ソードアート・オンライン ~少女のために~   作:*天邪鬼*

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最近気温が下がって元気が出てきました!!
更新ペースもアップ!アップ!ですよ!!!


68話 助け

 

 

「………あんた何してるのよ?」

 

頭が恐怖に埋め尽くされている中で不思議と彼女の声は頭の中に響いた。

ぐちゃぐちゃとパニック状態に陥っていたのにも関わらず、彼女の声はどこか俺が陥っていたパニック状態に波長を合わせていたようだった。

それが偶然か狙ってなのかは知るよしも無いけど、真っ暗な場所で孤独感を味わっていた俺には救いの手を差し伸べてくれたかに思えた。

俺は頭を抱えていた両手をそのままに、腰を少し上げて恐る恐る彼女を見上げた。

 

「あ………いや………」

 

「………1回戦でそんなだったら本選どころか次の試合に勝つのも難しそうね」

 

シノンは見上げた俺を哀れむような瞳で見下していた。

それに、両手を広げて情けなさそうに首を振る。

俺は空元気を出して力なく乾いた苦笑いしか出来なかった。

 

「試合前の威勢は何処に行ったのよ?」

 

シノンはそう言い捨てて背を向けた。

俺は自分でも訳が分からないまま、思わず離れ行くシノンの片手を握ってしまった。

震える両手でしっかりとシノンの片手を握り締めてしまったのだ。

突然のことにシノンは凄い速さで振り返った。

当然だ。

シノンの手を握っている俺でさえ何故こんな行動をしているのか分からないのだから。

頭ではシノンの手を離そうと体に訴えかけているのに体は言うことを聞いてはくれない。

 

「ちょっと!何するのよ!」

 

シノンが堪らず声を出して握られた手を引っ張った。

今、シノンの視界にはハラスメントコードの試行がどうとかの表示が出ていて、もう片方の手でタップするか声を上げれば俺のアバターはGGOのどこかにある牢獄のような監禁場所に飛ばされるだろう。

それが分かっているのに俺の体は手を離そうととはしないで、寧ろ引っ張られたシノンの手を逆に引っ張り返してしまった。

シノンも流石に俺が異常な精神状態だと分かったのか引っ張るのを止めた。

 

「どうしのよ………?」

 

フードギリギリから見えるシノンの瞳。

その瞳の色はアイと同類の深い青。

そして、その瞳はまるで俺のことを()()を見るようだった。

俺はそんなシノンの瞳を見て彼女に謎の親近感が湧いた。

だからだろうか?

顔を更に上げてシノンからでも直接俺の顔が見えるまで角度をつけてしまった。

 

「あ………」

 

シノンからなんとも言えない息が漏れた。

確実に顔を見られてしまった。

しかし、その直後。

一瞬だけ完璧に目と目を合わさった瞬間に水色の光が俺を包み込んだ。

そして同時に握っていたシノンの手の感覚も薄れていく。

俺は最後まで力なくシノンの手を握っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シノンとのことがあって何故か心が大分軽くなった。

………のは、ほんの少しの間だけだった。

戦場に戻るとまたパニック状態になってしまう。

特に敵を殺す時が一番ヤバい。

死銃の起こす犯罪を止めるには勝ち進んで再度死銃と接触しなくてはならない。

勝ち進むには対戦相手を殺さなきゃならない。

だが、殺す度に頭の中でSAOのことを思い返してしまう。

強制ログアウトされていないのは奇跡に近い。

そして今、予選Fブロック決勝。

俺はシノンと戦うことになっていた。

 

「はぁ………」

 

廃れた街の中を一直線に横切る道路。

地面との距離が結構あるので恐らく高速道路だろう。

トラブルでも起こしたのか中央分離帯に正面からぶつかっている高そうなスポーツカーだったり、そのスポーツカーを避けようとしたのか横転している軽トラまである。

視線を横に移せば灰色の雲が黄金色の太陽の光を浴びていてある意味幻想的な景色を作り出していた。

俺は高速道路のコンクリート性ガードレールに座りその幻想的な景色を眺めていた。

下を見れば砂漠化の影響か、沢山の砂が風で舞っている。

 

「本選出場」

 

BoB本選出場の条件は各予選の決勝に残ること。

今俺がここにいる時点でまず、俺の本選出場が決まっているのだ。

これで死銃が俺に接触する可能性も高くなった。

つまり、本選出場が決定している以上、俺は相手のシノンを殺さなくてもいいということになる。

 

「よかった………」

 

もう、少なくとも今は誰とも戦いたくないと思っていたので助かった。

それにシノンを殺したくないとも思っていたので2つの意味で助かったのだ。

謎の親近感、同種を見るような瞳。

もしかしたら俺と同じような経験をしているんじゃないかと勘違いしてしまう。

だけど、もしそうならどうして彼女はあんなにも強いのだろうか?

試合の合間に写った彼女は鬼気迫るというか力強かった。

俺にも教えて欲しかった。

 

「無理だろうけど」

 

そもそも俺の中にあるシノンのイメージは俺が勝手にそうなんだろうと思い込んだ妄想であり偽物。

本物とは違う。

大きな風が吹いた。

風の勢いでフードが外れて後ろでマントと共にたなびく。

 

「ははっ」

 

フードが外れて視界が開けた。

お陰で遠くも近くも色んな場所が見えるようになった。

そして、偶然だった。

視界端で捉えたマズルフラッシュ。

俺は何となく首を後ろに反らしてみた。

 

ヒュンッ!!

 

「おお………」

 

丁度首を反らし切った直後に大きな弾丸が通り過ぎていった。

弾丸は高速道路の下に落ちていき地面にでも激突したのかドゴンという重い音がした。

本物に何となくで避けただけなのにスナイパー最大の強みである初撃を潰してしまった。

これを撃ったシノンは驚いているだろうなーっと他人事のように考える。

すると、今度は赤い線が俺の頭を捉えた。

弾道予測線だとすぐに分かった。

俺は弾道予測線の先でスコープを覗いているであろうシノンの方を向いた。

その為、弾道予測線と正面から向き合うことになる。

弾道予測線が眉間を照らす。

 

「シノン………」

 

俺は笑った。

その瞬間、頭に物凄い衝撃が走った。

体が後ろに持っていかれる。

首が引き千切られそうだ。

俺はそのまま高速道路から落ちていった。

こうして、俺は初めて仮想世界の中で殺されたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どうやって家に帰って来たか全く覚えていない。

アイがずっと耳元で何か言っているのは覚えていたが内容はさっぱりだった。

家に入って迎えてくれたスグにも一言ただいまを言っただけでほとんど無視をしてしまった。

俺は真っ暗な自分の部屋のベッドでうつ伏せになりながら死んだように倒れている。

 

「何で今さら………!!」

 

現実の正体も分からない死銃に向けて吐いた。

拳を握り締めて乱暴にベッドを殴る。

何度も、何度も、何度も、何度も!!!

殴っていると反発性のあるベッドが俺に逆らっているようでイライラしてきた。

俺は右拳に力を溜めて思いっきり降り下ろした。

さっきまでとは明らかに違う大きな音がした。

どうやらベッドのクッションを通り越して底の木の板まで衝撃が届いたらしい。

証拠に右手が痛い。

それがさらに俺をイライラさせた。

もう何でこんなことしてるのか分からなくなってくる。

 

「なんだよこれ………」

 

うつ伏せから仰向けに姿勢を変えて天井を見つめる。

何でもないような白の天井だ。

天使でも降りてこないかな?と変な期待が頭をよぎる。

その変な期待がトリガーとなって次々と変なことを考えてしまう。

俺は生きてていいのか?罪を償うべきじゃないのか?償いは死?

プレイヤー名だけでなく本当の名前すら知らない人々を約4千人も殺した俺はどう償えばいいのか。

そもそも償えるのか?

こんなちっぽけな俺1人だけで何が出来る?

許しなんて貰える筈がない………

 

「俺は………俺はどうすれば………!!」

 

同じだ。

死銃と対峙した後の気持ち悪さが襲ってきた。

最悪な日だと思った。

本当にヤバい。

狂ってしまいそうだ………

おかしくなりそうだった………

それでも、どんな時でも。

俺が立ち止まったときは決まって助けてくれる人がいる。

 

『和人!!』

 

木綿季が俺を現実に引き戻してくれた。

シノンの時とは違う。

波長を合わせた感じではなく、優しくて力強くだけど少し無理矢理。

 

「木綿季………」

 

すがるように俺は彼女の名前を口にした。




キリト君大丈夫なの!?
書いてる自分が一番キリト君の心配をしてた気がします。
まぁ、でもユウキちゃんが助けてくれるでしょ!!

では、評価と感想お願いします!!

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