、だからといって俺は特にアクションを起こすことなくまゆっちの行動を優しい眼差しで見守っておくことにする。
あ、まゆっちが勇気を出してクラスの女子に話しかけてた……けど表情といい、松風といい、刀といい、発言といい、どれをとっても皆に怖がられて……って、まゆっちが深呼吸してる間に話しかけてた女子達が逃げた。
……なんか可哀そうだったので、気付けばまゆっちに声をかけていた。
「……一緒に作るか、テルテル坊主」
「……はい、お願いします」
こうして俺とまゆっちはテルテル坊主を作る事となった。
途中から大和田さんや風間ファミリーの面々も加わり、相当数のテルテル坊主が吊るされ、不気味を通り越して壮観だったのだが、その結果はというと……
「あぅあぅ……せっかくの見せ場が……」
「なんでや! なんでまゆっちの思いが通じんかったんや!!」
「お、落ち着いてまゆっち!」
やはり天気は雨。しかも予備日も全て雨だったので今年の体育祭は中止になった。その事実にまゆっちは涙を流し、松風は何故か関西弁で荒ぶっているのであった。まあ大和田さんが宥めているおかげで被害はまゆっちの風評被害だけで済んでいるので問題はないだろう、うん。
……あと、いつの間にかまゆっちと大和田さんの互いの呼び方が「伊予ちゃん」「まゆっち」になっていたのを見て、やはり同性の、それも同年代の友達は仲が良くなるのも早いなぁと思ったりした。
しかし体育祭が雨で中止になったというのに、それでも授業は行われるというのが不満である。もう今日は、というかしばらくは休みでいいじゃないかと思ってしまうのは俺だけじゃないはずだ。ちなみに次の授業はヒゲ先生の人間学である。
「えー、今日は本来なら体育祭でこの授業がなかったわけだが、生憎の雨で体育祭は中止。代わりに急遽この授業が宛がわれた。けどまあ急に授業やるぞっつってもお前らもやる気が出ねーだろうし、こっちとしても準備不足が否めない。つーわけで、今回の授業では自分の進路について書いてもらうぞ」
どう聞いても手抜きである。
「今日は女子の水着見るはずだったのに授業を受けないといけねーなんて……」
「憂鬱だぜ……」
「てか授業するならするで真面目にやってくださいよ」
よく言えば柔軟、悪く言えばユルイ印象のあるヒゲ先生が相手だから、クラスの連中が各々愚痴を漏らす。……その愚痴に真面目な意見が少ないのはまだモラトリアムな時期ゆえに仕方のない事だと思う。
「俺だって小島先生の水着姿楽しみだったんだよ! 本当なら今日は授業なんてしないで小島先生と海でキャッキャッウフフとしたかったんだよ!」
……大人の意見とは思えない言葉である。男の欲望って醜いなぁ……いやまあ気持ちはわかるけど。でも今日水上体育祭があってもヒゲ先生が梅先生とキャッキャッウフフはできなかったと思う。
それにしても進路調査とは……
「センセー、俺らまだ一年ですよ。まだ早くないですかー?」
「確かにそうだよなー。今決めろっつってもなぁ……」
俺の気持ちを代弁したかのように、クラスの男子――こいつらの名前、なんだったか?――が声を上げた。
その発言に対してヒゲ先生は、大きくため息を吐いてから、その男子生徒の問いに答えを返した。
「あのな、一年で進路決めるとか早いって思ってるヤツもいると思うが、そんな時間あっという間に終わっちまうぞ」
「そんなモノですか?」
「いやいやまだ時間あるじゃないっすか」
楽観的な発言に思わず共感してしまいそうになるが、その前にヒゲ先生がその言葉を否定する。
「そう思ってるヤツほど、来年の今頃になったら進路をどうするか悩むか、とりあえず進学って書くかのどっちかになるんだよ」
ヒゲ先生のやけに具体的な言葉に思わず自分の将来が不安に思えてくる。
「自分の夢があって、もうそれに向けて走り続けるってヤツはある程度将来のビジョンが見え始めてる。そんな奴とダラダラと生きてる奴が同じ道を競うとなったらどっちの方が有利かは一目瞭然だろ?」
そして説得力のある言葉に誰も不満や批判を言う事は出来なくなっていた。
「まあ早いうちに将来の目標を決めておくに越した事はないってことだ」
ヒゲ先生が教師らしい仕事をしているのに驚きながらも少し見直した。いやバイト先の上司としてはちゃんとやってるけど、それ以外だと……うん。でも今回の件で俺の中のヒゲ先生の評価は上がったのは間違いない。
「あ、今の話聞いてタメになったって思ったら、小島先生にそれとなく俺のことを良く話して置くように。いいな」
……上がった評価が一気に落ちた。これも間違いない。
しかしいきなり進路について書けと言われても、全く思い浮かばない。何も……そう、何も――――
――――――――
「――よし、これで今日の授業終了な。一応書けなかった奴は今度の授業までの宿題だから忘れないようにしろ」
「…………はっ!?」
……いつのまにか思考停止に陥っていたようだ。普通に言えば寝落ちである。
授業が終わり、ヒゲ先生が教室から出ていくと、周囲から話し声が聞こえてくる。その話題はやはりというか先程の授業のテーマでもあった進路についての事ばかりである。
それらの声につられてか、俺もその事に関して考えてしまっていた。
「進路、ねぇ……」
答えの出さない疑問に埋没しかけた時、まゆっちと大和田さんの話し声が聞こえてきた。
「伊予ちゃんは何て書きましたか?」
「うーん……ベイの優勝!……っていうのは進路とは違うし特に思い浮かばないんだよね……そういうまゆっちは?」
「私は、そうですね……お友達百人計画以外では、剣を極めるくらいしか……」
「まゆっち、それ女子高生の夢だと思えない」
「ですよねー……」
「まゆっち……さすがのオラもフォローしきれねぇぜ……」
まあそれが悪い事だとは思わないんだけどな……状況的には俺もまゆっちと同レベルだし。
「と、十夜さんは?」
ここでまゆっちが苦し紛れに、傍観ならぬ傍聴をしていた俺に話を振ってきた。
「俺? そうだな、俺は…………」
俺は授業中ずっと考え、そしていまだに答えを出せずにいた疑問を再び思い浮かべる。
そもそも俺のやりたい事ってなんだろう?
そう考えた時、心の奥底から自然と燻った感情が湧き上がってきた。授業中も実は感じていたそれを突き詰めれば自ずと俺のしたい事が浮き上がる。不思議とそう感じた。
だが――
「……思いつかないな、うん」
――気付けば、俺はその思いに蓋をして見ない振りをしていた。
<今回での十夜の戦果>
・【川神学園】で【さまざまな噂】が流れていた
⇒【武蔵小杉】に再び絡まれるようになった
・【黛由紀恵】と【大和田伊予】と【風間ファミリー】とテルテル坊主を作った
⇒彼らの好感度が上がった
⇒しかし【体育祭は中止】になった
・【人間学の授業】にて【進路】について考えた
⇒【何も思い浮かばなかった】 ▽
・現在の友達数:1人
+ 風間ファミリー(9人+1体)