ソードアート・オンライン ~少女のために~   作:*天邪鬼*

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シルバーウィークも残り僅か………
学校嫌だよ~。


72話 逃げる

 

現実では再現が不可能と言っても過言ではない程の正方形超ビッグフィールド。

その中には山から谷まで数多くの地形が揃いに揃っている。

と言っても、GGOは世紀末のような近未来のような廃れた地球を設定としているので、自然だけじゃなく発展虚しく朽ちた街が存在する。

勿論、このフィールドにも街が存在する。

しかも、フィールドのど真ん中という分かりやすい場所。

ニョキニョキと竹のようにビルが数棟天に向かって伸びている。

 

「居ましたか?」

 

「全然見当たりません………………」

 

そんな廃ビルが立ち並ぶ中、とある廃ビルの屋上に俺、アイは地上を見渡していた。

捜しているのは先日俺が出会ったボロマントでマスクを着けた男、(デス)(ガン)

こんな1辺数キロもあるフィールドから1人のプレイヤーを捜し出すなんてコツを駆使しても至難の技なので罠を仕掛けてフィールドの中心で待ち伏せした方が効率的だと考えたのだ。

それに、そんな事をBoB決勝開始直後で離れ離れだった俺とアイは同時に考え付いて、何と奇跡的も全く話し合いをしていないのに合流出来たのだ。

 

「もっと良い双眼鏡なかったんですかね?」

 

アイの少し怒った様な声音が耳に響く。

出来るだけ高いビルでお互い真逆の方向を警戒しているからだ。

馬鹿と煙は高いところが好きと言うがそんなの関係ねぇ!!

………あの人消えたよな。

俺は単眼鏡の倍率を弄りながら答えた。

 

「あったとしても高級品だろうな。ずっとプレイする訳じゃないしこれでも十分見渡せるだろ?」

 

「見渡せはしますけど、それは街だけじゃないですか。もっと望遠鏡みたいなので見渡したいです」

 

トストストスとリズミカルな弱々しい足音が鳴る。

アイが自分の小さな足をバタつかせたらしい。

しかし、そんな可愛いことされても仕方がない。

望遠鏡は意外と大きくて重い。

設置するにも敵にバレやすそうだし重いから小細工道具で満たされているメニューにも入らない。

対人戦には向かない物なのだ。

 

「あ、プレイヤーだ」

 

手前にあるドーム状の建物の影に入りながら速足で疾走している。

俺のアバターよりも髪が長くて銀髪。

どこかアイが成長するとああなるんじゃないかと考えてたしまう。

そんな成人版アイの手にはライフルが握られている。

 

「罠につられたんでしょうか?」

 

「いや、ドームに見向きもしてないから違うと思う」

 

俺は無防備に背を向けている成人版アイを見逃した。

しかし、彼女が死銃だったら迷わず狙っただろう。

ただ、雰囲気も行動も性別も違う気がした。

あの死銃が着けるマスクの下が女だったら可能性もあったが、成人版アイからあんな低い声が出るとは思えなかった。

そんなの軽くトラウマになるレベルだ。

 

「そうですか、ただのプレイヤーに興味はありません。警戒を続けましょう」

 

「………お前、素で言ってるのか?」

 

すると、アイは"何がですか?"と真剣に訊いてきたのだった。

思わず、単眼鏡から眼を離して頭を落とす。

まさかそのネタを素で言う人が居たなんて驚きだった。

ましてやそれが自分の娘となると尚更だ。

宇宙人、未来人、異世界人、超能力者なら興味があるのだろうか?

 

「パパ好みの良い子に育って~………かわゆい奴め………」

 

「そのセリフ危ないです」

 

このネタは知ってたのか?

俺は取り敢えずアイの言う通りに警戒を続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「和人様、スキャンが来ました」

 

「分かった。俺は見てるから周辺だけでも情報をくれ」

 

しばらくすると、この巨大なフィールドで唯一プレイヤーがどこにいるかが分かるサービスが始まった。

これは地球上に人工衛星が回っている設定でその人工衛星がフィールドをスキャンするものだ。

全てのプレイヤーの名前と場所が一時的に公開されるのだ。

そして、スキャンは15分間隔で行われる。

試合が始まって最初のスキャンの時には馬鹿正直に"死銃"と書かれた名前を捜したりしたが、流石にそれはなかった。

 

「先程、和人様が言っていたプレイヤーは恐らく"銃士X"ですね。ドームから少し離れたところにいます。地形からして待ち構えですね。当分、移動はないと思います。その他のプレイヤーは街には居ません」

 

「了解。まだ、待ちかな?」

 

俺はひとまず緊張をほぐした。

もし、銃士Xがビルを登ってこようとしても俺、アイがいるビルは罠地獄と化してるのでコツを使えない普通のプレイヤーが足を踏み入れたら即死もあり得る。

俺の小細工舐めるなよな!

 

「あ、シノン様がこちらに向かっています………」

 

「シノンが先に釣れたか………」

 

俺は眉をひそめた。

"Kirito"の名前を知っている死銃を誘き出す為の罠にシノンが釣られてしまったらしい。

俺の名前を使った罠。

それはデバイスだった。

1度目スキャンの際に"何をプレイヤーとして人工衛星は認識しているのだろう?"といった疑問が罠の始まり。

2度目のスキャンの時に実験をしたところ人工衛星はプレイヤーではなくプレイヤーが持っているスキャンを見る為のデバイスに反応していることが分かった。

つまり、デバイスをそこらに放置してノコノコとやって来たプレイヤーを狙うのも可能性なのだ。

しかし、これは協力者がいないと危険性が高すぎる。

俺にはアイという心から信頼できる存在がいるから出来るものの、GGO最強の名を狙い目指しているBoB参加者に協力している人達がいるとは思えない。

それも決勝でだ。

とにかく、俺はその作戦でデバイスをドーム内に放置したわけだ。

 

「どうしますか?」

 

「試合前にあんなこと言っちゃたからな。個人的には戦いたいけど………」

 

それでは死銃はどうなるのか。

戦闘音を聞き付けた銃士Xが近付いてくるかもしれないし、死銃そのものがやって来るかもしれない。

銃士Xならともかく死銃が来たらキツくなる。

シノンはプロだ。

そのシノンに勝ったとしてもダメージを負った状態でSAOのトップ殺人狂乱者に勝てるとは思えないし俺がシノンに負けると今度はシノンに危険が迫る。

申し訳ないが、スルーするしかない。

 

「スキャンが終わりました」

 

何だかとても負い目を感じてしまい胸が痛くなる。

同時にシノンとの戦いがそれほど楽しみだったんだと気付く。

楽しみが延長された怒りを俺は死銃に向けることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………!シノンだ」

 

あれから数分後にシノンは俺の単眼鏡で見える範囲にたどり着いた。

シノンの身長より遥かに長く大きい銃を背負っている。

代わりに手元にはハンドガンが構えられている。

銃士Xとは違い、常に周囲に気を配っている。

が、流石にここまで気を配れてはいないようだ。

確かに、ここから狙撃ともなるとシノン級の腕が必要だろう。

そしてシノンは残っているプレイヤーの中でそれが出来るプレイヤーは居ないと判断したらしい。

 

「和人様」

 

アイが忠告するように俺の名前を呼んだ。

俺は無言で返す。

飛び降りて約束通り戦いたい衝動を抑え歯を食い縛る。

それはシノンがドームの入り口に辿り着いた時も同じだった。

しかし、俺は咄嗟にビルの端から身を乗り出した。

 

「撃たれた!?」

 

シノンが崩れ落ちたのだ。

即死ではなかったものの倒れこんで動かない。

俺はすぐに周囲を見渡した。

が、何処にも狙撃したプレイヤーは見当たらない。

近くにいる筈の銃士Xすらいない。

見えない敵。

シノンが撃たれたことよりも狙撃主が見当たらず、狙撃音やマズルフラッシュすら見えなかったことに驚きを隠せない。

 

「………動けないのか?」

 

なかなか起き上がらないシノンに注目すると肩に電気のようなものを帯びている針が刺さっていた。

動かないシノンを見るとどうやらあれが原因らしい。

そんな時だった。

俺は更に驚きの光景を目の当たりにする。

 

「なっ!?」

 

倒れこむシノンの横の空間が歪んだと思うとプレイヤーが姿を現したのだ。

ボロいマントのプレイヤーだった。

その時俺は自分がとんでもないことをしてしまったことに気付いた。

利用されたのだ。

死銃を狙う為に仕掛けた罠を利用して他のプレイヤーを狙ったのだ。

少し考えれば分かることに自分自身を責めずにはいられない。

 

「アイ!!死銃が出てきた!何か分からないけど透明化出来るらしい!シノンが狙われてる!!」

 

「透明化!?そんなアイテム知りませんよ!!」

 

「とにかく、()()()()の入り口に来てくれ!!」

 

俺はそれだけを言うと迷わずビルから飛び降りた。

真っ直ぐシノンに銃を向ける死銃に飛ぶ。

黒いタクティカルナイフを逆手に持って黒いマントをたなびかせる。

全殺気をナイフに纏わせるように構えながらもうスピードで落ちていく。

そして、俺はナイフを全力で振り抜いた。

 

「ちっ………!!」

 

しかし、俺の全力の振りは狙いの首へとは届かなかった。

死銃が寸前で体を捻って避けたのだ。

代わりに死銃の右腕がもがれる。

俺は両手を伸ばして地面と合わせた。

そして、両手からの五点着地という俺のオリジナル着地方法で転がる。

転がり続ける体を両足でブレーキをかけてすぐにシノンの元に急いだ。

この時死銃が後ろにジャンプしながら残った左手で手榴弾を放ってきた。

 

「ふっ!」

 

だが、咄嗟にナイフを投げて死銃が放った瞬間の手榴弾にあてて爆発させる。

死銃はバックステップをしてたので大ダメージとはいかないが少しはダメージを負ったはず。

死銃が怯んでいる隙に俺はシノンを持ち上げた。

小声で何か言っていたが無視してお姫様抱っこをしながら全力で走った。

 

「和人様!!」

 

そこにタイミング良くアイが合流する。

何故かバギーにまたがりながら。

しかし、今はとにかく逃げることが先だ。

 

「ナイスだ!!」

 

俺はアイの後ろにまたがって動けないシノンを俺とアイの間に乗せた。

バギーのバランス調整の為とはいえ、シノンを正面から抱き寄せる形になってしまったが、致し方ない。

俺は最後にメニューから特大のグレネードを出して後ろに捨てた。

その瞬間にバギーも発車する。

 

ドガーンッ!!!

 

別名デカネード。

グレネード系の武器で最大、いや全武器の中で最大の威力を持った爆弾。

最強の爆弾が起こす爆炎、爆風を後ろに、ただひたすら俺達は逃げた。

 




色々あれ?となることが多いかもしれませんが、ちゃんと次回で消化しますのでご安心を。
いやー、原作通りにいきませんねー。
ハッハッハ!!

では、評価と感想お願いします!!

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