真剣で川神弟に恋しなさい!   作:ナマクラ

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今回はタイトルの通りクリスのお話。



番外二話 『クリスティアーネ・フリードリヒの憂鬱』

 

 ――時は少し巻き戻る。

 

 

 それは十夜が由紀江と伊予を引き合わせていた頃、島津寮ではとある一人の女性が訪れていた。

 

 クリスが実の姉のように慕っているドイツ軍人、マルギッテ・エーベルバッハその人である。

 

「マルさーん! 久しぶりだー!」

「お嬢様。お久しぶりです」

 

 玄関から入ってきたマルギッテは、子どものような無邪気な笑顔を浮かべながら駆け寄ってきたクリスを見て、思わず頬を緩める。その姿は本当に仲のいい姉妹のようであった。

 

「いつまでこっちにいられるんだ?」

「明日までですね。明日色々と手続きをした後にドイツに戻る予定です」

「そうか……」

「……しかし6月になれば私も川神学園に転入しますので、そうなれば毎日のように会えるようになります」

「そうか! それは楽しみだな!」

 

 マルギッテの言葉で表情が沈んだり、また一気に明るくなったりと感情の表現がわかりやすいクリスを、マルギッテは微笑ましく見ていた。

 

「今日は島津寮の自分の部屋に泊まるんだろう? 寝る前に色々と話そう!」

「はい。もちろんです」

「楽しみだな~! あ、でも一応麗子さんに許可を貰った方がいいんだろうか?」

「それは問題ありません。先程挨拶も兼ねて色々とお話させていただきました。その際に私が時々こちらに泊まる事に関しても許可を貰いましたので」

「おお! さすがマルさんだ!」

 

 島津寮に入る前にその隣に住んでいて島津寮の寮母である島津麗子との交渉によってマルギッテは既に島津寮における準住人として扱われる事になっていた。……交渉と言っても主に買収によってだが、それは置いておく事にしよう。

 

 

 

 その後、他の島津寮の住人にマルギッテの事を説明し、そのまま同じ食卓を囲んで夕食を共にしたのだった。

 

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 そして夜、島津寮にあるクリスの部屋でクリスとマルギッテは色々と話をしていた。

 

 最近の学校での出来事や大和が策ばかり弄する事、十夜がだらしなくて少し心配だとか……そんなクリスの新しい日常に関する事が主に話の中心であった。

 

 クリスが話したいことを話し、マルギッテはそれに耳を傾ける。話しているのはクリスばかりだが、それでも二人とも楽しそうにしていた。

 

「……という事で、マルさんも大和や十夜、あとキャップも……とりあえず大和達のだらしない所を見たらビシッと正してやって欲しいんだ」

「了解しました。その辺りは私も気にしておきます」

 

 ……このクリスの言葉が後の十夜の苦悩になるのだが、その事はまだ誰も知らない。

 

「あ、そうだ。十夜で思い出したけど、そういえばまだ箱根旅行での決闘の話をしてなかったな」

「箱根での決闘?」

 

 ここで思い出したようにクリスは箱根旅行での大和との決闘での事も話し始める。

 

 マルギッテは自分達と別れた後にそんな事があったのかと少々驚き、そしてクリスがその決闘を通してまた一つ成長したことを知って嬉しく思った。

 

「あの決闘は自分もまだまだ未熟だと思い知らされた。大和の事を少々見誤っていたこともあるが、十夜の言葉も少し自分自身に思う所があった」

「というと?」

「自分は十夜の事を無意識に護らなくてはならないと思っていた。事実戦闘では自分の方が十夜よりも強いし、騎士として、何より仲間として護らなくてはならないと」

「そのお嬢様の考えは間違っていません」

「だが十夜は自分のそれを蔑みのように感じていたようだ。もちろん自分はそのように思っていたわけではないのだが、だがしかし考えてみると自分は十夜の事を過小評価しすぎていたようにも思える。十夜は戦えないと勝手に決め付けていた」

 

 もちろんこれはクリスが悪いというわけではない。実際戦闘においてはクリスの方が上であるし、十夜も戦えなくはないが、武道から離れて短くないのだから護られる側に入っていてもおかしくはない。ただ十夜にとって単にクリスの決め付けが気に入らなかっただけの話である。

 

 しかし十夜のように、護らなくてはならないと思われる事を『力なき弱者』や『格下』のように見られていると感じて、嫌悪感を抱く人も多少はいるだろう。

 

「同じように戦闘に向いていない大和に対してはすんなりと決闘を受けたのに、十夜に対しては戦う必要はないと決め付けていた。もちろん大和の時と違って本人の意志ではない所で決まった事だったからそう思ったというのもあるが、それとは別に十夜は戦えないのだと決め付けていた所があったのも事実なんだ」

 

 十夜にとっては単なる意地でしかなかった事だったが、その事を通じてクリスにとっては色々と考えさせられる出来事だったようだ。

 

「力がないからといって、一方的に戦えないと断じてしまうと、時として人を傷つけてしまう事もあるのだと気付いたんだ」

 

 クリスがそう口にしてから少し沈黙が流れた。

 

「…………?」

 

 その沈黙にクリスは違和感を抱いた。

 

 沈黙が流れるという事は、先程まで滞りなく返ってきていたマルギッテの相槌がなかったという事だからだ。

 

「マルさん?」

 

 てっきり何かしらの相槌を打ってくれると思っていたクリスは視線をマルギッテに戻すと、マルギッテはなにやら考えて込んでいた。

 

「……お嬢様、一つ、改めて訊かせて頂きたい。お嬢様は将来、軍人になりたいとお思いですか?」

「……? ああ。父様やマルさんのような軍人になりたいと強く思っている」

 

 いきなりのマルギッテの問い掛けを少し疑問に思いながらもクリスは返答する。

 そのクリスの言葉を聞いて、マルギッテは改めて目を閉じて少しの間考え込み、改めてクリスを見つめた。

 

 その眼差しには先程まではなかった真剣みを帯びていた。

 

「……では、お嬢様のために少し話さなければならない事が出来ました」

「話さなければならない事?」

「先程のお嬢様の話にも少々関連することです」

 

 マルギッテの話が自身にとっても大事な事であると感じ取ったクリスは、姿勢を正してマルギッテの目を真っ直ぐに見つけ返し、その言葉を待った。

 

「お嬢様は騎士道というものに憧れ、そしてそれに殉じていますね」

「ああ。自分は誇り高き騎士のように、正々堂々と生きていきたいと思っている」

「ですが、騎士道と軍人というものは時に両立し難いものです」

 

 クリスの自身の生き様を表したその言葉を、マルギッテは困難だとあえて指摘した。

 

「騎士道は、己を律し、弱きを助け、悪を挫く。つまりは義の為に動く道。しかし軍での仕事は時に、義に反した汚れた事もしなければなりません。もちろんテロリストなどが行うような非道な事はしませんが、それでもお嬢様の騎士道に反してしまう事をしなければならない時も出てくるでしょう」

 

 軍人である以上、国の為ならば義に反した事もしなければならないし、上官の命令には従わなければならない。それは軍隊としては当然のことであるし、軍隊以外でも程度の差はあれど少なからずある事だ。その辺りはクリスとて覚悟はしているつもりだ。

 

 そのクリスの表情を見て、マルギッテは改めて口を開いた。

 

「お嬢様は『武は力なきものに揮うモノではない』と仰ったのですね」

「ああ」

「ですが、軍人たるもの戦わねばなりません。たとえ敵が徴兵されたばかりの無力な民草であったとしても、武器を手にしただけの素人であっても」

 

 その言葉を聞いて、クリスの表情が少し強張った。それを見て、しかしマルギッテは構わず話を続ける。

 

「我がドイツ軍は精強な兵士達によって構成されています。仮に周辺諸国との戦争が起きたとしても優位に立つ自信があります。しかし極端な事を言えば、それは弱者を潰すという事になる」

 

 軍とは自国の民を外敵から護る為に強くなければならない。強くなくては国や民を護れないからだ。

 

 しかしそれは即ち、他の弱い者を潰す行為になりかねない。戦略的に敵の強い部隊に自身の弱い部隊を宛がう場合もあるのだから、全く的外れというわけでもない。

 

 しかし、このマルギッテの話は極論すぎる話でもある。

 

「今のは当然極端すぎる考えです。軍である以上は弱くとも軍隊であり、それは弱者などという枠組みには入りません。それに戦争で戦力が対等であれば被害もそれだけ大きくなります。それはわかりますね」

「ああ、もちろんだ」

 

 軍による戦争とは即ち殺し合いであり、戦力が同じであればそれだけ互いに犠牲者が増える事になる。同じ戦いでも、普段クリスが一子相手にする単なる勝負事や川神学園での決闘のように実力が近い相手であればそれだけ燃える、などとは話が違うという事は、当然クリスも理解している。

 

「ただ、もしも戦争や紛争が起きて軍を動かす必要が出てくれば、場合によっては敵の多くが“力なき弱者”となる事もあるでしょう。しかし彼等と戦わないわけにはいかない。何故なら彼等は“戦士”だろうと“兵士”だろうと“力なき弱者”だろうと“卑劣なテロリスト”だろうと、そんな事は関係なく、全て等しく“敵”であるのだから」

 

 おそらくは現役の軍人として実際に引鉄を引いた事があるであろう、そのマルギッテの言葉には重みがあった。

 

 その姉貴分の言葉がクリスの胸に重く圧し掛かり、その圧力によってか口の中が渇き、思わず唾を飲み込んだ。

 

「もし敵が“弱者”だったとしても、その敵が徴兵されたにせよ、金銭に困りその道しかなかったにせよ、その手に武器を取りこちらに戦意を向けて戦場に立ったならば、その時点で彼等は兵士となり敵になります。戦わねばこちらが殺されます。その時、お嬢様は彼らに銃を向け、引鉄を引けますか?」

 

 

 それは、『迷わず敵を殺せるか』という問い掛け。

 

 

「それは……撃てるさ」

 

 その問に対してクリスは『YES』と答えた。その答えを聞いてマルギッテはさらに問う。

 

「しかしもしかしたら相手はただ生きる為に戦わなければならなかったのかもしれない。相手にも義があるのかもしれない。相手は戦いたくなどないのかもしれない。もしかすると相手にも誰かを護るために仕方なく戦っているのかもしれない。それでも撃てますか?」

「それは…………いやしかし、そんな事を言っていたらキリがないじゃないか!」

「はい。お嬢様の言う通りです。しかし、今の私の言葉は屁理屈でしたが、実際そのような者もいないと言い切れません」

 

 その言葉にクリスは詰まってしまった。

 

 確かに“もし”や“かも”など可能性の話をしてもどうしようもない。しかしそのような可能性があるという事もどうしようもない事実ではあるのだ。

 

 確かに相手には何か事情があるのかもしれない。その事情は聞けば解決できるものなのかもしれない。しかしその事情を聞く暇などない。戦場で敵として現れた以上対話は不可能に近い。

 

 ならばどうするか?

 

「決まっています。相手に事情があろうがなかろうが関係ない。そんな事を気にする暇などない。敵として現れた以上撃たなければならない」

 

 

 

 

 

――それが戦争であり、軍人の職務なのだから

 

 

 

 

 

 マルギッテの言葉にクリスは何も返す事ができず黙り込む。

 

 

 先程僅かに流れた時よりも遥かに重い沈黙が流れた。

 

「……クリスお嬢様はおそらく軍才を持っておられる。すぐにでも軍の指揮官になられても不思議ではない。しかし、指揮官はその号令一つで多くの敵を殺します。その敵の多くがお嬢様の仰られる“弱者”である可能性もありますし、義に反した命令をしなければならない時もあるでしょう。その覚悟を、今の内にしておいてください。それさえすればお嬢様は素晴らしい指揮官になられるでしょう」

「マルさん、自分は……」

「……何も今すぐに答えを出さなければならないというわけではありません。時間をかけてもいいので、お嬢様が納得できる答えを見つけてください」

 

 そう締め括り、その身に纏う雰囲気が柔らかくなったマルギッテは俯くクリスの頭を撫でた。

 

 

 

 そこでその日の夜の会話は終わり、二人はそのまま眠りについた。

 

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 翌日、マルギッテが川神学園や川神院などに必要書類の提出や挨拶回りに向かった後もクリスは島津寮のリビングにて一人考えていた。

 

 クリスは将来軍人になるつもりだったし、それは今でも変わらない。しかしマルギッテの話を聞いた後、答えが出せずにいる。

 

 軍人を目指すに当たって、どうしても自分の主義主張を貫き通せない時がいつかは来るのはわかっていたし、覚悟はしていたつもりだった。しかし、マルギッテの仮定の話でさえ自分は割り切る事ができなかった。

 

 実際に軍人になった時、そして本当にその仮定のような状況に遭遇した時、自分は果たして引鉄を引く事が出来るのか、それとも別の選択肢を選べるのか、それともどちらも出来ずにいるのか、クリスは想像も出来なくなった。

 

 

 

 

――騎士道や義の心は捨てられない。

 

 

 

 

 それは既にクリスティアーネ・フリードリヒという人間の根幹とも言える部分になっている。それを捨ててしまえばそれは自分ではなくなる。

 

 

 

 

――かといって軍人にならないという選択肢は有り得ない。

 

 

 

 

 そのクリスは自分自身が軍人以外になっている姿を想像できない。尊敬する父や姉のような軍人になるという目標は幼少の頃から抱いてきたものだ。

 

 

 それならば――

 

「自分は……」

 

 

――どうしたらいいのだろうか?

 

 

 そう続けるはずだった言葉は、自分ではない誰かの声によって遮られた。

 

「こんな所で何してるんだ、クリス?」

 

 その声の主は直江大和。クリスとは主義が違い、よく意見がぶつかり合い、決闘までした、日本に来て出来た仲間であった。

 

「大和……どうしてここに……?」

「まあここ寮のリビングだしな。住人の俺がいてもおかしくはないだろ?」

「まあ……そうだな」

「……というのは建前で、朝から様子のおかしいのが一人いたんでな。どうしたのかと気になったんだよ」

「……そこまで顔に出てたのか?」

「出てた出てた。というか出てないと思ってたのか? 多分全員気付いてたぜ。マルギッテも心配してたぞ?」

 

 それを聞いたクリスは驚きを隠せなかった。

 クリスとしては表に出さないようにしていたつもりだったが、まさか皆に気付かれていたとは思っていなかったようだ。……実際には思いっきり顔に出ていたのだがその点は置いておこう。

 

「まあ話しにくい事なのかもしれないし、誰かに話して解決出来る事じゃないのかもしれないけどさ。誰かに話す事で気持ちが楽になるかもしれないし、自分の中で整理が付けられるかもしれないぜ?」

「そう、だな……」

 

 解決は無理かもしれないが、大和の言う通り、言葉にする事で自分の中の気持ちに整理がつくかもしれない。そう思ったクリスは話してみる事にした。

 

「実は……」

 

 

 

…………

 

 

……………………

 

 

………………………………

 

 

 

「なるほどな……」

「自分は中将である父様に憧れていたし、姉のように慕ってるマルさんも軍人の道を進んだ事もあったから、将来は二人のような立派な軍人となって祖国を護りたいと思っている。そして軍として時に非情な命令を下さなければならない事も理解している。……いや、してたつもりだった」

 

 物憂げに語っていたクリスの表情が、そこで苦渋に満ちたモノに変わっていく。

 

「だがマルさんに改めてそのような話をされて、自分はすぐに答えることができなかった。マルさんにその覚悟が出来ているかと訊かれて、今まで自分の中で固まっていたはずの思いが言葉として出てこなかったんだ」

 

 今まで軍人になるつもりで、これからもそのつもりで、軍人としての職務を全うするつもりで、それでいて騎士道との折り合いも付けられるつもりで、夢を抱いていた。

 

 しかしそれらの思いは単なる仮定の話にすらも返答できないような、見た目だけ整えた張りぼてのように脆いモノだった事に気付かされた。

 

「マルさんも意地悪でこんな事を言ったわけではないのもわかっている。このような迷いを持ったまま軍人になったら、それが原因で命を落としかねない。自分の身を案じての言葉だというのも理解出来ている。だからこそ生半可な答えは出したくない。口だけの決意をした所で意味はない。だがその答えはまだ出る気配すらない」

 

 どうすればいいのだろうか、と再び答えの出ない問題に悩み始めるクリス。

 

 その様子を見て大和は、これは拙い傾向にあると感じた。

 

 変に真面目なせいか、クリスの思考は悪い方向へとそのまま進んでしまっている。このままでは答えが出ない所か、クリスが精神的に参ってしまう可能性もある。

 

 それを危惧した大和は少し考えてからこう切り出した。

 

 

 

 

 

「――クリスって、バカ正直だよな」

 

 

 

 

 

「――よしそのケンカ買った」

 

「は? いや違う違う! 今のは悪口じゃなくてどちらかといえば褒め言葉だよ!」

「何……?」

 

 ケンカを売られたと思ったクリスだが、褒め言葉だと言われて、敵意は収めたものの大和に疑いの目を向ける。

 

 その事を気にせずに大和は口を開いた。

 

「何でもかんでも真面目に捉えて考えすぎるのは短所かもしれないけど、逆にそれはお前の持ち味でもあると思うぞ」

「持ち味?」

 

 自分の言葉にクリスが反応した事を確認しつつ、大和はさらに続ける。

 

「きちんとした正解がない事に真面目に考えすぎるのはアレだけど、それが悪いってことはないし、何よりお前は一度決めた事ならやり切ろうとする強い意志があるだろ。それは欠点を上回る長所だし、クリスはそれを活かせてると思う。当然その決めた事が間違っていたらダメだけど、最近のクリスは自分が間違ってると思ったらすぐにそれを正せるし、自分の考えに意固地にならない柔軟さも身につけてきてる」

 

 大和が自分の良い面をここまで挙げられる事に驚きながらも、クリスはその大和の言葉を素直に受け取れていた。クリス自身、先程までのネガティブな精神状態で疑いもなく大和の言葉を受け入れられている自分が不思議だったが、自分と普段意見が対立する事が多い相手が言う事だからこそ信用できるのだろう。

 

「だったらそれほど迷う必要はないし焦る必要もない。自ずとクリスが正しいと思える理想の軍人像が見えてきて、それに目指していけると思うぞ」

「自分の、理想像……」

「それにマルギッテだって今すぐ決めなくてもいいって言ってたんだろ? なら焦って納得できない答えを出すよりも、焦らず時間をかけて本当に自分が納得できる答えを探した方がいいに決まってる。ちょっとクリスは焦りすぎてる。一回落ち着いた方がいいぜ」

 

 大和の言葉を受けて、クリスは一度深呼吸をしてから少し考える。

 

 確かにこの問題は自分の一生に関わる事であり、自身の生き方にも関わっている。

 

 今回のマルギッテの話を聞いて、今までの生き方や思い描いていた将来図が大きく揺らいでしまった事もあって、クリスは自身の土台とも言えるモノを安定させるために少しでも早くその答えを出そうとしていた。

 だが自身の根幹に関わるような問題だからこそ、いくら考えてもすぐに答えが出るはずもないし、出るのならばここまで深く考えてしまう事もないだろう。

 

 早く答えを出さなければならない、そう思っているのにも関わらず考えても答えは一向に出ない。故にさらに不安定になり、さらに焦ってしまう。そのような負の連鎖に囚われていた。

 

 そこまで客観的に自己分析をしたクリスは一つ息を吐く。

 

「……すまないな大和。確かに自分は少し焦っていたようだ。助かった」

「別にいいって。これくらい」

 

 焦る必要はない。生半可な答えを出しても意味がないと自分で言っておきながら、早く答えを出そうとしてもそれこそ意味がない。

 

 そのことに気付けたクリスの表情は大和に話をする前よりも少し解れていた。

 

「しかし大和、お前いつも自分を騙したりするくせに、意外と自分の事を評価しているのだな」

「いや、そりゃ、な。……まあ出来れば俺の策に関してもう少し寛容になってもらえれば言う事はないんだけどな」

「それは承諾しかねるな」

「おい!」

 

 いつもと少し違う、けれどもやはり変わらない、二人のやり取りが今日も始まった。

 

 

 そのやり取りに大和は少し安堵した。

 

 

 

 

 

 ……いつの間にか、クリスの心は不思議と晴れていた。

 

 




<今回のクリスティアーネの戦果>
・【マルギッテ】と色々と話をした。
・【直江大和】と話をした。 仲が凄く深まった ▽




という事でクリス関係の番外二話でした。
今回は誰しも一度は思った事があるであろうクリスの騎士道と軍人の差異に関する事に焦点を当ててみました。どこかしらおかしな点がある可能性がありますが、その辺りはご容赦ください。
というか最初は「軍人として相手が『弱者』や『新兵』や『事情持ち』だったら撃てるのか?」という感じにしようと思ってたんですが、『弱者』だろうと『新兵』だろうと『事情持ち』だろうと相手が『テロリスト』ならクリスでも問答無用で撃つだろうなぁと思ったので修正しないといけなくなったりしました。

そしていい所を持っていく原作主人公。

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