「SAO
聞き慣れぬ言葉に俺は首を捻った。
「うん。SAO
レンは思い返すような顔で言った。
ピトフーイを止めてくれと依頼してきた人物の話を振り返っているようだ。
「あの日、SAOの正式サービスが始まった日。ピトさんは仕事でSAOに入れなかったの」
「え?それって良いことなんじゃ?」
「普通の人ならね。でも、ピトさんは違った。元から過激な人だったらしいんだけど、SAOが命のやり取りをするデスゲームだったと知ったピトさんは"私も行きたかった!!"って暴れまわった。回収されたナーブギアを取り返そうともしたらしいよ」
「おぅ………」
俺はピトフーイの異常さに苦笑いが漏れた。
レンも自分で話しながら改めてピトフーイの異常さを確認したのか苦笑いしている。
つまり、ピトフーイは自分も生死のやり取りがしたいという輩のようだ。
「βテスターでもあったピトさんは暴れに暴れて遂には恋人までボコボコにしちゃう程になってね。まぁ、その勢いを仕事に向けられたことで解決したらしいんだけど。プラスGGOでプレイヤーを殺してストレス発散したり」
「それでも追い付かなくなって最終的に大会で死ねば自殺しようと計画する。原理は分からないけどSAOのような状況に自らを置こうってことか………」
「恋人も巻き込みながらだよ………」
レンは一言足して俺の想像を肯定した。
ここまで分かっているなら"警察に通報すればいいのでは?"と思ってしまうのだが、ピトフーイが"そんなことするわけ無いじゃん"と否定すればお払い箱になってしまうだろう。
警察だって暇じゃないのだから注意とかで終わりそうだ。
「でも、前にピトさんに"私が勝ったら現実で会う"って約束を結ばせたからこの約束を何が何でも守ってもらう!!」
「成る程」
両手でガッツポーズをしているレンの言葉には熱が籠っていた。
たしかに、ピトフーイのような人物は特定の人物との約束は破らない傾向がある………と思う。
ただ俺がそう考えているだけなのだが、異常な人って変な所で律儀だったりするのだ。
と言うことは、プロが集う大会の中でレンがピトフーイを殺し、加えて殺す前に約束のことを言って約束を守らせる。
銃がメインのゲームで1発で終わらせることができないのかよ。
「SAOに入ってたら何やらかすつもりだったんだよ………レッドプレイヤーの道まっしぐらじゃん」
「話によると、"SAOをやっていれば、そんな人殺しプレイヤーになれたのに!正義の名の下にレッドプレイヤーをぶち殺すことができたのに!"って。SAOがクリアされたときにこれまた周りの物をぶち壊していたらしいよ」
「ダークヒーロー志望なんだ………目には目を歯には歯を悪には悪をってこと?」
「
「あ、このネタ知ってるんですね」
俺は頭をかきながら肩を落とした。
正直、レンの話を聞くまで面倒くさいとばかり思っていた。
"馬鹿馬鹿しい自殺願望者なんてどうすることもできないじゃん"と考えていた。
しかし、SAOが絡んでくるとどうしても製作側の人間として罪悪感が湧いてきてしまう。
"SAOなんて作らなきゃよかった"と茅場さんの夢を否定したくなる。
そんなの嫌だ。
憧れの人の夢を否定しない為にも目の前で起きていることぐらいは何とかしたい。
「SAO
俺は無意識に呟きながらGGO首都のグロッケン裏通りにあるプレイヤーが開く店でM16シリーズの棚をフカ次郎とシノンと一緒に眺めているアイの後ろ姿を見据えた。
3人はGGOトッププレイヤーのシノンのアドバイスを元に参加を決意したSJ2に向けて武器を選んでいる。
俺とレンの話など全く聞く耳を持っていない様子で大いに盛り上がっているみたいだ。
「奇跡としか言いようがないな………」
「奇跡?」
「ああ、いえ!何でもありません!!」
俺は慌てて誤魔化しながらも再度アイを。
SAOに1万あるアカウントの中で
壁を蹴っては横に飛び、着地したら今度は上に飛ぶ。
限られた空間をフルに使って俺はエムの撃つアサルトライフルの銃弾を避けていた。
壁を蹴ったり床を蹴ったり天井を蹴ったり、コツまで使いながら立体的に回避行動を取っているのでどちらが上でどちらが下なのか分からなくなってくる。
上下左右が分かるのはエムの形だけだ。
「この!!」
エムが唸りながらアサルトライフルの引き金を引く。
アサルトライフルの銃口からは毎回3発ずつの弾が出てくる。
俺は向かってくる最初の弾を勘を頼りに"オニマルクニツナ"で払うと2発目も打ち消そうした。
しかし、この距離になるとバレットラインと実弾のタイムラグは非常に短く無いに等しい。
2発目が俺の腹部を掠めて飛んでいき俺は3発目を逆手に持った"カゲミツG4"でなんとか弾く。
俺とエムはこのような状態を戦闘開始からずっと続けていた。
ただし、エムは銃なのでいずれ必ず弾切れが発生する。
光剣もエネルギー切れがあるのだが、流石に燃費はいい。
少なくとも後30分は熱エネルギーの刃を出したままに出来る。
「む!!」
そして遂にエムが放っていた銃弾が途切れた。
今まで3点バーストだったのに2発目で止まったのを見ると罠でもないらしい。
この好機を逃すわけにはいかない。
俺は天井からエムに目掛けて突っ込んだ。
だが、流石に弾切れした時に襲われるのを想定してたのかエムは右腰にぶら下げていたコンバットナイフを突き付けてきた。
俺は構わず光剣を振るって迎え撃つ。
「はぁ!!」
「むん!!」
俺とエムの間でコンバットナイフと光剣が衝突した。
しかし、ここでは漫画のような鍔迫り合いは起きない。
右切り上げした光剣"オニマルクニツナ"がエムのコンバットナイフをすり抜けたのだ。
金属で出来た実態のあるコンバットナイフに対して光剣はエネルギーの塊で実態はない。
よって、"オニマルクニツナ"はコンバットナイフをすり抜けてエムの右肩に吸い込まれていった。
「グウッ!!」
エムの右腕が宙に舞い、着地した俺の横に転がった。
俺は間髪入れずエムへ向き直して"カゲミツG4"を振り上げようとした。
エムはその巨体故に動きは鈍くまだ振り返ってもいない。
コツを使った攻撃に着いてこられる訳が無いのだが、エムの背中はどこか諦めを感じさせる。
俺は"カゲミツG4"を振り上げてエムの残った左腕も斬り落とすと、"オニマルクニツナ"で両脚の先端ももいだ。
四肢を失ったアバターではまともに動くことはできない。
エムは人形のように仰向けになって倒れた。
「驚いた………まさか銃弾より速く動けるなんて………BoB優勝者をあまく見すぎたか」
「HPはどれくらい残っている?」
「………眉間に光剣を刺せばすぐにくたばる」
エムは目を瞑ったまま全てを諦めた表情になる。
背中で感じたものだけではない。
口調に表情、なにもかもが諦めを物語っている。
だが、こちらとしては死んでもらうと困るのだ。
俺は光剣のスイッチを切ってついでにフードも取った。
久しぶりにフードを外して猫のようにブルブルと顔を震わす。
フードに針金を入れてフードが落ちないようにしていたから頭が痛い。
俺は自分の頭を撫でながらエムに言った。
「だって、あんたピトフーイに言われてゲームで死んだら自分も死ぬことになってるんだろ?レンさんがピトフーイを殺すまで殺さないよ」
「………知ってたのか」
エムが天井を物思いに見詰めたまま呟く。
俺は無言で頷いた。
「キリト君!!ピトさんがいない!!」
「え!?」
突然、1つの個室から飛び出してきたレンが勢い余って転がりながらも叫んだ。
俺は思わず口をだらしなく開けながら目を剥いた。
続いて別の部屋から出てきたアイが早口で状況を伝える。
「外から全部屋見ましたが何処にもいません!!」
「一階にもか!?」
「はい!」
俺は舌打ちして口を押さえた。
予定なら俺が一階から、アイとレンが外の窓から侵入して挟み撃ちにするはずだった。
今頃、エムを行動不能にさせてピトフーイと戦っている最中の構想だ。
しかし、肝心なピトフーイが何処にもいないのでは作戦どころかここまで来た意味がなくなる。
俺は一瞬、エムに聞き出そうとしたがエムが口を割る筈がない。
すると、インカムにザザッというノイズが発せられた。
『キリト上よ!!』
それはログハウスの遠くで待機しているシノンからだった。
このシノンの言葉は周波数を同じにしているアイとレンにも届いている。
俺達は揃って天井を見た。
木材が原木のまま積み重なったような天井があるだけで忍者のようなことをしているプレイヤーはいない。
そして、ふと、エムが物思いに天井を見詰めていたのを思い出した。
それにシノンの緊急の言葉を加えると___
「伏せろ!!!」
俺は四肢を無くしたエムを死ぬなという念を籠めて壊れた階段に蹴って突き落とすと、アイとレンを抱いてその場からジャンプした。
それと同時に天井が爆発し、爆風と爆炎に散らばった木片が俺達を襲った。
背中に爆炎などを受けて俺達は一気に廊下の端まで飛ばされてしまう。
特に俺はアイとレンを庇っていたせいで勢いよく端に激突した。
俺はヨレヨレと振り返る。
「………わぁお」
天井が破壊されて明るみを取り戻したログハウス。
その屋根の上には長い黒髪をポニーテールでにして全身を銃と弾薬などで纏った黒い女。
試合前に見た時とは全く違う風貌で畏怖すら覚える。
ピトフーイは心地よい曲を歌うように両手を広げて言った。
「さぁ~て、殺し合いましょ♪」
アイとピトフーイの関係!!
皆様もお分かりですよね!!
あー!もうこれがやりたくてSJ2編を投稿したようなもんですよ!!
本当に奇跡ですよね!!
では、評価と感想お願いします!!