これで3羽の兎が揃った~!!!
リゼの家凄いな。
「パパ!!!!」
俺とザザ。
この広大な砂漠地帯には俺達2人しかいないように見える。
むしろ、この砂漠が広大すぎるというか殺風景すぎるというか、そのせいで人類最後の生き残りVSマスク宇宙人という砂漠どころか地球に2人しかいない感じすらする。
こんな奴と2人っきりなんてマジで嫌だ………
だが、幸いなことにこの砂漠には俺達の他にもう1人プレイヤーがいるのだ。
俺は待ってましたと言わんばかりの表情で返す。
「引け!!!」
「なに!?」
俺は大声で叫んだ。
それはもう、美食屋四天王にも負けないような声を出したつもり。
流石に声で戦ったりは出来ないけど………
それでも、伝えることは出来る。
俺の声で吹き飛ばされたようにザザは初めて人らしい声を漏らしながら後ろに飛ばされていく。
肩に刺さってエストックが勢いで抜かれて嫌な違和感多少解消される。
俺は左肩に右手を添えて何度か回す。
今回のエストックが左肩に刺されたことで、俺は左右の腕になんらかが刺さったことになる。
左肩にはエストック、右腕には木の枝。
経験があるとはいえ、何度もやるもんじゃないなと改めて思った。
「んで、今の感想は?」
「何をした………?」
ザザは拘束されていた。
我が娘にして女神であるアイによって後ろに回された腕をガッチリと糸で縛られている。
その状態で地面に這いつくばっていた。
「そのマスクだと視野が悪くなるし、フードで視界が狭くなる。キャラ作りなのか知らないけど無駄に着込んだからこれが見えなかったんだろ?」
俺は右手に持っていたタクティカルナイフをザザの前に落とそうと離す。
タクティカルナイフは自然の摂理である重力によって落下していく。
そして。
「………糸」
ザザの目の前に刺さる軌道を描いていたタクティカルナイフはザザの少し上でブラブラと揺れていた。
俺は笑いながらタクティカルナイフの柄に巻かれて右手に伸びる糸を左右に揺らす。
ピアノ線。
それも極細。
応用がしやすいとても便利なアイテムだ。
「お前との攻防で幾つかそのぼろマントに打ち込んで置いた。凄いよな、GGOの針は。刺したら返しがあるから抜けないんだぜ?」
「何………だと………」
ザザは信じられなさそうに言った。
自分が攻めていて追い詰めているつもりだったのに、それが一気に逆転されてしまっている。
針は投げれるが、ある程度近づかなければならない。
問題点はそこだった。
しかし、ザザはエストックを使って近距離戦闘を挑んできてくれた。
ザザが近距離戦を行えば行う程、追い詰められていく戦いになったのだ。
「砂煙に混じって1本、その直後の衝突の時に1本、右手を掴んだ時には2本。他にも色々と」
「キリト様はバレないように使うのが上手いですからね」
「………糸を長めに用意して………その先を………砂に紛れていた………従者が………持っていたのか………」
ザザがうなだれて砂漠のザラザラした砂に額を着けた。
ザザの言う通り、アイは砂に紛れてずっと身を潜めていた。
最後に糸を引き付けて拘束できるよう息を殺していたのだ。
「残念だったな。お前がザザとしてじゃなくて、死銃として戦っていれば可能性はあったのかもな」
その時はその時で銃に対する作戦もあったが、これは危険だった。
光剣というライトセイバーのような武器で向かってくる銃弾を切り捨てるなんて練習無しに出来るわけがない。
1度、利き腕じゃない左腕だけで凄いスピードの水を弾いたことはあるけど本物の銃には遠く及ばないだろう。
まぁ、他にも小細工道具で色々作戦を立てられるけど。
剣と銃だったら銃の方が厄介なのは経験しなくても想像つく。
「これは………不意討ち………じゃないのか?」
「は?可能性が高いからやったけど、糸を付けられたことに気付かなかったんだ。俺が引っ張ってもよかったんだぜ?不意討ちもなにも1本目に気付かない時点でお前の敗けだよ。それにアイにすら気付かなかったんだ。俺がもし殺られてもアイがいるし、俺はメインとサブに持っていた光剣2つで二刀流戦法も使わなかったし」
俺は垂らしていた糸を引いてタクティカルナイフを右手に納める。
「てことで、お前が何をしようが、どうせ俺らが勝ってたから」
俺は天高くタクティカルナイフを掲げた。
目指すは真下の死銃。
「まだ………終わらない………」
「終わりだよ。始まる前からお前の………お前らの敗けは決まっていた」
死銃は悔しいのか震えだす。
しかし、俺には悔しさ等ではなく恐怖だとすぐに察しがついた。
「お前はもうSAOプレイヤーじゃない。SAO
「………………くそ_____」
降り下ろされたタクティカルナイフは死銃のうなじへと吸い込まれていった。
最後に何かを叫ぼうとした死銃だったが、後の叫びを聞いた者は誰もいない。
「終わったのね?」
「ああ、シノンの危険も取り敢えずは大丈夫かな。けど、安心はしないでくれ」
「分かってる。ログアウト直後も周りに人が居ないか確認するし人も入れさせないわ」
砂漠のほぼ中心。
俺が死銃を倒した場所は何と砂漠のど真ん中だった。
まさか、こんなに広い砂漠の中心で事の終わりを迎えるなんて思いもよらない。
シノンが駆け付けてその事を教えてもらった時は心底驚いた。
アイも"そこまで計算してたのですか?"と訊いてしまう程のことだ。
それほどこの砂漠は広い。
「キリト様の依頼主である上司が仮想課のトップですからそう経たない内に警察の方が向かうと思います」
「上司じゃねぇ。ただの依頼人だ」
「え?もしかして歳上?」
アイが変なことを言ったお陰でシノンが勘違いしてしまった。
俺はアイの頭に手を置いてもう1つの手を顔の前で振る。
少なくとも、雰囲気や立ち振舞いからして俺がシノンより歳上というのはないだろう。
口調からも同い年くらいだ。
俺は声のトーンを落としながら言う。
「17歳。………名前も言っとくか。桐ヶ谷和人です」
「なんだ。同い年なのね。私は朝田詩乃」
「私は親戚の桐ヶ谷アイです」
さりげなくアイが自己紹介しているのを突っ込みたい衝動を抑えつつ話を続けた。
いや、設定としては間違ってはいないんだけどね。
「まぁ、アイが言った通りすぐに仮想課の___」
「キリトが来なさいよ」
「「は?」」
シノンは年相応の微笑を俺に向けた。
隣のアイがシノンに対する警戒レベルを上げるのを肌で感じる。
俺も警戒までとは言わないが、変な違和感を抱かずにはいられない。
山猫のような雰囲気から一転して家で飼われている子猫に変貌したのだ。
猫を被っているんかそれともこっちが本当の顔なのか。
「………………分かった」
「なにを!!」
俺が渋々受け入れるとシノンは満足そうに頷いた。
嬉しそうというか楽しそうなシノンに溜め息が漏れる。
アイは横で家猫シノンとは真逆の山猫となって俺をフーッフーッと威嚇していた。
怒った時のましろのようだ。
「別に会いに行くだけならいいだろ?」
「そういう問題じゃ………遠いかもしれないじゃないですか!!」
アイが少々ヒステリックを起こしながら騒ぎ立てる。
俺が女の子の家に行くのがそんなのも嫌ならしい。
しかし、アイのヒステリックを加速させるようにシノンは俺と密着するように近付いてきた。
アイが悲鳴を上げる。
「ああ!!」
「私の住所は文京区湯島の_____」
シノンは俺の耳元で数字を呟いていく。
普段の俺ならさして問題無く記憶することができる何の変鉄もない住所。
しかし、シノンのような美少女のアバターの1単語ずつに吐かれる吐息が耳をくすぐって思うように記憶できない。
何とか記憶できても大分集中を削がれてしまう。
シノンは1歩下がると首を傾げた。
「………数分あれば行ける距離だ」
「なら決まりね」
「駄目ですってば!!」
アイがもう涙目で俺にしがみついてしまっている。
何というか、親の浮気を目の当たりにしてかつ、その親が浮気相手の元に行こうとしているのを止めようとしている子供のようだった。
似たような状況ではあるし、シノンとは仲良くなれそうだけど、浮気するつもりは毛頭ない。
俺はしゃがんでアイの肩に手を置いた。
「あのな。俺は別に浮気しに行く訳じゃないんだぞ?」
「分かってますよ!!でも………!!」
アイは地団駄を踏んでやりきれない気持ちを発散した。
なんだか、最近アイの幼児化が進んでる気がする。
本当ならこれが年相応ぐらいなのだろう。
しかし、生まれた時のアイは気品ある大人の女性でどこか機械的だった。
それがどうだろう。
今や機械的どころか俺が木綿季以外の女の子と親しくなって家に行こうとすると涙を流すまでに感情が豊かになった。
感情が馴染んできている。
それはアイが真のAIではなく、人になっている証だった。
「キリト、ちょっと良い?」
「ん?」
俺が困惑したり嬉しかったりと色々な感情を心に宿しているとシノンがアイに近寄った。
今のアイにシノンはどう見えるのか、理性では良い人と分かっているけど本能では違うかもしれない。
俺は不安を抱きつつアイをシノンに譲った。
すると、シノンは俺にしたみたいにアイの耳元へ口をやる。
何かを喋っているようだが、女子トークを盗み聞きするのは抵抗があって出来ない。
そして、シノンが耳元から離れると涙目は治り何故か小悪魔的な微笑を浮かべているアイと楽しそうなシノン。
一体何を吹き込んだのだろうか。
分かることは厄介なことになると言うことだけ。
「さて!試合を終わらせないとな!!」
俺は両手を叩いて下手な笑顔を作った。
自分でも頬が引き吊っているのが分かる。
「同時優勝しないとですね!」
さっきまで涙目だったアイがルンルンな足取りで俺のマントの中に入ってきた。
もぞもぞと動くのでくすぐったい。
まるで、倉庫のようなマントの内から出てきたアイの手にはグレネード。
アイはそのグレネードを野球のボールのような扱いでポイポイと弄んでいる。
「キリトはお土産グレネードって知ってる?」
「そんな危険なお土産は貰ったことない」
シノンとアイは"当然でしょ"と肩を落とした。
まぁ、貰ったことがあるならあるで逆に大惨事だ。
お土産がグレネードなんて中々の新手テロになる。
あの世への切符だぜってか?
絶対に貰いたくない切符である。
「お土産グレネードって言うのはこれのことです」
そういってアイは俺の手を取ってボールを握らせた。
なんともメタリックなボールだ。
そう思って俺は手にある珍しいボールを覗いた。
「い!?」
ボールというのがグレネードだと分かった瞬間には当然何処かにぶん投げようとした。
爆弾を握らされていると皆必ず何処かに投げようとするのは不思議ではなく当たり前のこと。
だが、俺にはその当たり前のことが出来なかった。
「わー!!」
投げようとした瞬間に俺はシノンに抱き付かれていたからだ。
両手の自由を失ってグレネードが足元に落ちる。
俺はシノンに抱き付かれたことによる心臓のドキドキを紛らわすように足元に転がったグレネードを今度は蹴り飛ばそうとした。
しかし、これも出来なかった。
「わー!!」
蹴る直前に頬に柔らかいものがあたって狙いがずれてしまった。
全力の蹴りを放ったお陰で派手な空振りを決めてしまいバランスを崩した俺は砂漠に背中を打つ。
倒れて気付いたのがアイが俺の頬に自分の頬をくっ付けていることだった。
左を見ればシノンの美少女顔。
右を見ればアイの可愛い顔。
頭の上には恐怖のグレネード。
成る程、同時に爆発で死ぬことにより同時に優勝するということか。
「ははは………」
「「ふふふ!!」」
俺の乾いた力ない笑い声と2人の楽しそうな笑い声。
そして、耳をつんざくような巨大爆発音と光が俺の全身を包んだ。
美少女と可愛い娘に抱き付かれながら爆発で死ぬ。
なーるほど、これがネットやゲーム、漫画やアニメで噂の、
"リア充爆発"
下らないな………
光の中で俺は声を出さずに笑うしかなかった。
凄くやりたかったネタが出来て満足です!!
いやー、小説読んだときに一番最初に思い付いた言葉ですよ"リア充爆発"
後でネット見てみると"リア充爆発"、"リア充爆発"言ってる人がいてアニオタは繋がってるなと感心しましたよ。
さて、GGO編も残り2話、もしくは1話に凝縮されているか。
兎に角、あと少し。
では、評価と感想お願いします!!
注«タクティカルナイフからコンバットナイフに変わってまた、タクティカルナイフに戻りましたが、全部同じ武器です。気付かないで書いてました………»