ソードアート・オンライン ~少女のために~   作:*天邪鬼*

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遅くなった~りら~りら~!!!

俺ガイル、ゲーム第2弾!!おーめでとー!!!
絶対買う!!


51話 アスナの戦い

 

 

ワックスをかけたように薄く光を反射する灰色の廊下を私は不満げに歩いていた。

お陰で、時折通り過ぎる団員達は私を見て少々怯えながら廊下の端に寄ってくれる。

 

「はぁ………」

 

キリト君達が現実世界に戻ってから数日後、私は団長に呼び出しを受けていた。

と言っても、別にお説教などの類いでは無く今後の攻略についてだと言っていた。

予想はしていた。

キリト君達が戻った次の日、第74層のボス部屋で転移結晶が使えないという事実を軍の人達が極一部の犠牲を払って教えてくれた。

軍は第25層に大きな損害を受けた事によって攻略よりも組織拡大に勤しんでいた筈なのに、何故今になって攻略する気になったのか不明だけどお陰で私達血盟騎士団は損害なく第74層を攻略する事に成功した。

そして、第75層。

SAOのボスのジンクスからして、今回のボスは桁外れに強い。

25層、50層、今までのクウォーターポイントではキリト君を始めユウキやアイちゃん、クラインさん、エギルさん、攻略組の中でもトッププレイヤーの人達が居たからこそ攻略出来た。

けれど、今彼らはこの仮想世界ではなく現実世界で闘っている。

その大きな穴をどう埋めるのかを話し合う為に団長は私を呼んだのだと思う。

もしくは、キリト君達と一番親しかったからかもしれない。

 

「まぁ、いっか。手間も省けるし」

 

長い、長い廊下を通り終えた突き当たり。

大きな赤い両開き扉に金色の取手。

ボス部屋のように来る者を容赦なく威圧してくる。

私は扉の威圧に対抗しながら人差し指と中指で扉を軽く2回叩いた。

そして、返事が返ってくるのを待たずして、両開き扉の2つある扉を同時に開いた。

 

「副団長のアスナ、入ります」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

団長室は光に満ちている。

私が入って来た扉を中心として半円を描くように広がる団長室。

部屋の面積も然る事ながら、高さまで凄い。

3、4階分ぐらいの高さまで吹き抜けになっていて、天井には豪華な逆三角錐のシャンデリアがぶら下がっている。

それに、シャンデリアだけでもキラキラしているのに団長室には大きなガラス窓が下から上へと等間隔で伸びている。

初めて入った訳ではないけど、未だにこの部屋に入る時は目を細めないといけないし、目が慣れるのにも数秒掛かる。

しかし、私は部屋の豪華さなどに目を奪われず、団長の話に驚きと焦りを必死に隠していた。

 

「つまり、今後のボス部屋は全て一発勝負という事ですか?」

 

「恐らくは………かと言って、攻略をここで止める訳にはいかない。今日、戦う勇気を持つ者を募り、明後日、第75層のボス攻略を行う。偵察が出来ない以上それしか方法がない」

 

部屋のほぼ中心にある団長の椅子と机、私は来客用に用意されているソファーに腰を下ろしていた。

そして、団長の椅子に座っている、灰色のロングヘアーを首の後ろで結んだ見た目30代の男。

神聖剣というキリト君の二刀流やユウキの絶剣と同じユニークスキルの持ち主。

唯一、ユニークスキルの所持を公表したSAO最強のギルドの団長にしてSAO最強のプレイヤー、ヒースクリフ。

団長のユニークスキルの特徴は盾。

白をベースに赤い十字架模様の大きな盾が伴う防御力はゲームバランスを崩壊させてしまう程で、彼のHPが黄色以下になった所を誰も見たことがないという。

故に冷静、常に頭が冴えていて、現場での状況判断が速い。

今も、仲間が閉ざされたボス部屋で未知の敵に殺されたのにも関わらず、最善の選択をしている。

 

「別に君の友人達を信じていない訳じゃない。けど、何もしない訳にもいかない。批判もあるからね」

 

団長が目を細めて言った事で、私はガンを飛ばすような視線になってしまった。

キリト君達を本当の意味で知っている人は私達を助ける為に頑張ってくれていると信じている。

でも、大半のプレイヤー、特に軍に所属している人達は、逃げたとか見捨てたとか、悪態つけて吹聴している。

残念な事に血盟騎士団も例外ではない。

本部やホームの街を歩いているだけで、キリト君の悪口、ユウキの悪口、皆の悪口。

更に酷いのは裏切られて可哀想だねと私と皆の関係の良さを知っている人が心配してくる事。

何も知らないで、私の大切な友達を汚す言葉。

歩いているだけなのに自分の中でマグマのように煮えたぎる憤りを感じる。

その鬱憤を晴らすのに毎日数多くのモンスターが消えてしまうのは当たり前。

 

「分かりました………団員には私から伝えます」

 

「すまないね、宜しく頼むよ。私はこれから聖竜連合の本部に行ってこの事を伝える」

 

すると、団長はメニューを開いて転移結晶を取り出した。

 

「護衛はどうするのですか?」

 

「行動を制限されるのは好きじゃない。それに、護衛などは団員が勝手に決めた事、私には関係ない」

 

団長は不敵に笑って見せると転移結晶特有の青い光と共に消えていった。

そして、だだっ広い空間にただ1人取り残された私は拳を強く握った。

 

「………似ている」

 

団長が消える寸前に見せた不敵な笑みは、敵を前にして楽しんでいる時のキリト君にそっくりだった。

あの笑み………多分本人達は気付いていない。

自分の力を自覚している証。

選ばれた者が無意識に行う癖。

子供の頃から見てきた。

レクトの社長令嬢だからと言って色々なパーティーに訪れた時に必ず見る事となっていた。

けれど、ほとんどが力に溺れ自分より下だと思う者を見下す傲慢な顔だった。

しかし、キリト君と団長は違う。

見下しもせず、自分の力に溺れない。

私は今まで出会った事のなかった。

()()()()()

 

「団長………あなたは………」

 

団長は数日に1度追跡できなくなる時がある。

団長は初めて会った時からSAOを理解し過ぎていた。

団長は防御力の高いユニークスキルを使い、HPが黄色になった事がない。

団長はキリト君に似ている………天才に似ている………

私が知っている中でキリト君と同レベルの天才。

1人しか居ない。

 

「茅場………昌彦………」

 

私は独り呟きながら団長室を後にした。

嵐の前の静けさなのか、私の耳には自分の足音しか聞こえていない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よく集まってくれた!!これより、第75層ボス攻略に向かう!!」

 

血のように赤い鎧を着た団長が集まったプレイヤーに叫ぶ。

私が団長の事を茅場昌彦だと確信に近いものを感じてから2日後、予定通りボス攻略が開始されようとしていた。

選び抜かれた血盟騎士団と聖竜連合の精鋭達に加えユウキが所属していたスリーピングナイツやクラインさんが所属していた風林火山も参加している。

そして驚く事にサチが入っていた月夜の黒猫団もいる。

私は腰に携えてあるユウキの剣に触れて目を瞑った。

大丈夫、私には仲間がいる、必ず生きて帰れる、と僅に残る恐怖心を振り払い心を落ち着かせる。

けれど、それを邪魔する奴が現れる。

 

「全く………奴等が居れば少しは役に立つと言うのに………あの臆病者共が。アスナ様、現実に逃げた奴等に目にもの見せてやりましょうか」

 

クラディールは澄ました顔で私の隣に並んできた。

私がキリト君達を恨んでいるとでも思っているのだろうか?

私を見捨てるなんて………と思っていると思っているのだろうか?

流石に我慢の限界だった。

こう好き勝手に友達を汚されると凄く嫌な気分になる。

 

「ねぇ、クラディール………」

 

「何でしょうか?アスナさ___」

 

クラディールが返事に答えながら、私の顔を見た。

その時、それまで澄まし顔で己の言っている事は正しいと勘違いをしていたクラディールの目が見開かれる。

 

「次………私の大切な人達を悪く言ってみなさい。私は貴方を許さない………」

 

クラディールだけが悪口を言っている訳ではない事は分かっている。

ただ、我慢の限界だった時に丁度クラディールがいただけの事。

クラディールは運が悪かっただけ。

私は言葉では許さないと言い、目では殺すと言った。

 

「………了解しました」

 

クラディールは一言言っただけで後ろに下がっていった。

気持ちが大分楽になった。

これでボスにも心置きなく戦える。

 

「ありがとうございます」

 

スリーピングナイツの新リーダーのシウネー。

 

「スカッとしましたよ」

 

風林火山の新リーダーのユークリッドさん。

 

「仲間を悪く言うなんて許せませんからね」

 

月夜の黒猫団のリーダーのケンタ。

 

「ボス戦とか関係ない。これは私達の仮想世界側とキリト君達の現実世界側との勝負。どちらが早くSAOを終わらせるかの勝負よ」

 

団長が転移結晶よりも一回り大きい結晶を取り出して叫んだ。

 

「コリドーオープン!!」

 

私達はボス部屋の前に転移した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ボス部屋には何のモンスターも居なかった。

赤黒い洞窟の空間の真ん中に円状のバトルフィールドがあるけど、何もない。

プレイヤー全員がボス部屋に入り後ろで巨大な扉が閉まる音がした。

神経を張り巡らせて、何時、何処で、何があっても対処できるようにする。

前は何もない、第76層に続く階段がある。

右にも左にもない。

前も右も左も違う。

なら何処に?

私は瞬間的に上を見て皆に注意した。

 

「上よ!!!」

 

私が叫んだと同時に全てのプレイヤーが天井を見た。

 

「な、なんだよあれ………」

 

誰か思わず恐怖の声を漏らした。

天井に張り付いていたのは骸骨。

日本には、がしゃどくろという妖怪の噂がある。

名の通り骸骨姿で生きた人間を食べるという妖怪。

あれはそれに近かった。

ただし、人間の姿はしていない。

顔は人間に近いけど、体はまるでムカデ。

死神が持っているような大鎌が前に2本生えている。

 

Skull(スカル) Reaper(リーパー)!?」

 

私は全長10メートル以上ある長い胴体を伸ばして天井から降りてくる敵から一端距離を置く為に全力で後ろに飛んだ。

着地地点には偶然にもスリーピングナイツ、風林火山、月夜の黒猫といった知った面々が集まっていた。

 

『ガァァァ!!』

 

スカル・リーパーがバトルフィールドに辿り着くとボス部屋と呼ぶには広すぎる洞窟内の赤みが増してフィールド全体が見やすくなる。

そこで気づいた。

スカル・リーパーを前にして立ち竦んでいるプレイヤーを。

 

「何してるのよクラディール!!」

 

私は一喝した。

クラディールも今夢から覚めたかのようにこちらへ走り始めた。

しかし、遅かった。

スカル・リーパーが右凪ぎした大鎌がクラディールを切り裂いた。

 

「ガハッ!!」

 

クラディールが大鎌の衝撃で宙を舞った。

そして、呆気なくポリゴンの塵と化してしまった。

性格や口が悪いけど、紛いにも攻略組のクラディールが一撃で殺られてしまう程の攻撃力。

余りに強大な攻撃力にプレイヤーの士気が下がる。

そしてまた、僅ずかに逃げ遅れたプレイヤーに向けて一撃必殺の鎌が振り落とされた。

しかし、その鎌はプレイヤーを襲う事は出来ず、私達にある最強の盾に阻まれた。

 

「団長!!」

 

私は団長が受け止めている大鎌目掛けて、細剣ソードスキル重攻撃技”アクセル・スタブ”を撃ち込んだ。

大鎌は弾け飛び、スカル・リーパーの動きがほんの一瞬止まる。

私は団長と視線を合わせた。

 

「私とアスナ君で鎌を捌く!!」

 

「他のプレイヤーは側面から攻撃してください!!」

 

一撃でも当たれば終わり。

キリト君の言う、無理ゲーが始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どのくらい経ったのか。

数秒にも感じられて数時間にも感じられる。

わざと大鎌の標的となってギリギリのところでかわす。

大鎌の攻撃は軌道が読めやすいのでかわすだけならなんとかなる。

それでも、攻撃スピードが異常な為に集中力を切らした暁には死亡確実である。

 

「ッ!!」

 

何度目か分からない大鎌の振り払いを姿勢を低くしてかわした時、視界の端でスカル・リーパーのHPが見えた。

HPは既に黄色を越えて赤になっていた。

私はここだと思い、言った。

 

「全員!!一斉攻撃!!」

 

自らの声と同時に私は前に出た。

降り下ろされる大鎌をギリギリの所で受け流し、飛ぶ。

目の前には薄気味悪い眼をしたスカル・リーパーの顔面が迫ってくる。

私は全力で剣を撃った。

細剣ソードスキル9連撃の奥義技”フラッシング・ペネトレイター”

最初に3発撃ち込み、残りの6発は全てすれ違いざまに放つ。

実質4連撃だけど、このようにシステムが攻撃してくれる技は多々ある。

私の奥義技を合図としてスカル・リーパーの側面から色とりどりの光が撒き散らされる。

 

『ガッガァァァ!!』

 

プレイヤー全員からのソードスキルを受け、流石のスカル・リーパーも倒れこむ。

それでも、スカル・リーパーは抵抗を止めず、大鎌を振り回しムカデの脚をバタつかせる。

油断したのか誰かの叫び声が聞こえる。

しかし、私には叫び声を気にする余裕は無かった。

正面に戻り、すぐさまタゲを私に向ける。

団長も盾を構えて大鎌の降り下ろしと真っ向勝負している。

 

「もう一息だ!!」

 

団長は絶大な攻撃力を持つ大鎌を押し返し、ソードスキルをスカル・リーパーに喰らわせた。

真剣な表情ではあるのに、団長は何処か笑っているようにも見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何人死んだ………?」

 

誰かが静まり返ったこの場で呟いた。

しかし、誰も答えようとはしなかった。

私はメニューを開きバトル開始時と今の人数差を確認した。

そして、確認したその人数差は、

 

「14人です………」

 

残り25層。

恐らくこれから上のボスは全てぶっつけ本番になる。

単純計算で14×25=350

酷い数字。

とてもじゃないけど、これから先犠牲者無しでクリア出来るとは思えない。

確実に生き残ると言い切れるのは団長だけ。

その団長は今回のボスとの壮絶な戦いに関してもHPを黄色にはせず、緑色のまま平然と立っている。

私は思った。

もし、団長が茅場昌彦だとして、彼をここで倒せばこのゲームはどうなる?

これ以上死ぬ人間が居なくなるんじゃないか?

試す価値は………………ある!!

不意討ちでもいい、彼のHPを黄色にする程の攻撃を当てる。

HPの減り具合がシステム的に操作されていたとしたら、正体を見破ることに成功する。

違っていたら黒鉄宮に送られるだけ、それだけの事。

私は黒紫色の剣を構えて走った。

細剣ソードスキル”リニアー”

私が持つ最速の技を使って彼の顔を貫こうとした。

 

「はぁぁぁ!!」

 

彼はSAO最強と呼ばれている。

が、完全な不意討ちで正確かつ研ぎ澄まされた私の一閃は彼の咄嗟な回避行動のスピードを遥かに上回った。

相手がキリト君かユウキだったらかわされていたかもしれない。

私はやった!と思った。

 

ガィィィン!!!

 

金属と金属が正面衝突した時の音が響いた。

私は成功したと分かり彼、茅場昌彦を見上げた。

茅場昌彦と私の剣の間には透明な壁。

茅場昌彦の頭の上には紫色の警告が表示されていた。

 

Immortal Object

 

イモータルオブジェクト、不滅のオブジェクトなど色んな日本語に訳せる。

そして、このゲームの中で今この状況で意味する言葉は、不死。

 

「不死………やっぱり、貴方だったんですね」

 

「ア、アスナさん!?」

 

シウネーがダッシュで私の隣に来た。

最初は私に何か言おうとしていたらしいけど、私が茅場昌彦を指差すと驚いて出ようとしていた言葉を飲み込んだ。

私の行動に護衛をしていた人達が私を捕まえようともしたけど、これも茅場昌彦の頭に映る警告を見て逆に茅場昌彦から遠ざかった。

 

「………どうして分かったんだい?」

 

茅場昌彦は目を開いて驚きはしたものの、自然に尋ねてきた。

やはり、笑っている。

 

「私の家は少し特殊でして、雰囲気で分かるんです。けど、それだけじゃ証拠にはならない。それで今の攻撃です」

 

「………なるほど。アスナ君、君はレクトの………」

 

すると、茅場昌彦は通常とは逆の手でメニューを開いた。

私は何をするのかと警戒して姿勢を低くした。

 

バタリ___

 

隣で私と同様に姿勢を低くして警戒していたシウネーが崩れ落ちた。

私は完全に倒れる前に両腕でシウネーを抱き抱えた。

 

「シウネー!?」

 

「アスナさん………」

 

私はシウネーのHPを見た。

予想通り、麻痺状態になっていた。

はっとして私は辺りを見渡した。

私以外、全プレイヤーが麻痺状態となってその場に倒れている。

 

「何をするの!?」

 

「別になにもしないよ。本来は95層で正体を明かすつもりだったのだが、予定が狂ってしまった。こうなったら私は一足先に100層の城で待つ事にするよ」

 

「………あなたが」

 

「そうだ。私がこのSAOという世界を作り出した。茅場昌彦だ」

 

この時初めて茅場昌彦は自分の正体を言った。

あちこちで、憎しみの声がポツリポツリと聞こえてくる。

私は息を飲んだ。

 

「そこでだアスナ君。君には私の正体を見破った報酬としてデュエルの権利をあげよう」

 

「デュエル?」

 

「私はSAO最後のボスでもある」

 

そこまで言ってもらえば後は分かる。

最後のボスを倒せばここでSAOは終了する。

私が勝てばSAOは終了する。

私はシウネーを優しく床に降ろした。

 

「駄目ですよ、アスナさん………」

 

シウネーが弱々しく手を私に伸ばしてきた。

私はその手を握って笑って見せた。

 

「大丈夫、負けないからね」

 

私は握っていた手を離して、立ち上がった。

茅場昌彦は分かっていたかのような顔で頷いた。

 

「準備は言いかね?友人達へ言い残す事があるんじゃないかな?」

 

「必要ないです。私が勝ちますから」

 

こうして余裕を見せながら強気で言っても勝てる自信はない。

シウネーにあんな事言っちゃったけど、勝てる確率は0に限り無く近い。

けど、確率論に0はない。

全力を出せばどんなに低くても可能性と言うものは0にはならない。

諦めれば0になる。

 

「ユウキ、力を貸してね」

 

私はユウキから貰った剣に言った。

そして、剣を持った右腕を引き絞り、左腕を剣先に合わせる。

茅場昌彦も盾から剣を抜いて構えた。

私は深く息を吸ってから吐いた。

周りから皆の声が聞こえてくる。

けれども、今はそれすらも頭の中から消し去る。

聞こえるのは敵の音だけ、見える者は敵の姿だけ。

経験したことがない集中力。

後は、殺るだけ………

私は地面を蹴った。

 

「せい!!」

 

私の全身全霊の突きは呆気なく盾に弾かれた。

それでも私は突きを繰り返す。

盾を揺らし、出来た隙に剣を入れる。

防御力が高いとはいえ、それは盾で相手の攻撃を防げるから。

相手の攻撃を防ぐ為には盾から僅かに顔を出さないといけない。

その隙を狙う。

 

「たぁぁ!!」

 

「ふっ」

 

しかし、そんな芸当、簡単には成功しない。

私は針の穴にシャーペンの芯を投げ入れるような事をしている。

首を捻れば避けられる。

なら、ソードスキルで反応できない一閃を通せばいいのだけど、相手は製作者。

ソードスキルの起動と軌道は把握している筈で、スキル後の硬直を狙われる。

ゆえに、通常攻撃で勝たなければならない。

 

「ふん!!」

 

「くっ!!」

 

茅場昌彦も攻撃されてばかりじゃない。

勿論、反撃もしてくる。

なんとか避けられるけど、この状況が続くのは厳しい。

通らない攻撃と精度が増してくる相手の攻撃。

こうなったら最速のリニアーで隙を狙い撃つしか突破口がない。

私は行動に出た。

 

「やっ!!」

 

当たればラッキーぐらいの気持ちで隙に剣を差し込む。

茅場昌彦は体を僅かに捻っただけでそれを避ける。

しかし、私はそのまま剣を右に振り払う。

と同時に私は前に出る。

無理矢理大きな隙を作らせた後に超至近距離からのリニアー。

多少盾に防がれても弾き飛ばす勢いで剣を突き出す。

 

「これでッ!!」

 

うまく当たれば即死、それほどに顔面への当たり判定は大きい。

私は突きどころか、殴って顔を吹き飛ばすつもりだった。

 

「惜しかったな」

 

それでも茅場昌彦は避けて見せた。

右耳周辺は弾け、赤いダメージヘフェクトは目にまで届いているが、茅場昌彦は避けた。

理由は明白。

踏み込みが甘かった。

脳裏に刹那の時間、恐怖が浮かんでしまった。

しかし、今頃気付いて嘆いても遅い。

カウンターで茅場昌彦の神聖剣のソードスキルが迫って来るのがスローモーションで見える。

赤みを帯びた茅場昌彦の剣が逆袈裟に進んでいこうとしている。

何も考える事ができず、私は目をぎゅっと瞑った。

しかし、

 

ガンッ!!

 

リアルに再現される筈の肉を裂く音どころか、不快な感覚もやっては来なかった。

代わりに届いたのは聞き覚えのない変な音。

私は恐る恐る目を開けた。

するとそこには、黒きヒーローが茅場昌彦の剣をなんと素手で止めていた。

 

「まさか、アスナが先に闘っていたなんてな」

 

聞き間違える訳がない、見間違える訳がない。

でも、ここの世界に訳がない。

不敵に笑う、もう1人の天才。

 

黒の剣士キリトだった。

 

 




お待たせしましたー!!
本当、新リーダーの名前がユークリッドって………
クラディール死んだよ………
今回も訳が分からない事が多すぎる………

ほうこーく!!
この小説はGGOまでやるつもりなのですが、その後のアリシゼーション編は行いません。
楽しみだった方、すいません!!
ですが!!代わりに何と!!スクワッド・ジャム編をやります!!
まだまだ先ですが、キリト君とレンちゃんの活躍をお楽しみに!!

では、評価と感想お願いします!!

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