嫌がらせに砂糖と塩を入れ替えてやった。
さぁ!塩入りコーヒーを飲むがいい!!
めっちゃ怒られた…………
とある日、今日は例の会議なので、俺は仮想課の人達が用意してくれた仮想空間にいた。
木綿季達も全員元気に来ている。
そして、皆はある一枚の写真を中心として円状に座っていた。
「ねぇ、これ何処で撮ったの?」
「違うぞユウキちゃん、どうやって撮ったの?だ、この場合は」
「キリト様」
「いや、俺よりも写真の提供者に直接訊く方が手っ取り早いでしょ………」
俺は会議開始直後にどや顔でこの写真を提出した人物に視線を向けた。
身長は俺より小さく、けど俺よりも歳上の女性が腕を組んでムフゥーっとしている。
正直、すげームカつく。
「キー坊、アイちゃん、エギルには言ったダロ?オレっちの正体に関わる秘密の一部をナ!」
目配せを俺に向けて放ったアルゴは鼻歌混じらせながら、体を
なんだ?この写真には国が関わってるのか?
この空中からとしか思えない場所から、超田舎な所の八百屋で野菜を買っている、神代凛子の写真は………
本当に何者なんだよ、アオイさんは!?
「これってもしかして、ドローン?」
「お、当たりだよサーちゃん。見かけ通り頭脳派だネ!」
アルゴが指を鳴らしてサチを指した。
ドローン、蜂の意味を持つ無人操縦機。
民間では花火などを撮影する時などに使われる。
元々は軍用の機械で爆弾とか積ませたりするらしい。
衛生回線使えば地球の裏側からでも使える物もある。
便利で楽しめる反面、危険でもある存在。
「キー坊が神代凛子を防犯カメラで捜していただロ。途中だったけどそのデータ貰ってサ。行動パターンとか次何処に現れたのかを予測しまくったんダ。キー坊の持ってる映像は大分前のだからナ。苦労したゾ」
アルゴはニャハハハーと笑いながら説明を続けた。
現在の防犯カメラの映像記録は結構長く保存されている。
しかし、それは公共の防犯カメラや大企業の防犯カメラであって、その他の小さい防犯カメラはそんな長く保存されない。
それが理由で俺は神代さん捜索に行き詰まっていた。
が、そんな問題、この人には通用しなかったみたいだ。
”データよこせ”と乱暴な一言メールを受け、どうせどうすることもできない、と思って諦め半分で渡したデータがゴールまで辿り着いてしまった。
「あ、あの、予想しても大変だったんじゃないですか?」
「ああ、大変ではあったけど、オレっちが動いた訳じゃないし。病室で命令しただけだし」
誰に!?と突っ込みたい衝動を沸き上がらせたのは俺だけじゃない筈。
俺はどうにかその衝動を抑えて続くアルゴの話を聞いた。
「予測した地域にドローンをじゃんじゃん飛ばして捜索。後は見つかるのを待つだけダ。デ、見つけて撮った写真がコレ」
アルゴが写真に映る真剣な表情でトマトを見つめる神代さんを指差した。
一応は変装をしているつもりなのかもしれないけど、少し季節外れの麦わら帽子を被っている神代さんはトマトに気が向いていてバッチリ素顔が見てとれる。
トマト好きなのか?
「取り敢えず連絡とりたいな。ドローンに手紙を持たせるのは?」
「あー、無理ダ、もう動かせなイ。これ以上なにかやるとオレっちの立場がまずくなル」
アルゴはぶっきらぼうに言った。
これからはアイみたくアルゴ様って呼んだ方が良いのか?
社会的に………だし、身体的も消されそうなんですけど。
「ママ、アルゴさんって何者なんですか?」
「看護師さんだと思ってたんだけど………」
ユイの無邪気な問い掛けに木綿季も困っている。
以前、木綿季はアルゴのお世話になっていたから、それなりにアルゴとは会っているのに心当たりがないらしい。
もう、この際アルゴは凄い人だと決定して何も考えないようにするのが最善策。
これ以上驚かされたくない、心臓に悪い、精神的に疲れる。
「サテサテ、とにかくダ!彼女と話すには現地に行かないといけないんだよナ~」
「でもよ。ここにいる奴皆、外に出られる体じゃないぜ?医者が許可するとは思えないし」
クラインが当然の疑問をぶつける。
例え俺がギリギリ歩けたとしても病院側が許すとは思えない。
ましてや、木綿季は不可能だし、アイとユイは一人では行けない。
「大丈夫なんだナーこれガ。これまたオレっちの表側の力を使えば1人だけ行動可能に出来る可愛い子がこの中にいるんだよナ~」
表の力………看護師の力で許可を無理矢理出すのか。
木綿季は無理として、サチ?リズ?シリカ?皆普通の女の子よりは可愛いけど………
しかし、アルゴの視線はどの女の子にも向けられていなかった。
何故か俺の方を向いている。
そのアルゴの視線の気づいた皆が俺を見る。
全員の視線が集まった時、俺は両手で顔を覆った。
「ヨロシク!キー坊!!頑張れヨ!!」
指の間から見えたのは、アルゴの声援と投げキッスだった。
アニメや漫画だとキャピルン☆系女子がやる謎の行動。
アルゴがやると可愛いというよりかちょっと格好良く見えてしまう。
「場所は何処なんですか?」
諦めた俺はアルゴに訊いた。
人生は諦めが肝心だ。
「長野県!!」
結構、距離があった………
「大丈夫?階段登れる?」
見知らぬ女性が心配そうに尋ねてきた。
スーツを見事に着こなしていてワークウーマンなのだろうか?
いや、彼女だけじゃない。
彼女の奥にいる男性もスーツをきっちりと着ている。
その男性の隣も、それまた隣の人も、そしてその手前の人も………
俺の周りはスーツを来ているサラリーマン達で溢れかえっていた。
木綿季のお見舞いに行く時はこういう混雑した時間帯を意図的に避けていたので、初めての体験。
すれ違うサラリーマン達全員が俺に視線を向けてるように思えてならない。
「い、いえ、大丈夫です………エレベーター使うんで………」
俺は首を振ってその場を後にする。
後ろから声がしたけど、聞こえないふりをする。
ここは駅のホーム。
長野に行くには、近くの駅では直行で行けないので、一先ず大きな駅で新幹線に乗り換える必要があった。
そして、大きな駅に着いて電車を降りるとそこには人、人、人、人。
ホームから落ちてしまうのではないかと心配になる程の人の量。
引きこもり体質な俺にとっては地獄同然だった。
軽く目眩がして視界がボヤける。
それでも何とか階段を目指して進んだのだが、階段には更なる人が集まっていて黒い川みたいになっていた。
時折ながれる肌色の点は何だろう?帽子か?視力の回復も目指さないといけないな。
近くは見えるけど遠くは見えない。
そんな事を考えている時にさっきの女性が声を掛けてきたのだ。
「はぁ………」
俺は女性に言った通りエレベーターを使うことにした。
しかし、階段の奥にあるエレベーターまで行くには辛い道のりが待っている。
この人混みを掻き分けてゴールを目指すのは至難の技。
行くぞ和人!頑張れ和人!負けるな和人!自分で自分を応援しないとキツイぜ和人!!
「よし!」
俺は勇気を出して一歩、
すると、あら不思議。
俺がゆっくり進んで行くと俺の前で道が出来上がっていくではありませんか。
一歩進むと前の人達が俺を避けて道を作る。
また、一歩進むと同様に前の人達が俺を避けて道を作る。
不思議な事もあるもんだな~と思い、俺は楽にエレベーターに辿り着く事が出来た。
こうして、エレベーターに乗り込んだ俺は改札がある2階へ上がる為に、俺は2と書いてあるボタンを押そうとした。
「お兄ちゃん、2階だよね?」
突然、乗り込んできた坊主頭の少年が俺の返事を待たずにボタンを押してくれた。
俺は小さく会釈をして、そっぽを向いた。
エレベーターのガラスに薄く映っている少年の顔はニコニコ笑っている。
2階に着くと少年はドアを手で抑えながら俺を通してくれた。
「ありがとう………」
「どういたしまして!」
そう言って少年は小さい体を活かして人混みの中をすいすいと進み消えていった。
少年は常に笑顔だった。
その後も俺が新幹線の乗り換え口に向かうまで、階段やエスカレーターじゃなくエレベーターを使う時、これと全く同じ待遇が俺に待っていた。
進めば道が出来るし、ボタンを押さなくても乗れば勝手に俺の行きたい階に行く。
更には長野行きの新幹線切符を買う時、駅員さんが凄く気を使ってくれて隣に人がいない席を選んでくれた。
機械で買おうとしたのに何故か駅員さんが急いで俺の所に来たのだ。
そんな周りの親切な行動が逆に怖くなって、やっと落ち着けたのは新幹線の中だった。
隣に人がいない席を選んでくれた駅員さんには感謝しないといけない。
さて、長野駅まで少しあるから、何で周りがこんなにも親切なのかを考えてみよう。
教えて、アイちゃん!
「何でだと思う?」
『和人様、自分の姿を見れば分かりますよ』
アイの声は呆れていて答えは簡単だった。
俺はイヤホンから届くアイの声にやっぱりなと苦笑いする。
肘支持型杖、別名リウマチ杖が窓側に立て掛けられていた。
松葉杖や前腕固定型杖、別名ロフストランドクラッチなどはたまに見かける。
その点、周りの反応から考えると俺のは普通に珍しい型らしい。
それもそうだ、俺のは手首や肘に障害がある人や名前通りリウマチの人が使う物だからだ。
使い方も少し独特で今もまだ、違和感が残っている。
「こっちの方が楽だって言われたからこっちにしたんだけど………」
『いいじゃないですか、楽ですよね?』
「あのな、確かに楽なんだけどさ、歩く事自体は辛いんだぞ!」
それにしても、アルゴが入院している病院って俺とは別の筈。
木綿季と同じ横浜の病院だ。
よく横浜の病院から埼玉の病院に俺の外出許可を出せたな。
アルゴは表の力と言っていたけど、絶対に裏の力も働いている。
それか姉のナツキさんが協力してくれたかだ。
「着いたら起こしてくれ。疲れた………」
俺は死んだように眠りに落ちた。
俺は一面に広がる田んぼや畑を目の前に佇んでいた。
風になびいている後は刈られるのを待つだけとなった稲、その隣の畑では何かの野菜を収穫している。
このような風景は小学校の教科書でしか見たことがない。
やはり、教科書に載っている写真を見るよりも実際に来て見るのは良いことだ。
今の日本に残りどれくらい、このように自然豊かな場所があるのだろうか。
とても大切な場所であることは間違いない。
その大切な場所にも欠点があった。
『バス………来ないですね』
「そうだな」
幾つもの乗り換えを繰り返した俺達は遂に神代さんが発見された町に着いた。
後はバスに乗って神代さんがいた八百屋に行くだけで、そう時間は掛からないと思っていた。
しかし、駅前のバス停にも関わらずバスの本数が一時間にほぼ一本という鬼畜さ。
その貴重なバスもゆったりと進む電車を降りて改札を出た瞬間にはもう、エンジンを吹かして出発しそうになっていた。
慌ててバスに乗ろうとするも、只でさえ足が不自由な今の現状、それに人生初の長旅で疲労困憊な俺の足は棒のようになっていて、中々前に進めない。
杖を動かし足を動かし、バス停に辿り着いた時には既にバスは見えなくなっていた。
「ここまで来たのに”ただの里帰りです”だったら俺、倒れるぞ」
『そうならないように祈りましょう………次のバスまで時間が有り余ってるのでしりとりでもします?』
「………負ける気しかしないけど」
なんて言いつつも俺は残り50分以上の時間をしりとりで潰すことにした。
”リアス式海岸”で初っぱなからわざと間違えるなんて事はしない。
『リウマチ』
「チアノーゼ」
『全身性エリテマトーデス』
「膵官内乳頭粘液性腫瘍」
『鬱血性心筋症』
「病名だけだと、うで終わるの多くね?」
『確かにそうですね………まぁ病名だけとか縛りは無しにしましょう』
症とか腫瘍とかで終わるのが多いので長くは続かない。
全然、50分以上も続けられる自信がない。
と言うか、うから始まる病名が全然思い付かない。
炎で終わるのは駄目だから無理ゲーにも程があるぞ。
「う………じゃぁ___」
「隣、良いかしら?」
俺がウロボロスと言おうとした時、後ろから声がした。
俺は右見て左見てまた右を見たけど、遠くでおばさんが元気に自転車を走らせているだけだった。
どうやら俺に声を掛けたらしい。
アイは黙っている。
黙っているけどそこにいる。
俺は普通に話すことが、
「あ、はい。どう………ぞ………」
出来なかった。
振り向くと、そこに居たのは1つのビニール袋を両手で持っている美人さん。
白と黒のチェック柄の長袖に白のロングスカート。
そして、どこぞの写真で見たことがある麦わら帽子。
「居た~!!!」
「え、何?!何?!」
俺が突然立ち上がり叫んだせいで俺達が捜していた人物は一歩下がってしまう。
今にも逃げ出しそうだった。
どうにかして話を聞いてもらわないと。
だが、俺の体に異変が起きた。
「痛~!!!」
突然、立ち上がったので全身の筋肉が悲鳴をあげた。
俺は堪らず地面に倒れてしまった。
「って、君!?大丈夫!?」
女性が持っていたビニール袋を落として俺を抱き上げてくれた。
しかし、疲れと全身筋肉痛で俺は気を失いかけていた。
最後に見えた物。
それは、ビニール袋から転げ落ちたトマトだった………
神代さん登場!!
トマトはただ自分が好きなだけなので気にしないでください。
時々、自分の趣味を混ぜ込んでいるのでね。
趣味が合う人がいてくれたら嬉しいです!!
特にフォレスト・ガンプ。
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