・【ネットゲーム】をした
⇒【ネット友達】の好感度が上がった
・【マルギッテ・エーベルバッハ】に鍛錬を強要された。少し仲が深まった
⇒【マルギッテ・エーベルバッハ】の好感度が上がった
⇒体力その他諸々が上がった ▽
・現在の友達数:1人
+ 風間ファミリー(9人+1体)
6月に入りそこそこ経った。
あれから俺の交友関係は広がるわけもなく、しかしそれでも楽しくやっている。
代行業のバイトも一月も働けばある程度慣れてきて色んな仕事を任されるようになった。まあゲン先輩の手伝いが主なのはまだ変わってないが、それでも俺一人に任せてもらえたり、やらせてもらえる仕事も最初と比べると格段に増えていた。何となく充実している気がするが、しかしやはりだらけていたいという思いの方が強い辺り俺の性根はもうダメなのかもしれない。
そんな事を大和に言ったら、最近は具体的にどんな仕事をしたんだ、と聞かれたので、軽く仕事内容に関して話した所……
「……え?」
と、真顔で驚かれ、その後何故か同情の目で見られた。いや、哀れみ?
一体何が大和をそこまで驚かせたのか、何故大和にそんな目で見られたのか、わからない事だらけである。……そんな目で見られたのがムカついたのでとりあえず格ゲーで軽く無限コンボ入れておいた。
あと、最近よくマルギッテさんに世話を焼かれるようになった。
というのも6月頭にマルギッテさんが川神学園に編入したことによって、俺の生活態度がよくマルギッテさんの目に入るようになったのが原因だと思われる。……というか川神学園に編入って、軍人としての本業はいいのだろうか? いや多分クリス関係の任務なんだろうけどさ。
まあそんなわけで、俺のだらしない所を見られるとそれを正してくるのだが、一応健全な男子としては恥ずかしいやら役得やら複雑な気持ちになる。割合としては2:8くらい。
しかしその世話焼きはいいのだが、その流れで時々鍛錬をさせられるようになってしまったのだ。
俺が怠けている所を見つかるとそのまま連行されるという流れは通常の世話焼きと同じなのに辛さが違う。まさに天国と地獄である。
その天国と地獄の境目がどうやって決まっているのか考えてみたが、いまいちわからない。というか同じような事でも世話焼きで終わる場合と扱きまでいく場合で分かれる事もある。別に前に指摘された所が出来てなかったから、というわけでもなく、前は扱かれたけど今回は世話焼きで終わった、という事例も多々ある。その境目はおそらくその時のマルギッテさんの気分次第なのだろう。……その時の気分で対応が変わるとか、ちょっと理不尽だと思ったが、それで納得するしかない。
そんな感じでマルギッテさんとの仲も深まった気はする。……まあ友達関係と言うには違う気もするが。
そんな俺の少ない交友関係の中で最近気になっている事がある。
最近、大和田さんの様子がおかしいのだ。
何がおかしいのかと聞かれれば即答しかねるが、何と言うか、何かに怯えているような、そんな気がするのだ。
そしてそんな違和感を抱いたのは俺だけではなかった。
「十夜さん、最近大和田さんの様子、おかしくないでしょうか?」
「……まゆっちもそう思う?」
「何というか、時々不安そうな表情をするような……」
「何かあったんじゃねーかってオラも感じたんだ。九十九神の勘ってヤツ?」
九十九神の勘云々はともかく、まゆっちも大体俺と同じような事を感じ取っていた。
「俺も気になってたし、放課後にでも聞いてみるかね」
「な、なら私も……!」
「いやまゆっち確か今日はアレだろ? ファミリーの女子と女子会すんだろ?」
正確には風間ファミリーの女子メンバーで買い物に行くとか。昨日から姉貴とワン子が楽しみにしてたし、まゆっちも朝からワクワクしてたから間違いないはずだ。
「あ……で、でも……!」
「まゆっちはそっち行ってきな。心配なのはわかるけど、大和田さんの方はとりあえず俺だけで聞いてみるし、話聞けたらそっちにも教えるからさ」
「十夜さん……」
「トーやん……ええ男やで……」
「……ではお言葉に甘えさせていただきます。よろしくお願いします」
……という事でその日の放課後、クラスの面々が教室から出て行く中、俺は大和田さんに声を掛けた。
「大和田さん、ちょっといい?」
「……? 川神君、どうかしたの?」
「いや、ちょっと気になった事があってさ……」
教室から人がいなくなったのを確認してから気になっていた事を聞いてみた。
「……何かあった?」
「え?」
「いや、何か元気なさそうというか、そんな感じがしたから」
俺の言葉を聞いて、大和田さんは少し驚いたような表情をした後、少しだけ考える素振りを見せて、何かを決めたような表情で話し始めた。
「実は……」
◆◆◆◆◆◆
「ストーカー……!?」
思わず声を上げてしまった後、ハッとなって周囲を見渡し、誰にも聞かれていない事を確認して胸を撫で下ろす。
「続き、いいかな?」
「あ、悪い。続けてくれ」
「うん、実はこの前靴箱にこの手紙があってね」
大和田さんの手には一通の手紙があった。パッと見た感じだと特に変な所はないが、問題は中身である。
「読ませてもらっていい?」
「うん」
その手紙を受け取り、早速読んで見る。
…………
…………
「これは……気持ち悪いな」
手紙の内容は、何と言うか……うん、ヒドイ。気味悪い。気持ち悪い。ちゃんと読むつもりだったのに思わず流し読みしてしまうほどキモイ。流し読みしてもキモイ。
一体何がしたいのかわからんし、何を主張したいのかもわからん。いや好きって気持ちなんだろうけど。ラブレターの一種なのかもしれないが俺はこれをラブレターの一種と認めたくない。というか怖がらせるだけだろこんなモン書いても。
「それで犯人に心当たりとかはないんだよな? 変な視線を感じてたとか」
「うん。はっきりとはわからないけど、そういうのはなかったと思う」
「登下校中にとかは……って確か大和田さん自転車通学だっけ」
登下校中にこっそり付けられてるのかもと思ったが、自転車通学なら同じ速度で付いていくだけで目立ってしまうからないだろう。
「考えても怪しい人の心当たりはないんだけど、だからこそ怖くなって……」
「そこに書いてある私物っていうのが何かわからねぇの?」
私物というのは、この『雄汁を擦り付け~』……キモッ!? 微妙に流し読みしてたけど改めてみるとさらにキモイ! 本当に何書いてんだコイツ!
まあ簡潔に言えば、ストーカーによって自慰行為に用いられているだろう大和田さんの私物のことである。
「教科書とかは全部家に持ち帰ってるし、上履きと靴も靴箱に入れないで持ち帰りしてる」
「教室に誰もいない時に盗られてるとかは?」
いくら私物を持ち帰っていても持ってきている時に盗られたら意味がないので、その辺りの事を聞いてみた。
「その可能性も考えてこの前教室に隠しカメラをつけたんだけど何も映ってなかったの」
……同じクラスだけど隠しカメラがあったとか初めて知った。
思わず咄嗟に教室を見渡してしまったが、その様子を見た大和田さんに「あっ、今はもうついてないよ」と言われて、少し恥ずかしくなった。
「ごほん。……一応聞くけどそのカメラ設置したのを知ってるのって?」
「知ってるのは2,3人で全員女子だよ。信用できる人にしか手伝ってもらってないし」
大和田さんが信用している相手しかカメラの事を知らないのなら、そこから漏れたって事はないだろう。あと犯人がその中にいるってのもほぼ間違いなくない。あの雄汁云々といったキモイ文面からして犯人は男だろうし……。
「容疑者がいねーんじゃ、現行犯で捕まえるしかないんだけど……」
ストーカーがどこでストーキング行為をしてるのかがまずわからない。ストーカーの考え方なんてわからないから予想も出来ない状態だ。
「うーん、せめてストーカーが身近にいれば予想も出来るんだろうけど……」
「身近にストーカーがいる人は普通いないんじゃないかな」
そうだよな。ただでさえ少ない俺の知り合いにストーカー紛いの事をするヤツなんて……
「…………あ」
「え? もしかしていたの?」
いたな、うん。一人だけいた。
『愛の狩人』こと椎名京。
京は純粋な愛ゆえに時々ストーカーっぽい行動をすることがある。被害を受けているのは俺ではなく大和だが、その大和からいくつかどういう被害にあってたのかは愚痴として聞いているし、時々その現場に遭遇する事もある。
なのでその辺りも含めて考えてみようと、被害者である大和や加害者である京から聞いた話を思い出してみる。……ストーカーの被害者と加害者が両方友達っていうケースは珍しい気がする。
「……そういえば……」
結構前に大和のゴウラム(自転車の名前)のサドルが京に盗られたって話を聞いた覚えがあるな。
大和田さんは毎日チャリで通学してるらしいし……もしかして今回のストーカーが使ってるらしい私物もそれと同様に自転車関係の物の可能性があるんじゃないか?
……確認してみる価値はあるか
「……何か閃いたの?」
「あ、うん。ちょっと心当たりが浮かんだ」
「本当!?」
「まあ確証はないし、もしかしたらってレベルだから、とりあえず明日にでも調べてみる。可能性は低いからあんまり期待しないでくれ」
その心当たりの場所を言うべきかどうか迷ったけど、やっぱり違うかもしれないし、その辺りがはっきりするまで変に不安にさせる事もないと思って言わないでおいた。
「でもこれで違ったら一回教師陣に言った方がいいと思う」
「でも、先生たちに言ってもこういうのってきちんと解決してくれるのかな……?」
うーむ、確かに教師にこういう相談はしにくいのかもしれない。教師といっても四六時中誰かもわからないストーカーを見張り続けるなんて事はできないわけだしなぁ。何百人の内の一人のために動くのかと聞かれても、俺なら素直に頷けないし。
「あー、でも何もアクションを起こさないことはないと思うぜ。特にこの学校の場合、教師陣は何と言うか、アグレッシブだし」
ルー師範代とかなら義理堅いしヒゲ先生もそういう対策は慣れてそうだし。
「何なら依頼にかけてもいいんじゃね? それなら確実に何かアクションを起こしてくれるだろうし」
“依頼”とは食券を報酬として払う事によってトラブルやら何やらを、そういった荒事とかに慣れている生徒達が解決してくれるという川神学園のシステムである。まあ詳しいことは省くが、川神学園にはそういう問題解決方法もあるのだ。
「うん、そうだね。……あの、色々と考えてくれて、ありがとうね」
「別にいいって。つかまゆっちも気になってたぜ。何かあったなら相談してくれればいいのにって」
「……まゆっち、友達作ろうって頑張ってるから、私のことで変な心配とかさせたくなくて……」
別にまゆっちが信用されてないわけではないようで一安心である。というか俺も自分から聞くまで聞かされてないわけだからまゆっちを心配する立場ではないのだが、そこら辺はまあ置いとこう。
「まあまゆっちだけじゃなくて俺も含めてだけど、今度からはちゃんと言ってくれ。……友達なんだから心配くらいさせてくれ」
「……うん。ありがとう」
◆◆◆◆◆◆
次の日の朝、俺は自転車置き場に向かっていた。時間としては朝のHRが終わった直後だ。
朝早すぎれば大和田さんが来ていない可能性もあるし、他の自転車通学の奴に見つかる可能性がある。昼休みや放課後も誰かと鉢合わせの可能性が比較的高いから除外。
大和田さんが確実に学校にいて、かつ誰にも見つからない時間帯となると、授業と授業の合間か、朝のこの時間しかない……と思う。もしかしたら誰かに見つかるスリルをも楽しむチャレンジャーな変態ストーカーの可能性もあるが…………うん、考えないでおこう。
しかしそれにしても……
「眠ィ……」
昨日つい朝までオンラインで狩りしてたからひたすらに眠い。ついつい寝てしまいそうになる。
昨日は早く寝るつもりだったのに欲しい素材が出てこなかったせいで長引いてしまった。ドロップ率は20%と比較的高めなのに50体狩って1つしか落とさないとかどうなってんだ? 確率の桁が一つ間違ってるだろ。何であんなに出てこないのか…………物欲センサー?
そんなどうでもいい事を考えている間に自転車置き場に着いた。早速校舎の影に隠れながら様子を窺ってみるが……
「……いねぇな」
時間も時間だし、今この自転車置き場には俺以外人影は見当たらない。
一応念のため大和田さんの自転車の近くまで来たが、誰かが隠れているという事もなさそうだ。
「……予想はハズレか、ね」
まあチャリのサドルとか京ですらちょっとしたネタとしてやっただけみたいだし、可能性としてストーカー出現率は低いだろう。
とりあえずもう少し見回りだけしてさっさと教室で少しでも寝よう。……そういや一限って何の授業だったっけ?
……そう考えていた時だった。
「――――ッ!?」
突如として後頭部に鈍痛が走る。
まるで、後ろから鈍器で殴られたかのような痛み。
その痛みで、俺の意識は遠ざかり――――
◆◆◆◆◆◆
「ふうぅぅ……! ふうぅぅ……!」
頭から血を流してうつ伏せに倒れこんだ十夜を見下ろす男がいた。すなわち十夜を後ろから攻撃した人間である。
「お、お前が悪いんだ……俺の伊予ちゃんと仲良くして……!!」
川神学園1‐A所属、伊藤誠。
最初は大和田伊予という女の子を普通に好きになっただけの、普通によくいる一人の少年だった。
しかし彼には彼女に話しかける勇気がなかった。それでも好きという想いは日ごとにエスカレートしていく。
最初はただ彼女の姿を目で追うくらいだった。その目で追う時間が日毎に増していき、ついには意識して彼女の行動を観察、要はストーカー行為へと発展していった。
そのようなストーカー行為が学内だけで納まっていたのは、彼自身が無意識にその行為に罪悪感を抱いていたのか、それとも学内でのストーカー行為がまだ発展途上段階だったのか。
そして彼女を観察している内に、例え話しかけられずとも何らかの形で想い人との『繋がり』が欲しい、そう思うようになっていた。
結果、その思いは歪んだ形で現出することになった。
「し、しかも、それだけじゃなくて、俺と伊予ちゃんの、『大事な繋がり』も奪おうと、しやがって……!!」
彼の言う『大事な繋がり』とは、大和田伊予の自転車のサドルでの自慰行為のことである。一方的なモノではあるが、彼にとっては大事な繋がりであった。
今日もその繋がりを確認しようと自転車置き場へ向かったが、そこには最近伊予と仲良くしている男、川神十夜の姿があった。
その姿を見た時、誠の中で様々な感情が渦巻き、そして一つの結論へと至った。
――アイツは伊予ちゃんと俺の繋がりを全部断ちに来たんだ。
十夜がどういう経路でそのことを知ったのか、誠にはわからなかったが、彼にとって十夜がこの自転車置き場、それも伊予の自転車付近に来たことで、彼の中の疑念が確信に変わったのだ。
――俺が何とか手に入れた唯一の繋がりすらも、あの男は奪うつもりなのか。
誠の思考は通常で考えればおかしいものだ。自身のしている事はストーカー行為以外の何物でもないし、その行為が彼の好いている伊予に恐怖を与えている事くらいは少し考えればわかることである。
しかし今の彼にはその正常な考えが出来なかった。
――先に俺と伊予ちゃんの大事な繋がりを奪いにきたのはアイツだ。だから俺が反撃したとしてもそれは何の問題はない。むしろアイツは繋がりを奪いに来たんだから、俺がアイツの繋がりを奪ってもいいはずだ。
抑圧された好意は歪み、その歪みが自身の行為を正当化させ、その好意に基づく自身の行動は全て正しい事であると思い込むようになっていた。
故に彼が十夜に対して理不尽な嫉妬、憎悪、憤怒など負の感情を抱くのは仕方のない事であった。
――だから、その辺に転がっていた金属バットを手にして、アイツの頭に目掛けて振り下ろしても俺は悪くない。俺がする事は正しいんだ!
その結果がこれである。
倒れ伏す十夜を上から見下ろす誠の心に途轍もない優越感が生まれた。
「お、お前なんかが俺の伊予ちゃんに近付くから悪いんだ……! い、伊予ちゃんは……お、俺のモノなんだよ……!」
意識のない十夜に対して見下すように言葉を吐き出す誠は、そのまま追撃を掛けようと考え、その途中で考えを改める。
「……い、今はコイツの事なんてどうでもいい。そ、それよりも邪魔者もいなくなった事だし、伊予ちゃんとの愛を確かめるとしよう……!」
そう呟くと誠は、倒れ伏す十夜を視界から外し、本来の目的を果たす為に伊予の自転車へと息を荒くしながら手を伸ばした。
「ああ……! このサドルにあの尻が! アソコが!!」
そう口にしながら誠はサドルに顔を近づけ、臭いを嗅ぐ。
「あぁ、たまらんぜ!」
周囲に誰もいない事を良い事に誠はさらに自分の世界に浸り、興奮を高めて上り詰めていく。
そしてズボンのジッパーに手をかけ――
「――ムービーって便利だよなぁ。画像だけじゃなくて音声と動きも入るから証拠として信憑性が増すし」
「……え!?」
突如背後から聞こえてきた声に、咄嗟に誠が後ろを振り向くと、そこには地べたに座り込んだ状態で携帯のカメラをこちらに向けている川神十夜の姿があった。
「お、お前ッ!? さっき……どうして!?」
まさか川神院の人間は変わり身の術でも使えるのかとも思ってしまったが、十夜の頭から血が流れて、普段掛けているメガネが地面に落ちていることから金属バットによる攻撃を喰らったのは間違いないようだ。
(そ、そりゃそうだよな。べ、別に川神院の血筋でも鍛えてなきゃ普通のヤツと変わらないに決まってる)
そのことに少しホッとした誠は、なら先程撮られたであろう携帯の動画データをどうするか悩んでいると、構えていた携帯をポケットに仕舞った十夜が口を開いた。
「証拠写真、というかムービーは撮った。これでお前はもう終わりなわけだが……ちょっと軽くキれちまってさぁ……」
自身の頭――殴られて血の出ている箇所――を手で押さえ、手に付いた血のべっとりとした感触に顔を歪ませながら、のっそりと立ち上がった。
「最初はさ……現場を押さえて写メでも取って職員室へ報告っていう穏便な手段を取ろうと思ってたんだが……予定変更」
衣服に着いた汚れを軽く払い落とし、手を腰に持ってきて軽く背筋を伸ばし、前髪を後ろにかき上げながら、誠を見据え言い放った。
「悪ぃけどとりあえず殴るわ、お前」
その十夜の表情を見た誠は一瞬恐怖を覚えた。
十夜のその顔が、何故か武神・川神百代のある表情と重なったのだ。今までギャラリーとしてよく目にしていた、通学路で不良達を叩きのめす前などに見られる、あの残虐な顔と。
思わず悲鳴が漏れそうになるが、誠はそれを堪えて歪な笑みを浮かべる。
「な、なんだよ。し、知ってるぞ。お前、モモ先輩や川神先輩と違って武術やってないんだろ!?」
まるで自身の感じた恐怖を否定するかのように、十夜が脅威足りえないという根拠を口にする。
その誠の指摘に対し、十夜の返答は至ってシンプル。
「……で?」
十夜が発したのは疑問、或いは言葉の続きを促すための一言。ただそれのみだった。
「……え?」
「で? だから何だ?」
「ぶ、武術やってないんなら武器を持ってる俺の方が有利なんだぞ! そ、そうだ! 先に一撃入れたんだし勝てる! お、俺が、俺が負けるわけがないんだ!!」
そう言いながらバットを振りかぶり突っ込んでくる誠に対して、十夜はそれを特に気にした風もなく、落ち着いた様子で言葉を続けた。
「てか俺が武術やってようがやってなかろうがさぁ……」
向かってくる誠の懐に一気に入り込み、
「テメェが俺より強ェって理由にはなんねぇだろうがッ!」
先程までの落ち着いた口調とは一転して、激情が込められたその言葉とともに、誠の腹に強烈な一撃が叩き込まれた。
「ぐふッ!?」
その痛みで思わず振り下ろそうとしていた金属バットが手から滑りぬけ、十夜を挟んだ向こう側にすっぽ抜けてしまった。
しかし誠はアドバンテージであったその金属バットを気にかけることが出来なかった。
「今のが俺の分。で、これが――」
何故なら、目の前には再び拳を思いっきり振りかぶった十夜が、まるで悪魔のような残虐で氷のように冷酷な表情をしていたのだから。
「ひっ、ゆ、ゆる……!?」
「――大和田さんの分だ!!」
「ぐびゃッ!?」
十夜の拳が誠の顔面に直撃した。
その一撃をまともに喰らった誠は、吹き飛ぶながらそのまま無防備に地面に転がり、倒れた。
「ま、一先ず今回はこれで済ませてやる……って、もう伸びてら」
殴った相手が既に意識を失っているのを確認して、十夜は戦闘態勢を解き、軽く伸びをした。
「あー、頭イテェ……つかメガネどこいった?」
血の出ている頭を押さえながら周囲を見渡すと、見覚えのあるメガネを見つける事ができた。
ただし、フレームは曲がり、レンズは粉々に砕け散っており、誰がどう見ても修復不可能なほどに壊れていた。
「お、俺のメガネがぁぁっ!?」
メガネの横に金属バットが転がっている所を見る限りだと、おそらく誠が殴られた拍子に手放してしまったバットが、先程十夜が倒れた際に地面に落ちたメガネの上に偶然落下したのだろう。
ショックのあまり膝を崩してしまいそうになったが、そこはグッと堪えた。だが堪えた所でこのやり場のない感情が十夜の中から消えるわけではない。
「……ついでにこれが俺のメガネの分な」
「ごふぅッ!?」
なので十夜が気を失って倒れている誠の腹に蹴りを入れたのはある意味当然と言える。
何やら誠の口から変な呻き声が漏れているが、そんな事は気にせずに十夜は片手で誠の襟首を掴み、そのまま引き摺っていく。
「さっさと職員室行ってコイツ引き渡さないと。これで遅刻とかしたら最悪だしな」
頭から血が流れるようなケガをしているのだが、十夜はそれに関しては特に気にする様子もなく、変な呻き声が口から漏れる誠を地面に引き摺りながら職員室へと向かうのだった。
……その後、職員室にて色々と騒ぎが起きたのだが、それは割愛しておこう。
<今回での十夜の戦果>
・【アルバイト】によって【源忠勝】【宇佐美巨人】と交友を深めた
⇒【源忠勝】【宇佐美巨人】の信頼が深まった
・【マルギッテ・エーベルバッハ】に鍛錬を強要された。少し仲が深まった
⇒【マルギッテ・エーベルバッハ】の好感度が上がった
⇒体力その他諸々が上がった
・【大和田伊予】の【ストーカーを捕まえた】
⇒【大和田伊予】の好感度が上がった
・【学園】に【血生臭い噂】が流れた ▽
・現在の友達数:1人
+ 風間ファミリー(9人+1体)