ソードアート・オンライン ~少女のために~   作:*天邪鬼*

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受験シーズンですね~。
来年度は自分なのか………


勉強嫌い。


98話 宴

 

4月19日の日曜日。

都内某所を俺はドイツ製高級SUVの助手席に座りながら進んでいた。

車の運転手はSUVの所有者であるワイルド系イケメン。

黒い車体に紺色のスーツをビシッと決めた姿はセレブな社長にも見える。

後部座席に座るのは3人の女性。

俺の真後ろに座るのが、ジーンズにポンチョ風チュニックで落ち着いたファッションのシノンこと詩乃(しの)

勿論、伊達メガネも忘れていない。

そんな詩乃と反対側、ワイルド系イケメンの後ろに座るのは詩乃同様に伊達メガネを付けて肩までかかる薄い茶髪をウェーブさせた女子大生。

スラックスにシャツといったラフな格好をしている。

そして、その隣。

詩乃と女子大生の間に座る長身の女性。

こちらもスラックスとシャツ。

180センチを越えたスレンダーボディー。

この女性が………この背の高いショートヘアーの女性が。

あのGGOでちびっこキャラのレンだなんて………

 

「豪志さん………あとどのくらいで着きますか?」

 

俺は開けた窓から吹く風を仰ぎながらスーツを着たワイルド系イケメンの阿僧祗(あそうぎ)豪志(ごうし)さんに問い掛けた。

 

「もう少しです。なので………」

 

「胃の中ぶちまけてゲロ道にならないよう頑張りな!!」

 

豪志さんの躊躇いを含む間に後の女子大生であるフカ次郎こと篠原(しのはら)美優(みゆ)から間を埋めるように全く励ましになっていない励ましを貰う。

レンこと小比類巻(こひるいまき)香蓮(かれん)は"大丈夫?"と心配してくれているが、詩乃は呆れた様子で既に諦めている。

因みに香蓮さんと美優さんは同級生の幼馴染みであり親友だと紹介してくれた。

香蓮さんのゲーム師匠は美優さんらしい。

すると、詩乃が攻めるように言った。

 

「いっつも家にいるから車に酔うのよ!」

 

「んなこと言われても………」

 

俺は危険を顧みず窓から半分頭を出して外の空気を目一杯肺に入れる。

タクシーの時もそうだったが、どうしても他人の車に乗ると酔ってしまう。

別に臭くないのだが、慣れない匂いが原因だろう。

バスとかは平気なのに自分でも不思議だ。

しかし、流石ドイツ製高級SUV。

更に豪志さんのドライブテクニックで車体の揺れがほとんどない。

タクシーよりかは幾らかマシだった。

それでも高級車に自家製もんじゃを広げるのは論外なので、もしその時が来てしまったら外にもんじゃをお見舞いしよう。

 

「男はかっこよく車を乗りこなせないとモテないぜ!!って事で、豪志さん結婚を前提としたお話しない?」

 

「生憎、僕には心に決めた人がいるのでお断りさせていただきます」

 

フカ次郎のリアルである美優さんが、エムだった豪志さんに逆ナンを始めた。

 

『和人様にもいるんですからね』

 

「分かってる………」

 

右肩に装着されたリングに設置してあるカプセルを半分にしたような形の機械に俺は返事をした。

気のせいなのか、アイのカメラからは溜め息しか返答がなかった。

うん、多分故障だね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SJ2終了後、俺達は都内にある香蓮さんの住む高級マンションに集合することになった。

埼玉の俺もほぼ完成されたアイ達用のカメラを右肩に乗せて全力で指定された住所に急いだ。

引きこもりでも、毎日剣道全国ベスト8の妹を相手にしてたら体力も自然と付く。

お陰で想定していたよりも早く香蓮さんのマンションに到着することができた。

ただ、美優さんだけその時は北海道にいたらしく、テレビ電話となってしまった。

そんな中で香蓮さんがピトフーイを助けてくれと依頼を受けた人物にメールを打ったのだ。

その時、俺とアイと詩乃は依頼主がピトフーイの恋人であることを知った。

つまり、ピトフーイの味方で俺達の敵だったエムが助けてくれと要求してきていたのだ。

愛って複雑だと本気で思った瞬間だった。

そのエムからの返信が

 

"今、俺達の未来について話し合っている"

 

文面を見て香蓮さんが大声で万歳したのは迫力があった。

何処がとは言いませんけど。

俺も詩乃と軽くハイタッチをして喜んだ。

美優さんも当然喜んでいたが、テレビの奥で五月蝿いと母親らしき人物に脳天から空手チョップを喰らって悶絶していた。

テレビから響き渡る断末魔はまるでホラー映画その物。

歓喜のムードが一瞬にして冷めたのだった。

母親怖し。

そして、お通夜ムードの中でエムからの追伸が届き、場が何とか盛り上がる。

 

"4月19日、皆様にどうかお礼をさせて下さい。何でもしますよ"

 

北海道の美優さんはその場で飛行機チケットを用意しようとしていた。

鼻息が荒かったので"何を企んでいるんだ?"と不安になった程だ。

まぁ、その企みというのが逆ナンだったのだろう。

 

「略奪愛っていいと思わない?」

 

「刺されますよ」

 

だって、豪志さんに興味津々なのだから。

今、俺達は豪志さんの車から降りて変な建物の前に立っていた。

窓がほとんどない真っ黒な四角い建物。

外観じゃ一切の用途が見えない建造物だ。

しかし、俺とアイには分かっていた。

 

「チケット代って払った方がいいんですかね?」

 

『と言うか、カメラって大丈夫なんですか?』

 

「任せてください。一応、僕は彼女のマネージャーですし、責任者でもありますから多少の融通は効きます」

 

俺とアイと豪志さんの話に着いていけない詩乃と香蓮さんと美優さんは3人して顔を見合わせていた。

豪志さんはそんな3人にある物を渡す。

それは首にかけられるカードだった。

カードには関係者の文字と豪志さんのフルネームに音符のマーク。

 

「これで裏口から入れます」

 

「えっと、何にですか?」

 

香蓮さんが悩む3人を代表して訊いた。

それに対して豪志さんはイケメンオーラ全開で答える。

出たな、"ザ・ゾーン"!!

世間では俺もリア充な筈なのに出せない特別なオーラ。

資質の差か………

 

「神崎エルザのライブですよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺達は真っ黒な四角い建物であるライブハウスの2階中央最前列で神崎エルザのライブを堪能した。

座っているだけでステージが丸見えの特等席だ。

周りの観客も裕福そうな人物ばかりで最初は場違いな気がしてならなかった。

しかし、1000人近い観客を見下ろしながら光のイルミネーションは目を見張るものがあった。

機械的なものから自然をモチーフにした演出、透き通るような声を巧みに操りバラードから観客が盛り上がる曲。

俺達は神崎エルザが作り出す空間にのめり込んでいた。

ついでに言えば、ライブ中は小柄で清楚な黒髪美人である神崎エルザに不覚にも目を奪われ続けていた。

ライブが終わって心が落ち着いてきたのはついさっきだ。

未だにライブの余韻が残っている。

 

「思い残すことは無いぜ………」

 

美優さんに至っては硬すぎず柔らかすぎず、ライブハウス専用のイスに体をだらんと預けながら満足そうに笑みを溢している。

この中で一番盛り上がっていたのはあの人だからな。

相当、神崎エルザが好きらしい。

詩乃も香蓮さんも目が輝いていた。

アイは分からないが、ライブ中カメラからジーッと録画のような音が聞こえてきていた。

うん、やっぱり故障してる。

2時間程のライブで疎らに観客が居なくなってきた時、豪志さんが小走りでやって来た。

周りの観客に聞こえないよう耳打ちしながら端にいた俺に喋りかける。

 

「では、そろそろ楽屋に」

 

「分かりました」

 

俺は小声で頷いた。

俺は詩乃に目線で"行くぞ"と合図する。

合図を受け取った詩乃は隣の香蓮さんを突いて、気付いた香蓮さんが美優さんを突く。

 

「待ってました!!」

 

親友の香蓮さんが空手チョップという鉄槌を下した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「優勝おめでとう!」

 

楽屋に入ると早速神崎エルザからの盛大な拍手を贈られた。

ファンに貰った花束が楽屋のテーブルに放置していて、放置の仕方で彼女の性格がよく分かる。

洞察力が高い詩乃と香蓮さんは神崎エルザの言葉と拍手で全てを察し、香蓮さんはロケットダッシュで神崎エルザに抱き付いた。

 

「よがっだ~!!」

 

木綿季よりは少し大きいものの長身の香蓮さんが小柄の神崎エルザに抱き付くと神崎エルザがまるで人形のように見えてしまう。

魔王ピトフーイが形無しだ。

 

「何で黙ってたのよ」

 

「サプライズ的な感じで。成功したろ?」

 

「そうだけど、成功し過ぎたようね」

 

詩乃が豪志さんに支えられる美優さんを哀れむように見た。

豪志さんが困っている。

中々カオスな現場だ。

 

「分かったから放してよ!」

 

「ヴン………」

 

長い時間神崎エルザをモフリ続けていた香蓮さんが神崎エルザに言われて離れた。

あれだけのライブの後に長い間モフられたら流石に疲れるだろう。

息が上がってしまっている。

 

「豪志!!」

 

「は、はい!!」

 

それでも神崎エルザは大声で恋人の名前を叫んだ。

豪志さんは美優さんを畳の床に寝かせて戸惑いながら看病していた。

美優さん大丈夫なのか?

どうやら、フカ次郎は現実でもフカ次郎のようだ。

豪志さんは神崎エルザの号令で咄嗟に直立に起立した。

 

「金は用意した?」

 

「言われた通りに」

 

そして、神崎エルザは元気よく言った。

 

「SJ2"FLASK"の優勝パーティーだ!!」

 

俺達はその日、神崎エルザのライブハウスに泊まることになった。

"私のライブハウスだから"という理由でガンガン出前を注文して料理を出し、明日が20歳の誕生日である香蓮さんにお酒を飲ませフラフラにし、大声で笑った。

ライブハウスなので音は気にすることなく叫べ、神崎エルザはステージで色々なアーティストの曲をカバーしたりと暴走。

宿主の権限を大いに振るったのだ。

俺も詩乃も独特な雰囲気とチョコレートボンボンのせいでおかしくなり、皆を巻き込みプロが使うステージでカラオケ大会を始めた。

美優さんは持ち前のハイテンションを発揮して暴走する神崎エルザに付いていけてた。

恐らく、冷静だったアイと豪志さんに止められなければ朝まで突っ走っていただろう。

起きたのは昼過ぎで、元から休むと北海道の大学に連絡していた美優さん以外の学生。

詩乃と香蓮さんは悲鳴をあげながら超特急で家に帰っていった。

学生って大変なんだ。

 

「で、和人君には聞きたいことが沢山あるんだけど?」

 

「今日は流石に帰ります。メアドくれたらALOの招待コード送りますよ。特別アイテムほしいので」

 

神崎エルザは快く頷いてくれて、俺は然り気無く神崎エルザのメアドをゲットした。

べ、別に浮気ではない。

向こうが話したいと言ってきたのだ。

ああ、最近まともに木綿季と会ってない気がする。

 

「よし、帰るか」

 

『はい!!』

 

俺は動かない体で伸びをしてから立ち上がる。

首や腰が音を鳴らすので10代にしてもう歳の心配をしてしまう。

 

「………アイ、帰ったらちょっと大事な話があるんだ」

 

『何でしょうか?』

 

「今は言えないけど、最近考えていることがあってな」

 

俺はSJ2が始まってから真剣に考えるようになった話をアイに打ち明けようと思った。

アイは"楽しみにしときます"と言って帰りのバスや電車の時刻を調べてくれる。

俺は心が傷んだ。

俺が話す内容がとても酷いことだと自分で分かっているからだ。

でも、深く考えて言うと決めた。

例えそれが、

 

 

 

 

アイを傷付けることになったとしても………

 

 




ヘイ、ヘイ、ヘイ!!
次回、キリトがあの話を!?
この小説には珍しいシリアス回になるかもしれません。
ですが!!ハッピーエンドになりますのでご安心を!!
………と言うか、自分がシリアスなどドロドロ恋愛関係が苦手なだけです。
ヒロインは決まってて欲しい派なのです。
だから!!ちゃんと木綿季の出番はあるので!!
木綿季の登場は用意しています!!

では、評価と感想お願いします!!

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