風邪引きました。
数百メートルも高さのあるSJ2フィールド中央のドーム。
このドームは窓1つないコンクリート質の壁で全てを完成させている。
勿論、壁は少しの光も通していない。
電灯などの光になる設備が一切整っていないので、ここが現実ならプレイヤーはドームに入った瞬間、暗闇に飲み込まれている筈だ。
ドームの中に生い茂った巨木の為に運営側が魔法を使って何処からか光を生み出しているのだろう。
自然を守るいい心がけだ、うん、うん。
お陰で真下がよく見える。
『OK、指示よろしく!!』
「「了解」」
インカムからレンの声が届く。
レンは今頃、真下に立ち込めるこのピンクの煙の何処かにいるのだろう。
モクモクと不規則な動きで視界を妨げる煙は木の上から見るとピンクの雲海にしか見えない。
スモークを撃ったら絶対に動かないと予め約束しているのでフカ次郎とシノンの位置は何と無く分かる。
しかし、動くレンは今のところ居場所が特定できない。
サーモグラフィーみたいなのがあれば便利なのだが、生憎そんなもの持ってきていないし、そもそも売ってる所さえ見たことない。
「キリト様」
2つに分かれた木の向かい側、アイが武器を持って手招きしていた。
俺は自分がいる枝から太い幹のような枝に片膝をつくアイの所まで飛んだ。
「では、いきますよ」
「ああ」
そう言ってアイは自らが持つ銃のスコープに目を当てた。
アイの銃、アサルトライフル《M16A4》のフルオートモデルである。
M16シリーズ、銃のことなどさっぱりな俺でも知っている有名なアサルトライフルだ。
あの伝説の殺し屋、ゴルゴ13も使うのだから性能はお墨付きの筈。
彼のように1キロを超える長距離スナイプは無理だとしてもスナイパーライフル界トップレベルの性能を発揮してくれるだろう。
因みに《M16A4》は命中精度と射程、軽いといったのが利点。
アイもそれを知っていて《M16A4》をメインの武器として選んだと思っていたのだが、"いえ、違います………"と目を逸らしながら答えたので調べてみるとM16は"ブラックライフル"と言った異名があるらしい。
勘違いかもしれないけど、ブラック=俺?のような推測とアイの目を逸らす仕草で悶え死にそうになった………
「………っ!!あれだ!!」
そうこうしていると、脳内お花畑から強制帰還するはめになる現象が起きた。
俺はアイの背中から覆い被さるような態勢をとり、対象へとアイの照準を大方合わせさせる。
アイが覗くスコープの先には赤い光線、バレットラインの始まり部分、つまり、プレイヤーがいるのだろう。
スモークで姿は確認できないが、バレットラインの付け根なのだから居るに決まっている。
「………撃ちます」
アイは一呼吸置いてから引き金を引いた。
ダダダダ!!と唸る銃弾が見えない敵のHPを削ぐ為に飛んでいく。
当たれば脳天直撃一撃死もありえる銃弾。
俺は着弾したと思ったらすぐにインカムに伝える。
「今の見えました?」
『赤いシャワーが伸びてた!!』
インカムからは力強い声が返ってっ来た。
どうやら、全力で走っているらしい。
上から見ればよく分かる。
最初は不規則に動くだけのピンク色のスモークが、今ではレンの全力ダッシュで動きがある。
レンの走るとスモークが瞬時に軌跡を作り出すのだ。
これでレンの位置が分かるし、敵の位置もバレットラインでハッキリする。
レンが地上でバレットラインの発生源に突撃するもよし、上には俺達がいるからレンの視界外などの敵も見付けられる。
アイの狙撃で敵のHPは大体削れるから無駄弾も抑えられるし、俺達に気付いても俺が弾く。
それがバレットライン無しだったとしてもだ。
「そこだ!」
広い視野で敵のバレットラインを見付け、スコープを覗くアイに位置を体で教える。
何か卑猥だけど………
その後、レンがそこに走っていく。
殺していたらそれでよし、殺せてなかったらレンが殺る、スモークが晴れてきたらフカ次郎が再度撃つ。
これを数回くり返したら同士討ちが始まるだろう。
ラインも現れず大体の敵を片付けた頃、良いタイミングでスモークが晴れてくる。
俺とアイはお互いの瞳がしっかりと見える近距離で頷き合うと立ち上がった。
《M16A4》をストレージにしまうアイ。
メインアームを戦場でしまうという通常だとあり得ない行動を終えて、俺達は木から降りることにした。
木に絡まる頑丈な蔓を持って切れないかを確かめる。
「ほれ、後ろ」
「では、遠慮なく」
俺はアイを背中に乗せた。
首回りにアイの腕が回されて温もりを感じる。
戦場だからなのか、それでも恥じらいなく乗っかってくれるのは嬉しい。
こんなアイもいつかは"パパとはお風呂入らない!!"って言ってくるのだろうか?
いや、入ったことないけどさ………
「よっと!」
俺は反動を付けて木から飛び降りた。
振り子のようにしなる蔓は俺とアイの体重を難なく支えられている。
ターザンをやりたいと言った密かな願望が叶い嬉しくなった俺は蔓を放し、滑るように着地した。
踵を擦らせてブレーキを利かせる。
お陰で今回はSAO時代の時みたいに右腕をぶっ刺されることはなかった。
しかし、辺りには残酷な光景が広がっていた。
「死体の広場ですね」
アイが俺の肩に顔を乗っけて率直な感想を述べた。
俺は然り気無くアイの太股に腕を入れて体重を支えてやる。
ポンチョの中の服装は俺も知らないが、少なくともシノンのようなショートパンツでは無いようだ。
俺はそのまま歩き出した。
「アイの撃った弾で死んだ奴もいるんだな」
「みたいですね。流石、ゴルゴ13愛用銃」
「そのお陰ではないだろ」
他愛ない話しをしている俺達だが、周りの所々には死体が転がっている。
アイの弾で死んだらしい脳天に赤い銃弾エフェクトがある死体やレンの銃弾で死んだ蜂の巣の死体。
1つ2つと数えながらシノンとフカ次郎の元に歩く。
すると、うっすらとだが、楽しそうな声が聞こえてきた。
思わずアイと見合わせる。
アイも聞こえたらしいので幻聴じゃない。
このドーム内ジャングルに原住民がいるとは思えないし、何よりも銃撃戦の後だ。
フカ次郎の嬉しそうな声だったらまだ分かる。
しかし、楽しそうな声だと疑問が湧かずにいられない。
俺は小走りでシノンとフカ次郎の元に向かった。
「Let me Go!!いつだって!!最大の!!ポテンシャルで!!」
そこは残虐で残酷な処刑場だった。
仰向けに大の字で泣く男、その男の四肢に長っ細い銃で殴打する金髪の悪魔。
銃での打撃でHPは中々減らず、四肢の鈍い痛みに似た感覚と痺れが残るだけの攻撃方法だ。
しかも左手は手のひらを打っていて、あれでは痛みでメニューを呼び出せずリタイアも不可能。
そんな光景を、というか男を絶対零度を越えたような冷酷さで見つめるシノン。
泣きじゃくる男、泣きじゃくる男を楽しそうに拷問するフカ次郎と冷酷な瞳から放たれる視線を突き刺すシノン。
何があったか聞きたくも知りたくもない………
俺は別の質問を探した。
「な、なんで天誅ガールズ?」
「おお、キリトとアイちゃん!!そんなのこいつが女の敵だからさ!!」
まるで、畑仕事をするように爽やかな笑顔をフカ次郎は向けてくるのだった。
もう、銃が鍬に見えてしまう。
フカ次郎はまた、鍬を振り上げて男の左手に打ち下ろした。
グシャッ!!と明らかに骨が折れる音が不思議なほどクリアに聞こえる。
ついでに、天誅ガールズの曲"ミラ・ガール"の続きも聞こえてきた。
「ねぇ」
「は、はい!?」
シノンが瞳はそのまま声は優しくしながら訊いてきた。
別に悪いことしてないのに犯罪者になった気分になる。
「天誅ガールズの天誅ブルーってアイちゃんに似てるわよね?」
「そうですか?」
「………まぁ、確かに似てるな。髪を巻けばそっくりかも」
天誅ガールズ
かの有名な歴史上に存在する47士をモチーフとした大人気魔法少女アニメ。
"貴方のハートに天誅!天誅!"をキャッチフレーズとして悪をばっさばっさと完膚なきまでにやっつける戦隊ものだ。
小さい子から大人まで幅広い年齢層から愛されており、俺やアイも見ている。
その中にいる防御担当の天誅ブルーがアイに似てるのだ。
「うぁ………」
いつの間にか戻ってきたレンもフカ次郎の行動に引いていた。
大事なピーちゃんを行使して死体を作り戻ってきたらこれだ。
敵に容赦のないレンも今回はあの男に同情しているのだろう。
レンはフカ次郎の行動を止めに入った。
そして、左手が動けない男に対してレンは優しく眉間に1発だけ与えてあげた。
男は心底嬉しそうな顔で殺されていった。
「余計な戦闘もこれで終わりですね」
「ん~、たぶん違うよ」
男を殺したことでドーム内戦闘は終わりだと感じたアイが言うとレンはキョロキョロと辺りを見渡した。
レン以外の皆は"何だ?"と思いながらレンを見る。
すると、レンはおもむろに2体の死体が重なる場所にピーちゃんの弾を撃った。
「痛って~!!」
死体が喋った瞬間だった。
えー、最初言いましたが風邪引きました。
別に軽い風邪なのですぐ治ると思いますが、一応報告します。
次回の投稿が遅かったら"風邪と戦ってるんだな"と応援しながら待っていてください。
勿論、風邪とか関係無くすぐに投稿する可能性もあります。
では、評価と感想と応援お願いします!!